───我輩は猫であったが……───
───夢を見ている。 それはドラえもんが空を飛んでいる夢だった。 どこか懐かしい夢だけど、足りないものがある。 それがなんだったのか、全然思い出せなかった。 そいつは自分にとって、大切なヤツの筈だったのに。 ……誰だろう、と思ったら、突然苦しくなってきた。 喉が圧迫されるような感触だ。 それとともに、ジワジワと意識が覚醒していった。 …………。 鑼衛門「……う、むむ……む……むおお……」 なにやら首がギリギリと苦しい。 パッチリと、つぶらな瞳を開けてみれば─── 真里菜『うううう……あううう……』 目の前におわすは真里菜さん。 しかもアタイの首を絞めて 鑼衛門「ぎゃあああああああ!!!!!おばけぇええええええええっ!!!!」 また出たまた出たまた出たぁあああああああっ!!!! 鑼衛門「イヤーッ!イヤーッ!!」 真里菜『お願いだよ……一緒に死んで……!!』 鑼衛門「まっぴらごめんのすけぇええええええっ!!!」 真里菜『うあああああああっ!!』 ギチギチギチ……!! 鑼衛門「ゲゴゲェーーーッ!!!」 ぐおお……!!意識が遠くなる……!! こりゃいかん……!思わず、 『お解りいただけただろうか……。  昨夜よりこの娘ッ子の首を絞める力が強くなっていることを……。  昨夜のアレは手加減していたとでも……いうのだろうか……』 ……とか、『ほんとにあった呪いのビデオ』の真似をしたくなるほどに苦しい……! 真里菜『お願い……お兄ちゃん……!!』 鑼衛門「ゲベベェーーーーッ!!!!」 おわーーーっ!!息ができーーーん!! このままでは死んでしまう!! グ……め、冥月刀よ……月然力を引き出したまえ……!! 鑼衛門「びぼびぶぶぶ、ぶぼぼぶぼぶ……!!」(訳:緑紡ぐ無の食物(みどりつむぐむのしょくもつ)) 肺の中にダイレクトに酸素を精製。 これでおーけーね? ───って!吐き出せなくちゃ肺がパンクしてしまうザマス!! 真里菜『お兄ちゃん……!』 鑼衛門「ばべばぼびびばぶばぼぼばぼぶ!!」(訳:誰がお兄ちゃんだこの野郎!!) い、いかーーん!! このままでは殺されてしまうがよ!! てゆうかアレ!?そういやここ何処!? アタイ、小僧達と一戦やらかして、なんか頭に落ちてきて───アレ? ───ふと見ると、ここは広間で……隅の方に転がってる三つの影。 あれって……アタイがエル・トールで痺れさせたお方たち……? 鑼衛門「だ……だずげ……」 助けを乞うてみても三人からは反応無し。 いかんな、やりすぎた? しかも結果的に自分の首絞めてるよアタイ。 い、いや……もしや寝ているだけやもしれん……! ならば刺激を与えれば起きるやも───ゴギュッ 鑼衛門「けはっ───!?」 やべっ……なんて馬鹿力だ! 喉が潰されかけてる……!! 躊躇してる余裕はねぇ!さっさと起きてもらおう!! 鑼衛門「バッブブ!びぼぶぼぶぼばーびー!」(訳:マックス!二億ボルト“放電”(ヴァーリー)!) キュイィ───ィイイイイ……ン……バガァッ!!ゴゴッシャァアアアアアン!!!! 浩介&凍弥『ギィイイイイイヤァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!』 ───ゴトッ。 鑼衛門「………」 真里菜『………』 ギャーーーアァアーーーッ!!!ピクリとも動かなくなっちゃったァーーーッ!!! グキキッ!! 鑼衛門「ベギャアーーーッ!!」 真里菜『お兄ちゃん……お兄ちゃん……』 鑼衛門「ばっべべーーーっ!!!」(訳:たっけてーーーっ!!!) 悲痛の叫びを発動!てゆうか死ぬ!死んでしまう! 小娘くらいなら退散できるが、こげにめんこい娘ッ子に傷を負わせるのは─── 菜苗 「はぅ……?」 鑼衛門「!!」 なんと!お嬢が目を覚ましおったわ!! 鑼衛門「ばっべべーーーっ!!」(訳:たっけてーーーっ!!) 菜苗 「───……」 パタリ。 ギャア!?おばけ見て気絶しやがった!! なんてピュアな!!───メキャッ! 鑼衛門「───!」 があああああっ!!