───友情の行方───
───……小一時間経過。 覆面1「オラァ!車用意しろっつってんだよ!何度言わせりゃ気が済むんだ!     こっちにゃあ人質が居るんだぜぇ!?」 犯人は電話を使って警察とのやりとりを繰り広げている。 迷惑なことこの上ない。 覆面1「そう、そうだ……!さっさと用意しやがれ!     いいか、ヘタな真似したら人質を殺すぞ!」 がちゃんっ! 叩くように受話器が置かれる。 覆面2「焦るのはいけませんよ。ここは冷静に行きましょう」 覆面1「あ、ああ……そうだな」 ……ふむ。 見た感じでは、覆面2は落ちつきのある男のようだ。 もし交渉するのなら、こいつが良さそうだ。 覆面3「そ、そうだど。オラだぢこれで大金持ちなんだな。     困ることなんて、な、な、ないんだな……!」 覆面1「……フン。どーだかな。金があっても満たされねぇものだってあるだろうが」 覆面3「え……?な、なんなんだな?それっで……」 覆面1「それはなぁ……」 ジロリと、覆面1がこちらを見る。 ───いや、正確には我の後ろで震えている立待とやらを。 覆面1「うひひひひ……!それはなぁ……女だよ!」 覆面3「え?え?お、女の子をどうする気なんだな……?」 覆面1「馬鹿かてめぇ!俺達ゃもう犯罪者なんだぜ?     それならやりたいことやっちまえばいいだろうが。     たとえば……そこの女の体を……ひっひっひ!」 下品な笑みをしながら、覆面1が近づいてくる。 が、 覆面2「やめなさい」 それを、覆面2が制止する。 覆面1「あぁ!?ンだよ邪魔する気か!?今更なにやったってどうでもいいだろうが!」 覆面2「どうでもいいわけがないでしょう。その女の子の心に傷がつきます」 覆面1「ハッ!関係ないねぇ!お前今更なに善人ぶってやがんだ!?」 覆面2「あなた馬鹿でしょう。善人が銀行強盗などするわけがありません」 覆面1「バッ───馬鹿だと!?てめぇ!」 おお、仲間割れだ。 しかも覆面1が銃を構えて───タァン! ぬおっ!?本当に撃ちチュインッ!!! 覆面1「はっ……!?」 覆面2「冷静になるのですね。銃などじゃあわたしは殺せません」 覆面2は瞬間的に横に動き、髪を掠らせる程度で弾を避けた。 ……人間か、あいつ……。 覆面1「解んねぇ……!お前なにが狙いだ!?     俺はお前に誘われたから銀行強盗なんざしてるけどよ……!     こんなの俺達が居なくてもあんたひとりで出来たんじゃねぇのか……!?」 覆面2「どうでしょうかね。フフフ……」 覆面1「それに……俺は安全に金が欲しかったんだ!     本当なら金をたんまり持ってるってゆう蒼空院って家に行こうとしたのに!」 覆面2「馬鹿ですねぇ……。迷惑をかけるなら国にするべきでしょう。     一家の団欒を崩すようなことは許しませんよ」 覆面1「チッ……!掴み所のねぇ野郎だぜ……!」 ……確かに。 悪行をしている者にしては落ちつきすぎている。 あいつの目的は本当に銀行強盗なのだろうか……。 我にはまるで、楽しんでいるだけのようにしか見えぬ……。 ───……さらに3時間が経過。 覆面1「ああっ!イライラするぜ!なにしてやがんだサツの野郎!     見せしめにひとりふたり殺してやろうか!?」 ジャキ、と銃を構える覆面1。 その先には老人が居て、カタカタと震えていた。 浩介 「やめろ貴様!」 覆面1「あ……?」 耐えきれず、つい声を出してしまった。 だが後悔などしておらぬ! 覆面1「てめぇ……今なんて」 浩介 「やめろと言ったのだ!耳が悪いのか貴様!」 覆面1「ンだとコラァッ!!これが目に入らねぇのか!!」 離れたところから銃が向けられる。 正直、足が震えているが─── 浩介 「視力は両目とも1.5なのでな。バッチリ見えるわ!!」 覆面1「くっ───!じゃあてめぇだ!てめぇから殺してや───」 ゴリッ……。 覆面1「ヒッ……あ……!」 覆面2「落ち着け、と。言った筈だ」 覆面1の頭に、ライフルのような銃が突き付けられた。 