暦の上で秋が来る頃、俺達はただボ〜ッと呆けていた。 自らが進んで背負ったものは停学。 それを今、少しずつ解消していっている。 自宅謹慎という命令も無かったため、志摩兄弟は鈴訊庵に来ていた。 楓巫女の記憶が戻った椛は、今では勉学に勤しんでいて、サボることもない。 そんな時、真剣に思ったことがある。 『俺、なにしてるのかな』って。 現状をあげるだけなら、『ぼ〜っとしているだけ』で十分だ。 けど、残り時間の解らない時限爆弾を背負いながらすることがこれでいいのだろうか。 そう考えてようやく、自分が馬鹿なことをしたって気づいた。 だけど風間に言ったことはウソじゃない。 俺はあいつに『今回の件は俺が背負う』と言ったのだから─── ───志摩誘拐事件の章───
───……。 夏休みが終わって数日、秋の季節を迎えて数日。 俺達はただ何をするでもなくぐったりしていた。 普通に休みやサボリなら騒げるものだが、 停学というのはどうしてこうも人の心を沈めさせるのか。 覇気が出ないことも確かだが、なんとも心地が悪い。 凍弥 「退屈だな……」 浩介 「まったくだ……」 浩之 「どうしたものか……」 三人でさっきから似たようなことを呟き続けている。 意味不明にダルイし疲れるし切ないし……なんなんでしょうなぁ。 浩介 「……まあ、よいのではないか?学校に行ったところで白い目で見られるだけだ」 凍弥 「浩介、その言葉今日だけで10回目」 浩之 「なにかこう、心トキメクような出来事はないものか」 凍弥 「浩之、その言葉……すまん、数え切れなかった」 ふたりの言葉を数えることで暇を潰していたんだが……あーあ……。 凍弥 「……なぁふたりとも。わざわざアパートからここまで来るの面倒じゃないか?」 浩介 「その言葉は二回目だな同志」 浩之 「そして我らはこう答えた。『よく解らん』と」 凍弥 「あ〜……そ〜だったなぁ〜……」 心の底からダラケています。 どうにもならんことってありますよね。 でもこれはどうにでも出来ることだ。 なんとかしよう。 凍弥 「なぁふたりとも。いっそのこと停学中はここに住むか?」 志摩 『なに!?』 なんと!今までダラケていた志摩兄弟がババッと勢いよく起きあがった! ……だからといって、どうだってこともないんだけど。 心意気の問題だな、心の中ででも叫べば元気も出るってもんでしょう。 ……多分。 浩介 「それは本気で言っているのか?」 凍弥 「本気。一応寝るスペース余ってるし」 浩之 「この部屋で寝止まりをしろというわけだな?」 凍弥 「そうだけど」 志摩 『んん〜〜〜〜……オッケイ!!』 志摩兄弟は力を溜めてから言葉を放った。 ……多分、溜める意味はどこにも無いんだと思う。 浩介 「そうかそうか、それは画期的なシステムだ。     ここで寝止まりすれば些細な話題でも共用できる上に、食事がタダだ」 浩之 「そうだな。おまけに仕事場にも近い」 凍弥 「……えっとさ、お前らってなんの仕事してたんだっけ」 浩介 「………」 凍弥 「いや!目を逸らすなよ!なんか気になるじゃないか!」 浩之 「まあ不正なことではないのは確かだ」 凍弥 「………」 まあ信じるしかないんだけどさ。 凍弥 「で、どうする?布団だけならあるけど」 浩介 「ああ待て、待て……!我は枕が変わると眠れぬのだ」 凍弥 「子供かお前は!」 浩介 「うむ、生粋の子供だ。二十歳までは子供だと聞いているぞ」 凍弥 「……屁理屈って知ってるか?」 浩介 「初めて聞く言葉だな」 凍弥 「………」 それはそれですごいけど。 浩介 「それではな、同志。我らは枕を持ってくる」 浩之 「楽しみに待っているがいい」 凍弥 「そんなもん楽しみに待てるかよ……」 浩介 「貴様!我に死ねというのか!」 凍弥 「どうしてそうなるんじゃい!!」 