───ぼくがぼくとしてここに居る意味───
───……どんっちゃんっかちゃちゃんちゃん……どどんっ! 太鼓の音が鳴り響く。 夏祭りの景色はいつみても鬱陶しい。 人がここまで居ると疲れるだけだと本気で思う。 凍弥 「だからって嫌いなわけでもないけど」 ようするに人込みは疲れるって話だ。 浩介 「しかし、随分と盛況ではないか」 隣に居た浩介が感想を漏らした。 椛と連絡のつかない俺は、志摩兄弟と色気の無い夏祭り巡りをしていた。 ああ、べつに嫌なわけじゃない。 友達と回る方が案外気楽な時もある。 それが今だ。 凍弥 「そうみたいだな」 浩介の感想に頷いてみせて、彰衛門と与一が経営する屋台を見てみた。 そこはなんでも屋みたいなもので、時間の続くかぎりなんでも作ろうって出店だ。 ちなみに材料源は、天界で直してもらったらしいサクラのポシェットだ。 毎年思ってたことだが、 この夏祭りには食事が出来る出店がこの場所しかなかったのだ。 しかしそのおいさんが今年は出ないってゆう。 なんでも大変な用事が出来たらしく、 しかし唯一の食事の出店をたたむわけにもいかず、浩介に話したらしい。 ようするに『浩介に使ってくれ』って言ったわけじゃなくて、 『浩介に料理の上手い人を探してもらってやってもらう』つもりだったのだ。 それを盛大に勘違いした浩介が、俺にあんな提案を出してきたってわけだ。 浩之 「ところで同志よ。噂に聞いた『魔術師の手料理』はどうだった?」 凍弥 「───……」 浩之 「同志?」 思い出しちまったい……。 凍弥 「先に言っておく。あれは人間の食うものじゃない」 浩之 「そ、そんなにだったのか?」 凍弥 「そんなに、なんてもんじゃない……口の中が『本当に』とろけるかと思った」 浩之 「うお……」 そう、以前リヴァイアに話を持ちかけた際に食わされた料理は、まさに悪夢。 あんなもの食って生きてる自分が不思議なくらいだ。 なにせ、一口目でいきなり眩暈を起こして発熱して頭痛に侵され咳に苦しみ、 口の中が溶けるような感触に襲われながら泡を吹いたらしいのだ。 ……ちなみに俺の意識は『ソレ』を口にした途端に切れていた。 俺が体験したらしいことは、全てリヴァイアの研究資料で知ったものだ。 ご丁寧にデータを書いておいてくれたらしいです。 もちろん二度と御免だと断言しておいた。 凍弥 「さて、これからどうする?」 浩介 「射的だ。去年の屈辱、今年こそ晴らす」 凍弥 「去年も言ってたな、その言葉」 浩之 「我も聞いたぞ」 浩介 「だとしても構わん。これはプライド問題だ」 奇妙な雄叫びをあげながら射的屋に走ってゆく浩介を、苦笑しながら追う。 俺は随時貧乏高校生だから、思うように贅沢できないのがたまにキズだ。 やることも慎重に選ばなければならない。 たとえば射的にしたって金魚すくいにしたって、難易度が高ければやるだけ損だ。 そんなことに貴重な金を投資するわけには 浩之 「なにをしている同志!さっさと行くぞ!」 凍弥 「っと、はいはい」 思考も中途半端に、人込みに揉まれながらふたりを追った。 彰利 「運命を司る黒衣の死神!」 ガチャッ!ガチャチャッ!! 彰利 「ピーカヴァヤ・ダーマ!!」 パシュシュシュシュシュシュシュシュン!!!!! ポコッ、パコッ、ポコンパコン。 オヤジ「はい残念ね」 彰利 「オガァアーーーーッ!!!」 射的屋に行ってみると、彰衛門が射的をしていた。 ……てゆうかさっき、店の方で料理作ってなかったっけ? 彰利 「コルクが軽すぎるんじゃなかと!?あれだけ集中射撃して落ちないぞえ!?」 オヤジ「そんなこと言われてもねぇ」 ちなみに彰衛門が集中射撃していたのはクレイステーションΩ。 最新型のクレイステーションだ。 その箱の大きさが特徴でああるとともに、 コルクなどで倒れるほど甘っちょろい大きさじゃない。 彰利 「オヤジ!もう一回だ!」 