また声帯潰された!! 江戸以来だぞチクショウ!! もう許せん! 鑼衛門「───!」(訳:月清力!) どんな霊なのか知らんが、無理矢理にでも浄化してやる!! 真里菜『お兄ちゃん……お願い……!!』 鑼衛門「───!?」 うそっ!?効かない!? んな馬鹿な!!こんな筈じゃ───ヤバイ!このままじゃヤバイ! 俺はまだ死ぬわけには───いかないんだ!! 鑼衛門「───!!」 パァン!! 真里菜『あ……っ!?』 手に月清力を込め、真里菜さんを引っ叩いた。 その刹那、力が弱まったことをアタイは見逃さなかった。 鑼衛門「───!」(訳:フンッ!) バッ!バッ!バッ!バッ! 独眼鉄もびっくりのバク転でお化けから離れ、喉に月生力を流して回復させる。 鑼衛門「おのれ貴様……!この鑼衛門をよくも抹殺未遂してくれたな!」 真里菜『お兄ちゃん……』 鑼衛門「誰がお兄ちゃんだこの野郎!」 真里菜『───一緒に……』 鑼衛門「一緒に!?一緒になにかね!     ハッキリ言いたまえ!キミはいちいち『間』がありすぎるのだよ!     とにかくだね!ワタシはもうこんな茶番には付き合っておられんよ!     ワタシはこれで失礼させてもらうよ!?まったく失敬な!───あら?」 ……体が動かんタイ。 真里菜『一緒に……行こう……?』 ギャア金縛り!? 馬鹿な!これがかの有名な金縛りなのか!? 真里菜『お兄ちゃん……』 鑼衛門「イヤァ来ないでぇえええええっ!!!     アタイまだ死ねないの!アータとは一緒に行けないのヨーーーッ!!」 真里菜『───!』 鑼衛門「ややっ!?」 なにやらお化けの行動が止まった!? 真里菜『……うそだよ……』 鑼衛門「なにがかね!」 真里菜『お兄ちゃんはいつだってわたしのお願い聞いてくれたもん……』 鑼衛門「誰がお兄ちゃんだこの野郎!!」 真里菜『いじわるしてるだけだよね……?     殺しちゃえば……一緒に来てくれるよね……?』 うあ……なにやらヤバイ雰囲気。 なんとかして時間稼ぎして朝日を待とう……! なんかそれでなんとかなりそうな気がするよね、幽霊って。 鑼衛門「一緒って……誰が?」 真里菜『お兄ちゃんが……』 鑼衛門「何処へ?」 真里菜『もう迷わなくていいところ……』 鑼衛門「なんで?」 真里菜『わたし……何処に行けばいいか解らないから……』 鑼衛門「迷わなくていいところに行くんじゃないのかね?」 真里菜『何処にあるの……?』 鑼衛門「知らん」 真里菜『うあああああああああ!!!!!』 鑼衛門「アイヤーッ!?シマターーッ!!」 自分で話を長引かせておいて、つい面倒くさくなっちまったい! 嗚呼!正直なアタイが眩しすぎて泣けてくる! 鑼衛門「ま、待ちたまえ!     この鑼衛門さまのどこが貴様の兄だというか、正直におっしゃいなさい!!」 真里菜『……言ったら一緒に来てくれる?』 鑼衛門「何処に?」 真里菜『もう迷わなくていいところ……』 鑼衛門「なぜゆえに〜?」 真里菜『何処に行けばいいか解らないから……』 鑼衛門「……迷わなくていいところに行くんじゃねぇザマスの?」 真里菜『何処にあるか解らないの……だから、物知りだったお兄ちゃんだったら……』 鑼衛門「知───」 い、いかん!ここで知らんと言ったらさっきと同じ状況ではないか! ではどうすれば!?───って、普通は逆のことすりゃ助かるよな。 鑼衛門「オウヨ!知ってるザンス!」 真里菜『じゃあ死んでくれるよね!?』 鑼衛門「ゲゲェエエーーーッ!!!!」 変わんねぇ!これなら正直に言っておくんだった! 鑼衛門「っかーーーっ!!解ってねぇなぁあんちゃん!     俺を殺したりなんかしたらおめぇ……アレだ、     迷わなくていい場所への行き方が永遠に解らなくなるぜぇ!?」 殺界(さっかい)が発動してるこの場を和ませようと、 ちと苦しいが愚地独歩の真似をして熱く語ってみた。 真里菜『じゃあどうしたらいいの!?     わたしもう休みたいの!もういやなの!助けてよ!』 鑼衛門「馬鹿野郎〜っ!俺に言われたって知るか〜っ!