───ホームレスタオチェイ───
ドコントドコトコ♪ 彰利 「ルパンザサ〜〜〜ド♪」 でっでげって〜ん♪で〜っでっで〜ん♪ でっでげって〜ん♪で・でげって〜ん♪ ズリャアボグシャア!! 彰利 「ギャアア!!」 アタイは塀から落ち、見事脇腹を強打した。 彰利 「グウウ……!やはりルパンのようにはいかんな……」 ちなみに現状といえば、義賊として働こうとしているアタイなのである。 ……訳が解らん。 彰利 「いえですね?つまりですね?アタイは金持ちから金品強奪してですね?     お金の無いカワイソウな人に渡してあげようと思っているのですよ猫さん」 猫  「ニャー」 カシャッ、キュイーン…… この家に来てから、何故かアタイに付き纏う猫さんに説明してやる。 ……もちろん、そのカワイソウな人ってのはアタイである。 だってねぇ、アタイのマイホームがバラバラで、 アタイが謎の物体とか言われて捕獲されそうになるんですもの。 ダーリンの部屋の押し入れからはとっくに追い出されたし、 だから小僧の家に寄生しようと思ってこの街まで来たけど、なんか嫌じゃったし…… 行くアテが無いからホームレスに逆戻りじゃわい。 だから決めたのだ。 アタイは義賊になって、アタイに幸せを配ると! だって義賊ってみんなに喜ばれる存在だって習ったもの。 だからきっと、今からアタイがすることは悪いことじゃないのよ。 そしてこの家は絶対悪の秘密結社の根城だ。 今アタイが独断と偏見と実力行使で決めたネ。 彰利 「しかし猫さん?なんで目がレンズなの?」 猫  「ニャー」 カシャッ、キュイーン…… 猫さんの目が動く。 うん、まるでロボットみたいな猫さんだ。 なんかカメラでズームするみたいに伸びてるし。 彰利 「不思議な人も居れば不思議な猫も居る。差別はよくないよね」 猫  「ニャー」 カシャッ、キュイーン…… 彰利 「はっはっは、素直ないい猫さんだ」 猫  「ニャー」 彰利 「だがごめんよ猫さん、アタイに懐いてくれるのは嬉しいんだが、     アタイはこれから善行をしなきゃならんのですよ。     ここから先はきっと危険だ。だからここで待っていておくれ?     あとでドッグフードあげるから」 猫  「ニャー」 カシャカシャ…… 彰利 「あ、猫だからキャットフードかぁ、はっはっは、ごめんよ」 猫  「ニャー」 アタイは素直に返事をしてくれる猫さんを持ち上げてみた。 スマートなのに結構ズッシリとくる。 彰利 「キミ、もしかして見かけによらずデヴ?」 猫  「ニャー」 彰利 「しかも持ち上げた時に『ウィーン、ガション』って鳴ったし」 猫  「ニャー」 彰利 「はっはっは、そんなわけないよね。忘れておくれ猫さん」 猫  「ニャー」 彰利 「それじゃあね、猫さん。アタイは行くよ」 猫  「ニャー」 アタイは猫さんを地面に置き、塀を軽く飛び越えた。 随分な高さだが、どうってことはない。 ───ガションッ!! 彰利 「ややっ!?」 猫  「ニャー」 着地した部分が陥没するほどに大きな音を立て、猫さんが雄々しく着地した。 彰利 「あらら、ついてきちゃだめだよ猫さん。ここからは危険なんだから。     もしかしたら警備の方々が銃を持ってるかもしれないから、ね?」 猫  「ニャー」(ふるふる) 彰利 「なんと……アタイについてきてくれるというのかね?」 猫  「ニャー」(こくり) 彰利 「そ、そうか……!アタイ、ひとりぼっちじゃなかったんだね……?     ついておいで猫さん、キミはアタイが必ず守る」 猫  「ニャー」 こうして、アタイと猫さんは悪の秘密結社(強制)、 『レイヴナスカンパニー』とやらに乗り込むこととなったのだった───!! チット「───どうぞ、こちらです」 オチットさんが案内してくれた部屋は、予想通りに大きなものだった。 そして───その奥。 日の当たる大きな椅子から立ち上がる影を見やり、息を吐いた。 我が親父、カフェイン=レイヴナスを見て。 フェイ「久しいな、浩介。いや、リクスと呼ぶべきか」 浩介 「浩介だ。