───友よ。時を経て……───
………………。 凍弥 「……で?これはどういう状況なんだ?」 目覚めれば、俺は俺だった。 いや、まあ気にすんな。 凍弥 「……フム」 手をワキワキと動かしてみる。 ……うん、手だなぁ。 凍弥 「…………ふむ」 周りを見渡してみると、そこは約束の空き教室。 で、俺は閏璃凍弥だ。 よろしく。 俺は手を伸ばして握手(アクセス)を求めた。 その手が、掴まれる。 凍弥 「……マテ。意識が追いつかんぞ」 思考はフル回転してるが、何故にこんなことになったのかがまるで謎だ。 声  「……で。休みの日の学校でお前は何やっとるんだ」 凍弥 「へ?」 思考回転に集中していた頭を持ち上げ、握られた手の先を見てみる。 ……そういや、なにかを握ってたよな。 つ……と、視線を持ち上げてみると、そこに居るのは謎のおっさん。 凍弥 「……誰?」 男  「寝惚けてるか?」 凍弥 「いや、俺は正常だ。だからおかしいのはお前だろう」 男  「……いきなり失礼だな」 凍弥 「無礼なんだ」 男  「同じだ」 そうかもしれない。 凍弥 「で、誰?」 男  「……寝惚けて、いるな?」 凍弥 「寝惚けてるのはお前だ」 男  「これでも目上なんだが……ああまあ、権力みたいに振る舞うのは嫌いだが、     もうちょっと口には気をつけてくれないか」 凍弥 「……断る、と言ったら?」 男  「停学」 凍弥 「無茶苦茶権力の鬼じゃねぇか……」 男  「はぁ……」 男はなにやら疲れた顔で溜め息を吐いた。 男  「随分休んでたな。もう体はいいのか?」 凍弥 「すまん、知らないオジサンとは話すなと言われて育ったんだ。     だから気安く話し掛けないでくれ」 男  「……礼儀を知れとは言わなかったのか、お前は……」 凍弥 「知らないオジサンに対して礼儀が必要だと思うか?」 男  「必要に決まってるだろうが……」 そうかも。 だが……いやしかし、そんな馬鹿な……まさか……!? 凍弥 「ま、まさか貴様……柿崎か!?」 柿崎 「他に誰が居るんだ……お前の目は節穴か?」 凍弥 「はっはっは、そんなの鏡見てから言えよ」 柿崎 「……お前、誰だ」 凍弥 「お前こそ誰だ」 柿崎 「柿崎だ。柿崎稔。……ほら、名前が聞けて満足か?」 凍弥 「不満だ」 柿崎 「どうしろって言うんだお前はっ!!」 凍弥 「唾を飛ばすな、老ける」 柿崎 「どういう唾なんだよ俺の唾は!」 ……おお、この感じ……間違いない、柿崎だ。 凍弥 「嬉しいぞ柿崎……。お前はなんにも変わっちゃいなかった……。     顔も、声も、ハゲなところも」 柿崎 「誰がハゲだ!!……って、なんのことだ?それにお前、ヘンだぞ?     ……もしかして、闘病生活の中で凍弥ウイルスにでも侵されたか?」 凍弥 「……ふむ」 ま、いいだろ。 俺にも今の状況は解らんし。 凍弥 「えーと、耳の穴をかっぽじってよく聞けよ、柿崎」 柿崎 「なんだ……って、あのな、だから目上の人にはだな……」 凍弥 「俺、今は閏璃凍弥だ」 柿崎 「……………………なに?」 説明したが、柿崎は耳を疑うようにして困惑した。 凍弥 「お前は……耳の穴に不発弾でも詰まってるのか?」 柿崎 「耳千切れて死ぬわっ!!」 凍弥 「だったらちゃんと聞け。     体は霧波川凍弥のものだが、今の俺は閏璃凍弥だって言ってるんだ」 柿崎 「…………あのな、人をからかうのは」 凍弥 「信じないってゆうなら、俺とお前の出会いの頃の出来事をポスターにして、     学校の掲示板に貼りつけてもいいが」 柿崎 「お前との出会い?馬鹿を言うな、ただ入学式で会った程度だろう」 凍弥 「そう、あれはまだ貴様が今と変わらぬ顔のヤングメンの時だった」 柿崎 「どんなヤングメンだ!!」 凍弥 「今の顔と変わらぬヤングメン」 柿崎 「言い直しても怖いわっ!!」 凍弥 「老け顔だったんだ」 柿崎 「程度を知れ!程度を!!」 うがー!と怒る柿崎。 ああ、やっぱり変わってない。 どれだけ時が流れても、俺達は馬鹿なままだった。 そして今の柿崎の言葉が、今の柿崎が老け顔であることを知らしめていた。 凍弥 「変わらないな、お前も」 柿崎 「だから、なんのことだ」 凍弥 「───俺とお前が初めて会ったのは学校の教室だった。     面識が出来たのは、って言ったほうがいいか」 柿崎 「……?」 突然語る俺を見て、柿崎は首を捻った。 俺は気にせず語る。 凍弥 「初めて会った時の柿崎は首が1メートルはあり、     背中からは骨だけの翼が生えてたな。     そしていつも、唾液で床を溶かしてたっけ……」 柿崎 「どこのバケモノだよそれは!」 凍弥 「常時、鼻血を滝のように流してたな」 柿崎 「1日も経たずに死ぬわ!!」 凍弥 「痛快だったぞ」 柿崎 「さも事実であったかのように言うな!」 凍弥 「俺も驚いた。あんな生物が地球上に存在するだなんてな……」 柿崎 「驚くな!!」 凍弥 「立派な人間に進化したな、柿崎……」 柿崎 「お前は……!どうあっても俺をバケモノにしたいらしいな……!」 凍弥 「え?違うの?」 柿崎 「違うわぁっ!!」 ぜーはーぜーはーと肩で息をする柿崎。 ……うむ、やはりこいつほどからかって面白いヤツは居なかった。 でも……久しぶりに鷹志にも会いたいもんだな。 そしてまた、三人で馬鹿やって…… 凍弥 「………」 ふと、懐かしい気分に浸った。 思い出すのは、ただあの頃のことだけ。 俺と鷹志と柿崎と、来流美と由未絵とで過ごした季節を。 柿崎 「ったく……!解ったよ、認める。お前は間違い無く凍弥だ」 凍弥 「お前に認められたってなぁ〜……」 柿崎 「どぉしろっつぅんだよお前はぁっ!!」 凍弥 「窓ガラスブチ破って大地に降り立って、     『俺は天才だぁーーーっ!!』と叫んでくれ」 柿崎 「その行為になんの意味があるんだっ!!」 凍弥 「教員生徒間でお前が変態野郎だという真実が明かされる」 柿崎 「いやな真実だなこの野郎……!!」 凍弥 「俺も今知った」 柿崎 「真実じゃないだろうが!!」 凍弥 「真実だ」 柿崎 「どこからそんな自信が溢れてくるんだよ……!!」 凍弥 「言わば……お前から滲み出るカリスマからだな」 柿崎 「そ、そうか?俺ってそんなにカリスマを感じるか?」 凍弥 「ああ。異臭とともに鉄板をも溶かす唾液も流れてるし、悪寒も感じる」 柿崎 「って、それって結局は変態の系のカリスマってことじゃねぇか!」 凍弥 「自信持てよ」 柿崎 「持ちたくもないわっ!!」 凍弥 「お前さ、そんなに叫んで疲れない?」 柿崎 「叫ばせてるのはどこの誰だよっ!!」 凍弥 「マサイ族のトローリェモーカスさんだ」 柿崎 「誰だよ!」 凍弥 「マサイ族のトローリェモーカスさんだ」 柿崎 「言い直せなんて言ってねぇ!」 凍弥 「お前の生き別れの兄だ」 柿崎 「勝手に人の家計図書き換えるような発言すんなぁーーーっ!!」 おお、キレた。 凍弥 「落ちつけ柿崎。今回ばっかりは俺が悪かった」 柿崎 「それって毎回のように俺が悪いって聞こえるんだが……」 凍弥 「自覚無いのか?」 柿崎 「あってたまるかぁっ!!!」 凍弥 「柿崎……俺はさ、それくらいは自信持っていいと思うぞ……」 柿崎 「ほっ───他になんの取り得もないみたいに言うなぁーーーっ!!」 ああ、ダメだこいつ。 教師の自覚も大人としての自覚も無いや……。 凍弥 「柿崎よ……みんながお前を見捨てても、俺だけはお前の友達だからな……」 柿崎 「なぁ……グーで殴っていいか……?」 凍弥 「よしいいぞ、こい。暴行罪で退職してもらうから」 柿崎 「鬼だなお前!!思いっきり見捨てた行為じゃねぇか!!」 凍弥 「……とまあ、冗談はさておき」 柿崎 「お前さ……相変わらずすぎてモノも言えねぇよ……」 凍弥 「ああ。お前も変わってないみたいで嬉しかった。     けど、こんな簡単に俺が俺だって信じてもらえるとは思わなかった」 不安だったことは確かだ。 自分が丘で街を見守る中、その景色の全ては変わっていってしまうんじゃないかと。 事実、街はもういろいろと変わってしまった。 昔見た景色の面影はどんどんと削られていき、知らない場所が増えたんだ。 だから。 それはきっと、人もそうなんじゃないかって思った。 柿崎 「……あのな。お前のその性格のヤツが他にも居たら、俺はそいつを殴ってる。     俺にタメ口きいて、からかわれても許せるのはお前と鷹志くらいなもんだ。     それに……この学校には常識より非常識が多いからな、馴れちまった。     人間じゃないってことは、ちょっとしたことなんだって思えるんだ」 凍弥 「そうだよな……お前も似たようなもんだしな……」 柿崎 「それ、俺がバケモノみたいに聞こえるんだが」 凍弥 「あれ……そう聞こえなかったか?」 柿崎 「バッチリ聞こえたわっ!!」 再び激怒。 やっぱり柿崎は何年経っても柿崎だ。 凍弥 「……なんか、安心した。やっぱり良かったよ、またお前に会えて」 柿崎 「おーおー、俺ゃ不幸だったよ」 凍弥 「なに、お前って親不幸だったの?ダメだぞ、そんなんじゃ。     お前に唯一やさしくしてくれる人たちなんだから」 柿崎 「『俺ゃ不幸』って言ったんだよ!年中無休の孤独野郎みたいに言うな!!」 凍弥 「ごめん……そういや気にしてたんだよな……」 柿崎 「認めるみたいに言うなぁーーーっ!!」 凍弥 「どうしろっていうんだ」 柿崎 「どうもするな!こっちが疲れるわ!」 先ほどよりもゼハー!ゼハー!と肩で息をする柿崎。 愉快なヤツだ。 凍弥 「……ところで友よ。鷹志は今なにやってるんだ?旅館経営か?」 柿崎 「……お前って物凄くマイペースな……。振り回される俺の身にもなってくれ」 凍弥 「お前の身になんかなったら、一生独身になるだろうが」 柿崎 「それって俺が一生結婚出来ないってことかねぇっ!!」 凍弥 「だってまだ独身じゃん」(独断偏見) 柿崎 「お前だってそうだろうが!!」 凍弥 「高校時代に由未絵が亡くなって、俺は由未絵しか愛してなくて。     そんな俺が結婚するわけなかろうが。したくても出来ないお前と一緒にするな」 柿崎 「椅子で脳漿ブチ蒔けるまで殴っていいか?」 凍弥 「ヤメろ、意識は俺だが体は来流美の孫だ。     お前が殺したとあっちゃあ、今度はお前が殺される」 柿崎 「……………」 柿崎がなにやら考え込む。 ……やがて、小さく震えた。 おそらく、思考の中で来流美に惨殺されているんだろう。 凍弥 「泣くなよ友よ」 柿崎 「泣くかっ!!」 凍弥 「こんな時くらい泣けよ……。     その無様な姿を、俺の心のファインダーに焼き付けておくから」 柿崎 「容赦ないねお前!!」 そうだろうか。 まあいいが。 凍弥 「で、友よ。お前さ、この休みの日になんの用があって学校に来てるんだ?」 柿崎 「ああ、それはな」 凍弥 「もしやお前、学校に残された女生徒の体操着でも漁りに来たんじゃ」 柿崎 「どこの変態だよ俺!」 凍弥 「俺の目の前に居る変態だが」 柿崎 「やっぱ殴るぞ?」 凍弥 「その殴られた顔で職員室か警察に駆け込むが」 柿崎 「この悪魔め!」 凍弥 「黙れ鍋奉行が!」 柿崎 「鍋奉行!?なんで!?」 凍弥 「いや、言ってみたかっただけだが」 柿崎 「………」 おお、呆れてる呆れてる。 柿崎 「……あのな。俺は今日、学校の宿直なんだよ。     他は用務員の長井が居るくらいだ」 凍弥 「……そうか。じゃあ暇なんだな?」 柿崎 「お前、教員の仕事ナメとるだろ……」 凍弥 「正直ナメとる」 柿崎 「……はぁ〜」 思いきり溜め息を吐かれてしまった。 正直に話したのに。 凍弥 「なぁ、電話はあるか?」 柿崎 「あるが……なにに使う気だ?」 凍弥 「いや、鷹志にでも電話をしてみようかと」 柿崎 「……やめとけ。死んだやつから電話がきたらゾッとする……」 凍弥 「それが面白いんじゃないか」 柿崎 「………………それもそうかもしれん。よし、やるか!」 柿崎が仲間に加わった! そしてこいつには教師としての自覚が無いのかもしれん。 結局は悪戯電話なわけだし。 ジーコロジーコロジー……ルルルルル……がちゃっ。 声  『はい、橘旅館でございます』 凍弥 「わ、た、し、だ」 ちゃっちゃっちゃっちゃ〜〜〜ん……♪ 声  『加トちゃんケンちゃん!?』 ……いきなり鷹志に当たったようだ。 声  『ああ、違う違う……。えーと……なんのご用でしょうか』 凍弥 「ああ鷹志か、俺、俺、柿崎」(声:柿崎風) 声  『柿崎?ははっ、なんだ、久しぶりだな〜』 凍弥 「………」(───イエス!) キッチリ騙されてくれた。 自慢じゃないが、柿崎の声真似には自信がある。 声  『どうしたんだ?俺に電話なんて』 凍弥 「実はとうとう失恋回数が100回を超越してな」 声  『ぶはっ!?ひゃっ、ひゃく───!?』 凍弥 「だからさ、もう女には飽き飽きだ。……言ってる意味、解るか?」 声  『意味って……』 凍弥 「鷹志……好きだ」 声  『───………………はいっ!?』 凍弥 「ずっと前から好きでした……」 声  『……絶縁していいか?』 凍弥 「そしたら爪と髪の毛を封筒に詰めて送るが」 声  『怖ェエよ!!お前どうかしてるんじゃねぇか!?』 凍弥 「お前への愛に目覚めただけだ。     というわけでこれからお前への愛をポエムにして謳おうかと思」 柿崎 「なにやってんだてめぇーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」 めごきゃぁああああああっ!!! 凍弥 「ごほぇあぁああああああっ!!!??」 便所から戻ってきた柿崎が、俺の頬に助走付きのヤクザキックをキメた。 その勢いは凄まじく、俺は道路に転がるスーパーの袋の如く転がった。 柿崎 「た、鷹志かっ!?今のは俺じゃなくてだなっ!!」 声  『すまん柿崎……俺、もう家族が居るしさ……。     だからお前の気持ちには応えられない……。     あ、いや、お前にどんな嗜好があったって、俺達は友達だからな?はは……』 柿崎 「普通にフってんじゃねぇーーーっ!!俺じゃねぇって言ってんじゃあーっ!!」 凍弥 「照れるなよ柿崎。俺が証人だ」 柿崎 「実行犯の間違いだろうが!!」 柿崎の蹴りを避け、俺は笑って見せた。 凍弥 「安心しろ、俺もお前が変態でも友達だから」 柿崎 「大きなお世話だよ!黙ってろ!」 声  『ん……?そこに誰か居るのか?』 柿崎 「え?あ、ああ……そいつがさっきお前に」 凍弥 「うっ……うっ……た、助けてください……!     先生が突然、わたしを教室に閉じ込めて……!」(声:女生徒風) 声  『柿崎……お前……』 柿崎 「ぐはぁーーーっ!!違う違う!!断じて否!!今ここに居るのは凍弥だよ!!」 声  『凍弥?……ああ、霧波川の孫のか?』 柿崎 「違うっ!!閏璃凍弥!あの馬鹿だっ!」 凍弥 「ひどいです先生っ!     わたしにあんなことをしておいて、言い訳するなんて!」(声:女生徒風) 声  『…………ええと、警察って110番だっけ』 柿崎 「え?あ、そうだな───って、待てぇーーーっ!!!」 柿崎、凄まじく鬼気迫る表情で絶叫。 柿崎 「凍弥!頼むから黙っててくれ!」 凍弥 「すまん、口があるのに喋らないのはもったいないと思うから断る」 柿崎 「お前俺を破滅させる気か!?」 凍弥 「お前はなにか?俺が喋ると自分が破滅するとでも思ってるのか?」 柿崎 「現に凄まじい誤解されとるわぁっ!!     