泣き言言ってんじゃねぇ〜っ!」 真里菜『うぁああああああっ!!!!』 グキキキキッ!!!! 鑼衛門「ギャアアたっけてぇーーーっ!!!!     怖いよヤバイよたっけてママーーン!!」(注:泣き言) どうしたらいいの!? もう訳解らんよ! と、とにかく───ここは逃げるっきゃねぇ!! 鑼衛門「フェイスフラッシュ!!」 ギシャアッ!! 真里菜『うあっ……!』 光った鑼衛門フェイスに真里菜さんが驚くのと同時に、金縛りが解除される! 今こそ好機!全軍討って出よ!───出るか馬鹿!逃げるンだッッ!! 鑼衛門「とんずらぁーーーっ!!!」 一目散に逃走!付き合ってられません!! 真里菜『逃がさない……!』 ドヒュンッ!! 鑼衛門「ややっ!?」 真里菜さんが一瞬にして目の前に!? だが甘いわ! 鑼衛門「フェイスフラッシュ!!」 ギシャア!! 真里菜『きゃあぅうっ!!』 眩しすぎるアタイのフェイスに目が眩んだ真里菜さんは目を庇った。 だが霊体なので長続きはせず、すぐさま睨んできた。 そこへ─── 鑼衛門「アーーーンド!!不・意・打・ち───“毒霧の息(ドッキリブレス)”!!」 ブシィッ!! 真里菜『!!ア、ァアアアアアッ!!!!』 月清力を込めた毒霧を噴射!これは効きますよ奥さん!! 鑼衛門「とんずらぁーーーっ!!!」 そして一目散。 真里菜『うう……お兄ちゃん……お兄ちゃん……───お兄ちゃん……!!』 ───ヒタタタタタタタ……!! 鑼衛門「ィヤッハッハッハッハ!!!     ここまで来れば追ってこれまい!なにせ偽神の全速力での逃走なのだからな!」 少しペースを緩めて後ろに振り返ってみる。 すると 真里菜『あぁああああ……!!ああぁああああああああああっ!!!!!』 鑼衛門「ぎぃぃいいいゃああああああああああああっ!!!!!!!     コワィコワィコワィコワィコワィコワァアアアアアイ!!!!!」 禍々(まがまが)しい顔で飛んでくる真里菜さん確認!! すっげぇ怖い!!冗談抜きで俺怯えてる!! うわ怖ェ!!やべぇ!すげぇ怖ェ!! 鑼衛門「ひっ……ひやあああああああああああっ!!!!!」 不覚ながらにパニックになりながら走った。 小僧の幼馴染のおなごの霊を助ける時に、結構な数の霊と対面したが…… アレは既にヒトのカタチを留めていなかったから余裕だった。 だが今回は違う。 本気で『お化け』って言葉が合ってるし、俺を殺そうとしているし、怨念も相当だ。 しかも走ってこないってのが一番怖い!!! だってさ!人って遠くから近づく時は走ったり歩いたりして揺れるじゃん! だけど浮いてこられると全然揺れないのに近づいてくんのよ!! 怖ェって!!しかもあの形相ですよ!? 鑼衛門「誰かァアアアアッ!!助けてぇええええええっ!!!」 もう泣きそうです!勘弁してつかぁさい!! ───む!前方に人影発見! 鑼衛門「そ、そこに居るのは誰!?」 浩之 「……ん?鑼衛門……ではないか。まだ居たのか」 鑼衛門「あ───アァーーーッ!!!」 知ってる人との遭遇! 嗚呼、なんて心が温まることか!! 鑼衛門「あぁんハニー!!ボクとっても怖かったぁ〜〜〜ん!!」 アタイは嬉しさのあまりに片割れに飛びついボイーーーン!!! 浩之 「ぶほぉっ!!」 鑼衛門「アイヤーーーッ!!?」 しもうた!鑼衛門だってこと忘れてた! つい飛びついた所為で『全速力ビッグバン・クラッシュ』が完了してしまった!!! おかげで片割れ2は吹っ飛び、行動を停止した。 鑼衛門「いかがなされたご老人!しかりなされぃ!!」 浩之 「………」 慌てて起こしてみても反応なし。 鑼衛門「ば、バッカモンが!!     片割れ1はもっと強かったぞ!たった一発で倒れるとは情けない!     もっと男の意地というものをだな!!」 真里菜『あぁああああああああっ!!!』 鑼衛門「ぎぃいいいいいいゃああああああああああああっ!!!!!」 アタイは真里菜さんに向かって片割れ2を投擲した! が、シェェエイ!という音とともに擦り抜ける! 浩之 「ぎゃああああああ!!