───ササノハ物語───
彰利 「さっさっのっはっさ〜らさら〜♪」 中学3年の7月7日。 俺は悠介ン家にお邪魔して、短冊を書いていた。 心ウキウキ胸ワクワク。 さあ竹よ!アタイの願いを叶えたまえ〜っ!! 木葉 「………」 彰利 「あれ、木葉ちゃん。どったの?」 木葉 「また来ていたんですか……。おにいさまには近寄らないでと言ったでしょう!」 彰利 「………」 いつ聞いても痛い言葉だ。 やっぱ嫌われてるなぁ俺……。 彰利 「まあまあ、いいじゃないか木葉ちゃん。     別に俺は悠介に危害を加えにきたわけじゃないんだし」 木葉 「ふん、どうだか……。     いいですか、それを書き終わったらさっさと出ていってくださいね!」 彰利 「あ……」 木葉ちゃんはそれだけ言うと、完全に俺を憎んでいる表情で去っていった。 …………馴れたとはいえ、平気になれるわけないよな。 いつか解ってもらえる日が来ることなんてあるんかな……。 彰利 「……ゼノ、かぁ」 結局のところ、ゼノをなんとかしなけりゃ未来は開けない。 それまでは、若葉ちゃんと木葉ちゃんにどれだけ嫌われようが……俺は何度だって─── 春菜 「ん……あ、やっぱり居た」 彰利 「おや、これは家政婦さん。お邪魔してるッス」 春菜 「うん、どうもね。木葉ちゃんが怒ってたから居るかな〜って思ったけど」 彰利 「誰かの怒りが俺の存在意義みたいなことを言わないで欲しいんですが」 春菜 「似たようなものでしょ。……で?あの娘たちが怒る理由、本当に知らないの?」 彰利 「知りませんよ?」 春菜 「う〜ん……」 この頃はまだ更待先輩殿は……過去、アタイがなにをしたのかを思い出していない。 先輩殿がそれを思い出すのは俺が高校二年の秋の時だ。 それまでは、せめてこういう会話を大事にしたいと思う。 彰利 「先輩殿は何を書きマッスル?」 春菜 「そうだね……恒例のアレかな。世界が平和でありますように」 彰利 「……いえ、恐らく似合わんからやめといたほうがいいかと」 春菜 「?……なにそれ」 彰利 「予言しよう!あなたは皆様が恐れるような破壊好きのおなごに育つでしょう!」 春菜 「……それってわたしが乱暴者だって言ってるのかな」 彰利 「そうだと思う」 ぽかっ。 彰利 「うおう」 春菜 「女の子にそういうこと言っちゃだめだよ」 彰利 「ぬう……」 更待先輩殿はオネーサマっぽさを見せつけつつ、洗濯物を持って歩いていってしまった。 ……あれがのちに、究極波動娘にクラスチェンジするなど……誰が予想したであろうか。 そもそも先輩殿との出会いは、出会いからしてアタイが睨まれているようなものだった。 ───回想+回想─── 中学二年の秋。 彰利 「ハバララ・ハ〜バラララ〜ン♪」 今日も今日とて、中井出をからかって最高の気分を味わい終えた俺は、 上機嫌で廊下を歩いていた。 つまり悠介を探していたわけだが。 彰利 「なあなあそこゆくクラスメイトさん、悠介見かけなかったかね?」 山本 「……クラスメイトさん、って……名前で呼ぶことくらいしろよ弦月」 彰利 「えーと…………誰?」 山本 「山本だぁ!山本!山本篤志!!」 彰利 「なんと、そうだったのか。俺はてっきり山本なのかと」 山本 「それでいいんだよそれで!解ってたんなら呼べよ!」 彰利 「いやいや、苗字は思い出せても名前が思い出せなかったんだ。     それなのに呼ぶのは失礼だと思わんかね」 山本 「クラスメイトに正面から『誰?』って訊くのは、     失礼じゃないとでも思ってるのかお前は……」 彰利 「超絶に思ってます」 山本 「…………晦なら階段側に居たぞ」 彰利 「ムウ、やっと喋りおったわ。