───ぼくらに変わらぬ日常を───
───……。 鈴訊庵に戻ると、電話の音が高鳴っていた。 向かう途中から聞こえていたところから、ずっと電話が鳴りっぱなしだったようだ。 凍弥 「誰だ……?」 浩介 「さあな」 浩之 「それよりも妙だとは思わんか……?静かすぎる……」 浩介 「た、確かに……!     家にはリヴァイアと名乗る魔術師とサクラ殿とおっさんが居る筈では……!?」 浩之 「まさかとは思うが……地球外知的生命体に侵略されたというのかーーーっ!?」 浩介 「いや、間違いない……」 ぼかぼかっ。 志摩 『アウチ!』 遥一郎「MMRかお前らは……」 凍弥 「与一か。どっか行ってたのか?」 遥一郎「ああ。レイルにな、ミニと一緒に天界に招待されてた」 凍弥 「へえ……それで?サクラってもう天界に戻れるのか?」 遥一郎「一応な。神に頼んだらあっさりと手続き用紙をもらってた。     今日は久しぶりに自分の世界で休むつもりだろう」 凍弥 「『今日は』って……また来るのか?」 遥一郎「知らん。あいつ次第だ」 そりゃそうだ。 遥一郎「ところで……どうした?」 凍弥 「どうしたって……なにがだ?」 遥一郎「お前と志摩兄弟だ。気配がトゲトゲしいぞ」 凍弥 「ん……別に。ところで電話、出なくていいのか?」 遥一郎「言う前に自分で取れ、まったく……」 言いつつ、与一は電話のところまで瞬間移動してそれを取った。 遥一郎「もしもし?ああ、風間か。どうした?」 凍弥 「───」 志摩 『───』 遥一郎「……?」 俺達の雰囲気を読んでか、与一は訝しげな顔をした。 そして予想通り─── 遥一郎「……風間からだ。出ろ」 凍弥 「……わかった」 与一は俺に受話器を渡してきた。 俺はそれを受け取り、耳に当てる。 凍弥 「なんの用だ」 声  『あ、あの……すいません、俺……』 凍弥 「謝られる覚えはない。なんの用だ」 声  『あ………』 凍弥 「用が無いなら切るぞ」 声  『ま、待ってください!』 凍弥 「なんだよ」 声  『その……俺、何か言っちゃいけないこと、言いましたか?     俺、馬鹿だから解らなくて……』 凍弥 「解らないならそれでいい。関わるな」 声  『そんな……』 凍弥 「俺達のことはもう忘れろ。俺はもうお前を信用出来ないし、信じる気も無い。     お前も俺達を忘れて、俺達も忘れる。     学校で会っても道端で会ってもまるっきり他人だ。それでいいだろう?」 声  『………』 凍弥 「お前は不良になるな。代わりに俺達がなる。     いい加減に誰かに頼る生き方なんてやめろ。     そんなことじゃ皆槻は守れやしない」 声  『センパイ……』 凍弥 「馴れ馴れしい口は吐くなと言った筈だ。二度と電話し掛けてくるな」 声  『そんなっ!俺べつにそんな』 ガチャンッ……。 凍弥 「……はぁ」 遥一郎「珍しいな、喧嘩か?」 凍弥 「喧嘩くらいなら人は許せるもんだ」 遥一郎「……裏切りか」 凍弥 「察しがよくて助かるよ。説明するの面倒だから詮索はしないでくれ」 遥一郎「言われなくてもするわけないだろ。俺を誰だと思ってる」 凍弥 「……だな。サンキュ」 与一は人の嫌がることは出来るだけしない方だ。 そんなことは解りきっていた。 ……嫌だな、人を疑りやすくなってるかもしれない。 凍弥 「……お前の言ってたことってこういうことだったんだな」 浩介 「まあ……な。我も限られた者しか信用してはいない。     貴様にはこういうことを味わう前に理解してほしかったんだが」 凍弥 「サンキュ……それだけで十分だ」 俺は浩介に笑いかけ、二階への階段を登ろうとして───志摩兄弟を見た。 凍弥 「上がってくか?」 志摩 『もちろんだ盟友』 訊くまでもなく、志摩兄弟は即答で答えた。 浩介 「裏切りで沈みすぎるほど、我らは落ちておらぬわ」 浩之 「その意気だブラザー」 遥一郎「……ま、あまり気にするなよ。裏切りってのは裏切る方が悪いんだ。     風間の裏切りでお前がそこまでなるってことは……なるほど、利用か?」 