おかげでそいつは震えあがり、言葉を無くす。 覆面1「す、すまねぇ……!」 覆面2「……次はないと思いなさい」 謝る覆面1に、覆面2はそう言った。 やがてその場を離れる2だったが─── 覆面1「次が無ェのは───てめぇの方だァッ!!」 その背中に向けて、覆面1が銃を乱射した。 けたたましい音が銀行内に響き渡り、我も、そしてその他の者も耳を塞いだ。 ───だが。 覆面2「───……」 覆面1「───!?───、───!!ッ───……!!」 耳を塞いでいる中、覆面2は弾を簡単に避け、覆面1の顔面を容赦なく蹴り上げた。 覆面1は虚空へ吹き飛ばされ、やがて床に沈む。 覆面2「そこで寝ていなさい。それ以上は望みません」 塞いだ耳を解放してみれば、そう言って溜め息をつく覆面2。 どうやら仲間割れもひと段落ついたらしい。 ……そのまま壊滅してくれたら、もっとありがたかったんだが。 覆面3「な、なななにするんだな、ひどいんだな……。     オデ達を爆弾魔の山崎兄弟だと知ってての行いなんだな……?」 覆面2「ええ、知ってますよ。そうでなければ連れてきたりはしませんでした」 覆面3「ど、どういうことなんだな?解らないんだな」 覆面2「どうでもいいでしょう。それより、貴方は兄のような愚行はしないように」 覆面3「………」 ───……。 ───……。 やれやれだ。 なんだってまあ、俺の周りのヤツってのは騒ぎに巻き込まれやすいんだか。 警官 「あ、キミ!ここから先は立ち入りが」 トンッ─── 警官 「かはっ───!?」 寄ってきた警官に当身を落として黙らせた。 そのまま立入禁止のロープを飛び越え、銀行のシャッターの前に立つ。 持ち上げようとしたが、どうやら完全に閉めきられているようで、 開けられるようなものじゃあなかった。 ───仕方ない。 そう呟いて、俺は拳を振った。 ───……。 覆面3「な、なんなんだな?外が騒がしいんだな……!」 確かに騒がしい。 微かだが『待ちなさい』だの『止まりなさい』だのと聞こえる。 覆面3……というかハゲデブアブラムシが怪しく思ったのか、 シャッターの前まで近寄った。 その刹那、シャッターは轟音とともに吹き飛ばされ、 ハゲデブアブラムシを巻き込んで銀行の壁に激突した。 浩介 「な、あ……!?」 開いた口が塞がらない。 馬鹿としか言いようのない顔のまま、我は破壊された先の外を見た。 そこには─── 男  「……誰だ。俺の家族を怖い目に合わせてる馬鹿野郎は」 ……どこかで見た誰かさんが居た。 浅美 「ゆ、悠介さまぁっ!!」 悠介 「浅美……『さま』はよせって言ってるだろう」 うむ、やはり一応は知っている者だ。 ……名前は頭に浮かばなかったが。 覆面2「戯言はそれまでにしていただきましょう」 浩介 「ぐは……」 ようやく帰れると思った矢先、覆面2がしゃしゃり出る。 銃はしっかり構えているから性質が悪い。 悠介 「ん?なんだお前。俺になにか用か?」 覆面2「見ての通り、只今この銀行は制圧中なのですがね。     邪魔されると困るのですよ。そこで黙っていて貰えますか」 悠介 「冗談だろ。どうして俺がお前なんぞの言うことを聞かなきゃならないんだ」 覆面2「わたしの目的には、今はあなたが邪魔なのです。どうしてくれるのですか。     あのように穴を開けられては、警察が入り放題だ」 悠介 「どちらにしろ俺には関係ない。俺は俺の家族を守れればそれでいい」 覆面2「家族?……つまりその女はあなたの姉か妹かなにかなわけですね?」 悠介 「血の繋がりはない。家に居れば俺にとっては家族だ」 覆面2「………」 男は構えた銃を逸らし、ソレを撃った。 弾丸は中に入ろうとしていた警察官の足下の床を削る。 覆面2「───質問をしましょう。     何故わたしがこのふたりを連れて銀行強盗などをやったと思います?」 悠介 「知ったことじゃない。が……わざわざ俺にそれを訊く理由はなんだ?」 