俺ぁ貴様のその言葉を待っていた」 山本 「人をからかいながらか?」 彰利 「物分りのいい人って好きですよ?」 山本 「帰れ!」 彰利 「な、なにぃ!?いきなり帰還命令だと!?     貴様なんの権利があって───ああっ!待ちたまえ!」 人の話も聞かず、肩を怒らせながら歩いてゆくやまもっつぁん。 まったく短気なヤツぞ。 彰利 「ま、それはそれとしてダーリンを探しに……」 階段って言ってたよな。 よっしゃよっしゃ。 ……まあ、別に訊かんでも居場所なんて知ってるんだけどね。 だって何度歴史を繰り返しても、『待ち合わせ場所』とかってあまり変わらんし。 彰利 「やまもっつぁんの言う『階段側』ってのは屋上へ続く踊り場のことだったな」 うむ。 ではいきますか─── ……。 オホホ、やはりおったわ。 春菜 「……大丈夫、怖がらなくてもいいよ。わたしもひとりだから」 むう!今回は少し遅れてしまったか! これはすぐに出なければ! 彰利 「やいてめぇ!アタイのダーリンに何の用だ!」 春菜 「えっ……」 悠介 「彰利?」 彰利 「そう、俺様よ。で?こんなところでなにやっとんです悠介サン」 悠介 「あ、いや……べつに」 彰利 「べつにってことはねぇべさ」 言いつつ、アタイは更待先輩殿を見た。 どこか戸惑いを隠せないような表情だ。 彰利 「貴様、3年だな?」 春菜 「え?う、うん……」 彰利 「アタイは2年の弦月彰利。ここにおわす晦悠介の唯一無二の友達ぞ?」 春菜 「と、友達……?」 彰利 「そうだ。よって貴様に入り込める余地などないわ!帰れ!」 春菜 「…………っ」 おお、睨まれてます。 だが甘いわ!月醒力を使ってこないと知ってりゃあ、貴様なぞ恐るるにたらん!! 先輩殿は波動娘だからこそ怖いのだ! 悠介 「おい彰利、なにもそんな風に言うことはないだろ……」 彰利 「アタイは許せないんですよ。     噂を信じてノコノコと悠介を傷つけにくるヤツを。     しかし珍しいですな、小学の時に封印したとばっかり思っとったのに」 悠介 「もう使わないって決めてたけどな。なんか、使っちまった。     なんてゆうのかな、他人だって気がしなかったんだ、その人」 彰利 「むう……」 おのれダーリン、人が将来敵に成り得る人を排除しようとしてるのに。 彰利 「だからといって、見せてはいけませんぞ!     もしいろいろ言いふらされでもしたら、     若葉ちゃんや木葉ちゃんにも迷惑がかかるのですよ!?」 悠介 「……なあ。前から思ってたんだけどさ、     どうしてお前ってふたりに嫌われてるのに、庇うようなことが出来るんだ?」 彰利 「グム?」 悠介 「グム?じゃなくてさ」 彰利 「べつに……彼女らが悪いわけじゃないからザマス。     前にも言ったよな?若葉ちゃんと木葉ちゃんは、     麗しのオニイサマを守ってるだけなんだって。     あながち間違いじゃないし……それに、誤解とはいえ俺はお前を……」 悠介 「彰利?」 彰利 「………」 殺しそうになったんだ、なんて言える筈もなかった。 暴走した俺が自分の手で悠介を殺しそうになったのは事実で、 なんとかその殺意の手を自分の腹に突き刺して止めたのも事実。 そんな俺を、悠介が生き返らせてくれたのも……また事実だ。 友達っていいねィェ〜ガシィッ!! 彰利 「ムオッ!?」 悠介 「うわっ!?」 春菜 「〜〜……っ……!」 なんと!更待先輩殿が悠介の腕に自分の腕を絡ませおったわ!! 馬鹿な!