───仮面ヲイダーアキト───
───。 アキト「ワワワワ、ワワワワワワワ♪」 SO!アタイは困っていた! これで困らなきゃ……ウソだぞ!? アキト「そもそも何故に閉じ込められなきゃならんのでしょうなぁ」 アタイは建物の壁をコンコンと小突いた。 小娘どもに捕まってからしばらく、 アタイは孤児院代わりだった建物に閉じ込められていた。 理由は……『おとうさんが居なくならないように』だとか、そんなところらしい。 アキト「確かにネ、こう壁が厚いと打ち破ることも出来ん」 なんてったって石の壁だしネ! アキト「……むなしいな」 困り果てたアタイは、せめて気分だけでもと歌った。 アキト「子供の〜ころ〜♪オイラは〜身を捨てて〜♪     友達〜助けて〜……救ったの〜さぁ♪     だけども〜愛が〜♪足りなかった〜のか〜♪     オイラにゃあ〜もう、悲し」 ガチャッ。 アキト「とんずらぁーーーっ!!!!!」 ミント「あっ!」 馬鹿め!扉が開いた瞬間を逃すわけがないでしょう!! アタイは扉の上に潜めていた肉体を下ろし、まんまと外界へと旅立った! アキト「わーいボク自由だーーーっ!!」 バシィッ!! アキト「ゲゲッ!?どうしたことだー!急に足が動かなくギャアアアア!!!!!」 ズガシャシャシャアアアアアア!!!! 駆動を停止した足の所為で、アタイは例のごとく顔面スライディングを完成させた。 アキト「いでででで……!!な、なにご……キャーッ!?」 そう……倒れたアタイの前には小さな靴。 見上げてみれば───ギャア!リーフさん!! リーフ「おと……さん、戻って……」 その言葉とともに、アタイの体が浮き上がる。 アキト「イ、イヤァ!!イヤァーーッ!!!もう暗い場所で暮らすのはイヤァアア!!」 叫んだが体は動かせず、 やがて便利に収納されたアタイの目の前で……無情にも、ドアは閉ざされた。 レイル「……ところで、いつまで待ってりゃいいんだかな」 てんで起きない精霊小僧を見下ろして息を吐いた。 ……ふむ。 レイル「よし、アレだ。せっかくだから玉座に座らせてみよう」 はいよっこらしょっと。 レイル「おお、てんで神々しくねぇや。さすがだ」 なにがどう流石なのかは俺も知らんが。 さぁて、どうするかねぇ……。 アキト「ワワワワ、ワワワワワワワ♪」 フフフ、捕まったからって寝転がって死刑執行を待つ男じゃねェのよアタイは! アキト「ウフフフフ♪こんなこともあろうかと、     ハンドパワー練習用に持ってきたスプーンがあったのよ!」 あとはこの床石を外して……と。 おお、やはり下は土ぞ! クォックォックォッ……幸いここになんの変哲もないスプーンがある……! ラッキーってやつじゃね!? アキト「えいっ!えいっ!そんでもって……クォラッヒャア!!」 ジャコッ!ジャコッ!…………ジャコッ……。 アキト「くはっ……くはっ……!さすがにスプーンじゃラチがあかねぇや……!」 どうしたものか……構うものか!! アキト「超人閻魔さま!強力の神の力を!ビッグボディの怪力をーーっ!!」 ザゴシャア!ザゴシャア!! アキト「ええいまどろっこしい!!素手で穿ってくれるわ!!」 ザシャザシャザシャザシャ───!! アキト「グ、グウム……今はこれくらいでやめておくか……」 アタイは掘りあげた土を部屋の隅に置き、床石をはめこんだ。 クォックォックォッ……既にアタイの姿が見えなくなるくらいまで掘った……! 自由の女神もあとちょっとでアタイに微笑むぜ? ガチャ─── アキト「とんずらぁああああ!!!!」 リーフ「───!」 暗闇に光が差し込んだ瞬間、アタイは持ちうる限りの駿足で床を蹴りバチィッ!! アキト「キャーッ!?」 