───夜華さんの過去と夜華さんを口説くお馬鹿さん───
───……夜華さんは、物心ついた頃から孤独だった。 親に捨てられ、そんな時代から孤児だった夜華さんは孤独に生きた。 人から見てみれば、夜華さんは可愛くない子供だった。 決して懐かず、誰にも心を許すこともなかった。 『施しは受けない』。 それが、夜華さんが自分を戒めた覚悟。 ……そう。 捨てられたという事実が反発し、人に同情されることを嫌った。 けど、子供の限界なんてタカが知れてる。 ───いや、その『覚悟』を折ったのは周りの連中だった。 薄汚れた服を着て、食事処の前や食物を売る人の横を通る度、 見下したような目で見られたそうだ。 それでも、泥棒なんてすることはなかった。 けど、ある日───ひとりの馬鹿な男が夜華さんに難癖をつけた。 野菜がひとつ無くなった、という理由で。 男は夜華さんを容赦なく殴り、蹴り─── だが、夜華さんは自分はやっていないと言い続けた。 たとえ血を吐くくらいに蹴られても。 いつしか気を失った夜華さんが目覚めた時、そこはどこかの道場だった。 驚きもしたけれど、自分の潔白を証明できなかったことに、まず悔やんだ。 それから夜華さんは泥棒と言われるようになった。 おもしろ半分に言う者や、本気で言う者。 それこそ夜華さんの心を荒ませていくには十分なものだった。 夜華さんはそれから、目覚めた道場に立っていた。 どうして自分の潔白を証明する前に連れ出したのか、と言うために。 そこに居たのは綺麗な女の人で、どこか気高さを感じさせる人だったらしい。 名を、『八房紅葉(やのふさくれは)』。 紅葉刀閃流の一代目───即ち開祖。 門下生はおらず、進んで教えるものでもないと確信して、ひとり鍛錬を続けていた。 夜華さんはそんな紅葉を一目見て憧れ、弟子入りを申し出た。 が、突き放されるだけだった。 幾度目かの訪問。 薄汚れた体を揺らしながら、空腹に耐えながら……夜華さんは道場を訪れた。 いい加減に紅葉も呆れたらしく、質問をした。 『力を求める理由はなんだ』と。 夜華さんはそれに真っ直ぐに答えた。 『自分の誇りを護れるくらいの力が欲しい』と。 紅葉はその答えに応えることなく、ただ夜華さんの目を見た。 だがやがて、夜華さんのために食事を出した。 夜華さんはそれを見て……喉を鳴らした。 けど手を出さなかった。 食事を前に、みっともなく腹が鳴ったとしても……夜華さんは食べなかった。 理性が、生命がそれを食え訴えても、歯を食い縛って耐えた。 『施しは受けない』。 自分が受け取るのは食事ではなくて、その精神の在り方なのだから─── けど、そんな夜華さんへの紅葉の答えは『帰れ』だった。 自分の命さえ護ろうとしない誇りなど捨ててしまえと、そいつはそう言ったそうだ。 そして、それを食ってさっさと失せろ、と。 それでも夜華さんはそれを食べなかった。 生命が生きることを望み、拒まれて辛くても、夜華さんは手を伸ばさなかった。 腹が鳴る。 唾液が出る。 だけど歯を食い縛った。 施しは受けない……それが彼女が持っていた唯一のものにして、彼女の誇りだったから。 気づけば親が居なかった彼女が頼るものは、その誇りしかなかったのだから。 ───いつしか空腹で倒れた。 体には力が入らなくて、ああ、これで死ぬのかなって思ったそうだ。 けど、死ぬ覚悟なんて決めてやらなかった。 そんな夜華さんを抱き起こす影があった。 その影は夜華さんを見て微笑み、『合格』と言った。 それから、夜華さんはその道場の養女扱いとなり、そこで成長してゆく。 『施しは受けない』という誇りは『娘になれば施しじゃない』という言葉に打破され、 最初は無理矢理食べさせられて誇りをズタズタにされた気分に陥り、 塞ぎ込んだころもあったらしい。 けどやがて、一日一食になり……一日二食になり、と……増えていったらしい。 気づけば夜華さんはその道場の娘として自分を誇れるようになり、 自分を護れるくらいの刀術も身につけていった。 