───孤独の檻───
悠介 「それで、話したいことって?」 リヴァイアが開いたドアの先の部屋に腰を降ろす。 すると、リヴァイアも腰を降ろして話す姿勢をとった。 リヴァ「お前の孫と凍弥は結婚するそうだな」 悠介 「?ああ」 リヴァ「やめておけ、後悔することになる」 悠介 「なに……?」 どういうことだ? リヴァ「あいつ……凍弥は、長く生きられないんだ。もう消滅が近い」 悠介 「消滅?長く生きられない?なんのことだ、話が見えない」 リヴァ「以前貰った凍弥の血液を使って様々なレベルパターンを調べていたんだ。     もちろん凍弥の同意も得ていたし、クローンを作ろうとしたわけでもない。     だが……冗談では済まない事実が発覚した」 悠介 「冗談では済まない事実……?」 リヴァ「凍弥にはな、およそ『魂』と呼べるものが存在しないんだ」 悠介 「なに───?」 リヴァ「いや、言い方が適切じゃないな。『霧波川凍弥』としての魂が無いんだ。     今の凍弥の中にあるのは『奇跡の魔法』のカケラにすぎない。     いつ消えてもおかしくない状態なんだ。     わたしからしてみれば、     この瞬間まで生きていられたのが不思議でしょうがない。     おそらくの見当はついてるが……」 ……なんだ?わけが解らない。 ちっとも頭が整理されない。 くそ、落ち着け……! リヴァ「凍弥の中からお前の孫の中に『力』を移植したのは覚えているな?」 悠介 「え?あ、ああ……」 リヴァ「あいつのを生かしていたのはその『力』だ。     移植する際、その力の中に『魂』が存在していた。     おそらくその時から、既に蝕まれていただろう」 悠介 「流れた魂……それが凍弥の魂?」 リヴァ「いや。あの魂は『神の子』の魂だった。     どういう経緯があったかは知らないが、     その魂が凍弥の中にあったおかげで凍弥は生きてこれた」 悠介 「じゃあ、それを戻せば……?」 リヴァ「いいや。そんなことをすればお前の孫がただでは済まない。     お前の孫はもともとが半分の魂で生きていたのだ。     それは『転生』のためであって、     どんな人間がお前の孫を産んだとしても魂の量は変わらない。     だが今は片割れの半分の魂が戻り、定着してしまっている。     そんな状態で移植してみろ、     『開祖』の力に耐えきれず、『原因不明の死』を迎えることになるぞ」 悠介 「………」 どうしてこの世界ってのはこう、上手く回らないんだ……。 腹が立ってくる……! リヴァ「お前の孫は、『月蝕力』というものを持っていた。     それくらいなら魂の半分だけでも保っていられる。     だが、それが『全ての月操力』に加え、     死神の力と神の子の力が圧し掛かったらどうなる?     お前の孫と凍弥は、それを『奇跡の魔法』によって制御していたにすぎない。     制御する力が無ければ消滅するだけだ。     そういった意味では、凍弥は運がよかったのかもしれない。     奇跡の魔法を持って産まれていなかったら、     魂を受け渡された時点で死んでいた」 悠介 「……確かに、冗談じゃ済まないな……」 リヴァ「そうだろう?だから言う。あいつらのことを思うなら結婚のことは忘れろ」 悠介 「……俺には結婚のことなんて関係ない。これはあいつらの問題だろう」 リヴァ「───凍弥は自分の消滅が近いことを知っているぞ。     奇跡の魔法による消滅は『全てに忘れられる』こと。     唯一覚えていられるのは家族と想い人のみ。     覚えていられるのはお前の孫だけなんだぞ?」 悠介 「なに?待て、あいつには両親が居るだろう。椛のみってのは間違いだ」 リヴァ「───本気でそう思っているか?」 悠介 「……どういうことだ」 訳が解らない。 理解出来ない。 あいつには確かに両親が居るだろう。 リヴァ「言っただろう、あいつは奇跡の魔法の塊みたいなものだ。     