幸せになれる権利ってのを探した頃がある。 まだまだ時間を残したままに死んだ俺達は、 その探し物が幸せに繋がることを信じていた。 その信じるものってのがどんな権利なのかは知らない。 ただ、それが自分と彼女を幸せにしてくれればそれでよかったんだと思う。 目指すものは決まっているのに漠然。 正体が解らないのに、俺はそれを探していた。 権利なんてものはカタチとして見えないから。 ───だけど、もし見つけられたとして。 既に世界に見放されたカタチである俺達に、幸せは降りるだろうか。 そんなことを考えながら、いつでも変わりゆく街を見下ろしていた─── ───アルバムを見よう(再)───
凍弥 「というわけで、椛とやらの説得が成功するまで帰らん」 悠介 「絶対無理だ」 いきなり即答だった。 凍弥 「即答はひどいと思うんだが……」 悠介 「ひどくない。純粋にお前じゃ無理だって言ってるんだ」 凍弥 「ぬう……じゃああれだ、そろそろ昼になるし。メシで釣るというのはどうだ」 悠介 「……本気か?」 凍弥 「安心しろ、料理の腕には多少の自信はある。台所借りていいか?」 悠介 「そりゃあ構わないが……」 凍弥 「安心しろ、びっくりするような状態で返してやる」 悠介 「いらんっ!!」 凍弥 「感動の中にもげんなりするような芸術を思わせる状態で……」 悠介 「普通に返せって……」 凍弥 「……つまらん」 悠介 「無理に楽しくさせようとせんでいいから……」 どうやらお疲れのご様子。 まあいいが。 ……。 凍弥 「よっしゃ完成っ!」 料理を仕上げた俺は、それを卓に並べた。 晦はさっそくそれを一口摘み、顔を緩ませた。 悠介 「へえ……美味いな」 そして素直な感想をくれる。 ───が、俺はその手を叩いた。 悠介 「いてっ!?」 凍弥 「ちゃんとミャーズで手を洗わなくちゃダメでしょっ!!」 悠介 「ミャーズ!?」 晦、驚愕。 てゆうかなんですか、その自宅の便所で異星人を見たような顔は───ってどんな顔だ? 凍弥 「最近の年輩の者はミャーズも知らんのか」 悠介 「そりゃ知ってるが……ウチは普通の石鹸派だし」 年輩ってところは否定しないらしい。 凍弥 「な、なにぃ!?ミャーズ以外に石鹸があるのか!?     てゆうかその言い方じゃあ、     ミャーズが普通の石鹸じゃないみたいじゃないか!」 悠介 「落ちつけ、まず落ち着け」 凍弥 「俺は常時平常心だが」 悠介 「普通に訳が解らんぞ」 凍弥 「解れ」 悠介 「無茶言うな」 凍弥 「根性でカバーしろ」 悠介 「もっと無茶言うな!」 凍弥 「無茶だろうか」 悠介 「無茶だろ……」 呆れられてしまった。 物事を根性でカバーするのは普通だと思うんだが。 凍弥 「ところでトニー、ここでは客人に茶も出さないのか?」 悠介 「……ルナが泣いた訳が解った気がする」 凍弥 「俺のために泣いてくれるのか……」 悠介 「泣くかっ!」 泣かないらしい。 残念だ。 悠介 「お前ってさ、死ぬ前もそんな性格だったのか?     霊体の性格って死に際のものが繁栄されるって聞いたことがあるけど」 凍弥 「俺は常時こんな性格だが」 悠介 「……勘弁してくれ」 凍弥 「本人目の前にしてそういうものの言い方はないと思うが……」 悠介 「ところで、なんなんだ?さっきのトニーってのは」 凍弥 「マイコーの方がよかったか?」 悠介 「よくはない」 凍弥 「じゃあアンソニーで」 悠介 「融通を利かせろ、馬鹿者……」 やっぱり呆れられた。 あんまりじゃないですか? だが、こいつはそう嫌いじゃない。 なんてゆうか、重くないヤツだ。 