門下生としての扱いではなく、あくまで娘として。 夜華さんも紅葉を親として慕ったそうだ。 免許皆伝を言い渡されたのはいつだったか。 夜華さんは10代という若さで紅葉刀閃流を極め、紅葉に認められた。 ただし、刀を振るっていいのは護りたい者が出来た時か、身の危険を感じた時のみ。 いたずらに扱うことは禁じられた。 だが夜華さんは当時、まだ子供だった。 道に居る暴君が居れば叩き伏せてやりたかったし、 盗人が現れれば成敗してやりたかった。 ようするに、自分の持つ力で何かを救いたかったんだ。 ……言いつけを破り、手を上げてしまったのはいつだったか。 夜華さんはひとりをいじめていた大勢を叩き伏せた。 それは自分は悪いことをやったと恥じぬ行為だった筈。 けど、紅葉から下された言葉は『破門』。 お前の『誇り』とはそれだけのものなのかと。 お前は自分の誇りを護れる力が欲しかったんじゃなかったのかと。 だがそれには夜華さんも黙ってなかった。 困っている人を見て見ぬ振りをするのはわたしの正義じゃない。 ……そう。 いつか自分が紅葉に救ってもらったように、 自分にも誰かを救えるんじゃないかと思ったからこそ、夜華さんは言いつけを破った。 それでも紅葉は夜華さんを許さなかった。 自分が刀術を教えたのは夜華に暴力を振るわせるためじゃない、と言って。 気持ちは解る。 俺も隆正が変わった時はショックだった。 紅葉は、きっと俺と似たような気持ちだったに違いない。 そして、夜華さんを娘だと本当に思ってたからこそ、 暴力を振るう子になってほしくなかったのだ。 夜華さんは道場を追い出され、その世界を彷徨うことになる。 夜華さんにとって知っている場所はその村だけで、 立ち寄る場所も道場以外は無いと言っていいくらいだった。 そんな夜華さんは、それからひとりで生きてゆくことになる。 自分が信じた正義は間違いだったのか。 あの日、助けてくれたのはただの同情からだったのか。 夜華さんは何がなんだか解らない内に孤独になり…… その日、産まれて初めて悲しみを胸に涙した。 それからの夜華さんの生活は、お世辞にも普通の日常と呼べるものじゃあなかった。 刀のみを手に追い出された夜華さんは、生きてゆく術も知らずにただ歩いた。 行く宛てなど無く、ただ彷徨った。 追い剥ぎに襲われそうになったり、性質の悪い男にからまれたり。 でも夜華さんは刀は振るわず、必死になって逃げた。 訳も解らず追い出されたにも関わらず、紅葉の言いつけを馬鹿みたいに護っていた。 希望も無く、身寄りも居ないその世界で、 追い出されたにも関わらず……夜華さんは紅葉の言いつけを糧に生きていった。 それを『誇り』として。 ───……追い出されてどれくらい経った頃だろう。 身心ともにボロボロになりながら、いつしかその小川に辿り着いた。 空腹に目を回し、川の水でもいいから口に含もうとして倒れた。 ……そして……夜華さんはそこで楓と出会う。 いつしか人のぬくもりも忘れていった夜華さんは、 楓の癒しの力に救われ、楓を護るために刀を振るうことを誓った─── ……忠実にして誠実。 武士の鏡みたいに真面目一直線だった夜華さんはその後、 ひとりの馬鹿男との接触によって性格を破壊される。 その馬鹿男が誰なのかは敢えて聞かないようにしたが…… ───……。 彰利子「うっうっ……え〜え話やなぁ……!」 アタイ感動しちまったい……! ハンケチーフがびしょびしょじゃい……! 夜華 「だから……な。お前はどうにも、全くの他人とは感じられないのだ」 彰利子「そっかそっか……夜華さんも随分な孤独を味わってたのね……。     で……紅葉刀閃流極めたのって何歳くらい?」 夜華 「丁度元服を迎えた時だ。あの時代にわたしが持っていた刀は、     母上……八房紅葉さまに元服祝いに頂いた刀だったのだ」 彰利子「元服って……14、15の時にするもんだったわよねい?」 夜華 「ああ。