凍弥 「……あのさ。前から訊きたかったんだけど、与一って鋭すぎやしないか?」 遥一郎「生まれつきだ。だが、その様子じゃあ正解ってところか?」 凍弥 「詮索するなって」 遥一郎「そーだな、これ以上は訊かないでおくよ。今日は俺も疲れた。寝かせてもらう」 そう言うと、与一はさっさと姿を消した。 そんな様子を見て、浩介はゴクリと息を飲んだ。 浩介 「解ったぞ同志……」 凍弥 「浩介?」 浩之 「ブラザー……なにが解ったというのだ?」 俺と浩之はそのただならぬ雰囲気を察し、緊張しながら先を促した。 浩介 「おっさんこそが……地球外知的生命体だったんだよ!!」 凍弥&浩之『修正ィイイイイッ!!!!』 ボゴシャア!! 浩介 「ラブリィイイイッ!!!」 ───……鈴訊庵・自室。 凍弥 「あー、浩介のくだらんMMRっぷりは無視するとして」 浩介 「くだらんとはなんだ!     貴様の親が持っていた単行本を元に口走っただけだろう!     その意を解さんというのならば、貴様の父こそMMRなのだぞ!?     そして貴様はその意思を継ぐ者!貴様もMMR!」 凍弥 「……じゃあお前がキバヤシってことで」 浩介 「なにぃ!?我にリーダーを務めろと!?     第一話でしか笑ったことの無い男の代わりになれと!?」 凍弥 「言ってて虚しくないか?」 浩介 「……すまん、相当に虚しい」 浩之 「だろうな……」 三人一緒に、ひどく重い溜め息を吐いた。 凍弥 「まあMMRはひとまず置いておこう」 浩介 「蒸し返すつもりがないなら捨てておけ」 凍弥 「……いや、それはファンの皆様に失礼だろう」 浩之 「MMRファンの層は厚いのだぞブラザー」 浩介 「それはそうだろうが、今の我らの話には関係ないだろう」 凍弥&浩之『ごもっとも』 MMRの話題は流れることになった。 そもそもの言い出しッぺは浩介なんだが。 浩介 「さて同志よ。これからのことだが───我に提案がある」 凍弥 「提案?珍しいな、お前がそういうこと言うのって」 浩介 「フフフ、我だってやる時はやるのだよ」 浩之 「御託はいらんぞブラザー。どうする気だ」 浩介 「ふっふっふ……」 浩介は不敵に笑った。 だが『不敵』と言うにはあまりに無防備な彼は、なんだかとても頼りなさそうだった。 浩之 「フフ、どうせ禄でもないことに決まっている」 凍弥 「同じ感性のお前が言うなよ……」 浩之 「それは偏見というものだぞ同志」 凍弥 「そうかもしれん。……で、なんなんだ?」 適当に盛り上がった俺と浩之は、浩介に向き直ると次を促した。 浩介 「うむ。画期的な提案だ。心して聞け」 凍弥 「ああ」 浩介 「今現在、赤裸々撲殺乙女は天界とやらに行っているそうではないか。     ならば───どうするべきかね?」 凍弥 「どうするって……なにが」 浩介 「ニブイやつだな同志!ここはヤツの部屋を漁って弱みを握るしかあるまい!」 浩之 「おおおそうか!その手があった!」 画期的……ねぇ。 ……納得。 だって志摩兄弟だし。 浩介 「フフフ、これでヤツは我らに逆らえなくなるのだ……!     さすれば!毎日でも掻き揚げうどんを出してもらって……!!」 凍弥 「お前って考えることは突飛してるんだけど、スケールが小さいんだよな……」 浩介 「ほっとけブラザー!     夏休みもあと僅かだが、あのマグロで手に入れた金もそろそろ尽きるのだ!     我らは生き延びねばならん!このようなところで死ぬわけにはいかんのだ!」 凍弥 「でもさ、ポシェットの調子が悪いって話はしただろ?どうする気だ?」 浩介 「───……」 志摩浩介、沈黙。 浩之 「ブラザーまさか……そこまで考えてなかったと言うのではあるまいな!」 浩介 「考えてなかった」 浩之 「言いおったーーっ!!おのれブラザー!歯ァ食い縛れ!」 浩介 「むっ!?させるか!!トアーーッ!」 志摩兄弟が互いに勢いのついた拳ボゴシャア!! 志摩 『げはっ……!』 どしゃしゃっ……。 志摩兄弟、クロスカウンター(双方)により撃沈。 