───逃走した彼ら───
凍弥 「うっし、夏休みの課題、ひとつ終わりっと」 本を閉じて一息ついた。 朝からやる勉強ってゆうのも嫌な気分だが、やっておかないと後が面倒だ。 浩介 「うーむ……解らんものは解らんのだがな……」 浩之 「同感だブラザー……。これはなんとしたものか……」 浩介 「ええい解らん!解けブラザー!」 浩之 「ブラザーに解らんものが我に解けるものか!」 浩介 「なにをこの!修正ィイイイッ!!」 ボゴシャアアアア!!!! 浩之 「ラブリィイイイイイッ!!!」 ……ちなみに今回の勉強会を提案したのは浩介だった。 まあ勉強会というのは建前で、メルを呼びたかっただけらしいが。 メル 「あの……遥一郎さん、ここの問題なんですけど」 遥一郎「ああ、それじゃあ解き方だけ教えるから、解くのは自分でやってみるといい。     答えを教えても実りにはならないからな」 メル 「ありがとうございます」 だが、そんなメルは与一に勉強を教えてもらっている。 さっきまでは浩介と浩之が必死に教えていたのだが……所詮志摩兄弟といったところだ。 勉強のことではからっきしの彼らが人に勉強を教えられるわけもなく、 この夏で我らは頭脳明晰に生まれ変わってくれるわーっ!と叫んで、只今勉強中。 凍弥 「………」 俺はというと、傍に椛が居ないことに寂しさを感じていた。 晦の家に電話をかけてみたが、誰も出なかった。 出掛けているのか、それとも蒼空院邸の方に居るのか。 そう考えてみて蒼空院邸に電話をしてみたが、 セレスウィルさんが出て『椛さんなら居ませんよ』と言うだけだった。 ……うー。 風間 「落ち着かないッスね、センパイ。どうかしたんスか?」 静香 「雄輝くん、ほら、朧月さんが……」 風間 「あ、あ〜……」 風間と皆槻は、今ではすっかりと恋仲だ。 俺としても嬉しいし、なによりも死ぬかもしれなかった人が助かったことが嬉しかった。 昨日、彰衛門に『幸せモン撲滅計画』に誘われた時はどうしようかと思ったけど…… うん、悠介さんがなんとかしてくれたみたいだな。 何事もなかったように笑い合ってるふたりが証拠だ。 ……まあでも、人に悩みごとを当てられると恥ずかしいものだ。 あ〜あ、椛ぃ……。 佐古田「フッ……語るに落ちたッスね、霧波川凍弥」 凍弥 「……あのさ。     さっきから気になってたんだが、どうしてテメェが居るんだ佐古田」 佐古田「それはこっちの言い分ッス、霧波川凍弥。     志摩兄弟まで呼んでおいてアチキは誘わないとはどういう了見ッス」 凍弥 「呼びたくなかったからだ。それが了見じゃあ不服か?」 佐古田「当たり前ッス」 そうかも。 凍弥 「とにかくお呼びじゃないぞ」 佐古田「チッ……これだから女々しい男は嫌ッス。     恋人が居ないからってアチキに当たらないでほしいッス」 凍弥 「ぐくっ……佐古田テメェ……」 佐古田「お?怒ったッス?図星突かれて怒ったッス?」 遥一郎「凍弥、喧嘩はご法度だぞ。やるなら外でやれ」 凍弥 「表出ろ佐古田!」 佐古田「望むところッス!!」 俺は佐古田を促して外へ出た───途端! シュゴォオオオオ───ゴコッ!!ドグシャッ!ベキャッ!ゴキャアッ!! バキベキゴロゴロズシャアアアアーーーーッ!!!! 何かが空から降ってきて、鈴訊庵前で止まった。 凍弥 「あ、彰衛門……?」 彰利 「が……はっ……!!」 彰衛門は、彼にしては珍しく本気で苦しそうに血を吐いた。 彰利 「あ、ぶね……!死ぬとこ……だった……!」 体をガクガクと震わせながら、彰衛門は立ち上がる。 凍弥 「彰衛門……どうしたんだよ一体」 彰利 「ちょ……待て……」 彰衛門は刀を構え、集中に入った。 