ここはフレンディ〜にいこう。 うむ。 凍弥 「というわけで、アルバムを見せてくれ」 悠介 「お前ってほんと、前後の話題が滅茶苦茶だよな……」 凍弥 「そうか?そんなつもりはさらさら無いんだが。一言で言えば皆無だ」 悠介 「………」 本日何度目になるのか。 晦が長い長い溜め息を吐いた。 悠介 「……まあ、いい。別に見せて困るモンでもないし」 晦、溜め息を盛大に吐き散らしながら起立。 凍弥 「礼ッ!」 悠介 「……?」 凍弥 「すまん、なんでもない」 悠介 「……お前さ、なんだかんだで彰利といい勝負だと思うぞ……」 そうだろうか。 ……何気にショックだった。 ───……。 悠介 「ほら」 晦が戻ってきた。 その手には、アルバムと茶。 凍弥 「すまん、俺にはアルバムを茶菓子にする趣味はないんだ」 悠介 「頼まれても奨めんわっ!!」 凍弥 「安心しろ、俺も奨めん」 悠介 「……だはぁ」 凍弥 「そう何度も溜め息を吐かれると、客としては心苦しいんだが」 悠介 「吐かせてるのは誰だよ……」 凍弥 「知らん」 悠介 「………」 ああ、また溜め息。 凍弥 「禿げるぞ」 悠介 「大きなお世話だっ!!」 吼えられてしまった。 うむ、だがそんなことよりアルバムでも見よう。 せっかく律儀に持ってきてくれたんだ、見ないと失礼だろう。 悠介 「見てる時くらい、静かにしてくれよ……」 凍弥 「安心しろ。     お前が産湯に浸かってようが寝小便たらしてようが、俺は鼻で笑ってやる」 悠介 「お前はそうされて嬉しいか?」 凍弥 「やってくれるなら根性で涙を流してみせよう」 悠介 「……遠慮しておく」 凍弥 「遠慮するな、俺を感動の渦に巻き込んでくれ」 悠介 「……アルバムを見てくれ、全力で」 凍弥 「………」 全力で見るアルバムとはなんなのだろうか。 まあいいや。 凍弥 「っと、いきなり体育祭?……なに、これって貴様の生体記録じゃないの?」 悠介 「最近撮り始めたものだしな。     個人的に言わせてもらえば、写真はあまり好きじゃない」 凍弥 「ほへー……日付は最近なんだな」 悠介 「ああ。今年の体育祭と文化祭を撮ったものだ」 凍弥 「ふむ……」 俺は晦の話を聞きながら、ざっと目を通していった。
───シーン1:『男の戦い』───
───体育祭。 その景色の中で、俺はぼ〜っとしていた。 理由は…… 彰利 「ダーリン!準備はいい!?」 彰利に誘われ、『生徒として』紛れ込んでいたからだ。 自分が居る場所は、体操服を着た生徒達の中。 数人の生徒達が俺と彰利を奇異の視線で射抜く。 彰利 「お?なにガンくれてんだオラ」 男  「あいや、ゲフ!ゲフフン!」 男子生徒、視線を逸らして口笛を吹き始める。 悠介 「お前ってさ、こういう時の口調っていちいち随分前のヤンキーみたいだよな」 彰利 「その方がオモロイじゃん!」 悠介 「………」 ……ちなみに言うと、俺はべつに嫌々で参加したわけではない。 彰利が俺を誘ったことは事実だが、 俺の心を動かしたのは『また一緒に馬鹿やろうぜ!』という言葉だった。 それだけで十分だった。 男が無茶をする理由なんて、結局はそんなもので十分なんだ。 悠介 「で、お前はどの組に潜伏するんだ?」 彰利 「えーと……こういうのはどうだろうか。     俺と悠介とで、独立パーティを結成するんだ。     解るか?たったふたりでこの学校を敵に回すのYO!」 悠介 「……」 不覚にも、ゾクッと来てしまった。 背筋に走る寒気にも似た高揚感……! 悠介 「OK」 それを受け入れると、俺はニヤリと笑って、彰利と手を叩き合わせていた。 