───マルボロ好きのあの覇王───
バゴドゴボゴドゴゴシャグシャベゴシャアア!!! 彰利 「ギャアーーーッ!!!」 甘かったッス!この人強い!強すぎ!! よもや弦月の血を持つアタイがこうもボコボコにされるとは……!! し、しかもアタイ、結構本気ですよ……!? おなご「なかなか楽しませてくれるな。     最近はこういうことがなかったから退屈していたんだ。     立て、付き合ってもらうぞ」 彰利 「ち、ちくしょおーーーっ!!!馬鹿にしやがって!!!     こうなったらもう知らん!全力でいきますよ!?」 おなご「なんだ、全力じゃなかったのか。だったらさっさとそうしろ」 彰利 「ギムゥーーーッ!!!」 挑発している自覚の無いおなごに向かい、アタイは構えた。 右手を突き出して大きく広げ、左手は右腕に添え。 やがて崩壊のイメージを腕に託して一気に放つ!! 彰利 「アルファレイドカタストロファーーーッ!!」 おなご「遅い」 彰利 「なにっ!?」 ドボォッ!! 彰利 「ごはっ……!!」 おなごの拳が俺の鳩尾にめり込んだ。 たまらずに蹲り、月生力を流し込む。 くそっ……!放てる隙がねぇ……! 彰利 「アータ何者!?このアタイがこうも無様にされるとは……!     許せん!名を名乗られませい!……あ、アタイは弦月彰利」 おなご「……無礼なのか礼儀正しいのかよく解らん男だな」 彰利 「ほっとけこの野郎」 おなご「まあいい、わたしも久しぶりに楽しめた。名乗るくらいはしてやろうか」 ……なんなのこの態度。 おなご「わたしは葉香。閏璃葉香だ」 彰利 「ヨウカン!?」 そう叫んだ刹那、アタイの視界いっぱいにおなごの拳がグチャア!! 彰利 「いでででで……!」 顎があっさりと砕けやがった……! なんてこった、この人ヒドすぎ……。 攻撃する時に『容赦』ってもんが微塵にも無い……。 葉香 「先に言っておく。わたしは冗談が嫌いだ」 彰利 「俺は大好きだ」 葉香 「わたしはお前の意見なんて訊いていない」 彰利 「俺は貴様に『聞け』なんて言っていない」 葉香 「………」 彰利 「お?なんだ?やんのかコラ」 おなごはアタイを睨んできた。 アタイも負けじと見つめ返す。 葉香 「ああ、いいだろう。かかってこい」 おなごは指の先を揃えてチョイチョイと手招きをした。 誘ってやがる……! 自分が確実に勝てると信じて疑わないのだ……! アンタ範馬勇次郎ですか? 彰利 「吠え面かくなよ!」 葉香 「……ハッ、どっちがだ」 彰利 「なっ……!」 ムカッときたぁあーーーーっ!!! 彰利 「容赦しませんよこのタコ!ウララァーーーッ!!!」 アタイはジェロニモの真似をして襲い掛かった。 やがておなごの顔面へとスーパージャンピングニーパットをゴシャア!! 彰利 「グヘッ……!」 …おなごに我が膝が命中する寸前、アタイは顔面を鷲づかみにされた。 彰利 「ば、馬鹿な……!」 驚愕……!このアタイがおなごに手も足も出ないだと……!? こうなったら───ブシィッ! 葉香 「ぐっ……!?」 キャアア!! 奥の手にとっておいた毒霧がこんなところで役に立つなんて! 彰利 「モンゴリアンチョーーーップ!!」 ドシュッ! 葉香 「くあっ!」 おなごの頚動脈目掛けてモンゴリアンチョップ。 その拍子にアタイはおなごの手からの脱出に成功し、大地に降り立った。 彰利 「いける……いけるよ兄さん!」 自分で言ってて『兄さん』が誰なのか解らなかったが、 アタイは廊下を蹴るように距離を詰めて拳を繰り出した。 彰利 (とった!いける!) 拳のヒットを確信したアタイは勝利をも確信した! だがボゴシャア! 彰利 「へぐっ!?」 その拳をあっさりとかわし、俺の鼻っ柱を肘で砕くおなご。 彰利 「ゲハッ……!ば、ばかな……何故ぇ……!」 おなごの視界は毒霧で完全に封じた筈なのに……! ま、まさか……心眼拳……!? 葉香 「驚いたな、わたしにこれだけ攻撃を加えた存在はお前が初めてだ」 えぇっ!?毒霧合わせてたった二発ですよ!? 解った!こいつ生粋のバケモンだ! アタイは今まで家系・弦月の血で数々の格闘を乗り切ってきたが、 このおなごはさまざまな格闘や経験を完全に生かしておるのだ!! その点で言えば、アタイは自己流すぎて喧嘩スタイルが身に染み付いておるのだ……! 血筋の上下関係を完全にカバーする余りある天賦の才……! ば、ばかな……!