オヤジ「よしきた!」 彰衛門は気前良く金を払い、コルク銃を構えた。 彰利 「……こうなりゃ風でも使って落としてやる……」 彰衛門が何かを言って、ぶつぶつと呟き始めた。 やがて、突然の突風! オヤジ「うわっ!?っととと!」 その突風で、商品がゆらゆらと揺れる。 彰衛門はその時を見逃さなかった! 彰利 「受けてみろ!これは俺の前に散っていった……夜華さんの分だぁあああ!!」 パシュッ! ビュゴォオオオッ!!! 彰利 「あ」 飛んだコルクは、突風によって吹き飛ばされていった。 彰利 「さすが夜華さん……カスめ」 夜華 「誰がカスだ!」 あら……篠瀬、居たんだ。 彰利 「まあいいコテ、コルクはあと2発あるし。     おいオヤジ、あと10発よこしなさい」 オヤジ「へっへっへ、毎度」 彰利 「射的屋は『毎度』なんて言うべきじゃないと思うな、アタイ」 言いながらも銃を構える。 彰利 「そんじゃ夜華さん、コルクの装填頼むね。じゃんじゃん打つから迅速に」 夜華 「任せておけ。あの妙な箱の中身で楓さまが救われるのであれば、     わたしに拒む理由などない。遠慮なくやれ」 篠瀬がクレイステーションΩの箱を見て言う。 ああ、また騙されてるんだ……。 彰利 「いくぜオヤジ!」 オヤジ「来てみろ!最新型のクレイステーションの重み、その身をもって知識と化せ!」 彰利 「シュート!」 ポコン。 彰利 「焚ッ!!」 ポコン。 彰衛門はひとつ打ったらまたひとつと、繰り返してクレイステーションを打ってゆく。 その速度もさることながら、篠瀬の装填の速さも相当だ。 彰利 「夜華さんスピードアップ!!」 夜華 「すぴーどあっぷ!?なんだそれは!」 彰利 「もっと速く!」 夜華 「任せろ!」 ポコン!キュッ!ポコン!キュッ!ポコン!! 戦いは続く。 だがもう、コルクが尽きようとしていた。 万事休すか!? 彰利 「見つけたぜ……貴様の弱点を!そこだぁっ!」 パシュッ───ポコン! 彰衛門が狙ったのは箱の上部の角だった。 結果は───……ビクともしませんでした。 彰利 「………」 夜華 「………」 オヤジ「ハイ、残念ね」 彰利 「ノォオーーーッ!!!!」 夜華 「き、貴様!なにをしているのだ!     自信があるから任せろと言ったのは貴様だろう!     わ、わたしの労働の結晶を返せ!」 彰利 「あ〜ん?知らんなぁ〜」 夜華 「わたしの金を使って遊んでいたのだろうが!     あれはわたしが神社の仕事をして悠介殿に貰った金だぞ!」 彰利 「な、なんだって〜?そうなのか〜い?でも俺の知ったこっちゃねィェーーッ!」 夜華 「き、ききき貴様ァアアアアアアッ!!!」 うわー、あんまりですぞ彰衛門。 浩介 「なにやら痴話のもつれを見ている気分だな」 浩之 「ぐーたら亭主が嫁の金を酒に使うが如くだな」 好き放題言われてるけど、あんなものを見たあとじゃあ弁解のしようもないだろうなぁ。 彰利 「ったくしゃあないのう……     夜華さんを泣かせた罪滅ぼしじゃい、ちょっと待っといで」 夜華 「な、泣いてなど……!!」 いや、泣いてますな。 『労働の結晶』をいいように使われたのが相当ショックだったようだ。 彰利 「オヤジ、三発もらうぞ」 オヤジ「あいよ。あんちゃんはいい金ズルだなぁ」 彰利 「最高の誉め言葉だ」 彰利は穏やかな笑みを浮かべると、コルクを装填して構えた。 そしてパシュッと打つと───コトリ。 オヤジ「なっ……!」 彰利 「ほい、遊戯ヴォーイアルティメット、いただきね」 あっさりとGBUを落としてみせた。 彰利 「さーて次は……よしアレだ」 パシュッ……コトリ。 オヤジ「な、な、なぁあ……!!」 彰利 「ほいほい、夢キャスト・ネオ、いただきね」 夢(ドリーミン)キャスト・ネオを軽々と落とす彰衛門。 見たところ、細工のようなものをしたようには感じなかった。 彰利 「さーてお待ちかねぇ!