───偽・無限の剣製───
彰利 『バッスー・ピンコオ拳!!』 ドンッ!! 椛  「かはっ!」 おとうさんの掌が、わたしのお腹にめり込んだ。 凄い衝撃。 わたしはみっともなく咳き込んだ。 椛  「けほっ!こほっ!お、とうさん……どうして……」 彰利 『うう、これも楓巫女のためなんじゃよ……。だから立て』 椛  「ひどいよ……おとうさん、こんなことしたことなかったのに……」 彰利 『馬鹿め、じいやの目的は元々、     楓巫女に空手の奥義を教えることだったんじゃ!』 椛  「そんな……ウソだよね?」 彰利 『ウソじゃ!』 椛  「………」 彰利 『………』 力一杯認められてしまった。 どうしよう、なんて言えばいいのか解らない。 彰利 『御託は終わりかね?では再開しましょうか楓巫女。我が拳、味わうがいい』 椛  「ま、まっておとうさん……!もくてきじゃないならやめてよ……!     こんなのやだ……いやだよ……!」 彰利 『だめだ』 椛  「ど、───どうして……」 彰利 『実はじいやの趣味は幼女虐待だったんじゃ』 椛  「───!」 彰利 『ウソじゃ』 椛  「!お、おとうさん!ふざけないでよ!」 彰利 『だめじゃ』 椛  「もう───おとうさんのばかぁああああっ!!!」 掌から光が放たれる。 幾つもの月醒力の光がおとうさんへ向かう。 けど─── 彰利 『フッ、相変わらず短調なことよ。     残念じゃが楓巫女の攻撃は既に見切ってあるわ。月閃光!』 ガカァッ───キィンッ!! おとうさんが刀を振ると、その光は掻き消された。 椛  「え……?そんな……」 彰利 『この世界に完璧な技など有り得んのじゃ。     如何に威力の大きな攻撃だろうが、必ず死点となる部分があるのじゃよ。     故に最強。故に俺は美しい』 椛  「っ───月醒力!」 ドンッ! さっきより威力を強くした光が飛翔する。が─── 彰利 『ナックル!』 ドバァンッ!! おとうさんはそれを、拳で地面に叩きつけてしまった。 椛  「…………!」 彰利 『センスが違うんだなぁ〜……───センスが』 そしてチッチッと人差し指を揺らしてわたしを見据える。 彰利 『さあいきますよ楓巫女。見事じいやを打ち負かしてみせなさい。     そうでなければこれから先、キミは真の恐怖に向かうことになるやもしれん。     ならばこそ、そんな恐怖に飲まれるより先にじいやが成敗してやるのが愛情。     お覚悟、よろしいな?』 椛  「や、やだ……いやだよおとうさん……やめてよぉ……」 彰利 『だめじゃ』 椛  「っ……」 彰利 『ミストファイナー』 ヒュキィンッ!! 椛  「っ!」 納められた刀が閃いた。 目には見えない何かがわたしの前髪を少しだけ斬る。 椛  「あ、ああ───、あ……」 怖い。 目に見えないのに、どうやって対処したらいいんだろう……。 そう思った時に解った。 わたしは開祖だってゆうだけで、確かにいろいろな力を持っているけど…… それを生かせるほどの経験が無いんだと。 怖い……。 怖い……! 椛  「やだ……やだぁあ……!やめて……おと、さん……!!」 彰利 『だめじゃ』 ジリ、とおとうさんが近づいてくる。 わたしは頭の中が真っ白になるのを感じて、無我夢中で力を放った。 ピシ、ピシンッ。 椛  「ひうっ!?」 光や闇がおとうさんに向けて放たれた途端、わたしの頬にコインが二枚飛んできた。 ───その次の瞬間ザザザザシュバシュボシュズバババババッ!!───キィンッ!! その幾多もの光や闇は、おとうさんの前で見えない何かに消滅させられていた。 彰利 『俺を本気にさせたのはぁ〜……ミステイクだったな』 そして理解する。 『見えない何か』じゃない。 おとうさんは、あの刀で光や闇を斬っている。 その斬る速度があまりにも速すぎて見えないだけなんだ、と。 彰利 『ん?それで終わァ〜りィ?』 椛  「……!そ、それならっ!!」 以前、おとうさんを吹き飛ばした波動なら───! 椛  「はぁああーーっ!!!!」 ゴゴォッ───ッチュウウウウウウン!!! 轟音を掻き鳴らしながら放たれる巨大な光。 これは避け様がない筈だ! 彰利 『ほっほっほ、甘いわ』 だけどおとうさんは笑う。 片手を前に突き出して、目を閉じる。 