我はレイヴナスとは関係無い。浩之もだ」 フェイ「浩之、か。私はニクスと名づけたが、あいつは許さなかったな」 浩介 「我の名前とて、貴様がつけようとして却下されたものだろう」 フェイ「……気の強いヤツだからな、あいつは。     苗字もレイヴナスではなく各務にしてしまった。     カンパニーの妻である自覚が無いのかどうなのか」 浩介 「……親父殿よ。     我は貴様のその、『なんでもカンパニーに結びつける』ところが嫌いなのだ。     母は母で我らを縛りつけようとする。我らの意思を完全に無視して楽しいか?」 フェイ「そんなことは言ってないだろう」 親父は椅子から離れ、我の傍に来るでもなく、うろうろと歩き始めた。 しかし姿勢は崩さず、ピンとした歩き方。 反発精神とでも言うのだろうか。 我は、そんな『形式に囚われた父』も嫌いだった。 浩介 「親父……ここに居るのは我と貴様だけだろう。姿勢くらい崩したらどうだ」 フェイ「そういうわけにもいかない。どこでオチットさんが見ているか解らんからな」 浩介 「………」 親父はそれだけ言うと、再び陽の光を背にして、椅子に座った。 大きな机に肘をつき、頬杖をつくような感じで我を見る。 女どもがやるソレと違うところは、 それがドラマなどの社長が相手を見る時にとる格好だということだ。 あくまで険しい目で我を見据えるその目は、 人の気持ちを見透かすような嫌な視線だった。 フェイ「さて、どうして呼ばれたか解っているな?」 浩介 「知らないな」 フェイ「……そうか。しらばっくれるのは勝手だ。     だが今までお前らを自由にさせてやっていたのは、     そんな言葉を聞くためじゃない」 浩介 「じゃあなんのためだ」 フェイ「私は既に、お前と浩之にそれを教えた筈だがな」 浩介 「なに……?」 フェイ「もういい、下がりなさい。     それと……お前が通っていた学校には退学届を出しておいた。     あの学校ではダメそうなのでな」 浩介 「…………そうか」 フェイ「驚かないんだな」 浩介 「あんたのことだ、そうすると思っていた」 それだけ言って、我は部屋をあとにした。 まったく不愉快にさせてくれる男だ。 こうまで予想通りにしてくるとは思わなかった。 浩介 「………」 これ見よがしに大きな廊下を歩く中、 無意味に大きい窓から見える外の景色を見て、脱走を想像した。 だが……以前とは比べ物にならないほどの警備に、重い息を吐いただけだった。 ドコントドコトコ♪ 彰利 「ルパンザサ〜〜〜〜ド♪」 でっでげっビーーーッ!ビーーーッ!!! 彰利 「ゲゲェーーーッ!!!」 屋敷に近づいた途端、警報が鳴り響いた。 な、なに!?なんなの!?気配は完全に断っていたのに一体誰が!? 猫  「ニャー」 カシャッ、キュイーン…… 彰利 「気をつけろ猫さん!見つかってしまったようだ!」 猫  「ニャー」 ───……。 メイ 「オチット婦長、庭園に侵入者です」 チット「まあ大変、発見したのは誰?」 メイ 「猫型監視カメラのミーアです。3番モニターをご覧ください」 チット「まああ……大変、本当ですね。     それではメイさん、引き続き監視をなさってくださいね。     わたくしが出てきます」 メイ 「はい、オチット婦長」 ───殺気!! 彰利 「誰だ!!」 ババア「まあ大変、気づかれてしまいました」 彰利 「き、貴様……いつの間にそこに!?」 まるで気配を感じなかった……! 今の殺気とて、恐らくは故意に出したものぞ……!? ババア「申し遅れました。わたくし、この屋敷で使用人の婦長を務めている者で、     オチット=ヘルパースと申します」 彰利 「な、なにぃ!?ウォーチットさん!?」 チット「オチットです」 彰利 「……タイムマシンとは関係ないの?」 チット「今から数十年前に上映した映画ですね。わたくしも見ました。     ですがわたくしはオチット。ウォーチットではないのですよ」 彰利 「……長寿と繁栄を!」 