───闘狂アキトシランド───
───……。 悠介 「……フム」 眩い光の後に目を開けてみれば、そこは穏やかな世界でござった。 草原のような場所で、弦月廃屋のことを思い出したが……あの木が無い。 ということはここは……何処だろ? 彰利 『さぁ来い鈍牛!!』 ……で、なぜかその景色の中でバカデカい牛と対面している彰利がドバァン!! 彰利 『ぶぇげぇーーーっ!!!!』 しかも突進をまともに受けて吹き飛ばされていた。 ……一応、既に精神の中には入っているようだ。 彰利 『ウラァッ!!』 ゴコォンッ!! 闘牛 『グモォオオーーーー……』 ズズゥウウウン……。 結局眉間への正拳一発で、闘牛はダウン。 彰利 『アーーイムナンバーワーーーン!!!』 ポージングきめとる。 なにやりたいんだか……。 彰利 『………』 悠介 「あ」 目が合った───途端! 彰利 『ようこそ我が大聖堂へ!歓迎するぜ侵入者!!』 ギキィイイインッ!!という轟音をたてて、その世界は揺れた。 悠介 「ッ……なんだ……!?」 バランスを保つことさえが必死な地震。 景色はグニグニと変貌し、草原であった筈の場所は─── 悠介 「ディズニィーランドゥ……?」 子供達の集う場所、ディズニィーランドゥだった。 ……あ、いや、アキトシランドって書いてある。 悠介 「どうなってんだこりゃ……」 景色には人ッ子ひとり居なかった。 いや、役回りのミッキィーマウスのようなものは居るようだが、肝心の彰利が居ない。 だが、こんな大掛かりな景色を作ったってことは…… 悠介 「……入れ、ってことだよな」 確かにここで突っ立っていても始らない。 誘いだろうがなんだろうが、行ってやろうじゃないか。 決心を固め、俺は入り口から中へ 彰利 『あー、ちょっとお客さん、困りますね。入場券を買ってください』 悠介 「金取んのかい!!」 彰利 『当たり前よ!さぁ払え!今なら50フラン!安くしときまっせ!?』 悠介 「フランなんざ持ってねぇわ!!それよりここで会えたんなら丁度いい!     精神の害虫追い出すから最深部に連れていけ!!」 彰利 『1000万フラン払うならいいけど』 悠介 「無いと言っている!!」 彰利 『はァ〜ンア、逆ギレだよ……。これだからカスの相手は』 悠介 「だっ……誰がカスだ!!」 彰利 『お前がどんなことを企んでるのかは知らないけど……     せいぜい気をつけるんだな、闇は深いぞ』 悠介 「なに……?どういう───チッ、消えやがった……」 だが解った。 この景色の中のどこかに深淵への入り口がある。 とはいえ…… 悠介 「……この歳で遊園地かよ……。勘弁してくれ」 ───……。 ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・シャンッ!! 彰利×21『ヘイ!』 ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・シャンッ!! 彰利×21『ヘイッ!』 ドーンシャーンシャ・シャンッ!! 彰利×21『ヘイ!』 ドーンシャーンシャ・シャンッ!! 彰利×21『塀ッ!!』 ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・ドーンシャーンシャ・シャンッ!! 彰利×21『ウッ!!───ハァアアアーーーーー……!!       ポォーーールトッ!!パラディーーゾォーーーーーッ!!!!』 ……目の前でおとうさんが踊ってる。 目を開けたら立っていた場所は、水の近くの広場みたいな場所だった。 突然始ったカーニバルに驚いたけれど、なんだか楽しくはあった。 ……でも踊ってるみんなが全員、姿を変えたおとうさんだってゆうのが……その。 彰利×21『海はスバラスィーーッ!!!』 