『奇跡』自体に『親』なんてものは存在しない。     いや……そもそも『霧波川凍弥』なんて人物はとっくの昔に死んでいるんだよ」 悠介 「なっ───なにぃっ!?」 リヴァ「本当はやりたくなかったんだがな、手遅れになる事態が起こりうる現在だ、     手段が多い方がいいと思って凍弥の過去を調べた。     お蔭で解ったよ、あいつは母親の腹の中に居る時点で流産していた」 悠介 「……ま、待て……!じゃああいつは……凍弥は何者なんだ……!?」 リヴァ「だから、何度も言っているだろう。     あいつは『奇跡の魔法』に『霧波川凍弥』って名前をつけられただけの存在だ」 悠介 「……ばかなっ……!」 どうかしてる……! なんだそれは……! 悠介 「それじゃあ感情はどうなる!?奇跡なんてものに感情があるってのか!?」 リヴァ「それは『前世』に関係している。     『禊隆正』と『霞吹鮠鷹』、そして───     あいつに流れる前の奇跡の魔法であった『閏璃凍弥』の子供の頃の記憶だ」 悠介 「閏璃───凍弥……?」 リヴァ「凍弥はふざけた時、随分と人が変わったようになるだろう?     真面目なあいつが、ふざける時だけは」 悠介 「……!」 それは。 どう形容したらいいんだろう。 さっきまで引っ掛かっていたものを暴かれた瞬間、とでも言うのだろうか。 俺は『彰利に感化されたんだ』と思ってた。 だが、もし……? リヴァ「閏璃凍弥という子供の記憶は佐奈木夕の中に流れ、彼女を救った。     だがもし、その記憶がまだその中で生きていたなら?     流産した筈の抜け殻が息吹するのも頷けはしないか?」 悠介 「………」 リヴァ「本来受け継ぐ筈の魂の受け皿を無くした『前世』は、     他の宿主を探して彷徨う筈だった。     だがそこに『奇跡』ってゆうとんでもない受け皿があったらどうなる?     感情を手に入れ、記憶を手に入れ、そして死んだ筈の肉体を手に入れ……     そんな幾つもの『奇跡』の邂逅の中であいつは産まれた。     たとえ短い命であったとしても、     『閏璃凍弥』は凍弥の両親を悲しませたくなかったのさ。     だから奇跡を導いた。そして凍弥は神の子の転生体と出会い、今まで生きた。     これも奇跡と言えることだ。……わたしの言いたいことが解るか?」 悠介 「……あいつの周りには『奇跡』が存在する、だろ?」 リヴァ「そうだ。人々は奇跡を願いすぎている。     あいつが自分のことを後回しにするのだって、     『奇跡』として人々の役に立ちたいってゆう思念と、     元がお人好しだった『閏璃凍弥』の所為だ」 悠介 「それじゃあ……『霧波川凍弥』って意識なんて、やっぱり存在しないのか?」 リヴァ「いいや、閏璃凍弥と禊隆正と霞吹鮠鷹。     その三人の意識が合わさって産まれた存在が凍弥なら、     それは間違いなく霧波川凍弥の意識だ。     そしてその状態で経験した全てがあいつの中にある。     だが、それでも『奇跡』ってゆうのは人が背負うには重過ぎるんだ」 ……それは理解出来る。 人々が望み続けても手に入れられないカタチの無い、 でもとんでもない希望の塊である奇跡。 それは人が背負うにはあまりに無茶なことだろう。 だが俺たちの言う『奇跡』ってのは人を苦しめるためのものだろうか。 そこが解らない。 どうして奇跡で人が消えなければいけないのか。 リヴァ「解らないって顔だな」 悠介 「当たり前だ。お前はそう思わないのか?」 リヴァ「思わないね。凍弥の行動を思い返してみれば解ることだ」 悠介 「凍弥の行動?……人のためになにかをすることか?」 リヴァ「そうだ。お前が言ったんだろう、あいつの周りには奇跡が存在するって。     それはあいつが自分の中の奇跡を周りの誰かを助けるために使ってるからだ。     真実、人が背負うには大き過ぎるんだよ、奇跡ってゆうのは。     解らないか?