こいつらが何かをしようとして成功した試しなんてあったっけ……。 いや、考えるだけ無駄だな。 凍弥 「無駄だと思うけどさ、やめておいた方がいいと思うぞ?」 志摩 『甘い!』 俺の言葉に、なんと志摩兄弟が復活した! 浩介 「甘いぞ同志!日々脅迫紛いに撲殺されそうになる我らの心境を考えてみよ!     これは当然の選択!つまり我らは自由を手に入れるために戦う猛者なのだ!」 浩之 「そう!たとえ我らの行動が発見され、撲殺されようともそれで本望!     それが我らの生きる道!盾役は任せたぞブラザー!!」 浩介 「なにぃ!?言っていることが滅茶苦茶だぞブラザー!!」 こいつらって…… 凍弥 「あのさ、お前らって協調性があるのか無いのかどっちだ?」 浩介 「微妙な質問だな同志。それは我も時々考える」 浩之 「うむ、我もだ」 やっぱり。 助け合ってもいがみ合っても、結局足を引っ張り合う結果にしかならないようだ。 浩介 「まあいい。とにかく突貫だブラザー。     なんでもいいから赤裸々撲殺乙女の弱みを握るのだ」 浩之 「うむ、了解だブラザー」 凍弥 「───」 ……しかし……いや、なんだろう。 いいや、一応言っておこう。 凍弥 「なあ浩介、浩之」 志摩 『なんだ?』 凍弥 「お前らが今やろうとしてる行為って、     サクラへの裏切りに近いものじゃないか?」 浩介 「ふむ、そうきたか。だが忘れるな同志。     我らは同志さえ盟友で居てくれるなら、他に誰も必要ない。     不思議なことだが、どうあっても貴様を裏切ろうなどとは思えんのだ。     誓ってもいいぞ、我は貴様のためならなんだって出来る」 浩之 「そうだな、確かに不思議だ。     幼い頃からの知り合いというわけでもないのに、貴様を他人には思えんのだ」 凍弥 「おまえら……」 間違い無い。 志摩兄弟には火道兄弟の前世の記憶が奥底に眠ってるんだ。 だから、俺を…… 凍弥 「……ありがとう」 浩介 「む?どうした同志」 凍弥 「いや、礼を言いたかったんだ。     ……こんな俺にそんなこと言ってくれるお前らに」 浩之 「気色悪いぞ同志」 凍弥 「ハッキリ言うなって……」 俺は苦笑しながらも、自分の中が感謝の気持ちでいっぱいだということを自覚していた。 私利私欲のために、ふたりを死へと追い遣ってしまった俺に、 そこまで言ってくれるふたりの存在が暖かかった。 凍弥 「我ら、互いが互いのために生きることを誓う」 浩介 「我ら、血を分けぬ兄弟なり」 浩之 「されど、我ら血縁より深き盟友なり」 過去、初めてこいつらと『盟友』の誓いをした言葉を放った。 意外だったけど、ふたりはなんの戸惑いもなく続きの言葉を言い、俺を見て笑った。 凍弥 「お前ら……」 浩介 「不思議だな。知らん言葉が勝手に出た」 浩之 「我もだ。……まあ悪い気はしないな」 ふたりは本当に不思議そうに首を傾げていた。 でもやがて勢いよく立ちあがると─── 浩介 「よし!いざ出陣!!」 そう言って猛った。 凍弥 「やっぱりやるつもりなのか」 浩之 「当然だ。我らの自由のために!」 浩介 「自由のために!!」 凍弥 「……まあ、勝手にやってくれ。どうなってもしらんぞ」 浩介 「うむ、我らのイキザマ、とくと味わえ!」 凍弥 「味わってどうする」 浩之 「まったくだ」 凍弥 「……はぁ」 ふたりの相変わらずの行為に、俺は苦笑しながら部屋を出た。 そのまま階下へ降りると、客席に座る与一を発見。 凍弥 「寝るんじゃなかったのか?」 遥一郎「ん?ああ凍弥か。今から寝るところだ」 凍弥 「そっか。なにやってたんだ?」 遥一郎「忘れ物したってゆうミニと話してたんだがな」 凍弥 「───」 ミニ=サクラ。 忘れ物=自室。 志摩=自室突貫。 自室突貫+サクラ+志摩兄弟=……撲殺。 凍弥 「はやまるな浩介!浩之ぃいいっ!!!」 俺は叫んだ。 その途端に 声  「きゃああああっ!!なにいきなり人の部屋開けてるんですかぁあっ!!」 声  「ウヒョオオオッ!!?」 