───時を彷徨う孤独の居場所───
ヴァサリと黒マントを翻し、アタイは小僧を見下ろした。 彰利 「いい夢を見るんじゃな。じいやはもうこの屋敷を出る」 倒れた小僧はなにも言わない。 が、そげなことは攻撃したアタイが一番よく知ってたので、さっさと歩くことにした。 彰利 「しっかし……小僧が春を乗り切れない体になっていようとは……」 似てるって思っただけに、それは少々驚きだった。 彰利 「んだども、小僧はまんだ助かる可能性さあるでよ。     ここはオラっちがなんどがすてやるのが愛情ってもんだべな」 よく解らん田舎っぽい言葉を発しつつ、アタイは牢屋をあとに……おろ? 彰利 「なんだべ!こげなところに木刀があるだべ!     いんやぁ〜、そういや小僧が木刀がどうだとか言ってたっぺ!     きっとこれのことだがや〜!こんりゃええもん拾ったべ!」 アタイは木刀を手にして、冥月刀を持ち直した。 これで最強です。 彰利 「えーと、たしかこの木刀って……     椛が好きなだけ大きな波動が放てるヤツじゃよね?」 うむ、きっとそうネ。 間違い無いネ。 彰利 「……ところで、メイさんってばまだ戻ってこないんカナ」 お茶を用意するために出ていったにしては遅いのぅ。 ……どれ、どうせ厨房あたりに居るでしょう。 ここはひとつ、アタイから出向いてお別れの言葉でも贈りませう。 ───というわけで、アタイは厨房へと向かうのでござった。 ───そんでもって厨房……の前の廊下。 浩之 「誰かぁ〜……助けてぇ〜……」 なにやら『店長パンダ』の真似をしながら天井に吊るされてる片割れ2を発見。 ぬう、まさか『けんけん猫間軒』を知っている輩がこの時代に居ようとは……! しかしまあ、アタイもいろいろ吊るされてきましたからね、アヤツの気持ちが解ります。 ここは助けてやらねば。 彰利 「大丈夫かね!今助けるから待っておりなさい!」 浩之 「へ……?」 既に虚ろげな声をあげて、片割れ2はアタイを見た。 その視界の中で、アタイは式を描いた。 彰利 「イワコテジマイワコテジマ!ほん怖、五字切り!!」 バッバッバッバッ!! 彰利 「(かい)(とう)(ほう)()!───弱気!退散!!」 ───説明しよう! ほん怖五字切りを使い、吾郎さんの真似をして回転ジャンプをすると、 素晴らしいジャンプ力を発揮できるのだ!! つまり、そのジャンプを駆使して片割れ2の足についている縄を切れば、 レスキューは完了するのである! 浩之 「お、おおっ!」 片割れ2がアタイのステキな吾郎さんジャンプを見て歓喜を漏らした。 その刹那! 彰利 「()ァーーーツ!!」 顔面をギシャアと輝かせた!! 浩之 「ヒィイ!?」 当然、歓喜の表情は微塵に砕けました。 ああ最強。 浩之 「ぐあぁああ〜……!!目が……目がぁあ〜〜〜っ……!!」 彰利 「素晴らしいぞムスカくん!キミは英雄だ!」 目が眩んだ片割れ2は、吊るされながらもムスカくんを演じていた。 なんというムスカ魂……! ああ、ちなみにアタイは、そんな片割れ2を浮遊しながら眺めております。 彰利 「助かりたいか?」 浩之 「た、助ける気が無いのだろう、貴様……!!」 彰利 「ありますよ?そんで、助かりたいかね?」 浩之 「助ける気があるなら助けろ……!」 彰利 「───ム」 なんと偉そうな……! 少し教育してさしあげましょう! 彰利 「ショラッ!」 ドムッ! 浩之 「ゲブゥッ!?」 宙吊りの片割れ2の腹にパンチ。 ほほう、これはなかなかよいミートバッグじゃわい。 彰利 「ショラショラショラァッ!!」 ドドムッ!ドムッ!ボスッ!! 片割れ2の腹に連撃を叩き込む。 もちろん拳には慈しみの調べを流し、威力は抑えてありますが。 浩之 「ぐっ……!