───自業自得───
彰利 「ママーーッ!!」 がばしっ! アタイはメイさんに抱きついた。 いわゆる……熱い抱擁ってヤツですハイ。 メイ 「わたしはあなたの母親ではありませんが」 彰利 「ごもっとも!」 冥月刀と、牢獄に差し込む月明かりのおかげで持ち直した俺は、 メイさんとのんびり話をしていた。 抱きついたのは……愛嬌ってヤツ? 彰利 「しかしアレじゃね?今日が曇りの空じゃなくて良かっただよ。     もし月の光が遮られてたら、アタイでも耐えられたかどうか。     思わず身震いをしてしまう。だって……トイレいきてぇんですもの!」 勢いよく立ち上がり、クワッと目を見開いた。 メイ 「行かれたら如何ですか?」 が、やっぱり真面目に返される。 行動自体が意味を成さないんだからべつにいいんですがね? 彰利 「いえ、冗談ですから」 メイ 「そうですか」 彰利 「そうです」 ウムスと頷いてから、ドッカリと腰を下ろす。 う〜む、ホントに立ち上がる意味がなかったわ。 彰利 「ま、安心してくだされメイさん、今日はもう暴れる気がないから。     命を賭してまで魔王ヨウカンを屠ったんだ、今日はもう寝ます」 メイ 「そうですか」 彰利 「そうザマス」 実際、月操力は回復しても胸の中のジクジク感が消えてくれない。 こういうのは寝て治すに限るでしょう。 彰利 「しっかし、今日が暖かくてよかった。     そうじゃなきゃ『秋』という季節に呑みこまれてるところザマス」 アタイは寒いのは嫌いなんじゃい。 寒さを感じると今でも思い出す…… 唯一無二の友人に、口内に煮えたぎるお茶を創造されたこととか、 その義妹に操られて滝壷にダイヴさせられたこととか、 スノーメンにさせられて出られなくなったこととか……───禄な人生送ってねぇな俺。 うーむ、悲しいかな。 こんな切ないフラッシュバック機能なんていらないッスよ? 彰利 「なにはともあれアタイは寝ますけど。メイさんは?」 メイ 「わたしも機能をスリープさせて翌朝に備えます」 彰利 「そうザンスか。では……おやすみなさいマウス」 メイ 「……マウス?」 彰利 「なんでもござらん、記憶から抹消してください」 メイ 「解りました。記憶の一番深い場所に記録しておきます」 彰利 「えぇっ!?いや、そげなことしなくていいって!てゆうかしないで!」 メイ 「冗談です」 彰利 「へ?そ、そうなん?」 メイ 「はい。先ほど屋敷内で入手出来た情報によれば、     あなたは冗談が好きなようでしたので」 彰利 「グムーーー……メイさんって冗談が似合いませんぜ?」 メイ 「そうでしょうか」 彰利 「そうザンス。でもその意気や良し。     その調子でどんどん自分の判断で行動するが吉ザマス」 そうすりゃあいずれは感情が浮上するってもんデショ。 彰利 「じゃ、おやすみなさいマウス」 メイ 「おやすみなさい」 ペコリとお辞儀をしたメイさんは、やがて立ち上がり、牢屋から出ていった。 ……うむ、よい娘ッ子じゃて。 彰利 「だが……アタイの波動は落ち着いたわけじゃねィェ……」 アレです、めんこいおなごを抱きしめたいってヤツです。 彰利 「…………こうなったら異翔転移でリーフさんを召喚しましょうか?」 そして熱い抱擁を。 そんでもって撫で繰り回してサイクロンして 彰利 「キャーーーーッ!!!!!!違う!なんか違う!!     こんなのアタイじゃない!アタイじゃねィェーーーーーッ!!!!! 邪魔!邪魔よこんな欲望!! リーフさんは俺の欲望の捌け口なんかじゃねぇ!! 何考えてやがるんだ俺!! 彰利 「悪魂退散っ……!悪魂退散っ……!綺麗な魂戻ってこいっ……!!」 蹲りながら欲望を押さえつける。 彰利 「冗談じゃねぇ……欲望になんぞ負けてたまるか……!!」 なにか……なにか気を紛らわせることの出来るものは……!! 彰利 「……ウィ?お、おおお、そういやアタイにはコレがあった」 ゴゾォと取り出だしましたるは将棋盤。 ダーリンの家からかっぱらってきたモノだ。 彰利 「えーーと……誰か居ません?幽霊さんでもいいから」 ……………………。 彰利 「おらんね」 誰も居ませんでした。 ムオオ、せっかく気を紛らわせるアイテムを手に入れたっていうのに。 