景色が変わるその時、自分の周りの全てが変わる頃。 俺はひとりで空を見上げてみた。 いつかと同じと感じるのは自分の心境の所為なんだろうか。 だけど俺はその景色に『人間』ってものを見てしまって、 もう純粋に人を信じることが出来なくなりそうだった。 それでもいつか、なんて信じようとしてる自分は相当に馬鹿なんだろう。 ───世界は変わるもの。 だとしたら、この出来事もその過程でしかないのかもしれない。 そう考えてしまう自分が、今は悲しかった─── ───FRIENDS───
浩介 「というわけだ。いいな、同志」 凍弥 「OK、付き合おう」 とある日、俺は志摩兄弟に誘われて立ち上がった。 誘われたってゆうのは、ただ単に遊びに誘われたってことだ。 椛の記憶に楓巫女と楓と飛鳥の記憶が移植されてからというもの、 俺はずっと椛に付き合いっぱなしだった。 早く言えば、それに関係ある言葉で俺は志摩兄弟の誘いを受けることにしたのだ。 『最近の盟友・凍弥は付き合いが悪い』。 その言葉が俺を動かした。 俺は恋人に夢中になりすぎて、友達をないがしろにするような男にはなりたくない。 もちろん椛が嫌になったわけではない。 この間の『与一を吹き飛ばした』ことだってあとでちゃんと謝りに来てたし、 それからは感情をコントロールしようと頑張ってる。 だけど───彼女の殺気ばかりに包まれていた俺は、 少々ストレスが溜まっていたらしい。 本来、今の自分は椛と幸せになるだけだった筈だった。 けれども椛は彰衛門にべったりで、そのくせ俺が椛を置いて誰かと遊ぶことを嫌う。 ……正直、椛は我侭だ。 現代人の血を受け継いでいる俺には、縛られすぎるのはちと辛いのだ。 たまにはこういう息抜きがあっても許されると思う。 ───それでも……隣に椛が居ないと寂しいと感じる自分が、時々情けなかった。 凍弥 「はぁ」 志摩兄弟が勉強道具を持って鈴訊庵を出ていった。 四回目の勉強会が終わったその場所には、さっきまでの賑やかさはもうない。 椛は二回目の勉強会に訪れただけで、それ以降は来ていない。 誘ったところで『おとうさんとおじいさまとおばあさまが教えてくれる』と言い、 勉強会に来ることはなかった。 凍弥 「………溜め息も出るってもんだよな」 多少のすれ違いでも寂しく思ってしまう自分は、相当に重症なんだと思う。 他のみんなが『椛が来ることはないだろう』と確信する中で、 俺はいつだって待っていた。 ……もちろん、一度として来ていない。 つまり……椛は俺よりも彰衛門が大事なんだ。 凍弥 「早合点はいけないことだけど……もう、遅すぎるくらいだよな」 何度も考えたことだ。 俺は多分、椛の気持ちが解らない。 いや、ただ解らないだけじゃなくて、本当に訳が解らない。 本当に好きでいてくれてるのだろうか。 いや……好きでいてくれてるのは確かだ。 『結婚してくれ』って言った時、あんなに喜んでくれたじゃないか。 だから───いや、だったら……どうしてこんなにすれ違うんだ? 凍弥 「………」 解らない。 解らないことは好きじゃない。 もう……考えるのはよそう。 凍弥 「……よし」 一度、椛に電話をかけてみよう。 『一度』なんて言っても、もう今日は電話し掛けたけど…… 凍弥 「……電話番号ばっかり覚えてても虚しいもんだよな」 プッシュ式の電話の前に立ち、既に暗記してしまった電話番号を押してゆく。 しばらくコールの音が続き───やがて電話に出たのは椛だった。 凍弥 「勉強、終わったか?……そっか、じゃあ今からどこかに遊びに行かないか?     ……あ……そっか、彰衛門が。ん、ならしょうがないよな。     ああ……ああ、うん、それじゃ……」 カチャン……と、置いた受話器が鳴った。 結果は予想通りだった。 『勉強は終わっていて』、『だけど彰衛門と一緒になにかをやるから』。 そして断られる。 解っていたことだ。 最近の椛はこんなことばかりだから。 それでも確認を取る俺は馬鹿なんだろう。 自分でも呆れてる。 凍弥 「……よし、行くか」 勉強道具を持って階段を上り、自分の部屋へ入って身支度をする。 なんのことはない、志摩兄弟と遊びに行くための準備だ。 凍弥 「準備完了」 準備を手早く済ませた俺は中身の少ない財布を手に取り─── 凍弥 「うん?」 財布を掴んだ拍子に、一緒にハンケチーフを巻き込んで取ってしまった。 凍弥 「……ま、いいか」 それらをポケットに突っ込みながら部屋を出た。 ───待ち合わせの場所である公園に辿り着いた俺は、 既にその場に居た志摩兄弟に声をかけた。 浩介 「遅かったな同志」 凍弥 「俺も今来たところだから」 俺はラヴドラマでは定番の言葉を放ってみた。 浩之 「同志よ、それはこのパターンで言う言葉ではないぞ」 凍弥 「解ってる。言ってみたかっただけだから」 途端に恥ずかしくなった。 うう、墓穴掘っちまった……。 凍弥 「それで?これからどうするんだ?」 