ぐふっ……!!」 彰利 「オラーッ!ジョーッ!!立てーッ!立つんだジョーーーッ!!」 浩之 「宙吊り状態で立てるか馬鹿者!!」 彰利 「フラッシュピストンマッハパァーーンチ!!ハァアアアーーーウ!!!」 ボボボボボボボボ!!!! 浩之 「ごほはげふごふがはごはげふぅっ!!?」 彰利 「……ユーアーノットマイマッチ(目じゃないぜ)」 男塾のJの真似をして、片割れ2の腹を殴りまくった。 結果、片割れ2に元気がなくなってきました。 彰利 「えーとさ、ところでキミ、いつから宙吊りにされてんの?」 浩之 「………」 彰利 「……?これ!返事をなさい!」 浩之 「……頭に……血が……うげげげ……!!」 彰利 「アイヤーッ!?」 見れば、片割れ2の顔色は究極と言って差支えないほどに悪かった。 こりゃいかん! 彰利 「小僧の木刀よ!今こそアタイに力を貸しやがれ!!」 アタイは廊下へと降り立ち、木刀を構えた。 狙うはただ一点のみ!! 彰利 「轟天弦月流刀術奥義!猛り狂う咆哮(レイジング・ロア)!!」 大きく振りかぶり、木刀を振り下ろす。 それとともに、なんの消費も無しに予想以上のバカデカい波動が放たれ─── 浩之 「お───オォオオオオオオオオオオッ!!!!!???」 彰利 「アイヤァーーーッ!!!?」 その眩い輝きは片割れ2を飲み込み……いや、飲み込みそうにはなったが、 なんとか縄だけを巻き込み、天井を貫いて───消えました。 ドガァォオオオオンとか、物凄い音が鳴りましたけど……えーと。 浩之 「こっ……こここ殺す気かぁあああっ!!!」 ドグシャアと落ちた片割れ2が叫んだ。 やーねぇ、せっかく助けてあげたのにこの態度ですよまったく……。 彰利 「アタイ、故意なる殺人だけはしないつもりですよ?」 浩之 「どちらにしたって死ぬところだったわっ!!」 彰利 「助かったんだから万歳でしょうが。ホレ」 冥月刀を振り、片割れ2の足に絡まっていた縄を排除してやる。 彰利 「ホレ、もう動けるべや?」 浩之 「む、むう……」 彰利 「というわけで……救出料500円よこせ」 浩之 「なにぃ!?って、500円?」 彰利 「そうだ。それで酢だこさん太郎を買い占める」 浩之 「………」 なにやら呆れられております。 大変失礼な男じゃわい。 が、片割れ2はハァと溜め息を吐きやがり、紙幣を渡してきた。 彰利 「ムム!?五千円!?」 浩之 「確かに貴様のお蔭で助かったのは事実だ。それに」 彰利 「この馬鹿がァーーーッ!!!」 ゴバドガァァンッッ!! 浩之 「ブゲッ!?」 アタイは片割れ2を容赦無しに殴りつけ、廊下にバウンドさせた。 彰利 「ふざけんなカスが!てめぇ何様のつもりだ金持ちヅラしやがって!!     俺は500円って言ったんだボケ!!なんでも解りきったような顔しやがって!     言った金額の10倍の金だ!?お前俺をどんな目で見たんだ!?     哀れに思ったのか!?答えろてめぇ!!」 浩之 「いや……ただの……冗談で……」 彰利 「なんと!?」 浩之 「……ぐはぁ」(ガクッ) 彰利 「こ、この馬鹿が!アタイ相手にそげな冗談言うんじゃありません!!     アタイは金銭的のことに関しちゃ厳しいんですよ!!解るかね!!」 ………… 彰利 「返事が無い、ただの屍のようだ」 いや、まいったねどうにも……。 そりゃあ全力で殴ったけど、まさかこうも見事にぐったりしてくれるとは。 彰利 「このままだと本気で死にかねんよね……月生力」 冥月刀から月生力を引き出して、片割れ2に流し込む。 彰利 「……よしっと。これで……しばらくすれば起きるだろ。     そんじゃあな、片割れ2。アタイはメイさんに挨拶したら帰るから」 アタイは『アディオス』と言い残し、その場をあとにした。 ───で。 浩介 「……轟音がしたと思って来てみれば……いったいなにが……」 厨房前の廊下に戻ってきてみれば、瓦礫の傍で気絶しているブラザー。 その上の天井は大きく斜めに穿たれており、こんな場所から空が見えた。 浩介 「……信じられん現象だな。UFOでも墜落したか?」 ……まさか、だな。 声  「あ……お〜い、浩介〜……」 浩介 「む?」 この声は……同志か? 凍弥 「浩介……無事だったか」 浩介 「無事?ああまあ無事だが……同志、その顔はどうした?」 同志の頬には思いきり殴られたような跡があった。 なんというか、こう……叩き伏せるようなチョップブローをくらったような跡というか。 凍弥 「……孤独の具現体にやられた」 浩介 「なんだそれは」 凍弥 「なんでもない」 同志はまるではぐらかすような物言いで話を打ち切り、ブラザーを揺すり起こし、 やがて目を覚ましたブラザーと我に向かい、言葉を放った。 『それじゃあ、これからのことを話すか』と。 その話の内容は、早く言えば───同志の結婚の話や、寿命の話。 そして我やブラザーのこれからの話だった。 ブラザーは納得出来ないような顔をしていたが、 一番納得出来ないのは同志だと言うと、頷く以外には出来なかった。 浩介 「それでは、今日帰るのだな?」 凍弥 「ああ。今からでも帰ろうと思ってる。     もともと浩介と浩之に会いに来ただけだしな」 浩之 「そうか。……ところで、会ってどうするつもりだったのだ?」 凍弥 「『二度と会えない』って言葉を訂正してもらいたかった。それだけだと思う」 浩介 「……自分のことなのに随分と曖昧なのだな」 凍弥 「人なんてそんなもんだろ」 ……そうだな、違いない。 凍弥 「そんじゃあな、停学が解けたらまた会おう」 浩之 「本当に今帰るのか?」 凍弥 「ああ、ほら。無断で何日も泊まっちまったからさ……。     父さんも母さんも心配してるだろうし」 浩介 「……ふむ、それはそうだろうな」 凍弥 「ああ、そういうこった。じゃあな」 浩介 「うむ」 浩之 「暇を見い出したら屋敷を抜け出してでも会いに行くぞ」 凍弥 「へ?……ははっ、そうだな。楽しみにしておくよ」 軽く笑いながら、同志は手を小さく振る。 やがて我らを見ながら、 後退るような形で離れていっていた同志は後ろを向き、歩いてゆく。 そんな同志を、我は不思議な感覚で見送っていた。 どうして自分の未来が無くなるかもしれないのに、今まで通りに笑えるのか。 ただそれが……不思議でならなかった。 ───……。 チャッ、と。 社長室のドアが開いた。 チット「旦那さま、少々お話が───」 …………。 チット「まあ!?旦那さま!?旦那さま!!     き、気絶している……?なんてヒドイ……!     誰がこのようなことを……!」 ………。 チット「…………さようなら、旦那さま……。さようなら……」 フェイ「う、うぐぐ……殺さないでもらいたいんですが……」 チット「まあ、生きてらしたのですか」 フェイ「オチットさん……今自分で『気絶している』って言ってたじゃないか……」 チット「そのような昔のことは忘れましたわ」 フェイ「………で、なんの用ですか」 チット「捕まえた侵入者が尽く逃げております。どうされますか?」 フェイ「ん……うーん……牢屋の管理者はメイでしたね?」 チット「ええ、そうですが」 フェイ「そっか。だったらそのままで構わない。     彼女が考えた上でそうしたんなら、それでいいだろう」 チット「そうですか。わたくしは構いませんが、     厨房前の廊下の天井が破壊されたことを知っておりますか?」 フェイ「…………なに?」 チット「他にもいろいろと破壊されておりますが。