さっきまでのおとうさんの格好をしたおとうさんは、 細長い木のようなものに乗っかりながら、 ウネウネと体重移動をさせて遊んでバキャドバシャアアアン!!! 彰利 『ヘギャアアーーーーッ!!!!』 だけどそれが海辺に向けて曲がった時、 それはあっさりと折れて、おとうさんは海に落ちた。 だというのに他のおとうさんは見向きもしないで踊りに熱中している。 彰利×20『ポォーーールトッ!!パラディーーゾォーーーーーッ!!!!』 ……楽しそう。 彰利 『そこなお嬢さん!アタイ達とハッスルしませう!』 椛  「えっ!?わ、わたし?」 彰利 『貴様以外に誰がおるったい!?     さ、立ちなさい!立ちあがる時は今なのだァーーーッ!!』 椛  「で、でもわたし、こんなのやったことない……」 彰利×20『こんなのとはなんだこの野郎!!』 椛  「きゃうっ!ご、ごめんなさい……」 彰利 『えーがらえーがら!ゆっくりしちぇけ!     決して足止めしてるわけじゃねぇから!』 椛  「う、うん……」 パッパ〜ラパパパ〜ン♪パパ・パパラパ・パパパパッパァ〜ン♪ 夜華 「……どこだここは」 見渡す限りに五月蝿い場所だった。 騒がしく、人が入り乱れている。 しかもその『人』というのが全員彰衛門なのだ。 彰利 『ママーッ!あれ買ってーっ!』 彰利 『誰がママだこの野郎!!』 彰利 『なんだとママこの野郎!!』 ……何がしたいのかがさっぱりだった。 所詮、彰衛門の心の中などこんなものだ。 ポンポン。 夜華 「ッ!何者!?」 ???『ヤア』 夜華 「!?おのれ物の怪ぇーーーっ!!!」 ザゴシャア!! ???『ギャアアーーーッ!!!!』 肩を叩かれ振り向いた先に居た、妙に頭のデカイ物の怪を斬った。 ソイツは血を吹き出し、やがてゆっくりと倒れる。 彰利 『ああっ!アッキィーマウスがぁっ!!』 彰利 『ヒドイや姉ちゃん!なんてことするんだよ!』 夜華 「なに?いや、わたしは」 彰利 『───人殺し!』 夜華 「えっ……?」 彰利 『姉ちゃんがアッキィーを殺したんだ!』 夜華 「な、なにを……そいつは物の怪だぞ……?」 彰利 『物の怪なんかじゃないよ!人殺し!』 夜華 「わ、わたしは……」 彰利 『人殺し!』 彰利 『人殺し!!』 夜華 「や、やめろ……やめてくれ……」 彰利 『人殺し!!』 彰利 『人殺し!!!』 夜華 「う、うあ……うああ……!」 大勢の彰衛門が、デカいソレの傍に屈み、頭を取り外した。 着るものだったのか、と思うより先に─── 夜華 「───!あ、あぁああ……!!」 その取り外された下で、血塗れになってピクリとも動かない彰衛門を見て…… 夜華 「う、うわぁああーーーーっ!!!」 彰利 『姉ちゃんが殺したんだ……!』 夜華 「ち、違う……違う……」 彰利 『人殺し……!』 夜華 『やめてくれ彰衛門……やめてくれ……』 彰利 『なぁんてウッソォーーーッ!!!』 夜華 「───え?」 見れば、ガバァーーッ!と起き上がる血塗れの彰衛門。 彰利 『ほぉーーーっほっほっほ!!あっさり騙されおったわカスめ!!』 彰利 『カスめ!カスめ!!』 彰利 『クズめ!クズめ!!』 彰利 『馬鹿め!馬鹿め!!』 夜華 「───」 彰利×40『……やや?無反応?』 夜華 「ごっ───ご、ごごがぁああああああああああああっ!!!!1」 彰利×40『キャッ……キャーーーッ!!!??』 ザクドシュズバゴシャガシュドシュズボゴシャガンガンガン!!!!! 彰利 『ギャアアーーーーーーーーーッ!!!!!!』 悠介 「……なんか向こうの方が騒がしいな」 ま、それはそれとして俺は俺のやり方で探ろう。 彰利A『カーフブランディングーーーッ!!』 メゴシャア!! アキィ『ウギャアーーーッ!!!』 パタパタと手を振りながら歩いていたアキィ〜マウス(♀)が大地に沈んだ。 ひでぇ……。 