こんな状況、今までの歴史では一度もなかったのに!! 悠介 「あ、え、えっと……え?え……?」 春菜 「あ……カワイイ」 彰利 「!!な、なにを頬染めちょっとか貴様!!」 春菜 「え!?あ、あはは……あはははははは!!!」 彰利 「ヒィ!?気がフレた!?     って、それより俺の悠介に何すんだ!!離れなさい!離れろ!」 春菜 「あはははははっ!!あははははははははははははっ!!!」 彰利 「こ、このクソジャリがぁあああああっ!!!!」 ───これがまあ、更待先輩殿との何度目かの出会い。 残念ながらこの歴史では未来は開けなかったが……いい時代じゃったぜ? まあ例の如く晦家の家政婦になるって言った時は、断固阻止しようとしたんですが。 結局無理だったんでやめました、ハイ。 ───回想+回想……Fin─── 彰利 「さっさっのっは、さらっさら〜のデスサーティーン!」 ギシャアア!! アタイは短冊に願いを託しながら顔を輝かせた。 サラサーティンとデスサーティーンをかけたわけですが。 ゴトッ。 彰利 「あ〜ん?」 物音を聞いて振り向いた。 すると 彰利 「な、なにーーっ!!お、お前はーーっ!!」 春菜 「今……顔が……光らなかった……?」 彰利 「ど、独眼鉄ーーっ!!」 春菜 「ねぇ……今、顔が……」 彰利 「………」 春菜 「………」 ヤベェ、見られた。 どうしましょ。 ───よし誤魔化そう!! 彰利 「これ!そこは『ここは先輩の顔立ててもらうぜ』でしょう!!」 春菜 「弦月くん!!」 彰利 「キャーッ!?な、なにかね!!突然大声を出して!!」 春菜 「光った……光ったよね……?」 彰利 「あ〜ん?光ったって、なにがかね」 春菜 「弦月くんの顔!!」 彰利 「光ってませんよ?なに言ってのキミ。     自分の幻覚で人をどうのこうの言うのってよくないと思うよ」 春菜 「でも光った!光ったよ絶対!」 彰利 「馬鹿野郎ーっ!光ってねぇーっ!!」 春菜 「光ったでしょ!わたし見たんだから!!」 彰利 「お馬鹿!お馬鹿よミスハルナ!!一体あなたはワタシの何を見ていたの!     そんなことではプリマドンナには」 バンッ!! 彰利 「キャーッ!?」 春菜 「光った!」 彰利 「なにをなさる!テーブルを叩くなんてヒドイじゃないですか!     テーブルになんの罪があるというのですか!!」 春菜 「そんなこと関係ない!光ったかどうか訊いてるの!」 彰利 「光ってねぇって言っても信じてくれないじゃないですか!!     アータ人を馬鹿にしてんのですか!?」 春菜 「でもわたし見たもん!顔が光ってたの見たもん!!」 彰利 「幻覚だって言ったでしょうが!     信じないくせにしつこいヤツは嫌われますよ!?」 春菜 「見たものは見たの!弦月くんがウソついてるんでしょ!!」 彰利 「馬鹿ヨー!アナタ馬鹿ネー!馬鹿馬鹿馬鹿ーーーッ!!」 春菜 「ばっ……!?馬鹿って言う方が馬鹿だよ!」 彰利 「そうだとしても貴様の方が馬鹿ぞ!この馬鹿!馬鹿め!馬」 スパァーンッ!! 彰利 「キャーッ!?」 た、叩かれた……!? 彰利 「きゃーっ!きゃあーーっ!!」 春菜 「光ったでしょ!正直に言いなさい!」 彰利 「きやーっ!!きやーーーああああああっ!!」 春菜 「うるさいっ!」 ベシベシベチンバチィン!! 彰利 「きゃぼぶべぼらぶら!!」 叫んでただけで往復ビンタを進呈されました。 間違いない、この人ヒドイ人。 春菜 「……怒らないから、正直に言うの……。わかるよね……?」 彰利 「きやーーっ!!きやーーーっ!!!!」 春菜 「それはもういいのっ!!」 