さっさと寝るって方法もあるが、 こんな状態で寝たらヨロシクナイ夢を見るかもしれねぇじゃねぇの。 そんなことになったらお天道様の下を歩けませんよ? 夜行性も夢じゃねぇのよ? そんなのイヤじゃないですかトニー。 彰利 「誰かー?誰かおらぬかー」 ……ォ……ォオ…… 彰利 「ウヒョオ!?」 突然のおぼろげな声。 振り向いてみれば……ってゆうか見上げてみれば、天上に張り付いている─── 彰利 「……誰アンタ」 幽霊 『オォ〜……』 彰利 「オォっつーんか。ヘンな名前だねぇ」 幽霊 『オォ〜……』 彰利 「いや、名前はもういいから。一局やらんか?」 幽霊 『オォ〜……』 彰利 「………」 幽霊 『オォ〜……』 話し合いは無理なようです。 彰利 「失せろ!話が出来ないなら意味がねぇ!」 幽霊 『───……オォーーーッ!!!』 ドシュゥウウウウン!!!! 彰利 「なにぃ!?ギャアアア!!!」 突如!幽霊野郎がアタイに襲いかかった!! しかも取り憑こうとしてやがる!! 彰利 「たわけ!」 ボゴシャア!! 幽霊 『オブゥォオ〜〜…………!!』 顔面へのストレートナックルをお見舞いする。 幽霊は勢いよく吹き飛ぶが、途中で止まった。 幽霊 『オォ〜……』 しかも割と平気そう。 彰利 「やべ……もしかして月操力酷使しすぎた所為で力が出ないとか……?」 試しに牢屋の格子を曲げようと力を込めてみたが、曲がるどころか力が入らなかった。 彰利 「……ブ、ブラストッ!!」 …………。 彰利 「出ねぇ……マジか?」 力が全くでない。 このアタイが……まさか人間チックになっちまった!? 彰利 「って!アタイ人間だっつーの!!」 ズビー!と独りノリツッコミをしてみたが、幽霊に哀れみの顔をされただけだった。 彰利 「な、なんじゃいその目は……アタイは同情なんざ受けねぇぜ!?」 幽霊 『オォ〜……』 幽霊はアタイの声に反応して、険しい顔になった。 ……やる気だ。 容赦無用と受け取ったのだろう、ヤツの顔は本気だった。 本気でアタイの体を乗っ取ろうとしてやがる。 幽霊 『オォーーーッ!!』 幽霊が勢いをつけて突進してくる。 その勢いたるや、まるで弾丸。 視覚では確認できないような速さのソレは、 普通の人間並みになってしまった俺には速すぎた。 彰利 「ぐ……!」 俺はバカだ。 あんな状況で、負けたくないからといって力を解放するなんて。 開放の呪言が自分を不利にすることくらい、ゼノとの戦いで十分に知ってた筈なのに。 幽霊 『オォーー……!!』 彰利 「!くっ……!」 聞こえた声に反応して横に飛ぶ。 転がるように態勢を立て直して起き上がると、 さっきまで俺が居た場所に、白い影が凄まじい速さで通っていった。 彰利 「くっそ……!調子に乗ってんじゃねぇぞ!アンリミテッド───」 ビキィッ!! 彰利 「がっ───、ぐ……!?」 頭が割れるような痛み。 いや、頭が割れたと思えるような感触に襲われた。 既に体が月操力を受けつけてくれない。 彰利 「ここまで弱体かよ……!」 が、落胆している暇なんてない。 幽霊が旋回して、もう一度俺を見据えている。 彰利 「…………っ」 頭が痛む。 頭痛が激しい。 どうして俺が、こんなヤツに苦しめられなけりゃならないんだ。 『コロセ……』 うるさい……黙ってろ…… 『ワレヲテニトレ……』 うるさいって言ってるんだ…… 『魔人ヲウケイレロ……』 黙れ…… 『オマエニハソノチカラガアル……』 うる、さい……! 幽霊 『オォ〜……』 眩む視界。 その中で白い影が何かを言った気がした。 ───ウルサイ…… 手には刀。 いつでも八つ裂きに出来るように構え ───ウルサイ…… 頭が痛む。 視界が染まる。 紅く、赤く、朱く……! ───ウルサイ…… 自分の内側から聞こえる声。 さっきから、まるで心臓を殴りつけるように ───ウルサイ…… 紅い視界の中で白い姿の朧が動いた。 バカだな、丸見えだ ───ウルサイ…… 馬鹿みたいに一直線に俺に向かって飛ぶ朧。 それに向けて、まるで子供が玩具を純粋な気持ちで破壊するみたいに ───ウルサイ…… ざくっ、って音。 耳を潰すような絶叫と、割れそうになるアタマ ───ウルサイ……!! 