いつだって奇跡を起こせたらこの世界は狂うだろう。     『奇跡の魔法』ってゆうのはな、『世界に背いた魔法』なんだよ。     だから使うためには『自分を犠牲』にする必要がある。     自分を消す代わりにあの人を助けてやってくれって言ってるようなものだ」 悠介 「じゃあ……凍弥、は……」 自分が消えるってことも知らずに人を助けて生きるてるってゆうのか……? リヴァ「あいつが助けてきたことが小さなことだったから消えずに済んだんだろう。     ……実際、わたしも理解出来ないことがあった。     何故出会ったばかりの男の願いを叶えるように、     見ず知らずの女の魂を救うことに助力したのか。     それまでのわたしであったなら、そんなものは知らん顔していただろう。     ……あいつの傍はいろんな意味で『危うい』んだ。     自分の意思で行動したつもりが、     ふと気がつくと何故自分がそんなことをしたのかが解らなくなる。     その全てが結果的に誰かを救うことになっている。     これが、どういう意味か考えたことがあるか?」 悠介 「……あいつの周りには……」 リヴァ「そうだ、奇跡がある」 悪い意味じゃない。 むしろそれは喜ばしいことだろう。 ……それが、誰かが消える結果にならなければ。 悠介 「助かる方法はないのか?」 リヴァ「残りカスの奇跡の魔法があいつ自身なら、奇跡の魔法を上乗せしてやればいい。     だが───天地空間のどこを探しても、     もうお前の孫と凍弥以外に奇跡の魔法を持っている者は居やしない」 悠介 「そんな……」 リヴァ「微量なものは幾つか感じられるが、     そのひとつを移植したところで寿命が少し延びるだけだ。     今出来ることは、あいつに『人助け』をやめさせることくらいだ」 悠介 「───そうか!それをやめさせればこれ以上悪化することはなくなる!」 リヴァ「いいや、消滅はするだろう。早くて冬。もって春には……な」 悠介 「………」 あまりに残酷な答えだ。 だが……それは真実だ。 目を逸らすわけにはいかない。 リヴァ「他に方法が無いわけでもないが、それは元々無理なんだ」 悠介 「方法?なんだ、言ってみてくれ」 リヴァ「無駄だ。『存在力』なんてものを移植したら、そいつが消えるだろう。     それともお前、やってみるか?」 悠介 「存在力の移植……!?無茶だ、出来っこない……」 リヴァ「だろう?お前の『創造の理力』で作ろうとしたところで、     出来るものは『抜け殻』だ。イメージはイメージでしかない」 悠介 「それは解ってる。俺がイメージして創造するんだ。     創造された存在力は『俺のイメージ』の存在力だ。     誰の糧になるわけでもない。言ってしまえば……『意思』がまるでないんだ」 喩えるなら『虚空』。 『存在力』という名前のカラッポの物体でしかない。 もちろんそんなものを魂に上乗せしたりしたら、 凍弥の魂の中の自我は半減され、最悪自我崩壊になり兼ねない。 俺がイメージした『存在力』が、 凍弥の魂にとって『どう役立つか』まではイメージ出来るわけがないのだから。 彰利を蘇らせた時だって、恐らくはそこに彰利の魂が残っていたから成功した。 ルナから引き出した月癒力のお蔭だってことも解ってるし、 そもそも俺は、この創造の理力が思うほど万能じゃないことくらい知っている。 なんでも創れるが、所詮はひとりの『人のイメージ』なのだ。 そう。 俺が……例えば『凍弥の魂を助ける魂が出ます』と言って創造を完了させても、 それが凍弥をどう助けるのかさえイメージ出来なければどうしようもないのだ。 いつか、ルヒドに魂のイメージをもらったが……あれは『俺だけ』に使えるものだ。 ルヒドも他人にはこのイメージは使うなと言っていた。 それに……俺は多分、『存在力』の創造は出来ない。 ハトは出せるが、それは『ハト』としてだ。 『存在力』そのものを創造することは出来ない。 