───騙されてマジ泣きする夜華さん───
───……。 ドントコトントコドコドコトントン♪ 彰利子「ハ〜イキングにゆっこっお〜♪ホ〜イホイディヤホゥホッホ〜♪     ハ〜イキングにゆっこっお〜♪ホ〜イホイディヤホゥホッホ〜♪」 ドコントトントン、ドントトン♪ 悠介 「お前の妹、ねぇ……」 彰利子「ああ。夢の中のことを憶えていられたのは、     皮肉にもあいつが俺の首を絞めてたからだろうな。     あいつの意識が俺の中に流れてきおったのよ。     で、その状態でもう一度夢を見たおかげで、俺は忘れることなく目覚めた、と」 悠介 「きっと性格悪いんだろうな」 彰利子「失礼だぞてめえ!」 まったく勘弁してくださいよ。 真里菜さんはアタイの想像を糧に自分を象ったんですから、性格はとてもステキなのよ? まあその、今はちょっとイっちゃってるけど。 彰利子「でも……実際皮肉だよな。     昔はあれだけ弟妹が欲しいって思ってたのに、居たと思ったら幽霊。     それも、俺を殺したがってる」 悠介 「………」 彰利子「しかも……真里菜はこんな時代までずっと孤独を味わってたんだ。     兄である俺がなんとかしてやらないと、あいつずっと迷ったままだろ?」 悠介 「……孤独なのは……」 彰利子「ん?なんか言ったか?」 悠介 「…………いや、なんでもない」 ?ヘンなダーリンじゃのう。 まあいいコテ。 彰利子「───ム!前方に動く物体を発見!アルファ2!歩行を停止して!」 悠介 「ア、アルファツー?なんだそりゃ」 彰利子「いいから!しーっ!」 ……ムウ……あれはさっき投げた双子の片割れ2じゃないですか。 まだここらで転がってたんか。 こりゃあ……からかうしかあんめぇよ。 彰利子「よいかねダーリン!これからアタイの言うことをよっく聞いて!」 悠介 「今度はなんだよ……」 彰利子「ええとね、つまり、ゴニョゴニョ……」 悠介 「却下。俺はこれで失礼する。リヴァイア、ゲート開けてくれ」 ヴヴンッ!! 彰利子「早ッ!!ゲート開くの早ェよ!!」 リヴァ「はぁっ……はぁっ……なんの……用だ……」 悠介 「もう帰る。運んでくれ……」 リヴァ「そ、そうか……はぁっ……はぁ……」 むむ?なにやら疲れてるご様子。 彰利子「ちょっとちょっと〜〜う!どぅ〜〜したってゆ〜のよーーうリヴァちゃーーん!     元気ないじゃないのよーーう!!」 リヴァ「……お前の娘と一戦、な……」 彰利子「俺、アンタのこと尊敬するよ」 リヴァ「……そんなことはいいから……おい検察官、この男との用は済んだのか……?」 彰利子「おっとそうだった。ダーリン、アレ」 悠介 「解ってる。元より渡すつもりだ。ほら」 悠介が一本の刀を創造し、俺に投げてよこした。 彰利子「名前は?」 悠介 「名前まで考えて創造するかっ!勝手に決めろ!」 彰利子「あらら」 じゃあな、と言い残して、ダーリンはさっさと引っ込んでしまった。 しかしまいったね、アタイじゃあおなごは斬れない。 んー……刀。 刀ねぇ……ってそうだ夜華さん!! リヴァ「もう用はないな?それじゃあ」 彰利子「待ったリヴァちゃん!夜華さんを呼んでくれ!」 リヴァ「……あの女か?     かまわんが……娘が『どうしてわたしじゃないの!?』って怒ってるぞ?」 彰利子「シカトしちゃって結構です。じいやに雷落とす娘なんぞ知りません」 リヴァ「……泣いてしまったが」 彰利子「………」 いや、でもこれは流石に椛にはやらせられない。 刀を上手に扱える夜華さんだからこそだ。 彰利子「それでも夜華さんだ。頼む」 リヴァ「了解した」 リヴァちゃんがゲートを広げる。 するとそこから現れる夜華さん。 夜華 「貴様!楓さまを泣かせるとはなにごとだ!!」 彰利子「聞いて夜華さん!これは夜華さんじゃなきゃ頼めないことなんだ!     だから頼む!何も言わずに頷いてくれ!」 