アタイはそう言って逃げ出し チット「どこへ行かれるおつもりですか?」 彰利 「うぎゃああああっ!!!!!」 逃げ出した途端、その逃げ出した方向にオチットさんが居た!! は、疾い……!並の速さではない……!! 彰利 「き、貴様……何者だ!!」 チット「ただの使用人の婦長ですございますよ、ただの……ね」 ウソだ!絶対ウソだ!! 恐らくどころか確実に、こいつは戦闘のプロだ!! だって……!だってこの人の気配ったら……!! 彰利 「プレイスジャンプ!!」 キヒィンッ!! ───キィンッ!! 彰利 「くそ!迂闊だった!まさかこんなところに」 チット「なにがでしょう」 彰利 「聞いてくれよオチットさギャアアアアアアアア!!!!!」 衝撃!! 転移してからすぐ走った場所にオチットさんが!! 彰利 「き、貴様やはり……月の家系の者だな!?それも、消滅した筈の十三夜の!」 チット「───……」 彰利 「まさか生き残りが居たなんて知らなかったわ……!     カゴじいさんが最後ってわけじゃなかったんだな……!?」 チット「あなたさまは家系の人でございますか。     ですがわたくしにとってはどうでもいいことです。     あなたを旦那さまの屋敷に入れるわけには参りませんから」 彰利 「何故かね!」 チット「あなたさまはここに、どのようなご用があってお入りになられましたか」 彰利 「金品強奪」 チット「理由はそれで十分でございましょう」 そうかもしれません。 てゆうかそうですね。 彰利 「で……オチットさん?このアタイをどうやって止めるおつもりかな?     アタイは弦月の家系の末裔……     そして、この手に冥月刀がある限り、開祖以外に負ける気はしねぇぜ……?」 チット「まあ……それは大変。そのような物騒なものを持ち込まれては困りますね」 彰利 「驚くところはそこじゃねぇでしょ!     言っておきますけど邪魔するっつぅんなら手加減しませんよ!?」 チット「ああ怖い。それではさっさと退散して頂きましょう」 彰利 「いくぜオチットさん!」 チット「お手柔らかに」 こうしてアタイとオチットさんの壮絶なバトルは始った!! ───てゆうか 彰利 「強ぇええええええええっ!!!!」 バゴキャアアアアアッ!!!! ドカァッ!ザシャァッ!! アタイは吹き飛ばされながらそう叫んだ。 だってバアサンの動きじゃねぇよアレ! てゆうか瞬間移動出来る人と戦うの初めてだからやり辛いったらないね!! いや、それ抜きにしても滅法強いのよこの人!! チット「どうなされました?わたくし、まだ一度も倒れておりませんよ?」 彰利 「お、おのれぇえええっ!!!」 そうなのだ。 オチットさんったら一度も姿勢を崩さずにアタイをボコボコにしてくれちゃってるの。 無駄な動きが無いんです。 ブラストとか撃ってみても、時間蝕でブラストの時間を巻き戻されて抹消させられるし。 間違い無い……このお方、戦い馴れしております……! 彰利 「バアサンなどに負けてなるものか!意地でも潰してさしあげます!     若人の!そして男の尊厳の名の元に!!」 チット「まあ。それでは若い姿でお相手致しましょうか」 彰利 「なにぃ!?」 オチットさんはそう言って目を閉じた。 その途端にオチットさんの時間が巻き戻されるのを感じた。 ───いや、オチットさんの『成長』の時間が巻き戻されている! 俺がずっとこの姿でいられるのと同じ原理だ。 やがてオチットさんは─── チット「では、お相手致します」 ───恐ろしいことに、アタイ好みのおなごに変身しておりました。 その事実に驚愕した刹那!! ビスゥッ!! 彰利 「がはっ……───!!」 アタイの項部分に、瞬間移動してきたオチットさんの手刀が落とされた。 すげぇ……オチットさん、アンタすげぇよ……───ドサッ。 ───……。 メイ 「名前は弦月彰利さま。性別は男。髪の色は黒で、目は茶色。     好きなものはレタス、嫌いなものはキャベツ。間違いはありませんか?」 彰利 「ねぇザマス」 捕らえられたアタイは、抵抗も虚しく完全に牢獄行きでした。 