悠介 「んじゃ……黒鉢巻が出ます」 学校中で存在しない黒いハチマキをふたつ創造して、ひとつ彰利に渡す。 もうひとつは自分の頭に巻く。 彰利 「フッ……いっちょハルマゲドンでも起こす気分で頑張ろうぜ」 悠介 「ああ」 ふたりで笑いながら、いろいろな準備に取りかかった。 馬鹿みたいに大きい得点ボードの横にもうひとつのボードを用意するとか、 校長を脅して、もうひとつの組(まあ俺達のことだが)を結成させ、段落をとる。 こうして俺と彰利のみの組……『ハルマゲドンブラザーズ』が結成された。 ……断っておくが、ネーミングしたのは彰利だ。 ───……タァン! 彰利 「URYYYYYYYYYYY(ウリィイイイイイイイイイイ)!!!!!」 スタートの合図とともに、彰利が駆ける。 種目はリレー。 他の男子どもは半周ずつだが、俺と彰利はその半周を何度もしなければならない。 だが─── 彰利 「バトンターーーッ(バトンタッチ)!!」 悠介 「おうっ!!」 他の男子生徒を圧倒的に置き去りにし、俺達は走り捲くった。 視界の中で深冬とかみずきとか椛とかが呆れてようが、俺は無視して走り続けた。 ───やがて、他の生徒どもが2週する頃には俺達のリレーは終わっていた。 悠介&彰利『ビクトゥリーーーッ!!!!』 案外あっけなかったものだが、それよりも楽しかったのでオッケー! ───女子種目、障害物競争。 彰利子「いくわよーーーっ!!」 彰利、女装してまで参加。 校長との交渉の末、出された条件がこれだった。 つまり、『全種目に出る』こと。 ……視界の隅で椛が本気で呆れる中、彰利は堂々の一位を獲得していた。 悠介 「や、やめろーーーっ!!俺はやらねぇって言っただろうがぁあっ!!!」 彰利 「勝ちたくないのかね!?いいからやりなさい!」 悠介 「ギャッ───ギャアアアアアアアアアアアア!!!!」 ……女子種目、パン食い競争……。 女装させられた俺は、涙を流しながら四位を獲得した。 で、そんな俺への第一声が─── 彰利 「バカじゃなかと!?」 これだった。 悠介 「……お、俺だってな、頑張ったんだぞ……?」 彰利 「負けたらどこもこもなかろうモン!?     あた(あんた)自分がなんしょっとか解っとーと!?はらくしゃあ!!」 悠介 「う、うるせぇ!だったらお前がやりゃよかったんだ!!」 ……。 ……父兄参加型強走種目。 悠介 「高校で父兄参加って……」 彰利 「しかも競争じゃなくて強走……?」 ようするに、父兄のみで走るグラウンド一周競争だ。 悠介 「どうするんだ?これじゃあ俺達は参加出来ないぞ?」 彰利 「任せろ。月空力───!」 彰利が印を解放し、自分の体に光を流した。 ───途端、彰利の体が成長する。 彰利 「───どうよ」 しっかりと成長した彰利は、それなりに凛々しさをもっていた。 ……意外だ。 彰利 「んじゃ、ちょっくら……     俺の粉雪とクソヤロウの間に産まれた豆野郎を屠ってくる」 ……豆野郎?って、みずきかっ!? 悠介 「お、おい彰利───」 彰利 「大丈夫!魂のカケラも残さん!!」 そう言い残して、彰利は走っていってしまった。 ───……結果から言えば、 彰利は走り出したみずきにカーフブランディングを決め、失格にされた。 悠介 「馬鹿かお前は!!」 彰利 「だってYO!!やっぱ悔しかったんだもん!!     粉雪を愛していいのはオイラだけだもん!     どこの馬の骨とも解らん男との間に産まれた野郎など、     この俺さまが許せるわけないでしょう!?」 悠介 「妙なところで威張るなっ!!