警察呼ばれそうになってる時点で十分だろうが!」 凍弥 「大丈夫だ。警察が来たらお前が捕まるようにバックアップするから」 柿崎 「バックアップって言わねぇよそれは!!」 おお、顔を真っ赤にして叫んでる。 すげぇ……さすが柿崎だ!(?) 声  『……んでさ。結局なんの用なんだ?     まさか本気で告白したかったわけじゃないんだろ?』 柿崎 「告白なんかしとらんっ!!……あのな、よく聞けよ鷹志。     さっきも言った通り、今ここに閏璃凍弥が居る。     霧波川凍弥に憑依してまで俺に嫌がらせしに来たんだよ……」 声  『白昼夢か。さすがだ柿崎』 柿崎 「どうしてお前も凍弥も妙なところで現実派なんだよ!」 声  『俺はお前に告白されたことを夢にしたいが』 柿崎 「誤解だっつっとろーが!!ちゃんと聞いてろ!!」 声  『お前の声、大きいから塞いだって聞こえるよ……』 柿崎 「……じゃあ納得したな?」 声  『いや、言ってるのがお前って時点で真面目に聞いてない』 柿崎 「旅館燃やしますよ!?」 声  『ここに来る電話は全部録音されてるぞ。確実的な証拠になる。     教員生活に終止符を打ちたいってゆうなら止めないが』 柿崎 「………」 あ、泣いた。 俺はそんな柿崎の背にポンと手を当て、言った。 凍弥 「なんてゆうかお前……柿崎だなぁ」 柿崎 「どういう意味じゃあっ!!」 深い意味はないが、怒鳴られてしまった。 凍弥 「よかったじゃないか柿崎。     これで誰が旅館を燃やそうが従業員の不手際で燃えようがお前の所為になるぞ」 柿崎 「どこらへんに『よかった』って要素があるんだよ!!」 凍弥 「……お前が教員生活に終止符を打つところとか?」 柿崎 「ちっともよくねぇってそれ!」 凍弥 「お前はそこから第二の人生を送るんだ。     刑務所から出てきたお前はひとりの女性に会い、     彼女が落としたハンカチを拾おうと屈んだところに、     彼女の熱いシャイニングウィザードを食らうんだ」 柿崎 「救いの無い第二の人生だなオイ……」 凍弥 「悪い。お前の幸せな人生って想像出来ねぇや」 柿崎 「お前って死んでも限りなく失礼だよな」 凍弥 「いやぁ照れるな」 柿崎 「誉めてねぇって!!」 凍弥 「でも安心しろ。     お前が女性に100回フラレたホモでもバケモノでも刑務所出の男でも、     俺はお前の友達だからな」 柿崎 「それ全部お前が捏造した言い掛かりだろうが!!」 凍弥 「照れるなよ、事実だろ?」 柿崎 「どこがじゃあっ!!」 凍弥 「妙だ……前までの柿崎なら、あっさりと頷いたのに」 柿崎 「頷くかっ!!」 凍弥 「……成長したな柿崎……。前はあんなに老けてたのに」 柿崎 「訳解らんわっ!今よりもっと老けてる以前の俺って何者だよ!!」 凍弥 「……ペキン原人?」 柿崎 「ペキン!?って、何年前のこと思い浮かべてんだよお前は!!」 凍弥 「柿崎との出会い……それはもう、数百年も前のことだった……」 柿崎 「お前の中じゃあ俺いま何歳なんだよ!」 凍弥 「それはプレイバシー保護のために詳しくは言えないが……     今のお前の歳を敢えて言うなら、原子時代を魁たくらいの年齢だろうな」 柿崎 「既に歴史と化してるじゃねぇか!」 凍弥 「生存競争に打ち勝ったんだ。だから生きてる。俺の目の前で」 柿崎 「生存競争に打ち勝ったって寿命があるだろうが!」 凍弥 「実はクローン人間だったんだ」 柿崎 「随分技術の進んだ原子時代だなオイ……!!」 柿崎が受話器を手にしながら力を溜めている。 多分、電話をしていたことさえ忘れているだろう。 声  『おーい、盛りあがってるところ悪いんだがさぁ』 凍弥 「ああ」 柿崎の手から受話器を引っ手繰り、応対する。 声  『……お前、凍弥だよな?』 凍弥 「いかにも凍弥だ。かつて、貴様の黄金を打った男だが」 声  『余計なこと言うなっ!!』 凍弥 「今のもバッチリ録音されたか?」 声  『……いや、なんかもう疑うのも馬鹿馬鹿しいほどに凍弥だな、うん……』 妙に納得されてしまった。 声  『お前、成仏してなかったのな』 凍弥 「いきなりヒドイ言い草だな」 柿崎 「お前の方がよっぽどヒドイと思うぞ、俺は」 凍弥 「そう言うなよ、お前が本当に柿崎かどうか確かめたかったんだ。     俺の記憶の中の柿崎は、毎日唾液で床を溶かしてたから」 柿崎 「怖いわっ!!お前どんな目で俺を見てたんだよ!!」 凍弥 「いや、お前を人間だと思ってたことは謝る」 柿崎 「待て!お前、謝る場所を確実に間違ってる!!」 凍弥 「ところでさー鷹志ー、最近どうなんだ〜?」 柿崎 「いきなり無視すんなぁーーーっ!!!」 凍弥 「お前さ、そんな怒鳴ってて疲れない?」 柿崎 「それはさっきも聞いたわっ!!」 横でギャーギャー叫ぶ柿崎を無視して、鷹志と話す。 凍弥 「しかしさ、死んだ友と話せるっていうのに、感動もなにもないんだな」 声  『そりゃな、いきなりからかわれて怒声ばっかり聞いてたら、感動はないだろう』 凍弥 「みろ、お前が叫んでばっかりな所為で、感動の場面が台無しじゃないか」 柿崎 「俺の所為なのかねぇっ!!」 