熱いぃいいいっ!!!!」 鑼衛門「なんと!?」 その所為かどうかは知らんが、片割れ2が目覚めた。 体の中を霊が通ると何か感じるらしいけど……もしかして怨念が強すぎて熱いとか? 浩之 「サムイサム……イ……」 鑼衛門「どっちじゃい!!」 熱いとかぬかしてた片割れ2は、 霊が通り抜けたあとに『寒い』とかぬかしておりました。 もう訳が解りません。 真里菜『うぅああああああっ……!!あぁあああああっ!!!』 鑼衛門「キャーッ!ヒヤーッ!!イィャアアァアアアアアアッ!!!!!」 だが無視。 もう逃げるしかありません。 怖いからって、娘ッ子の霊を実力排除するのは心苦しい。 それも、あんなに人のカタチを残してる者相手にそげなこと出来るか! ───でもやらんと殺されるかもしれんし。 鑼衛門「ええいままよっ!!アンリミテッドストリ───」 ドクンッ!! 鑼衛門「うぶっ……!!」 吐き気───これは吐き気……か? そうだ……アレだ。 俺は……俺は女性に暴力を振るうことが出来ない。 目の前で母の死を見た俺にとって、それは完全に自分を殺すことになる。 拒絶反応というものだ。 体が痺れて、吐き気がして…… 鑼衛門「うぶっ……ぐふっ……!!」 吐き気を懸命に堪える。 やっぱり逃げるしかない。 俺には『女』に手を上げるほどの残虐さはありはしない……! 俺は親父とは違う……親父とは……!! 鑼衛門「ぐぶっ……と、とんずらぁーーーっ!!!!」 でもふざけるのはやめません。 てゆうか───転移できるのになんで走ってんでしょうね、アタイ。 鑼衛門「ィヤッハッハッハッハ!!お前の追撃もそこまでだ!月空力!」 冥月刀から力を引き出して転移! 思いついたことでござーますが、 力を使う時は出来るだけ冥月刀から引き出して使おうかと思いマッスル。 その方が力の枯渇も無いでっしゃろ。 ───キィンッ!! ………………。 鑼衛門「というわけでですね?」 メイ 「失礼ですが、どなたでしょうか」 鑼衛門「………」 転移した先に、運良くメイさんが居たのはいい。 それから安堵のあまりに説明しまくったアタイを快く迎えてくれたのも嬉しかった。 が。 鑼衛門「……すんづれいすますた……」 メイ 「いえ……」 鑼衛門スーツが脱げないアタイは、メイさんにとっては不特定なる存在だった。 しかもそこんところは一切説明してない。 ……フフフ、ド、ドジこいちまったぜ……。 で、それはそれとして、 ただ今アタイとメイさんは例のごとく牢屋で正座して向き合ってる状態です。 鑼衛門「えーと、アタイですよメイさん、弦月彰利ザマス」 メイ 「……彰利さまでしたか。何故そのような格好を?」 鑼衛門「それがですね、突然空からやってきた謎の地球外知的生命体に拉致されまして、     気がついたらこんな格好だったんですよ。脱げないんです」 メイ 「そうだったのですか」 鑼衛門「………」 一片の曇りもなく信用されてる。 他の誰でもからかいまくるのはいいが、 メイさんに対してはどーしてか罪悪感覚えるんだよなぁ……。 母さんが重なって見えたからかな。 ……俺も相当の母親ッ子だったってことかな。 親父は大嫌いだったけど。 いや、現在進行形で大嫌いだ。 地獄に落ちて尚、更に落ちてほしいと思うくらいに。 鑼衛門「………」 けど……人殺しって部分では、俺だって変わらない。 事実、俺はあの場に居た全員を殺してしまったのだから。 メイ 「彰利さま?」 鑼衛門「あ、いや……なんでもない、ごめん」 訳も解らず謝った。 だめだ、思い出すな。 あの頃のことを思い出すと、俺の思考はいつもおかしくなる。 記憶が曖昧になる───いや、作りかえられてるとでも言えばいいのか。 とにかく定まらない。 覚えているのに憶えていない。 鑼衛門「…………っ」 頭を振って、気を落ち着かせた。 その間、メイさんは何も言わずに俺の目を見ていた。 俺はなんだか申し訳無い気分に陥って、何か話題を出そうとした。 鑼衛門「あ、えっと……」 メイ 「───失礼します」 鑼衛門「え?」 ヒィンッ!! 鑼衛門「……オワッ!?」 