───真里菜の正体と馬鹿コンビ───
───……例えば幼い日。 親父に役立たずと罵られ、殴られたあの頃。 黄昏の木の下で泣いている俺を思い、気の弱かった母さんが初めて親父に怒鳴った。 そんな母さんが俺には格好よく見えて、 たとえ親父に叩かれたとしても、目を逸らさずに親父を責めた母さんが大好きだった。 叩かれた頬が真っ赤になっていても、 肩が震えていても、母さんは泣かないで俺を抱き締めてくれた。 そんな母さんが大好きだった。 そんな母さんがとても眩しかった。 けど、俺は幸せなんてものがいつかは壊れることを知っていた。 それでも信じていた。 いつかあの親父から開放されて、 母さんとふたりで静かに暮らせる日が来るんじゃないかって。 ───いつだったか……俺が母さんに『あいつとは別れないの?』って聞いた時、 母さんは怒って俺を叩いたっけ。 俺は訳が解らなくて、訳も解らないままに母さんに初めて叩かれたことがショックで、 本当に頭の中が滅茶苦茶になっていた。 そんな俺の目をしっかりと見ながら、母さんは言った。 『わたしはあの人を信じて妻になったの。だから……最後まで信じるのよ』って。 その時、俺は自分がしたことを今でも後悔してる。 初めて母さんに怒鳴ったことを。 初めて母さんに『母さんは馬鹿だ!』って叫んだことを……。 実際、その時は本当に母さんが可哀相に思えた。 あんな男と一緒になって、それでも信じている母さんが。 あまつさえ、母さんはその『信じ続けた男』に殺された。 それが馬鹿じゃなかったら、一体馬鹿ってゆうのはどういうヤツのことを言うのか。 当時の俺にも、今の俺にも……それは解らなかった。 だけど俺の心の中に、ひとつだけ……ずっと昔から変わらない気持ちがある。 俺はそんな母さんだからこそ、大好きだったんだって─── でもやっぱり幸せは壊れる。 いつか母さんに『バケモノ』って言われた時、 もうあの時点で俺の中で『何か』が壊れてたんだと思う。 自分の中の『闇』を縛り付けておくための何かが。 歯止めをする『何か』が無かった俺は、母さんが殺されたことでキレた。 その場に居る全員を殺し、命乞いをする親父を八つ裂きにして。 ───正直、親父の最後は無様だった。 一時の魔人化した息子に殺されるなんてゆう、無様さ。 役立たずはどっちだって言いたかった。 自分には何も無かったくせに、そのくせなんでも人の所為にした。 周りの人物が殺されてゆく中でひとり逃げ出そうとしたソイツは、 腰を抜かしながらぎゃあぎゃあ喚いていた。 『謝るから』だとか『金ならやる』だとか『俺はお前の親だぞ』だとか。 思いつく限りのことを言って、生にすがりついていた。 自分で巻き込んだ親族のものを犠牲にしてまで。 そんな親父は魔人に頭を掴まれた途端に叫びだし、失禁し、泣き喚いた。 そして魔人は……そんな親父を意識のある内に八つ裂きにした。 ……響く絶叫。 必死に逃げようとする体を裂き、貫き、踏みにじり、染めてゆく。 やすやすと死ぬことは許されず、逃げ出そうとする意思が鬱陶しくて足をもいだ。 絶叫。 うるさいから喉を殴ってやったら血を吐いた。 声帯が潰れたみたいで、ソイツはもう喋らなかった。 だけど苦悶の表情は続く。 泣きながら地面を掻き、逃げようとする。 じきに出血多量で死ぬというのに、そいつはまだ逃げればなんとかなると思ったのか。 ……いいや、ソイツは死から逃げたかったんじゃない。 『魔人』であった俺から逃げたかったんだ。 目の前にある『恐怖の塊』から逃げたかったんだ。 けど、ソイツには無抵抗の内に殺された母さんの気持ちなんか解らない。 いつまでもソイツを信じていたであろう母さんの気持ちを踏みにじったのは、 他でもないソイツ自身なのだから。 だから壊した。 そいつの歩んできた人生ってゆうものを、元通りになることを許さないように。 やがて気づいたら、チチオヤだったものは石畳の上で冷たくなっていた。 魔人はチチオヤだったものの心臓を潰し、顔だったものを蹴り、ようやく治まった。 見えるのは真っ赤に染まった自分。 幾多もの人を殺し、親さえも殺した自分。 ……でも、不思議と罪悪感は無かった。 俺は母さんを守りたかっただけ。 そしてそれを邪魔して母さんを殺したヤツラをやっつけただけなんだから。 だけど心のどこかで俺は泣いた。 