夜華 「な……彰衛門……お前……」 夜華さんが言葉に詰まる。 俺の勢いに飲まれたか、その願いに心打たれてくれたのか。 なんにせよ、夜華さんは頷いてくれた。 彰利子「そういうわけだから……リヴァちゃん」 リヴァ「ああ。ゲートを閉じるぞ」 彰利子「オウヨ。ありがとね〜」 ───ヴヴンッ! リヴァちゃん、退場。 夜華 「それで彰衛門。わたしにしか出来ないこととはなんだ?」 彰利子「ああ。とても辛いことになると思うけど……これは俺の心からのお願いだ。     聞いてくれるか?」 夜華 「───……この刀に懸けて、誓おう。     それが貴様の助けとなるなら、ひとつくらいは叶えてやりたい」 ……どういう風の吹き回しかは知らんけど、夜華さんはヤケに素直に頷いてくれた。 なんか思うところでもあったのかね。 まあいいけど。 彰利子「それじゃあ今からそれのことを教えるから憶えてくれ。好機は一度きりだから」 夜華 「責任重大、というわけか。任せてくれ、こう見えても物覚えには自信がある」 彰利子「それじゃあね……ゴニョゴニョ……」 夜華 「───な、なにーーーーっ!!??」 ───……。 ───……。 浩之 「うぐっ……いっつ……!くそ、どうなっている……おのれあの鑼衛門め……!」 ふと目を覚ましてみれば、我は暗くなった廊下に倒れていた。 起き上がってみても辺りの静寂は変わらず、広い家の闇というのはどうにも苦手だった。 浩之 「……さっさと部屋に戻るか……」 と、向き直った時だった。 ……ァ! ……〜!! ェエエイ!!! 浩之 「な、なんだ……!?」 異様な気配と、その声を聞いた。 そして凍りつく。 そういえば、使用人達が言っていた。 この屋敷で幽霊を見た、と。 まさかこれは……その予兆……!? そういえばさっき、鑼衛門と一緒に半透明の幼子が居たような……! 浩之 「じょ、冗談ではない……!我はそういうものが苦手なのだ……!!」 我は体を震わせた。 口に出して言えるほど、我はそういう怪奇の類が苦手だったのだ。 死んだものが現れるなどと、非常識にも程がある。 ……ラァ!! ……ラァ!! 浩之 「ラァ……?なんなんだ……!!」 声は段々と近くなってくる。 やがて───それは見えてきた! おなご「アン!ドゥ!オラァ!!(合いの手)」 おなご「あ、あんどぅ……く、くらぁ……」 おなご「馬鹿ねい!もっと大きな声で言うのよーーう!」 おなご「お、おい貴様……!これが本当に何かの意味を持っているのだろうな……!!」 おなご「……言っただろ、夜華さん……これは俺の、ほんのささやかな願いなんだ……。     だから……頼むよ」 おなご「彰衛門……わ、わかった。恥じていた自分がその実、恥だった。     わたしは刀に誓ったのだ。それはつまり、楓さまに誓ったも同義!     願わくば───彰衛門!これからのわたしを篠瀬夜華と思ってくれるな!」 おなご「夜華さんっ!」 おなご「彰衛門っ!!」 おなご×2『ともに謳おう!オーーーカマウェーーーーイ!!!!!!』 …………わけがわからなかった。 ただひとつ言えることは、おなごの中のひとりがマジ泣きしていることだけだった。 おなご「アン!ドゥ!オラァ♪(合いの手)」 おなご「アン!ドゥ!クラァ♪(合いの手)」 おなご「所詮〜〜んこの世は〜〜男と〜〜女〜〜〜♪     しかし〜〜オカマは〜〜男で〜〜女〜〜〜♪     だ〜〜〜か〜〜〜ら〜〜〜最強!」 おなご「最強!」 おなご「最強!!」 おなご「最強!!」 おなご「オ〜〜カマウェ〜〜〜イ♪あー最強!」 おなご「最強!」 おなご「最強!!」 おなご「最強!!」 おなご×2『オ〜〜〜カマ〜〜〜ウェ〜〜〜〜イ〜〜〜♪(ハモリ)』 ひでぇ……なんかよくわからんけど泣けてくる……。 後ろに居るおなご、明らかに自分を殺して踊ってる……。 ほんとマジ泣きしてるし……。 