浩之 「枕を持ってくるんじゃないと言ったのではないのか?」 凍弥 「んなこと一言も言ってないだろうが……。     大体なんでそれで死ぬことになるんだよ」 浩之 「不思議だな、イリュージョンだ」 凍弥 「…………解った、解ったからさっさと行け」 浩介 「なんだそのダレた態度は。いい大人になれんぞ?」 凍弥 「お前に言われたかないわい!」 ぐだぐだ言う志摩兄弟を追い出し、停学中の課題を引っ張り出して溜め息を吐いた。 それは自分で吐いておいて『重苦しい溜め息だなぁ』と思ってしまうほどのものだった。 乗り気じゃなかったので勉強道具を仕舞うと階下へ降り、 適当にテレビのチャンネルを回した。 すると、丁度悲惨な場面が映し出されていた。 男  『生中継でお知らせします!ごらんください!先ほど落雷が落ちた場所です!     天気である今日にしては考えられない落雷だったようです!     ひどいですね……大きな大木が真っ二つです!』 画面に映し出されたのは……彰衛門の住処だった。 大きな大木は黒くコゲ、部屋となっていた場所の原型は無い。 そこらへんに落ちている、コゲた物体などが痛々しかった。 男  『これは……アルバムでしょうか?ヒドイですね、ボロボロです。     しかしどうしてこんなところに』 声  『オガアアアアアア!!!!』 男  『うわっ!?うわあああああああっ!!!!!』 突然の出来事だった。 黒コゲの謎の物体が起き上がり、お報せしていた男に襲いかかったのだ。 黒コゲ『貴様かぁ!貴様がアタイの大事な家を焼き払ったのかーーーっ!!!!』 男  『うわああ!!な、なんだこいつ!た、助けてくれえええええ!!!」 黒コゲ『返せ!アタイのマイホームを返』 ブツッ───…… 凍弥 「…………」 画面は暗転し、その後に砂嵐が流れた。 彰衛門……だよな、今の……。 なにやってんだか……。 ───……。 浩介 「しかしアレだな、ブラザーよ。同志も遠慮なく怒るようになったものだな」 浩之 「そうだな。それだけ遠慮無しにぶつかってきているのだろう。いいことだ」 鈴訊庵から追い出された我らは、アパートまでの道のりをのんびりと歩いていた。 もちろん枕を持ってくるためである。 それ以外になんの用があろうか。 浩介 「なあブラザー、同志と付き合い始めてどれくらいになるだろうか」 浩之 「そうだな、かれこれ4、5年あたりだろうか」 浩介 「5年はいきすぎだろう。同志と会ったのは中学二年の初春だ」 浩之 「うむ、そうだったな。あの頃の我らはひどく暴力的だった」 浩介 「言葉遣いも赤裸々撲殺乙女に殴られたことを理由に、心機一転として」 浩之 「あれからだな、我らが変われたのは」 浩介 「……そうだな」 我はブラザーとともに空を見上げてみた。 なんの意味も無いその動作は、当然の如く意味が無い。 浩介 「………」 恐らく、同志をあそこまで信頼できることには理由がある。 ───ひとつ。 我らはきっと、自分達の人生のきっかけとなってくれた同志の存在が嬉しいのだ。 ───ふたつ。 同志がどうしようもないお人好しだということ。 ───みっつ。 ……みっつ目は恐らく、我らでさえ覚えの無い何かなのだと思う。 中学二年の時に初めて同志と会った時の感覚は、未だに消えていない。 それがなんなのかは解らないが───恐らくそこに、 苛立っていた我らが、敢えて同志に声をかけたことの意味があるのだと思う。 浩介 「よく解らんがな」 浩之 「なにがだ?ブラザー」 浩介 「同志の真似だ。よく言ってるだろう、『解らん』系を」 浩之 「そうだったか?覚えがないが」 浩介 「無理に思い出せとは言わんさ。とっとと帰るぞ」 浩之 「任せろ」 ブラザーと頷き合い、我らはそのままの速度で歩く。 急ぐことでもない。 問題があるとすれば、シャンポリオンが出した宿題の量だ。 