このような存在がこの地上に居るとは……!! 彰利 「だが負けん!アタイの辞書には戦いの中での後退はないのだ!」 葉香 「その意気は買ってやる。だが御託はいらないな、来い」 彰利 「ふははははは……!後悔することになるぞ、その言葉」 葉香 「させてみろ」 彰利 「いいだろう!とんずらぁーーーっ!!!!!」 葉香 「───……へ?」 アタイはかつてない速さで逃げ出した! おなごは驚いているようだがアタイには関係ない! だってアタイが後悔させたかった言葉は『その意気は買ってやる』って部分だったし! 彰利 「ふはははは!馬鹿めが!     ふんぞり返ってっからとっさのことに反応できんのじゃ!     貴様はせいぜいそこで呆れ返っておるがよい───」 キヒィン!! 彰利 「わぁーーーっ!!!??」 おなごが一瞬にしてアタイの目の前に!! しまった迂闊!大墓穴!! 転移が出来るんだから走って逃げても無駄でした!! 葉香 「……わたしに、恥をかかせたな」 そんでもっておなごからは夥しいほどの殺気。 景色がぐにゃぐにゃ歪んでます。 ……え?し、死ぬ? 彰利 「あ、あの〜……お話をしません?     落ち着いて話し合えば分かり合えると思うんだ」 葉香 「だめだ」(キッパリ) 彰利 「とんず」 ガシィッ!! 彰利 「イヤァ離してぇーーっ!!」 とんずらする前にあっさり捕まった。 ば、馬鹿な!アタイが恐怖している! おなごはべっぴんな方なのだが、アタイはそれよりも恐怖を感じている!! だってこの人強い!強すぎ!ダメだ勝てねぇ!! こんな感覚はウィルヴスと会った時以来ですよ!? 彰利 「離せ!離せぇえええっ!!離せっつーの!」 ゴリッ! 葉香 「くっ!?」 彰利 「チョェエエーーーーッ!!!」 ベゴシャア!! 葉香 「くはっ……!」 おなごの手を噛み、怯んだ瞬間に延髄斬り。 そのままおなごの延髄に右足を乗せ、左腕を掴み、 その顔面に左膝をゴシャアと叩きこむ!! 葉香 「ッ!?」 怯んだ隙に左腕を完全に極め、我が全体重とともに廊下に叩きつける! ゴチャアアッ!! 葉香 「…………っ」 これぞ範馬刃牙流・虎王!! ……いや、本当は餓狼伝であった技だけどさ、ちゃんと刃牙くんも使ってるし。 彰利 「虎王……完了」 アタイは強敵を倒した喜びに打ち震えたが、 押しつぶしたままだったおなごが突如動きだした! 彰利 「な、なに!?馬鹿な!」 葉香 「……いい技だ。だが相手が悪かったな」 腕を極めているにも関わらず、おなごはそのままの状態で立ち上がった。 こ、これはアレですか!?愚地克己さんの真似ですか!? 葉香 「フッ!」 ヒュッ───タンッ。 彰利 「が、がが……っ」 葉香 「さあ、続きだ」 おなごはアタイの体重を腕に乗せたままで片腕で廊下を弾き、 浮いた体を捻ると……何事もなかったようにトンと立った。 ヤベェ……なんか解らんけどヤベェ……! こいつはヤバイ、ヤバすぎる……! バ、バケモンだ……!!! 彰利 「とんずらぁーーーっ!!!!」 葉香 「逃がさん」 ガシィッ! 彰利 「やだーーっ!!イヤァ見逃してぇーーーっ!!     二度と立ち寄らんから堪忍やぁーーっ!!」 葉香 「……無様だな。命乞いをするようなヤツだとは思わなかっ」 彰利 「と見せかけて振り向きざまのポセイドンウェーイ!!」 ボゴッシャァーーーン!! 葉香 「ぐぅっはぁっ!!!?」 おなごは完全に不意を突かれたのか、素直に吹き飛んでくれた。 チャ、チャンス! 彰利 「とんずらぁーーーっ!!!」 アタイはわき目も振らずに走った! だって捕まったら殺される! そう、ヤツは既に魔人だ!目ェ見て解った! なのに……! 堕ちてるってのに、その死神の力すら唯我独尊の根性でねじ伏せてやがる!! バケモンだ!天賦の才は時にバケモノを作るってゆうけどまさにソレだ!! アタイでさえ魔人は操りきれねぇってのに、 魔人状態が常になってるヤツと戦って勝てるわけねぇじゃねぇの!! キヒィン!! 葉香 「何処へ行く気だ」 彰利 「蒙古究極奥義!猛烈破砕弾ダスーーーッ!!!」 葉香 「なにっ!?」 ドゴォッッッシャァァァァァーーーーーーーーーーンッ!!! 葉香 「がぁああああああああっ!!!!!」 目の前に転移してきたおなごに向けて、 蓄積していた月操力と全速力の勢いを込めてプレゼントした。 