やがて傷が塞がっていくと、本当に大きく長い息を吐く。 彰利 「いや……ちょいとね、椛の逆鱗に触れたのかどうなのか。     いろいろあって、夜華さんを抱えながら家に入ったら椛さんが居まして。     そんで『おとうさんのばかーーーっ!!!』って、吹き飛ばされたわけです」 凍弥 「吹き飛ばされた、って……篠瀬が居るってことは月詠街だよな?」 彰利 「いかにも!」 凍弥 「……あそこから、ここまで?」 彰利 「ウィ。今回ばかりは本気で死ぬかと思った。     てゆうか冥月刀でシールド張ってもこのダメージですからね、     冥月刀無ければ死んでました。てゆうかくらった時点でケシズミになってたね」 凍弥 「うわ……」 ゾッとした。 自分の恋人が、あれほど慕ってた彰衛門をケシズミにするところだったとは。 もし撃たれた相手が俺だったら…… 彰利 「小僧、気をつけろよ……。浮気なんかしたら貴様、確実に死ぬぞ……!」 彰衛門は冗談抜きで、本気で震えながら俺の肩を叩いた。 ……俺も考えてたけど、ハッキリとは言ってほしくなかった。 浮気をするつもりは微塵にもないが、俺じゃなく椛がどう受け取るかの問題だ。 ───いや待て。 彰衛門が晦家からここまで飛ばされたとすると、椛は確かに晦神社に居て…… で、俺はさっきまで男数人と女数人で勉強をしてたわけで…… イ、イコール……椛、仲間外れ……!? 凍弥 「……やばい」 その瞬間、俺の脳裏には確かな筆跡で『大往生』の三文字が刻まれた。 しかも焼きついて消えてくれない。 彰利 「はふぅ……よし、落ち付いた。でさ、貴様はなにやってたん?」 凍弥 「うわっ!?あ、ああ……いや……知り合いを呼んで夏休みの課題を……」 彰利 「───」 うわっ!彰衛門の顔が凍りついた!! 彰利 「……ボク、キミのことを過小評価しすぎてたみたいだ……。     キミすげぇよ……そしてさようなら、永久(とこしえ)に」 凍弥 「うあああああっ!!!背筋が凍るようなこと言わないでくれよぉっ!!     な、なあ彰衛門!どうしたらいいんだ!?俺まだ死にたくないぞ!?」 彰利 「ひ、人違いです!     ワタシ彰衛門なんて名前じゃありませんし貴様なんて知りません!!     てゆうか誰ですかアンタ!!ワタシを巻き込まないでください!!」 凍弥 「瞬時に他人のフリしないでくれ!!     仮にも昔、俺と楓巫女の味方だって言ってくれただろっ!?」 彰利 「知りません知りません!あぁあああ知りません知りません!!     なんにも聞こえません!!聞こえませんとも!!」 凍弥 「聞けーーーっ!!!」 耳を塞いでしゃがみこむ彰衛門の腕を掴み、耳を塞いでいる手を剥がそうとする。 こっちも命がかかってるから必死だ。 彰利 「ヒィイ!!なにをするんですか!警察を呼びますよ!?」 凍弥 「警察より死が怖いわ!!」 彰利 「イヤァ助けてぇええっ!!この人痴漢です!男色です!ホモです!!」 佐古田「うわっ……そうだったッス?」 凍弥 「都合のいい時だけ返事するなよ佐古田ぁっ!!」 俺は心底慌てていた。 ここまで取り乱すのは初めてじゃあなかろうか。 それは多分、彰衛門も同じなんだと思う。 実際彰衛門は椛に殺されかけたわけだし。 彰利 「あっ!椛!!」 凍弥 「ひえっ!?あ、ち、違うんだもみ───あれ?」 振り向いた先には椛どころか人っ子ひとり居なかった。 彰利 「とんずらぁあーーーっ!!!!!!」 凍弥 「あっ!!ま、待ってくれぇっ!!俺をひとりにしないでくれぇえええっ!!!」 俺は走り出した彰衛門を追って、命の危険を背負いながらの潜在能力を発揮して走った。 