その『泣いた俺』は自分の中に部屋を作って、 全てを『俺』に押しつけて殻に閉じ篭もった。 『母さんとのいい思い出』ばかりをひとり占めして、俺に悪夢を押しつけて。 だから俺の心は壊れている。 母さんが俺をバケモノと言い、親父が母さんを殺した時点で割れていった心。 その割れた数だけ、俺には人格があった。 不思議だけど、俺はそれを知っていた。 ひとりは俺、弦月彰利。 ひとりは俺の中の『死神』であり魔人の要素でもある、レオ=フォルセティー。 ひとりは……思い出の殻に閉じ篭もって泣いている俺。 母さんにバケモノと呼ばれた時、俺はショックのあまりに心を割った。 『母さんが俺にそんなこと言うわけがない』と信じた代償だ。 弱い心のそいつは母さんとの思い出をひとり占めにして殻に閉じ篭もった。 そして、母さんが殺された時───俺は再び心を割った。 現れた人格は魔人。 レオはその場に居た人間を滅ぼし、悠介をも殺そうとした。 俺は全力でそれを止めて……自分の腹を貫いた。 でも俺は人殺しをしたのは俺じゃなくてレオだ、なんて言うつもりはない。 実際俺は親父を殺したいと本気で思ったし、 悪夢を押しつけて自分だけいい夢を見ようとするアイツのようにはなりたくない。 ……結局『俺』は、互い互いの人格を嫌い合い、都合のいいような纏まりを求めている。 俺の中にもレオの中にも母さんとのいい思い出は無く、 あるのは母さんに初めて叩かれてショックを受けたことや、 母さんにバケモノと言われたこと。 そういう類のものばかりだった。 残っているのは『母さんが大好きだった』という『結論』だけで、 俺とレオはその過程を子供の俺に奪われた。 レオは幸せに逃げる子供の俺を消したくて、子供の俺はただ幸せに埋もれていたい。 そして俺は、レオと子供の俺、両方を消したがっている。 俺にはもう魔人なんて必要ないし、母さんとの思い出も……正直、必要じゃない。 だって俺は俺として、辛い思いをしながらもここまで来れたのだから。 母さんのことが大好きだったって結果さえあれば、俺は今まで通りの俺でいられる。 友達が居て、信用出来る人が居て───不安ながらも幸せを感じられる俺のままで。 ───…………。 …………女の子が泣いていた。 そいつはちっちゃくて、なんか頼りなさそうなヤツだった。 いっつも俺の夢の中に出てきて、俺にねだってくる。 俺のことを『お兄ちゃん』って呼んでくる。 でも俺はそいつのことを知らなくて、いっつも『俺に妹なんて居ないけど』って言った。 その度にそいつは悲しそうな顔をするもんだから、俺はそいつのお願いを聞いてやった。 そしたらそいつは喜んで、小さく笑った。 でも目を覚ますと、そいつのことを憶えていることはなくて。 夢を見るたびにそいつのことを思い出していた。 そいつには名前がなかった。 だから俺は、夢の中の子だから『夢美(ゆめみ)』って呼ぶことにした。 そしたらそいつ、本当に嬉しそうにはしゃいでたっけ。 そいつの夢を見るようになったのは、母さんが死んだ日からだった。 いつだって夢の中に現れて、俺のことを『お兄ちゃん』って呼んだ。 俺はお前なんか知らないって言うと泣いて、とっても面倒なヤツだった。 だけどどうしてかそいつのお願いは断り辛くて、出来ることならなんでもしてやった。 ……とにかくそいつはヘンなヤツで、両親の顔を見たことがない、だなんて言った。 だというのに俺のことは『お兄ちゃん』っ言って、俺はそれに知らないって答える。 やっぱり、そいつは泣いた。 何度目か何十回目かの夢か忘れたけれど、 俺はそいつの心からの笑顔ってゆうものを見たことがないことに気づいた。 だからいろいろやって笑わせようとしてみたけど、何かやる度に泣かれた。 その夢の日から、そいつの名前が泣美(なみ)になった。 そしてまた、夢を見る。 泣美は名前が気に入らなかったのか、無理に笑顔を作って見せていた。 でもその作り物の笑顔が嫌で、俺は笑うならちゃんと笑えって言ってやった。 ……やっぱり泣美は泣いた。 空を泳ぐ夢を見ている時、泣美が出てきた。 おどおどしているそいつは突然泣き出して、訳が解らなかった。 ……その日、起き出してみると、雪子さんが飼っていたハムスターが死んでいた。 寿命だったらしい。 泣美は怖い話が苦手だった。 だけど俺は泣美があんまりしつこく人の夢の中に出てくるもんだから、 いっつも怖い話を聞かせていた。 