浩介 「うむ、繰り出したはいいが、特に案が無い。     盟友凍弥があまりにも女につきっきりになったのでな、     我らも貴様の根性を少しは浄化させようと思っての次第だ」 凍弥 「それは素直に感謝する。俺もそんな自分は好きじゃない」 浩之 「うむ。貴様ならそう言うと思っていたぞ。     というわけで……ふむ、やはり案が無いが、どうしたものか」 浩介 「ゲームセンター……などは定番すぎて面白味がないな」 浩之 「第一、既に家庭用で出ているゲームしか置いていない」 凍弥 「あそこは品揃え悪いからな。     それじゃあ公園の中でも歩きながら考えるか」 志摩 『了解だ』 声をそろえる志摩兄弟とともに、中々に大きい公園を歩く。 もちろん何かで遊ぶということは無いが───って 浩介 「そりゃーっ!大車輪ーーッ!!」 スポーン!!メゴギャア! 浩介 「オゴギャアーーーッ!!」 何を思ったのか、 浩介が小さな鉄棒を使って大車輪をしようとして当然の如く失敗していた。 ……てゆうか空へと羽ばたき、背中から鉄棒の上に落下した。 あれは痛い……てゆうか大丈夫か? 凍弥 「何がやりたかったんだ?」 浩介 「うごごごご……せ、背中が……背骨が痛い……」 そりゃそうだ。 メゴギャアって、凄い音が鳴ったし。 浩之 「愚かだなブラザー。そのような小さな鉄棒でやるからイカンのだ。     見よ!この公園最大級の鉄棒ぞ!これで回転すればいいのだ!」 浩之が結構な高さの鉄棒を指差し、ニヤリと笑った。 しかし─── 浩之 「焚(フン)っ!せいっ!とあっ!……と、届かんわ!!」 浩之は立ち尽くした。 鉄棒が高すぎて届かないのだ。 浩之 「ブラザー!今こそ力を合わせる時だ!」 浩介 「任せろブラザー!」 浩之がその場から離れ、鉄棒の傍に浩介が立つ。 浩之 「曲芸の修羅よ……我に力を与えよ!ゆくぞブラザー!」 浩介 「よし来いブラザー!!」 浩之 「覇嗚(はお)ォーーーッ!!!!」 ザザザザザ───ダタンッ!! 凍弥 「おおっ!」 助走を付けて走りきった浩之が、浩介の背を踏み台に鉄棒目掛けて飛ゴシャア!! 凍弥 「あ」 ───……浩介の背を踏み台にし、空高く舞い上がった浩之は…… 凄まじい勢いで顔面を鉄棒に強打し、 糸の切れた操り人形の如く、ドチャッ……と落下した。 凍弥 「………」 浩介 「タイミングを誤りおって……クズめ」 ピクピクと痙攣する浩之に、浩介は無慈悲な言葉を贈った。 ……そうだった。 こいつらはこういうヤツだった。 忘れてたな、こんなやりとり……。 それだけ俺が、こいつらとの付き合いをないがしろにしてたってことだ。 そんな自分から目を逸らしちゃいけない。 俺は隆正や鮠鷹の記憶が浮上する前は、 友達との付き合いを大事にしていた筈だ。 それが───今ではどうだろう。 これは俺が望んだ未来だろうか───いや。 望んだ未来が手に入るのなら、人間誰だって苦労しない。 浩介 「同志?どうした」 凍弥 「───うんにゃ、なんでもないよ」 俺は頭を数回叩いて『アホか』と呟いた。 凍弥 「よし、行動が決まるまでは適当に遊ぶか」 浩介 「……うむ、それもいいな。それでは同志、まずはブラザーを介抱するとしよう。     鼻血がドバドバと出て止まらない」 凍弥 「見てて恐ろしいな」 浩介 「まったくだ」 止血剤もないから、俺達で止めることは出来ないな。 浩之の超回復を信じようか。 ……そんなものがあったらだが。 凍弥 「───あ、そっか」 ───……。 ───持ってきたハンケチーフを浩之の鼻に突っ込み、事無きを得た。 浩之は夢の世界に旅立っているらしく、 時折『オ〜ゥリベッスィ〜』とか、訳の解らんことを唸っている。 う〜む……。 浩介 「ブラザーは我と違ってよく寝言を言うのだ。これもその一環だろう」 凍弥 「……そうなのか?よく解らんが」 浩介 「なにせ我のブラザーだからな。解らなくて当然だ」 凍弥 「それってお前も寝言を言うってことじゃないか?」 浩介 「そうとも限らん」 フフフと笑ってみせる浩介は、なんだか楽しそうだった。 凍弥 「───楽しそうだな」 浩介 「む?うむ……不思議だがな。     貴様と一緒に居ると、こう……馬鹿なことでも無駄なことでも楽しく思える。     なんて言えばいいのだろうな……ああ、フフ……解らん。……解らんな」 浩介は可笑しそうに笑うと、浩之の額にデコピンをした。 そしてその草叢(くさむら)に寝転がると、欠伸をする。 凍弥 「寝るのか?」 浩介 「うむ。なんだかいい夢が見れそうな気がするのでな。貴様もどうだ?」 凍弥 「───なあ、寝るなら誰にも邪魔されない、いい場所があるが───」 浩介 「なに?」 浩之を背負って、顎で行き先を促す。 向かう場所は決まっていた。      ───……俺のとっておきの場所へ─── カラーーー……ン…… カラーーー……ン…… 教会の鐘が鳴る頃、俺と志摩兄弟はその場所に居た。 