彰利 「キャーッ!?」 バァンパァンバァンパァン!! 彰利 「きゃぼぶべぶらぶら!!」 先輩殿の容赦のないビンタがアタイを襲う。 なんてヒドイ人……! きっとアタイが『光りました』と言うまで離すつもりはないんだわ……! 彰利 「やめてー!やめてー!アタイが何したってゆうのよー!」 春菜 「顔を光らせたでしょ!」 彰利 「馬鹿野郎ーーっ!光らせてねぇって言ってるだろうがーーっ!!」 春菜 「ウソつかないの!」 彰利 「ウソなんてついてねぇーーっ!!」 春菜 「じゃあホラ吹いてるんでしょ!!」 彰利 「吹いてねー!事実だ!なんで信じねーんだよてめーら!」 春菜 「今話をしてるのはわたしだけでしょ!どうして『てめーら』なんて言うの!」 彰利 「知らん!自分で考え」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーっ!!!」 春菜 「年上に対してそういう口の利き方しちゃダメでしょ!?     雪子さんにそう教わらなかったの!?」 彰利 「な、殴ったなーーっ!?マントヒヒにも殴られたことないのに!!     ちくしょう悠介にいいつけてやるーーっ!!!」 アタイは身を翻してガシィッ!! 彰利 「キャーッ!!?」 春菜 「話が終わってからにしなさいっ!!」 彰利 「貴様と話すことなどないわーっ!!」 春菜 「そっちは無くてもこっちにはあるの!」 彰利 「なんと!それを早くいいなさい!……で?」 春菜 「顔、光ったでしょ!」 彰利 「………」 春菜 「光ったでしょ!」 彰利 「………」 バチィーーン!! 彰利 「ぶへぇーーーっ!!」 春菜 「どうして黙るの!!」 彰利 「な、なにーーっ!?貴様、なんの権利があってアタイを引っ叩くかぁーっ!!     アタイは『貴様と話すことなどない』と言って、     貴様だって『そっちは無くても』って言っただろうがーっ!!     それで黙ってて何が悪いーーっ!!」 春菜 「そういう意味じゃないの!」 彰利 「馬鹿野郎!それなら最初にそう言えタコ!」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーっ!!!」 春菜 「年上にタコだなんて言っちゃダメでしょ!?」 彰利 「へっ、こいつ一年早く生まれたことでしか自分を誇れねぇんだ……カスが」 ドゴシャア!! 彰利 「ヘキャアーーーッ!!?」 春菜 「もういい!弦月くんには教育が必要みたいだからわたしが教えてあげる!!」 彰利 「自惚れるな!たった一年早く生まれただけで人の上に立つつもりかカスが!!」 春菜 「カスでもいいの!とにかく弦月くんには教育が必要だよ!」 彰利 「キャア!認めやがったカスが!このカス!カスが!カスめ!カスめ!!」 春菜 「───……」(ブチッ) 彰利 「ややっ!?」 何かがキレる音がした。 こう、なんてゆうのか……『切れる』や『斬れる』じゃなくて、 『キレる』だからこそ頷けるような音ってゆうか…… 春菜 「弦月くん、ちょっとそこ座りなさい……」 彰利 「だめだ」 春菜 「座りなさいっ!!」 彰利 「カスに教わることなどないわカスが!」 ドバァン!! 彰利 「ごはぁっ!!」 ひっ……響く……っ!!! 先輩殿ってば月操力上乗せして殴ってきてやがる……!! 春菜 「……座りなさい」 彰利 「こ、ことわ」 ドボォッ!! 彰利 「ゲボォッ!!」 痛い!これは痛い!! 春菜 「なに?聞こえなかったなぁ……」 彰利 「ぐ、ぐぐぐ……!!」 やべぇ、目がマジだ。 