───『運命』を乗り越えようって、誰かが言った。 そんなことは出来っこないって思ったけれど、 生きるためにはそれが出来なきゃいけない時がある。 ───運命に立ち向かうこと。 運命に打ち勝とうと思うこと。 それが出来なきゃただの人形なんだって、誰かが言った。 その言葉を思い出すと、俺は遠い昔に笑顔で消えた友人を思い出す。 いつかその運命を乗り越える時がきたなら、俺はきっと愚痴るのだろう。 どうしてもっと早くに、その運命を乗り越えられなかったのだろう、って─── ───運命の胎動───
バサッ! 亮  「よっしゃあっ!ナイス風間!」 風間 「よっしゃあーっ!」 パァン! 俺と亮は手を叩き合わせ、はしゃいだ。 柴  「調子いいみたいだな、風間」 風間 「あ、キャプテン───はい、なんか調子いいッス」 柴  「うっし、いいことだ。よーしみんな、あがってくれーっ!」 部員 『ッス!ッつかれっしたぁーッ!!』 バタバタと部員が集まる中、キャプテンが重大な報せがあると言った。 柴  「知っての通り、夏休み中には他校との練習試合がある。     そこで重大な話に入るわけだが───って、中村、話してないで集中」 中村 「教師みたいな喋り方は勘弁してくれよ柴ァ」 柴  「そう言うなよ。顧問の清里は他校の視察に行ってんだから。     俺に『俺の代わりに言っておいてくれ』って言って逃げたようなもんだ」 中村 「……なに、そんなに重大な話なのか?」 柴  「いや、なんつーのかな……練習試合のメンバーの話だ」 中村 「あ、なるほど」 柴  「実力重視でいくらしいから、誰が選ばれても文句は無しだ。     そんじゃあこれがメンバー表だ」 ガサガサとキャプテンが紙を広げてみせる。 佐賀 「へえ……去年と似たようなもんだな。三年組は去年の二年組みたいなもんか」 板垣 「だな……お、二年の層が多いな。ま、三年の部員は少ないからな。     ───って、一年からは風間か」 風間 「え?俺ッスか?」 自分の耳を疑ってしまう。 でもメンバー表には確かに俺の名前があった。 風間 「え!?あ───いいんスカ!?」 柴  「お前は上級生顔負けで上手いからな。言っただろ、実力重視だって」 風間 「は、ははは……」 亮  「やったじゃねぇか風間ーっ!」 風間 「あ、あはははは!!よっしゃあーーっ!!」 中村 「去年は一年坊なんて出れたもんじゃなかったからな」 下村 「あっちゃあ……センパイ、それは言わないお約束ですよ」 中村 「はははは、まァまだまだ上は目指せるだろ」 柴  「よーし、伝えることはこれだけだ。     体を壊さないように自己管理はしっかりすること!     ああっと、そうだった。     いいか、解ってるとは思うが喧嘩とかの問題はご法度だぞ!     問題起こしたら練習試合どころの騒ぎじゃ済まなくなる!     廃部の上に停学ってことも有り得る!     それだけ校長に期待されてんだから、タバコだのなんだのもやるな!」 岡田 「タバコはねぇだろ……」 柴  「もしもの話だ。そんじゃ解散ッ!」 部員 『おつかれッしたァーッ!!』 ガヤガヤと騒ぎながら、部員達は解散する。 そんな中で俺は自分が認められた嬉しさに感動していた。 亮  「いやー、やっぱお前すげぇよ。     一年でメンバーに入れてもらえるなんて、そうそうねぇだろ……」 風間 「や、やめてくれよ……」 亮  「そんなこと言っちゃって〜、     ホントは嬉しくてたまらないんでしょ〜風間チャン♪」 からかうように女言葉で俺を突つく亮。 実際、嬉しくてたまらなかったから頭を掻きながら俯くしかなかった。 亮  「ホレみろホレみろぉ!お前って隠し事できねぇよな〜!」 風間 「は、はは……」 バシバシと背中を叩かれながら、俺は笑った。 ……うん、確かに嬉しい。 こうして認められたことで、自分をもっと高めたくなる。 でもここで無理をしたらどうにもならない。 風間 「はは……どうしたらいいか解らないな」 亮  「喜んどきゃいいんだよパァーッと!あ、ほれ、恋人さんの登場だぞ!」 風間 「え?あ、おいっ」 亮  「じゃな♪上手くやれよ〜」 不器用なウインクを見せて、鼻歌を歌いながら駆けてゆく亮を呆れながら見送る。 