彰利B『テキサスクローバーホールドーーーッ!!!』 ゴギギ! アキィ『ギャアア!ギャアアアア!!!』 彰利C『ニードロップーーーッ!!』 メゴシャア!! アキィ『ゲウッ!!』 彰利D『もういっぱぁーーーつ!!』 ボゴシャア!! アキィ『ウギャア!』 彰利E『───さぁあああらばどぅぁああああああああっ!!!!!     フェニックスニードロップゥウウッ!!!!』 ゴッシャアアアアアアアアアン!!!!! アキィ『───……ブゲッ!』 ガクッ。 アキィ〜マウス(♀)、死亡。 アッキ『───ッ!!』 あ、アッキィーマウスが来た。 ……なんで血塗れなのかは謎だが。 アッキ『ヒドイ……誰がこんなことを……』 彰利A『そいつ』 アッキ『!?』 悠介 「───へ?」 彰利Aが指差した先には俺。 驚いたが……指差されたからではなく、 彰利が俺のことを『そいつ』と呼んだことに驚いた。 つまり……ここに居る彰利は、俺が俺だと気づいていない……ってことか? アッキ『……殺してやる……』 悠介 「彰利……」 目の前の彰利……アッキィーマウスからは間違いの無い殺意が溢れていた。 いや、それよりも彰利の口から『殺す』という言葉が出た。 『死』の意が嫌いなこいつが、他の誰でもない俺に言った。 もう疑いようがない。 こいつらは、俺が晦悠介だと理解していない。 アッキ『あぁーーーっ!!!』 悠介 「くっそ……!目ェ覚ませ彰利!!」 じゃじゃじゃじゃーんじゃんじゃんじゃじゃーん!! 彰利A『アソーレ右!左!上!上!』 椛  「はう、はう……!」 彰利B『遅い!もっと速く!!』 椛  「はっ、はっ……!」 踊りの教授はとても厳しかった。 おとうさんだと信じられないくらいに怒鳴り、こちらの話も聞いてくれない。 なにより……あのおとうさんの暖かいやさしさが感じられない。 椛  「おとうさん、どうして……」 彰利C『黙れっていってるだろう!』 椛  「きゃっ!?ご、ごめんなさい……」 彰利C『謝れば許されると思ってるのか!!本当にお前は役立たずだ!!     お前が俺の子供だなど、とんだ間違いだ!!』 椛  「───!!おと……さん……?」 彰利C『黙れ!貴様など俺の子供ではない!』 椛  「あ、ああ……あ……」 彰利C『……お前ら、邪魔者を消すぞ。手伝え』 彰利D『はい』 彰利E『解りました』 椛  「え……?えっ……!?おと、おとうさん……!?」 彰利C『役立たずは死ね。お前はとんだ疫病神だ』 椛  「おとう……さん……や、やだ……やめて……」 おとうさん達が、木の棒や刃物を持って近づいてくる。 その目はとても冷たくて、本当にわたしを殺す気なんだって感じた。 椛  「おとうさん……どうして……!?わ、わたし……いい子だよ……!?」 彰利C『力ばかりが大きいなど使い道の無いクズだ。お前ら、そいつを押さえておけ』 彰利F『はい』 ガッ。 椛  「───!?や、やだっ!やだやだやだぁっ!!やめてよおとうさん!」 彰利C『……黙れ。まあ俺も鬼じゃない。まずはお前の大切なものを壊してやろう』 おとうさんがそう呟くと、おとうさんの人垣が散る。 するとその先に人が見えて…… 椛  「凍弥……先輩……?」 彰利C『気絶している。     そんな抗いようの無いアイツに、この包丁を突きたてたらどうなるかな?』 椛  「───!そんなのさせない!やめてよおとうさん!     どうして!?どうしてこんなことするの!?」 彰利C『そら』 ドシュッ…… 椛  「あ───」 凍弥先輩の心臓に、包丁が…… 赤くて、紅くて、朱くて……見るに堪えない液体が彼の衣服を染めてゆく……。 彰利C『ハッ……ハハハハハハハ!!!死んだぞ!役立たずが死んだ!』 椛  「凍弥……先輩……?」 凍弥先輩は気絶していた時よりもぐったりとして、ピクリとも動かなくなった。 血が流れるにつれてどんどんと顔色が真っ青になる。 