クレイステーションΩの出番ですよ!」 オヤジ「へ?はははは、散々やったのにまだ懲りてないのか?」 彰利 「フッ……アタイのハートの辞書には『懲りる』って文字はねぇのよ。焚ッ!!」 パシュッ───ポコォンッ!! ……ゴトッ。 オヤジ「あっ……あぁーーーっ!!?」 観衆 『ウォオオオオーーーーーッッ!!!!!』 彰利 「ふははははは!!俺様がッ!チャンピオォーーーン!!!」 固唾を飲んで見ていた観衆が叫ぶとともに、彰衛門はガッツポーズを決めて見せた。 一見、無駄に見えた今までのコルク打ちも、 クレイステーションΩの箱の左半分しか狙ってなかった。 つまり、塵も積もればなんとやら。 あとは弱点をつけば、今まで保っていたバランスは崩れ、たった一発で落ちる。 彰衛門はそれを狙っていたのだ。 彰利 「オウオヤジ、潔く商品を渡しな」 オヤジ「ぐっ……ううう……!お、俺も男だ!もってけ泥棒!!」 彰利 「誰が泥棒だこの野郎!!」 オヤジ「えぇっ!?」 彰利 「いいえ、なんでもねぇズラ」 いいながら、差し出された景品を受け取った。 そして篠瀬に向き直ると、その全てを渡す。 夜華 「彰衛門……これは……」 彰利 「すまんのぅ、まさか泣かれるとは思ってもみんかった。     これはその詫びじゃい。     夜華さんのお蔭で、こうしてクレステΩも手に入りましたぞ」 夜華 「そ、そうか……」 彰利 「なに、そのどれかひとつでも売れば、使ったお金の数倍は戻ってきますよ?」 夜華 「な、なに!?そうなのか!?これはそんなに高いものなのか!?」 彰利 「おう高いですじゃ。どれも一万円以上はします故」 夜華 「一万円?それはどれくらいの金なんだ?」 彰利 「うむ……一円が一万枚必要ってことですじゃ」 夜華 「なっ……!!い、一円が……!?ばばば馬鹿!そんなもの貰えるか!!」 過去生まれの篠瀬は、それはもう驚いていた。 ……そっか、過去では一円ってのは大層な値段なんだっけ。 彰利 「夜華さん?それはアタイの真心ですじゃ。     アタイには人をからかう趣味はあっても、泣かせる趣味は無い。     払ってた百円がいくらくらいなのか解らなかった夜華さんへの、     せめてもの罪滅ぼしじゃ……受けとっておくれ」 夜華 「し、しかしな……」 彰利 「よいですか夜華さん。夜華さんはひとりっきりで晦神社を守ってくれたんじゃ。     アタイにとってもあの場所は思い出の場所。     それを守ってくれたことへの礼だと思いなさい」 夜華 「彰衛門……」 篠瀬は渡されたゲーム機を抱き、頬を染めながら、やがて頷いた。 夜華 「大事にする。必ずだ」 彰利 「ウム」 頷き合ったふたりは、てこてこと歩いてゆく。 俺はそれを呼びとめようとしてふたりの居る場所まで走った。 浩介 「同志?どこへ行く」 凍弥 「ちょっとあのふたりに用事。一緒に来るか?」 浩之 「もちろんだ」 志摩兄弟が仲間に加わった! ……さっきからだけど。 凍弥 「彰衛門、篠瀬」 彰利 「オウ?オウオウ、小僧じゃねぇの。どしたいこんなところで」 凍弥 「出店回ってくるって言っただろうが……」 彰利 「知らん」 ……相変わらずだ。 凍弥 「しっかし、よく取ったよな。あの射的、難しいって評判なのに」 彰利 「アタイにかかれば造作もないことよ。     ゲーム機本体ばっかだが、なんとかならぁ」 凍弥 「まあそうだよな」 浩介 「ふーむ……」 浩之 「うむうむ……」 夜華 「な、なんだお前ら……」 凍弥 「?」 ふと気づくと、志摩兄弟が篠瀬をジロジロと見ていた。 凍弥 「そういえば、篠瀬って浴衣が似合ってるよな」 浩介 「そう!そうなのだ同志!我もそれを言おうと思っていた!」 浩之 「こうまで浴衣がジャストフィットしているおなごも珍しい!!」 彰利 「そうじゃろう。アタイも驚いたもんじゃよ。     