つまりはショルダーチャージしたわけですが、 おなごは凄まじい勢いで相当遠くの廊下の果ての壁に激突した。 だが感触で解る……!あれでも致命傷にはならなかっただろう……。 くそ……!まるで初めてベジータと戦った悟空の気分だぜ……!! 彰利 「雑念はあとだ!とんずらぁーーっ!!」 アタイは踵を返して逃走を謀った! しかし───ゴトッ…… 彰利 「……!!」 ガラガラ……ゴト、ゴトト…… おなごが突っ込んだ所為でブチ壊れた壁が盛りあがる。 やがて瓦礫をどけて出てきたのは…… 葉香 「面白い。わたしにここまで楯突いたのは凍弥以来でお前が初めてだ」 消えてしまったタバコの火をつけなおすおなごだった……。 彰利 「……逃げよう」 アタイは心の底からそう思った。 魔人を開放すれば確実に勝てる自信はあるけど、そうそう使っては魔人に呑まれる。 そうなったらもう『俺』には戻れないだろう。 彰利 「時の刀よ!アタイを」 葉香 「逃がさん」 彰利 「ほぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!!!!!1」 いつの間にか目の前に居たおなごの存在に、 アタイは心からの恐怖を絶叫に変えてプレゼントした。 久しく忘れていた……! これが……これが恐怖!!! 彰利 「こ、こうなったら破れかぶれじゃああああああ!!     我が内なる魔人よ!目覚めて戦えアタイのために!!」 葉香 「───!」 アタイは魔人を開放し、おなごに襲い掛かった───!! ───結果は…… 彰利 「……がはっ!!」 葉香 「───……」 ……あ、相打ちに近いです……。 この人やっぱバケモンだ……。 弦月の魔人と互角に渡り合うなんざ、そうそう出来ませんよ……? てゆうかね、なんですか? 俺は冥月刀持ってでこの力なんですよ? なんで素でそのパワーなんですかアータ……。 彰利 「な、なにはともあれ……まいった」 周りの景色は絶景になっていた。 屋敷の中だというのに見晴らしがよく、所々に大きな穴が出来ていた。 彰利 「あかんわ……体が言うことを聞きやしねぇ……」 月操力開放の呪言まで使ってこの有様だ。 あーあ、これでしばらく月操力使えねぇのう……。 彰利 「……ま、冥月刀持ってるだけで月光の力が流れてくるから、     普通に待ってるよりは回復は早いだろうけど……」 ……なにやってんでしょうなぁ、アタイ。 えーと、現状を把握してみますか? 彰利 「アタイは金品強盗に来たわけであって、     おなごと喧嘩するために来たのではない」 うん、それは確実。 ……じゃあどうしてこうなるんデショ。 彰利 「わけ解らんけど……いまは休みてぇや……」 アタイはその場に崩れ落ち、目を閉じると思いきり息を吐いた。 が、それはひとつの足音に立ち切られた。 彰利 「ゲゲェエエーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」 視線の先にはオチットさん。 その時アタイは、確実な敗北を覚悟した……。 ───……。 凍弥 「本当にいいのか?」 メイ 「かまいません。処理は任せると申し付かっております」 メイさんは俺を牢獄から出してくれた。 だけど、浩介と浩之の居場所を教えてはくれなかった。 なんでも、それは自分の一存でどうこうなることではないんだそうだ。 凍弥 「そっか、じゃあ騒ぎにならない程度にうろついてみるよ。ありがと」 メイ 「いいえ。それではお気をつけください。     葉香さまに見つかれば実力行使で叩き出されるでしょうから」 凍弥 「……葉香ばーさんがここに居るってのが信じられないんだよな……。     しかも月の家系の存在だったなんて……」 でも、それなら父さんが言ってた恐怖体験や理不尽な強さも頷けるわけで。 父さんの話じゃあ子供さんが大きくなってから、 突然行方をくらましたって聞いてたんだけど……まさかここに、ねぇ。 凍弥 「……ま、俺が発見されたらコトだな」 葉香ばーさんは父さんの憧れの人……つまり『閏璃凍弥』の姉だ。 いや、義姉と言うべきか。 その姉弟関係はどうにもバイオレンス(?)で、 しょっちゅう喧嘩まがいなことをしていたらしい。 そういうことからして、『閏璃凍弥』と同じ名の俺が無事に済むとは…… 凍弥 「……や、はははは……まさかな。     