ええ、もちろん侵入者に」 フェイ「……それでもそれでいい。侵入者には手を出さなくていいですよ」 チット「そうですか。かしこまりました」 こうして、オチットさんは軽い会釈をし、社長室から出てゆくのだった。 フェイ「……ふう。やっぱりあの人はちょっと苦手だな……」 社長だというのに頭が上がらないというのもおかしなものだった。 疑問に思うことはただひとつのみで、そのたったひとつの疑問も─── 『オチットさんが何歳なのかという』くだらないものだった。 答えは当然、『解らない』である。 ───……。 彰利 「お、小僧じゃねぇのー!」 凍弥 「へ?あ、彰衛門……」 メイさんに別れを告げてきたアタイは、屋敷の外で小僧を見つけて声をかけた。 彰利 「っと、ホレ。これ貴様のデショ?」 凍弥 「へ?あ、木刀……忘れてた」 小僧に木刀を渡して、てっこてっこと歩く。 ようするに小僧の隣を歩くようなカタチになってるわけですが…… 彰利 「……小僧、なにか話せ」 凍弥 「彰衛門が話してくれよ。俺、なにも浮かばない」 彰利 「………」 互いのことを知った今、自分達はどこか遠慮し合っているような気がする。 相手の様子を見つづけても、 自分の様子を見つづけても、その結果は変わりそうにもない。 彰利 「……小僧、お前が俺に似てるって言ったらどうする?」 凍弥 「さっきも聞いたけど。まあ……嫌と言えば嫌だな、全力で」 彰利 「だろうな。俺も貴様なんぞに似てるって思われるのは嫌だ。     でも、お前は俺に似てるよ。     親が存在しないところや、くだらないものを背負ってるところとか」 凍弥 「………」 彰利 「自分の家に帰るんか?」 凍弥 「……ああ。そのつもりだ」 彰利 「そか。アタイは晦神社に行くわ。あそこは空気が濁ってないから落ち着ける」 凍弥 「そっか」 彰利 「…………まあ、しみったれた言葉を言うつもりはなかったが……お前は生きろ。     なにがあってもな。そんでもって、椛を幸せにしてやってくれ」 凍弥 「彰衛門……」 彰利 「いいか?俺はお前だからこそ椛を任せるんだ。     前世の頃から娘のように可愛がってきた椛だ、     泣かせるようなことはなるべくしてほしくない。     てゆうか、あの娘をからかって泣かせていいのは俺だけだ」 凍弥 「……お前って」 小僧が何か言おうとする。 が、俺はそれを許さなかった。 彰利 「───だから。お前が笑わせてやれ。     俺はいつ死ぬか解らんけど、お前は大丈夫だろうから」 凍弥 「彰衛門……でも俺は」 彰利 「泣き言なら聞かん。黙って頷け」 凍弥 「………」 俺の言葉に、小僧は黙って頷いた。 無茶なことを言っているのは解っちゃいる。 だが、誰の子でもない俺を、楓巫女は『おとうさん』と呼んでくれた。 『家族』として受け入れてくれた。 そんな娘を、もう二度と不幸にしたくない。 凍弥 「でもさ。消えちまう俺が、あいつを幸せにできるだろうか……」 彰利 「泣き言は聞かんと言った筈だが?」 凍弥 「泣き言なんかじゃない。どうしようもない現実じゃないか」 どう聞いても泣き言にしか聞こえんが。 彰利 「ふぁ〜……ったく、クソカスが……。     だったら予言してやる。お前の方は絶対に大丈夫だ。     もし予言がハズレでもしたら、俺は死んでやろう」 凍弥 「彰衛門……───って!     お前さっき自分で『いつか死ぬ』って言ってただろうが!」 彰利 「黙れこのタコ!他に賭けるモノがねぇんだからしょうがねぇでしょうが!     命賭けてなにが悪いのかね馬鹿!馬鹿が!馬鹿め!馬鹿め!!」 凍弥 「馬鹿馬鹿言うな!」 彰利 「カス!?」 凍弥 「それを言うなら篠瀬だけにしろ!」 彰利 「まあ!なんてヒドイ!