途切れた丘から見下ろせる風景は、なんだか知らない景色のようで─── 自分が本当にあそこに住んでいるのかを疑ってしまうくらいだった。 浩介 「ほう……中々の景色だ」 凍弥 「だろ?悩むこととか疲れることがあると、よくここに来るんだ」 浩介 「なるほどな。日当たりもいいし眠くなる。     だが同志よ、貴様の考えは少し間違いがあるぞ」 浩介は日当たりのいい草叢を選んで、 その場に浩之を寝かせるように促し、自分もそこに寝転がった。 凍弥 「っと……で?間違いってなんだ?」 俺もその場に寝転がって、浩之を挟むようにしてその隣に居る浩介に話し掛ける。 浩介はどこか楽しげに小さく笑って俺を見た。 そして、『こういうことだ』と言って、空へと視線を向ける。 丁度太陽は雲に遮られ、その空を見上げることが出来た。 凍弥 「……さっぱり解らんぞ」 浩介 「そんな日もある」 浩介は彼らしくもない言葉を言って、クックッと笑った。 俺はなんだか呆気に取られてしまい、小さく笑い続ける浩介を横目に見たままになった。 しばらくその状態が続く中、浩介がゆっくりと笑みを止めた。 そして俺は、さっきの言葉の意味を訊こうと口を開きかけた。 その拍子、流れた雲の隙間から太陽が顔を出し、その言葉を飲み込ませる。 凍弥 「………」 そして俺は苦笑する。 訊こうと思ったことがどうでもよく思えたからだ。 根掘り葉掘りは趣味の範疇じゃない。 それなら解らないことがあったって別にいいだろう。 凍弥 「───……ふう」 改めて体勢を変えて寝転がる。 そしてふと、今日はどんなことをしようか考えていたことを思い出す。 だが─── 凍弥 「ああ、なんだ……」 なるほど、こういうことだ。 今こうやってここで寝転がっているだけでもいいと思えるなら、 どこで遊ぶかなんてことは二の次なんだ。 浩介はそれが言いたかったんだろう。 凍弥 「回りくどいな、お前は」 浩介 「そうかもしれん」 『やっと気づいたか馬鹿めが』と言うと、 浩介は眩しそうに手で影を作りながら空を見た。 浩介 「いい天気だな」 凍弥 「うん?……ああ、そーだな、いい天気だ」 浩介 「眠るにはちと、日差しが強いが……なんとかなるだろう」 凍弥 「そうだな」 苦笑しながら受け応えをして、俺も浩介に習って空を見た。 目を潰してしまいそうなくらいに輝く太陽が目に焼き付く。 もちろんそれは目を閉じても残っていて、目を瞑ってるって感じがしない。 浩介は俺に『眠れそうか?』と訊ね、俺はそれに『微妙だ』と答える。 そして俺と浩介の視線は、人のハンケチーフ真紅に染め上げた盟友に集中した。 浩介 「幸せそうなツラしおって……ブラザーめ」 凍弥 「まあ太陽にさらしときゃあ血も固まりやすいだろ。放置だ放置」 浩介 「甘いな同志。ここは悪戯しかあるまい。見よ、このマジックを」 懐から取り出したマジックのキャップを外し、浩介は至福とも言える笑みを見せ付けた。 凍弥 「兄弟で容赦ないよな、お前らって」 浩介 「そうかもな。我が気絶したところで、     ブラザーもきっとこうしていたに違いない。そして同志、貴様もな」 凍弥 「違いない」 そう言って笑ってみせると、浩介は悪戯書きを始めた。 何を書くんだ、と訊ねてみると、浩介は『メイクを施してやる』とだけ言った。 浩介 「最近な、ロウソンの店員に恐ろしいメイクをした女が現れ始めたのだ。     こう……なんと言えばいいのやら、デビルっぽさ溢るるメイク、か?」 凍弥 「ロウソンか……俺はヘヴントゥエルブばっかりだから見てないな」 浩介 「ヘヴントゥエルブにはアレが無いのにか?」 凍弥 「む……」 低温殺菌牛乳のことを言っているのだろう。 確かにヘヴントゥエルブには低温殺菌牛乳はないが…… 凍弥 「そういえば、最近低温殺菌牛乳飲んでなかったな」 浩介 「そうなのか同志。貴様ともあろうものが」 凍弥 「その言葉の意味はよく解らんが……うん、飲んでなかった」 俺が疑問に思うように自分の行動を思い出す中、浩介は構わず落書きを続ける。 目の回りにマジックを走らせ、隈(くま)のようなものを表現する。 浩介 「うーむ……上手くいかぬものだな。これは強敵だ」 凍弥 「落書き相手に敵意を表現してどうすんじゃい」 浩介 「フフフ、ブラザーは言わばラヴライバルだ。手加減の一切は必要ない」 凍弥 「ぷっ……ははっ……!そ、そっか……」 落書きされる浩之の顔を見て笑いながら、俺は目を閉じて寝る体勢を取った。 そんな俺に浩介は『書かないのか?』と訊ねるが、俺は適当なことを言って受け流した。 浩介 「……うむ。なにやら思ったより上手く書けんしな。     我もこれくらいでやめておくか」 そんな言葉を聞いたのは、目を閉じてからしばらく後のことだった。 薄目に浩之の横顔を見れば、十分なくらいに無慈悲に書かれまくっていた。 おそらくヤケになって書き殴った文字や絵の残骸のようなものなのだろう。 