───儚く散りますボクラの夏───
───キィンッ!……トン。 凍弥 「………」 椛  「………」 転移を終えた俺達はしばらく見つめあっていた。 顔を真っ赤にしながら、俯きもせずに。 視線がずれるきっかけは、俺が頭を掻いた時。 こういう時にどうしたらいいかも解らなかった俺には、その時間が強敵だった。 そして滲み出てきた恥ずかしさを誤魔化すように辺りを見渡して、 そこが晦の家の前であることに気づいた。 凍弥 「あれ?どうして……」 椛  「勉強道具を持たないと、勉強なんてできませんよ」 凍弥 「あ……そうだな」 そんな簡単なことにすら頭が回らない。 こんな時、動揺とか恥ずかしさってゆうのは、本当に思考に影響するものだなって思う。 椛  「それじゃあ勉強道具を持ってきますね。少しの間、待っていてください」 凍弥 「ああ」 ペコリとお辞儀をして玄関に向かう椛───だったが。 椛  「───」 その歩が、ピタリと止まる。 凍弥 「?」 俺は何事かと思い、歩み寄ってみ───理由が解りました。 俺は恐る恐る椛の横顔を覗いてみるが───ヒィ!死神モード!! 彰利 「う、むむ……む、むおお……なんだ……この尋常ならざる力の波動は……」 夜華 「う……ん……?」 彰衛門と篠瀬が体を起こして俺と椛を見る。 そして─── 彰利 「じ、じいやは夜華さんにたぶらかされたんじゃぁあーーーっ!!!」 彰衛門がいきなり篠瀬に責任を押し付けた。 夜華 「なっ!?ち、違いますよ楓さま!彰衛門!勝手なことをぬかすな!!」 彰利 「違わないし勝手じゃねぇザマス!だから殺るなら夜華さんをどうぞ!」 夜華 「き、貴様!!女を盾にする気か!?」 彰利 「女である前に武士なんでしょう!?散々言ってたじゃない!!」 夜華 「こ、このっ!都合のいい時だけそのようなことを言いおって!!」 ガコォンッ!! 彰利&夜華『キャーッ!?』 椛が出現させた大鎌の石突き(槍などの底の先端部分)が石畳を強打する。 その音を聞いて、彰衛門と夜華が一気に青ざめる。 椛  「……黙れ」 彰利&夜華『黙れ!?』 うひゃあああ……死神の気配が溢れかえってる……! 近くに居るだけで体が震えるぞ……! 彰利 「ば、馬鹿な……!この気配、ウィルヴス以上だと……!?」 夜華 「落ち着いてください楓さま!わたしたちは別に───」 ガコォンッ!! 彰利&夜華『ひゃあっ!?』 椛  「黙れ、と言っているんです……!!」 もう一度、石突きが石畳を叩く。 その拍子に石畳は砕けたが……そう簡単に砕けるものなのか? 椛  「どうしておとうさんが夜華の上に被さるように眠っていたんですか……」 夜華 「な───そんな体勢だったんですか!?」 彰利 「そんな……!信じてたのに……!     夜華さん、アンタって人は……     アタイが先に眠ったのをいいことに、あげなことそげなことを……!?」 夜華 「ば、馬鹿者っ!!勝手なことをぬかすなと言っているだろう!!!」 彰利 「ならば何故そんな体勢で寝ていたのかね!?     私にも解るように平明に説明してもらいたいものだね!!」 夜華 「知るかそんなこと!!     貴様がわたしの肩に寄り掛かって眠ってから、わたしもすぐに寝たのだ!!     貴様こそわたしに不埒なことをしていないだろうな!!」 彰利 「馬鹿野郎!夜華さんごときの寝こみを襲うかボケ!!」 夜華 「なっ……なんだとォーーーッ!?」 椛  「静まりなさいっ!!」 彰利&凍弥&夜華『ひぃいっ!!!』 突然の咆哮と殺気に、思わず俺まで驚いてしまった。 これは危険だ……!! 彰利 「とんずらぁあーーーっ!!」 凍弥 「あっ!卑怯だぞあきえ」 ゴギィンッ!! 彰利 「あでっ!?ア、アレーッ!?アレレーーッ!?」 逃走した彰衛門の行動は、何故か途中で止まった。 椛  「無駄ですおとうさん……。     周りには月鳴力でシールドを張ってあります……。逃げられませんよ……」 彰利 「なんと……マジすか……?」 椛を抜いたその場の全員が驚愕した。 だが─── 彰利 「ならばプレイスジャ〜ンプ!!」 ………………。 彰利 「アレレーーッ!!?」 椛  「月蝕力です。力は使えません」 彰利 「な、ならば冥月刀でこじ開けてくれる───わぁあっ!!?     