でも、いつしか泣美が少し微笑むような、陳腐な幸せのお話をしていた。 俺はなんだかんだ言って、泣美には甘いのかもしれないって思った。 黄昏の景色の中を歩く夢を見ている時、泣美が出てきた。 やっぱり泣いたそいつの夢を見た日、 俺によくおかしをくれていた近所のじいちゃんが亡くなった。 でも、どうしてか涙が出なかった。 悲しい筈なのに、心はまるで壊れてしまっているかのように涙を流さなかった。 その時に思った。 泣美は、俺の代わりに泣いてくれてたんだって。 耳鳴りばかりが聞こえる夢の中、泣美が出てきた。 俺に何度も『起きて』と続ける泣美。 それが夢だということを確信した状態で体を強く捻ってみたら、夢から覚めた。 でも別に異常はなく、 やっぱり夢は夢かな……と思ってたら、コンロの火がつけっぱなしだった。 鍋の中は真っ黒焦げで、もっと遅かったら火事になってたかもしれなかった。 日常の夢の中で、俺は泣美の名前を『座敷わらし』にしてやった。 やっぱり泣いた。 だから守ってくれてるって意味で、『(まもる)』って名前にした。 やっぱり泣いた。 …………。 最近、泣美が夢に出てこなくなった。 どうしたのかな、と思う反面、次第に泣美を忘れていってる自分に気づいた。 中学の頃、久しぶりに泣美が夢に出てきた。 見ない内にちっこくなった気がしたけど、それは俺が大きくなったからだった。 泣美は寂しそうに俺を見上げるだけだった。 そんな空気が息苦しくて、俺は久しぶりに名前をつけてやることにした。 どんな名前にしようかと悩んでいたら、『かわいいのがいい』と言う泣美。 泣美のくせに生意気だぞ、って言ったら泣いた。 だから俺は、とっておきの名前をつけてやろうと思った。 そして出たのが『言座零酢(ごんざれす)』。 当然の如く泣いた。 泣かれたまま夢が終わった未練なのか、次の日の夢の中に泣美が出てきた。 この歳にもなってくるといろいろと解ってくるもので、 俺を兄って言うこいつの正体が、俺にはなんとなく解ってきていた。 そして、解ればこそ邪険に出来る筈もなく、 無意識にこいつに甘かった自分は間違っていなかったと笑ったものだ。 そして今度こそと、頭の中にピンと閃いた名前をつけてやった。 泣美はそれがとても気に入ったらしくて、本当に嬉しそうに喜んでいた。 ドラえもんが空を飛ぶ夢の中で、そいつは初めて心からの笑顔を俺に見せた。 笑ってくれたことが、素直に嬉しかった。 喜ばせることが出来てよかった。 俺には何も出来ないんだろうけど、せめて笑わせてやることが…… 殺された母さんの中で、産まれることなく流産した妹へ唯一してやれることだった。 ───やがて夢は薄れてゆく。 『夢』を失ってゆく時期を迎えた俺がいろいろなことを忘れ、 子供らしい夢も見なくなる中。 あいつはきっと、どこかで俺を探していた。 夢に出てこなくなったあいつを夢の中で不思議がりながら、俺は夢を見る。 ただただ穏やかでなんの変哲もない夢を。 あいつを覚えているのは夢の中だけで、起きてしまえば憶えていない。 本当に、あいつは不思議なヤツだった。 そして俺は思い出す。 いつかの夢の中で、あいつに名前をつけた最後の夢を。 『真里菜』と名づけられ、ぴょんぴょんと跳ねて喜んだ俺の妹の夢を─── 彰利 「………」 意識は覚醒している。 ……随分と懐かしい夢を見た。 おかげで頭がえらくスッキリしてる。 彰利 「真里菜、か……」 今思えば、どうしてドラえもんに反応したり、 会ったばかりの俺をお兄ちゃんと呼んでいたのかも頷ける。 そして真里菜がどうして子供の姿で現れたのかも。 それは、あの真里菜の姿が俺が望んだ妹の姿だったからだろう。 当時、ひとり息子だった俺は、ただただ兄弟が欲しいって思ってた。 でも弟だと親父が殴るから、と思って、殴られそうにない妹がいいな、って思ってた。 きっとすごく可愛ければ、親父も殴ったりしないだろうって。 だから俺の夢の中に出てきた真里菜はあの姿の真里菜で、 俺の夢から出ていってからもその姿は変わらない。 彰利 「……それに、確かにあいつのお願いは全部聞いてやってたな……」 まいった。 それじゃああいつは本当にあの真里菜なのか……。 俺を殺そうとする、あの真里菜が……。 『くるしいよぅ……もう解放されたいよぅ……パパ……ママぁ……』 ……ばかだな。 親父なんて、頼ろうとしたところで無駄なのに。 