あっさりと捕まった。 リーフ「どこ……いくの……?」 アキト「ウ、ウム……ちょほいとスモールを足しに……」 リーフ「ス……?」 アキト「ええい!おトイレザマスよ!」 リーフ「……そこ……ある」 リーフさんは光が届いているドアを指差す。 ……フフフ、土は見つかってねぇみたいじゃね。 アキト「お、おお……あんなところにトイレがあったとは、迂闊じゃった迂闊じゃった」 リーフ「おと……さん。これ……ごはん」 アキト「おお……すまんね……ややっ!?」 ごはんとは、木の実が少しあるだけだった。 ムウウ……!囚われの兵士にはこれだけで十分だと言いたいのかね!? リーフ「それじゃ……」 キィイ……パタン。 アキト「あ!こ、これ!これっぽっちじゃ───グ、グウゥーーーッ!!!!」 なんとしたことだ……! このままではアタイ、飢え死にしてしまう……! 休んでる場合じゃねぇ、体力が残ってる内に掘らねぇと本気で死にますよ? アキト「トタァーーーッ!!」 ガボォンッ!! 床石を取り去り、中に入って穴を掘る! もう休んでられん! 念のために床石を閉じておいて……むう!これで簡単にゃあ見つからんぞ!! アキト「チョエエーーーッ!!!」 ザゴシュ!ザゴシュ!!ザゴッ!ザゴッ!! ───1分後。 アキト「ぜはー!ぜはー!ぐはー!へはー!タ、タスケテー!!」 ……全国の土中仕事を習わしとしている皆様、アタイったら酸欠です。 入り口を閉めてきたのが災いのタネです。 うおお、景色が歪む……頚動脈が痛ぇ……。 月然力さえあればこんなことには……!! アキト「う、うぐぐぐぐ……」 コリ……コリ……。 既に意思とは関係なく力も出ないアタイは、仰向けに倒れた状態で真上の土を掘った。 すると───ボコッ。 アキト「!!」 穴が空き、そこからは新鮮な空気が!! アキト「ハヒョー!ハヒョー!!」 アタイは無我夢中でそれを吸った!! 狂おしいほどに吸った! やがて─── アキト「は、はぁあ……」 アタイの呼吸は安定した。 元々ヤワな作りじゃないアタイは、普通の人間とは違うのよ。 ということでガボシャア!! アキト「ギャア!!」 顔面に鋭い衝撃が降ってきました。 アキト「な、なにご……」 声  「う……うう……?うぅう……!」 アキト「!!」 こ、この声は……リーフさん!? そうか!穴を空けた大地の上に立ちやがったのだな!? そして下半身だけ埋まった状態でアタイの顔面を踏みつけたと……! こりゃいかん!早く逃げねば!! 声  「う……うわぁあああああん!!!!おとうさん!おとうさぁああああん!!!」 アキト「グムッ!?」 な、なんと……泣きながらアタイを呼んでいる!? ど、どういうことなのだ……何故、敵であるアタイを……!? ハッ!も、もしや…… アキト(全てアタイの勘違いだったとでもゆうのか……!?) なんてことだ……! あのリーフさんが大声をあげて叫んでいる時点で気づくべきだったのだ……! ───そう!リーフさんは本当は大声を出せるくせに、 アタイを騙すために大人しい子を装っていたことに! ええい!まんまとしてやられたわ!! 声  「おと……うぐっ……!おとうさぁああん!!!!」 ドゴドゴドゴドゴ!! アキト「ぶべっ!ぶべら!ぶべらべら!!や、やめれー!!」 なにを思ったのか、リーフさんは埋まった下半身をジタバタと暴れさせた。 その所為かアタイの顔面が見事にストンピングされている。 く、くそ……!なぶり殺しにしようってハラか……!! このままでは蹴り殺されてしまう! アタイはサッと蹴りから逃れ、少し下がったところで再び穴を掘り始めた。 