そんで『アンタ誰?』って言ったらコレですよ」 彰衛門は自分の額を指差して、妙な傷を見せた。 ……どう見たって刀傷だな。 夜華 「き、着替えたくらいでわたしだと解らなくなる貴様が悪い!」 彰利 「そうかねぇ……髪も結んで、浴衣も着こなして、刀を持たずにおしとやか。     ……これの何処に夜華さんっぽい部分が含まれているというのかね」 夜華 「顔でわかるべきだろう!」 彰利 「し、しまった!盲点だった!」 凍弥 「彰衛門……凄まじくわざとらしいぞ……」 彰利 「あ、バレた?」 夜華 「貴様……」 浩介 「確信犯というやつか」 浩之 「貴重だな」 そうか? 夜華 「しかし……わたし以外に『ゆかた』を着ている者を見ないのだが。     彰衛門、この姿で本当にいいのか?」 彰利 「もちろんですよ夜華さん。こればっかりは今の日本人がカスなだけです。     まったく、悠介が見たら泣きますよ?」 凍弥 「悠介さん、日本の過去文化好きだからなぁ……」 彰利 「ウム、過去文化と言ったのはポイントが高いぞ小僧。     悠介は今の文化は大嫌いだからな。     過去に行ったって話をしたら『今度俺も連れていけ』って言われたし」 さすがだ……。 流石すぎるよ悠介さん……。 夜華 「な、なぁ彰衛門……     いくら夏期だからとはいえ、これは流石にスースーするぞ……」 彰利 「んもう、何度言ったら解るんですか夜華さん!     アータいっつも巫女装束着てるでしょうが!」 夜華 「し、しかしアレとコレとは……!」 彰利 「似たようなもんです!」 夜華 「しかしな、どうにも足が動かし辛くてな……」 彰利 「そういうものなんです!大股で歩くなんてはしたないですよ夜華さん!!」 夜華 「うう……」 浩之 「………む?」 ふと、浩之が何かに気づいたように声を漏らした。 浩之 「なぁブラザー、まさかとは思うが……」 浩介 「いや、我もそれは予想していた。そこで貴様」 彰利 「なんじゃい、俺様を貴様呼ばわりしおって」 浩介 「あのおなご……浴衣ということは、アレなのか?」 彰利 「ム?……おお、アレぞ?当たり前じゃねぇの、夜華さんは昔の人ですよ?」 浩介 「そうかそうか、いや、大変だな、昔の人も」 彰利 「うむ、まあそういうことじゃい」 浩之 「そうかそうか」 志摩兄弟と彰衛門は、なにやらうんうんと頷き合っている。 訳が解らんが、放っておいても大丈夫だろう。 凍弥 「篠瀬、椛は来てないのか?」 夜華 「楓さまか?それがわたしにも解らなくてな」 凍弥 「そっか……」 なにやってるんだろうなぁ、椛。 やっぱり今日は来ないンかな。 ま、数週間がそんな感じだったわけだし、いい加減諦めもつくってもんだ。 ……もちろん渋々とだけど。 彰利 「おっと、そろそろ交代の時間どすな。そんじゃあアタイは店に戻りますよって。     あんじょう楽しんでいきぃ。よろしおますな?」 凍弥 「それは解ってるけど、なんなんだその喋り方」 彰利 「ヘブライ語」 凍弥 「うそつけっ!」 彰利 「チッ、シャレの解らんヤツめ……夜華さん、行きましょう」 夜華 「ああ。それではな、鮠鷹」 凍弥 「ああ」 軽く笑ってみせた篠瀬は、ゆっくりとした動作で彰衛門の後ろに付いていった。 それはなんてゆうか、本当におしとやかな女性のように見えて、綺麗なものだった。 思うんだけど、篠瀬ってガサツに見えて、案外ああゆうことが得意なのかもしれない。 ……まあ、ガサツに見えるのは彰衛門の所為なんだけど。 浩介 「ふむ……まあ基本だな。初めて日本美人に会えた気分だ」 凍弥 「なんだいそれ」 振り向いた途端に言われた言葉に、俺は肩をすくめるしかなかった。 一通り出店を巡り、腹が減った俺と志摩兄弟は、 彰衛門が料理するなんでも屋に戻ってきていた。 凍弥 「すごい人の数だな……」 浩之 「うむ……恐ろしい」 次から次へと注文が来る中で、彰衛門は一回たりとも注文ミスをすることなく進める。 