飛び散る鮮血。 コロセ、コロセとさっきから内側が 彰利 「うるせぇって……言ってんだよ!!」 自分の腕に刺した刀を抜き、飛んでくる幽霊を前に構える。 刀なんて使わない。 カスみたいな力だけど、拳で語ってやる! 彰利 「覇ッ!!」 振るう拳には月操力の残りカス。 そんな小さな力を引き出すだけでも頭が軋むが、そんなことは二の次でいい。 拳が幽霊にぶつかる瞬間、ソイツの動きは止まった。 怯んだ刹那を見逃すわけにはいかない。 彰利 「人の道を教えてやる……!」 ゴキゴキと鳴る指。 それを後先も考えずに両手両足に月操力を乗せ、振るう。 拳と蹴りの弾幕がソイツを打つ。 散々殴ったのちにソイツを蹴り上げ、すぐさまに踵落としで戻す。 彰利 「無双正拳突きィッ!!」 落としたソイツの顔面に、今出来る懇親の一撃を叩きこむ。 そして響く、ゴコン、という音。 その拳には月清力のイメージ。 悪霊だってゆうなら、出来れば正気を取り戻してから屠りたい。 が、それが限界だった。 彰利 「うぶっ……!?が、がはっ……!!」 口にこみ上げてくる血。 幾たびの無茶を続けたためか、過去の傷が浮き出る。 鈍重な眩暈と吐き気に立て続けに襲われ、耐えられなくなって倒れた。 その衝撃だけでも気が遠くなる。 いっそ気を失いたかったというのに、その痛みが意識を浮上させる。 矛盾でしかないその意識に、気が狂いそうになった。 彰利 「はっ……、ぐ……!」 冥月刀を持っていても追いつかない。 体の中で、決定的な何かが削られていく。 その『削っているモノ』がなんなのかは、既に俺の体が知っていた。 彰利 「くそったれ……!」 人に殴られるのは馴れている。 そんなことはもうどうってことないんだ。 だけど……『内側からくる痛み』にだけは耐えられない。 心が泣いてるのが解る。 子供だった頃の自分が、懲りずに泣いている。 泣くなんてことは無駄だって、教えてやった筈なのに。 そんな心が邪魔だったから。 そんな痛みがあったら歴史を繰り返すことなんて出来そうになかったから捨てたのに。 どうして今になって邪魔するんだ……。 邪魔だ……。 泣き止め……。 ウルサイ……! 彰利 「は───、……!」 汗が吹き出る。 口からは、歯を食い縛りすぎて出てきた血。 視界は虚ろなくせに、ぐるぐる回っているのが解る。 涙さえ流れ、気が遠くなるのに意識はハッキリする矛盾。 気が狂う。 頭がどうかしてしまいそうだ。 彰利 「───、……」 自分が何を言ったのかが解らなかった。 意識は朦朧としているくせに、痛みだけはハッキリと感じる。 そんな理不尽さに苛立ちを覚える。 剥き出しの神経の上に虫が這うような感触に吐き気が押さえられない。 ……コト。 彰利 「……」 音だ。 なにか音がした。 だけど体はズタズタで、耳からはアタタカクテ真っ赤な液体が出てる……。 聞こえないハズなのに、何かがキコエタ。 ナンダロウ、なんだろう……─── ───……。 リヴァ「ばか、体を酷使しすぎだ」 空間を利用して引きずりだした検察官はボロボロだった。 意識は刈り取り、 鎮痛剤を打っておいたから痛みは和らぐだろうが…… リヴァ「まったく無茶をする。わたしが監視してなかったらどうするつもりだったんだ」 ルヒド「さあね」 クスクスと笑うシェイド。 なにがおかしいのかは不問にしておく。 訊いたところで、どうせ喋るとは思えなかった。 リヴァ「手は尽くした。傷はどうにもならないけど、痛みは引いている筈だ」 ルヒド「それはよかった」 リヴァ「……シェイド。これはどんな症状なんだ?」 ルヒド「症状ってゆうのは適当じゃないな。これは彼が過去に縛られてる証拠だね」 リヴァ「過去に……?どういうことだ」 ルヒド「彼は昔、ヒドイ目にあっている。父親から虐待を受けていたんだね。     傷は子供のころの傷で、父親への恨みも父親からの恨みも混ざってる所為で、     彼だけの気持ちの持ちよう程度じゃあどうにも出来ない」 シェイドは彼にしては珍しく、フンと顔を顰めた。 リヴァ「言い回すな。回りくどいのは好きじゃない」 ルヒド「そうだね。ハッキリ言えば、彼はこのままじゃ死ぬよ」 本当にハッキリ言うヤツだ。 