元服なんて本来は男子がするものだ。     わたしが言った『元服』ってゆうのは、年齢で言う元服。     成人扱いされる頃の男子と同じ年齢の頃をそう呼んだだけだ」 彰利子「そうなのぅ?」 夜華 「ああ」 彰利子「そいじゃあ夜華さんの刀は誕生日の贈り物だったわけねい?」 夜華 「誕生祝いか。そうなのだろうな」 夜華さんは愛しそうに刀を撫でた。 彰利子「あー……でもその刀って……」 夜華 「……そうだな。これは楓さまが作ってくれた刀だ。     喩えあの刀に似るように作ってもらったとしても、これはあの刀ではない。     あの刀は、頼る背もないわたしがずっと苦楽をともにした刀だった。     けど……わたしはもう孤独ではないのだ。     楓さまが居て、知り合いも存在して……貴様も居る。     ……今わたしに必要なのは孤独を誤魔化す刀ではなく、     誰かを護れる刀なのだから……」 彰利子「………」 衝撃を受けた。 夜華さんがそんな心を胸に生きていたとは……。 彰利子「いいツラ構えになったな、夜華さん……雄々しくて眩しいぜ……アンタ漢だ」 ズバァッ!! 彰利子「ギャアーーーッ!!!!」 夜華 「誰が漢だっ!!雄々しいだ!!     何故お前はこういう話でも話の腰を折るのだ!」 彰利子「じ、実は俺の体は……地球外知的生命体に操られているんだーーーっ!!!」 夜華 「それが遺言か」 彰利子「ゲェ!ダーリンみたいな物騒なこと言うでねぇ!!」 てゆうかもう手ェ疲れたよアタイ!! 彰利子「ね、ねぇ夜華さん?もういいでしょ?背中から降りてつかぁさい!」 夜華 「な、だ、だめだ!何を言い出すんだお前は!」 彰利子「なにって……降りろこの野郎!     冥月刀から月生力流して腕の疲れをカバーしてても、     疲れるもんは疲れるんじゃい!───と言い出しておるのですが」 夜華 「だめだだめだ!そんなことは許さない!」 彰利子「何故かね!?」 夜華 「だ、黙れ!」 怒声一閃。 おかげで決意は固まった。 彰利子「……フフフ、アタイはな……     頭ごなしに怒鳴って解決しようとする輩は好きじゃねぇのよ……」 夜華 「なにっ!?」 彰利子「そりゃーーっ!!渋川流柔術・小手食らい投げ!!」 夜華 「う、うわぁっ!?」 説明しよう! 渋川流柔術・小手食らい投げとは、 首もとにある相手の手首を顎で挟み、相手を投げる技である! 危険だから真似すんな! 手首(リスト)が外れちまうぞ! 彰利子「はぁっ!」 振り上げ、背中から引っぺがした夜華さんを空中でガッシィと抱き留める。 やがて着地して───後悔。 夜華 「〜〜〜っ……!!」 彰利子「ゲッ……」 夜華さんはまだ泣いていた。 よーするに、武士として涙を見せたくなかったから背中に居続けたのでした。 彰利子「す、すんません!えろうすんません!」 夜華 「こ、の……馬鹿者がぁああああああああああっ!!!」 彰利子「ひゃあああーーーーーーーーっ!!!!!!」 ザクドシュズバグシャゾブザクグシャア!!! ───……。 彰利子「ひでぇ……メイさんに貰った大事なメイド服がボロボロだ……」 夜華 「……反省している」 メイさんだってこんなことを望んで服を貸してくれたわけじゃないだろうに……。 うう、申し訳ないメイさん……。 彰利子「しょうがないか。メイさんにはアタイから謝っておきます故」 夜華 「すまない……」 彰利子「んもう、夜華さんったらさっきから謝りっぱなしですな。     えーじゃないですか、それが夜華さんなんだから」 夜華 「……なに?それはどういう意味だ」 彰利子「刀で解決するのが夜華さん」 夜華 「………」 彰利子「あら?どした?」 夜華 「いや……そうだな、貴様の言う通りだ。     わたしは結局、刀が無ければなにも出来ない『女』なのだな……」 あらら……もしかしてうすうす感づいてた? 夜華さんって刀が無ければ何も出来そうにないし……グウム。 