アレーッ!?アレレーッ!?どうして冥月刀が無いの!?」 椛  「これですか?」 彰利 「ゲゲッ!!いつの間に!!」 椛の手には、彰衛門が持っていた刀が。 本当にいつの間に……? 彰利 「椛サン、良い子だからそれをアタイによこしなさい」 椛  「………」(じぃーーー……) 彰利 「ウィ?」 椛  「………」(じぃーーー……) 彰利 「な、なんぞね?」 椛は何をするでもなく、ただ彰衛門を見上げた。 そして時折篠瀬を見て……おお。 凍弥 「えーと……」 椛の言わんとしていることに気づいた俺は、それを彰衛門に知らせることにした。 ……俺にしてみれば相当に複雑な心境なわけだが。 彰利 「む!なんだ小僧!人が危機的状況にあるというのにダンスを踊るとは!」 凍弥 「アホォッ!!」 人のジェスチャーをダンス呼ばわりした彰衛門は、 なんだか助かる気が無いように思えてきた。 彰利 「アホですと!?貴様自分の頭脳を棚に上げて人をアホ呼ばわりか!?」 凍弥 「俺はアホじゃないっ!!」 彰利 「なにぃ!?天才なのかてめぇ!     見下した態度取りやがって!悔しくねぇぞカスが!」 凍弥 「そんなこと言ってる場合じゃないだろうが!」 椛  「───凍弥先輩。少し黙っていてください」 凍弥 「うぐっ……」 だめだ。 彰衛門が馬鹿な限り、ジェスチャーもダンスだと認識されてしまう。 だが───それでもジェスチャーをすることにした。 夜華 「!」 そして、意外にもその意味に気づいたのは篠瀬だった。 篠瀬は彰衛門に小さく耳打ちをし、彰衛門は─── 彰利 「なにかねそれは!ワタシを騙して自分だけ助かろうって魂胆ではなかろうね!」 夜華 「ばっ、馬鹿かお前は!!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 ……どうしたもんだろうか。 彰衛門は本当に助かる気が無いかのようにふざけている。 い、いや……あれで案外真面目なのかもしれない。 だって彰衛門だし。 彰利 「グ、グムウ……まあええわ……言ってやる。有り難く思え」 夜華 「黙れっ!くだらん御託はいいから言えっ!」 彰利 「ヌウ……えーと、椛や」 椛  「なに……?」 彰利 「椛もじいやと寝ますか?」 椛  「!う、うんっ!!」 ……はぁ。 つまりはそういうことだ。 篠瀬と一緒に寝ていたからじゃなくて、 誰かと一緒に寝ていたこと自体が許せなかったのだ。 つまり……彰衛門と一緒に寝たかった、と……。 彰利 「今……なんと?」 椛  「?……うん」 彰利 「俺と……マジすか?」 椛  「うん」 彰利 「……ほんとにこれでよかったんだ……」 夜華 「だから言っただろうが馬鹿めが……。     それをやれあーだこーだと文句をつけおって……」 彰利 「う、うるせぇやい!」 ひとまずはこれで落着か。 っと、そうだ。 凍弥 「椛、勉強はどうする?」 椛  「明日でいいです」 凍弥 「そ、そっか。でさ、まさか今から寝るのか?」 椛  「そうです♪」 きゅむ。 彰利 「ウヒョオ!?」 椛に抱きつかれた彰衛門は一瞬、斬首を間際にした野武士の顔になった。 ……どうやら殺されるかと思ったらしい。 椛  「?」 彰利 「はっ、はぁ……な、なんでもござらんよ、椛……」 そう言いながらも額には大量の冷や汗。 ……解るなぁ、その気持ち。 凍弥 「じゃあすまない、彰衛門。俺を鈴訊庵に飛ばしてくれないか?     知り合いをほっぽってここに居るわけにもいかないから」 彰利 「む?そうかそうか。お安いご用じゃい。……よいな?椛」 椛  「………」 凍弥 「明日また連絡するから。な?」 椛  「……はい」 彰衛門に抱きつきながら頷く椛。 ……ほんと、彰衛門の前じゃ子供だよな。 彰利 「それではいくぞ小僧!ムゥウンォオオオオオオオ……!!!」 彰衛門は椛から手渡された刀を手に、力をため───って! 凍弥 「ちょ、ちょっと待った!飛ばすだけなのにどうしてそんなに力込めるんだ!?」 彰利 「なにを言っているのかね?貴様、『吹き飛ばしてほしい』と言ったではないか。     だからアタイが責任をもってケシズミに」 凍弥 「言ってねぇっ!!」 彰利 「冗談じゃい。