彰利 「イヤァアーーーッ!!!ついてこないでぇええっ!!     アタイをそっとしといてぇええええっ!!このケダモノ!カス!ボケ!!」 凍弥 「彰衛門が説明してくれれば納得するかもしれないだろっ!?     だから逃げないでくれ!頼む!ほんと頼む!!」 彰利 「そんで用が済んだらぞんざいに扱うんだろ!!     貴様の魂胆は見え見えなんじゃい!!」 凍弥 「俺はまだ死にたくないんだよぉっ!!だから頼む!椛を説得してくれ!!」 彰利 「嫌だ絶対嫌だ誰が貴様のためなんぞに死ぬか!!     大体アタイが何故にこの街まで吹き飛ばされたか知ってるのかね!?     死にそうになるくらいに吹き飛ばされたんじゃよ!?     だってのにアタイの言うことに聞く耳持つと思っておるの!?」 凍弥 「うぐ───って、いいから止まれ!止まってくれ!!」 彰利 「貴様こそ止まれ!付いてくんなボケ!!」 凍弥 「断るッ!!」 彰利 「チィイイ!!あんさんとはもうやっとられまへんわ!!プレイスジャンプ!!」 キィイイ…… 凍弥 「!!───させるかぁああっ!!!」 彰利 「なにぃっ!?」 凍弥 「タックルは腰から下ァーーーッ!!!」 ドカァッ!! 彰利 「キャーッ!?あ、ああーーーっ!!」 ───ィイインッ!! ……こうして、俺達の逃亡生活は始った。 彰利 「ったく……何故ついてくるのかね!!」 凍弥 「死にたくないからだ!」 彰衛門が飛んだ先は川の流れる穏やかな場所だった。 俺はひとまず川の水で喉を潤し、一息をつく。 彰利 「はーあ、とうとう見つかっちまったい……」 そう言う彰衛門は草木を掻き分けて、ひとつの大木の中に入っていった。 それはなんてゆうか、晦神社の大樹に似た造りの大木だった。 凍弥 「こんなところに……これ、彰衛門の住処か?」 彰利 「そんなところじゃい。さすがにホームレス生活を続けるわけにもいかんのでな。     こうして山の小川の近くに住処を作ったわけじゃい。     こうすりゃあ水にも食料にも困らん。唯一困るっていやぁ熊が出ることかな」 凍弥 「熊か……って、熊ぁっ!?」 彰利 「うむ。ここらには熊が出ますよって、気をつけなされ。     前に夜華さんがここに現れた時は驚きましたが……     ああ、その時丁度、鮭を狩ってた熊から鮭盗んで逃走したんじゃがね?」 凍弥 「篠瀬もここを知ってるのか……」 彰利 「うんにゃ、夜華さんはアタイが偶然ここに居たと思っとるじゃろ。     だからここに訪れることは無いと思うわい」 凍弥 「そ、そっか……」 篠瀬がここを知ってるとなると、椛が追ってくる可能性があるからなぁ……。 ……そもそもどうして最愛の人にハンティングされるようなことになってるのだろうか。 彰利 「ま、こうなっちまっちゃあしょうがあんめえよ。ホレ、そこに座りなされ」 凍弥 「ああ」 彰衛門に促されて、大樹の中の部屋に座った。 ───そこで見たものは…… 凍弥 「あれ?これアルバムか?」 彰利 「ん?むう、まあそんなところじゃ。     さすがにこうやって長い間この時代に居ると、自分の時代が懐かしくなっての」 凍弥 「へえ……見ていいか?」 彰利 「好きにせぇ、アタイはちと眠る。椛に受けた傷を治すのに力使いすぎたわ……」 言って、彰衛門は横になって目を閉じた。 凍弥 「………」 俺は俺で、気になって仕方が無いアルバムをめくってゆく。 最初のページにあったのは───悠介さんと彰衛門が一緒に写っている写真だった。 悠介さんが椛と同化した時に落ちたあの写真と同じものだ。 凍弥 「………」 ペリ……とページをめくってゆくと、いろいろな風景がそこにあった。 