だけど視線に気づいて振り向いてみれば、そこには静香が居た。 静香 「お、おつかれさまです」 風間 「あ、うん……ありがとう」 静香 「………」 風間 「……あ、あぁっ……えっと……体、大丈夫?出てきて平気だったのか?」 静香 「う、うん……今日は調子がよくて……」 風間 「そ、そうか。あ、ちょ、調子っていえばさ、俺も今日調子がよくってさっ!」 静香 「は、はい」 風間 「よ、よくってさ……よくって……うん、いいんだ」 静香 「よ、よかったですね」 風間 「あ、ああ、うん、よかったよかった……」 静香 「………」 風間 「………」 困った。 こんな時に何言ったらいいのか解らない。 さっきからどもりっぱなしだ。 会いに来てくれるだけでここまで嬉しいなんて、俺はどうしてしまったのか。 風間 「あ、そ、そうだっ!     俺さ、夏休み中の練習試合のメンバーに選ばれたんだよ!」 静香 「ほんとですかっ!?」 風間 「ああ!なんか嬉しくってさ!調子がいいって思ってた矢先だったからさ!」 静香 「お、おめでとうございます」 風間 「あ、ありがとう」 ペコリとお辞儀をしながら言ってくれる静香は、とても清楚だと思った。 俺は凄まじく照れくさくて、何度掻いても掻き足りないくらいに頭を掻いた。 静香 「嬉しいです……雄輝くんが認められて……」 風間 「静香……」 静香 「不思議ですね……まるで自分のことみたいに嬉しくて仕方がないんです」 不思議なんかじゃない。 俺だって、静香が嬉しそうな顔をしてくれるのが嬉しい。 俺なんかの頑張りで静香が笑ってくれる。 喜んでくれる人が居る。 それだけで……なんだかもう、叫びたくなるくらいに嬉しかった。 風間 「あ、えと……し、静香これから暇か?     俺さ、その……部活終わったからさ、えーと……」 静香 「………」 静香は俺の目を真っ直ぐに見上げてくれている。 けっして目を逸らすことなく。 その仕草はまるで、霧波川センパイを見ているようだった。 風間 (……しっかりしろ、俺) 俺はうんと頷いてから、静かに向かって言った。 風間 「こっ……これから少し寄り道して帰らないかっ!?」 静香 「……はい」 緊張のあまりに裏返ってしまった俺の言葉に微笑み、それでも静香は頷いてくれた。 今こそ、平然と人前で告白したセンパイの凄さが解った。 寄り道しいて帰ろうって言うだけでもここまで恥ずかしいというのに、 あの人は人がからかう中で告白とキスまでやってのけた。 やっぱりあの人はスゴイ。 言ってしまえば、チキンなのは俺だった。 ───……。 風間 「え……?じゃあ時々見に来てたのか?」 静香 「はい……」 病院への道を歩きながら、俺と静香は他愛ない会話をしていた。 彼女が言うには、何度か病院を抜け出して俺の練習を見ていたらしい。 部活が無い時にまで来てしまって、赤面しながら帰ったこともあったとか。 風間 「あ、や……はは、なんかくすぐったいな……」 静香 「ごめんなさい、勝手に覗くようなことをして……」 風間 「ち、違う違う!むしろその逆!見ててくれて嬉しいよ!───あ」 静香 「〜〜っ……」 静香は顔を赤くして俯いてしまった。 どうにも俺は、勢いに乗ると必要ないことまで喋ってしまう人間らしい。 風間 「あー……コホン。と、とにかく嬉しかったから」 静香 「はい……。わたしも嬉しかったです。     一生懸命練習していた雄輝くんが選ばれて……」 風間 「そ、そっか。じゃあもっと頑張らないとな」 静香 「あ……無理はしないでくださいね……?怪我でもしてしまったら……」 風間 「大丈夫だって!大丈夫大丈夫!」 静香 「あ、そ、そうだ……わたし、必ず練習試合を見に行きますね?」 風間 「ほんとかっ!?って……あ、だ、大丈夫か?」 静香 「はい、大丈夫です。応援しますから頑張ってくださいね?」 風間 「ああっ!俺、静香の笑顔って好きだから、静香が笑ってくれるなら───あ」 静香 「───……」 風間 「………」 静香 「あ、そ、その……ありがとうございます」 風間 「……ド、ドウイタシマシテ」 ダメだ……俺って喋らない方が墓穴掘らないかも……。 