材料などは与一が切り、調理は彰衛門がやっている。 さっき彰衛門が抜け出してたのは、材料を切りすぎて時間が余ったからだそうだ。 で、仕込み担当と調理担当が交代する時間になったから、彰衛門は戻った。 そういうことらしい。 彰利 「モッツァレラチーズとトマトのサラダです」 男A 「うおっ!本当に作りやがった!」 彰利 「馬鹿野郎!なんでも屋だって言ってんでしょ!?     でも見合った代金頂くから気をつけて注文しなさいね!?」 男B 「じゃあ俺、カツ丼!」 彰利 「オウヨ〜!」 彰衛門は物凄い速さで調理してゆく。 恐らく月操力を巧みに織り交ぜているんだろう。 彰利 「フフフ……!月然力があれば熱するのも冷ますのも思いのままよ!     ほいカツ丼お待ち!」 男B 「速ッ!!」 彰利 「さーあ新しい注文が来る度にメニューが増えるよ〜!     寄って集って食っていけ!     増えたメニューも手間と材料費の割合から値段が決まっていくから、     よーく見て注文なさい!よいわね!?」 客衆 『オォオオーーッ!!!』 ……こういうのを、大盛況ってゆうのかねぇ。 彰利 「ただしラーメンとか、     じっくり作らなきゃいかん料理はインスタントになりますよ!?     それも元値と手間賃がかかるから気をつけること!!よいわね!?」 客衆 『オォオオーーーッ!!!』 凍弥 「……元気だなぁ」 浩介 「そうだな……」 浩之 「我らはどうする?手伝うか?」 浩介 「我らの料理の腕などタカが知れている。邪魔になるだけだろう」 浩之 「それもそうだな。見事な状況把握能力だブラザー」 凍弥 「……自分をそこまで卑下にして楽しいか?」 浩介 「楽しいものか。だが我らは自分の度量というものを弁えて生存している。     無茶は出来る限りしないのが、我らの信条なのだ」 凍弥 「そ、そうなのか?」 ニヤリと笑う浩介は、それはそれは胡散臭かった。 大体、その『無茶』に巻き込まれてる俺はなんなんだ? あ、いや……いい。 多分俺にとっての無茶は、こいつらにとっては無茶ではないのだ。 凍弥 「それはそれで理不尽な気がするけどな……」 ズキッ! 凍弥 「つあっ!?」 浩介 「同志?」 浩之 「うん?どうかしたのかブラザー」 浩介 「いや、同志が奇妙な声を出すのでな。何かあったのか同志」 急な痛みに声が出てしまったが、わざわざ心配させるのも悪い。 俺は適当に言葉を濁し、ふたりから離れた。 ───……。 祭り騒ぎから離れた場所で、俺は膝をついて息をしていた。 まただ。 また、胸の痛みが襲ってきた。 彰衛門にバケモノのことでハメられた時以来、こんなことはなかったのに。 凍弥 「かはっ!がっ……!うああ……!!!」 一瞬の間、凄まじい眩暈に襲われた。 そのまま倒れてしまいそうになったけど、 なんとか地面についた手がそれを止めてくれた。 凍弥 「はっ……はぁっ……はぁっ……!!」 地面に手をついたまま、俺は苦しみのあまりに涙した。 まるで、自分自身が破壊されるような、喩えようのない痛みや苦しみが俺を襲う。 そして。 視界が完全に滲む頃、地面についている手が……一瞬、薄れて見えた。 凍弥 「!!」 そして悟る。 俺はこの間まで、飛鳥に『存在力』を預かっているお蔭で生きてこれたんだと。 奇跡の魔法のカケラでしかない俺は、 その存在力が無くなった今、消えるしかないのだと。 凍弥 「……っ」 途端に怖くなった。 この日常が消えてしまうことが。 だけど不思議と、自分が消えることに恐怖はなかった。 怖いのは……自分が忘れられることだった。 浩介や浩之が盟友と言ってくれたことや、与一が俺にしてくれたいろいろなこと。 そして───俺の知る全ての人が、俺にしてくれたこと。 その全てが無になってしまうことが、なにより怖かった。 