覆面2「このふたりは『蒼空院』という苗字の家を襲う気でいました。     貴方はそれをどう思う」 悠介 「なに……?」 悠介さまと呼ばれた男は、倒れている覆面1の覆面を剥ぎ取った。 剥き出しにされた顔には見覚えがあった。 悠介 「……脱獄したってゆう爆弾魔か。確か、山崎兄弟っていったっけ」 覆面2「そう。ワイルドハーフもびっくりでしょう。     まあそのようなことはどうでもいいのです」 悠介 「つまり……お前は、爆弾魔を捕まえるために誘ったって……それだけなのか?」 覆面2「他になにが?わたしはわたしのシナリオでふたりを捕らえたかったのですがね。     貴方の所為でそれも台無しだ。どうしてくれるのですか」 覆面2は覆面を取って見せ、少々苛立ったような顔で悠介さまとやらを睨んだ。 悠介 「……ワイルドハーフ、なんて言うから……てっきり彰利かと思ったんだが」 その顔は苛立っているにも関わらず、どこか美形を感じさせる端整な顔立ちだった。 男  「あきとし?誰だか知らないが、勝手に人のことを決めつけるのはよくないな」 ……むう、覆面を取った途端、口調まで変わっている。 もしや『なりきる人』なのか? 逸材だ。 とかなんとか思っていると男は肩を竦め、出入り口に向かった。 悠介 「おい……?」 男  「茶番はここまでだ。わたしは役割を果たしたから帰らせてもらう。     どのみち、あのふたりが捕まるならわたしにも文句は無い」 そう言う男は肩越しに手を軽く挙げ、やがて去りツキューーン!! 男  「おわぁーーーっ!!」 外の警官に発砲された。 弾丸は頬を掠め、その勢いとともに顔の皮まで─── 浩介 「って、うおお!?」 ドチャッ、と男の顔から剥がれた皮が、目の前の床に落ちた。 男  「な、なにしやがるこのトーヘンボク!!殺す気かね!ええ!?」 悠介 「……オイ、こら」 男  「え?な、なにかね。茶番は終わりだと言っただろう」 悠介 「……変装ならもうバレてるぞ」 男  「変装?なんのことだ」 悠介 「───手鏡が出ます」 悠介サマは何もないところから手鏡を出し、それを男に突き付けた。 その途端。男は汗をダラダラと流したのち……『テヘッ♪』と誤魔化して見せた。 悠介 「彰利よ……こんな手の込んだ騒動起こしたからには、     覚悟は出来てるんだよなぁ?」 彰利 「あ、あきとし?知らん!     俺の名は平和を愛する日系アメリカンスパイ警察官、     その名も『南国指令スパイ&スパイ』だ!!S&Sと呼べ!!」 悠介 「どんな名前だっ!お前ちょっとこっちこい!!」 S&S「な、なにぃ!?お、俺はまだ調査の続きがあって!は、離したまえ!     アタイはただ蒼空院邸の危機を守りたくて!     いやっ!やめっ───キャーーーアアアアアアア!!!!」 その場に雷鳴が轟いた。 警察官も人質のみなさまもポカンとするだけだったが、 スパイ&スパイが『映画のロケじゃよー!』と言ったために纏まりがついた。 いろいろと説教もされるわなにわで大変だったが、 最後に警察官に訊かれた『なんて名前の映画なんだ』という質問に、彼は答えた。 S&S「真・貴公子とカス」 ───後に、突然人が変わったように叫んだ立待とやらに散々斬り刻まれ、彼は絶叫。 銃刀法違反の問題もあり、再び長々と説教されるのだった。 ───……。 浩介 「という体験をしたのだ」 凍弥 「って言われてもな」 朝、目が覚めると同時に貴重体験を熱弁された。 まったく朝っぱらからくだらないことで早起きして、 くだらないことを訊かせるために人の部屋に侵入すんじゃねぇって……。 凍弥 「……あのね、俺は眠たいんだ。抗いようのない理不尽な停学延期をくらって、     腐る以外にとくに方法がなかった俺の睡眠時間、どうしてくれるんだ」 浩介 「そう言うな、我とて同じことだ」 凍弥 「お前はなにか?腐ると人の睡眠時間を邪魔するのか?」 浩介 「そうは言ってないが……ああ、説明が面倒だな、それでいい」 凍弥 「いいのかよっ!」 