もっともこんなところに入れられてもプレイスジャンプで逃げられるんですが。 メイ 「それでは訊きます。何故この屋敷に侵入なされましたか?」 彰利 「フハハハッハッハッ!俺はなんにも喋らねぇぜ……!     見た目はこんなにプリティだが……中身は筋金入りよぉ!!」 で、現在はメイ=レラミュートと名乗ったおなごに尋問されてます。 蒼髪という、変わったおなごさんです。 訊いてみたけど、これは生まれつきだそうで。 だったらアタイが言うことなんてねぇズラ。 染めたとか脱色とかぬかしやがったらお仕置きでしたが。 彰利 「しかしショックだ……。いくらアタイ好みのおなごでも、     歳をとればあんなバーサンになってしまうなんて」 メイ 「……オチット婦長の過去の姿を見たのですか」 彰利 「うむ。ちなみにアタイも同じことが出来ますぞ」 メイ 「そうですか。ここでは人種差別はありません。どうぞご披露なさってください」 彰利 「………」 平坦ってゆうか……覇気の無い場所やねぇ。 ある意味では自由とも言えなくもないが…… 彰利 「メーイちゃん♪」 メイ 「なんでしょう」 彰利 「タッチ♪」 ふよん。 メイ 「……なにか?」 彰利 「マジですよ!やっぱマジだ!!」 胸に触ってもなんの反応も無しッスよ!! イヤよこんな世界!人形!?アナタ人形!? 彰利 「メイさん!ここは『キャーッ!』とか言うべきでしょう!!     なに表情崩さずに『なにか?』なんて言ってるの!!」 メイ 「……申し訳ありません。     わたしには生まれつき、『感情』と呼べるものが無かったそうなのです。     ですからあなたの言うことは理解できません」 彰利 「なんと……!」 感情が無いとは……なんてこったい……! 猫  「ニャー」 メイ 「……ミーア」 む?猫さんじゃねぇの。 ……そっか、この家の猫だったんか。 彰利 「その猫、メイさんの?」 メイ 「はい」 メイさんは猫さんを抱え、その頭を撫でた。 彰利 「あの……メイさん?その猫重くない?」 メイ 「重いのですか?知りませんでした。     ですが重いのは当然です、機械なのですから。ミーアも、わたしも」 彰利 「───はい!?」 き、機械!?機会!?奇怪!?どのキカイ!?え!?え!? 彰利 「え、えーと!?あの……メイさん!?アナタってば……」 メイ 「アンドロイドです。詳しく言えばレプリキュート・ヒューマン。     レイヴナスカンパニーが極秘裏に開発する人型の機械。     わたしはそのプロトタイプです」 彰利 「……な、なるほど……感情が無い、ね……」 理解しました。 機械に人間の感情の再現をさせるのは大変そうだしな。 それに感情を埋め込んだとしても、一定のことしか出来そうにない。 メイ 「旦那さまはわたしに、最新のAIを組み込んだと仰られました。     ですがわたしは不良品だったようです。感情が生まれません」 彰利 「むう……」 目の前のメイドさんは目を伏せて見せた。 それは感情から来るものなんじゃないのか、と聞いたが、 そうプログラムされているだけですと答えられた。 彰利 「ぬうう……!」 いかん……これはいけませんよ? アタイとしてはこのようなおなごは放っておけません。 彰利 「メイさん。あなた、専属のご主人サマって居る?」 メイ 「識別コードを検索……───いえ、該当がありません」 彰利 「旦那サマってのは?」 メイ 「旦那さまは旦那さまです。ご主人さまとは違います」 彰利 「そっか……では命じます!     メイさん!あなた……アタイの専属メイドになりなさい!」 メイ 「───」 ピタッ、と。 メイさんの動きが止まった。 彰利 「……メイさん?」 メイ 「……何故、わたしにそう言うのかをお答えください」 彰利 「そう?……ああ、メイドになれって言ったことか。ほっとけないから」 メイ 「ほっとけない?何故でしょうか」 彰利 「んー……ほら、感情が無いのって可哀相じゃん。     