言〜ってやろ〜言ってやろ〜♪     夜〜華さんに〜言ってやろ〜♪……きっと問答無用で切り刻まれますぜ?」 凍弥 「ぐっ……!!こ、この野郎……!」 彰利 「というわけで、密告されたくなかったら頷け」 凍弥 「妙な脅迫してんじゃねぇ!!」 彰利 「お黙りなさい!貴様は椛を幸せにすると頷けばいいのだ!」 凍弥 「くっ……!」 ……チィイ、なにを渋っておるのだこの馬鹿は……! 凍弥 「───無理だ!助かるって根拠もないのに、無責任に頷けるもんか!!」 彰利 「頷け!」 凍弥 「無理だって!解らないヤツだな!」 彰利 「なんだとてめぇ!俺は貴様より物分りがよいと全国で評判なんだぞコラ!」 凍弥 「言ってる言葉の意味が全く解らん!」 彰利 「なんと!解らんとな!」 ポム。 凍弥 「へ?」 彰利 「……馬鹿め」 小僧の肩に手を置き、しみじみと言ってやった。 凍弥 「くっ───クッハァーーーッ!!!」 結果、小僧が顔を真っ赤にして怒りだした。 これしきで冷静さを欠くなど……『光刀』だとか『剣聖』だとかの通り名が泣きますな。 彰利 「どうかね!悔しいかね!     悔しかったら『ぼくは死にましぇ〜〜ん!』と叫んでみぃ!ホレ!」 凍弥 「叫ぶかっ!」 彰利 「え?囁くの?」 凍弥 「囁かんっ!!」 彰利 「歌うのか!?」 凍弥 「歌わん!!」 彰利 「お、踊るのか!この変人!」 凍弥 「踊らん上にお前に変人呼ばわりされたくないわぁああっ!!!」 おお!小僧が激昂して迫ってくる! 彰利 「キャアア!近寄らないでよこの変人!変人ウィルスが伝染るでしょうが!」 凍弥 「なっ!なななあぁああああああっ!!!こ、このっ!!」 彰利 「むっ!?」 小僧の手がアタイの肩をガッと掴ビシィッ!! 凍弥 「いてっ!?」 掴まれた瞬間にその手を叩き払い、 その部分をハンケチーフで拭いて、それを道端に捨て、さらにその上に唾を吐いた。 彰利 「汚らしい手で触れないでもらえるかね!?     まったく、変人風情が……!身の程を知りたまえ!」 凍弥 「こっ……!この野郎ォーーーッ!!!! 小僧が拳を振るい、アタイに襲いかかる! が、アタイはそれをあっさりとかわした。 凍弥 「なっ!?く、くそ!」 彰利 「クォックォックォッ……大した覇気だがな、小僧。     アタイは明日を目指そうともしない馬鹿の攻撃なんぞ、くらってやらねぇのよ」 凍弥 「なっ───どういう意味だよ!」 彰利 「ハッ!これだから小僧は。純粋な心を呼び起こしてやっても結局諦めやがる。     よいかね小僧。今の貴様は未来に絶望して、     目の前の明日すら諦めてる馬鹿野郎だ。     知り合いとの会話にそこそこ話を合わせてるだけで、     その実……お前は前を見ちゃいない」 凍弥 「………っ」 彰利 「ん?どうした?なにか覚えのあることでもあったか?」 凍弥 「う、うるさい!彰衛門なんかには俺の気持ちは解らないんだよ!!」 彰利 「……へぇ?」 凍弥 「ようやく幸せになれると思ったらこんな状況で……!!     俺だってどうしたらいいのか解らないのに、     大丈夫だ、なんて気休め言われても頷けるわけないじゃないか!!     彰衛門になにが解るんだよ!!」 ……はぁ。 彰利 「いくら腐っても、そこまで言うヤツじゃないと思ったけどなぁ」 凍弥 「……なんだよ、なにかおかしいかよ」 彰利 「いーや、確かにそうだ。     お前の気持ちなんぞ俺には解らないし、知ったこっちゃない」 凍弥 「そうだ。彰衛門なんかに俺が歩んできた道の重さは」 彰利 「ただ俺はな、たかだか10と数年生きたクソガキごときに、     『彰衛門なんか』って言われるほど生易しい生き方しちゃいない」 凍弥 「───!