一瞬、目の前を何かが通った気がした。 ───が、その次の瞬間……鑼衛門スーツが真っ二つに!! ……そして(さら)されるアタイの()。 彰利 「キャーッ!?」 メイ 「備えつけの刃で着ぐるみのみを斬りましたが……裸だったのですか」 彰利 「あ、い、いや……開放してくれたのは『ありがとう』だけど……!」 真っ二つになり、支えを無くした着ぐるみがズルリと崩れ落ちるのを手で押さえながら、 アタイは己の裸を必死に隠していた。 夜華さんやリヴァちゃんに次ぎ、 メイさんにまでウェポンを見られたら……アタイもうお天道さまの下歩けませんよ!? 彰利 「メ、メイさん?なにか着るものないかな……。見ての通り、裸なもので……」 メイ 「着るもの、ですか」 彰利 「イエス!もう贅沢なんて言いませんよ!?着れるものならなんでも!     でも着ぐるみ系はもう勘弁してつかぁさい!オチが見えてるから!」 メイ 「オチ、というのは理解できませんが……わかりました。今用意しますね」 彰利 「やったーーっ!!ありがとうメイさぁーーーん!!」 メイさんが立ち上がり、牢屋を出ていった。 アタイはその背中に言いようのない頼り甲斐ある何かを感じ、エールを送ったのでした。 ───やがて…… ペッペケペー! 彰利 「イエイ」 アタイは服に身を包み、完全武装していた。 これで裸を晒すこともなし! 安心!まさに安心! 彰利 「でもさ、メイさん」 メイ 「なんでしょう、彰利さま」 彰利 「……どうして……メイド服だったのかな……」 そう、それはもうパーフェクトなほどのメイド服だった。 なんでもメイさんの替えの服の内の一着だったとか。 ……ヤケクソにもなりませう。 メイ 「この屋敷に住んでいらっしゃる男性は、     旦那さまとそのご子息のおふたりだけです。     主人であるお方から着衣を預かるわけにもいきませんし、     それがご子息でも同じことです。     幸いなことに、彰利さまは『着られるものならなんでも』と仰いましたので」 彰利 「………」 うん……そうだよね……。 言ったよね……言っちゃったよね……俺……。 メイ 「ところで彰利さま。先ほどからそちらにお客さまが見えてますが」 彰利 「客?───ややっ!リヴァちゃん!!」 リヴァ「……間近で見ると異様だぞ、検察官」 ギャアア!!とんでもねぇ珍態さらしちまった!! 彰利 「リ、リリリリヴァちゃん!?何故ここに!?」 リヴァ「お前があの着ぐるみを着てこの屋敷に下りたところあたりからずっとな。     ここに来たのは、ちょっと伝言を預かったからなんだ」 彰利 「……プライベートを覗くなんて……」 リヴァ「それでな、用があって呼んでいたやつらも途中で起きて見ていたんだが……」 彰利 「見ていた?誰が?」 リヴァ「……まあその、お前の友人と名乗る者と、     お前の娘と名乗る者と、お前を痴れ者と罵る者だ」 彰利 「…………………………」 いやん……汗が止まんないワ……。 リヴァ「でな、伝言というのが……『女になって反省してください』というものでな」 彰利 「なにぃ!?」 リヴァ「涙ながらに語ってたぞ。何したんだ、お前」 彰利 「アイヤァーーッ!!全ての珍態見られてたァーーーッ!!!」 ショック!超ショック! なんてこったい! 悠介と椛と夜華さんがアタイの珍態を!? 悠介と夜華さんは別にいいとして、椛まで!? い、いやぁあああああっ!!!! 彰利 「あの……『全部見てたなら誤解だって解るだろ』って言っといてもらえます?」 リヴァ「───……ふむ。     着替えた後に『イエイ』とか言ってる時点でなにも解りません!と怒ってるぞ」 彰利 「……そ、そッスか……」 終わった……。 誤解は誤解なんだが、今回ばかりは墓穴で終わった……。 イエイなんて言うんじゃなかった……。 とか思ってる間に、アタイより背が低かったリヴァちゃんの背が大きくなってゆく。 彰利 「やや!?一体どうしたことか!リヴァちゃんの背が高くなっておりますよ!?」 リヴァ「ばか、お前が縮んでるんだ」 彰利 「なんと!?」 