減点までされて───どうすんだ!!」 彰利 「グ、グウムッ……!」 悠介 「グウムじゃねぇーーーっ!!」 ───……。 …………やがて訪れた、彰利の策略結果。 声  『こ、これより……男子強制参加型騎士戦を始めます……』 グラウンドに居た全員が『ざわ……』とどよめく。 男  「騎士戦……?なんだ……?」 声  『武器の使用以外の全てを許可する鉢巻奪いです。     その際に起きた負傷事には目を瞑ります。     父兄の方もふるってご参加ください。     危険を承知でも参加したいのなら、女性の参加も認めます』 その声を聞きながら、彰利はニヤァと笑った。 ……そう、これは彰利と俺が校長を脅して用意させた、漣高等学校伝統行事だ。 彰利 「うーむ……小僧が居ないのが残念でならないな」 悠介 「しゃあないだろ。寝込んでるらしいから」 彰利 「むー……まあ、今は豆野郎が出てくるなら文句はないからな」 悠介 「……相当恨んでるのな」 彰利 「当然だ」 ケッと唾を吐くような素振りをして、彰利が鉢巻を締め直した。 彰利 「悠介。決勝で会おうぜ」 悠介 「決勝って言うかどうかは別としてもな」 こうして、騎士戦の火蓋が切って落とされた。 ───パァン!! 火薬が高鳴り、男子生徒や父兄達が吼える。 その中には───みずきも居た。 で、ふと髪の長い女性を見た気もしたが───すぐに人の影で見えなくなった。 彰利 「旋風ゥウウウウウウッ!!剛ォオオオオオオオ拳ッ!!!!」 ドゴゴゴゴゴゴゴドッパァアアアアアン!!! 男子共『ぐわぁああああああああっ!!!』 彰利の八極正拳奥義が、男子生徒を薙ぎ払ってゆく。 実に壮快だった。 男  「おらぁああっ!!」 悠介 「ッ!?チッ!彰利を見てる場合じゃなかったなっ!」 伸ばされた手をかわし、男の懐に潜り込む。 そして立ち上がる勢いとともに掌を突き上げる! 悠介 「掌破ァッ!!」 ボゴォンッ!! 男  「ぶはああああああっ!!!?」 男の腹をへこませるほどの衝撃。 男は宙に浮き、やがて大地に倒れ───他の男どもに一斉に襲われ、鉢巻を奪われた。 うーむ、まるでピラニアかハイエナだな。 ところで、さっきの男が中井出に似ていた気がするのは気の所為だろうか。 まさか子孫!?……まさかなぁ。 男子 「得点いっぱい取ったからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!     ここで続行不能にしてやるよっ!」 呆れていると、すぐ横で男子生徒が俺目掛けて拳を振りかぶった。 俺はそれを人差し指で受けとめ、言ってやる。 悠介 「───寝言は寝て言え」 男子 「う、うそっ……!?」 驚愕する男子の額の前に指を構え、思いっきり弾いてやる。 いわゆるデコピンってやつ。 男子は思いっきり体勢を崩し、たたらを踏んだ───その刹那。 男子生徒の懐に潜り込み、再び掌を振り上げる。 悠介 「見切れるかっ!」 男子 「っ!?」 ───体勢、捻り、勢い、全てが完璧に完成した瞬間だった。 悠介 「くらえ───!掌破烈光閃(しょうはれっこうせん)ッ!!」 その掌が、男子生徒の腹にめり込み、思いきり吹き飛ばした。 さっきよりも高く、さっきよりも勢いに乗って吹き飛ぶ。 やがて大地に倒れ、さっきの男のようにハイエナの如く鉢巻を奪われた。 悠介 「───貴様に見切れる筋もない……」 拳を振るい、手に残った感触を振り払った。 案外、俺も楽しんでいるらしい。 ───そして気づけば、人の大半は倒れていた。 その中で立っているのは───彰利とみずき。 