不憫な……! おなご「今だ夜華さん!」 おなご「うがぁああああああああああっ!!!!!」 浩之 「おわっ!?おわぁーーーっ!!!!」 おなご「紅葉刀閃流───飛燕龍-凪-!!」 ドバァアアン!!!! 浩之 「げはぁああああっ!!!」 おなごの鞘が、我の脇腹を一閃した。 それだけでは治まらず、我の体が宙に浮き、やがて落ちた。 うぐ……!い、意識が遠ざかる……! おなご「や、やった……!やったぞ彰衛門!わたしは……!わたしは……!」 おなご「よ、よくやってくれた夜華さん!やっぱあなたは最高だ!」 おなご「うぐっ……ふぅっ……ふぐっ……!!」 おなご「たんとお泣き……!思えば辛いことを強いてしまったね……!」 おなご「ぐっ……うう……!彰衛門……わたしは……!」 おなご「でもね、夜華さん……!これだけは忘れちゃならない……!     あなたは今、とっても素晴らしいことを成し遂げたんだよ……!     もっと胸を張っていいんだよ……?」 おなご「うあぁあっ……!彰衛門……!彰衛門……!!」 お、おいおい……! 訳も解らず踊り出して、しかも人を吹き飛ばしておいて泣くか……? おなご「ぐすっ……っ……な、なぁ……彰衛門……。     それで……こいつは何者なんだ……?この屋敷の悪人、なのか……?」 おなご「いいえ?ただの住居者ですけど」 おなご「………」 おなご「夜華さん?」 夜華……? 夜華って……時折鈴訊庵に来ていた……? 暗くてよく見えなかったが、あいつが……!? どさっ。 おなご「ややっ!?どうしたのかね夜華さん!夜華さん!?」 恐らく騙されていたらしい、確か『篠瀬』とかゆう女は、 大きなショックを受けたかのように倒れた。 そして、我の意識も……ぐ…… ───……ペッペケペー! 彰利子「イエイ」 ザゴシュッ!! 彰利子「ゲギャアーーーッ!!!」 背中を思いっきり斬られた! 痛い!これは痛い! 彰利子「な、なにをなさるの夜華さん!!痛いじゃない!!」 夜華 「うっく……!ひっく……!よくも……!よくも冗談であのようなことを……!」 彰利子「グ、グウム……!!」 どうやら先ほどのオカマダンスが、 思いのほか夜華さんのプライドをズタズタにしてしまったらしい。 先も考えずに一時の笑いに走る俺も時々考えものかもしれませんな。 えーと、現在アタイは泣きじゃくる夜華さんを背負って夜の廊下を歩いてます。 背中向けてるから反撃できねぇ上に、夜華さんたらアタイが何か言う度に刺してくる。 ちなみに背負ってる理由は、泣いた夜華さんがてんで動こうとしなかったからです。 夜華 「わたし……うぐっ……わたしはっ……!     お前がどうしてもというからっ……!お願いだというから……!     ひぐっ……うっ……うわぁあああああ……!!」 彰利子「あ!こ、これ!人の背中で泣くでない!アタイの服が汚れるではないか!!」 ザゴシュッ!! 彰利子「ギャアアーーッ!!」 夜華 「貴様はっ!わたしの涙と衣服とどちらが大切なんだ!!」 彰利子「衣服!」 ゴシュッ!! 彰利子「ベゲッ!?」 ギャア喉切られた!! ええい治れ治れ! 彰利子「な、なにすんじゃい!痛ぇじゃねぇの!!」 夜華 「っ〜〜……!っ……!」 彰利子「あ〜……えっと……」 やべぇ、なんだか自分がすげぇド外道に思えてきた。 あの夜華さんがここまで泣くなんて……。 夜華 「なぜ……どうしてわたしにだけっ……!     いつもいつもこんなことをするんだ……!     わたしは……わたしはお前に恨まれるようなことをしてしまったのか……?」 彰利子「………」 んー……かなり違うんだけどなぁ。 俺は夜華さんとは、 どんなことがあっても気兼ねなく話し合ったりドツキあったり出来る、 『至高の友達』になりたかっただけなんだけど……。 彰利子「夜華さん、覚えてるかな。俺達が会った、あの時代の頃」 夜華 「………」 だんまりですか、まあいいさね。 