夏休み以上にある。 同志やおっさんの手を借りてでもさっさと終わらせなくては。 ───む。 浩介 「おお、やはり考え事をしていると時が経つのは早いな。もうアパート前だ」 ふと気づけば、既にアパートの前だった。 浩之 「ボケたのかブラザー。もっと前を見て歩け」 浩介 「そういう意味ではないわ」 言いつつも、我が家のドアを開け─── 浩介 「なっ……」 浩之 「なにっ……!?」 ドアを開けてすぐにある筈だったぬいぐるみが無かった。 そればかりか、部屋の中に何も無くなっているのだ。 浩介 「馬鹿な……!また泥棒でも入ったというのか!?」 浩之 「ここまで綺麗に持ってゆく泥棒が居るものか!部屋を間違えたのだろう───」 ブラザーが部屋から出てネームプレートを確認する。 だが…… 浩之 「馬鹿な……我らの名前すら無いぞ……」 浩介 「なに……?」 我は慌てて部屋を出て、プレートを見た。 だが、ブラザーの言う通り、そこには我らの名前は無かった。 ただ白い空間があるだけだ。 ……どういうことなのだ。 浩之 「ブラザー……これは……」 浩介 「待て……どうなっている……?家賃はちゃんと払っていた。     大家との仲も悪いものじゃあなかった。だとしたら……───!?」 ふと、最悪の事態が頭の中に浮かんだ。 浩之 「ブラザー、まさか……!」 浩介 「そのまさかだ!親父達に場所がバレた!     ここを離れるぞブラザー!同志のところへ戻るのだ!」 浩之 「了解だ!」 我らはわき目も振らずに走った。 そんな余裕は無かったからだ。 もうあそこに戻るのは嫌だ。 敷かれたレールの上を走る馬鹿にはなりたくない!! 浩之 「しかしブラザー……!何故今になって……!」 浩介 「我の考えだとこうだ……。親父達は既に我らの居場所など突き止めていた……。     だが余裕を見せて我らを放置していたのだろう……。     だが……親父達にとって、見過ごすことの出来ない事態が起こった……!」 浩之 「───!我らの停学か……!」 浩介 「そういうことだ!結局あいつらは何も変わってなどおらぬ!     自分達の立場のことしか考えておらぬのだ!」 キィッ!! 浩介 「───!しまった……!」 曲がり角から車が飛び出した。 我らは余裕で立ち止れたが、その車自体が疫病神の塊だった。 ドアが開かれ、そこから懐かしい顔の男が降りてきた。 チット「……お迎えにあがりました。旦那さまと奥様がお待ちですよ」 浩介 「オチットさん……」 オチット=ヘルパース。 俺が子供の頃……いや、もっと前から家に仕えているおばさんだ。 あの家で唯一、親父とオフクロの頭が上がらない人。 浩之 「なんの用だ、オチットさん」 チット「ですから、お迎えだと申し上げましたでしょう。     あまり何度も言わせないでくさいませ、頭が回って倒れてしまいます」 浩介 「我らに『帰れ』と言っているのか?」 チット「なんと申し上げましょうとも、連れて帰ると申し上げているのですよ」 志摩 『くっ!』 ブラザーに目配せをして、一気に駆けた。 だが、走った方の道にも車が止まる。 浩介 「くっ……!貴様ら!ここは駐停車禁止だぞ!」 チット「あらあらそうですね、これはいけません。ではさっさと乗ってくださいませ?」 浩之 「断る!」 ガチャッ…… 浩介 「───む!?」 先ほど止まった車のドアが開く。 そこから出てきたのは───ひとりのメイド服を着たおなごだった。 確かな見覚えがある。 だが、シルフィーが使用人になったなどとは信じられん。 ラチェット=シルフィートは……我らの幼馴染はそんな者ではなかった筈だ。 おなご「お帰りください、浩介さま、浩之さま。旦那さまと奥様がお待ちです」 浩介 「断る!オチットさんの申し出を断ったというのに、     誰が貴様などの言葉を受け入れようか!!」 