でも……な。 彰利子「夜華さん、この世界はあの江戸時代ほど、     誰かを護るって信念は必要じゃないよ」 夜華 「なに……?」 彰利子「確かに夜華さんにとって、刀は『自分』みたいに大事なものだと思うけど、     でも……えっと、なんて言やぁいいのかな……     その……ほら、誇りを刀に込めて誰かを護って、     いつかその護っていた人に別の護ってくれる人が現れて……     ……いつか刀を持たなくてもいい時が来て、途方にくれたとしても……     俺、今までずっと男だったから偉そうなことは言えないけど、その……」 夜華 「………」 彰利子「……きっと、楽しいと思うよ?『女』ってゆうのも……」 夜華 「彰衛門……」 彰利子「夜華さんは今まで、武士としての生き方しか解らなかったんだから……     椛が結婚して、隆正……凍弥に護られるようになったら……     それからでも遅くないんじゃないかな、『女』に戻るのも……」 夜華 「………」 夜華さんは力無く俯いた。 『武士として生きてきたわたしが、今更女になど……』といった感じだろう。 でも夜華さんは10代だ。 まだまだ、いろいろな経験が出来る。 じっくりと変えていけばいいんだ。 誇りが大事なら持っていればいい。 刀は……流石に持ち歩くわけにはいかないだろうけど。 女なんだから、誰か護ってくれる人を探して……目一杯幸せになればいい。 この世の中に夜華さんより強いやつが居るかなんて解らないけど、 それを探すのも……きっと楽しくなるから。 夜華 「あ、彰衛門……わたしは……」 彰利子「そうだ!そんじゃあさ、椛と凍弥が結婚したら、アタイとデートしましょ!」 夜華 「……でぇと?なんだそれは」 彰利子「男女が、ふたりきりで遊びに行くこと」 夜華 「なっ……!!」 彰利子「まあ今のアタイは女だけど、     椛だってよもや結婚するまでアタイをこのままにしておかないでしょ。     だから、ね?デートしましょ!」 夜華 「だ、だめだ……!     わ、わたしはこの時代のことなどまるで解らぬのだぞ……?     わたしなどとその『でぇと』とかゆうものをしても、貴様に迷惑が……」 彰利子「お馬鹿!おなごは男に迷惑かけるもんなの!     いつか男がおなごに多大な迷惑かける時が来るんだから、     そんなもんは気にせんでいいの!よいかね!?」 夜華 「だ、だが……」 ええい七面倒な!! 彰利子「何が不服なのかね!この世界にゃアタイよりステキな男などおらぬよ!?」 夜華 「……胸を張れるほど、いい男とは思えぬが」 うわ失礼!本人を前にしてなんて失礼な!! 彰利子「なにをおっしゃる!アタイのフェイスの何処がブ男か!」 夜華 「わたしが言っているのは性格面でのことだ。貴様は性格が悪い」 彰利子「結局失礼じゃない!ひどいわ夜華さん!     あんまりヒドイとトゥシューズに画鋲入れますことよ!?」 夜華 「白目になるな!バケモノか貴様!」 彰利子「馬鹿野郎!白目むけるやつってクラスメイトに何故かひとりは居るだろうが!」 夜華 「くらすめと?なんだそれは」 彰利子「なんでもござらん。とにかく夜華さん!アタイは貴様にデートを申し込む!」 ズビシィッ!! 夜華 「……彰衛門。でぇととは決闘のように申し込むものなのか?」 彰利子「えーと……いかにも!!」 夜華 「貴様……今考えたな?」 彰利子「考えてませんよ?」 夜華 「うそをつけ!」 彰利子「ついてるでしょうが!!───ハッ!!」 夜華 「…………つくづく愚かしいな貴様は」 彰利子「ハ、ハメやがったなこの野郎!!」 『うそをつけ』と言われたから、つい『ついてるでしょうが』と言ってしまった。 彰利子「ハッ!……はは〜ん?解ったぞてめぇの魂胆が〜〜〜っ」 夜華 「てめぇと言うな!」 彰利子「いくら欲しいんだよ〜〜〜っ!!えぇ〜〜〜っ!?」 ゴキャアッ!! 彰利子「ヘキャアーーーッ!!!」 