アキト(あんなところに居たら、いずれ殺されてしまう!!) 月操力の使えないアタイは、それはもう生命に執着する修羅でした。 遥一郎「ん……?」 目を開けると、さっきまで居た景色とは違う場所に居た。 ……捕まったのか?と思い、体を起こそうとした時─── 遥一郎「……なんだこりゃ」 自分が玉座に座っていたことに気づいた。 レイル「よっ、目ェ覚めたか?」 遥一郎「───レイル」 レイル「呼び捨てにされる覚えはないが……ま、いいか。ホレ、刀」 チャキンと、投げられた刀を受け取った。 レイル「随分物騒なモノ持ってるよな。お前のか?」 遥一郎「いいや、拾ったものだ」 レイル「……呪われてるんじゃないか?ちょいとばかりヤバイ力持ってるぞ、それ」 遥一郎「そうなのか?」 レイル「説明なんて面倒なことはしたくないからしないが。んで?ここに何の用だ?」 遥一郎「───!そうだ、天大神は何処だ」 レイル「天大神?天大神ならウィルス探しの最中だぞ」 遥一郎「ウィルス探し……?天界の長がか」 レイル「そ。天大神が」 遥一郎「………」 そうなのか。 それじゃあさっきの考えは改めなきゃいけないな。 でも…… 遥一郎「なあ。天大神ってのはお前らと大した変わりはないんだろう?」 レイル「そらそうだ。天大神は俺らより魔力が強いだけのジジイだ。     メシも食うし昼寝もする。     趣味がゲートボールという、ちょっぴりお茶目なクソジジイだぞ」 遥一郎「……なんだ、ほんとに変わらないんだな」 レイル「だろ?だってのに天大神ってだけで、カタブツどもは崇めたりなんだり。     お前が怒る理由もなんとなく解る」 遥一郎「………」 見てたのか。 まあ別にどうでもいいことだ。 遥一郎「聞きたいことがある。     ウィルスを作ってるヤツの目星は少しでもついてるのか?」 レイル「唐突だな。目星はついてないぞ。ついてたら俺かディグがさっさと潰してる」 遥一郎「そっか……」 それはそうだ。 それに、実際は地界に居る者が手を出すべきじゃないことくらい解ってる。 それでもこんなことはもう終わらせたかった。 レイル「お前の気持ちも解らなくもないさ。     天界で必死に薬を開発してても、今の今まで薬は完成しなかった。     あの時、いくらお前が頑張ったところでどうにもならなかったってことだ」 遥一郎「ああ……」 レイル「完成もしない上に、ウィルスを作ってるヤツすら見つからない。     まったく、お前が怒るのも無理はないってことだ」 レイルは苛立ち気味に肩をすくめた。 天界の人達がウィルスのことで悩まされていたのは、 レイチェルさんや蒼木から聞いている。 それはあの頃から今まで、ずっとだ。 レイル「……よし、俺も出てくるわ」 遥一郎「ウィルス探しか?」 レイル「ああ。お前のことは俺の知り合いってことになってるから、     外に出ても誰にも襲われない筈だ。どうせジッとなんてしてないだろ?」 遥一郎「当然」 レイル「そか。そんじゃ、俺はさっさと行くからな」 そう言い残して、レイルは走っていった。 遥一郎「………」 そうしてひとり残された俺は、歩きながら考え事をすることにした。 昔のこと、今のこと、そして先のことを。 ゴボッ。 アキト「………」 おなご「………」 大いなる大地から顔を出したアタイは、見上げるその姿に驚愕した。 なんたること!人が居る場所に出てしまうとは! おなご「……なにを、しているのですか?」 アキト「ミミズ祭りです」 おなご「あなたは……どなたですか?」 アキト「仮面ヲイダー・アキトです」 おなご「………」 おやさしそうなおなごは、アタイを見下ろしてフッと微笑んだ。 