やがて浩介は『油性』と書かれたマジックにキャップをし、寝転がる。 凍弥 「……油性だったのか」 浩介 「当然だ」 本当に『なにを言っているのだ?』と思わせる口調。 ……兄弟でありながら、あまりに無慈悲な志摩浩介であった。 やがて昼が過ぎる頃、俺と浩介は目を覚ました。 いつの間にか寝てしまったらしく、見上げた空には眩い太陽は無かった。 代わりにあるのは、位置を移動した、雲に隠れる太陽だった。 浩介 「むう……同志よ、今は何時だ?」 凍弥 「俺は時計なんて持たないぞ」 浩介 「奇遇だな、我もだ」 威張ることじゃないが、浩介は誇らしげにそう言った。 さて……そんなことを思ったところで、ちょっと考えてみようか。 凍弥 「どうして浩之が居ないんだ?」 浩介 「奇遇だな、我もそれを考えていた」 奇遇でもなんでもない気がするが。 とにかく目覚めたら浩之の姿が無かった。 凍弥 「浩介よ、双子パワーでなんとかならんか?」 浩介 「そんな都合のいい能力があってたまるか。     だが、もし我にブラザーの行く末を喩えてみよと謳うのであれば───     我は迷うことなくその先を示すが」 凍弥 「その先って……」 浩介が指差す先。 それは───崖でした。 凍弥 「……落下?」 浩介 「なんともブラザーらしいではないか」 凍弥 「根拠が解らんが、真顔で言う言葉じゃないな」 それでも確かめてみる。 すると───崖から出ている木の枝に引っ掛かってる浩之が。 凍弥 「馬鹿!お前馬鹿!     どんな愉快な寝返り打ったら川の字の真ン中に寝てるヤツが崖に落ちるんだ!」 浩介 「おおお!やるなブラザー!」 凍弥 「感心する要素が素粒子ほどにも見当たらんわ!!どうするんだよ!」 呑気に笑う浩介に詰め寄る。 浩介はその俺の反応に何かを感じたのか、真剣な顔付きを見せた。 浩介 「むう……これだけは最後の手段に取っておきたかったのだが……仕方あるまい!     同志よ!我に考えがある!力を貸してくれるな!?」 凍弥 「当たり前だ!」 浩介 「よし見捨てよう」 凍弥 「力貸す意味が無ェわぁああっ!!!馬鹿かてめぇっ!!」 前言を撤回する。 真剣ってのはウソだ。 浩介 「ぬうう、ならば古来より伝わる伝説の言葉を───同志!貴様にくれてやる!     馬鹿と言った者が馬鹿だ!」 凍弥 「そうだとしてもお前よりは遥かにマシだ馬鹿者!」 浩介 「フフフ、そうかもしれん」 あっさり認める方向ですか? だがどちらにしても浩之をなんとかしないとな─── 凍弥 「てゆうかさ、前々から訊きたかったんだけど」 浩介 「なんだ?なんでも訊いてみるといい。     遠慮するな、我と貴様の仲だろう。なんでも答えるぞ」 凍弥 「ああ助かる。……でさ、どうしてお前らに付き合って遊んでたりすると、     絶対って言っていいほどトラブルに巻きこまれるんだ?」 浩介 「知らん」 凍弥 「即答かい!」 浩介 「知らんものを知らんと謳うのは当然のことではないか。     それより同志、ブラザーを支える枝が究極に撓(しな)ってきているぞ?     どうする同志。このままではブラザーはヘルダイヴ・ヒャッホウだぞ」 ヒャッホウってなんでしょう。 凍弥 「でも、そうだな……早くなんとかしないと」 浩介 「うむ、同感だ同志。そこで同志よ、我に名案があるのだが」 凍弥 「見捨てるのは無しだぞ?」 浩介 「……万策尽きたか……」 凍弥 「悲しそうに言うなよ……こっちの方が泣きたいくらいだぞ……?」 意地でも浩之を見捨てようとする根拠がそもそも謎だ。 ……まあ志摩兄弟のことだ、おそらくは─── 浩介 「ヤツが死ねばメルティアは我のものぞ……!」 凍弥 「……やっぱり」 浩介 「む?なんの話だ同志よ」 凍弥 「知らん。俺ゃあなーんも知らん」 浩介 「むう……もちろん冗談だぞ?」 凍弥 「それも解ってるよ。お前がメルを『もの』扱いした時点で」 浩介 「フフ……さすがは同志。貴様にはウソはつけんな。     だが同志よ、『ヤツが死ねば』の部分では見抜けなかったのか?」 凍弥 「お前らならやりそうだ」 浩介 「うむ、さすがだ同志」 あっさりと認めた浩介は、縄になりそうなものが無いかを探し始めた。 その行為はホンモノだ。 浩介 「だが勘違いしてくれるなよ、盟友・凍弥よ。     我はブラザーが居なくては困るのだ」 凍弥 「ん?どうして」 えらく真剣な声を出した浩介に先を促してみる。 そして、浩介は縄になりそうなものを探しながらも言葉を放つ。 浩介 「我とブラザーは同じ重みを背負う唯一無二の兄弟だ。     口ではどうとでも言えるが、本気で見捨てるようなことはしないつもりだ」 凍弥 「───……そっか、そうだな」 浩介 「……フフッ……」 何かが混ざり合ったような表情をする浩介は、俺の視線に気づいて鼻で笑った。 浩介 「なあ同志よ。我らはどれだけ離れようとも、     どれだけ傷つけ合おうとも───盟友だな?」 