椛  「や、やだ……やだよぅ……」 涙が溢れた。 だけどそんなことが、なんの役に立つんだろう。 彰利C『さあ、次はお前だ。苦しめて殺してやるから感謝しろ』 椛  「───……!!」 憎かった。 助けてくれていた人が、突然に敵に変わってしまった。 わたしは涙を散らしながらおとうさんを睨んで、 わたしを押さえているおとうさんを吹き飛ばそうとした。 だけど……力が出ない。 椛  「どうしてっ!?」 ドサッ。 椛  「!?───凍弥先輩!!」 凍弥 『───、……っ……!』 凍弥先輩は地面に倒れながら、わたしに近寄ろうとして手を伸ばした。 でも近づけない。 走り寄りたいのに。 まるで力が吸収されてゆくように、体に力が入らない。 彰利C『しつこい』 ザゴンッ!! 椛  「───!!!!」 凍弥 『……!……───』 コトッ……。 ……凍弥先輩は、背中から心臓を一突きされ……動かなくなった。 椛  「う、うあ……うああああ……」 どうして。 椛  「あっ、───あ、ああああああああ!!!!!」 どうして───!!! 彰利C『はははは……あははははははは!!!!』 どうして笑ってられるんだ───!!!! 悠介 「くっ……!!」 アッキ『───このっ!!』 ボグッ───! 悠介 「が───!?あ、───つ……あああああああああ!!!!」 感触で解った。 ……いや、体の内部に走る乾いた音で確信した。 腕……折れた。 アッキ『よくも……!よくも!!』 悠介 「くっそが……!てめぇ彰利じゃねぇな!?」 アッキ『うるさい!よくも───を!!』 悠介 「チッ……!このニセモノをぶった切る真剣が出ます!」 アッキ『消えちゃえ!!あなたなんか大嫌い!!』 悠介 「このっ……消えろてめぇ!俺の友達を騙ってんじゃねぇ!!」 ザゴッッ……!!!! アッキ『ギッ……!?』 横切り一閃。 剣閃が煌き、ニセモノ彰利の体を真っ二つにする。 アッキ『……あれ?』 それが滑稽なのかどうなのか。 彰利の姿をしたソイツは、どこか可笑しそうに倒れ、やがて消えた。 悠介 「折れた腕の破損部分を治す色素が出ます……───はぁ。     くそ、胸くそ悪ぃ……なんだってんだよ……」 彰利 『ハイ、第一関門突破ですじゃ』 悠介 「オワッ!?」 突然現れた彰利に、創造した剣を向けて構える。 彰利 『おっと落ち着けよアータ。アタイを殺したらおめぇ……二度と帰れねぇぜ?』 悠介 「なに……?」 彰利 『それにアタイは案内係ってヤツさね。これから少し深い所に案内するコテ。     気ィ引き締めてかかってこい』 悠介 「………」 ザシュ!ゴゴッ! 夜華 「はっ!はぁっ……!くっ……!」 彰利A『私私私』 彰利B『そして私』 キリが無い。 何度切り捨ててもどんどん数が増える。 出てくる彰衛門は何故か真っ黒い眼鏡をして、 黒い服に身を包んで『私』と言っていた。 以前、彰衛門が『びでお』とかいうもので見ていた、 『まとりっくす』というものの『すみす』に似ている。 彰利C『私私私私』 彰利D『私私私』 夜華 「くそ!散れ!」 閃く剣閃で彰衛門を薙ぐ。 しかし動じることもなく、彰衛門はどんどんとわたしに迫ってきた。 彰利E『私!』 彰利F『私!』 ガバァッ! 夜華 「───!?しまっ───」 彰利G『私私』 バッ!ババッ! 夜華 「ぐっ……!くそ!離せ!離さんか!!」 ひとりに捕まれた途端、他の彰衛門が飛びかかってくる。 そして悟る。 こいつらは『彰衛門』ではないと。 ふざけながらも、どこか相手を思う『何か』が全然感じ取れなかった。 夜華 「くあっ……!」 彰利H『私私わた……───』 彰利I『………』 夜華 「……?」 彰衛門が動きを止める。 だがやがて頷き合うと走り出し、その場にはわたしだけが残された。 夜華 「………」 わけが解らなかった。 