感情があれば笑ったり泣いたり出来るんですよ?     メイさんにはそのための『何か』が組み込まれてるのに、     それを開花させないのはもったいないよ」 メイ 「開花……それは人間に対して通用される言葉です」 彰利 「いいの。アタイから見ればメイさんの方がよっぽど人間です。     まずはそこから始めましょう。よいかねメイさん。     あなたは人間だ。まずはそう思いなさい。感情なんて後から付いてくるさね」 メイ 「わたしが……人間……?」 メイさんは顔を俯かせてしまった。 だがパッと顔をあげると、牢獄の鍵を開けてくれた。 彰利 「メイさん……」 メイ 「申し訳ありませんが、やはりわたしは機械です。     それに、持ち場を離れるわけには」 彰利 「メイさん!」 ぎゅむ! メイ 「……なにか?」 彰利 「む」 メイさんを抱き締めても、大した反応は無し。 てゆうか……やーらかいなぁ。 ほんとに機械ですか? どれ…… メイ 「……あの?」 彰利 「いや、軽いって絶対」 メイさんは軽々と持ちあがった。 やっぱウソでは? 彰利 「メイさん、正直に答えて。ホントは人間でしょ」 メイ 「いえ、機械です」 彰利 「ウソおっしゃい!!」 メイ 「わたしはウソがつけるようには出来ていません。     訊かれたことは答える義務があります」 彰利 「グ、グムーーーッ!!」 マジですか!? ほんとに機械なんですか!? し、信じられーーーん!! メイ 「失礼します。そろそろ離して頂けないでしょうか」 彰利 「だめだ。抱き心地がいい」 メイ 「解りました」 ……だめです、嫌がろうともしません。 でも抱き心地がいいのは確かです。 てゆうかアタイ、容赦無しに変態ですか? 初対面のおなごの胸触ったり抱き締めたり…… ああ、なんだか黙秘権も無さそうなダメっぷりだ。 てゆうかどの時代でも似たようなことやってんのね、俺って。 考えてみりゃあ夜華さんの胸も触ったっけ。 うむ、あれは実にビッグボインだった。 それも大き過ぎず、バランスのとれたビッグボイン。 …………いかん、マジで変態だ。 変態オカマホモコンが核心になりつつある。 ってゆうか……なってる? 彰利 「むう、このままではいかん。よいですかメイさん。     今からアタイが、あなたに人としての在り方を教えます。それを覚えてくれ」 メイ 「ですがわたしは」 彰利 「しのごの言わない!」 メイ 「かしこまりました」 彰利 「グウウ……!!」 少しもどもりませんよメイさんったら! ある意味すごいけどなんかイヤ!! というわけで! ドシュシュ!!バオバオッ!ビッ!ブバッ!! でげででげででげでで〜ん♪ 彰利 「うむ!これでメイさんは人としての在り方を覚えたぞ!」 メイ 「一切理解出来ませんでしたが」 彰利 「なんと!?」 ダメだったようです。 彰利 「むう……どうしてもアタイに付いてくる気はないのかね?」 メイ 「申し訳ありません、あなたさまの心遣いは理解出来るつもりではありますが、     やはりわたしは機械です。それに頷くことは出来ません」 彰利 「そっか……ま、いいさね。     メイさんがどんなことを考えたかは解らんけど、     メイさんは自分で考えた上でアタイを牢獄から出してくれた。     アタイは……感情ってのはそういうものだって思ってるから」 メイ 「……これが感情、ですか?     わたしには多少の自己行動能力が認められていますから、     それを実行したまでですが」 彰利 「メイさん、これだけは言っておきますよ?     そうやって自分で考えて行動することが感情に繋がるのです。     そりゃあアタイだって人の感情の云々なんて知らんし、     別に知らなくてもいいと思ってる。     けどさ、自分で考えて行動することが悪いことだとは思わんよ。     誰にもそれを否定する権利なんてない。たとえゴシュジンサマであろうとね」 メイ 「そうでしょうか」 彰利 「こりゃあ俺の論理。記録する必要もない雑念ってとこさね。