おなご「……受け入れてくださらなくて結構です。どうぞお帰りください」 浩之 「ちぃっ……!」 仕える者というのは何故、こうも平坦なのだ! 人と話している気がせぬわ! 浩介 「………」 チット「如何なさいました?」 オチットさんは別だが。 気のいいおばさんって感じだ。 だが融通が利かないのがキズだな。 佐古田「……なんの騒ぎッス?」 浩介 「……どこから沸いて出た、佐古田好恵」 佐古田「今日の授業はもう終わったッス。ならばこそ、普通に下校するのは激当然ッス。     だというのに、帰路にこんな車が止めてあれば誰だって疑問を抱くものッス」 浩之 「なるほど、正論だ。ところで佐古田好恵よ」 佐古田「なにッス?」 浩之 「ものは相談なんだが、このふたりをなんとかしてくれぬか?     我らも突然囲まれてな、迷惑を蒙(こうむ)っていたのだ」 佐古田「そうッスか。知ったこっちゃねぇッス」 浩介 「き、貴様!おのれ役立たずめ!失せろ!」 佐古田「おー失せるッス。なんの騒ぎか知らねぇッスが、もっと静かにやれッス」 ……佐古田が去って行った。 チット「まあまあ……あまり良いお友達が居ないようですわねぇ」 浩介 「ほっといてくれ。それも、我らも」 おなご「そうは参りません。おふたりには何が何でも戻っていただきます」 浩之 「ええい!なんなのだ貴様!さっきから偉そうに!名を名乗れ名を!!」 おなご「───失礼致しました。     わたしは浩介さまにお仕えすることになっております、     ラチェット=シルフィートという者です」 志摩 『───……な……に……!?』 ラチェット……だと!? この冷徹なおなごが!? 浩介 「ふざけるな!シルフィーは貴様のような冷たい表情などしておらぬわ!」 シルフ「………」 ラチェット=シルフィートと名乗ったおなごは、我の罵声に目を閉じるだけだった。 それも『驚く』などのことではなく、ただ聞き流すように冷たく目を閉じただけだ。 このおなごがシルフィー……?信じられるか……! シルフィーは確かに大人しい方だったが、 このような冷たい表情のおなごではなかったわ……! チット「それで、如何なさいますか?     力ずくで連行してさしあげるのも懐かしく思いますから、そうしましょうか?」 浩介 「解らぬヤツだな。帰らぬと言っている」 チット「そうでございますか?それでは、強制させていただきますよ」 ドシュンッ! 浩之 「!き、消え」 ビスゥッ!! 浩之 「かはっ!」 浩介 「ブラザー!?」 ブラザーの声に振り向けば、ブラザーの項部分に手刀を落としているオチットさん。 ───そうだった。 オチットさんは並大抵の使用人ではないのだ。 我らに護身術として喧嘩の仕方を教えてくれたのもオチットさんだった……! チット「はいはい、捕まえましたよ浩之さま」 ブラザーがヒョイと担がれる。 馬鹿な……!あれが齢100歳にもなるという者の力か……!? しかも100歳という割には顔はまだまだ『おばさん』程度……! な、何者……!? チット「さあ浩介さま。如何なさいますか?     浩之さまと同じ道を辿るのであれば、それは賢い選択とは思えませんよ?」 浩介 「くっ……」 どうする……! 確かに我の実力ではオチットさんには『確実に』勝てない……! だが───あのおなごはどうかな!? ……だが我とておなごに手をあげる気はない。 観念するしかないだろう。 浩介 「オチットさん、ひとつ聞かせてもらえぬか」 チット「まあまあ、なんでございましょう?」 浩介 「そのおなごは……間違い無くシルフィーなのか?」 チット「ええそうです。間違い無く、ラチェット=シルフィートでございますよ」 浩介 「………」 シルフ「………」 信じられん。 だが、オチットさんは絶対にウソをつかない人だ。 ということは……そういうことなのだろう。 