だが付いていけばそこに何かがあることを確信し、わたしはソイツラを追うことにした。 椛  「───来ないで!あなたたちなんかおとうさんじゃない!!!」 ボンッ!ボシュッ! 彰利A『ガァアアアアアアア!!!』 彰利B『ギャッ!?』 椛  「え……?」 どこからか放たれた光によって、ニセモノのおとうさんが消えてゆく。 悠介 「よっ、元気にやってるか椛」 椛  「おじいさまっ……!」 おじいさまだ。 変わった剣を持ったおじいさまが、わたしの傍に降り立った。 悠介 「……おい。殺さないでいてやるから椛を離せニセモノ」 彰利C『───』 悠介 「……おい?」 ボンッ!! 椛  「きゃあっ……!?」 ボンッ!ボボンッ!バシュッ!! 椛  「……!?」 悠介 「これは……」 それは突然のことだった。 回りに居たおとうさんのニセモノが、どんどんと消滅してゆく。 そして、凍弥先輩も。 椛  「凍弥先輩!?」 走り寄ろうとしたけど、その人までニセモノだったことに気づいた。 ホンモノだったら消える筈がない。 椛  「……おじいさま。これはどうなっているんですか……?」 悠介 「……はぁ、つまりな?     これは過去に彰利が体験、または見たものを、     なんらかのカタチで現しているものだ。     お前がどんなことをされてたのかは知らないが、     彰利はそれと同じことをされた時があるってことだよ」 椛  「───!」 あれと……同じことを……? 信じられない。 だって、あんなことが実際にあったとしたら、胸を刺された誰かが実在したってことだ。 おとうさんはそんなものに耐えていたの……? 大切な人を殺されたことを、耐えられたの……? 悠介 「で、ここらへんに深部への入り口があるって考えていいみたいだぞ。     深い場所に近ければ近いほど、嫌なモノを見せられるみたいだ」 椛  「───!」 まだ、あれよりもヒドイものがあるというのだろうか。 そんなものは勘弁してほしい。 夜華 「楓さまっ!無事ですか!?」 椛  「夜華……」 悠介 「篠瀬か。無事だったんだな」 夜華 「なんとか……。しかし彰衛門は?何人も居た筈なのですが」 悠介 「知らん。なんか唐突に消えた。     まあどちらにしろ、まずは深部への行き道を───ん?」 椛  「え?」 おじいさまがひとつの方向に目を凝らした。 気になって、そちらを見てみれば─── 逃げるようにひとつの家のような場所に入ってゆくおとうさんのニセモノ。 悠介 「あれ……かな」 椛  「罠じゃありませんか……?」 悠介 「いや、どちらにしてもここで手を拱くわけにはいかないだろ。いくぞ」 椛  「はい」 夜華 「はい」 夜華と一緒に頷いて、その家へ向かった。 ドアなんてものは無く、その場所には簡単に入れた。 ───そして、入った途端─── 悠介 「───!これは───」 今まであった景色が、グニャグニャと曲り、やがてカタチを変える。 椛  「………」 悠介 「……一応、深い場所には下りられるみたいだな」 だけど、景色が変わっただけで……そこにある『モノ』は変わらなかった。 ただ、役者が変わっただけ。 悠介 「ぐっ……!」 最初は、おじいさまの驚愕の声。 夜華 「これは……!」 そして、夜華の声。 目の前で展開されるソレは、とてもじゃないけど子供が味わうべき現実じゃあなかった。 椛  「……うっ……」 視線の先には、子供の頃のおとうさん。 木に張りつけにされて、泣きながら叫んでいた。 そのおとうさんの視線の先に居るのが……ひとりの女性。 彰利 『やめろ親父!やめろ!やめてくれ!!』 男  『黙れっていってるだろう!』 彰利 『俺が悪かったから!だから母さんには手を出すな!!』 男  『謝れば許されると思ってるのか!!本当にお前は役立たずだ!!     お前が俺の子供だなど、とんだ間違いだ!!』 