───冥月刀よ、アタイの力の助けとなれ!     異翔転移!小僧を鈴訊庵まで送るの巻!!」 彰衛門が声をあげると、俺の周りに光の粒子が浮き上がった。 それとともに視界がその粒子に覆われていき─── その途中で、俺は椛に『またな』と言って手を振った。 やがてキィンという小さな音を立てて、俺は飛ばされた。 ───そして鈴訊庵の前に立つ。 ところが…… 夜華 「………」 凍弥 「………」 どういうわけか、篠瀬までここに居た。 凍弥 「篠瀬……どうしたんだ?」 夜華 「……知らん。楓さまに飛ばされた」 凍弥 「………」 どうやら篠瀬は椛に飛ばされたらしい。 それはつまり…… 夜華 「楓さまは……わたしを必要としていないのだろうか……」 凍弥 「篠瀬……まあ、上がっていくといい。椛のことは気にするな、そんな時もある」 夜華 「しかしな、鮠鷹……」 凍弥 「親子水入らずで話がしたかったのだろう。     私も想い人としては複雑な心境だが、怒った椛は手がつけられないからな。     ああする以外に方法が無かった」 夜華 「それはそうだが……」 凍弥 「そう腐るな。まずは中に入れ。茶でも立ててやろう」 夜華 「……すまない、そうさせてもらう」 椛に問答無用で飛ばされた篠瀬はとても落ち込んでいた。 確かに彰衛門が絡むと、椛は周りが見えなくなるところがある。 それは俺も感じていることで、少し困ることだってあるくらいだ。 だけどそんな彼女もまた椛であるわけで、俺がどうこう言ったところで変わらない。 『親代わりの男』に嫉妬するのも間違ってるし、嫉妬という感情も好きではない。 それこそ椛が過剰に出している感情だが、その所為で周りが見えていないのだ。 凍弥 「………」 俺は椛が好きだけど……いつまでも親にべったりの彼女のままでいいのだろうか。 そこのところが、俺にはよく解らなかった……。 凍弥 「……ただいま」 そんなことを考えていれば自然に心も沈む。 覇気の無い声で鈴訊庵への入り口をくぐった俺は、小さな溜め息を─── 浩介 「同志!」 凍弥 「うわっ!?」 吐いた途端、浩介がすごい剣幕で声を張り上げた。 凍弥 「浩介か……どうしたんだよいきなり」 浩介 「ある意味で面白いが、ある意味で大変なのだ!どうする同志!やばいぞ同志!」 凍弥 「落ち着けって……何があった?」 浩介 「おっさんが戻ってこんのだ!」 凍弥 「おっさんって……与一?」 浩介 「他に誰が居る」 凍弥 「……真顔で断言されてもな」 だが落ち着こう。 与一が戻ってこないってのはどういう意味だ? 凍弥 「戻ってこないってことはどこかに行ったんだよな?」 浩介 「いや、詳しく言えば、朧月に吹き飛ばされた」 凍弥 「───」 呆れた。 与一にまで危害を加えたのか椛のヤツ……。 凍弥 「吹き飛ばされたのは?」 浩介 「ふむ、一時間ほど前だろうか。     おっさんなら瞬間移動が出来るからすぐに戻ってくると思うのだがな。     勢い余って除霊されていなければいいが」 凍弥 「ったく……!」 本当に呆れる。 確かに逃げ出した俺や彰衛門も悪かったが、関係の無い与一を吹き飛ばすなんて……! 夜華 「……最近、楓さまはやりすぎだと思う。鮠鷹、お前はどう思う?」 凍弥 「同感だ。記憶が浮上してからというもの、力にものを言わせてばっかりだ」 夜華 「……もう……昔の楓さまのような、     慈しみを持ったあの方に戻ってくれぬのだろうか……」 凍弥 「篠瀬……」 いや、椛は変わっていない。 ただ、昔から続く『一途』に『力』が加わってしまっただけなんだ。 だけどもちろん、それをどうこう出来る筈もない。 凍弥 「……篠瀬、椛は変わってなんかいない。『力の使い方』を間違えてるだけさ。     いつかきっと解ってくれる。そう信じなきゃな……」 夜華 「鮠鷹……ああ、そうだな。あの楓さまだ、きっと昔の心を思い出してくださる」 俺と篠瀬は同時に頷いた。 そうだ、信じるしかない。 椛は椛だ、無理に変わってほしいだなんて思わない。 だから…… サクラ「あ、凍弥さん。丁度良かったです、遥一郎さんが……」 ひょいと出てきたサクラが、少し慌てた風に言う。 凍弥 「ああ、ここに居る浩介から聞いた。吹き飛ばされたんだろ?」 