彰利 『眼前に輝く光を飲み込むブラックホールが出ます』 椛  「え───!?」 ゴッ───キュバァアアッ!!! 椛  「…………そんな……どうして……」 光は呆気無く消滅した。 おとうさんが『創造』した、巨大な穴によって。 彰利 『忘れたのかね。この世界はじいやの精神世界。     一度見たものや体感したもの、     そしてその精神の中に居るものの能力などは使えるのじゃよ』 椛  「じゃあ……」 彰利 『そう。夜華さんの刀技や楓巫女の神法力、死法力、月操力に加え、     もちろん悠介の能力───創造の理力までもがじいやの力となる』 椛  「───……!そ、そんな……それじゃあ勝てるわけが……」 彰利 『お馬鹿さん!』 椛  「ひゃうっ!」 怒鳴られた。 そんなことされるとは思ってなかったから、とても驚いた……。 彰利 『勝てるわけがないとか無理だとかは完全燃焼してから言う言葉ぞ!?     やる前から諦めるヤツがおるか!!けしからん!』 椛  「だって……」 彰利 『よく考えるんじゃ!弱点は誰もが持っておる!それを突けばよいのじゃ!』 椛  「弱点……?おとうさんの……」 彰利 『む……いかんな。どうにも楓巫女には甘いようじゃ。御託はここまで!     これからのじいやには黙秘権がある!     自己に不利なことは無理に話す必要など在らず!さあゆくぞ!』 椛  「えっ───ま、待ってよおとうさん!」 彰利 『黙秘!』 いきなり黙秘権に走るおとうさんが、刀を仕舞って構えた。 彰利 『I am the bone of my sword(体は 剣で 出来ている)     Steel is my body. and fire is my blood(血潮は鉄で 心は硝子)     I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)     Unaware of loss.Nor aware of gain(ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし)     Winthstood pain to create weapons.(担い手はここに孤り。)     waiting for one's arrival (剣の丘で鉄を鍛つ)     I have no regrets.This is the only path(ならば、我が生涯に意味は不要ず)     Mywholelife was“unlimited blade works”(この体は、無限の剣で出来ていた)』 聞きなれない言葉を聞く。 月の家系にこんな呪言は無い。 そう思った途端、視界に火炎が迸り、その世界が変異する。 彰利 『発動せよ───“無限の剣製”…(アンリミテッドブレイドワークス)…』 変異した無限とも思える果ての無い世界に、無限とも思える数の剣が突き刺さっていた。 そう……まるで墓標のように。 だからか、その世界は『胸に開いた穴』を思わせた。 足りているのに足りていない矛盾を思わせる、逸る気持ちを思い浮かばせる。 彰利 『どらどら、まずはゲイ・ボルクあたりでも。     じいやとしてはゲイ・ボルクって名前よりも、     ゲイボルグって名前の方が好きなんじゃが。竜槍だし』 ガクッ。 彰利 『あ、あら?』 槍に近づこうとしたおとうさんが、突然バランスを崩して尻餅をついた。 彰利 『ば、馬鹿な!体が動かんタイ!なにご───はぁあ!!』 そして思い出したように叫ぶ。 彰利 『そういえば……創造の理力って体力を削って創造するんだっけ……?     そりゃあ、アタイの愉快な世界を創造しようとしたら体力も枯渇するよね』 うんうんと納得するおとうさんに近づく。 そして、動けないおとうさんを見下ろしてにっこり。 彰利 『あー……ィヤッハッハッハッハ!!!!』 おとうさんは笑って誤魔化そうとしたけれど、わたしは怒っていた。 だけど精神の中でもわたしを心配してくれていることはよく解った。 おとうさんはわたしに、戦いの怖さを教えようとしてくれてたんだ。 椛  「……おとうさん」 きゅむ……。 彰利 『ややっ!?な、何故抱き付くのかね!?』 