彰利子「あの時代でさ、俺言っただろ?『夜華さんと話すの、結構好きだった』って。     正直に言うと、俺も昔に戻れた気がしてたんだ」 夜華 「……昔?」 彰利子「そ。俺にはさ、本当の友達って呼べる相手が悠介しか居なかったんだ。     それは子供の頃からずっと変わってない。     俺はあいつを友達だって思ってるし、     あいつも俺を友達だって思ってくれてる。でも……」 夜華 「……?」 彰利子「正直、過去のあの時代に飛んでから夜華さんと会った時、俺は疲れてたんだ。     いきなり知らない時代に飛ばされて、目の前で人が死んで……     信じてた男の心は腐ってて、そいつの後を追って死んだ娘。     ……そう。なにもかもに呆れ果てて、何もかもに疲れてた。     思い返してみれば短い時代だったよ。     だけど、その時の俺にとってはその一日一日がとても長かった。     自分が死ぬのは馴れてても、他人の死には馴れやしないんだ。     それなのに、見知った奴が死んだ。     双子が死んで、隆正が死んで……楓巫女が自分を刺して。     本来なら助けてやれた筈なのに、俺は動けずに……     やがて力尽きてゆく楓巫女の姿を見せられた」 夜華 「彰衛門……」 彰利子「ほんと、笑っちまうよな。     自分の力があれば、自分の周りに居るやつらだけは護れるって思ってたのに。     あの時、俺は『自分の生きる理由』を打ち砕かれた気分だった」 夜華 「……生きる……理由?」 彰利子「俺は友達の未来のために生きてた。     自分の力がもっと強くなればきっと助けられるって。     だから必死に力をつけて……代償として、心を砕いていった。     でも、そんな努力をしてもまだ……     俺は目の前で死んでゆく楓巫女を助けられなかったんだ」 夜華 「彰衛門、それは……」 彰利子「だからさ、半ばヤケクソにもなってたんだ。     どうせ助けられないなら、見届けながら遊んでやる、って。     だから顔光らせたり馬鹿やったりして……───でも、さ」 夜華 「……?」 彰利子「そこに、懐かしい気配を感じた。それが夜華さんだったんだ」 夜華 「わたし……?」 彰利子「そ。ほら、夜華さんて最初から俺に遠慮なくぶつかってきただろ?     怒る時は怒って、斬る時は遠慮なく斬った。     だからかな。短い旅だったくせにホームシックになってた俺は、     夜華さんの中に親友の姿を見た。だから……」 夜華 「だから、からかった……?」 彰利子「……ん」 俺はゆっくりとだけど頷いた。 夜華 「な、んだ、それは……!わたしは……悠介殿の代わりだったというのか!?」 彰利子「………」 夜華 「ふざけるなっ!!」 がんっ! 夜華さんが、俺の背中を殴った。 夜華 「ふざけるなっ!ふざけるなふざけるなふざけるな!!なんだそれは!!     それじゃあ……それじゃあわたしは……!!     貴様にとっては寂しさを紛らわす道具でしかなかったのか!!?」 彰利子「夜華さん、それは違うよ」 夜華 「黙れっ!!何が違う!!     貴様が言っていることはそういうことだろう!ふざけっ……!!」 彰利子「………」 首筋に、水滴が落ちた。 彰利子「……夜華さん」 夜華 「っ……うる……さいっ……!!くそっ……!何故涙など……!!くそっ……!」 彰利子「…………そのままでいいからさ、聞いてもらえるかな」 夜華 「っく……!う……!ぅあぁぁぁ……!!」 彰利子「……俺は確かに夜華さんの中に悠介を見たよ。     自分の意見を曲げずに突っ掛かってくる姿勢も、俺を殴る姿勢も似てた。     でもさ、似てるだけだったんだよ。     悠介は悠介で、夜華さんは夜華さんだった。     