クワッ!と怒る柿崎。 だが無視。 凍弥 「……ま、元気そうで安心したよ。元気かどうか確認したかっただけだから」 柿崎 「お前さ、鷹志を驚かすために電話したんじゃなかったか?」 凍弥 「いや、驚いただろ。     かつての友人が唾液で床を溶かす100回フラレ野郎だったら」 柿崎 「違うっての!」 声  『いや、確かに驚いたけどな』 柿崎 「ウソだって悟れよ!」 凍弥 「唾液で床を溶かすってところは信憑性あると思うんだが」 柿崎 「100回フラレた方がまだ現実的だろうが!!」 凍弥 「お前さ、それ、自分で言ってて虚しくないか?」 柿崎 「やかましい!!」 おお、怒鳴りすぎで顔ももう真っ赤だ。 汗もかいてるし。 凍弥&声『だが安心しろ柿崎。そんな虚しいヤツでも、俺達は友達だから』 柿崎  「……お前らさ、よってたかって俺をからかい抜いて楽しいか?」 凍弥&声『楽しい』 柿崎  「友情が微塵にも感じられないんですがねぇっ!!」 正論だ。 だがしかし、ここで柿崎をからかい抜いて時間を食うわけにはいかないかもしれん。 いつ、本体が目覚めるか解らんし。 ぬおお、いつでも時はサバイバル。 ……なんか違う気がするが、まあいいだろう。 凍弥 「まあそんなわけだ。寂しくなったらいつでも録音テープを再生おし。     俺のステキな声がいつでも聞けるぞ」 声  『【黄金打った】なんて言葉、二度と聞きたくねぇよっ!!』 ひどい言われようである。 事実なのに。 凍弥 「……んじゃな。もしまた体を乗っ取れたら幽霊予約してやろう。     予約はあるのに、待っても待っても客が来ないんだ」 声  『すなっ!!』 凍弥 「切るぞ」 声  『ったく……わぁったよ。暇になったらいつでも電話し掛けろ。     俺だってお前らとまた馬鹿みたいな会話出来て嬉しいんだから』 凍弥 「フッ……その会話の大半が柿崎の汚名だけどな」 柿崎 「汚名をわざわざ捏造してるヤツが偉そうに言うな!!」 声  『じゃあな。天国の柿崎によろしく言ってくれ』 凍弥 「ああ……あいつも喜んでくれるさ」 柿崎 「当然のように勝手に殺すなよ!」 がちゃんっ。 受話器を置き、フハァと息をひとつ。 凍弥 「最初から最後まで騒いでたなぁ柿崎」 柿崎 「最初から最後まで人をからかってたなぁ凍弥……」 凍弥 「よせよ、照れるじゃないか」 柿崎 「誉めとらんわぁっ!!お前いい加減に───げほっ!ごほはっ!!」 凍弥 「ど、どうした柿崎!?まさか持病の口内炎が!?」 柿崎 「ンな持病があってたまるかぁっ!!叫び続けで───げほっ!げほっ!!     さ、叫び続けで喉が枯れただけだ……!」 凍弥 「……お前ほど自業自得な馬鹿って居ないと思うな、俺」 柿崎 「俺が悪いんですかねぇっ!!───ぐ!げほっ!げっほげほぉっ!!」 苦しそうに体を折って咳する柿崎。 実に無様だ。 凍弥 「しゃあないな……ホレ。フィニッシュコーアNだ」 柿崎 「ど、どうしてぞんだ……げほっ!げほっ!     どうしてそんなもん持ってんだ……」 凍弥 「そんなもん本体に聞け。俺は知らん」 柿崎 「……ま、いいや……使わせてもらう」 柿崎が俺の手から液体入り容器を取り、それを口内の喉にブシュッ!と噴射した。 すると─── 柿崎 「ギイイイイイイイイイイイイイイイヤァアアアアアアアアアアア!!!!!!     ンンンンンンンゴゴアァアアアアアアアアアアアギャアアアアアアア!!!!」 柿崎が廊下に倒れてゴロゴロと悶絶を始めた。 おお、愉快だ。 柿崎にこんな趣味があったとは。 ───やがて柿崎はお台所のゴキブリのごとくピクピクと痙攣し、動かなくなった。 凍弥 「………………えーと」 柿崎をやっつけた。 経験値5ポイントを獲得した。 凍弥 「……じゃなくて」 ムナミー(凍弥って呼ぶのもヘンだし)の記憶によれば、 この薬は確かに柾樹に貰った喉薬だったハズなんだが。 なにがどうなってこうなったのか。 うーむ、謎だ。 もしや目薬だったとか? 凍弥 「………」 薬を手に、痙攣している柿崎の目にプシュッと噴射する。 すると 柿崎 「ほぎゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」 柿崎は倒れたままでびったんばったんと暴れまわった。 その姿、まるで打ち上げられた魚類が如し───! 柿崎 「失明させる気かてめぇぇえええええええええっ!!!!!!!」 がばーっ!と起き上がり、片目だけ真紅に充血させながら絶叫する柿崎。 凍弥 「いや、効くかなーって」 柿崎 「自分で試せ馬鹿野郎!!ああくそっ!涙が止まらねぇ!!」 柿崎が言う通り、その目からは涙が止まらない。 凍弥 「柿崎……俺のために泣いてくれるのか……」 柿崎 「『お前の所為で』泣いてるんだよ!!」 凍弥 「謙遜するなよ」 柿崎 「訳解らんよ!!」 凍弥 「そう怒鳴るなよ。ハタから見たら、     訳もなく生徒に怒鳴りつけまくってる性悪教師にしか見えないぞ」 柿崎 「訳がありすぎるから怒鳴ってるんだろうが!第一お前は生徒じゃねぇ!」 ぬおお、確かに。 これは盲点だった。 