こやつ……本気でアタイに人の道を教える気だ……! そもそも道徳を謳おうってヤツが人を殴って解らせられるつもりなのかね……。 彰利 「更待先輩殿……実はお話したいことが……」 春菜 「その前に座りなさい……」 彰利 「ぬう……オラ、座ったぞ」 ボゴシャア!! 彰利 「ウギャアアーーーッ!!」 ギャア!座った途端に顔面をボレーシュートされた!! 彰利 「な、なに考えてんだてめぇーーーっ!!!     座らなかったら殴って、座ったら蹴って……!!     なんてヒドイ人!あなたに人の道を説く資格なんてないわ!!」 春菜 「行儀が悪いの!正座しなさい!」 彰利 「『座れ』って言っただけでしょうが!!     アータ自分の舌っ足らずを人の所為にして殴るなんて、     最低もいいところよ!?この極低(きょくてい)娘!!至高馬鹿!」 ぐしゃあっ!! 彰利 「アモゲェーーーッ!!!ゆ、指がぁああーーーっ!!!!」 なんと!何の前触れもなく先輩殿がアタイの手の指を踏みつけた!! 悠介 「……えーと。なに、やってるんだ?」 春菜 「!」 彰利 「ああ!ダーリン!!」 先輩殿が慌てて足を引っ込める中、アタイはダーリンに向かって駆けた! 彰利 「聞いておくれよママ!ロザリンがボクを殴るんだ!」 悠介 「誰だ」 彰利 「誰だろ……」 アタイと悠介はロザリンの正体について真剣に考えることにした。 だがこんな時には邪魔が入るのが世のセオリー。 春菜 「弦月くん……」 彰利 「光ってませんよ?何度同じことを言わせるのかね。     そんなこっちゃ、悠介にオカシなこと言う変態さんだと認識されますよ?」 春菜 「うぐぐぐ……!!」 先輩殿は拳を振り上げたが、やがてゆっくりと拳を下ろした。 どうやら諦めたらしい。 フッ……俺の勝ちぞ。 彰利 「今日は七夕の日なんだから願いを届けるだけでいいでしょうが。     それをなんですかまったく。     お客への接待がなっていませんことよ、家政婦この野郎」 春菜 「弦月くんって人を喩えて言う時って、どうして『この野郎』ってつけるの?」 彰利 「───え?今なんと……?」 春菜 「どうして『この野郎』ってつけるの?訊いたの」 彰利 「俺がそげなことを言っていると……?」 春菜 「言ってたよ」 彰利 「俺が……マジすか?」 悠介 「言ってたぞ」 彰利 「なんとまあ……マジすか?」 春菜 「言ってたってば」 彰利 「うそつけ」 スパァーン!! 彰利 「うぶべっ!」 春菜 「頭ごなしに『ウソ』って言っちゃダメなの!解る!?」 彰利 「オイラ頭悪いから解んねぇや」 パァンパァン!! 彰利 「ぶべっ!ぶべらっ!!」 春菜 「どうして解らないの!」 彰利 「頭悪いからだって言っただろうが!そっちこそどうして解らないんだタコ!」 ズッパァアアアン!!!! 彰利 「ぶへぇえええっ!!!」 春菜 「タコ禁止!!女の子にタコって言っちゃダメ!!」 彰利 「カスが」 ボゴシャア!!! 彰利 「えぎゃぎゃあああっ!!!!」 先輩ナックルがアタイの頬を捉えた! その反動に体が持っていかれ、アタイは畳の上に叩き付けられた!! 春菜 「どうしてそういうこと平気で言うの!」 彰利 「平気じゃない!めっちゃ平気じゃない!殴られてる蹴られてる!!」 悠介 「……先輩って大人しい人だと思ってたけど」 春菜 「───ハッ!」 言葉通り、ハッと我にかえった先輩殿がアタイの襟首を離す。 春菜 「え、えーーーと……うん、なんでもないよ、悠介くん」 で、満面の笑顔───には遠いな。 口の端が引きつってる。 