だからさ、俺は夜華さんとは友達になりたいって思ったんだ」 夜華 「ひっく……っく…………」 彰利子「でもさ、ほら……俺ってこんなヤツだから、友達は悠介ひとりだけだったんだ。     だから俺……友達の作り方なんて知らなかったしさ、     『友達になってくれ』って言うのもなんか違うって思ったし……     俺の中の『友達』ってものを、言葉なんかで作りたくなかったんだ。     だから俺は……その、夜華さんを……」 夜華 「………」 彰利子「……ごめん。それが夜華さんをそこまで傷つけるとは思わなかったんだ……。     夜華さんが嫌がるなら、もうやらないから……」 夜華 「……彰衛門……」 彰利子「え……?」 夜華 「お前は……わたしが嫌いなわけじゃないんだな……?     嫌いだから……今までわたしをからかっていたわけじゃないんだな……?」 彰利子「あ、当たり前だ!俺は嫌いなヤツは最初から相手にしませんよ!     俺は気に入ってるヤツだからこそからかうんだ!」 夜華 「…………」 ぎゅっ……。 彰利子「夜華さん……?」 夜華 「よかった…………」 夜華さんが何かを呟き、俺の首に腕を回して抱き着いてきた。 彰利子「どうかしたのか?あ、気分でも悪いとか……?」 夜華 「なんでもない……しばらくこのままでいさせてくれ……」 彰利子「あ、で、でもさ、なんかの病気だったら……」 夜華 「……くっ……ふふふっ……!彰衛門……お前でもやさしい時はあるんだな……」 彰利子「な、なにを言うのかね夜華さん!     俺だって女を泣かせたらさすがに罪悪感を感じるわい!」 夜華 「……そうだな、お前はやさしい男だ……」 彰利子「……今は女なんですけど」 夜華 「かまわない……」 彰利子「なんとまあ……!まさか夜華さんに女色家のケがあったなんて……!」 刹那、目の前に刀が現れ、アタイ目掛けて─── 彰利子「うべっ!ぶべべっ!!べはっ!!」 夜華さん……恐ろしい娘……!! なんの躊躇もなくアタイの喉笛を掻っ切ったわ……!! 夜華 「少しでも見直したわたしが馬鹿だった……」 彰利子「馬鹿め」 ゾブシュッ!! 彰利子「ギャアーーーッ!!!」 夜華 「ふっ……くっ……ふっ……あはははははは……!!」 彰利子「うわ!人刺しといて笑ってる!この人本物だ!本物の殺生家だ!」 夜華 「───すまなかった。お前が一番苦しんでいるのにな……」 彰利子「む!?なんのことだ!さっぱり訳が解らんぞ!」 夜華 「お前に礼を言いたかった。それだけだ」 彰利子「だったらこの物騒なもの、抜いてくれないかな。     さすがのアタイも血を作ることは出来ないんで……」 夜華 「そ、そうなのか?そういうことはもっと早く言ってくれ……すまない」 グボッ…… 彰利子「うぐっ……!」 夜華 「あ、彰衛門っ!?すまない、痛んだか!?」 彰利子「あ、いや、大丈夫だから……気にしなさんな。     夜華さんはいつも通りであってくれ……。     俺の心配する夜華さんなんて夜華さんじゃねぇやい」 夜華 「馬鹿者め……わたしとて貴様と同じだ……!     貴様が本当に苦しさを見せたら、罪悪感を感じるのだ……!」 彰利子「……あれだけ斬っといて、そんな時しか罪悪感感じねぇんですかい……」 夜華 「だ、黙れっ!」 彰利子「でも……そっか。もしかしたらアタイ達、似てるのかもしれませんな……」 夜華 「……そう、だな……」 夜華さんはそう呟き、アタイに体重を預けてきた。 背中に感じる重みは暖かく、いつも夜華さんから感じていた覇気は薄れていた。 夜華 「似ている、か……。そういえば、わたしは貴様に過去を話していなかったな」 彰利子「え?いいよ別に。人の過去なんて、知っても楽しくないだろ?」 夜華 「っ……」 彰利子「ウィ?」 アタイの言葉を聞いた夜華さんは、何故か少し息を飲んだ。 でも小さく息を吐くと、ぽつぽつと語り始めた。 