凍弥 「ま、ま、ま、落ちつけ柿崎。     俺はなにもお前を怒鳴らせるために降臨したわけじゃ………………ない」 柿崎 「今、物凄く『間』を感じたんだが」 凍弥 「そんなことはない」 柿崎 「………」 ぬう、柿崎が物凄いジト目で睨んできてやがる。 信用ないなぁ、俺って。 ……まああそこまでからかっておいて、信用もなにもないとは思うが。 凍弥 「そう怒るなよ柿崎。どれ、A定でも奢ってやるから」 柿崎 「学校が休みの日に学食やってるわけがないだろうが……」 凍弥 「それもそうか。     道理でお前が絶望の淵に居るような顔で彷徨ってたわけだ」 柿崎 「お前に会うまでは普通だったよ!」 凍弥 「照れるなよ」 柿崎 「照れてねぇっ!!」 凍弥 「踊るなよ」 柿崎 「踊るかぁっ!!」 再びオガァーー!と咆哮する柿崎。 かなり元気なヤツだ。 なんだかんだであの薬は効いているらしい。 柿崎 「お前はなにか!?俺に恨みでもあるのか!?」 凍弥 「貴様によって、     目の前で売りきれにされたA定……忘れたわけではないぞ」 柿崎 「いつの話じゃあっ!!」 凍弥 「いつって……学生時代だが。なんだ、そんなことも忘れたのか」 柿崎 「そういう意味で言ったんじゃないっ!!お前ってほんとマイペースなっ!!」 凍弥 「いや、まあ落ちつけ柿崎。怒鳴りすぎで顔に血管がムキムキだぞ」 柿崎 「だったら叫ばせるようなこと言うなよ……頼むから……」 凍弥 「俺は普通に会話してるつもりだったんだが」 柿崎 「余計に性質悪いわっ!!」 ぜーはーと肩で息をする柿崎2。 どことなく涙目なところを見ると、喉の痛みを無視して叫んでいるのやもしれん。 凍弥 「もう一発、いくか?」 俺は薬を取り出して、柿崎に一歩歩み寄った。 その途端、忍者もビックリの素早さで俊敏なバックステップを疲労する柿崎。 凍弥 「妙なところで潜在能力発揮するなよ」 柿崎 「なんの話だ」 凍弥 「なにって……お前が忍者ライセンスと、     マーダーライセンスを持っていたってゆう話だが」 柿崎 「余計になんの話だよ……」 凍弥 「俺の夢の話だが。お前がチョコバットを4ダース食って鼻血出したこととか、     グレート・バン・ビーノに勝とうとしてたこととか、     野球に目覚めたくせにベルディに勝とうとしてたこととか、     Xの値のことならなんでも知ってる柿崎のこととか」 柿崎 「…………お前の夢って愉快そうでいいよな」 凍弥 「安心しろ、夢でもお前は独身だった」 柿崎 「でっけぇお世話だぁっ!!ほっとけぇっ!!」 なんだかんだ言ってもツッコミしてくれるとは……なんと男気のあるヤツよ。 ツッコミと男気に関連性があるかどうかは別として。 柿崎 「で?いつお前は成仏するんだ?」 凍弥 「いきなり失礼だぞこの野郎」 柿崎 「やかましい、お前の方が数倍は失礼だ」 凍弥 「フッ……これが教師か。風上にも風下にも台風の目にも安置出来ないヤツだな」 柿崎 「それでもいいから答えろ」 凍弥 「むう……正直いつ成仏するかは知らんし、     今俺の意識が沈んでも、いつ浮上できるかは謎。     ほら、こうなると謎だらけになるだろ?     だから柿崎をからかって精神を落ちつかせようとだな」 柿崎 「俺はなにか?お前の精神安定剤かなにかなのか?」 凍弥 「過言ではない」 柿崎 「過言じゃあっ!!」 凍弥 「唾飛ばすなよ、老ける」 柿崎 「それはさっきも聞いたし、そもそも老けん!!」 凍弥 「じゃあ溶けるのか。床を溶かしてた頃のように」 柿崎 「バケモノ思考から離れろ!大体お前は俺のどこを見てバケモノとか言うんだ!」 凍弥 「床を溶かすだけで十分だと思うんだが」 柿崎 「溶かしてねぇっつーとるんじゃあっ!!───うっ!げほっ!ごほっ!」 咳、再び発生。 凍弥 「ほらみろ、年甲斐もなく騒ぐからだ」 柿崎 「同い年だろうが……っ!!大体お前、ほんとになにしに来たんだよ……」 凍弥 「さぁなぁ。ムナミーが勝手に学校に来て、     空き教室で寝て、俺が浮上しただけだし」 柿崎 「……はぁ。それで?お前はこれからどうするつもりなんだ?」 凍弥 「さぁ」 正直、なにをするかと問われても困る。 俺になにをしろというのか。 別にやりたいこととかがあるわけでもない。 凍弥 「まいった、やることがない」 柿崎 「……やることがないのに成仏せずに残ってるってのもスゴイもんだな」 凍弥 「俺も驚いてるが。……よし柿崎、ふたりでなにかして暇を潰そう。     多分、ムナミーが起きれば俺は引っ込むだろうから」 柿崎 「そりゃ構わないが……なにする気だ?」 凍弥 「んー……どうせならふたりで一緒に楽しめる方がいいからなぁ……。     よし柿崎、女生徒のブルマを頭から被ってハァハァと言ってくれ」 柿崎 「それってお前が楽しいだけだろうが!!」 凍弥 「通報なら任せろ」 柿崎 「しかも捕まえるつもりだったのかよ!!お前もう訳解らんよ!!」 凍弥 「まあ落ちつけ。俺の考えではこうなる筈だ」