凍弥 「ん?なんだよいきなり」 浩介 「盟友からのくだらん戯言だ、思った通りに答えてくれ」 凍弥 「………」 突然の質問だった。 浩介はふざけたような声で言っているが、その目には強い意思が含まれていた。 ……そして俺は答える。 答えることなんて決まってるから。 凍弥 「どんなことがあったって盟友だ。お前にしちゃあヒドい愚問だ」 浩介 「……そうだな。そうかもしれん」 浩介は笑ってみせ、縄探しを続けた。 凍弥 「………」 浩介の真意は解らなかったけど、なんだか……嫌な予感を払拭できなかった。 なんだろうな、このキモチワルイ感じは……。 浩之 「う、うぐぐ……」 凍弥 「浩之っ!?」 枝に引っ掛かってる浩之が目を覚ましたようだ。 俺は慌てさせないように、ゆっくりと現状把握をさせるように声を─── 浩之 「ギャアーーッ!!な、なんだこれは!何故我はこのようなところに」 ズルッ…… 浩之 「キャーッ!?」 志摩浩之、あっさりと暴れて落下。 凍弥 「───馬鹿!」 ───それは咄嗟の行動だった。 俺は落ちてゆく浩之目掛けて地を蹴り、崖の側面を走るように落下した。 浩之 「同───」 凍弥 「喋るなっ!」 学校でやった『壁伝い』の応用だ。 あとは崖の下にある木を利用してなんとか─── 凍弥 「───よし!浩之!手ェ伸ばせ!」 浩之 「応ッ!!」 浩之が伸ばした手を掴み、崖を蹴る。 その先には一本の大木。 上手く落下速度を殺しながら跳ね、やがて───ドカァッ!! 凍弥 「っっは……!!」 浩之 「げふっ……!!」 俺と浩之は地面に倒れた。 落下速度を殺しきれなかったんだ。 だが、あの状態から生きてること以上を望むのは強欲ってもんだろう。 凍弥 「いっつ……!あ───だ、大丈夫か……浩之……」 浩之 「うむ。よきにはからえ」 浩之は大分平気のようで、踏ん反り返ってそう言った。 そーだよなぁ、志摩兄弟だもんなぁ……。 声  「……ーぃ!へ……ぁー……!?」 遥か上部の方から浩介の声が聞こえる。 多分、『おーい!平気かー!?』とでも言ったんだろう。 浩之 「しかし同志よ、これは一体どういうことなのだ?気づいたら崖だった」 凍弥 「あー……それはな」 俺は一息ついてから、まあ歩きながらでも話そうかと思い、歩を促した。 そして───まあその、語ることにした。 志摩浩之という人物の馬鹿さ加減について。 浩之 「騙されると思うてか、馬鹿め」 説明したのち、浩之は真っ先にそう言った。 途切れた丘への道をもう一度歩く中、浩之は相当に偉そうだったのだ。 凍弥 「人に馬鹿って言う前に、お前が馬鹿なんだよ浩之。     そこのところだけでも理解してくれ。じゃなきゃ俺が背中を打った意味が無い」 浩之 「やるな同志、救った途端に脅迫とは」 凍弥 「脅迫じゃないわい」 やっぱり志摩兄弟は志摩兄弟だ。 こんなところは前と全然変わらん。 屁理屈ばっかりこねる彰衛門がふたり居る気分だ。 凍弥 「………」 浩之 「む?どうした同志」 凍弥 「いいや、なんでもない」 いかにも少し気になったという表情で訊ねてくる浩之に笑って見せ、俺は頬を掻いた。 確認するまでもなく、俺は感情が表情に出やすいのだろう。 少しはポーカーフェイスになった方がよさそうだ……。 浩之 「───む。おうブラザー、今帰ったぞ」 森を抜けた先に立っている浩介を見つけた浩之はそう言う。 言うだけで、どっかの恋人でもあるまいし、手を振ったりはしない。 浩介 「おおブラザー、災難だったな」 浩之 「おおブラザー、災難だったとも。     しかし貴重な体験だ。貴様には到底体験出来んような……な」 浩介 「野郎ブラザー……」 何度思ってみても飽き足らないが……互いに足引っ張り合って面白いんかな、こいつら。 浩之 「まあそれはそれとして、同志から話は聞いた。     なんでも我の存在に危機を感じた貴様が、我を突き落としたそうではないか」 浩介 「なに!?同志貴様!」 凍弥 「ンなこといつ言った!」 浩之 「我の心の中の同志がいつだってそう叫んでいる。年中無休だ」 浩介 「とっとと捨ててしまえ、そのような脳内同志は」 まったくだ。 志摩 『さて、眠気がとんだお蔭でやることが無くなったぞ同志。どうする?』 凍弥 「いきなりステレオになるなよ。俺だってそれ訊こうとしたんだから」 志摩 『我は知らん』 だろうな。 凍弥 「お前らさ、少しは『自分で考えること』を身につけた方がいいんじゃないか?」 浩介 「失礼な。我は己の意思で動き、常にブラザーを陥れることをだな」 浩之 「ブラザー貴様!我を裏切る気か!?」 凍弥 「……そういう浩之も、浩介を陥れることばっか考えてるんだろ?」 浩之 「当然だろう。何を言っているのだ?」 凍弥 「………」 やっぱこういうヤツラだよな。 浩介 「まあよいわ。ここらでくだらん談話でもするとしよう」 凍弥 「ん……そうだな」 浩之 「賛同しよう」 浩介の言葉に俺と浩之は頷き、もう一度川の字になって寝転がった。 