サクラ「ええ、それはそうなんですけど。     吹き飛ばされた拍子に天界の穴に入ったそうで、     さっき天界から連絡があって……」 凍弥 「………」 浩介 「………」 夜華 「?」 サクラ「今、おばあさまと楽しく会話しながらお茶してるそうです……」 サクラがげんなりとした顔でそう言った。 そうですか……人に心配させといて、自分は楽しくお茶ですか……。 凍弥 「……よし、与一が帰ってきたら殴るぞ俺は。刺し違えても構わん」 浩介 「同感だ同志。やはり貴様は盟友だ。よし、ブラザーも誘おう」 サクラ「わたしも参加します……。     わたしに散々、自分のことは知らせるなとか言っておきながら……!」 夜華 「……よく解らんが、このやり場のない怒りをぶつけさせてもらおう」 満場一致で、与一殴打計画が確立した。 俺や志摩兄弟やサクラや篠瀬は猛り、ヤツが帰ってくるまでその猛りを蓄積させ、 ───やがてヤツがどこか嬉しそうな顔をして帰ってきた時、それは起こった。 凍弥 「幸せモンに裁きをォオオオオオオッ!!!!」 俺は潜めていた体を跳ね上げ、普通の木刀を振りかざした! ブォンッ!という風を切る音が鳴ったが、それはかわされた。 遥一郎「おわっ!?なっ───いきなりなにすんだ馬鹿!」 凍弥 「チッ!よけたか!───浩介!浩之!」 志摩 『オーライ同志!くたばれ幸せモンがぁあっ!!腐った玉子爆雷!!』 ゴシャア!ベシャア!! 志摩兄弟の投げた玉子が与一の体に弾ける! 遥一郎「ぶわっ!くっさ!!な、なにしやがる!」 凍弥 「サクラァッ!」 サクラ「天誅ゥウウウウウッ!!!」 遥一郎「な、なにぃ!?ぎゃああああっ!!!」 ゴシャア! サクラのストレインが狼狽えていた与一の腹部を襲う! 遥一郎「ぐっは……!ミ、ミニ……お前までなにを……!」 凍弥 「篠瀬ぇっ!」 夜華 「心得た!紅葉刀閃流最終奥義───四聖刀覇-乱れ紅葉-!!」 遥一郎「ちょっ───待───」 ドォッッッッパァアアアアアアアアンッ!!!!! 遥一郎「ごあああああああああっ!!!!」 ───どしゃあっ……。 斬撃をまともに受け、空高くまで飛ばされた与一は…… やがてボロ雑巾のように落下した。 だが…… 遥一郎「お、おのれ貴様ら……!!」 精霊である彼には、およそ『致命傷』と呼べるものがないらしい。 凍弥 「みんな!今こそ力を合わせる時だ!!」 全員 『応ッ!!』 俺達は倒れている与一を囲み、一斉に───リンチした。 遥一郎「ぐわっ!?いてっ!こ、こらやめろ!なにしやが───」 凍弥 「この幸せモンが!」 浩介 「ヘラヘラと笑って帰宅しおって!」 浩之 「謝れ!心配した我らに謝れ!!」 サクラ「おばあさまになにをするつもりですか!     ナンパじみたことをすると許しませんよ!?」 夜華 「なんの問題もない恋仲の居るヤツなど嫌いだ!地に帰れ!幸せものめ!!」 遥一郎「いでっ!やめろっ!死にはしないが痛いものは痛いんだぞ!」 全員 『黙れ幸せものがぁあああっ!!!』 遥一郎「お、おわぁあーーーっ!!!」 その時、俺は思いました。 俺にはこんなにも愉快で信頼できる知り合いが居るのだと……。 こうして与一をボコるボクらの気持ちは、今確かにひとつだった。 輝くような暑い夏の季節……ボクラは今、輝いていた─── 浩介 「死ねーーっ!死んで詫びろカスが!」 サクラ「おばあさまをたぶらかす害虫めぇーーーっ!!」 浩之 「どうして貴様のような霊体がモテるのだぁーーっ!!」 夜華 「おのれぇええ!幸せそうな顔をしおってぇーーーっ!!!」 凍弥 「人の心配を逆手に取る不届きモノがぁあーーーっ!!!」 ごすがす!げしげし!どごっ!ごしゃっ!めしゃっ!! 遥一郎「がはっ!ぐはっ!!こ、この……!!いい加減にしろ貴様らぁあーーーっ!!」 全員 『キャーッ!?』 やがて本気でキレた与一が暴れるに至り─── ヘラクレスも裸足で逃げ出す彼の形相を見たボクラは一目散にとんずらし、 だが彼が使う厄介な手段(瞬間移動)であっさりと捕まり、 与一の繰り出す精霊パンチによって次々と屠られていった。 そうした夏の気配の中…… ボクラの輝ける夏は、その無慈悲な拳の一発一発によって…… 儚く散っていったのでした─── Next Menu back