声  「おわああああああっ!!!!!」 甲高い悲鳴とともに、二階から炸裂音が聞こえてきた。 ……まあいいや、自業自得だろう。 合掌でもしておこうか。 遥一郎「……ところで、お前らが騒いでる内に何度も電話が来たぞ」 凍弥 「風間の話ならやめてくれ。聞きたくもない」 遥一郎「いや、その恋人の皆槻からだ」 凍弥 「だとしてもだよ。もういいだろ?」 遥一郎「いや、こればっかりはよくない。     裏切ったのが風間なら、皆槻は関係ないだろう。違うか?」 凍弥 「信用して裏切られるのはもう嫌なんだよ。     あんな気分を味わうのはもうたくさんだ」 遥一郎「皆槻がそんなことをする娘に見えるか?」 凍弥 「風間がそんなことをする男に見えたか?」 遥一郎「……なるほど、もっともだ」 与一は頭を掻いて溜め息を吐いた。 遥一郎「まあいい、一度別の方向と話してみるのもいいと思うぞ。な?」 凍弥 「……与一はどっちの味方なんだ?」 遥一郎「こう言うのは癪だが……自分の意思の味方だな。     だから意見も言えば納得もする。人間ってそんなものだろ?」 凍弥 「………」 遥一郎「ま、いいさ。話はここまでだ。俺は寝る。それと……」 凍弥 「うん?」 チャリンッ。 与一は微妙な顔つきをしながら、五百円玉を何枚か置いた。 遥一郎「これでどこか食いにいけ。志摩兄弟でも誘ってな」 凍弥 「与一……どうして」 遥一郎「なんとなくだ。お前的に、志摩兄弟には感謝してそうだったからな。     だが軍資金が無ければ何も出来ないだろ?」 凍弥 「でも俺、金をもらうわけには」 遥一郎「たわけ。誰が『くれてやる』って言った。     もちろん出世払いで返してもらうぞ。精霊だって金は惜しいんだ」 凍弥 「……ぶっ……ははははは……!!」 遥一郎「ふふっ……笑うなよ」 真顔で『精霊だって金は惜しいんだ』と言う与一が、どうしても可笑しかった。 人間と変わらないそいつは、自分にとって信用出来る人物だ。 凍弥 「………」 そう思ったら、俺が信用出来る人って少ないのかもしれないって考えに行きついた。 でも意外なことに、それでもいいって考えが随分と穏やかに出た。 ……俺は変わったってことだ。 人の助けになろうって男が、人を信用しなくなったって違いだ。 言葉で表すだけなら小さな違い。 それならそれでいいか……。 風間の、『センパイならなんとかしてくれる』って言葉は正直辛過ぎたから。 あのまま笑顔でそれを受け入れていたら、いつか俺は風間にとっての逃げ道になる。 凍弥 「……あれ?」 なんか変だぞ。 これって……風間のためにやってるみたいじゃないか。 いや、確かに前からあいつは俺に頼りすぎだとは思ってたけど…… 凍弥 「………」 ま、いいか……それも過ぎたことだしな。 いつまでも俺に頼ってたら甘えた存在になることは確かだし、 あいつなら自分で道を開けるようになるさ。 あいつだって、俺と同じ人間なんだから。 凍弥 「はぁ……結局、空回りのお節介ってか……?」 染みついたものってのは『染みついてる』からこそ、 無意識に実行されるものなんだって自覚した。 たとえその過程でどんな暴言があっても、 どちらにしろ俺の中で飛鳥との約束は相当に堅いものなんだってことだ。 それを忘れなけりゃいい。 答えは簡単だ。 凍弥 「サンキュ、与一……って、あら?」 ふと周りを見渡すと、与一の姿は既に無かった。 俺が悩んでいる内にさっさと寝にいったらしい。 凍弥 「ま、いいか。与一の言葉通り、志摩兄弟でも誘って掻き揚げうどんでも」 浩之 「いいや!『ますらお軒』のとんこつラーメンだ!」 凍弥 「うおっ!?」 いつの間にか隣に居た浩之が 浩介 「なにを言うかブラザー!ここは掻き揚げうどんだ!!これは譲れん!!」 凍弥 「……お前らさ、いつの間に現れた?」 頬に紅葉(手形とも言う)を刻まれた志摩兄弟が、俺の言葉にニヤリと反応した。 余裕の表情のつもりなんだろうが、俺から見れば情けない限りだった。 浩介 「貴様が呆けている内に来たのだ。