そして、俺と─── 女性 「……フン」 悠然と立っている女性。 その女性を見ている中、みずきがポセイドンウェーブでK.Oされた。 彰利 「YO!お待たせ悠介!さあ最終決戦───ってギャアアアアア!!!!!?」 彰利がその女性を見て驚愕する。 女性 「……なんだ、またお前か」 彰利 「う、ううう……閏璃……ヨウカン……!!?」 悠介 「閏璃……?」 珍しい苗字に耳を疑う───てゆうか疑った瞬間、彰利が吹き飛ばされていた。 悠介 「え……?」 葉香 「……あとは、お前だな」 彰利の鉢巻をあっさりと手にした女性が、俺を見て言う。 ……マジかっ!? 葉香 「全力でいくぞ。ガラにもなく体育祭を見に来たはいいが、     禁煙だと言われたんでな……気が立っている」 悠介 「───」 何かを言おうとしたが、女性は既に目の前まで来ていた。 慌てて鉢巻に手を伸ばした───時には、俺は空に飛んでいた。 ───……。 悠介 「……世界は広いのか狭いのか……」 彰利 「負けてしもうた……」 結局、騎士戦の勝者は閏璃葉香……さっきの女性に決まった。 その女性が適当に縛っていた黄色の鉢巻のお蔭で、点数加算は黄軍。 彰利 「ま、まだ種目はあるし……なんとかならぁ!」 騎士戦の加算ポイントは結構なもので、 ハルマゲドンブラザーズの点は抜かれてしまっていた。 悠介 「次の種目は?」 彰利 「んー……綱引きだな」 悠介 「……ふたりでか?」 彰利 「ふたりで、だな……」 ………………。 パァン! 火薬が高鳴り(略) 悠介 「ぬおおおおおおおおおおおお!!!」 彰利 「ふんぎんがぁああああああああっ!!!!」 32人対2人。 俺達は綱を引いた。 ───が、なかなか手強い。 彰利 「ふっ……ぬおおおおおお!!!60%ォオオオッ!!!!」 メコッ!モココッ……!! 彰利の筋肉が隆起してゆく。 彰利 「うぅらぁっ!!」 ぐいいっ!! 紅軍 『うああああああっ!!?』 紅軍を力任せに打ち負かす。 てゆうか……彰利だけで勝てるんじゃないだろうか……? ───………………。 そんな調子で勝ってゆき、やがて─── 椛  「……負けません」 彰利 「ほっほっほ!望むところ!」 椛の居る軍との戦い。 これは気を引き締めなければ。 ───パァンッ!! 火薬(略) 彰利 「焚ッ!!」 椛  「やっ!」 ビチィンッ!! 縄がピンと伸び、軋む。 てゆうか……うわ!?引きずられてる!? 彰利 「ば、馬鹿な!アタイ達が負けている!?」 椛  「ま、負けません……!!!」 悠介 「ぐ、ぐがが……!!」 彰利 「フッ───フオオオオオオ!!!!大渦(メイルシュトローム)パワーーーッ!!!」 悠介 「火事場のッ───クソ力ァアアアアアアア!!!!」 負けるわけにはいかない。 これは男の戦いだ! 身内だからといって、加減するのはお門違いである!! だが───綱はびくともしない。 相手が椛だけなら勝てたろうが、開祖とその他の力は侮れるものじゃないらしい。 が─── 彰利 「───……初めて、敵に遭えた……」 ザワッ───……! その彰利の言葉と雰囲気に、辺りの空気が凍った。 彰利 「……100%」 メゴォッ!! モキモキモキ……!! 彰利の体が変異してゆく。 というか、筋肉が盛り上がってゆく!! 椛  「え、あ、わわ……!?」 彰利 「───っ……!!ルゥォオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」 ズ、ズザザッ───!! 椛  「っ!?そんな、引かれる……!?───負けられないっ!     