空を見上げたところで目を潰すような光は真上に無く、普通に見上げていられる。 浩介 「同志よ、朧月とはその後、どうだ?」 凍弥 「『くだらない談話』って言っておいて、最初の話題がそれか?」 浩介 「そうだが」 浩之 「なにか問題でもあるか?」 凍弥 「……納得し辛いけど、どうせ何言ったってお前らが納得しないから先に進もう」 志摩 『そうだ、それでいい』 ……疲れる。 この妙な屁理屈魔人っぽさはなんとかならんだろうか。 凍弥 「………」 ───よし、結論。 考えるだけ無駄! 凍弥 「椛とは……普通かな。仲が悪いわけでもない。     ただ、向こうからの連絡はずっとないな。俺が連絡取ってばっかりだ。     で、連絡とっても大した話もせずに終了。     勉強会には来ないし会うこともないし……」 浩介 「同志よ、それを『仲が悪い』というのではないのか?」 凍弥 「……それを言うなよ。考えないようにしてるんだから」 浩之 「気持ちは解らんでもないがな。     もみ……いや、朧月は『弦月彰利』という男にべったりだからな。     貴様は捨てられたのだろう」 浩介 「言い過ぎだぞブラザー」 浩之 「そうだろうか」 凍弥 「すげぇ言い過ぎだ」 浩之 「果たしてそうかな?」 凍弥 「本人がそうって言ってるって」 浩之 「そうか。そうかもしれん」 フフフと笑ってみせる浩之は、なんだか楽しそうだった。 まあ志摩兄弟なら他人の不幸を笑うことは出来るだろう。 てゆうかこいつらが相手なら俺も笑う。 浩介 「同志よ。我の個人的な見解を述べさせてもらうぞ?     朧月は貴様に飽きたのではなく、     結婚する前にやりたいことをやっておきたいだけなのだろう。     貴様だってそういうことを考えたことはあるだろう?」 凍弥 「───浩介、お前すごいな。俺、そんなこと全然考えなかった」 浩介 「なにぃ!?普通考えるだろう!     結婚だぞ結婚!個人の自由時間が削られることは当然と言える結婚だぞ!?」 凍弥 「いや……全然考えなかった。     ただ椛が幸せになってくれたらそれでいいかな、って」 志摩 『………』 志摩兄弟はまるで珍獣を見るような顔で俺を見た。 でも……実際そんなこと考えなかったからどうとも言えない。 浩介 「同志よ。一度は訊いてみたいと思っていたんだが……」 凍弥 「うん?なんだよ」 浩介 「貴様は……もしや『自分の幸せ』を考えたことが無いのではないか?」 凍弥 「………」 浩之 「うむ。それは我も考えていた。     貴様は人の幸せを優先するあまりにお節介を焼き、     自分のことなど後回し───いや、考えたことなどないのではと」 凍弥 「………」 どうだろう。 そんなことも考えたことが───考えたことがない? だったら志摩兄弟が言ってることは正しいってことか。 凍弥 「そうだな、考えたことがないのかもしれない」 浩之 「……馬鹿め」 凍弥 「随分と率直な意見だな……」 浩介 「相手を思いやるあまりに自分のことを考えぬなど……貴様人間か?」 凍弥 「あ、あのなぁ……人じゃなかったらなんだっていうんだよ」 浩之 「知らん。だが貴様が自分の生命───保身とプライドなどの問題以外は、     まったくと言っていいほどに後回しにしていることはよく解った」 浩介 「だな。まったく馬鹿なやつだ」 凍弥 「ふたりして無礼すぎないか?いくら俺でも傷つくぞ」 浩介 「そう、それが大事だ。貴様は傷つくことを恐れるべきだ。     もっと保身しろ。自分のために生きてみろ。相手のことはその次でいい。     そうでなければ……貴様はいつか誰かに利用されて人生を終えるだけだぞ」 凍弥 「マテ、それは極端すぎだ。     想像の中とはいえ勝手に人の人生に幕を下ろしてんじゃねぇ」 浩之 「いいや、我も同じ意見だ。貴様は自分を人のために使いすぎている。     確かに結構なことだろうが、我から見れば馬鹿もいいところだ」 凍弥 「……そうか?」 ふたりはあまりにも真剣に言う。 それは心配からなのか、それともからかっているだけなのか。 だがどちらにしたって、この話の終局は気になるところだ。 浩介 「……いいか、我らだけならばまだいい。     風間やおっさんやサクラ殿も気が許せるだろう。     我とブラザーは貴様の盟友だからな、どんなことがあっても裏切りはせん。     だが───……」 凍弥 「だが?」 浩介 「……ブラザー」 浩介は言い辛そうにして浩之に次を促す。 浩之は浩之で言い辛そうにしたが、覚悟を決めたかのように口を開いた。 浩之 「……貴様は『人』を信じすぎだ。我ら以外はあまり信用するべきじゃない」 浩之の口から出たのはそんな言葉だった。 最初、言ってる意味が解らないほどの意外な言葉だった。 凍弥 「え……ど、どういう意味だ?」 浩介 「そのままの意味だ。