見るに、10代後半から20代前半といった感じか。 おなご「天界に、ミミズ祭りなんてものはありませんよ?」 アキト「ゲゲッ!……いや、最近出来たんだ」 おなご「いつですか?」 アキト「最近です」 おなご「………」(にこにこ) アキト「グ、グウウ……」 ぬうう……にこにこ顔で見られてはウソが辛いではないか……! こやつ、からかい人の扱いに馴れておる……!? ここはひとまず、名前を明かして様子を見た方が良さそうだ。 アキト「申し遅れました。     拙者、アンゴルモア=キマイラブレイン=トクホンチールと申す者」 おなご「地界の人でしょう?」 アキト「ゲゲッ!!貴様何故それを!」 おなご「やっぱり」 アキト「ゲッ……ゲェエーーーッ!!!」 馬鹿な!アタイが誘導尋問を!? アキト「おのれ貴様!何者だ!?名を名乗られませい!」 おなご「その前にお茶に付き合って頂けませんか?ひとりで退屈していたの」 アキト「茶菓子は?」 おなご「ありますよ。手製のクッキー程度ですが。……食べていきますか?」 アキト「御意」 そういえば朝メシ食してなかったから腹が減ってたのよ。 丁度よかったわぁ。 おなご「それじゃあ、そんなところに居ないで出てきてくださいな。     食べられないでしょう?」 アキト「それもそうだな。焚ッ!!」 ボゴォッ!! アタイは拳を突き上げて、強引に大いなる大地から脱出を果たした。 アキト「FUUUUM、いい気分だ。やはりシャバはいいもんだ」 おなご「あら……服は天界のものなのですね」 アキト「奪った」 おなご「あらあら……ウフフフフ」 おなご殿はクスクスと笑いながら、近くにあった家へと歩いていった。 そして『こちらですよ』と言うと小さく手招きをして中へ。 アキト「……なんか拍子抜けばい。天界には、あげに大らかな存在がおるったい?」 そう言いつつも付いてゆきます。 だってハラヘリーですし。 でもまあ礼節は必要だ、出来る限り土は払おう。 アキト「フンッ!フンッ!……と、これくらいでいいだろう。お邪魔しやーす」 開けっぱなしだったドアをくぐると、鼻腔をくすぐる柔らかい香り。 ぬおお、なんとも食欲をそそる香りよ! おなご「すぐに出来るからそこに掛けていてくださいな」 アキト「御意」 ソファに腰をどっかりと降ろし、アタイは息をついた。 そして家の様子を窺う。 ……知らない場所に来ると様子を見るのって人間の習性だよね。 おなご「なにもないでしょう?」 アキト「ムウ……アレはなんぞ?」 おなご「あれは時計。天界の文字だから解らないでしょう?」 アキト「な、なにぃ〜っ!?アタイに解らぬことなどないわ〜っ!」 おなご「そう?それじゃあ何時何分なのかしら」 アキト「グッ!?グ、グウウ……!!」 ぬう……!どうせ機能的には地上と変わらんだろう……! あの針が全てだ……ってことは……!? アキト「じゅっ……12時12分ぞ!!どうかね!?」 おなご「あらあら、残念でした。今は13時30分よ」 アキト「ゲゲッ!?馬鹿な!だってアレ、それくらいの時間を差してますよ!?」 おなご「実はあれ、時計じゃないの」 アキト「ゲゲェーーッ!!!ひどいわ!騙したのね!?」 てゆうかマジで騙されました!この人スゲェよ!! おなご「ってゆうのも冗談です」 アキト「ゲェーーッ!!?おのれ貴様!何が狙いだ!」 おなご「楽しく会話をしたいだけですよ。さ、クッキーが焼きあがりました」 アキト「キャア!待ってました!───って、騙されんぞ!何が狙いだ!」 おなご「まあまあ、まずはおひとつどうぞ」 アキト「ムオ!?