彰利 「……解放、してやらないとな……」 呟いて起きあがった。 でも……『わたしは静かに眠りたかっただけなのに』ってどういう意味だ……? 真里菜が俺を襲ったり、 こんなところを彷徨ってるのは真里菜の意思じゃないってことか……? 『霊は人が多く集まるところに現れる』って言う。 真里菜がここに居るのはそういったことと、俺の存在が関係してるのかもしれない。 それとも何か別の霊に飲まれ、怨念に縛られてこの屋敷を彷徨っているのか。 彰利 「後者……だろうな」 あいつは人を憎むようなやつじゃない筈だ。 『霊は人が多く集まるところに現れる』という言葉が当てはまった上で、 真里菜がここに来ていたのだとしても…… この屋敷には真里菜を飲むような霊が居たってことだ。 だったら、そいつと真里菜を引き剥がせれば───だがどうやって? 彰利 「………」 考えろ。 こういう時、どんなルールでも破壊しちまうようなヤツが居た筈だ。 常識に当てはまらないことが出来るヤツが───……居た。 彰利 「リヴァイア、見てるならゲート開いてくれ」 ───……。 リヴァ「なるほど。そういうことなら構わん。では引き出すぞ」 彰利 「ああ、頼む」 リヴァイアがゲートを大きく広げる。 その先から現れたのは……悠介。 天地空間(サーフワールズ)全土を見渡しても、こやつほど世界のルールを無視できる男はおるまいて。 悠介 「……はぁ。随分背ぇ縮んだな」 彰利 「惚れた?」 悠介 「彰利を黙らせる釘バットが出ま」 彰利 「ゴメンナサイッ!!ヤメテ!!」 創造が完成するまえに謝った。 まったく、アタイをブチのめす武器じゃなくて、 悪霊をぶった切る武器が欲しいってのに……てゆうか何故釘バット? 悠介 「で?何を作ればいいんだ?」 彰利 「あ、いや……どうせなら一緒に来てくれ。俺にはちと出来そうにないから」 悠介 「出来そうにないって……なにがだ?」 彰利 「おなごを斬ること」 悠介 「斬るんかいっ!!」 彰利 「ノゥッ!これは冗談抜きで必要なことなんだ!信じてダーリン!     そしてリヴァちゃん、雷が飛んでくる前に退場して」 リヴァ「ああ。それでは帰りたくなったらわたしを呼べ。すぐに回収に来る」 悠介 「りょ〜かい」 リヴァ「それじゃあな。ちゃんと呼ぶんだぞ───って、     お前が来るとややこしくなりそうだ、黙ってろ。     『わたしも行きたい』?我侭を言うな、遊びじゃないんだ」 …………なにやら突然、ひとりごとを呟くリヴァちゃん。 彰利 「リヴァちゃん……その若さでボケですか?」 リヴァ「ボケるかっ!!お前の娘がこっちに来たいって言ってるんだ!」 ……それに『若さ』って呼べるほどの歳じゃあございませんでしたね。 推定年齢2000歳くらいだっけ? 忘れたけど。 リヴァ「とにかくゲートを閉じるからな。まったく……おい検察官。     娘にはもっと常識というものを教えた方がいいぞ」 どごしゃあああああああああああん!!!!! リヴァ「ぐああああああああああっ!!!」 彰利 「キャーッ!?」 悠介 「うぉおおっ!?」 リ、リヴァちゃんがスパーク!? アイキャンスパークエングリッシュ!?(意味不明) リヴァ「ゲホッ……!こらお前!     いきなりなにをする!!わたしじゃなかったら焦げていたぞ!!」 彰利 「……さすがリヴァちゃん」 あれほどの電撃をくらって生きておるとは…… リヴァ「なに?計算づくでやった?……検察官、あの娘、ろくな大人にならんぞ」 どごしゃあああああああああああん!!!! リヴァ「あぁああああああああっ!!!!!」 ああ!リヴァちゃんが再びスパーク!! リヴァ「こ、の……っ!!検察官!わたしはもう戻るぞ!     あの女に工房の魔導錬金術師の恐ろしさを思い知らせてやる!」 彰利 「あ、愛」 真面目に返事をしたつもりが、変な返事になってしもうた。 とか思う間に、リヴァちゃん転移。 悠介 「……キレたのか?」 彰利 「キレたんデショ」 リヴァちゃん……恐ろしい子。 悠介 「それで、お前はいつまでその格好なんだ?正直『彰利』って感じがしない」 彰利 「今のあちしは『彰利子』なのよーぅ!     俺が何をどう反省すりゃいいのかなんて忘れた。     椛がいつになったら直してくれるのかも謎。     だったら……この状況を楽しむっきゃねぇだろ……?」 