鞘ごと殴られたーーっ!! 痛い!これは痛い!! 夜華 「話に脈絡を持て!何故欲する欲さないの話になる!!」 彰利子「……報酬が無いとアタイのようなブ男とは付き合えねぇってんでしょ……?」 夜華 「だ、誰がそのようなことを言った!!     わたしを金の亡者のように言うのは許さんぞ!」 彰利子「じゃあ何故拒むのかね!!デートですよデート!     アタイとデートできることを光栄に思えこんちくしょう!!」 夜華 「わたしは人を見下す者は嫌いだ」 彰利子「安心せい!言ってみただけじゃ!」 夜華 「貴様……」 彰利子「まあよまあよ!とにかくアタイとデートしなさいな。退屈させんよ?」 夜華 「だめだ」 ひでぇ!何故か今回だけ即答!! 彰利子「もういいよ夜華さんのばかーーっ!!おたんちーん!!」 アタイはロート製薬を散らしながらその場を駆け出した。 夜華 「あっ!彰衛門っ!?」 呼びとめるような声が聞こえたが、もう知らん!! 暗い廊下を力の限り走り、アタイは目的を忘れて走ったのでした……。 真里菜『あぁああああああっ!!!!あぁあああああああっ!!!!』 彰利子「おわぁああああああああっ!!!おわぁあああああああっ!!!!」 そして真里菜さんと再会を果たした途端に目的を思い出した! 夜華さんを口説いてる場合じゃございませんでした!! シンジラレナイ! これがアタイが思い描いた妹像!? 彰利子「コワイコワイコワイコワイコワイコワーーーーイ!!!!」 キャーッ!イヤーッ!!たっけてーっ!ポッパーイッ!! 救いにきたけど、肝心の刀を夜華さんに預けてたんでした!!! 彰利子「時間稼ぎになりゃいいが───退魔障壁!!」 キュイ───パキィンッ!! 月鳴力で電磁場の壁を作る。 バヂィッ!! 真里菜『うあっ……!?』 彰利子「うっしゃあ!」 真里菜が壁に阻まれる。 考えてみれば、真里菜は俺の妹だ。 弦月の血筋なら、月操力が有効なのも頷ける。 彰利子「とんずらぁーーーっ!!!」 ズドドドドド……─── ドドドドド…… 彰利子「ややーーっ!!夜華さん発見ンンーーーッ!!」 夜華 「うわっ!?」 彰利子「夜華さん助けて!夜華さん!!」 夜華さんの肩を掴み、夜華さんの背中に隠れた。 …………………………よし来ない。 彰利子「はふぅ〜う……ひと安心」 夜華 「おい彰衛門……貴様今、わたしを盾にしただろ……」 彰利子「そんなことございませんザマスわよ?わたくし、潔白ザマス」 夜華 「………」 彰利子「なんザマス?」 夜華 「目が泳いでいるぞ」 彰利子「ィヤッハッハッハッハ、何を愚かしいことをザマス。     目が泳ぐわけないザマショウ?」 夜華 「貴様なら有り得る」 彰利子「ィヤッハッハッハッハッハ!!───ならば証明してみせようザマス!     ピエロアイーーーン!!!」 グミミミミ……ギュポンッ!! 夜華 「───っ……は───うわぁああああああああああああああああっ!!!!!」 彰利子「どうだーーーっ!!泳いでるかーーっ!?えぇーーーっ!!?」 夜華 「うわっ!うわぁあああああっ!!!」 彰利子「答えろ夜華さん!泳いでおるか!えぇーーっ!?泳いでおるかオラーーッ!!」 夜華 「お、泳いでない!泳いでないぞ!だから直せ!直してくれ!!」 彰利子「ではアタイの潔白を認めるのだなーーっ!?」 夜華 「なっ───それは話が別だ!!貴様がわたしを盾にした事実は」 ゴニョリ。 夜華 「ひぃいいやああああああああああっ!!!!     顔に生暖かいモノが!!やめっ!やめてくれ彰衛門!!     認める!貴様は潔白だ!だから眼球を当てるのはやめ───ぁああああっ!!」 彰利子「フフフ……か、勝った……」 アタイは夜華さんの叫びにも気づかず、眼球をハメ直そうとして─── 持ち上げた眼球が、真里菜さんを大好評上映した。 彰利子「………」 真里菜『………』 硬直。 彰利子「おわぁああーーーーっ!!!!」 