凍弥先輩だって、きっとわたしの勝利を願ってます!手加減しませんっ!!」 椛が、ぐっと力を込める。 その途端───綱は引かれ始めた。 彰利 「マジですか!?」 ギチギチと綱が軋む。 彰利 「お、おのれぇえええっ!!」 その時、彰利の中で何かが弾けた。 彰利 「フルパワーーーッ!!100%中の100%ゥォオーーーッ!」 モキモキ───ブチィッ!! 悠介 「あっ……」 瞬間、綱が緩まる。 切れた。 ……その、彰利の中のどっかが。 ゆっくりと彰利の体が傾き、耳から緑色の汁が飛び出た。 ……お前は強かったよ。 だけど、間違った強さだった……。 ───結果、綱引きでは2位どまりだった。 彰利 「………」 彰利が呆けていた。 なにやらヤバイ場所が切れたらしい。 彰利 「……ここは何処?ぼくはだれ?……ここはグラウンド、ぼくは俺。     つまり───俺、アキトシ!最強!」 ああ、どうやら自力で復活してくれたらしい。 彰利 「うっしゃあ!そんじゃあ次の種目で勝とう!」 悠介 「次は……借り物競争だな」 彰利 「……またふんどしとか出ないだろうな……」 悠介 「ふんどし?なんだそれ」 彰利 「いやいや、忘れてくれ」 悠介 「……?」 ───……。 ───男子種目、借り物競争。 彰利 「トタァーーーッ!!」 凄まじい早さとスタートダッシュで差をつけた彰利が、紙を拾い上げる。 彰利 「えーと……ラマダ僧!?」 困惑顔の彰利がこちらに駆けてくる。 悠介 「借り物はなんだ?」 彰利 「……ラ、ラマダ僧」 悠介 「………」 彰利が紙を見せてくる。 そこには確かに『ラマダ僧』の文字。 悠介 「よし、書いたヤツを屠ろう」 彰利 「いや、同感だが、ここはスポルツミェェエエンの意地にかけて勝ってみせよう」 悠介 「で、ラマダ僧なんてどうする気だ」 彰利 「問題はそこなんだが……って、おろ?」 彰利が紙をわしゃわしゃと動かす。 と、折りたたまれていたらしい紙が開いた。 彰利 「……どうやらトラップだったらしい」 悠介 「……用意したヤツを飽きるほど殴りたい気分だ」 彰利 「で、本当の借り物は───マサイ族!?」 彰利が広げた紙には、確かに『マサイ族』の文字。 悠介 「………」 彰利 「………」 結局、頭の中が真っ白になっているうちに他の者どもはゴール。 のちに、紙を用意したらしい男子生徒ひとりが、 ボコボコにされた状態で体育倉庫から発掘された。 ───……結局。 ハルマゲドンブラザーズは幾多もの罠のために2位どまりに終わった。
───男の戦い……了───
───……。 凍弥 「……随分だな」 悠介 「ま、無茶は出来た。楽しかったぞ」 凍弥 「そりゃあなによりだ。無茶したっていうのにつまらなかったら損だろ」 悠介 「ああ」 はふぅと息を吐き合うと、俺は次のページに進んだ。
───シーン2:『男の祭り』───
文化祭。 その言葉を受け取ると、俺は彰利を誘ってその場に訪れた。 彰利 「しかしなんだね?悠介が俺を誘うなんて珍しいじゃない」 悠介 「気紛れだったんだけどな。探すのも相当苦労したし」 彰利 「ホームレスをナメんなよ?」 悠介 「……頼むから、威張るならもっと別のことで威張ってくれ……」 彰利 「俺、左手でも箸を使えるんだぜ!?」 悠介 「よかったな……」 彰利 「頼まれてやったのにその態度ですか!?」 文化祭の喧噪の渦中。 俺は欠伸をしながらゆっくりと歩いた。 目的地なんてものは特になく、 最近寝たきりになっているってゆう凍弥に悪い気もしながら歩いた。 悠介 「どっか行きたい場所ってあるか?」 彰利 「んー……オイラ射的したい!」 