悠介 「いい男のツラされてそんなこと言われてもな……。     しかも女になってるから全然男らしくないぞ」 彰利子「アンバランスさに惚れた?」 ボゴシャア!!! 彰利子「ぶっほぉっ!!」 悠介 「寝言は寝て言え」 うう……なにもそんな、放たれた弾丸のような速さで殴らんでも……。 彰利子「でもさ、一応アタイは今女なわけだから……キャア!婦女子暴行罪YO!!」 悠介 「遺言はそれでいいか?」 彰利子「ああ!もちろんさ!……え?きゃああああああああああっ!!!!!」 刹那、顔面めがけてダーリンの拳がグチャアッ!! ───……。 彰利子「うぶっ……うぶぐぐ……」 鼻血が止まらねぇ……。 悠介 「寝言ばっかり言ってないで、これからすることを言いやがれ」 彰利子「ア、アイアムソーリー・ヒゲ」 グチャアッ!! ───……。 彰利子「げほっ!げほっ!は、はだが……」(訳:は、鼻が……) 殴り潰された鼻がまた潰されてしまった。 うう、容赦ねぇよこの人……。 せっかく女人に生まれ変わっても扱いが同じなんですもの……。 彰利子「ねぇメイさん、ヒドイと思わない?」 メイ 「そちらの方は円滑な会話を望んでいらっしゃるようですから、     要点を述べて解釈すれば解決出来ると思われますが」 彰利子「え?そうなの?」 悠介 「白々しいぞお前……」 彰利子「そんなことねぇわよ?アタイったら純粋無垢派美女よ?うっふぅ〜ん♪」 バゴゴシャアッ!! 彰利子「へぎゃあっ!!」 ───……。 彰利子「うう……『うっふぅ〜ん』って言葉とともに、     ゴーダッツポージングとったからって……なにも殴らなくても……」 しかも力一杯なぐられて、床に叩き付けられてしまった……。 彰利子「ひどいわ!女の子に手ぇあげるなんて!     鬼!悪魔!死神と寝た男!!カシの木!明け方!世界征服にんげ───」 刹那、ダーリンの真っ赤な形相と、明らかに月鳴力と月蝕力が混ざった拳がグチャア!! ───……。 彰利子「がぼっ……がぼっ……」 フフフ、ド、ドジこいちまったぜ……。 まさか月鳴力と月蝕力を混ぜた攻撃をしてくるなんて……。 おかげで力封じられた上から月鳴の裁きをくらってしまった……。 悠介 「わざわざこんなところで『死神と寝た男』とか言うんじゃねぇ!!     孫が見てるんだぞ孫がっ!!」 彰利子「ふ、ふふふ……やはりなんにも解っちゃいねぇな貴様……」 悠介 「なにがじゃい!」 彰利子「ロブ・ロビンソンは……出てくると必ずひどい目に合うということを……」 ボゴシャア!! 彰利子「ギャーッ!!!」 悠介 「なに訳の解らんこと言ってんだお前はっ!!!」 彰利子「い、いや……一概に関係が無いわけではないんだ……じ、実はな……」 悠介 「………」 彰利子「実は……」 悠介 「………」 彰利子「えーと……えへ♪」 ゴゴチャアッ!! 彰利子「ゲブボッ!───えっは!げほっ!ぶへっ!!」 鼻!また鼻!痛ぇ上に息ができーーん!! 悠介 「お前の話はもうまともに聞いてられんわ!タワァーーブリッジ!!!」 ギシィッ!! 彰利子「おわぁーーっ!!いたいよーーっ!!」 悠介 「テリー!ギブアップか!」 彰利子「ノォーーーッ!!」 ギシィッ!ミシミシ!! 彰利子「いでで!いででででで!!ギ、ギブ……」 悠介 「テリー!ギブアップか!」 彰利子「ノォーーッ!!……ゲ、ゲェーーーッ!!」 しまった! ついノリで『ノー』と答えてしまう!! 彰利子「いででいでで!マジでヤバイって!ギブア……」 悠介 「テリー!」 彰利子「ノォーーーッ!!イ、イヤァーーーッ!!」 このままではいかん! このままではGUWAAという音とともにアタイの胴体が!! こうなったら─── 彰利子「悪魔将軍流───軟体ボディーーーッ!!」 グニィイイ……!! 悠介 「ゲゲッ!彰利の体が弓のように曲がって……」 ゴキィッ!! 彰利子「ウギャアアーーーーッ!!!!」 曲がるわけがなかった。 彰利子「背骨が!背骨がぁーーーっ!!おわぁーーーっ!!」 悠介 「なにをしたいんだよお前は!」 彰利子「フフフ、ド、ドジこいちまったぜ……」 悠介 「お前まさか……背骨が折れたってことで、     今度は独眼鉄の真似しようだなんて考えてないよな……」 彰利子「………」 悠介 「………」 彰利子「お、男塾万歳……」 コトッ……グキキッ!! 