ふと見てみれば、手も細くなって足も細くなって、 スネ毛も無くなるわ肌もスベスベになるわ……これは一体!? 彰利 「ま、まさか地球外知的生命体が、     俺にキャトルミューティレーションをかけようとしているのかーーっ!!?」 ガカッ───ドゴシャアアアアアアアアン!!!! 彰利 「ギエェエーーーーッ!!!!」 な、なんザンスか!?いきなり頭上から雷が落ちてきおった!! リヴァ「『地球外知的生命体じゃないよ!おとうさんのばか!』と怒ってるぞ」 彰利 「グ、グウウ……!!     まさか遠隔操作まで出来るとは……───!開祖……恐ろしい子……!」 ガカッ───バッシャァアアアアアアン!!!! 彰利 「ゴゲゲェーーーーッ!!!」 再び落雷。 リヴァ「『わたし恐ろしくないよ!白目でヘンなこと言わないで!』と怒ってるぞ」 彰利 「ば、馬鹿野郎〜っ!この白目の良さが解らねぇヤツは人間じゃねぇ〜っ!!」 ギガァッ!!ドッッパァアアアアアアアアン!!!!! 彰利 「ギィイイイヤアアアアアアアアアアッ!!!!!」 ひときわデカイのが落ちました。 もう勘弁してください。 リヴァ「『野郎じゃないよ!おとうさんのばか!』と怒ってるぞ」 彰利 「野郎じゃない、って……だんだんルナっちに似てきたな、椛のヤツ……」 なんにしても勘弁してもらいたい。 このままじゃあせっかくメイさんにもらった服がボロボロになってしまう。 一応シールドは張っておいたから大丈夫だけど…… 彰利 「ま、いいコテ。よーするにアタイ、女になったわけね?」 リヴァ「……平然と納得出来るんだな、驚いた」 彰利 「俺ゃあよ、場のノリは人類の至宝と謳いたい男のひとりだぜ?」 リヴァ「今は女だろう」 彰利 「うん……そうだね」 ツッコまれてしまった……。 彰利 「なに、一度おなごにはなってみたいと思ってたから丁度いいさね。     どう!?美人!?キレイでステキ!?わたしみたい!?」 リヴァ「意味が解らん。が、骨格も変わって女らしい顔にはなっている。     わたしが言うのもなんだが、キレイな方だぞ。     あとはこのオールバックを少し調整すれば……うん」 彰利 「どうかね!?」 リヴァ「ノリノリだな」 彰利 「任せろ」 リヴァ「どういう返事だ……ほら、出来たぞ」 リヴァちゃんが式を作って、空中に鏡のようなものを作る。 そこには───べっぴんなおなごが写っておった!! 彰利 「まあ……これがアタイ!?」 リヴァ「違う」 彰利 「違うのかよっ!!」 リヴァ「からかっただけだ。ほら、これがお前だ」 彰利 「…………ほほー」 ズズイと見つめるその鏡の中には、 およそ『弦月彰利』という存在のカケラが消滅してしまったようなおなごが映っていた。 彰利 「……誰?」 リヴァ「お前だ」 彰利 「………」 馬鹿な……骨格変わるにも程があるだろ……。 椛サン、アータ何者ですか?……って、月の家系の開祖ですか。 彰利 「えっとさ、思いのほか背がちっこいのは何故?」 リヴァ「知るか。そんなのお前の娘に訊け」 彰利 「グムー……」 髪は肩まで伸びたぐらいのショート。 背は男の時とくらべてちっこく、 手足も……なんつーか、俺の手足じゃないみたいにスッキリだ。 解らねぇ……人体の組織をどういじくったら、あげな俺が、こげなアタイになるんだ? まあなんにせよ、まずするべきことは─── 彰利 「『彰利子』ってのはどうだろう」 リヴァ「…………なに?」 彰利 「なにって、名前だよ名前!     こんな状況になっちまったものをイチイチ考えてたらキリが無い。     ならばこの状況を楽しむのが『道』ってもんだろ!?」 こうなったらオカマでもなんでもええわい!! 楽しむことを楽しんでやる!天国の母さんごめんなさい! どんな状況でも力の限り楽しむことを決意した息子を許してプリーズ!! 彰利 「男の道をそれるとも 女の道をそれるとも 踏み外せぬは人の道     散らば諸友(もろとも) (まこと)の空に 咲かせてみせよう     オォオオオオオカマウェェエエエエエイ!!!!」 