俺が消えることがじゃなくて、 彼ら彼女らがしてくれたことが無駄になるのが、たまらなく嫌だった。 そして思う。 こんな状況になってまで、どうして俺は他人ばっかり心配してるのかと。 幼い頃に、誰かを守れる人になってと、飛鳥に言われた。 それは俺の生きるための希望になっていたし、 飛鳥との約束を破りたいと思ったことなんてなかった。 もちろん破ろうとしたこともない。 俺は俺なりに人のためになれればって、お節介を焼いた。 でも、それを後輩に逆手に取られて傷ついて……それでも俺は、他人の心配をしている。 そんなことを自然にやってしまう俺は、きっと馬鹿なんだろう。 ……俺は馬鹿だ。 あんな思いは二度と御免だとか思ってたくせに、こんな時にまでどうして─── 凍弥 「………俺は、どうするべきなのかな、飛鳥……」 そう呟いた頃には、胸の痛みは消えていた。 落ち着いてくれた痛みとともに俺の意識は傾いて。 やがて俺は、そのままその場所に倒れた。 うつ伏せに倒れるのは辛過ぎて、空を仰ぐように倒れた。 見えるのは夜空に浮かぶ星。 その中のひとつが流れ星になって流れた頃、俺の顔を覗く影があった。 俺はその影に『久しぶりだな』と呟いて、影は『そうですね』と呟いた。 凍弥 「どうしたんだ?こんなところで」 椛  「一番に見せたくて、探していたんです。ほらっ」 影の主……椛は、くるりとその場で回ってみせた。 凍弥 「へえ……綺麗だな」 椛  「本当ですかっ!?」 凍弥 「ウソ言ってどうするんだよ。似合ってるよ、浴衣」 椛  「そ、そうですか……?え、えへへ……頑張って作った甲斐がありました……」 凍弥 「え……?それ、自分で作ったのか?」 椛  「はいっ♪おじいさまが教えてくれたんです」 凍弥 「そっか……」 椛  「ごめんなさい……ちゃんと作って、凍弥先輩を驚かせたくて……」 凍弥 「う、うん……」 そっか……だから連絡取れなかったのか……。 馬鹿か俺、信じるとか言っておきながら……。 椛  「〜♪」 嬉しそうに頬を染めながら、椛は俺に微笑んでみせてくれた。 そんな笑顔がふと、遠くに見える。 凍弥 「……そ、そうだ。     なぁ椛、彰衛門にも見せてやったらどうだ?きっと誉めてくれる」 椛  「はいっ!」 椛はやっぱり嬉しそうにしながら、出店の方に走っていった。 凍弥 「あっ!お、おいっ!そんなに勢いよく走ると」 べしゃあっ! 椛  「んきゃっ!!」 凍弥 「コケるぞー……って……言おうとしたのにな」 手遅れでした。 椛  「あうあうあうあう……ま、負けません!」 ガバッと立ちあがり、パタパタと草を払って椛は駆けていった。 そんな景色を眺めて、俺は寝転がったまま溜め息を吐いた。 そして、誰に言うわけでもなく呟いた。 凍弥 「残りの時間がどのくらいかは知らないけど、俺は俺の生き方をすればいい……。     そうだろう……?飛鳥……」 そう。 俺にとっての生き方が誰かのためになることだったのなら、その生き方を貫けばいい。 何を迷う必要がある。 凍弥 「……頑張るよ俺。だから……応援しててくれ、飛鳥……」 転生体に椛が居るというのに、俺はそんなことを呟いてみた。 もちろん返事が返ってくるわけもなかったけど、 俺はきっと、自分の意思を伝えたかったんだと思う。 裏切られてもいい。 無様だって構わない。 そんなことで誰かが幸せになれるなら、俺はその助けになろう。 だからせめて……その笑顔に満足できるまで、俺が存在できますように……。 ───そんなことを願って、俺は目を閉じた。 やがて夏なのに寒い風が俺を撫でる頃、誰にも何も言わず、その場をあとにした。 せめて今日だけは悲しもう。 いつか誰にも頼れなくなるのなら、その時のための抗体をつくるために。 いつかみんなが俺のことを忘れて、ひとりで消える時が来ても笑っていられるように…… Next Menu back