だが、無敵を極めたような検察官が『死ぬ』と言われたところで、 真実味に欠けるというのが自分の意見だ。 ルヒド「治療は簡単。精神に潜り込んで彼を救ってやればいい。     ああ、もっとも『簡単』ってゆうのは言葉の範疇であって、     彼の心の中はドス黒いよ?それでいいなら止めないけど」 リヴァ「待て、順番が逆だ。わたしは『行く』だなんて一言も言ってない」 ルヒド「そうだね。じゃあ見捨てるかい?」 リヴァ「……どうしてお前はそう両極端なんだ。     わたしは行かない。だとしたら他のヤツが行けばいい」 ルヒド「もっともだね。じゃあ……」 右方左方を見渡す。 が、当然わたしの工房には誰も居ない。 ルヒド「そういえばここ、どうなってるんだい?」 リヴァ「そこのドアを二回ノックして開ければ普通に鈴訊庵に出れる。     工房に入る時はノック四回。空界の魔導工房に出たいなら普通に開ければいい。     何度も言うようだがな、転移して入ってくるな。次元調節が面倒くさい」 ルヒド「まあまあ。で、派遣するなら誰がいいかな」 リヴァ「成功率の高いヤツを呼べ。普通の人間に任せたら精神に飲み込まれるぞ」 ルヒド「じゃあ……悠介か母さんあたりかな?」 リヴァ「名前を並べられたところで知るもんか。判断はお前に任せるよ」 ルヒド「うん、じゃあ適当に呼んでくるよ」 ヒンッ、という音を聞く。 工房の中から、気配がひとつ消えた。 ルヒド「というわけで」 悠介 「望むところだ」 椛  「望むところです」 夜華 「性根を叩き直せるなら十分だ」 リヴァ「………」 きっかり一分後、シェイドは色濃い三人を連れてきた。 だが…… リヴァ「お前、平気か?」 夜華 「なにがだ」 リヴァ「人間にはキツイぞ、検察官の闇は」 夜華 「構わん」 リヴァ「……言って聞くような性格じゃなさそうだ。別にどうでもいいが」 軽く息を吐く。 次いで検察官の様子を軽く見ると 悠介 「……ヒドイな。こいつ、ずっとこんな傷を隠してたのか」 上着やシャツを取られて寝かされている検察官を見ての言葉。 確かにアレはヒドイ。 夜華 「……で、またこの馬鹿は無茶をしたのか」 椛  「夜華っ、おとうさんを馬鹿だなんて」 夜華 「馬鹿は馬鹿ですっ。     どうせこんなになるまで誰かをからかっていたに決まってます」 椛  「おとうさんはそんなこと」 悠介 「いや、篠瀬と同意見だ」 椛  「おじいさまっ!?」 リヴァ「口論はどうでもいい。で、覚悟はいいのか?いいならすぐにでも始められるが」 悠介 「構わない。俺はあいつの唯一無二の友人として、過去を知る権利がある」 ルヒド「誰にもそんな権利はないと思うけど」 椛  「わたしもおとうさんのこと、もっと知りたいし気になるし」 ルヒド「遊び半分は頂けませんよ母さん」 夜華 「精神に入るというのなら、中身から変えられるということ。     だったら徹底的に叩きなおしてくれる」 ルヒド「本末顛倒って言葉、知ってるかい?」 悠介&椛&夜華『黙れッ!!』 ルヒド「あはは、図星かな」 リヴァ「御託はいいから。それじゃ、そこに立ってくれ」 三人を促し、サークルの上に立たせる。 リヴァ「精神介入くらいはお手の物だが、魔導では禁止されてる。     出来るだけ早く済ませろ。     そうじゃないと、どっかの馬鹿者がハックして妨害するかもしれない。     プロテクトなんてかけられたら最後、     プロテクトを解かない限りは出てこられなくなるぞ」 悠介 「はい質問。口ぶりからするに、貴様何か隠してるな?」 リヴァ「物事には順序ってものがあるだろう……そら」 小型の生命維持装置を渡す。 悠介 「……ナニコレ」 リヴァ「生命維持装置だ。     意識を別の誰かに飛ばすんだ、ソレを付けてないと自我が崩壊する」 悠介 「そういうのは一番最初に渡せ馬鹿!殺す気か!」 リヴァ「文句言うなら返せ」 悠介 「トンデモナイ」 即答で返された。 悠介 「んで?使い方は」 リヴァ「本当は口に含んでいるだけでいいんだがな、意識の無い状態だと困難だ。     飲み込んでしまっていいぞ。効果は短いが、確実だ」 悠介 「OK」 リヴァ「じゃあ、始めるぞ」 ───…… Next Menu back