彰利子「ぐぎゃああーーーっ!!!」 悠介 「お前はっ!どうしてそういつもいつも、     話を変な方向に持っていこうとするんだ!!」 彰利子「おわぁーーーっ!!     背骨がゴキッって鳴ったのにいつまでタワーブリッジしてるんじゃーーっ!!」 悠介 「俺の質問が先だ!」 彰利子「なんの!あちきの話が先どすこい!」 グキキッ! 彰利子「ウギャアーーッ!!!」 メイ 「あの……用事があるのなら、それを済ませた方がよろしいのでは……」 彰利子「そ、そうよね!そうだわよねぃ!     それみたことか!解ったら離せダーリンこの野郎!!」 悠介 「俺は一向にかまわんッッッ!!」 メキャメキャメキャ…… 彰利子「おごごわぁーーーーっ!!!!!」 フフフ……ダーリンたらこんなにノリのいい男になっちゃってまあ……。 アタイ、貴様の成長が見れて嬉しいぜ……GUWAAA!!! 悠介 「うおおっ!?」 メイ 「!!」 悠介 「う、うわっ!?彰利っ!?」 メイ 「彰利さまが真っ二つに……」 ズズズズ…… 彰利子「フフフ、擬態さ……」 等身大マスオ人形が折殺されたところで、アタイは闇から這い出てきた。 悠介 「戸愚呂(兄)かお前はっ!!」 彰利子「過言ではない」 悠介 「認めるんかいっ!!」 彰利子「やかましい!だいたいダーリンもダーリンよ!     あそこまで完璧に極められてちゃ逃げ出せないじゃない!     この絞殺趣向主義者め!!」 悠介 「だったらお前も性格改めろ!この馬鹿者!」 彰利子「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 メイ 「おふたりとも、屋敷内では静かに……」 彰利&悠介『だってこの馬鹿がっ!!───馬鹿とはなんだコノヤロウ!!』 メイ 「………」 嗚呼、メイさんが呆れて……るのか? なんかそんな雰囲気だ。 メイ 「おふたりとも、何故そこまで息が合うのに喧嘩をするのですか?」 理解出来ません、とメイさん。 悠介 「あ、あ〜……それは、だな……」 彰利子「し、知っているのか雷電」 ゴシャア!! 彰利子「ひぎぃっ!」 斬首刑に使われる大斧の如く落とされたダーリンの足が、アタイの足を踏み潰した。 悠介 「あー……俺と彰利はな、喧嘩するのが当然なんだ」 彰利子「というのはウソで、ダーリンたらサドなのよ」 ゴシャア! 彰利子「いぎぃっ!!」 悠介 「昔っから遠慮無しに付き合ってきたから、     これくらいのことじゃ険悪にならないし」 彰利子「騙されるな鉄郎!なったらなったでダーリンが一方的にアタイを殴るのよ!」 ゴシャア!!! 彰利子「いでぇっ!」 悠介 「言ってしまえば、こいつとは長らくの腐れ縁ってやつで、     殴っても殴られても、冗談を冗談として受け取れる仲なんだ」 彰利子「というのは尽く(ことごと)ウソで、実際に殴られてるのはアタイだけ」 ゴシャア!! 彰利子「ギャアア!!」 悠介 「解ってもらえたかな」 彰利子「微塵にも解んねぇよ馬鹿ですかアナタ!!     言葉じゃなくて態度で説得してみやァれボケ!!」 悠介 「うるせぇ!お前が余計なこと言うからだろうが!なんだよ『みやァれ』って!」 彰利子「な、なにをこの!俺が何を言おうと勝手じゃーーっ!!」 悠介 「やかましい!お前が何か言うとしたら、ありもしない吹聴ばっかだろうが!」 彰利子「お?なんだ?やンのかコラ!」 聞き分けの無いダーリンに向かって、シュッシュッとファイティングポーズを取る。 悠介 「やらいでかっ!今度こそその性根を叩き直してやる!!」 彰利子「かかってこいやコナラァッ!!」 早速踏み込み、その顔に一発! 彰利子「シャラッ!」 ペチン。 悠介 「………」 彰利子「……あれ?」 ペチ、ペチン。 彰利子「や、ややっ!?筋力が全然ねぇ!何故!?」 メイ 「女性になったからではないですか?」 彰利子「……そんな、椛チャン……そりゃないよ……」 なにも家系の腕力まで消すことないじゃない……。 悠介 「覚悟、出来てるな?」 彰利子「……い、いやん!女の子に手をあげるの!?最低!ゲス!カス!馬鹿!」 悠介 「よし最高だ。今ので加減する情も失せた」 彰利子「いやーーん!!!」 こりゃイカン! なんとかして先手を打たねば!! ───ハッ!