だけど……赤子の頃の写真から、一定の大きさになるまでの写真は無かった。 一番最初に撮ったらしい写真は、ひとりの少女と一緒に写っている写真だった。 『粉雪と彰利』と書かれている。 凍弥 「……?」 そのページにある写真をざっと見てみたが、 写っている彰衛門はどれも無愛想な顔をしていた。 まるで、何にも感心が無いような顔だ。 だけどその表情も、ひとりの男と一緒に写っている場所からは大きく変わっていた。 『悠介と一緒に』と書かれている。 凍弥 「へえ……これ、悠介さんか」 写真の中には笑い合っている少年達。 他のどの写真を見ても、悠介さんと一緒に居る彰衛門は笑っていた。 でも……どうしてだろう。 幾つか、ひどく辛そうに笑う彰衛門が居た。 いや……疲れている、って言った方が適当だ。 凍弥 「………」 そして、今の彰衛門くらいの背丈に成長していくにつれ、 彰衛門の表情には追い詰められたような表情が浮かんでいた。 凍弥 「なんか……あったのかな」 よく解らないけど、 それは……俺なんかが理解出来る筈もないくらいの絶望が混ざった表情だった。 まるで、死に向かいゆくような表情だ。 そんな写真が何枚か混ざっていた。 凍弥 「………」 俺は嫌な気分に襲われながらもページをめくった。 すると、そこからはもう完全に今の彰衛門の表情になっていた。 彰衛門の時代の家族だろうか、晦神社の前で、みんなで並んで写っていた。 そこには─── 凍弥 「あ……ルナさんにセレスウィルさんも居る」 みんなが笑顔で写っていた。 その他の人は見たことの無い人だが、みんないい人そうな顔をしていた。 タイトルは『未来が開けたことの記念に!』と書かれている。 その筆跡だけでもどれだけ嬉しかったのかが解る。 何が嬉しかったのかは解らなかったけど、ただ自然と笑みをつくってしまった。 凍弥 「……ん?」 そこから先の写真は、時折違和感を覚えるものが幾つかあった。 今まで出てこなかった綴じ目の男が居たり、ルナさんやセレスさんの雰囲気も違う。 一体何があったのか……? そもそもこのパンプキンヘッドは一体……って、 なんか『美しすぎるア・タ・イ♪』と書いてあるし……。 凍弥 「………」 呆れるしかなかった。 次いこう次……───っ!? 凍弥 「喜兵衛!?」 見てゆく写真の中の一枚に、忘れもしないあの男の顔があった。 だが……その写真の中の喜兵衛は、輝く光に肩を貫かれている、無様な姿だった。 タイトルは『ザマァみさらせカス野郎』だった。 凍弥 「……そっか。彰衛門の時代にも居たんだな……」 感心なさそうに呟いて、さっさとページをめくった。 次のページには───なんか、サクラが居た。 金髪でメイド服を着た女の子と一緒に。 ちょっと髪型が違うけど……この桃色の髪はサクラ……だよな? ……よく解らん───って! 凍弥 「よ、与一ぃっ!?」 舞台らしき場所で劇をやっているふたりの少女を見るように、ひとりの男が居た。 その姿はまず間違いなく……うおう。 凍弥 「これって、どういうことなんだ……?     与一が消えなくて済んだ歴史もあったってことか……?」 ますます解らなかった。 だけど……うん、幸せそうだ。 ペラリ─── 凍弥 「……?」 次のページには、ひとりの女の人と一緒に立つ彰衛門が居た。 タイトルは『粉雪といっしょ』だ。 ……どうやら、最初の写真の女の子の成長した姿らしい。 そして、この人が……彰衛門の彼女か。 ……うん、なんだか大人しそうな人だ───って 凍弥 「どうしてヒゲ生やしたオジサマとクロスカウンターしてる写真があるんだ?」 謎だ。 しかもどうやら吹雪の中でやったらしい。 