柿崎 「ハァハァ……嗚呼、おなごの香りがすこぶる鼻腔をくすぐるぜよ……!」 警察 「警察だーーっ!貴様を変態扱いして逮捕する!」 柿崎 「キシャアアーーーッ!!」 柿崎は首を伸ばし、その口から唾液を飛ばした!! 警察 「ぎゃああーーーっ!!体が溶けるーーーっ!!!」 柿崎 「ウバァシャーーーッ!!」
凍弥 「どうだろうか」 柿崎 「溶解液なんて吐けねぇって言っただろうが!!」 凍弥 「なにぃ、初耳だ」 しかし首は伸びるらしい。 なにせ否定しない。 柿崎 「……もういい。俺は宿直室で惰眠を貪るとするよ……」 凍弥 「よし、子守唄を聞かせてやる。題して『超獣神カキミノール』だ」 柿崎 「なんなんだよその聞かせる相手が限定されてるようなタイトルはっ!!!」 凍弥 「べつに限定されとりゃせんが……     そこまで言うなら、聞かせるのはお前だけにしておこう」 柿崎 「それじゃあ結局同じだろうが!!」 凍弥 「文句の多いヤツだな……解ったよ、鷹志にでも聞かせる」 言いながら、俺は受話器を手に取った。 ……それにしても、学校の公衆電話(?)の前で延々と会話をするのもヘンなものだよな。 柿崎 「念のため訊くが……鷹志に訊かせるのは子守唄なんだよな?」 番号を押していると、柿崎がそげなことを訊いてきた。 凍弥 「ああ。柿崎が(ジュウ)の如く女生徒に襲いかかり、警察に捕まる物語を唄ったものだ。     ハンカチ必須だぞ。絶対笑い転げる感動巨編だ」 柿崎 「どこがどう『超獣神』で『感動巨編』なのか解らねぇよ!!!」 凍弥 「いや、せっかくだから録音してもらおうかと」 柿崎 「答えになっとらん上にすっげぇ失礼だぞそれ!!」 凍弥 「注文とツッコミの多いやつだな……」 プルルル……ブツッ。 声  『はい、橘旅館でございます』 凍弥 「昔々、あるところに超獣神カキミノールが居ました」 柿崎 「普通に昔話じゃねぇか!!どこが子守唄なんだよ!!」 凍弥 「お前、うるさいよ。マナーってものを知らないのか」 柿崎 「お前に言われたかないわぁっ!!」 声  『……暇なのな、お前らって……』 凍弥 「おお鷹志、聞いてくれ。俺が作った子守唄、『超獣神カキミノール』を。     暇になったらいつでも電話し掛けてよかったんだろ?」 声  『そりゃいつでも電話よこせとは言ったがな……お前、旅館経営ナメとるだろ』 凍弥 「正直ナメてる。というわけで聞け」 声  『はぁ……どうせ聞くまで電話するんだろ?』 凍弥 「いや、そこまで暇というわけでもないが、     このまま切られたら、うっかり生爪(ミート付き)を送ってしまうかもしれん」 声  『キモイわっ!!お前それ絶対やめろよっ!?』 凍弥 「大丈夫だって。生爪は生爪でも、柿崎のだから」 声  『誰のだろうと怖ェエよ!!やめろよっ!?絶対やめろよっ!?』 凍弥 「……ぬう」 全力で嫌がられてるのが、よーく解った瞬間でした。 凍弥 「あのね、いくら俺でもそこまではしないぞ?」 声  『お前ならやりかねないって思ったんだよ……。     なにせ、【柿崎】って名前が出たからな……』 凍弥 「言われたい放題だな、柿崎」 柿崎 「誰の所為だよ!」 声  『……あのさ。こっちもそう暇じゃないんだ。オチだけでも言って切らせてくれ』 凍弥 「よかったな柿崎。     主演がお前ってだけで、終わりが『オチ』だって悟られてるぞ」 柿崎 「嬉しくねぇよ!!」 凍弥 「そう言うなって。で、オチだけどな。     カキミノールは警察に捕まるんだが、鉄格子を唾液で溶かして脱走。     已む無く発砲されて絶命するんだ。どうだ、感動的だろう」 声  『どこらへんが子守唄なんだよ!』 柿崎 「むしろ俺はお前の成仏を手伝いたくなったわ!!」 大盛況だった。 凍弥 「まあそんなわけだ。ご清聴ありがとう。     そして録音された音声は末代まで継承してくれ」 声  『こんなもん誰が受け継ぐっつーんだよ……』 凍弥 「……だよな。柿崎の変態物語だもんなぁ」 柿崎 「物語を勝手に捏造されてまで、     どうしてそこまで言われなきゃならんのでしょうねぇ……っ!!」 凍弥 「捏造って言われてもなぁ。     確かにお前の唾液のことを考えれば、こじつけで作れる物語は腐るほどあるが」 柿崎 「作るな……頼むから作るな……」 頼まれてしまった。 凍弥 「んじゃ、忙しいところに悪かったな。立派な番台になってくれ」 声  『銭湯じゃなくて旅館経営だっ!!やっぱりお前、旅館ナメてるだろ!!』 凍弥 「お前の家って旅の宿じゃなかったっけ」 声  『旅館だ馬鹿っ!!』 がちゃんっ!! 凍弥 「ぬおっ……!思いっきり叩きつけおって……!」 ぬおお、耳がジンジンしてる……。 柿崎 「切られたのか?」 凍弥 「ああ。なんでも持病の下痢に襲われたらしい」 柿崎 「……そりゃあ、あったら嫌な持病だな」 凍弥 「俺もそう思う」 そもそも病気じゃないとは思うが。 凍弥 「ふう、さて……どうしようか」 柿崎 「別のところで霧波川の方に覚醒してもらって、     夢遊病のケがあるって思わせておけ」 凍弥 「……おお、それは面白そうだ。     さすがだ柿崎、悪巧みを考えさせると上は無いな」 柿崎 「お前にだけは言われたくないんだが……」 凍弥 「謙遜するなよ」 柿崎 「だから。