椛  「心配してくれてありがとう……やっぱりおとうさん、大好き……」 彰利 『キャッ───キャアアアアアアアア!!!!!?』(ミチミチミチミチ……!) 椛  「……?」 おとうさんのコメカミが躍動する。 やがて『ブチッ』ってゆう音とともに、おとうさんは倒れた。 椛  「…………あ、そっかぁ……」 なんのことはなく、わたしは理解した。 これが、おとうさんの言う『弱点』だったんだなぁ、って。 ───ボゴシャア!! 俺と彰利の頬に拳が埋まる。 彰利 『コノヤロコノヤロコノヤロコノヤロ!!』 悠介 「コノヤロコノヤロコノヤロコノヤロ!!」 それは自分でも子供の喧嘩だなぁって納得出来るものだった。 ブシィッ!! 悠介 「ぐわっ!?ひ、卑怯だぞてめぇええええっ!!!!」 彰利 『クォックォックォッ!!奥の手ってのはこういう時に使うものよ!!     さあ受けとめるがいい!熱き思いとともに鍛え上げた鎬(しのぎ)流の奥義を!』 悠介 「鎬流に毒霧があるか馬鹿っ!!」 彰利 『馬鹿とはなんだコノヤロウ!!』 もう滅茶苦茶だ。 だが、こいつは『彰利』に近い。 俺のことも知っていれば、俺が俺だと解っている。 だが─── 彰利 『ヒモ斬りーーーッ!!!』 ドシュウ! 悠介 「うあっ!?」 彰利 『ゲェーーーッ!毒霧にやられた視界でアタイの攻撃を避けたーーっ!!』 悠介 「どうして説明口調なんだよ!」 目を乱暴に擦り、視界を回復させる。 まだ目は痛むが、甘ったれたことを言っている場合じゃない。 目をハッキリと開き、彰利の姿を 彰利 『トコロデ……』 ブスッ! 悠介 「ごわあああああああああああああ!!!!!!!!」 突然のサミング───てゆうかブスって!ブスって鳴った!! うおおおこりゃ痛ぇ!! 彰利 『ドウシテコンナ危ナイモノヲ身ニ付ケテイルノカナ………………』 ギュキィッ!! 悠介 「がはっ!?───、ぐ───!!」 彰利は俺の靴の紐を抜き取り、それで俺の首を絞めた。 ド、ドリアンさん!? って……!ふざけてる場合じゃねぇ……! 『切れ味のいいナイフが出ます』……! 彰利 『ム……』 ザクッ! 悠介 「はぁっ!は、はあ……!!」 紐にナイフを通して切り、すぐさまに距離を取る。 彰利 『ィヤッハッハッハッハ!!!不届き!!神に逆らおうとする愚か者め!!』 悠介 「っ……はぁ……!……ったく、今度は誰の真似だよ……!」 彰利 『アニメONE PIECEの神(ゴッド)・エネルの真似ザマス。     【ィ】と【ッ】が入ってるのがポイントです。漫画の方はヤハハハハだけど』 悠介 「知らん」 彰利 『……不届き』 彰利はニヤリと笑ってみせ、構えを解いた。 彰利 『I am the bone of my sword.(体は 剣で 出来ている)     Steel is my body. and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)     I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)     Unaware of loss.Nor aware of gain.(ただの一度も敗走はなく、ただの一度も理解されない。)     have Winthstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。)     yet.those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく。)     so as l pray.unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた。)』 悠介 「なに……?」 妙な言葉を並べる。 こいつのことだから、また何かの真似だとは思うが…… 彰利 『…………アレ?』 何も起こらなかった。 こっちの方こそ『え?』と言いたい状況だ。 彰利 『アレー!?アレレーッ!?……ギャア!言葉間違えた!!』 悠介 「………」 彰利 『えーと……ィヤッハッハッハッハ!!!』 ボゴシャア!! 彰利 『つぶつぶーーーっ!!!』 悠介 「焦らせるんじゃねぇこのタゴサクがァーーーッ!!!!」 