亮の言う通り、隠し事できないのってこの所為なんだろうなぁ……。 風間 「………」 静香 「………」 そして、沈黙が訪れた。 息苦しいわけでもないが、やたらとソワソワしてしまう。 風間 「あ、そ、そうだ、アイスでも食べるか?おごってやるよ」 静香 「あ───ご、ごめんなさい……病院の外では何も食べるなと言われていて……」 風間 「うぐ……そ、そうだよな……」 普通はそうだ。 なにやってんだ俺。 静香 「ごめんなさい……せっかく……」 風間 「え!?あ、いいんだって!俺が勝手に馬鹿やっただけなんだから!     そうだよなー、病院に居れば病院食以外は禁止されるもんだよなー」 静香 「………」 俺の言葉を聞いたからかどうなのか、静香の顔が苦痛に歪んだ。 ───ますます馬鹿だ。 一番苦しんでるのは病院の外に出る機会がなかった静香だ。 なにやってんだよ俺……! 風間 「ごめん……俺、馬鹿だから気が回らなくて……」 静香 「あ、いえっ、いいんですっ!わたしは確かに病人ですけど、     そのお蔭で雄輝くんにも会えたんですから……」 風間 「……ごめん」 静香 「……そんなに謝らないでください。謝らなければいけないのはわたしの───」 風間 「……静香?」 静香 「うっ……く……!はぁっ……!はぁっ……!」 風間 「し、静香!?静香!!」 どうなってるんだ!?静香がいきなり苦しみだして───! 風間 「まさか病気が悪化したのか!?」 静香 「ちっ……ちがっ……はぁっ……!だいじょ……ぶ、ですから……!」 風間 「大丈夫なもんか!掴まってくれ、ここからなら走った方が速い!」 静香 「かはっ……ごめんなさい雄輝くん……ごめんなさい……っ」 風間 「───っ」 俺は静香を背負うと、視界の中にある病院へと走った。 静香は泣いた子供のように『ごめんなさい』と繰り返し、 やがて病院の人に運ばれてゆく。 俺はどうしようもない無力感に包まれて、力無くその病院のロビーに膝をついた。 風間 「静香……い、いや!無力になってる場合じゃねぇよ!     誰かに相談して───そうだセンパイだ!」 俺は病院の中の電話にテレホンカードを入れて鈴訊庵に電話をかける。 やがて─── 声  『鈴訊庵だ』 風間 「あ、すいません!霧波川センパイ、居ますか!?」 声  『凍弥なら留守だ。昨日遊びに行ったきり帰ってないぞ。     電話では友達とやらの家に泊まると言っていた』 風間 「そ、そうですか……あれ?あなたは?」 声  『わたしか?わたしはリヴァイア=ゼロ=フォルグリムだ。     家の者が全員泊りがけで遊んでいるんでな、わたしは留守番だ』 風間 「は、はあ……」 声  『用はそれだけか?なら切るぞ』 ───……受話器の向こうで通話が切れる音を聞いてから、こっちも受話器を置いた。 風間 「友達って……志摩センパイ達のことかな……」 困った。 俺はこんなときにどうしていいか解らない。 俺は…… 声  「あの……もし」 風間 「え?」 女の人「あなた……風間雄輝さん?」 風間 「はい……あなたは?」 女の人「わたしは……静香の母で皆槻文江と申します」 風間 「静香の……あ、すいませんっ……!俺が寄り道なんかさせたから……!」 文江 「そんなことはいいのですよ……あの子が望んでやったことなのだから。     ……ねえ、少し話しませんか……?」 文江さんは姿勢と視線で促し、外に出てゆく。 俺は戸惑いながらもそれを追うことにした。 病院の中庭に出た俺は、丁度俺に向き直った文江さんと対面するかたちになった。 文江 「風間くん……あなた、静香のことが好き……?」 風間 「え……はい」 文江 「本当に?」 風間 「はい。その気持ちに偽りはありません」 文江 「………」 俺は真っ直ぐに文江さんの目を見て答えた。 文江さんは悲しそうに目を俯かせて、やがて───口を開いた。 文江 「静香が、もう永くもたない体だと知っても?」 風間 「え───!?」 耳を……疑った。 聞こえたものは確かに言葉だ。 疑りたいのは……そう、俺の耳に届いたその言葉。 『モウ永クハモタナイ体ダト知ッテモ?』 風間 「……は、はは……す、すいません俺、耳悪くなったみたいで……」 聞き間違いだ。 