忘れていいよ」 メイ 「………」 感情を浮かべずにアタイを見るメイさんに向き直ると、 アタイは手をひらひらを動かした。 彰利 「そんじゃあな。縁があったらまた会いませう」 メイ 「そうですね、ごきげんよう」 最後まで感情の無さを見せつけるようなメイさんと別れ、 アタイは牢獄室から出ていった。 がしゃんっ! 自転車が音を立てて倒れた。 地面に降りて見つめる先には、信じられないくらいの豪邸。 呆れるくらいに大きいソレは、 いつ、誰の手で、どんな方法で作られたのかさえ疑わせた。 数瞬の間、呆けていた自分に気づくと両の手で頬を叩いた。 少々痛いがキツケにはなった。 凍弥 「………」 改めて見るその屋敷は自分の目で見て、 自分の視界の中に収めていても信じられないくらいの大きさだった。 本当にあいつらがここに居るのかと疑ってしまう。 が、そんなことは二の次でいい。 間違っていたら謝れば済むことだ。 やがて俺は、意を決して呼び鈴を鳴らした。 だが黒塗りの大きな門に備え付けられていたソレはなんの音も出さず、ただ沈黙を守る。 もう一度押そうと思い、手を軽く持ち上げた瞬間、 パネル式のスイッチの上にあった、黒い長方形のモノに何かが映し出された。 ソレが液晶の画面だと気づいたのは、声をかけられてからだった。 女の人『───初めまして、でよろしいでしょうか。     わたしはレイヴナスカンパニーの使用人を務めさせていただかせている、     メイ=レラミュートと申します。どのようなご用件でしょうか』 画面には蒼髪の綺麗な女の人が映し出された。 『あ……これ画面だったのか』と、馬鹿みたいな言葉を出した俺に、 メイと名乗った女の人はもう一度『どのようなご用件でしょうか』と繰り返した。 凍弥 「すいません、ここに───志摩浩介と志摩浩之が来てませんか?」 メイ 『少々お待ちください。     ───内部情報にアクセス───……検索コード【志摩】を入力。     ………………該当無し。そのような方は存在しません』 ……女の人は随分と変わった人だった。 だけど……浩介達がここに居ない……? 場所、間違えたかな。 ───いや、それじゃあ別の方法で訊いてみよう。 凍弥 「それじゃあ各務浩介と各務浩之。居ますよね?」 メイ 「レイヴナスカンパニーの跡取りのおふたりですね。存在します」 凍弥 「あっ……あと……とり?」 メイ 「おふたりにどのようなご用件でしょうか」 凍弥 「あ、いや……ちょっと待ってて……頭が混乱してる……」 ───マテ。 志摩兄弟がこの豪邸に住む人の跡取り……? ってことは息子、ってことだよな。 親のことがクズだとか言ってたけど、 跡を継ぐのが嫌だとか、自由がないからってことなのか? ああっ!訳解らん! 凍弥 「……でも、あいつらはあいつらだ」 そう、佐古田と同じだ。 親は親、あいつはあいつ。 佐古田と唯一違うのは、あいつらが完璧な『跡取り』ってところだが。 それでも関係ない、俺はあいつらの盟友だ。 凍弥 「ふたりに会わせてほしい。     あいつらに『盟友が会いに来た』って言えば解るから」 メイ 「少々お待ちください。     ───言語情報を送信───……確認。     申し訳ありませんが、旦那さまが拒否しました。お引取りください」 凍弥 「なっ!?そんなの納得出来るかっ!俺は父親に会いに来たんじゃない!     あいつらに会いに来たんだ!どうして親の了承が居る!」 メイ 「それは旦那さまがこの屋敷の所有者だからです。     旦那さまの許可無き者を案内するわけには参りません」 凍弥 「くっ……」 メイ 「失礼します」 ───ブンッ…… 液晶の映像が切られ、ソレはまた黒い壁になった。 凍弥 「……なんだってんだよ……!」 俺はどうすることも出来ず、ただその大きな門の前で立ち尽くしていた……。 …………。 浩介 「浩之は自室、だろうな」 自分の部屋に案内されて、以前のなんら変わり無いその場所を見て呆れた。 本来の自分の部屋は外国にあるが、 この部屋はその部屋そのもののように再現されている。 ……嫌らしい限りだ、 どうして自室だと言われて案内された場所に嫌悪感を抱かなければならないのか。 浩介 「……フン」 何度も脱出を試みたが、ガードマン(といってもメイド)に阻まれ、脱出が出来ない。 ガードウーマンとでも言えばいいのか、このカンパニーでは男を雇うことは無いそうだ。 唯一例外が存在したのが、親父の執事だったアルフレッド=フルマドム。 もう引退したらしいが、親父はその人を信頼していたそうだ。 それがどうして、その例外を貫かずに女ばかりを雇うようになったのかは謎だ。 ……いや、恐らくはオフクロの差し金だろう。 オフクロ……各務菜歌(かがみ なのか)はあまり男が好きじゃない。 親父を愛したのが不思議なくらいだ。 ……正直、オフクロに比べれば親父はとっつきやすい方だ。 少なくとも親父は我らの言葉に耳を傾ける。 だが……あのオフクロという存在は別だ。 男の話には耳を傾けない。 それは我らの言葉とて例外ではない。 おかげで、我らは親の愛とやらを知らずに育った。 親父は日々忙しく、オフクロは我らの相手すらしてくれない。 そんな時、我らの母親代わりになってくれたのがオチットさんだ。 妙な話だが、我らは自分の母親を母親として思ってはいない。 オチットさんを母親だと思っているほどだ。 だが……血の楔とやらは外れないものだ。 どんなに足掻いても、それだけは絶対に変わることは無いのだから…… 浩介 「……いつまでそうしているつもりだ」 我はラチェット=シルフィートに声をかけた。 つまり、彼女がこの部屋に存在するガードウーマンだ。 邪魔なことこの上ない。 我が女に手を上げないことを知った上で、ドアの前に立っている。 シルフ「浩介さまがお諦めになられるまでです」 浩介 「……チッ」 心からの舌打ち。 何故、あのシルフィーがこんな性格になったのかが掴めない。 親父にそれを訊こうと思ったが、 さっさと退室命令を出されてはオチットさんに潰されかねない。 浩介 「話す気はないのか?」 シルフ「それが命令であれば、義務として答えます」 浩介 「脅迫紛いにしろって言いたいのか?」 シルフ「命令とはそういうものでしょう。言い返させて頂かせるのであれば、     浩介さまもいつまでその口調を通すおつもりですか?」 浩介 「………」 シルフ「………」 ソリが合わん。 口調はいつでも変えられるが、このシルフィーにそうするのはなにか癪だ。 浩介 「ああ、わかったわかった。     ようするにお前は俺に黙ってろって言いたいんだな?」 シルフ「そのようなことを申した覚えはありません」 浩介 「じゃあどうしろっていうんだ。今のお前、訳が解らない」 シルフ「それはわたしも同じです。浩介さまには以前存在した険が感じられません。     暗い闇を背負ったような浩介さまが、今の浩介さまの中にはもう居ない」 浩介 「……お前が変わってしまったように、俺も変わったんだ。     でも、そうだな。そう考えれば変わらないものなんてものが無い世界だ、     こうして変わってしまうの当然なのかもしれない」 シルフ「………」 浩介 「もういい、お前にゃ頼まん。俺は俺の力でまた脱出してみせるさ」 俺はそれだけ言うと、これだけはどうしようも出来ない新品のベッドに倒れ込んだ。 これだけはいくら似せようとしても、元の家から持ってくる以外に変えようがない。 他のものも実際はそうなのだろうが、 使う気の起きないものは傍観するだけで確かめる気にもなれるはずもなく。 ようするに俺にとっては結局、『似たようなモノ』なのだ。 見た目で違いが解らないのに、 確かめる気も起きないのなら、あれは俺の記憶の中にあるソレそのものでしかない。 浩介 「……つまらないな。なんてつまらない場所だ、ここは……」 そうひとりごちして、俺は目を閉じた。 シルフィーから逃げ出す方法なんていろいろある。 あとはそれをのんびり実行するだけだ。 その内、親父にシルフィーのことを訊く機会も巡ってくるだろう…… Next Menu back