辺りを見渡していたようだが、     忍者ばりの我らの隠密行動を駆使すれば、     貴様に気づかれずに背後を取ることなど容易い容易い……はっはっは」 まるで江戸時代の人のように笑うコースケさん。 毎日が平和そうでいいよなー、こいつって。 凍弥 「ところで……サクラに殴られたにしては、傷が浅いな」 浩之 「うむ。ヤツめ、あの妙な機械と杖を天界とやらに置き忘れてきたらしいのだ。     まったく無様だな、ふわはははははは!!」 凍弥 「けど、そのお蔭で軽傷で済んだわけだな?」 志摩 『アイドゥ』 ふたりはザシャアと息を合わせるかのように胸を張った。 だが、浩介の左頬、 浩之の右頬にそれぞれ刻まれたその紅葉が、ふたりの心意気を粉々に粉砕していた。 凍弥 「そっか。ところでさ、浩介。それにしたってサクラが一撃で済ますってのは」 浩介 「なんでも『今日のところはこれで許してあげます』と謳いおってな」 凍弥 「ほう」 浩之 「なにやら機嫌が良さそうだったぞ。我はあやつの考えがよく解らん」 浩介 「我もだ。まああれだな。     同志から言わせれば『自分じゃないんだから解るわけがない』だろうが」 凍弥 「先読みするなって……」 言おうとしたのは確かだけど。 浩介 「さて同志よ。我らはこうして暇になったとさ。どうする」 凍弥 「なんで昔話風に言うのかは解らんが、確かに問題点だ」 浩之 「あれはどうだ?赤裸々撲殺乙女が外出するのを待って、もう一度乗り込むのは」 浩介 「それは名案!」 凍弥 「少しは懲りることを知るべきだぞ、お前ら」 浩介 「馬鹿め、そのようなことをしては我ららしくもないわ」 凍弥 「お前ららしさってなんだよ」 浩介 「む?そうだな、言わばこのDNAか?」 凍弥 「細胞自体からして志摩ってことか」 浩介 「そういうことだ」 やっぱりよく解らん。 浩介 「まあよいわ。同志、ここで我に提案がある」 凍弥 「今日はよく提案するな。なんだ?」 浩介 「うむ。近々、夏祭りがあるだろう。それについて作戦を練るのはどうだ?」 凍弥 「作戦?」 作戦って……なにについてだ? 夏祭りってのは解るけど、べつに俺達が夏祭りを準備するわけじゃない。 凍弥 「作戦って?」 浩介 「うむ、作戦というのは他でもない。出店についてだ」 凍弥 「ふむ、出店ねぇ……」 夏祭りには出店が付き物だな。 ……で、それと俺達と、なんの関係があるっていうんだろうか。 浩之 「あれだなブラザー」 浩介 「うむアレだ」 アレ?アレって……? 浩介 「そうか、同志は知らんか。出店の場所のひとつが余るらしいのだ。     その出店、同じアパートの住人のモノでな。     そこで、その住人が提案してきたのだ。出店、やってみるか?とな」 凍弥 「ほほう」 浩介 「だが考えてもみろ、我らは今日、学校で敵を作りすぎた。     このまま出せば、我らの所為でおいさんに迷惑がかかろう。     そこでだ。おっさんなど、料理の上手い輩を生贄にしてだな」 凍弥 「生贄?」 浩之 「我らが天真爛漫に遊ぶための店番のことだ」 なるほど……天真爛漫に遊べるかは謎だが、納得はしようか。 浩介 「そこでものは相談だ。同志、我らは出店の手配と準備をしよう。     貴様はその料理の上手い人を集めてくれぬか?」 凍弥 「料理の上手い人ねぇ……出来る限りにしか探せないぞ?」 浩之 「それで構わん。では各自解散ということで、よいかな?」 浩介 「OKだブラザー」 凍弥 「了解だ同志達よ」 浩之 「では!夏祭りに向けての準備を始める!!各々方、手抜きをせぬようにな!」 凍弥&浩介『応ッ!!』 浩之の言葉に、俺と浩介は勢いよく拳を天に突き上げた。 つまりは……裏切りで落ち込んでいるほど、我らはヤワではないのだ。 辛い時は悲しむが、楽しい時は一層楽しむ。 それこそが、俺達三人のあいだに造られた盟義ぞ。 …………そして俺は、階下の客席に座って考えていた。 誰を選ぶかを悩んでいるわけだ。 与一はまあ確実として、あと料理が上手い人って…… 凍弥 「サクラはダメ、美紀はダメ……ってゆうか幽霊だし、浅美は……謎だな。     