そんな筈ない。 文江 「お医者さまにね、あの子はもう手の施し様がないと……言われたの」 風間 「ウソだっ!!」 文江 「ッ!」 風間 「いい加減なこと言わないでください!あいつが───静香が死ぬだなんて……!     諦めたみたいに言うなんて───あんたそれでも母親かぁっ!!」 文江 「風間くん……」 風間 「俺は信じない……!俺は静香が好きだ……!ずっと一緒に歩いていくんだよ!     それなのになんでそんなこと言うんだよ!」 文江 「で、でもね……現実を見て風間くん。     あの子は現に日を追うごとに衰弱していって、血も吐くし……     夜になると発作みたいに熱があがって……わたしだってどうしたらいいか……」 風間 「だからって諦めるなんて間違ってる!     俺は───俺はたとえどんなことがあっても静香を守るんだよぉ……!!」 自然に……涙が出た。 背負った彼女に謝られた時から募った不安が、実体化してしまったからだろうか。 あの『ごめんなさい』の意味はこれだったんじゃないかって。 そう考えたら……もう涙は止まらなかった。 俺は静香が俺を好きと言ってくれて嬉しかった。 俺は彼女を好きになれたことが、とても嬉しかった。 だったら……この涙はどうして出るのだろうか。 永くないってことを否定してるくせに、どうして涙が出るんだろう……。 そんなことすら考えられなくなるほど、俺は声を殺しながら涙した…… ───……。 文江 「あの子はね……昔はあんなに病弱じゃなかったの」 俺の嗚咽が小さくなる頃、文江さんは懐かしむように語り出した。 文江 「いつだったかしらね……家に荷物が届いて……。     家宛てじゃなかった包みだったのにあの子ったら開けちゃってね……。     そうしたら中に玉子みたいなものが入ってて……」 俺はその昔話になにかの原因があるんじゃないかと思って、耳に意識を集中させた。 文江 「わたしの言うことも聞かないで、あの子はそれをいじくり回したわ……。     そうしたらね、その玉子のようなものが突然小さな爆発を起こして……     わたしは気が気じゃなかったけれど、あの子にはなにも異常がなかった。     でも……それから何日か経ったとき、あの子は突然高熱を出したわ」 風間 「………」 文江 「すぐに病院に運ばれて、解熱剤を打たれたらそれは引いた。     けど……夜が来ると再発したの。     医者の人は昔にも同じ症例があったと言ったけれど、治す方法は解らないって」 風間 「そんな……」 治す方法が無いなんて……。 文江 「それにね……おかしいのよ……。     わたし、時々あの子のことを忘れる時があって……」 風間 「忘れる?」 文江 「時々あの子が霞んで見えるのよ……。     もしかしたらそこに居ないんじゃないかって思えるくらいに……」 そんな馬鹿な……。 風間 「居ないなんてことない……静香はあそこに居るじゃないか……」 文江 「……ええ、そうね……」 文江さんは息を吐いてから少しの間を置くと、決心を固めたように─── 文江 「ひどいことを頼むということは承知しています。     ですが……どうか静香と一緒に居てあげてください。     あの子にはまだまだいろいろな未来を見てもらいたい……。     あなたにとって辛いことになるかもしれません。ですが……」 風間 「………」 俺は黙って文江さんの言葉を聞いていた。 だけど思う。 お願いされなくても、俺は静香が好きだし……死んでしまうなんて信じたくない。 だから返事なんてものは最初から決まっていたのかもしれない。 風間 「俺は静香と一緒に居るよ……。俺は静香が好きだから……」 文江 「……ありがとう……ごめんなさい……」 感謝と謝罪を言うと、 文江さんはよろよろと弱々しい足取りで俺の視界から去っていった。 風間 「……そうさ、迷うことなんてない」 うん、と頷くと、俺は病院の佇まいを見上げた。 きっと大丈夫だから。 だから……また来るよ。 風間 「………」 そうしたところで意味がないのは解ってるけど、俺は病院に向かって頭を下げた。 そして走る。 ───また明日来よう。 明日になればきっとまた、静香に会えるから─── …………。 