お前に言われたくない」 凍弥 「俺は謙遜なんかしちゃいないが……ま、いいや。     そんじゃな、ちとブラついてくる」 柿崎 「ああ、いけいけ。しばらくは顔見せなくていいぞ」 ……ひどい言われようだった。 ───……。 さて、学校を出たわけだが…… 凍弥 「まいったな……。     霊体で居場所があそこしかなかった俺に、今更どこに行けっていうんだ」 そりゃあ確かに体はムナミーだが、思考は俺だ。 群集の中に混ざれば、一分と経たずにボロが出るだろう。 凍弥 「フーム……まいった」 これからどうしたもんか。 ……久しぶりに鈴訊庵にでも乗り込んでみるか? それこそムナミーも驚くに違いないだろうし。 凍弥 「よし決定!そうと決まれば───」 声  「凍弥先輩〜〜〜!!」 凍弥 「……んあ?」 歩き出そうとしたところへ、俺を呼ぶ声。 ……どうでもよくないが、 柾樹のヤツ……なんという紛らわしい名前をつけてくれたんだ。 椛  「凍弥先輩、体が良くなったって本当ですかっ?」 で、駆けつけたのはおなごだった。 確か……朧月椛っていったっけ? ムナミーの記憶によれば、そんな名前───だ、が…… 凍弥 「………」 椛  「凍弥先輩?」 ヤバイ。 ヤバイぞ、この状況。 俺じゃないが、ムナミーはこのおなごが好きらしい。 その想いがダイレクトに俺に流れてきてる。 冗談じゃない……俺が好きなのは由未絵だけだ……!! 凍弥 「ぐ、ぐがが……!!」 フオオ……!冗談ではないわ……!! 落ちつけ理性、落ちつけ俺……!! 抱き締めたいなどと考えるなど、言語道断……!! 椛  「あ、そ、そうでした。体が良くなったなら、その……えっと、あの……。     デ、デートを……」 落ちつけ……!落ちつくんだオックスベア……───誰だよ!! ぐ、ぐごごが……!! 椛  「あ、えっと……あの、わたし、デートってどういうものか知らなくて……」 目の前のおなごが顔を真っ赤にしながら顔を俯かせ、ごにょごにょと呟く。 その姿がたまらなく可愛く思え、俺の腕が意識とは関係なく伸びようとする。 それを努力と根性と腹筋で押さえ、歯を食い縛った。 凍弥 (いかん……!ここに居ては……!     このおなごの傍に居たら、俺は由未絵を裏切ることになる……!!) そう思った俺は、細胞が沸騰するような感覚を振り絞るように動かし、 その場から駆け出した。 というか逃げ出した。 椛  「あ、あれ?凍弥先輩っ!?どうしたんですかっ!?」 聞こえるのは疑問の声と、駆け寄ってくる足音。 しかもかなり速い。 凍弥 「とんずらぁーーーっ!!!!」 気づけば俺はそう叫んで逃げていた。 ムナミーの記憶が、そう叫べば速く走られるようなことを記憶していたからだ。 ……もちろん、そんなことはあるわけもなく。 がしぃっ!!ドシャアーーーッ!! 凍弥 「ぐはぁーーーっ!!?」 背中から押さえられ、アスファルトに叩きつけられてしまった。 椛  「……凍弥先輩。今……とんずらって言いましたね?     わたしから逃げようとしましたね?」 背中に乗るようにして俺を見下ろすおなごの目が真紅に染まってゆく。 そしてその髪はみるみる内に銀髪へと変わり─── 俺はムナミーの細胞と記憶とともに恐怖した。 だが気持ちを曲げるつもりなど皆無!! 凍弥 「フッ……俺は由未絵以外を愛するつもりはないのだっ!!」 恐怖にも負けず、俺はそう叫んだ。───途端。 バキィンッ!という音とともに、空気が凍った。 椛  「ふ……ふふふふ……!!」 あ!怖い!やっぱ怖い!! てゆうか死ぬ!これは死ねる殺気だ!!殺気だけで死ねる!! 椛  「誰ですかー……ゆみえって……。     もしかして凍弥先輩、浮気してたんですかー……」 凍弥 「浮気ではない!!俺が愛しているのは由未絵だけだ!!」 椛  「───へぇ」 凍弥 「ぐあ……」 火に油を注ぎまくった気がした。 椛  「女の子の純情を弄んだ罪……覚悟……できてますよね……っ!!」 死ねる気がしました。 それはもう瞬殺です。 来流美の殺気なんて比にもならないです。 凍弥 「は、ははは……」 よし、これは悪夢だ。 気絶してしまえばOKだ。 というわけで───俺は頭に両手を添え、思いっきり頭と首を捻った!! 凍弥 「クロノスチェーーーンジ!!」 メゴキャアッ!!! 凍弥 「───……」 加減無しの首捻りにより、俺の意識は薄れ、ゴシャアと大地に沈んだ。 えーと……すまん、ムナミー。 ───……。 凍弥 「う、あ、あれ……?アスファルト……?」 ふと気づくと、道路で寝そべっていた。 妙だ。 凍弥 (俺、確か空き教室で……む?) ふと感じる違和感。 というか殺気。 というか…… 椛  「凍弥先輩のっ───浮気者ぉおおおおおおおおっ!!!!!」 凍弥 「へ……?キャーーーーーッ!!!!??」 目覚めた途端に振り下ろされた拳。 それはあまりに雄大で力強く、 その凄まじい迫力の名の下にボゴシャアアアアアアア!!!! 凍弥 「ギャアアアアァァーーーーーーーッ!!!!!!!!」 ……目覚めたばかりの俺の意識を、完全に破壊したのだった……。 Next Menu back