凍弥 「こっちの写真は───うおっ……」 悠介さんが肩車した謎の人物に、彰衛門がフライングラリアットをしていた。 こ、これは……ダブルインパクト!? ……てゆうか一体この人物になんの恨みがあったんだろうか。 しかも悠介さん、驚いてるし……ってことは、悠介さんが善意から肩車した相手に、 彰衛門がいきなりフライングラリアットしたってことだよな……。 凍弥 「……変わらないなぁ」 本気で呆れてしまった。 で、そのページにはもう写真が貼られてなくて、 これで終わりなのかと思いながらページをめくると───そこは夏景色だった。 綺麗な自然の景色が広がっていて、見ているだけで『その場に立ちたい』と思うほどの。 ……ちなみに二枚目の写真で、何故か彰衛門はシンクロナイズドスイミングをしていた。 シンクロしてくれる人は居なかったが、この独特のポーズは間違い無い。 なにやってんだか……。 てゆうか彰衛門が写ってる時ってどうやって写真とってるんかね。 悠介さんか? 凍弥 「あ……また知らない人だ」 次々と写真を見てゆく中で、ふたりの女性とひとりの男性が写っている写真があった。 どうやら隠し撮りで済ませたらしく、誰ひとりとしてカメラに気づいている様子はない。 タイトルは『グレゴリオと夏純ちゃんとバ・バ・ア♪』だった。 ババアって……この右端の女の人に恨みでもあったのだろうか……。 凍弥 「……あれ?場所がいきなり病院になってる……」 でもそこには確かに、ベッドに寝ている女ふたりと、苦笑気味の男ひとりが居た。 ……なにがあったんだろう。 凍弥 「………」 気を取り直してページをめくる。 そこにはまた知らない人物が居た。 『お見合い撲滅大作戦』と書かれた写真には、 着物を着た悠介さんと……やっぱり着物を着て、髪の毛を纏めているルナさんが居た。 ……驚いた。 ルナさん、和服似合うんだな……。 凍弥 「こっちは……孤児院?」 『孤児院のみなさま』と書かれている写真には、 人の良さそうなおばさんと、たくさんの子供が写っていた。 凍弥 「うおおっ!?」 しかもその次の写真では、天井に頭を突っ込んだ誰かと、 その背に乗っている悠介さんが写っていた。 他の写真と照らし合わせるに、この天井に頭を突っ込んでいるのは彰衛門だ。 他の写真の服と一致する。 いや……でも何故にマッスルインフェルノ? 凍弥 「い、いや……いい。深く考えないで次にいこう……」 ページをめくった先の写真には、『弧月日沙姫さん降臨!』と書いてある。 その景色の中に居る彰衛門がどうしてキャミソール姿なのかはまるで謎だったが。 『沙姫』と書かれた少女は、刀を手にしていると目付きがまるで違った。 二重人格者かなにかだろうか。 って……この刀って彰衛門が持ってる刀だよな? 凍弥 「………」 その次の写真は彰衛門が猿と一緒に踊っている写真だった。 ……俺は生涯、彰衛門の思考回路は理解出来ないという思いが確信へと変わった。 凍弥 「あれ?次の写真でこのページ終わりだ……」 そのページはまだまだスペースが空いていたのだが、貼られていたのは一枚だけだった。 『弦月屋敷、復活!』というタイトルとともに、 立派な屋敷と───その先にの景色にあるひとつの木を写していた。 あれ……?ここって……彰衛門と初めて会った場所……? 凍弥 「……だよな。『俺の領地だ〜』的なことを言ってて……」 美紀を助けられなかった俺が、あそこで泣いた時にあいつが現れたんだったよな……。 …………。 凍弥 「………」 何気なく、次のページをめくった。 するとそこには、過去の俺と椛───つまり隆正と楓巫女が居た。 どうやらここからは過去の写真らしい。 