ボゴドゴゴシャグシャガンガンゴシャゴシャドゴシャア!!!! 彰利 『つぶっ!つぶぼっ!!つぶっ!つぶっ!?つぶぼっ!つべぼっ!!』 悠介 「失せろ!」 ボゴシャア! 彰利 『キャーッ!?』 ズザザァーーーッ!!! 倒れた彰利の顔面を横殴りにし、地面を滑らせた。 しかし懲りることなく立ち上がる。 彰利 『フフフ、無駄ぞ。     アタイはこの世界にある間違いを言い当てない限りは消滅せん。     故に最強、故に俺は美しい』 その割には痛そうだが…… 悠介 「間違い?」 彰利 『SO!今この場所に存在する俺達だけの矛盾を当てればアタイは消えやしょう!     そして貴様の勝利!ドゥーユーアンダスタァ〜ンドゥ?』 ……なんだ、それだけでいいのか。 悠介 「簡単なんだな、そういうことはもっと早くに言え」 彰利 『ありゃ?やっぱ解っちゃう?』 悠介 「当たり前だ。こんな矛盾はあっちゃらない」 彰利 『……───そっか。じゃ、さっさと言ってくれ。     俺も魔人に意思操作された【現象】とはいえ、     こんなところでお前を殴るのは嫌だ』 悠介 「……ああ」 息を吐く。 そして、確信のもと、俺は口を開いた。 悠介 「俺とお前が喧嘩するべき場所はこんな場所じゃない。     約束なんてしてないけど、俺達はあの木の下でこそ喧嘩するべきだ」 そう言った途端、景色がブレる。 やがて彰利の体も消えてゆく。 彰利 『───……ああ、もちろんだ』 消える瞬間、あいつは微笑んだ。 ───……。 闇  『オメデトウ、と言うべきかな』 悠介 「っ……!?」 気づかなかった。 いつの間にか、さきほどと同じように闇の中に居た。 視線の先には子供。 闇  『お前らに与えたものは試練のようなものだったが……。     まさか、三人とも突破するとはな』 夜華 「……試練?今のがか」 闇  『そうだ。お前には【日常】の試練。正解は普段通りにぶつかること。     ここに来るまでに深い闇を見ただろう。     だからこそ、宿主に甘くかかる可能性がある。それに付け込もうとしが……』 夜華 「馬鹿な。あいつはあいつだ。     彰衛門の過去がどうであろうと、     わたしにとっては出会った時点の彰衛門こそがあいつなのだ」 闇  『……ふむ。だろうな、違いない。     そしてお前の試練が【成長】。正解は恐怖と弱点を見極めること』 椛  「………」 闇  『宿主はお前に成長してもらいたかったようだ。     危険からはまず逃げ出すべきだということを知り、     どうしても戦わなければならない時は、     たとえ心苦しくても弱点を突き、そして勝つこと。     そうまでしなくては【勝った】とは言えない』 椛  「……おとうさん……」 闇  『そしてお前が……』 悠介 「【矛盾】、だろ?」 闇  『そうだ。宿主にとって、お前との戦いの場所はあの木の下でなくてはならない。     他のどの場所だろうと、そこで行なうものはじゃれあいにすぎない。     お前にそれを問うこと自体が愚だとは思ったがな。     だがそれは、宿主が居るべき歴史での話。     この歴史の中では、お前と宿主は約束もしてなかったのだからな。     お前の解答は少々意外だったぞ』 悠介 「そりゃどうも。で?言ったことは守るんだろうな」 闇  『無論だ、約束は守る。意識は宿主に返そう。     だがそれは【一時的に】だ。時が来たらこの体を頂くつもりだ。     せいぜいその時まで、今の試練を忘れぬことだ』 そう言い残して、闇は消えた。 あとに残されたのは俺と椛と篠瀬───そして子供の彰利。 椛  「おとうさん……」 椛が、泣いている彰利に近寄る。 椛  「おとうさん、帰ろう?     こんな暗いところじゃなくて、もっと明るくて楽しい場所に……」 子彰利『いやだ……』 椛  「え……どうして?」 子彰利『戻ってももう、母さんは居ないんだ……。そんなところに戻っても……』 夜華 「き、貴様!楓さまがせっかく……!」 子彰利『……おばちゃん、誰?』 夜華 「おば───!?ご、ごわああああああああ!!!!!!」 悠介 「うわ馬鹿っ!落ち着け!こいつを斬ったらその時点でアウトだぞ!」 夜華 「後生です!お離しください悠介殿!!