そ、そういえば聞いたことがある……! たとえおなごの攻撃でも、しかとダメージを与えられる攻撃があると……! そう、それは……掌底! 彰利子「くらえ!スーパーファイヤープロレスリング直伝!掌底ラッシュ!!」 スパァン!スペェン!コパァーン!! 悠介 「………」 わぁ、全然効いてねぇ。 こうなりゃもっと連発するしかねぇ! 彰利子「ニョ、ニョホ〜〜〜ッ!!!」 ペチペチパチペチパチペチボゴシャアッ!!!! 彰利子「つぶつぶーーーっ!!!!」 バリアフリーマンばりの掌底ラッシュを掻い潜ったダーリンの拳が一閃。 彰利子「うきっ!うきっ!!うきぃいーーーっ!!」 しかも例の如く、顎を砕かれた。 ひでぇよ、こんなの不公平だ……。 たった一発のパンチで逆転されるなんて……!! 彰利子「げべっ!ぶべっ!……ぶ、ぶはっ……あ、あのさ……悠介?     アタイ、今こんなでも女なんですから……ちったぁ加減ってもんを……」 悠介 「知らん」 うう、マジでひどいやこの人……。 男の頃から比べて筋力が消失してるのと同じように、 防御力も無くなってるってのに……。 彰利子「は〜あ、まったく……ダーリンの所為で用事が後手に回り過ぎちまったい……」 悠介 「平然と俺の所為にしてんじゃねぇ!」 彰利子「どう考えたってダーリンの所為じゃない!     アタイを散々殴っておきながら開き直りかい!?」 悠介 「そりゃお前がふざけるからだろうが!」 彰利子「お?なんだ?やンのかコラ!」 メゴッッシャァアアアアンッ!!!! 彰利子「メギャアアアアア!!!!」 ダーリンが無助走で弾け、アタイの顔面を殴った。 アタイは顔面をヘコませながら華麗に吹き飛ぶ。 彰利子「がへっ……ごへっ……ほ、ほひふはんはー……」(訳:ド、ドイルバンカー) ……驚いた。 まさかダーリンが『ドイル(パイル)バンカー』をやってくるとは……。
───怒威流番華阿(ドイルバンカー) ドイルバンカーとは、助走無しのつま先での跳躍のみで体を弾けさせ、 その前進とともに腕を突き出して殴る、ヘクター・ドイルの奥義である。 殴る際、腕の中に仕込まれた強力なスプリングを解放することで、 究極とも言えるパンチ力を叩き出す。 この奥義を修得するには莫大な手術費と、強力なスプリングが必要になる。 *神冥書房刊『NEW GRAPPLER BAKI No.12【OH(オー)……ブルーマウンテン】』より。
彰利子「ッ……〜〜〜ッ!!」 ガコォッ!! 外れた顎をハメ、悠介に向き直る。 彰利子「腕に強力なスプリングを内蔵している……てゆうか創造しただろこの野郎」 悠介 「お前風に言うなら……勝つために武器が必要なら迷わず使うべきだ」 彰利子「ッチィ……ドイルイズムってやつか……!」 でも大賛成です。 ドイルさん万歳!もう愛してる! 彰利子「だがそんなものが腕に残ったままなら、次の攻撃は辛いだろう……」 悠介 「彰利を殴ったら消えるってイメージ付きだからな、もう消えた」 彰利子「……お前汚ぇぞ!」 悠介 「お前相手に手段なんて考えてられるか馬鹿っ!」 彰利子「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 悠介 「あーあハイハイ、いいからさっさと済ませるぞ。このままじゃ陽が昇っちまう」 彰利子「なんと!陽が昇るのを否定するというのかねキミはッッ!!」 悠介 「お前はまず人の話に突拍子もなく極論をぶつけるクセを直しやがれ!」 彰利子「だったらキミはまず何かと俺を殴るクセを直しなさいよ!」 悠介 「それはお前がふざけなけりゃ発動することもないだろうが!!」 彰利子「おー!?なんだコノヤロ!責任転嫁する気かコラ!!」 アタイはダーリンに向かって拳をシュッシュッと振るいボゴシャア!! 彰利子「ぶるぇぁああああっ!!!!」 思いっきり殴られた。 悠介 「いいから……!さっさと行くぞ……!」 彰利子「な、殴ったわねーっ!?ママにもぶたれたことないのにーーっ!!」 悠介 「もう一発いくか?」 彰利子「やさしくしてね♪」 ボゴシャア!! 彰利子「ゲブウァア!!」 悠介 「どーーーしてお前はそういう方向でしか思考が働かないんだ!!この馬鹿!」 彰利子「ぶへっ!ぶへへっ!!ば、馬鹿とはなんだコノヤロウ!」 くそったれ!口ン中切っちまったじゃねぇか! でもウソはいけないよね、ママにはぶたれたし。 