出来たとしても、そんな漠然としたもので果たして、凍弥を救えるだろうか。 悠介 「……どの道、どうすることも出来ないのか」 リヴァ「そういうことになる。だから……連れ添ってから泣くんじゃ悲し過ぎるだろう。     ふたりを結ばせるのはあまりに酷すぎる」 悠介 「……何度も言わせるな。結婚するかしないかはあいつらの問題だ。     それに、凍弥が自分の消滅に気づいてるなら丁度いいじゃないか。     俺はあいつの好きにさせるさ。結婚をやめて逃げ出したとしても、     誰にもあいつを責める権利なんてありはしない。     もし責められるとしたら……それはあいつ自身だ」 リヴァ「………」 リヴァイアは何も言わなかった。 何も言わず、俺に小さな笑みを見せると─── そのまま、ドアを開けた先に消えていった。 悠介 「………」 多分、凍弥は逃げ出してしまうだろう。 そして誰にも見つからないように、誰にも気づかれずに消えてゆく。 消えた時点で誰も覚えていない。 ただひとり、椛を除いては。 そして椛は悲しみ続けるのだろう。 いつか、この世界でただひとり異端を唱えた俺のように。 俺はその孤独の辛さを知ってるから。 だから……あいつにそんな思いをさせたくない。 させたくないのに……俺にはそれをさせないための方法が何ひとつとして無かった…… 椛  「おとうさんのばかーーーっ!!ばかばかばかばかばかーーーっ!!!」 どごしゃあああああああああんっ!!! 彰利 『ギャアアアアアアアアアアッ!!!!!』 しばらく考え事をしてから戻ると、モニターの中の彰利が電撃を食らっていた。 なにをやらかしたかは知らんが……いや、そもそもなんだって女になってんだ? 夜華 「遅かったですね、悠介殿」 悠介 「あ、ああ……ちょっとな……」 夜華 「……?顔色が優れないようですが……なにか?」 悠介 「いや、なんでもない。それよりこれはどういう状況なんだ?」 夜華 「……彰衛門が女装をしたために楓さまがお怒りになったのです……。     信じられますか?あの『もにた〜』に映っている女が彰衛門なのですよ……?     楓さまが何かの力を使ったらしいのですが……」 悠介 「はあ……」 篠瀬は思いっきり疲れた人の顔をしていた。 それは多分、俺もだろう。 悠介 「……茶ァでも飲むか」 夜華 「そう、ですね……」 俺と篠瀬は大きな溜め息を吐いて、お茶の用意をすることにした。 ───…………。 お茶にしてからしばらく、俺は彰利に呼ばれてから戻ってきた。 入れ替わるように篠瀬が出ていって、しばらくの今だ。 俺は『霊を分割させる刀』を作らされたが……なにに使うつもりなんだか。 そして───今。 俺と椛は大変な事態に追い込まれていた。 椛  「うっ……げほっ!かはっ……!は、はっ……!」 悠介 「がはっ……!う、うぐぐ……!!」 俺と椛は、既に立ち上がれないくらいに弱りきっていた。 何故って─── おなご「アン!ドゥ!オラァ♪(合いの手)」 おなご「アン!ドゥ!クラァ♪(合いの手)」 おなご「所詮〜〜んこの世は〜〜男と〜〜女〜〜〜♪     しかし〜〜オカマは〜〜男で〜〜女〜〜〜♪     だ〜〜〜か〜〜〜ら〜〜〜最強!」 おなご「最強!」 おなご「最強!!」 おなご「最強!!」 おなご「オ〜〜カマウェ〜〜〜イ♪あー最強!」 おなご「最強!」 おなご「最強!!」 おなご「最強!!」 おなご×2『オ〜〜〜カマ〜〜〜ウェ〜〜〜〜イ〜〜〜♪(ハモリ)』 あ、あの篠瀬が……篠瀬が……! 悠介 「うっは……!うははははは!!ぶははははははははは!!!」 椛  「くふっ……!ふひゅひゅ……!あははははははは!!!!」 リヴァ「……本人、泣いているぞ。笑ってやるな」 そうは言ってもな……!これは貴重すぎて貴重すぎて……! やべぇ、腹痛ぇ!! 椛  「やだ、もう……夜華ってば……!」 悠介 「ぶはははははははは!!ぶははははははははははは!!     