篠瀬は彰衛門の話じゃあ『料理は絶対にさせるな』だそうだし、     椛……はダメだな、会うことすら出来ないんだ、諦めよう。     メル───いや、直接関係無いにしても、     義兄の風間とあんなことがあったんだ。俺的に遠慮したいな。     母さんは……料理上手いけど、     父さんにしか作ってあげたくないって言うだろうしな。     ……なんだい、俺の知り合いの女性郡って料理出来ない人ばっかりじゃないか」 呆れてしまう。 しかしまあ、現代の日本人女性なんてそんなもんか。 彰利 「彰衛門は……料理上手だって言ってたな。本当かどうかは怪しいけど。     悠介さんも料理上手だったな。     志摩兄弟はダメそうだけど、俺は多少はいけるし……」 ……男ばっかりになりそうだ。 でもやってくれるとしたら、与一と彰衛門だけで十分だよな。 こっちのイベントのために悠介さんをここまで呼ぶのは悪い気がするし。 その点、彰衛門はなんでも首突っ込みたがるから間違い無く現れるだろう。 凍弥 「……ああ、リヴァイアって手もあったか」 その可能性は未知数だ。 未知に賭けてみる気はあるか?───よし無い。 リヴァ「呼んだか?」 凍弥 「おわぁああっ!!」 いきなりだった。 後ろを振り向けば、そこに居るリヴァイア。 さっきまで誰も居なかったのに…… 凍弥 「なぁ……何処から?」 リヴァ「空界からだけど。なにかおかしいか?」 凍弥 「いや……何処から出てきたのかって訊いたんだけど」 リヴァ「式で次元のゲートを作ってだ。ちょっと空界の研究所に用があってな。     答えはこれだけだけが、満足したか?」 凍弥 「満足の云々は微妙だけど、なんとか」 笑ってみせると、リヴァイアも『そうか』と言って笑ってみせた。 リヴァ「それで?どうしたんだ、わたしの名前を言ったりして」 凍弥 「ああ、それか。ちょっとこっちの話……いや、ちょっと待った。     なぁリヴァイア、ぶしつけな質問するけど、笑い話程度に聞いてくれ」 リヴァ「なんだいいきなり。どうかしたのか?」 凍弥 「えーーーと……」 なんと切り出したものか。 いきなり『料理得意?』って訊くのも……いや、それ以外に方法が無いよな。 でも女性にそういうこと訊くのって案外失礼なんじゃ……。 コンプレックスになってるかもしれないし。 凍弥 「その……料理とか、好きか?」 リヴァ「料理?いや、どうかな。     研究をしている時は買い置きしていた完成品を食べていたし、     知識としてはあるが実践したことは一度もない」 凍弥 「そ、そっか」 リヴァ「どうしたんだいきなり。     笑い話がどうとか言ってた割に、やけに慎重に訊くじゃないか」 う……確かに。 しかもズルイ訊き方してしまった。 情けない。 リヴァ「まあ、そうだな。一度研究も兼ねて作ってみるか。     貴重な体験になるかもしれない」 凍弥 「ああ、いいかもな。それじゃあ俺はこれで」 俺は笑いながらその場をあとにガシィッ。 凍弥 「う……あの、なにか?」 リヴァ「何処行くんだ。お前が居ないと味見役が見つからないじゃないか」 凍弥 「え!?あ、いや、俺ちょっと用事が」 リヴァ「あとにしろ。それが嫌ならそんな用事捨ててしまえ」 凍弥 「い、いや!でもさっ!」 リヴァ「お前が何をしようとしてるかなんて知るもんか。今お前はわたしに捕まった。     お前がわたしに付き合う理由はそれだけで十分じゃないか?」 う……もしかしてリヴァイアって…… 凍弥 「あ、あのさ……野暮なこと訊くけど。     リヴァイアって研究のことになると周りを見ない方?」 リヴァ「これだけでそこまで解れば上出来だ。レイルとは飲み込みの速さが違うな」 凍弥 「……あんがと、最高の誉め言葉だ……嬉しくて涙が出る」 やがて俺は、無駄な抵抗をしながら厨房へと引きずり込まれた。 あのレイルって人がどれだけ苦労したのか、 なんとなく解った気がした夏の日の午後でした…… Next Menu back