人は貴様が思っているほど暖かい存在ではない」 凍弥 「いや、そうじゃないよ。どうしてそんな話になるんだってことを……」 浩介 「いや、『そうじゃない』という言葉が間違っている。これでいい」 凍弥 「……訳が解らない。話してくれるか?」 浩之 「無論だ。貴様が嫌がっても納得するまではやめぬよ」 凍弥 「……ああ。望むところだ」 浩之の言葉にしっかりと頷くと、 俺は浩之の目から目を逸らさずに話を聞く姿勢を取った。 人は暖かい存在じゃない。 その真意を確かめるために。 ───……。 浩介 「同志よ。まず貴様は人に対して『軽すぎる』のだ」 凍弥 「軽い?」 出始めの言葉はそんなものだった。 まるで訳の解らない言葉だ。 浩之 「確かに人に好かれるが、決して重い存在にはならない。そういう意味だ。     つまり───軽く扱われる。利用されるということだ」 凍弥 「利用……」 浩介 「そう、利用だ。そしてそれは、軽く『裏切られる』ということに繋がっている」 凍弥 「意味が離れ過ぎてないか?」 浩介 「いいや十分だ。利用と裏切り、信頼と利用、軽い存在と利用は近すぎる」 凍弥 「………」 浩之 「解るか?困った人にお節介を焼きすぎるのは、     相手に『この人ならやってくれる』という先入観を持たせてしまうものなのだ。     そのくせ、それを断ると『役に立たない』などと言われる。     そいつに対して『勝手なヤツだ』と思う反面、     そいつが甘えてくるような状況を作ったお節介焼きも悪い。解るな?」 凍弥 「ああ」 浩介 「断ることとお節介の天秤をよく分けているのなら問題はないのだ。     『この人は厳しいけどやってくれるかも』程度でいい。     だが同志。貴様は周りを甘やかしすぎている。     頼りにされてはいるが、それは『信頼』とは別のものだ。つまり───」 凍弥 「『利用』、か」 浩之 「そういうことだ」 なるほど、それは解る。 だがそれだけで人を信用するなと言うのは、いきすぎな気がする。 浩介 「同志のことだ、これでは『いきすぎ』だとでも思っているのだろう?」 凍弥 「……さすが」 浩之 「もちろん貴様の気持ちも解る。     だがな、人ってのはトラブルに巻き込まれたら必ず、     その『軽いヤツ』を犠牲にするものなのだ。     犠牲───いや、違うな。生贄として差し出すのだ、トラブルのな」 凍弥 「生贄か……」 浩介 「そしてのうのうと生き延びる。     利用されたヤツがそいつを頼ったところで払いのけるだけだ。     理不尽だが、人というのはそういう生き物だ。     先に死の見える状況で他人を救うヤツなど限られている」 凍弥 「それは解ってるつもりだ。だけどだからって放っておけないだろ。     自分の手で誰かが救えるってゆうなら迷わずそうするべきだ」 浩介 「勘違いするな同志。我は人を救うことが悪だと言っているのではない。     『自分の身近に居るヤツ以外、信用しすぎるな』と言っているのだ。     信頼の過信は身を滅ぼす。そう言っている」 ……解らない。 俺には浩介や浩之がなんでこんなことを言うのかがまるっきり解らない。 凍弥 「なあ浩介、浩之。なんだってそんなふうに思うんだ?」 浩介 「貴様のためだ」 凍弥 「俺の?」 余計に解らん。 なにを言いたいんだ? 浩之 「貴様が無償で、しかも後腐れなしでお節介して人を救うのはいい。     だが───それを逆手に取るように裏切られた時の気持ちは相当だ。     そんな状況は見たくないんでな。抗体を作っておいた方がいい」 凍弥 「裏切りか……誰かが裏切りそうなのか?」 浩之 「なに、別に今すぐの話をしているのではない。     いつかそんなことが起こるんじゃないかってゆう話だ」 凍弥 「んー……それにしては話が大袈裟になった気がするんだが」 浩介 「備えあれば憂い無し。それでいいではないか。     心配事なんてものは芽の時から詰んでおくものだ。     だが忘れるな?どんなことがあろうとも、貴様は我らの盟友だ。     たとえ世界が貴様の敵に回っても、我らは貴様の友だ。それだけは覚えておけ」 凍弥 「……聞きたかった『確信』が無かったような気もするけど……サンキュ。     一応ありがとうって言っておくよ」 浩之 「苦しゅうない」 凍弥 「いきなり偉そうだぞお前」 浩之 「そんな日もある」 そんな日がありすぎて困るくらいだが。 浩介 「さ、この話はここらで切り上げるとしようか。散歩でもしながら帰ろう」 浩之 「ふむ、賛成だ。同志、貴様はどうする?」 凍弥 「俺も行く。挨拶したかったけど、今日は居ないみたいだ」 浩介 「……?なんのことだ?」 凍弥 「ユーレイさんさ」 浩之 「……なるほどな」 霊と話をしたかったという理由を理解した浩之は、微妙な表情で頷いた。 