ブハッ!ぐふっ!ぶはははははははははは!!!!」 リヴァ「お前は笑いすぎだ」 解ってはいるが……ツボにはいったみたいだ。 もう涙が止まらねぇ!! このままじゃ笑死しちまう! ここまで笑ったの、俺初めてだ! ───…………。 悠介 「…………はー、笑った笑った……」 ふと気づけば、篠瀬の昔話は終わっていた。 笑い過ぎで激痛すらしていた俺の腹も治まり、ようやく安堵の息を─── 彰利 『そうだ!そんじゃあさ、椛と凍弥が結婚したら、アタイとデートしましょ!』 どがしゃあああん!!! 悠介 「どわぁあああっ!!?」 安堵の息どころではなく、持ってきたちゃぶ台が粉々に砕けた。 椛  「おとうさん……!?夜華と、デートだなんて……!!」 ヤバイです。 俺の心の警報機が鳴りっぱなしです。 こんなときはどうしましょう。 ってそうだ、家主であるリヴァイアにでも相談を……って居ねぇ! ひとりで逃げやがった!! とか思ってる間にも、椛から恐ろしい殺気が溢れてくる。 やはり変態だと解ってもなお、椛は彰利のことが好きらしい。 椛  「あ……」 だがなんだかんだで彰利は篠瀬から離れ、さっさと走り去って───幽霊と遭遇した。 そこでの彰利の雰囲気で解ったが、 どうやら創造した刀は、この女の子の霊を斬るためのものだったらしい。 悠介 「………」 やがて、篠瀬を盾にして霊から逃げようとする彰利に、俺と椛は溜め息を吐いた。 ───キキ、キンッ。 画面が変わる。 リヴァイアの話だと、 リヴァ「一日待つのは退屈だろう?ここはわたしのラボだからな、     空間を捻れさせて時間を進めることくらいワケはない」 とのこと。 で───その画面の中で、彰利は他のメイドさんに手刀を落としていた。 彰利 『すまんね、ちょいと社長室に用があるんだわ』 彰利はそう言うと、メイドさんが持っていたトレイを手に、テコテコと歩いていった。 そして───社長室。 軽くそのドアをノックすると、中から『カムイン』という言葉が響いた。 ───それで、彰利が次に取る行動が決まったらしい。 もちろん俺も、彰利がどんな行動を取るのか予測できた。 彰利 『失礼します』 予想通り、声色を変えての入室。 確実にヘクター・ドイルの真似だ、賭けてもいい。 夜華 「あの……ここで声色を変える意味はあるのでしょうか」 悠介 「一応、な。初対面なんだから意味無いとは思うんだが」 そこはそれ、彰利の物真似魂というものなんだろう。 彰利 『うわァ恐い顔……』 夜華 「わたしは貴様の顔の方が恐いが……」 言われてんぞ彰利……。 椛  「おとうさんって、いっつもこうやって人をからかう人なんですか?」 悠介 「そうだぞ?あいつにとっての生き甲斐みたいなもんだ」 椛  「………」 おお、さすがに呆れとる。 そりゃそうか、俺だって呆れる。 彰利 『シャラッ!』 ボゴシャッ! 男  『ベップ!』 呆れ途中で、彰利が男の後頭部に拳を落とした。 結果、男は気絶。 おきまりのドイルさんの言葉を語りながら端末に向き合う彰利は、 なんだかとっても晴れやかだった。 夜華 「なにがしたいのでしょうね……」 まったくだ。 ───だが、笑っていられる時間はあまりに短かった。 倒れていた凍弥たちを追い出した彰利の身に待っていたものは……絶望だった。 俺も知らなかったあいつの絶望が、そこにあったのだ。 悠介 「………」 その全てが絶望で染まる。 目の前に対峙する自分の母親を、あいつは憎いと感じた。 母親を敬愛してるとばっかり思っていた俺にとって、それは信じられない出来事だった。 椛  「おとうさん……恐いよ……」 夜華 「たしかに……今の彰衛門はまるで、精神世界の中の……」 リヴァ「検察官……」 思い思いに言葉を放つが、思っていることは一緒なのだろう。 確かにこの場の者たちは、今の彰利に少なからず恐怖を感じていた。 唯一、俺を除いて。 悠介 「負けるなよ、彰利……」 お前は孤独なんかじゃない。 