大体あの人が姿を消したのは随分前らしいし、     成長した俺が解るわけが……なかったらいいな」 どうして嫌な予感ばっかりするんでしょう。 メイ 「どうかなさいましたか?」 凍弥 「あ、いや、なんでもない」 慌てて取り繕い、俺は『じゃあ』と言って手を振った。 そんな俺を、メイさんはペコリとお辞儀をして見送ってくれたのだった。 がしゃーーーん!! 彰利 「やっぱりぃーーーっ!!!」 アタイはまた牢獄に放り込まれた。 チット「そこで反省なさってくださいませ。旦那さまの屋敷を壊した罪は重いのですよ」 彰利 「反省って言ったって……アレは正当防衛ですよ?」 チット「正当防衛は対人に有効ですが家屋破壊は関係ないのではないでしょうか?」 彰利 「ウグッ……!」 正論。 外に出て喧嘩すりゃあ屋敷は壊れることはなかったわけだし。 彰利 「と、とにかくアタイは悪くないやい!だから出してウォーチットさん」 チット「オチットです」 彰利 「そ、そんなこたぁどうでもよいわ!だいたい」 パキィンッ!! 彰利 「ガッ───!?……あ、ぐ……?」 それは突然のことだった。 信じられないくらいの頭痛が俺を襲い、目の前が真っ白になる。 感じたのは……魔人の気配。 彰利 「いぐ……ぐ、ぐが……ぁ……!」 支えるものを使ってしまった上に、冥月刀まで奪われてしまった。 今の俺は剥き出しになった妖刀のようなものだ。 彰利 「オ、オチットさん……頼む……!かたな……刀を……早く……!」 チット「ダメです。それでは」 オチットさんは冷めた言葉を吐いて、さっさと去ってしまった。 彰利 「かはっ!がはっ!はっ……あぅう……!」 目の前が真っ赤に染まる。 意識を失いそうになるほどの赤を見せるその視界は果たして、 俺のものなのか……それとも死神と呼ばれる魔人のものなのか……。 ビキッ!! 彰利 「ぎゃあっ!!」 頭が割れたかと思うほどの激痛。 ふざけた調子ではなく、俺の口から出た悲鳴は重いものだった。 彰利 「あ……あああ……」 染まる。 染まってゆく。 赤く、紅く、朱く。 手が、足が、壁が、格子が……景色が。 目が焼ける。 頭が焼ける。 意識が食われてゆくのが解る。 ……いヤだ、堕ちたクない……。 堕チタク……イヤダ……。 彰利 「ア……───ァ……」 コユキ……ユウスケ……カエデノミコ……コゾウ……リーフ……ミント…… 頭ノ中に浮かンだミンナが……俺ノ中かラ消えテゆク……。 待っテ……待ッてクれ……。 いやだ……イヤダ……! 誰か……助けて……!助けテ……クレ……─── ───チキ、ン……。 彰利 「はっ……!?はっ……!!」 メイ 「どうぞ。必要なものなのでしょう?」 メイさんは蹲る俺の傍にそっと座り、俺の刀を差し出してきた。 彰利 「っ……!」 俺はそれを受け取ると、すがりつくように抱きしめた。 それだけで……『俺』が戻ってきてくれた。 彰利 「はっ……はぁっ……!……んぐっ……ぐ……はぁっ……!!」 途端に、涙が溢れた。 メイ 「……?何故泣いているのですか?」 メイさんはそんな俺を見て、当然の質問をする。 彰利 「ありがとう……」 メイ 「……?」 彰利 「っ……!ダメかと……思った……っ!もう……戻ってこれないかと……っ!」 メイ 「………」 自分の中から知っているものが消えてゆくのはとても怖いものだった。 忘れられるのは馴れていたつもりだけど、 忘れるということがこんなにも怖いものだということが痛いくらいに理解できた。 メイさんはそんな俺の頭をやさしく抱きしめてくれた。 そんな時、俺は自分の中に燻っていたものの正体が解った気がした。 彰利 「……母さん……」 俺がメイさんに感じていた何か。 それはきっと、自分の中にあった母親の像だったんだ。 幼い頃に親を無くし、親のやさしさも知らずに育った俺は、 どこかでそんなやさしさを探していたのかもしれない。 そんなことが解ってしまったら、もうダメだった。 涙は止まることを知らないように溢れ、俺はメイさんにすがりつくように身を寄せた。 ───やがて、今までの憑き物を落とすかのように……泣いたんだ、俺は。 自分でも呆れるくらいの子供っぽい泣き声に、心のどこかで苦笑していた。 だけど涙は止まらなくて。 自分の服が俺の涙で汚れるのを気にすることもなく、 メイさんは俺をずっと抱きしめていてくれた─── Next Menu back