彰利子「そう、だったのか……     夜華さんが日本昔話の龍に乗ってたヤツだったなんて……」 夜華 「おい……なんの話をしている」 彰利子「え?なにって……     夜華さんがドラゴンナイトだったって事実を余すことなく理解しただけで」 夜華 「誰がそのようなことを言った!大体まだ何も話していないだろう!!」 彰利子「な、なに〜〜っ!?証拠あんのかこの野郎〜〜っ!!」 ザゴシュッ!! 彰利子「いぎゃあああああっ!!!」 夜華 「証拠はわたしの証言だけで十分だろう!黙って聞け!」 彰利子「ぎょ、御意……」 ───……。 夜華さんの話はこうだった。 夜華さんは栄えある油問屋のひとり娘で、 油臭い家に嫌気がさして、家宝である霊刀『紅凰(こうおう)』を持って家出。 だが家出したまでは良かったが路銀もなく、腹が減っては食い逃げや追い剥ぎの連続。 終いには検非違使(けびいし)のごんだくれどもに命を狙われることになり、 身心ともにボロボロになって倒れたところを楓に救出され、人の暖かさを知ったとか。 彰利子「苦労したのね夜華さん……」 夜華 「貴様……今よからぬ想像をしなかっただろうな……」 彰利子「トンデーモーナイ!!アタイ潔白ネ!」 夜華 「……いいから黙って聞け。お前には聞いてほしいんだ」 彰利子「……御意」 夜華さんがあんまりに真剣な声で言うもんだから、アタイは素直に頷いた。 夜華さんは幕末を駆ける人斬り抜刀斎という存在だった。 あまりに強く、あまりに斬り過ぎたためについた名前。 その太刀筋はまるで閃き。 見えるものは太刀の軌跡のみで、目で追うことさえままならない。 気づけば斬られ、気づけば死んでいる。 だが……そんな強さを誇っていた彼女も、空腹には勝てなかった。 路銀もなかった夜華さんは食い逃げや追い剥ぎの連続。 終いには検非違使のごんだくれどもに…… 夜華 「おい貴様……さっきからなにをブツブツ言っている……」 彰利子「ギャア声に出てたぁーーーっ!!!」 ザクザクドシュズバズシャシャアアアア!!!! 彰利子「ウギャアアアーーーーーッ!!!!!」 ───……いい加減に真面目に聞きましょう。 じゃないと身がもたん。 ───夜華さんは、どこまでも蒼い空を求めていた。 大空はどこまでも遠く、澄みきっていなければならない。 それを口癖にしていた夜華さんはある日、その空に輝きを見た。 何を求め歩くのか。 何を求め刀を手に取ったのか。 それすらも忘れるくらいの光の下で、夜華さんは何かを決意したらしい。 だが、その決意は長続きしなかった。 空から降りた光に誘われ、ふと気がつけば見知らぬ場所。 そして夜華さんを見下ろす地球外知的生命体……!! 夜華さんは必死に抵抗したが、やがては宇宙人に宇宙ウイルスを流し込まれてしまった! そして地上に降ろされた時、夜華さんは夜華さんではなく、 宇宙の人……その名も、ヌ・ミキタカゾ・ンシになっていたそうだ。 その頃には地上では凄まじい時間が流れていて、 その場には夜華さんが知っているような世界は存在しなかった。 その時代の賃金もなく、頼れる宛ても無い夜華さんは食い逃げや追い剥ぎの連続。 終いには検非違使のごんだくれどもに命を狙われることになり、 ボロボロになりながら辿り着いた小川で楓に拾われた、と…… 彰利子「スゲェ……なんて壮大な物語なんだ……」 思わず、アタイの瞳から涙がスゥ……と流れゾブリ! 彰利子「ギャヤヤヤーーーーッ!!!!」 ───……。 夜華さんは自分より強い者を求める強者だった。 口癖は『俺より強いヤツに会いにいく』。 万年貧乏で、一日の食事に事欠く有様だった夜華さんは毎日食い逃げと追い剥ぎの連続。 終いには検非違使のごんだくれズバシュウッ!! 彰利子「ギャーーーッ!!!!」 夜華 「いい加減にしろ貴様!」 彰利子「ごめんなさいごめんなさい!!マジで痛い!やめて!!」 Next Menu back