浩介 「……解った、一緒に行こう」 チット「まあまあ、物分りが良くて助かります。     流石におふたりを抱えるとなると、わたくしも腰にキてしまいますから」 浩介 「まさか、だろう」 チット「……なんでしたら、抱えましょうか?」 浩介 「遠慮しておく」 手刀を構え、目を光らせるオチットさんに対し、我は即答した。 どう足掻いても勝てんわ。 無駄な戦いはしないに限る。 それに……シルフィーをこんなおなごにした親父達に話がある。 佐古田「どこかへ行くッス?」 浩介 「まだ居たのか。失せろ」 佐古田「ご挨拶ッスね。行く末を言っておくッス。遺言になるかもしれねぇッス」 浩介 「おのれ佐古田好恵……いや、だが待て」 ……そうだな。 これが最後になるかもしれん。 そもそも、一度逃げてこれたのが奇跡だったのだ。 ならば─── 浩介 「同志に謝っておいてくれ。二度と会えぬかもしれん」 佐古田「───あんですと?」 浩介 「ではな。我は誘拐されたと言っておいてくれ」 佐古田「あ!ちょっと待つッス!激待つッス!     どういうことッス!?勝手に居なくなるなんて許さねぇッス!!」 チット「まあまあ大変、部外者に来られては旦那さまに叱られてしまいます。     どうぞお引取りを」 佐古田「なにッス!?ババアに止められるほど弱」 ビスッ! 佐古田「かふっ!?」 ……ドサッ。 佐古田好恵、戦闘態勢をとって、僅か0.1秒で撃沈。 刹那的な敗北だった。 チット「それではいきましょうか。ラチェットさん、あなたも乗りなさい」 シルフ「はい、オチット婦長」 シルフィーが向こう側の車に乗ると、やがて車は動き出した。 ……この日、我らが見た見慣れた風景は、 佐古田好恵が倒れている場所という、なんとも奇妙な風景だった─── ドカァーーーン!!! 凍弥 「おわっ!?な、なんだぁ!?」 突然の出来事だった。 自室のドアが思いきり蹴り開けられたのだ。 そして現れたのは─── 佐古田「なんだじゃねぇッス!!なにッスあれ!?答えるッス!!」 ……佐古田だった。 凍弥 「さ、佐古田!?テメェいきなりなにしやがる!!」 佐古田「それはこっちのセリフッス!二度と会えないってどういうことッス!?」 凍弥 「そんなこと言った覚えがないぞ。脳内でカビでも栽培してるのかお前は」 佐古田「ふざけてる場合じゃねぇッス!!志摩浩介がそう言ってたッス!!     霧波川凍弥にそう伝えてくれって言ったッス!!」 凍弥 「なに……?」 浩介が……? 凍弥 「それで……浩介と浩之はどうしたんだ?」 佐古田「連れ攫われたッス」 凍弥 「連れ攫われた、って……お前!それを見てて何もしなかったのか!?」 佐古田「したら手刀くらったッス!人である以上、気絶して何が悪いッス!!     気絶の文句は生体理論に言えッス!!」 凍弥 「……だとしても警察に連絡するとかだな……」 佐古田「攫われたっつっても身内っぽかったッス。     警察呼んだらアチキの感性疑われるッス」 凍弥 「既に疑われる感性なんて持ってないだろうが……」 佐古田「失礼極まりないッスね……。まあいいッス、とにかく伝えたッス。     まったくなんでアチキが伝言役なんかやらなきゃならねェッス?     お人好しになっちまったもんッス……」 凍弥 「待て、攫ってったヤツの手掛かりとかは無いのか?」 佐古田「ん……車に大きな鳥の絵があったッス」 凍弥 「鳥?」 鳥って……漠然に言われても解る訳が無い。 でも大抵が鷹だよな、何故か。 佐古田「書くモノがあれば正確に書いてやるッス」 凍弥 「書くモノならあるけど。出来るのか?」 佐古田「まあ見てるッス」 佐古田にシャーペンと紙を渡す。 佐古田はそれを受けとって、軽い手取りでサラサラと何かを書き連ねていき─── 佐古田「ホレ、これッス」 バッと見せた絵は、確かに鳥の絵だった。 