や、ア、アタイはですな」 かぽっ。 アキト「むごっ!?───……む」 …………コリポリ……サクサク。 アキト「!!」 ギャア美味!すげぇ美味!!こりゃ美味ェ!! なんてもの食べさせてくれるんや!! アキト「これはなにか特殊な材料を使っているのか!?」 おなご「天界では普通の材料ですよ」 アキト「そうか!素材が違うのだな!?そうだろう!」 おなご「普通ですよ」 アキト「おのれ!この雄山を試すようなことをしおって!!」 考えろ……考えるのだ!! 『微食倶楽部』の名にかけて、絶対当ててやるわ! アキト「……!桑の実だな!?そうだろう!!」 おなご「違いますよ」 アキト「ゲッ!フ、フフフ、この雄山を試すようなことをしおって、生意気な小僧だ」 おなご「小僧ではないですよ」 アキト「しかし雄山を唸らせるとは感心だ、次の料理を作れ」 おなご「これ以外にはありませんよ」 アキト「………」 おなご「………」(にこにこ) アキト「ゴメンナサイ」 おなご「いい子いい子」 うう、頭を撫でられてしまった。 どうにも勝てる気がしねぇ。 アキト「ま、せっかくだからクッキーは食っていかせてもらうザンス。     これほど美味ェクッキーは初めてだ」 おなご「そうなの?」 アキト「ウィ。昔、母さんが作ってくれたんだけど……     はは、味なんかもう忘れちまったい」 おなご「そのお母さんは……?」 アキト「多分貴様の予想通り。もう亡くなってる」 おなご「そう……亡くなってどれくらい経つのですか?」 アキト「そうさのう……170年くらいかのう」 おなご「……ウソついてる顔じゃあ……ないですね」 アキト「フフフ、アタイは時間を操れる能力がありましてな。     だから今では170年以上ですじゃ」 自分の未来を築くのに120年以上かかったし、 楓巫女と楓と飛鳥の行く末を見届けるのにも相当かかったし。 おなご「奇遇ですね。わたしも時間を操ってもらってるのですよ」 アキト「なんと!?……いや、まあ天界ってなとこだからありそうだな」 おなご「でも……そう。そんなに経つんじゃ味を覚えていないのも無理はありませんね」 アキト「うむ」 サクサクガリョガリョ……ゴクン。 ズズーーー…… アキト「プハァ!最後にお茶が怖い……ごっつぉさん」 おなご「楽しんでもらえたかしら」 アキト「ンム。なかなかのお手前でゴワした。おいどん、満足でゴワス」 おなご「そう、よかった」 相変わらずのにこにこ笑顔でアタイを見るおなご。 この武人は一体、何がしたいのでしょうか。 アキト「あのー、就かぬ事をお訊きしますが。貴様は何故にアタイを誘ったのかね?」 黙っているのは性に合わんので行動に出た。 おなご「ひとりでお茶をするのは寂しいでしょう?     あなたからは悪い気配は感じなかったから」 アキト「な、なんと……!」 ダーリンに散々ヒドイことを言われたアタイが……悪い気配が無いと……! か、感動!?これが感動!?ザマァみさらせダーリンこの野郎!! アタイの勝ちぞ!うわぁっはっはっはっは! おなご「今は邪悪な気配が出てますけどね」 アキト「うぐっ……!」 イ、イカンイカン……クリーンなファイトを望もう。 邪悪であっちゃならねぇ。 アキト「そんで?貴様はここでひとり暮らし?」 おなご「ええ」 アキト「ひとり身なんザマスか?」 おなご「息子も孫も居ますよ。夫には先立たれましたが」 アキト「グウム……こりゃあ迂闊なことを訊いちまったようで」 てゆうかそもそも、孫が居るような歳にはまず見えないんザマスがねぇ。 おなご「構いませんよ。夫や息子も仮初のものですから。     本当の夫でもなければ、子供でもありません。     