どごしゃああああああああああああん!!!!!! 彰利 「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」 おかま(ウェイ)を歌った途端に、かつてない雷撃がアタイを襲った。 リヴァ「……検察官、わたしが戻るまであまり喋らない方がいいと思うが」 彰利 「な、何故かね……?」 リヴァ「わたしが通ったゲートがお前の娘の居るわたしの工房に通じている。     お前の娘はそこから力を通しているんだ。     わたしが戻ってゲートを閉じれば、もう攻撃はされないだろう」 彰利 「あ……そなの……」 アタイはてっきり、いつでもどこでも攻撃される宿命にあるのかと…… 彰利 「ごめんよリヴァちゃん、そういうことならとっとと帰れ」 リヴァ「わたしを恨まれても困るんだけどな」 彰利 「いいから去って。お願いよリヴァちゃん」 リヴァ「わかったわかった。それではな、検察官」 リヴァちゃんが『ヴンッ』という音とともに消える。 どちらかというと、 さっきまでここに居たリヴァちゃんは『映像』に近い存在だったようだ。 彰利 「FUUUUM、これで名実ともに『アタイ』になったわけですか?     別にカマっぽさを醸し出すために『アタイ』って言ってたわけじゃないけどさ。     なんにせよ、女になっちまったからにはその状況を楽しまなきゃ損よね?」 メイ 「そうでしょうか。相当な一大事だと思われますが」 彰利 「いーのよーぅ!そんなことより名前だけど、『彰子』ってのはベタだわよねぃ?     あちしとしては『彰利子(あきとしこ)』がいいと思うのよねぃ。そこんとこどうなのよーぅ」 メイ 「……理解の域を超越しています。     性転換も行なわずに、何故男性が女性に成り得るのでしょうか」 彰利 「目の前に生き証人が居るんだから納得してもらわなきゃ困るのよーぅ!     メイさんにまで否定されるのはじょ〜〜だんじゃな〜いわよーぅ!?」 メイ 「………」 あらら、メイさんたら引いてる? こりゃいかん。 彰利 「あの、冗談ですから。そう気を落とさないでメイさん」 メイ 「……?わたしは普段通りですが……気を落としているように見えたのですか?」 彰利 「あら?」 ……気の所為なんかな。 ほんまにメイさんが落胆というか疲れてるというか、そんな表情したと思ったのに。 ……気の所為か。 彰利 「ところでメイさん、この屋敷ってなにか(いわ)くが無い?」 メイ 「曰く、ですか」 彰利 「そ。曰く。さっきさ、物凄く怖いお化けに遭ったんですよ。     そしたら『お兄ちゃん、一緒に死んで』とか言って首絞めてきてさ」 メイ 「それは少女でしたか?」 彰利 「ええ、少女だったわ」 メイ 「………」 彰利 「ゴメンナサイ、真面目に言います」 ちょっとくらいおなごっぽく喋ったっていいじゃない……。 メイ 「いえ、失礼しました。少々思考していたものでしたから。     彰利さまを責めたわけではありません」 彰利 「あら、早合点早合点」 こりゃいかんバイ。 悔い改めるでゴワス。 メイ 「実は、屋敷内で見慣れない少女を見た、という証言が出まわっているのです。     彰利さまが見られた少女も、恐らくは……」 その少女、ってわけですか。 彰利 「そいでさ、襲われた人って居るん?」 メイ 「いえ。襲われたと聞いたのは彰利さまが初めてですが」 彰利 「え……?」 何故に? メイ 「証言した使用人達の話では、     話し掛けると寂しそうな顔をしながら消えてしまうらしいのです。     そういった理由で、襲われた人などただひとりとして存在しません。そう……」 彰利 「俺を除いて?」 メイ 「………」 メイさんがコクリと頷く。 ……ふむ、困ったな。 俺……あの娘ッ子にヒドイ仕打ちでもしたっけ? ……まさか。 俺がおなごに手を上げられるわけがない。 それに、初めてあった時にいきなり首しめられたんだ。 予想なんて全然つかない。 