刀の錆にしてくれましょう!!」 暴れ出す篠瀬を全力で止める。 今のは本気で殺る気だったに違いない。 子彰利『………』 彰利は、篠瀬を羽交い締めする俺をじっと見ていた。 が、やがて恐る恐る、口を開いた。 子彰利『……おにいさん、懐かしい感じがする……』 悠介 「───……彰利?」 夜華 「待て!何故悠介殿が『おにいさん』で、わたしが『おばちゃん』なのだ!!」 子彰利『ひぅっ……!』 椛  「あっ……やめなさい夜華!怖がってる!」 夜華 「ぐ、ぐがが……!し、しかしですね楓さま……っっ……!!」 篠瀬の持つ刀がガタガタと震える。 どうやら相当に苛立っているらしい。 ……気持ちは解らんでもないが、これしきで怒っていては彰利の知り合いは勤まらん。 悠介 「……ふむ。椛」 椛  「はい?」 悠介 「俺の体の時間、戻せるか?」 椛  「えっと……出来ますけど、どこまで?」 悠介 「この彰利と同じくらいでいい。出来るか?」 椛  「え……ここでですか?それは危険です、出来ません」 悠介 「解ってる。精神の状態で時間を戻したら、     今の俺には戻れなくなるかもしれないっていうんだろ?」 椛  「……はい。精神の時間を戻すのは体を戻すのとは違います。     精神は行動の積み重ねによって変わってきます。     それを戻すだけなら問題はありませんが、     子供の精神になってから大人の精神に戻すとなると、     そこに経験が存在しないために子供の精神を引き伸ばす結果になります」 悠介 「……はぁ」 予想はついたがな。 つまりはこうだ。 精神が子供に戻るなら、ただ時間を巻き戻すだけで過去の俺にはなれる。 だが、その過去の俺から未来の……つまり、今の俺になるのは不可能だということ。 今の俺に戻るとしたら、今まで歩いてきた時間を全く同じように歩む必要があるんだ。 何ひとつ違わず、全く同じ歴史を、時間をかけて。 そんなことは無理だし、時間を操れるとしても『経験』までは操作出来やしないのだ。 悠介 「……じゃ、どうするかな」 子彰利『………』 子供の頃の俺に戻れれば、彰利も俺が『晦悠介』だと解るんだろうけど。 悠介 「……なぁ彰利。ここから出てみたくないか?」 子彰利『………』 彰利は黙って首を横に振る。 どうして、と訊いてみると、『ぼくがここに居ないとみんなに迷惑がかかるから』と。 悠介 「迷惑って?」 子彰利『……見たでしょ?     ぼくがここに居ないと、さっきの黒いぼくが外に出ちゃうんだ』 悠介 「さっきのか……」 子彰利『レオ=フォルセティーっていうんだ。     自分の意思もあって、誰にも負けないくらいの強さをもってる。     絶望を糧にして、【ぼく】が辛い思いをする度に強くなっていく。     永い間、孤独や絶望を味わってきた【ぼく】の中だからこそ、     どんどんと強くなって……やがて、あの人は強くなりすぎていた』 悠介 「レオ……フォルセティーか。とても彰利の死神とは思えない名前だな」 椛  「響きがいいですね」 夜華 「そうでしょうか……わたしとしてはこの子供を叩っ斬りたいですが」 それは今の話には関係ないぞ篠瀬……。 そもそも闇なのにフォルセティーって…… 悠介 「フォルセティーってさ、闇って感じが全くしないんだが」 椛  「同感です。どちらかというと『光』を連想させます」 子彰利『光は、闇の孤独に苛まれていた【ぼく】自身の憧れでもあったんだ。     だからきっと、あの闇の名前には【ぼく】の憧れも混ざってるんだと思う』 悠介 「……そっか」 子彰利『いつか【ぼく】が孤独の闇に負けた時、レオはキミ達を襲うかもしれない。     その時は……どうか、ぼくを止めてほしい』 椛  「───止めるって……?」 子彰利『…………ぼくを、殺してほしい』 椛  「!?」 椛が後退る。 だが、この彰利の言うことには間違いなんて感じられない。 けど……それに頷くことなんて 夜華 「今斬っていいか?」 悠介 「って待てぇっ!!」 ガバァッ!! 悠介 「間も置かずに斬ろうとするヤツがあるか!」 夜華 「ふふふ……ダメだよサド隊員……わたしはもう我慢の限界だ……何もかも。     もういいじゃないか……こいつを殺そう……」 悠介 「誰だよサド隊員って!」 