ただ……孫だけは、わたしの血を引いてるんですけどね」 アキト「ム……複雑な話ですな。アレですか?卵子を使ってのクローンチックな」 おなご「いいえ。産まれた時に血が足りなかった未熟児だったんですよ。     危険だったんですが、わたしの血を輸血して、それで」 アキト「ふむ……なるほど。込み入った話に首を突っ込んで申し訳無い」 おなご「いえいえ。人と話すのも久しぶりですから、許してあげますよ」 アキト「ごっつぁんです」 それにしても……動じない人やなぁ。 アタイの周りの生物だったら、 少し適当なことを言っただけでも絶対『オガー!』って怒り狂いますぞ? 例えば夜華さんなら『貴様』とか言っただけで、 『ごごがぁああ!』とか言って刀の錆に……ぬおお、くわばらくわばら……。 おなご「それで、あなたの本名は?」 アキト「おっと、それは貴様が名を明かしてからだ。     アタイはそうそう口を滑らすような安い男じゃあねぇぜ?」 おなご「あらあら……そうなのですか?」 アキト「うむ。通常の人よりほぉ〜〜〜んのちょっぴりお喋りなところもあるが、     アタイはそうそう口を滑らしたりしねぇのよ」 おなご「それじゃあわたしも、     あなたが口を滑らすまで名乗らない、というのはどうでしょう」 アキト「な、なに〜っ、それでは話が進まんではないか〜っ」 おなご「諦めて名乗ってはいかがですか?」 アキト「俺は負けねぇ」 おなご「クスクス……」 ぬうう、言葉通りにクスクスと笑われてしまった。 そもそもアタイ、こげなところで談笑してる場合ですか? ───否!冥月刀を回収してウィルスメンを探さねば!! アタイは勢いよくソファから立ち上がった。 おなご「どうかしました?」 アキト「美味しかった、もう行かなきゃ」 おなご「そう、気をつけてね」 アキト「オウヨ〜」 アタイは名も知らぬおなごにスチャッと手を挙げて走りドグシャア!! アキト「ギャアア!!」 前方不注意のためにコケた。 アキト「あいたたた……む?」 コケた拍子に何か掴んで……紐? おなご「あっ!それは!」 アキト「!」 ぬおお!あのおなご殿が慌てた! こりゃあステキなお宝が眠っているに違いねぇ!あそーれグイッとぉっ!! ガコォ!!……ゴ、ゴゴゴゴゴ……!! おなご「あ、あああ……!!」 アキト「ウ、ウィ……?」 外見からは大きく、何故か部屋は狭かった家の壁が動く。 も、もしや隠し部屋があったのか……!? ……やがて、動き出した壁は動きを終えたかのようにガコォンと音を鳴らした。 そしてそこにあるのは───!! アキト「ゲッ……ゲェエーーーーーッ!!!!!ご、極道チックな部屋!?」 なに!?一体何が起こってるの!? おなご「……見ましたね……?」 アキト「キャーッ!?」 耳元で生暖かい声が響いた。 てゆうかなに!?何が起ころうとしているの!? おなご「見られたからには生かして帰さねぇです……覚悟してもらいます」 アキト「え?え……?あ、あのー……何故にドスを構えるんでしょうか〜……」 おなご「ドスじゃありません、匕首です」 アキト「変わりありません!同じです!あ、ちょ───待って!     なんで姿勢を低くするの!?どうして獲物を狩る獣の目をしてるの!?     あの穏やかだったアナタは何処!?ま、待って!イヤァ待ってーーーっ!!」 おなご「シャアアーーーーーッ!!!!!」 アキト「ウギャアーーーーーッ!!!!!」 アタイは恐怖した! その形相、その殺気に!そして、先ほどまでとは打って変わった口調に!! 恐怖のあまりに叫び、急いでドアまで走ったが─── アキト「なんで!?