悠介 「お前さ、これから何をする気なのかは知らんが、真面目にやる気あるのか?」 彰利子「ありますタイ!」 悠介 「じゃあさっさと済ましちまおう。力が必要なら貸してやるから」 彰利子「なんと!マジですか!?じゃあ……500円ちょーだい?」 刹那!ダーリンの拳が死角からボゴシャア!! 彰利子「げはっ!ぶはっ!はだがおでだ……!!」(訳:鼻が折れた) フオオ、このままでは真里菜に会う前にダーリンに殺されちまう……! 彰利子「解りましたごめんなさい!アタイにはちゃんとした目的がござるんです!     だから殺さないでやってつかぁさい!」 悠介 「これからお前の目的ってものを遂行する。……いいな?」 彰利子「ハイ!それはもう!」 悠介 「ったく……目的に向かうのに何分かかってるんだよ……」 彰利子「チッ……つけあがりやがってカスが」 悠介 「……なんか言ったか?」 彰利子「つけあがりやがってカスが」 ボゴシャア!! 彰利子「ホゲェエエエエエ!!!!」 悠介 「お前はっ!まだそういうこと言うか!?」 彰利子「馬鹿野郎!これだけ殴られりゃ俺だって悪態つきたくもなるわ!!     おんどれ聖人君子でも相手にしてる気かボケ!!     大体キサマ!親に殴られながら育ったってのにどうして人殴れるかね!!     俺にゃあ昔っからそれが理解出来んよまったく!!」 悠介 「お前が俺のこと散々からかったからだろうが!!     お前があの時『俺のことは何度でも殴っていいから、     自分らしく生きてみろ』って言ったんだろうが!!     忘れたとは言わせねぇぞ!!」 彰利子「忘れた!」 悠介 「この野郎ーーーっ!!!」 彰利子「ふはははは!どうだ馬鹿め!言ってやったぞ!     なぁにが『言わせねぇぞ』じゃい!ザマァみさらせお馬鹿さん!!」 悠介 「クゥッハァーーーッ!!死なすーーーっ!!」 彰利子「おーおやってみろこのカス!俺はただじゃあ負けねぇぜ!?     ンマッ!なにせ!?     家系の中じゃあダントツの力を誇る弦月の者じゃからねぇーーっ!!     腕力でだってキサマには負けませんことよ!?」 メイ 「恐れいりますが、先ほど腕力が無いことが判明されたと思いますが」 彰利子「………」 ……キャア! 彰利子「あのー、悠介サン?ここは喧嘩両成敗ということで、喧嘩は無しにしません?」 悠介 「ぬわぁーーーっ!!!」 彰利子「おわぁあああ怒ってる!すっげぇ怒ってる!!」 こうなったら覚悟を決めるしかねぇ!! 出来るとこまでやってやる! それが最強の道!それが……おかま道!! 彰利子「男の道をそれるとも 女の道をそれるとも 踏み外せぬは人の道     散らば諸友 真の空に 咲かせてみせよう おかま道 ボゴシャアア!!! 彰利子「つぶつぶーーーっ!!!」 ───…………。 悠介 「はぁっ……はぁっ……!!」 彰利子「がぼっ……がぼっ……」 結果、惨敗でした。 ダーリンたら手加減ナッスィンなんですもの……。 メイ 「屋敷では静かにしてください」 悠介 「それ言うなら……こいつを……黙らせてくれ……頼む……」 疲弊しきった顔で言うダーリン。 だが悲しいかな、アタイの傷は回復した! 彰利子「そんじゃあダーリンが疲れきって黙ってきたとこで、そろそろ行きましょうか」 悠介 「なっ……待ててめぇ……!俺も回復させやがれ……!」 彰利子「すぐ能力に頼るの、よくないことだと思うな、ボク」 悠介 「お、お前がそれを言うかっ!!」 彰利子「えーがらえーがら!さ!いきますことよ!     それともなにかい!?か弱い乙女をひとりで行かせる気かい!?」 悠介 「お前の何処がか弱いんだよ!」 彰利子「か弱いっての!腕力が無くなっちまったんですよ!?     こんな状態で戦ってみなされ!アタイマジで殺されますよ!?」 悠介 「……ちょっと待て。お前、誰かと戦う気なのか?」 彰利子「ん……それは歩きながら話すから。だから来いって」 悠介 「……ったく。そういうことはな、先に言えってんだ……」 ふてくされながらも付き合ってくれるダーリン。 嗚呼、やはりドツキ合え、冗談を冗談として受け止められる友っていいなぁ。 彰利子「そいじゃあメイさん、ちょっと行ってきます」 メイ 「はい、行ってらっしゃいませ」 メイさんのお辞儀に送られ、アタイと悠介は旅立ったのであった……。 Next Menu back