彰利 「そうよね……アタイも先輩殿はもっと大人しい人かと思ってたわ……。     それがなんだい、悠介の居ないところとなるとアタイをイジメて……。     アンタ、アレですか?性質の悪い小姑ですか?」 春菜 「───」(ギロリ) 彰利 「ヒィッ!?」 い、今、確実に殺人鬼の顔してましたよ!? コヤツはやはり危険だ!! 彰利 「さ……さっさっのっはっさ〜らさら〜♪」 無理だ。 ダーリンの居る前ではコヤツには勝てん。 それにアタイはおなごには手を上げないのがプライドなのだ。 ……まあ、お仕置きとかならば話は別だろうが。 春菜 「ねぇ聞いてよ悠介くん。さっきね、弦月くんの顔が光ったの」 悠介 「顔が?」 ダーリンがひょいとアタイの顔を見る。 彰利 「惚れるなよ?」 悠介 「光るような顔には見えないけど」 春菜 「でも光ったの!」 すんなりと無視された……。 彰利 「ったくカスが……。人の顔が光るわけねぇべや」 春菜 「ショラァッ!!」 ジョパァアアアアアアアアアン!!!!!!! 彰利 「ギャボルベェエーーーッ!!?」 振り向きざまの顔面蹴りが疾走した!! 彰利 「ぐがっ!ふががっ!……は、はだがおでだ……!!」(訳:鼻が折れた) うおお、血が止まらん……!! 春菜 「黙ってて……。次は本気で蹴るよ……」 彰利 「…………!!」 な、なんと……!! 今ので本気ではなかったと……!? その時アタイは悟った。 先輩殿がちょっと本気になれば、 蹴り一発でアタイの顔をコナゴナに飛び散らせるなど造作も無いことなのだと。 あ、悪魔ぞ……!!彼奴(きゃつ)は悪魔ぞ……!! ここは刺激しないように短冊でも書いてよう……!! 悠介 「いや、でもな……考えてもみてくれよ、人の顔が光るだなんて……」 春菜 「信じてよ悠介くん、ほんとに光ったんだよっ」 そうこうしている間にも、ふたりの会話は続いてゆく。 アタイは刺激しないように、出来るだけ静かに鉛筆を走らせていた。 彰利 (織姫さん、彦星さん、どうかアタイを守って……!) カリカリカリ……。 アタイは純然たる思いを短冊に綴り、やがて一息ついた。 やがて縁側から中庭へ降りると、大きな竹の枝に短冊を括り付けた。 彰利 (どうか願いが届きますように……) いつの間にか、心は穏やかになっていた。 まだ夜にもなっていない空を見上げて、どうかこの快晴が続きますようにと願った。 春菜 「───なに書いたの」 彰利 「ウヒョオ!?」 ば、馬鹿な!気配が感じられなかった! アタイがこうも簡単に背後を取られるとは!! 彰利 「な、ナニモンだてめぇ!」 春菜 「わたしだよ」 彰利 「たわし!?」 春菜 「わたし!!たわしじゃないよ!」 彰利 「あーそうかい。それじゃあ部屋に戻んなさい」 春菜 「気になる。見せて」 先輩殿が短冊に手を伸ばす。 彰利 「だ、だめですぞ!なりませぬ!」 アタイはそれを阻止した。 まったくなんて人ぞ!! 春菜 「……またロクでもないこと書いたんだね?」 彰利 「そんなことは書いてません!」 春菜 「───だったら見せなさいっ!!」 バッ!! 彰利 「あっ!こら!だめだっての!やめろ!」 春菜 「慌てたね?」 彰利 「見られるのは誰だって恥ずかしいでしょうが!」 春菜 「弦月くんがそんな風に感じるとは思えないっ!」 ガササッ…… 彰利 「や、やめてくれって!なぁ頼むよ先輩殿!話なら聞くからさ!なぁ!」 春菜 「やましいこと書いてないならいいでしょ?うふふ〜」 彰利 「はぐらかしたことの仕返しだってゆうなら謝るよ!だからやめてくれったら!」 春菜 「ここまで慌てるなんて……なにが書いてあるのかな」 彰利 「やめろってば!