浩介 「ああ、かまわんが。どうせ我も自宅謹慎を無視して出てきた。     長い休みが増えたということで、どうとでもなるだろう」 凍弥 「気楽でいいな、お前って」 このままじゃ3年への繰り上げも怖い気もするが。 そもそも、俺達に『卒業』という言葉は舞い降りるのだろうか。 ……いまから想像も出来ない。 凍弥 「でも……」 うん。 浩介 「どうした同志」 凍弥 「いや……みんなと馬鹿し合えるのも卒業するまでかな、ってさ」 浩介 「……同志でも、そう思うのだな。     てっきり平然と笑って『仕方ない』とか言うと思ったが」 凍弥 「どういうつもりでそういうこと言うのかは知らんが……ああ。     俺だって人並みに考えるさ。……まあ、ろくな考えじゃないことばっかだが」 浩介 「よく解らんが、要領が悪いんだな」 凍弥 「……自覚があるだけに反論できないのが悲しいな」 浩介 「そうか。それは面白い。同志に会話で勝てるとは」 凍弥 「会話は勝ち負けの問題じゃないと思うんだけどなぁ」 浩介 「なに、気にするな。我は貴様とは腹を割って話がしたい。     戯言も一興ならば、そのような戯れも一興というものだろう」 凍弥 「……お前さ、最近喋り方が昔の人っぽくなってきてやしないか?」 どうにも違和感が感じられるようになってきたんだが……。 浩介 「そうか?まあ気にするな。最近妙な夢を見てな」 凍弥 「夢?どんな」 浩介 「ああ。我が江戸時代───いや、平安時代あたりの景色に立っていてな。     盟友のために無茶をして死ぬ夢だ」 凍弥 「───……」 それは───いや。 それに、俺はどう返事をしたらよかったんだろう。 ただの夢だと笑えばいいのか。 それとも、すまないと言えばよかったのか。 俺が立てた無茶な計画、そして信用に至らなかった者を迎え入れたために起きた悲劇。 火道平良と平丸は、俺が殺してしまったと言ってもよかったのではないだろうか。 俺は…… 浩介 「……その夢のおかげかどうかは知らんがな。     我はもうひとりの自分に会えた気がした。     もしあれが過去に起きた真実で、     我が火道という者の生まれ変わりならば……───同志。     我は貴様に出会えたことを、心から嬉しく思う。     そして……貴様はあのあと、救いたかった少女を救うことが出来たのか。     我は貴様の役に立つことができたのか。……盟約は果たせたのか。     ただ、それだけを訊ねたい」 凍弥 「浩介……」 浩介 「くだらん戯言だ。適当にでも返してくれると嬉しい」 凍弥 「………」 くだらない戯言。 ああ、確かにくだらないのかもしれない。 だって俺達はここにこうして別の人間として立っていて。 今、前世ってゆう過去を引っ張りながら生きている。 今は今、過去は過去。 過ぎたことを気にしていても前には進めないけれど、 未来を夢見ることで救われることがあるように、過去に救われることだってある。 そしてきっと、俺は…… 凍弥 「……平良。私はずっと悔いていた。     私怨にお前を巻き込んで死なせてしまったことを。     だが……謝りたくてここに居るわけではないんだ。     私は私の思いを貫いて、その果てにこの状況がある。     この時代はあまりに自由で、あまりに平和だ。     私達が産まれ育った頃では想像が出来なかった時代だ」 ───きっと、俺達は。 凍弥 「そんな、あの頃の私達から見れば『最果てだ』と言えるくらいに離れた時の中、     私達は再び出会い、盟友となった。     する後悔など要らず、私達は『笑うこと』を知った。     信じられるか、あの頃は笑うことすら許されないくらいに荒んだ国が、     時の流れとともにそれを許してくれた。     ……私はただ感謝したい。恨むことも憎むこともなく、ただお前に、平丸に。     