何枚かは見せてもらったことのあるものだったが、他の何枚かは違った。 何故か楓巫女がメイド服を着ているような写真まである。 凍弥 「まさか……『幸せな歴史もあっていいだろ』とか言ったヤツがこれか……?     な、なに考えてやがる……!」 ……でもカワイイ。 やっぱり楓巫女はカワイイなぁ……───ハッ! なにトリップしてんだ俺!しっかりし───…… 凍弥 「……オイ」 どうして楓巫女はメイド服で、俺は肉じゅばんとモンゴルマスクなんだよ……。 彰衛門の感性って解らねぇ……。 でも……うん。 凍弥 「どの写真も幸せそうだな……。俺も楓巫女もいい顔してる……あ」 ───俺はざっと写真を見ながら、ある写真で止まった。 それは、俺と楓巫女の婚儀の式の写真だった。 そして……その先の子供の写真。 このアルバムは彰衛門と楓巫女と隆正、そしてその子供とで撮った写真で終わっていた。 俺はなんだか少し寂しさを感じながらアルバムを閉じた。 凍弥 「………」 そしてそのまま、もうひとつのアルバムを手に取る。 そのアルバムは楓と鮠鷹の時代の写真から始っていた。 最初は篠瀬ばかりが写っていた。 連続写真だったのか、その様子がありありと写っている。 シャッターを切る音に気づいた篠瀬がカメラマン(恐らく彰衛門)に近づいていき、 それに習うように篠瀬の姿も大きく写ってゆく。 やがてカメラの景色が大きくズレ、蒼空と血飛沫が舞う写真に行き着いた。 …………相変わらずだったようだ。 前世だというのに自分の知らない前世が、今目の前にある。 それは不思議ではあったが。 羨ましくもあったが。 俺は今、この未来を後悔しているわけじゃない。 凍弥 「………」 やがて写真は楓と鮠鷹の子を写した写真に辿り着き、その時代の写真は終わっていた。 その次のページには……飛鳥が居た。 凍弥 「飛鳥……」 ひどく懐かしい。 この時代の俺が初めて好きになり、初めて守りたいと思った存在。 それ以外の人を好きになるようなことは無いって思ってたけど……俺は椛に恋をした。 ……許してくれるか?飛鳥……。 確かに椛はお前でもあるんだろうけど……でも…… 凍弥 「………」 俺は確かに『飛鳥』という女性を愛した。 その気持ちは変わってないと思う。 でも、それと同じくらいに椛を愛している。 もし彼女が飛鳥じゃないとしたなら、俺は彼女を好きになったのだろうか。 ……答えは出なかったけど、これだけは言える。 俺は……必ず、飛鳥の分まで椛を幸せにしてみせる、と。 凍弥 「……感傷的になったな……次だ次っ」 気を持ち直してページをめくる。 そこには飛鳥と結婚式を挙げる霧波川凍弥が居て、 なんだかすごく変な光景を見ているような気分が溢れた。 自分は確かに存在しているのに、俺じゃない俺が飛鳥と結婚した。 当然、おかしいと感じる以外、なにも感じなかった。 凍弥 「……っ」 なんだか見ていられなくて、ページを飛ばした。 その先には─── 凍弥 「ぐわっ!!」 教室でキスをしている俺と椛が居た。 あ、彰衛門め……!ビデオでは飽き足らず、写真まで撮ってたのか……!! 凍弥 「───あ」 そこから先はやっぱり知っている景色の写真だった。 バケモノを見て涙を散らしながら叫んでいる篠瀬が居たり、海の景色があったり。 てゆうか篠瀬が写ってる写真ってヒドイものばっかりだな。 海の写真は筏(いかだ)の上で疲労を露にしている篠瀬だった。 ───そこから先の写真には、見知らぬ景色が広がっていた。 たぶん天界なんだろう。 ───てゆうかもう現像したのか!? そもそもカメラまで持っていったのか!? ……相変わらず緊張感の無いヤツだな……。 