お前がどう思おうが、別の時代から来ようが……俺はお前の親友だから。 だから、孤独なんかに負けるな。 自分の思考なんかに負けるな。 お前が誰だろうが、俺だけはお前の味方になってやるから───! ───漆黒の鎌が振り上げられる。 その鎌が、母親を切り裂く寸前。 俺は無意識に叫んでいた。 悠介 「彰利ぃっ!!」 もちろん届くわけがない。 モニター越しなんかで、声が届くわけがない。 ───だってのに……あいつは鎌を止めた。 彰利が涙し、母親が困惑する中───彰利の刀がひとりでに動き、母親を斬る。 母親は消え、その場に彰利だけが残される頃。 あいつはなんの表情も浮かべないままに天井を見上げた。 どんなことを考えているのかは解らない。 けど、あいつはきっとまた、自分で全てを抱え込むんだ。 誰かと一緒に背負えばいいものを、全てひとりで抱えてしまう。 そんなことをしていれば心が乾いてしまうのも当然だというのに。 でもきっと、俺達なんかでは…… あいつの背負ってるものを一緒に抱えてやることは出来ないのだろう。 俺達はそれを経験したことがあるわけじゃない。 同じ痛みを知らない人が、どうしてあいつを救えるだろう。 悠介 「………」 俺達は黙ることくらいしか出来なかった。 かけてやる言葉も思いつかずに、 モニター越しにあいつの姿を見ていることしか出来なかった。 けど、俺はこう思う。 あいつはあいつ、彰利なんだから。 あんな光景を見せられたところで、接し方が変わるわけじゃない。 だったら───あいつがそれを拒絶したとしても、俺だけでもあいつの味方でいようと。 あいつが俺に未来をくれたように、 あいつがこんなところで挫けるようなら、俺があいつに喝をいれてやるんだ。 借りを残したままだなんてのは嫌だからな。 命を捨ててまで俺に未来をくれたあいつを、いつか救える瞬間が来るのなら。 その時こそ、俺はあいつに借りを返せるんだと信じている。 だから─── 悠介 「……悪い、俺はここらで失礼するよ」 椛  「おじいさま?」 これ以上、あいつの行動を監視する必要なんてないだろう。 あいつが困ったときが来れば、俺はその場に居れると信じれるから。 もっとも、あいつが魔人なんぞに負けるだなんて思えないが。 夜華 「そうですね。これ以上様子を見ていても、心苦しいだけですし」 椛  「夜華まで……」 リヴァ「そうか。お前はどうする?」 椛  「どうするって……」 悠介 「椛、安心しろ。彰利は自分の心に負けたりなんかしないさ」 椛  「でも……」 悠介 「信じろ。お前が思う彰利は、そんなに弱いヤツか?」 椛  「いえ……そんなことありません。     ですが……あの精神世界の中のおとうさんは、とっても辛い思いをしてて……。     それを思うと、ずっと様子を見ていたくて……」 ……それは解る。 あいつはずっと孤独と戦ってきたから、心は強いヤツだと思っていた。 だがその実、あいつはとても弱いヤツだった。 けどここで信じてやらないと、俺はあいつの親友失格だ。 あいつは負けない。 負けやしない。 確かに辛いことは山ほどあっただろう。 けど、あいつが笑えることが出来た時だって確かにあった。 それはウソなんかじゃない。 彰利 『リヴァイア……悠介をこっちに飛ばしてくれ』 悠介 「彰利……?」 リヴァ「解った、すぐ繋げる」 彰利 『それから……こっちの様子を映してるなら、それも切ってくれ。     悠介との話は、誰にも聞かれたくない……』 椛  「おとうさん……」 夜華 「彰衛門……」 まるで、俺以外を拒絶するような声だった。 その表情には相変わらず生気がないようにしか見えない。 ……ただ、不安ばかりが募る。 リヴァ「ゲートを繋げたぞ。行ってこい」 悠介 「ああ、すまない」 リヴァ「モニターも消す。ふたりとも離れていろ」 椛  「うー……」 夜華 「む……」 モニターが閉じられるのを確認してからドアを開け、 俺は彰利の待つ大広間へと向かった。 Next Menu back