彰利 『っ……だったら母さんは関係ないじゃないか!     それにアンタが居なければ俺だって生まれてきたりなんかしなかった!』 男  『黙れ!貴様など俺の子供ではない!』 彰利 『っ……!』 男  『……お前ら、邪魔者を消すぞ。手伝え』 男  『はい』 男  『解りました』 彰利 『親父……?』 男  『役立たずは死ね。お前はとんだ疫病神だ』 彰利 『───!』 子供のおとうさんに向けて、男たちが武器を手に取る。 クワや木の棒、刀などを。 だがそのまますぐに殴ろうとはせず、リーダー格のような男はニヤリと笑った。 男  『力ばかりが大きいなど使い道の無いクズだ。お前ら、そいつを押さえておけ』 男  『はい』 ガッ。 彰利 『な、なにする気だ!!俺を殺すのか……!?』 男  『……黙れ。まあ俺も鬼じゃない。まずはお前の大切なものを壊してやろう』 彰利 『なっ───か、母さん!?』 男は、項垂れている女性に向けて包丁を構えた。 男  『気絶している。     そんな抗いようの無いアイツに、この包丁を突きたてたらどうなるかな?』 彰利 『なっ───やめろ!やめてくれ!!』 男  『そら』 ドシュッ…… 彰利 『───!あ、ああ……』 女性の心臓に、包丁が振り落とされた。 男  『ハッ……ハハハハハハハ!!!死んだぞ!役立たずが死んだ!』 彰利 『───か、かあ……さん……?』 苦しい。 悲しみが、精神に流れ込んでくるように……まるで自分の痛みのように流れてくる。 涙が止まらない。 男  『さあ、次はお前だ。苦しめて殺してやるから感謝しろ』 彰利 『あ───、う、うあ……!!     かあさん……!かあ……うああああああああああ!!!!!』 その時、子供は泣いた。 泣いたこともなかったような子供が、喉が焼ききれるくらいに声をあげて。 やがてその子供の中で何かが砕け─── 彰利 『殺してやる……!!よくも……よくも母さんを───!!』 男  『なっ……!?お、おい!しっかり押さえつけろ!』 男  『そ、それが……!凄い力で……!』 彰利 『ああああああああああああっ!!!!!』 ぐしゃっ。 音は軽かった。 だけど、その破壊はまるで悪夢。 子供を押さえていた男の腕は砕け、血が散る。 男  『あれ……?』 男は夢で見るようにそう呟いて。 やがて、ショック死した。 彰利 『ぁああああああっ!!!!うわあああああああッ!!!!』 その時になってようやく、視界の中で悲しく泣いている彼が『魔人』だと気づいた─── ───……。 やがて悪夢は終わった。 目の前の景色には無残に転がる肉の塊と、かつては子供の父親だったモノ。 彰利 『………』 彰利は血に塗れた自分の両手を虚ろな目で見下ろしながら、ただ涙を流していた。 ───そんな時だ。 そこに、子供だった俺が現れたのは。 悠介 『彰利……?』 彰利 『………』 馬鹿みたいに不思議な声を出して、子供の俺は彰利を見ていた。 悠介 『───う……』 そして、その無残な光景を見て数歩下がった。 彰利 『ガ、アアアアアア!!』 悠介 『うわっ……!?』 魔人化が治まったわけではない彰利が、動くものに反応して『俺』を殺そうとした。 だけどその体は止まり───ゾブッ!! 悠介 『え……?』 彰利 『あ、───は……』 彰利は、その手で自分の体を貫いていた。 悠介 『あき、とし……?』 彰利 『……、…………』 彰利は自分でも不思議そうな顔をした。 だけど……やがて微笑み─── 彰利 『お前が無事な内に……正気に戻れてよかった……』 それだけ言って、力無く倒れた。 悠介 『…………彰利……?』 『俺』は馬鹿みたいな言葉を漏らして、そのトモダチを見下ろしていた。 悠介 「………」 正直、見るに堪えない。 あまり思い出したくないモノだったから。 Next Menu back