あ……」 彰利 「心配した俺が馬鹿だった。消滅するまでその馬鹿背負って勝手に消えろ」 凍弥 「あ、彰衛門───!」 キヒィンッ! ───…………。 ───キヒィンッ!! 彰利 「……ふう」 小僧の言葉を完全に無視し、晦神社に降り立った。 ……ったく、嫌な気分にさせてくれるわい……仕返しか? 彰利 「ま、たまにはいい薬だろ。……もうあいつの心配なんぞしてやりませんが」 俺だって好きで死にまくって蘇りまくったわけじゃあねぇものねぇ? はぁ〜ンぁ、心がとってもダークネス。 せっかく晦神社に来たってのに、こんなんじゃハッスルできないじゃない。 それもこれもあのクソ小僧の所為だ。 そりゃあアタイだってからかいましたけどね? でもアレはアレですよ? アタイがアタイとして生きた時代を否定されたようなものですよ? 何度、『これを乗り越えられれば幸せになれる』って思ったことか。 何度、その思いを砕かれて血に染まった景色で目覚めたことか。 あいつの気持ちが俺には解らんように、俺の気持ちは誰にも解らない。 そこに唯一の例外さえもない。 こんな生き方をしたのは俺くらいだろうから。 彰利 「……やめよ。余計暗くなる」 溜め息を出せるだけ出す。 それはもうモシャファァアアと。 なんというか、こう……肺は限界まで絞られてるのに、 さらにホヒューホヒューと吐くような気分というかなんというか。 とにかくそんなノリで吐く。 そんでもって大いなる大地の恵たる酸素を一気に吸い込み───! 彰利 「オゲホッ!カゲホッ!ブホッ!ゴホッ!!」 ……思いっきり咳こんだ。 彰利 「ぶへっ!ぶはっ!……ハフゥ……よし。夜華さんでもからかいに行こう」 今この時代でアタイの心を癒してくれるのは、 メイさんと夜華さんと悠介くらいのものでしょう。 椛は……多分、小僧を連想しちまうからダメですじゃ。 もう小僧なんぞ知らん。 アンタ誰!?お前誰ヨーッ!?帰れこの馬鹿!といった感じです。 自分に腹が立つわ。 あげなヤツを自分に似てるだなんて思ったことに。 というわけで。 彰利 「夜華さーん!夜華さん居るーっ!?」 アタイはまず神社の境内の周辺を探すことにしました。 暗いことは忘れましょう。 いつかは死ぬってだけで、アタイは十分に生きました。 せっかくの掴み取れそうな、眩しいくらいの未来だったけど…… 助かる道がないなら、それもしょうがない。 そんな生き方、俺はもう馴れてるから─── ───……。 凍弥 「………」 自分を馬鹿だって思ったことなんて何回もあった。 初めてそう思ったのが、飛鳥を泣かせてしまった時だったのを覚えている。 けど、その飛鳥と出会えたのは誰のお蔭だっただろう。 誰が居たからこそ、俺は純粋な心を思い出せて、 その心を持ったままに転生できたのだろう。 凍弥 「……馬鹿、か。たしかにそうだな……」 言われたい放題で悔しかったって言ってしまえばそれで終わり。 子供みたいな感情が爆発して、決して言ってはいけないことを言ってしまった。 俺に強くある心を教えてくれたその人に、恩を仇で返すようなことをした。 凍弥 「……情けない。情けないな、本当に……」 なにが『俺のことは解らない』だ。 あの人が抱えている何十分の一の苦しみも想像出来ない俺が、何様だ……。 凍弥 「……でも、解らない。俺はどうしたらいい……?     口先だけで『幸せにする』だなんて頷いても、彰衛門に失礼だと思ったんだ……」 だから、頷けるわけがなかった。 心の中ですごい人だと理解している分、 自分の言い分が解ってもらえなかったのが悔しかった。 ただ、それだけだったのに。 凍弥 「……帰ろう」 答えを探すのはそれからでもいいよな……? 春になるにはまだ、時間があるのだから─── Next Menu back