カタカタと震える篠瀬を再び押さえ、彰利に向き直る。───と 子彰利『おばちゃん、怖いよ……』 そんな斬首確定発言をした子彰利がおりました。 夜華 「よし斬らせろ」 シャアアア……! 悠介 「だぁあっから!!待てっつーの!!抜刀は肉体に戻るまでおあずけ!OK!?」 夜華 「待てません!!待てませんから離してください!!     わたしはまだ『おばちゃん』と呼ばれる年齢ではありません!!     二十歳にもなっていないというのに、     何故そのように呼ばれなければならぬのですか!!     納得出来ません!出来ませんから斬ります!」 悠介 「却下ァ!篠瀬を動けなくさせる戒めが出ます!」 キィン! 夜華 「なっ───!?あ、く、くぅうう……!!」 イメージが弾けるとともに、篠瀬の動きが止まる。 まったく面倒かけさせてくれる。 悠介 「さて、抜刀娘は黙らせたから話を続けようか」 夜華 「誰が抜刀娘ですか!!」 悠介 「ハイ静かに。でさ、彰利。フォルセティって『風』じゃなかったっけ?」 彰利 『……知らない。【ぼく】の知識から導き出された名前だから』 悠介 「……彰利よ……」 そりゃあ俺も詳しいことは知らんが、 あいつは『シンデレラ』の名前の由来も知らんヤツだ。 レオ=フォルセティーの名前もそんな風に捻じ曲がってる可能性大だ。 あいつに名前のセンスを問う自体が間違いかもしれん。 名前の意味は考えない性質だろうし。 とか考えてる時だった。 声  《───そろそろ戻って来い。これ以上長居をすると検察官の精神がもたない》 リヴァイアの声が聞こえた。 少し苛立ってるようだ。 声  《お前らな、精神の中で談話するなんてなに考えてるんだ。     精神が人に対してどんな影響を及ぼすかくらい考えがつくだろ》 悠介 「……もしかして、怒ってるか?」 声  《わたしは出来るだけ早く済ませろって言っただろ。     だっていうのに話を長引かせて……。     あのな、死神が引っ込んだからって、     そこからすぐに出られるとでも思ってるのか?》 悠介 「へ……?出られるんじゃないのか?こう、パ〜ッて」 声  《いいか、深部に入った状態は、その精神と同化している状態に近いんだ。     なのにそんなことをしてみろ、検察官の精神が崩壊するぞ。     来た時とは逆の手順で戻るんだ。いいな》 悠介 「来た順序とは逆か……OK」 声  《いいな、さっさと帰ってくるんだぞ》 声  《リヴァイア、ハック防止が面倒だからって八つ当たりはよくないよ》 声  《うるさいな。それもこれも、こいつらがさっさと戻ってこないからじゃないか》 悠介 「……申し訳無い。すぐ戻る」 声  《……出来るならやってみろ。     魔導使いのお偉いさん達が検察官の精神介入を阻止しようとしてる。     ソレの影響がそっちに流れる可能性があるからな》 悠介 「……そりゃまた……」 厄介な。 子彰利『……じゃあ、さよならだね』 悠介 「彰利……」 子彰利『キミ達はまだ【ぼくら】の闇を知らないから。     ……ううん、知るべきじゃないから、こんなところに来るべきじゃないんだ。     他人の心は他人には解らない。     だから干渉しすぎるのはキミ達のためにならないよ』 悠介 「彰利、あのな」 子彰利『───ぼくはその先の言葉を否定する』 キィン! 悠介 「───……!?」 声が……出ない……? 子彰利『ここはぼくの世界。だからぼくの意思には勝てないよ。     だからこそ、ぼくより力の強いレオもここでは強くない。     でも……それも時間の問題だから。もうぼくには干渉しないでくれ』 悠介 「───!」 景色が遠ざかる。 精神の主であるあいつが俺達を否定した時点で、俺達はあそこには存在できない。 それは解ってるけど─── 子彰利『───また明日、あの丘で会おうね……』 悠介 「っ……!!」 きっと、もう会うこともないのだろうと思う中───あいつは初めて微笑んだ。 かつて、何も言わずに別れてしまったことを後悔するかのように。 そんな真っ直ぐな目にウソや気休めなんか言えるわけもなくて。 俺はただ、歯を噛み締めながら沈黙を守って……やがてはその視界を閉ざした。 Next Menu back