どうして開かないの!?イヤァ開いてーーっ!!」 ドゴォンと渾身の力で殴ってもビクともせんわ! なんという頑丈な扉よ!! おなご「扉の鍵はこの部屋の仕掛けが作動した時点で自動ロックされるのですよ……。     もう逃げられません……覚悟してもらいます……」 アキト「イヤァ怖ェエーーッ!!タスケテー!タスケテー!!     こっから出してぇーーーっ!!!     ヘルプミー!バードンミー!ザ・バイソン右だ!」 おなご「……なかなか余裕ですね」 アキト「フフフ、当然だ」 開き直りを発動させた。 覚悟を決めるしかあるめぇよ……。 そう、おなごを気絶に導くという覚悟を! 天国の母さんごめんなさい、アタイはおなごを殴ることになりまドシュウッ!! アキト「ヒャアアアアアアアアアア!!!!!」 おなご「チッ……よけたですか……」 かすった!!今頬が切れた!!頭狙ってきた!殺す気満々!! アキト「ヒ、ヒィイイ!!退却じゃああああ!!!!」 ドゴォン!! アキト「ゲーーーーーッ!!」 しもうた!こいつは盲点だ! アキト「ゲーーーーーッ!!     わ…わたしの変身機能は外界にある建物・樹木・生物・機械など、     目に見える風景に対して敏感に反応するのが特徴!     し…しかしそのわたしの変身ターゲットである外界のすべての風景を     このような巨大パラソルで覆われてしまっては、     もうどうすることもできーーーーーん!!!!!」 おなご「……なに言ってるです?」 アキト「グ、グムーーーッ!!!」 そうだった!ドアは開かないんでした!! いきなり忘れるとは……アタイったら相当動揺してますな! アキト「グウウ……ムムウ……!!」 どこか……どこかに窓は───あったわぁーーっ!! アキト「とんずらぁーーーっ!!!」 おなご「あっ!」 相手を追い詰めたことで産まれる慢心の隙をつき、アタイは疾走した。 やがて窓へと全速力で走り、 サブマリンロケッター並の勢いで頭から突っ込みベゴシャア!! アキト「アモギェエエーーーーーッ!!!!!」 窓をブチ破れず、のたうち回った。 おなご「フフフ……こんなこともあろうかと窓は強化ガラスで作られているのです……。     壊して逃げるなんてことは出来ませんよ……」 アキト「ば、ばかな……」 た、立てねぇ……!頭への衝撃が強過ぎた……! 月生力を使えない今のアタイにはこれは辛すぎる……! だが……あと10秒だ。 あと10秒で俺の中に反撃の力が蘇る……! おなご「さあ……覚悟はいいですね……?」 アキト「ま、待て……!アタイの話を聞いてくれ……」 おなご「だめです」 アキト「ゲゲェーーーッ!!!」 時間稼ぎすら出来んとは! だがゆっくり話してくれたおかげて10秒は経った! アキト「ふははははは!貴様は重大なミスを犯したぞ!」 おなご「───!そんなことはありません。一体なにを───」 アキト「壊しては出れないなら普通に開ければいい」 カチャリ。 窓は楽々と開いた。 おなご「ああっ!!」 アキト「フハハハハハ!!     そんなことにすら気づかなかったのかね!!カスめ!カスめ!!!」 おなご「シャアアーーーーッ!!!」 アキト「キャーッ!?と、とんずらぁーーーっ!!!」 匕首を手に襲いかかるおなごから脱兎の如く逃げ出す! 冗談じゃねぇや!殺されちまう!! だが!だがしかし!今こそようやく逃げられる! アキト「わーいボク自由だーーーっ!!」 ガボォンッ!! アキト「キャーーーッ!!?」 大地に降り立った途端、足元が崩落した。 で、見下ろしてみれば……アタイが掘ってきた空洞が。 アキト「ゲッ……」 驚愕の瞬間!