浩介 「それではいくか」 浩之 「ああ」 凍弥 「そだな」 立ち上がった俺達は、今度こそくだらない談話をしながらその場をあとにした。 そして提案通りに散歩しながら帰り─── ───普段通らない道に差し掛かった時だった。 男A 「なあおい、悪いことは言わねぇからよ、そのカワイコちゃんと遊ばせてくれよ」 風間 「誰が……!」 男B 「おやおや反抗的な態度。いっぱしのナイトさまのつもりか?」 男C 「こちとら女に飢えてんだよぉ〜……な?一日でいいからよ」 風間 「断る!」 静香 「雄輝くん……」 男3人に絡まれてる風間と皆槻を発見した。 凍弥 「こりゃあ……」 浩介 「デート中に捕まったのか?」 浩之 「どうする同志」 凍弥 「どうするって───」 俺は風間と皆槻を見た。 震える皆槻を、風間が庇っているような状態だ。 男B 「おじょおちゃ〜ん、こんなヤツより俺達とイイことしようぜ〜?」 静香 「あっ!いやっ!」 風間 「!静香っ!」 男の手が皆槻の腕を掴み、強引に引っ張った。 そのため、皆槻は男の方に引き寄せられる。 ───最悪だ、人質を取られたようなものだ。 風間 「てめぇ!静香を離せよ!」 男B 「いやだね。お前の幸せ、俺らにも分けてくれよ」 風間 「ふざけるな!」 男C 「ふざけちゃいねぇよ、俺達ゃ真面目だぜ?」 男A 「幸せ分けてもらってもいいよなぁ?有り余ってるだろ?」 静香 「!い、いやぁっ!」 男達の手が皆槻に伸びる。 その時─── 風間 「てめぇぇええっ!!」 ゴコォッ!! 男C 「がはぁっ!」 風間の拳が、男の頬を捉えた。 浩介 「───馬鹿な!なんてことを!」 浩之 「同志、部員が喧嘩沙汰を起こした場合、その部活は───」 凍弥 「ああっ!いくぞ!」 志摩 『応ッ!!』 すぐさまに駆け出し、男どもに殴りかかる。 男A 「があっ!なっ……なんだよてめぇら!!」 浩之 「油断大敵だな!」 コキィンッ! 男A 「ふごぅ!?……!!」 どしゃっ。 男A、完全に沈黙。 風間 「センパイ!?志摩センパイ達も……」 凍弥 「話はあとだ!さっさと片付けるぞ!」 風間 「ハ、ハイッ!」 男C 「くっ……!おいてめぇよく聞」 浩介 「聞かん!!」 ゴドォッ!!! 男C 「ぎゃあっ!!」 風間に意識を集中してた男が、浩介の容赦ない拳によって倒れる。 男B 「あ、く……動くなよ……!近づいたらこの女の指、折るぜ……?」 凍弥 「───」 志摩 『───!』 俺は志摩兄弟に合図を送った。 隆正だった頃、火道兄弟とよくやったものだ。 記憶の片隅にでも残っていてくれたら、成功する筈だ。 ───コォンッ。 男B 「あ?」 空に放っておいた小石が、男の頭に落下する。 その瞬間注意が逸れたことを、俺は見逃さなかった。 持っておいた石を皆槻の手を持つ男の手目掛けて投擲する! ゴツゥッ! 男B 「いああっ!?」 男が痛みに慌てた隙に志摩兄弟が双方から走り、 俺は石を投擲した俺を見た皆槻に顔を俯かせるように合図する。 そしてそれが実行された瞬間───志摩兄弟の拳が、男の頬を捉えていた。 男B 「………」 どさっ。 男が鼻血を吹き出して倒れた。 皆槻は風間に抱き留められ、その腕の中で泣いている。 浩介 「まったく手間をかけさせおって。だから路上でのラヴは控えろと言ったのだ」 風間 「あの、言われてませんけど……」 浩之 「だとしても、これからは気をつけるのだな」 風間 「はあ……」 気の抜けたような返事をしつつ、風間は皆槻が無事だったことを何よりも喜んでいた。 浩之 「しかし風間よ。相手を殴ったのはマズかったのではないか?     貴様はサッカー部員だろう。それも、メンバーに選ばれるほどの」 風間 「それは……そうですけど。でも俺、静香を守りたいと思ったら自然に……」 浩介 「……その心意気は買うがな、誰も見ていなかったことを願うしかあるまい」 凍弥 「そうだな。あ、念のため家まで送ってくか?     俺達が始末すればお前が喧嘩したことにはならんし」 浩之 「うむ、我もそれを考えていた。決断は貴様に任せるぞ、風間」 静香 「……雄輝くん」 風間 「───うん。それじゃあ……お願いします」 浩介 「任せろ。我ら志摩兄弟と同志が居れば恐れるものなど何気なく無いかもしれん」 風間 「……微妙に頼りないッスね」 浩介 「人生、何が起こるか解らんからな。断言など少ないほうが身のためだ」 浩之 「同感だ」 気持ちは解らんでもない。 的は射てると思うし。 凍弥 「じゃ、行くか」 志摩 『うむ』 風間&静香『はい』 俺達は連れ立って道を歩いた。 咲かせる話はやっぱりくだらない談話だっただろうけど、 俺はそんな『くだらなさ』のある日常が嫌いじゃなかった。 ───やがてみんなと別れる時、俺はガラにもなく大きく手を振って別れた。 なんだか恥ずかしかったけれど、 友人にそんなことをすることすら忘れそうになって居た自分にとって、 それはとても大事なことだった─── Next Menu back