やめてくれって言ってるだ───あ」 春菜 「あっ!」 びりぃっ!! 彰利 「あ……ああ……」 春菜 「あ……えっと……」 俺は先輩殿の手から守り、先輩殿は奪おうとした。 その結果……短冊は無残に千切られてしまった。 彰利 「……ひどいよ先輩……」 さっきまでの穏やかな気持ちが消えてしまった。 彰利 「さっきまでのことは確かに俺が悪かったよ……。     でも……こんなのってあんまりだよ……」 春菜 「あの……うう……」 字も上手に書けて、満足だった短冊が千切られ、先輩殿の手に握られている。 やがて罪悪感からか力が緩んだその手から、くしゃくしゃになった短冊が落ちた。 悠介 「……彰利……先輩……」 春菜 「あ、あの……ごめんね、弦月くん……」 彰利 「そうやって……自分の時だけ許してもらおうとして満足ですか……?」 春菜 「そんなっ……!……そんなこと……言うなんて……ひどいよ……」 彰利 「じゃあさっきのはなんなんですか!     自分のしたことはヒドくないって言うんですか!?」 春菜 「っ……」 俺の言葉を聞いた先輩は俯いた。 だけどそんな姿を見ても、あの穏やかな心が戻ってくるわけがない。 悠介 「彰利、言いすぎだぞ……」 彰利 「なんだよ……あーそうかいそうかい!悠介は先輩を庇うってんだな!?」 悠介 「───おい、そういう問題じゃないだろ?」 彰利 「だったらどういう問題なんだよ!言ってみろよ!」 悠介 「彰利……落ち着けよ、短冊はまた書けばいいじゃないか」 彰利 「うるせぇ!俺は俺なりに一生懸命願いを込めて書いたんだよ!!     それを悪戯半分に引き裂かれて落ち着けって!?無茶言うなよ!」 悠介 「それは別に破こうとしたわけじゃないだろ?」 彰利 「俺がどれだけ『やめてくれ』って言った!?そして先輩は何をした!」 悠介 「───聞き分けろよ、子供じゃあるまいし……。     どっかの性質悪いおっさんかよおまえ……」 彰利 「……!長生きしてて悪かったなぁ───誰のためだと思ってるんだよ!!」 春菜 「やめてっ!!」 ───! 春菜 「やめて……やめてよぉ……!わたしが悪かったから……謝るから……!     ふたりとも喧嘩しないでよぉ……!」 先輩殿は泣いていた。 小さな子供のように、頼りなく肩を震わせながら。 春菜 「だから……だから……仲が良かったふたりに戻ってよぉ……!     わたし……ふたりの喧嘩なんか見たくないよぅ……!!」 悠介 「っ……」 先輩殿の泣き顔を見た悠介は自虐するように『チッ』と呟き、俺は…… 彰利 「………」 ただ、何もせずに立ち尽くしていた。 春菜 「ごめんね……弦月くん……。ごめんなさい……っ……」 彰利 「………」 女に泣かれて謝られる時ほど、居心地の悪いものはないと思う。 だけどその状況を作った材料には自分も含まれている。 それがとても嫌でならなかった。 ───先輩殿はくしゃくしゃになった短冊を拾い上げ、 出来るだけピンと伸ばそうとした。 だけど、一度折れ曲がった紙がピンとなる筈もなく、紙は元通りになんかならなかった。 春菜 「ごめんね……」 先輩殿はもう一度謝ると、俺にそれを差し出した。 ───否、差し出そうとする中で、その短冊に視線を落とした。 春菜 「───」 悠介 「先輩?」 わなわなと肩を震わせる先輩殿の異変に気づいた悠介が、気遣うように声をかける。 そしてふと、その短冊に目を落とす。 悠介 「───」 すると悠介まで肩を震わせた。 ……泣いてくれている。 俺はそれが嬉しく思えた。 