凍弥 「ん……」 うっすらと目を開けると、そこはいつか見た天井だった。 ……と言っても、昨日も見たんだから『いつか』どころの話じゃない。 凍弥 「あ……そっか。昨日も泊まっていったんだっけ……」 どうにもイカン。 晦神社や晦家は、その場に居るだけで落ち着くため、長居をしてしまう。 これで二日目の泊まりだ、いい加減に帰らないとな。 俺はパパッと自分の服(リヴァイアが届けてくれた)に着替えると、 布団をたたんで部屋を出て、玄関に向かった。 凍弥 「ん……んー……」 玄関の靴を履こうとしたところで一度伸びる。 既に開けてある玄関からは夏独特の風が吹き、なんとも心地良かった。 凍弥 「さてと、それじゃあ帰りますかぁ」 靴をトントンと整え、神社に寄ってから帰ることにした。 ここから鈴訊庵までは歩いていけない距離じゃないし、 夏休みなんだからそれくらいの意外性があった方が面白いだろう。 凍弥 「でも帰るってことくらいは知らせておいた方がいいよな。     そのまま居なくなるのは礼儀ってものが無いし」 言いながら石段を登り、やがて神社へと辿り着く。 悠介 「ん?ああお前か。おはよう」 そこには竹箒を持った悠介さんが居た。 凍弥 「おはようございます。掃除ですか?」 悠介 「そんなところだ。お前は?」 凍弥 「帰る前に神社を見ておこうかと」 悠介 「ん?なんだ帰るのか。それなら椛に話してからの方がいいぞ。     何も言わずに帰ると怒りそうだからな」 凍弥 「確かに」 ふたりして笑い合った。 悠介さんはおよそ、歳をとった人とは思えない元気さで笑う。 この人は本当に椛の『祖父』なんだろうかと疑いたくなる。 ……もっとも、今は俺と対して変わらない年齢層の顔なんだけど。 声  「わたし、そんなに怒りやすいですか……?」 凍弥&悠介『うおっ!?』 声のした方をバァッと振り向いて見ると、少し悲しそうな顔の椛が居た。 凍弥 「あっ……も、椛……?今の……聞いてた?」 椛  「ヒドイです……陰口するなんて……」 凍弥 「わ、悪いっ!そんなつもりじゃなかったんだ!」 椛  「わたし、怒りやすくなんかないですよ……」 うわ……涙目になっちまった……! 俺、誰の泣き声も苦手だけど、椛の泣き顔や泣き声が一番辛いんだよな……。 まるで……そう、心臓をキツく締め上げられるみたいな気分で…… 悠介 「ふむ……椛?」 椛  「は、はい……おじいさま……」 悠介 「凍弥を家まで送ってやりなさい。もう帰るそうだから」 椛  「え……?でも……わたし……」 悠介 「怒らないんだろ?それなら快くやってやれ」 椛  「……はい」 椛は俯きながら俺に近づき、おずおずと手を伸ばしてくる。 一緒に転移するために、対象に触れようとしているのだろう。 凍弥 「?」 と、そんな時。 悠介さんが椛の死角でジェスチャーを始めた。 それは両手を広げて閉じるという、なんとも単純なものだった。 ようするに抱き締めてやれってことだ。 もちろん、俺も最初からそのつもりだった。 ───きゅっ。 椛  「あ───」 椛は少し驚いたような声を出して、抵抗を見せた。 椛  「と、凍弥先輩……!集中できませんよ……!」 凍弥 「いやだ。これがいい」 椛  「凍弥先輩……」 やがて遠慮がちに椛も手を回してきて、俺に抱きついた。 椛  「えと……鈴訊庵、でいいんですよね……?」 凍弥 「ああ。頼む」 椛  「はい……───」 椛は目を閉じて、力を発動させた。 俺と椛の周りに光が集まり、やがて景色が見えなくなり───キヒィンッ! 悠介 「………行ったか」 ルナ 「ゆ〜すけ〜」 悠介 「うん?ルナ、どうかしたのか?」 ルナ 「えっとさ、ムナっちに電話が来てたんだけど。『カザマ』って男から」 悠介 「……行き違いだな。今行ったところだ」 ルナ 「えー……?無駄な労力使っちゃった……」 悠介 「腐るな腐るな。じゃ、今日は朝から大根おろし醤油にするか」 ルナ 「わ、ほんとっ?」 悠介 「ほんとだとも。じゃ、行くか」 ルナ 「ゆーすけ大好き〜♪」 悠介 「うわっ!?ば、ばかっ!抱き付くなっ!」 ルナ 「むっ!ちょっとなにそれ!抱き付くくらい、いいじゃないのさー!」 Next Menu back