だがその無情の瞬間の中、アタイの背後でザリッ……という音が! アキト「ゲェーーーッ!!!」 で、振り向けばおなご殿。 相も変わらず、その手には匕首が握られておりました。 その瞬間、アタイの頭の中には『大往生』の3文字が浮かんだ。 ど、どうする!? 1:穴から脱出!そして逃走! 2:穴に潜って逃走! 3:様子をドカァッ!!! アキト「ひゃああああああああ!!!!!」 アタイの目の前に匕首が突き立てられた! キャアア!選択肢展開中に攻撃されたの初めて!! アキト「やめてー!許してー!アタイがなにしたってゆうのー!?」 おなご「わたしの秘密を知りました。生かしては帰しません」 アキト「死んだら帰してくれる?」 おなご「帰しません」 アキト「うそつき!あなたっていつもそう!そうやって人を」 ドカァッ!! アキト「ホキャーッ!?」 再び大地に匕首が落とされる。 おなご「覚悟、決めなさい」 アキト「イヤー!アタイはこのようなところで死んでいい者ではなーい!!     精霊さーん!アタイを助けろー!     今こそこの場にこないで、なんのためのパートナーじゃーい!!」 おなご「精霊……?」 む!好反応!!これで少しは時間が稼げる! アキト「う、うむ……アタイの知人で、えーと……なんていったか……?     ホ、ホ……ホルマジオ?ウギャア名前忘れた!!」 おなご「………」 アキト「イヤァ待ってぇーーっ!!今思い出すから待ってぇーーっ!!     いやっ!待っ!やめっ!!きゃあああああああああああ!!!!!」 ツツツ……と、匕首の刀身がアタイの首筋を撫でる! ギャアア!冷たい感触が恐怖を引きたててます! ギャアもう!なんかもうギャアよギャア!! 目覚めよ思考!働け頭脳!!アタイの意識よ!アタイを救うために働け!! ──────ピキィイイイイン!!! アキト「思い出したわ!!そう!     穂岸とかゆうヤツじゃ!穂岸遥一郎!!間違いないね!」 おなご「───…………え?」 アキト「フフフ、そいつさえ来れば貴様なんぞイチコロよ……!     言っておくがな、ヤツはマフィアの幹部の大ボスなんだ。     貴様なんてヤツが一声かければたちまち」 ドカァッ!! アキト「ヒャーッ!!ごめんなさいウソです!!」 おなご「与一が……与一が居るの!?」 アキト「あ〜ん?誰じゃいその与一ってのは。人の話はちゃんと訊けタコ。     アタイは穂岸遥一郎って言ったんじゃい」 サクッ。 アキト「アモギェーーーッ!!!!皮膚が!皮膚があぁあああああっ!!!」 おなご「与一が……!どうして!?あの人は消えた筈なのに!!」 アキト「馬鹿野郎ーーーっ!!俺が知るわけねぇだろうがーーーっ!!!」 ザクッ。 アキト「ウギャアアアーーーーッ!!!しもうたーー!ついクセがぁあーーーっ!!」 おなご「サイファーだって手紙にはそんなことひとことも書いてなかった!!     それなのに……どうして!?」 プツプツプツ…… アキト「きゃーっ!やめてーっ!質問しながら小刻みに皮膚を刺すのはやめてーっ!     死んじゃう死んじゃう!本気で死にます!やめて!やめてぇえええ!!!」 おなご「どこっ!?与一はどこに居るのっ!?」 アキト「ンなこたぁアタイの方が知りてぇわボケ!!」 サクッ。 アキト「ギャアアーーーッ!!!───!ぐ、ぐあぁああああああっ!!!!!」 ───ガクッ。 おなご「あっ……ちょっと!」 体内に残っていた月生力の残りカスが尽きた途端、体の古傷が激痛を呼んだ。 その痛みに耐えかねたのか、俺の意識はさっさと電源を切ってしまった。 Next Menu back