取り返しがつかないくらいに時が流れてしまったが、     それでも許されるなら……いつか、もう一度お前達と杯を交わしたかった」 競い合うように生きて、頼る宛ても無く足掻いてきた。 いつだって目の前には絶望だけがあった。 それは生易しいものじゃなく、 村を焼かれ、孤独になった者がひとりで生きていくという、 鋭い『現実』と隣り合わせに歩み進む未来だった。 俺はそんな時から『世界が平等じゃない』ことを知っていて。 傍に楓巫女居てくれたら、と何度思ったか。 浮浪者同然だった俺は彰衛門に会ったことで変われた。 強くなれた。 強くあろうと頑張ることが出来た。 彰衛門と楓巫女が居たから。 けどそのふたりもいつしか自分の周りから消えてしまって。 それでも俺は頑張れた。 それは……荒んだ心を持っていた俺にも、友と呼べる存在があったから。 だからあの頃言えなかったことを、今。 長い長い時間を経て、伝えよう。 親に愛されることも知らずに育った俺達が、こうして出会えたことを。 他のやつらと馴れ合うには心に余裕がなくて、 ふと出会って、喧嘩から始まった『トモダチ』って関係への感謝を。 いつかこの関係が終わる時が来たとしても、 いつかばったり会った時に笑える自分で居られるように。 何も知らずに馬鹿ばっかりやってきて、くだらないお節介を焼いて。 お互い鬱陶しいと思ったこともあった。 自分に似ているところを見つけると、なんだか悔しくて怒鳴り合った。 だけど次の瞬間には笑い合っていて……。 それがいつしか自然になっていて……。 俺達は、いつまでも笑い合っていられることに、なんの疑問も抱かなくなっていた。 友情が折れても、また築けばいいって言って、屋上で笑い合った。 悲しい時は泣いてもいいって知っていたのに、集まると決まって笑っていた。 凍弥 「……私は、お前と出会うことができて良かった。     荒んでいた私を友と呼んでくれたことは、私にとっての『救い』だった」 ───きっと誰にだってある、友達との思い出。 いいことばかりが幸せじゃないってことを知る過程で、 いったい自分達は何度傷つけ、傷つくのだろう。 幼い日に俺達は出会って、この『今』に辿り着くまでに散々馬鹿をした。 笑い合って、傷つけあって……けど、やっぱり笑って。 冗談を受けとめられる余裕が出来た時、俺達は兄弟みたいに馬鹿をして生きてきた。 一緒に、いつまでも。 やがてこの瞬間が訪れた時、俺はこいつにどんな言葉を贈るつもりだったんだろう。 ───ありがとう、だけじゃ足りなくて。 ごめんなさい、は違う気がして。 ───だから。 ……だから、俺達は笑い合った。 意味も無く、ただ笑い合った。 子供から大人に変わっていく過程で、俺達は何人もの人と擦れ違う。 その中で、一体どれくらいの人達が自分の歩幅に合わせてくれるんだろう。 どれくらいの人が、悪意の無い言葉に傷ついて、足早になっていくのだろう。 いったい、どれだけ。 ……けど、たとえ全ての人が自分に見向きもしなくなって、 ひとりぼっちに馴れてしまっても…… 浩介 「……ありがとう。その言葉で、救われた……」 誰かが。 心を許せる誰かが立ち止ってくれて、笑いかけてくれたら。 俺はきっと、救われるのだろう。 いつか大人になってもそいつは隣に居て。 周りの全てが変わってしまう中で、そいつとはいつまでも馬鹿をやっていたかった。 そしていつか感謝する。 誰に向かってでもなく、ただ感謝を。 もしいつか、馬鹿をできなくなる時が来ても。 そいつと自分はいつまでも馬鹿のままなんだろう、って。 フラフラになりながら出会っても、またいつかのように笑い合えるんだろう、って。 だから思う。 もし自分が感謝するとしたら。 誰かのおかげで変わってこれた俺が、感謝するとしたなら。 こんな歴史を作ってくれた偶然に感謝したかった。 凍弥 「……ああ」 だから確信する。 こいつらだから、胸を張れる。 俺はきっと、自分が消滅してしまうまで。 こいつらとは馬鹿でいられるんだって。 馬鹿をして、笑い合っていられるんだ、って─── Next Menu back