凍弥 「……うん、やっぱり写真はここで終わってる」 パタム、とアルバムを閉じて息を吐いた。 ……実に愉快と落胆の上下の激しいアルバムだった。 彰利 「堪能したか?」 凍弥 「起きてたのか」 彰利 「そらそうだ。横で感想言われたり驚かれたりしてたら眠れるわけがねぇ」 凍弥 「悪い」 彰利 「まったく……」 彰衛門はだるそうにして体を起こした。 彰利 「なにか気になることでもあったかね?」 凍弥 「べつに───いや、あった。     ここのところさ、どうして不安な表情ばっかりなんだ?」 俺は高校生あたりの彰衛門を指差した。 彰利 「あーここんとこかぁ。ここんとこはな、アタイがゼノと戦う前の写真だ」 凍弥 「ゼノ?」 聞き慣れない名前だ。 彰利 「アタイはね、そのゼノってゆう死神の所為で何度も死ぬハメになったんだ。     ただひとりの友人を助けるためにね」 凍弥 「それって……悠介さん?」 彰利 「まあな」 彰衛門はそう言うと、まただるそうにして寝転がった。 彰利 「昼寝でもすんべや。この森の周辺には月奏力・幻惑の調べが流してある。     その力が視覚を惑わしてくれるから誰も近寄れんよ。     どうあっても無意識に森の外に出る。……椛に利くかどうかは解らんがな」 凍弥 「………」 彰利 「寝ておけ。椛が来たら全力で逃げなけりゃならん。     ……寝られるのは今だけかもしれんぞ」 凍弥 「あ、ああ……そうだな……」 彰衛門の言う通りだ。 なんか大袈裟になってる気もするけど、彰衛門を殺しかけるほどだ。 椛も相当に怒っているのだろう。 だとすれば仲間外れにされたと感じれば……俺は生きていられないだろう。 ……寝ようか。 ハッキリと恐怖した俺は、寝転がって寝ることにした。 ───……眠れねぇ。 目を閉じて数十分経つが、全然眠れない。 極度の緊張の所為だ。 凍弥 「どうしたもんかなぁ……」 目を開けて体を起こした。 凍弥 「彰衛門、起きてるか?」 起きてたら話相手にでもなってもらおうと、声をかける。 彰利 「ぐごー!ふんごー!!」 で、彰衛門は盛大に寝たフリをきめていた。 凍弥 「彰衛門さ、もう少し演技力を身につけたほうがいいぞ?」 彰利 「なにを言うか!アタイは今の今まで寝てたんだ!」 凍弥 「……まあいいけど。少し話しないか?」 彰利 「いいだろう。話せ。ったくしょうがねィェ〜、付き合ってやらぁな」 凍弥 「………」 彰利 「なんじゃい」 凍弥 「もしかしてさ。彰衛門も眠れなかったとか?」 彰利 「ばっ……馬鹿言うな馬鹿この野郎!馬鹿かねキミは馬鹿め!     ア、アタイがそげなことあるわけなかとね馬鹿!」 図星だったらしい。 彰利 「ホレ!何か話せ!」 凍弥 「あー……悪い。話振っておいてなんだけど、ネタがない」 彰利 「チィイイ……役に立たんやつめ……!」 凍弥 「彰衛門が話してくれよ。デタラメでもなんでもいいから」 彰利 「それじゃあ俺がいっつもデタラメばっかり言ってるみたいじゃないか」 凍弥 「そうだろ?」 彰利 「そんなことはない」 凍弥 「楓巫女に誰よりも先にウソを教えたの、誰だよ」 彰利 「………」 凍弥 「だから……目を逸らすなってば」 彰衛門は口笛を吹いてまでシカトをキメた。 だけどしばらくするとこちらを向き、ぽつぽつと話し始めた。 彰利 「フフフ、これはちょいと事情があって、写真に撮れなかった時のことだ」 凍弥 「彰衛門は大抵、何か話を展開する時って『フフフ』って言うよな」 彰利 「黙れ!小僧!」 凍弥 「………」 俺に一喝をくれてから、彰衛門はゆっくりと語る。 それは予想通りに、妙な話だった。 Next Menu back