でも……ただひとつ引っ掛かることがあるとすれば、『お兄ちゃん』だ。 俺を『お兄ちゃん』と呼ぶあの娘ッ子には一体なにが……? 彰利 「んー……あの娘ッ子に心当たりは?」 メイ 「いいえ、ございません」 彰利 「だよな……。でもさ、何故かあの娘、     俺のこと『お兄ちゃん』って呼ぶんですよ」 メイ 「お兄ちゃん、ですか」 彰利 「そ、お兄ちゃん。それでどういうわけか首絞めてきましてね。     ここに飛んできたのも逃げてた所為なんですよ」 メイ 「それは先ほど聞きました」 彰利 「……そうでした」 鑼衛門だった時に説明しましたな。 首絞め魔人から逃げてきたんですじゃー!って。 彰利 「悪霊退散はやろうと思えば出来るんだけどさ、     まだ小さなおなごだったからさ……     しかも人間の頃の原型がハッキリしすぎてるから、消すってのも……」 メイ 「ですが、ご自分の命を優先するべきです」 彰利 「ん、それは解ってる。     ……えっとさ、白状しちゃうと俺、女の子には手を上げられないんだ。     あ、そりゃ遊び半分ってゆうか遊びそのものの場合は大丈夫なんだけどさ。     こう、ポカリ、と叩くくらいならね?     でも故意に強く殴ったりするのは……絶対に出来ないんだ。     やろうとしても吐きそうになって、振り上げた手だって動きやしない」 メイ 「……振り上げたとしても、殴るつもりは無いのでしょう?」 彰利 「っ……まいったな、どうも……。メイさんて鋭いんだから……」 メイ 「そうだとするなら、殴る必要が根本から存在しないのです。     でしたら殴る必要も無いのですから……それは良いことなのではないですか?」 彰利 「……うん。でもさ、さっきも言った通り……そういう霊に出会ったりしたら、     俺は為す術もなく殺されちゃう可能性が高いんだ。     ほら、女の子に手を上げられないってゆうのはそういうことじゃないか」 メイ 「……そうですね」 彰利 「それにね、正直言うと……俺はあの女の子のこと、救いたがってる。     苦しみの内に死んでいって迷ってるなら助けてやりたい。     ……どうにもさ、苦しんでる人には弱いんだ、俺。     自分がそんな過去を辿ったからかどうかはイマイチ、だけどさ」 メイ 「………」 不思議だった。 メイさん相手だとどうしてこんなにも口が軽くなってしまうのか。 気づけば普段は言わないようなことを、どんどんと喋っている自分が居る。 いや、本当は解ってる。 俺はこの人に相当心を許している。 それはきっと、母を感じたことが大部分だとしても…… イヤな顔ひとつせずに俺の話を真っ直ぐに聞いてくれることと、 決して裏切らないだろうという確信の許に、俺は癒されているんだと思う。 でも『好き』って感情は無い。 ただ、どちらかというと……やっぱり『母さん』なんだ。 自分と同年代くらいの造りだというのに、俺はメイさんに『母』を感じている。 今まで……こんな風に感じる人は居なかった。 それが多分、俺の心にとっては不意打ちだったんだ。 壊れていたって心は心。 いつだって癒されることを求めている。 好んで廃れる心なんてなく、俺の心だって、そんな心のひとつだったに違いない。 彰利 「……はぁ、不思議だなぁ」 メイ 「なにがでしょうか」 彰利 「うん?ああ……メイさんと居るとさ、やっぱり落ち着くんだよね」 メイ 「そうなのですか?わたしには理解できませんが……」 彰利 「そっか。まあ俺の心も相当ボロボロなんだろうからさ、     多分やさしさに弱いんだよ……多分、ね」 俺はそう言って苦笑いをしてみせて、備え付けの囚人のベッドに寝転がった。 メイ 「彰利さま?」 彰利 「ごめん、ちょっと寝る。いろいろ考えたら疲れた」 メイ 「そうですか。それでは、おやすみなさい」 彰利 「うん、メイさんも、おやすみ」 お辞儀をして去ってゆくメイさんを見送り、俺は目を閉じた。 やがて襲ってくる眠気はとても黒く、 この眠気が来た時はろくな夢を見ないことを、俺は知っていた。 Next Menu back