それと同時に穏やかな心が戻って─── 春菜&悠介『なんなんだこれはぁあああああっ!!!!!』 彰利 「え?」 ふたりはまるで激昂したかのように俺に怒鳴りかけた。 彰利 「な、なんだよ……ふたりとも泣いてくれてたんじゃなかったのか……?」 春菜 「泣いてたよ!弦月くんに泣かされたんだよ!?」 彰利 「泣きたかったのは俺の方だよ!なんだってんだよ急に!」 春菜 「これ!なんなのこれ!」 先輩殿が俺に何かを見せてきた。 他の何でもない、俺の短冊だ。 彰利 「これがなんだよ……。     先輩が破った所為でぐしゃぐしゃになってるだけじゃないか」 春菜 「わたしが言ってるのは内容のこと!なんなのこの願いごと!」 彰利 「なにって……専属のカワイイメイドさんが欲しいって書いてあるんじゃないか」 春菜 「わたしこんなことのために泣いたの!?どういうことなのこれ!」 彰利 「こ、『こんなこと』だぁーーーっ!?     言っていいことと悪いことの区別もつかねぇのかてめぇーーーっ!」 春菜 「つくよ!つくから言ってるんだよ!なにこのメイドってゆうの!」 彰利 「馬鹿野郎ーーーっ!!アナタ馬鹿!馬鹿ヨ馬鹿ーーッ!!     メイドさんのことも知らねぇのかカスが!このカス!日本の恥!!」 春菜 「どうしてメイドのことで日本の恥って言われなきゃいけないの!!」 彰利 「どっちにしたってアタイの短冊を千切ったことには変わりねぇでしょうが!!     何!?逆ギレ!?そっちがその気ならアタイにだって考えがありますよ!?」 春菜 「なにするってゆうの!何をする気でも許さないから!」 悠介 「今回ばかりは俺も呆れ果てたわ……!殴らせろ」 彰利 「お?いいのかそんなこと言って。出来るかね貴様らに!!     この俺様の考えている『考え』は貴様らの想像を絶しているのだぞ!!」 悠介 「どんな考えが出ようがその上で殴る!決定!」 彰利 「ふはははは……ふはははははははは……!!!とんずらぁああーーーっ!!!」 アタイは一目散に逃げ出した!! 春菜 「───え?」 悠介 「あ、な……えぇっ!?」 そう!これこそがジョースター家にすら伝わる奥義、逃走!! これこそがアタイの言う『考え』よ!! 悠介 「待ちやがれてめぇえええええええっ!!!!!」 春菜 「逃げるなんて男らしくないよ!!」 彰利 「知ったことかタコ!説教ばっかり言いやがって!!     貴様らなんてもう知らないんだから馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿ーーーッ!!!」 ガシィッ!! 彰利 「キャーッ!?」 逃げてた割にあっさりと捕まった。 やがて、目を真紅に染め上げたふたりがアタイに向かって拳をボゴシャアア!!! ───ササノハ物語・完─── 彰利 「どうよ」 凍弥 「………」 閉口するしかなかった。 なんて言えばいいのかも謎だ。 彰利 「ちなみにその後、散々ボコられた後に滝壷に放り投げられまして。     しばらく本気で水の上に浮いてましたぞ」 凍弥 「……えーと……すまん、言葉が見つからない」 正直な感想だった。 彰利 「なんだいなんだい……人が話をしてやりゃあ沈みやがって……。     あー、じゃあアレだ、お前アレ話せ」 凍弥 「アレ?」 彰利 「ホレ、ウィルス破壊薬持ってきてやった時のアレ。     詳しい話は聞いてねぇからのう」 凍弥 「そっか、そうだな」 一旦息を吐いてから、ぽつぽつと話を始めた。 あの時───つまり、鈴訊庵に彰衛門が戻ってきた時のことを。 Next Menu back