真里菜『あっ……あぁあああああっ!!!!』 そして絶叫! 真里菜さんもアタイの眼球を見て絶叫した! 彰利子「おわっ!おわっ!おわぁあーーーっ!!!」 真里菜『あっ……ぁあっ……!ぁああああああっ!!!』 驚くたびに景色が揺れる! 垂れ落ちた眼球が廊下の床や、真里菜さんや夜華さんを写す。 いかん!このままではいざという時に前を見て走れん! 彰利子「こうなったら……超〜〜〜〜眼力〜〜〜〜っ!!!」 グ……グゴゴゴゴゴ……!! アタイのおめめが持ちあがる。 目にあるという筋肉をも操れねば、爆肉鋼体は為し得ない!! ───ムウ!完璧じゃ!! いまやアタイの目は瞼の部分から直線に伸びている状態にある!! そして自由自在!! 彰利子「おお!!背後まで見える!もう尻目なんて言わせませんよ!?」 夜華 「う、わっ……うわぁああああっ!!」 真里菜『あ、あああ……!!』 『かっとび一斗』の尻目くんの真似をしたら、ふたりに本気で怯えられた。 ……幽霊にまで怯えられるアタイって何者でしょうね。 夜華 「は───……」 パタリ。 彰利子「ややっ!?夜華さんが気絶してしまった!!」 なんてこと!これでは真里菜さんを救えない!! 彰利子「し、仕方ない……!今宵は見送りだ!!月然力よ!アタイに力を!!」 心苦しいが、真里菜さんは風かなんかで吹き飛ばそう。 『滅ぼす』という意識さえしなければ吐き気に襲われることはない筈だ───! だが、単純な風で退散してくれるだろうか……むう。 彰利子「こうなったら無茶でも“放電”(ヴァーリー)で……」 いや、だめだ。 あれは間違い無く傷つける。 ならば……む? 風……? で、エネル……ワンピース……むう!! イケル!これはいけますよ!? 彰利子「月然力よ!我が力となれ───!!」 怯えている真里菜さんに向けて、『ある仕掛け』を為す。 これで準備オッケー!! 彰利子「ナミさん!技を借りるぜぇーーっ!!“サイクロン・テンポ”!!!」 アタイは眼球を伸ばし、真里菜さんに絡ませて回転させた!! ギュルギュルギュルギュル……ミギギギ……!! 彰利子「ギャアアアアア!!!目が!目が千切れるーーーっ!!!」 だがその甲斐あって───ドシュゥウウウウウウン!!! 真里菜『あぁああああああっ!!!!!』 サイクロン・テンポは完成し、真里菜さんは遠く、長い廊下の果てまで吹き飛んだ。 彰利子「よっしゃあ上手くいった!!夜華さん!逃げますよ!」 夜華 「───……」 見事に気絶しております。 しゃあねぇ!抱き上げてでも逃走!! 彰利子「とんずらぁーーーっ!!!!」 ズドドドドドドドドドド……!! 脱兎の如く逃走!! 後ろから追ってくる気配はなく、アタイの作戦は上手くいったことが確信された!! ふははははは!では次の夜に会いましょう真里菜さドゴォン!!! 彰利子「ゲギャーーーーーッ!!!!!」 前方不注意で壁に激突した。 考えてみればアタイ、眼球飛び出たままでした! 彰利子「噴破ッ!!」 ガボンッ!! 眼球をハメ、なんとか景色を元通りにした。 アタイが激突したのと同時に、 夜華さんも凄まじい勢いで壁に頭突きをしていたが───ピクリとも動かないから無視。 彰利子「とんずらぁーーーっ!!!!」 やはり足振り抜く勢いで大激走した。 ───……。 彰利子「……はぁ」 で、また牢屋へ逆戻り。 メイさんにはメイド服のことを深々と謝罪し、夜華さんにはひとまず帰ってもらった。 それにしても……疲れた。 全然全く目的を達成できなかった。 それどころかこの夜、ただアタイってばいいようにボコられただけでは? 彰利子「なんだかとってもせつねぇや……」 暗雲に飲まれた精神状況の中、 アタイはひとり寂しく牢屋のベッドで寝ることにしたのでした…… ……ちなみに。 夜華さんを帰す際に、 椛に女化の除去をしてもらおうとしたのだが……あっさり却下されました。 そんな切なさ炸裂な、秋の夜でござんした……。 Next Menu back