しかもかなり上手い。 これは意外な才能だ。 凍弥 「ところで……なんの鳥だ?これ」 佐古田「知らねぇッス」 凍弥 「どこのマークか見当つくか?」 佐古田「つかねぇッス」 凍弥 「……つかえないヤツ」 佐古田「あんですとーーっ!?」 だが解らんのは俺も同じだ。 ……よし、ここは家の中の情報通、与一に訊いてみよう。 ───というわけで…… 遥一郎「……ああ、こりゃレイヴンだな」 凍弥 「レイヴン?」 遥一郎「ああ。北方で見られる鳥だ。カラス並に頭がいい強かなヤツさ」 凍弥 「頭がよくてしたたかな鳥……?」 むう、そんな軍団に連れ攫われたのかあいつらは。 しかも身内っぽかったって…… 遥一郎「それがどうかしたのか?」 凍弥 「あ、いや、ちょっとね」 遥一郎「?」 ───……。 ───さて困った。 この鳥がレイヴンってのは解ったが…… このマークの車の持ち主がどんな者なのかが解らんぞ……? 柾樹 「どしたい、シケた顔して」 凍弥 「んあ?ああ、父さんか。って、仕事は?」 柾樹 「気力充実のオフ日ってヤツだ。お前は……停学だったな」 凍弥 「………」 柾樹 「気にするな気にするな。宿題を糧に夏休みが伸びたって思えばいい。     で?そのことで悩んでたってわけでもないだろ?」 凍弥 「ああ……なぁ父殿よ。このマークって知ってるか?」 柾樹 「ん?」 俺は佐古田が描いた鳥の絵を父さんに見せた。 破れかぶれってこともあったが─── 柾樹 「───これって……おい、これ、何処で見た?」 凍弥 「へっ?」 父さんはまるで知ってるような口振りだった。 凍弥 「し、知ってる……とか?」 柾樹 「知ってるもなにも……あ、いや、それよりも何処で見た?」 凍弥 「俺じゃなくて佐古田が見たって。で、志摩兄弟が連れ攫われたらしい」 柾樹 「あいつらが?なんでまた」 凍弥 「佐古田が言うには身内っぽかったって……」 柾樹 「身内!?身内だって!?あいつらが!?」 凍弥 「と、父さん!?」 父さんは心底驚いたように叫んだ。 そして頭を軽く掻きながらブツブツと呟き始める。 凍弥 「……おーい、父さーん……?」 柾樹 「……母親の顔が見たいな」 凍弥 「へ?」 柾樹 「そーかそーか、そういえば町内にデカい家が建ったって聞いたな。     それがそうだったのか……そーかそーか……しかし、志摩兄弟がねぇ……」 凍弥 「………」 なんのことだかさっぱりだった。 柾樹 「なあ凍弥、志摩兄弟は確か、親が嫌いで逃げてきたんだよな?」 凍弥 「そうだけど」 柾樹 「で、さっき連れ攫われたと」 凍弥 「ああ……」 柾樹 「……そろそろ時期だからだろうな。ま、気持ちは解る。     最初に言っておくが、相手は志摩兄弟を嫌っているわけじゃない。     ふたりが親のことを嫌いなのは一方的な気持ちも混ざっていると思う」 凍弥 「……どうしてそう思うんだ?」 柾樹 「直感だ。アテにはならんけど」 ますます解らん。 最近こんなのばっかりだ。 柾樹 「まあそんな訳だ。会いたいなら町内の北側の……お前も聞いたことはあるだろ?     以前建ったってゆうバカデカい家のこと」 凍弥 「そりゃあね、有名だし」 柾樹 「あそこに行ってみろ、志摩兄弟はそこだ」 凍弥 「……なんでまた」 柾樹 「それは自分で調べるんだな。ただし」 凍弥 「ただし?」 父さんは意味ありげに笑って、俺の背中をバシンと叩いた。 柾樹 「何があっても志摩兄弟を信じてやれ。あいつらが何者であってもだ」 凍弥 「愚問」 柾樹 「即答だな……ま、そんなところだ。それと、門前払いされても気にするなよ」 凍弥 「OK」 俺は頷いて、その場から駆け出した。 柾樹 「……ま、なんとかなるだろ」 最後に、父さんのそんな呟きを聞きながら。 Next Menu Menu