悠介 「残念だな、そんなものはない」 彰利 「グ、グムーーーッ!!ならばお化け屋敷だ!     や、ややや闇に紛れて、脅かしにきたおなごにあげなことそげなこと……!」 悠介 「却下。……あのな、俺は疎まれない文化祭なんて初めてなんだ。     今日はゆっくりと回りたい」 彰利 「えー?」 悠介 「えー、じゃない」 彰利 「……ちぇー。ま、いいや。じゃあまずは喫茶店もどき!これはいいでしょ!?」 悠介 「ああ」 彰利 「うっふっふ……メイド喫茶あるかな〜」 絶対ない。 ───……。 女子 「いらっしゃいませー」 ……あるし。 彰利 「……カスが」 だが、彰利は相当に不機嫌だった。 女生徒が近づく度に、舌打ちをして苛立っている。 悠介 「どうしたんだよ、いきなり」 彰利 「だってよぅ……見てくれよ、あのスカートの丈の短いエプロンドレス。     あんなのはメイド服じゃねぇよ?なのに見ただろ?入り口の書割看板。     『メイド喫茶へようこそ』、だってよ。笑っちまうぜまったくカスが……」 悠介 「………」 口がすごく悪い。 俺が予想している以上に気分を害したらしい。 女子 「あの、なにになさいますか?」 彰利 「……水」 女子 「え?」 彰利 「水」 女子 「………」 決まりが悪そうな顔でおろおろする女生徒。 俺は見兼ねて、適当にコーヒーを頼んだ。 それが救いになったのか、女生徒はペコリとお辞儀をして小走りに戻っていった。 彰利 「……くだらねぇ〜……」 悠介 「……荒んでるなぁ」 彰利 「いや、いや……期待した俺が馬鹿だったんだよ……。     服もテラ光しててパチモン臭いし、着こなした感も皆無だし……。     なんつーかさ、即興のメイドなんてダメダメだよな」 悠介 「そう言われてもな」 彰利 「ああ、解りやすく言うならさ、アレだよ。     親が再婚して、兄弟やら姉妹やらが増えた時のような感覚っつーの?」 悠介 「……解らなくもない」 俺の場合は俺が養子だったわけだが。 彰利 「……ホンモノのメイドさん見てからあんなメイドさん見てもなぁ……。     あーあ。結局、俺が昔にやってたメイド喫茶も……     こんなもんだったんだろうなぁ……」 悠介 「………」 珍しいな、相当にヘコんでる。 女子 「お待たせしました、コーヒーとお冷です」 悠介 「ども」 彰利 「……あいよ」 それらを置くと、女生徒は小走りに戻っていった。 彰利 「……あれはな、メイドじゃなくてウェイトレスっていうんだよ……」 悠介 「ふむ……」 彰利 「メイドはね、家事だのなんだののエキスパート。     かたや、ウェイトレスは単なる接客+スマイル業。     ……解る?この切ない違い」 悠介 「言葉だけ聞けばな」 彰利 「エプロンドレスはさ、やっぱ長くないとだめだよ。ロングスカート。これ絶対。     マニアックがどうのこうの言う輩も居るだろうが、     丈が短くなった時点でエプロンドレスじゃない」 悠介 「……お前さ、メイドのことになると口数増えるよな」 彰利 「ほっといてくれ……」 ……あーあ、ホントにヘソ曲げちまった。 とか思う中、彰利が懐をゴソゴソと探って、なにかを水の中に入れた。 彰利 「オウオウオウ!?なんだこの店はぁ!     ここじゃあ水にゴキブリ入れて出すンかぁっ!!」 悠介 「妙な嫌がらせしてんじゃねぇーーーっ!!!」 ボゴシャアッ!! 彰利 「つぶつぶーーーっ!!!!」 本気パンチで彰利の顎を殴り抜いた。 手には骨の砕ける感触。 彰利 「うきっ!うきっ!!うきぃーーーっ!!!」 どうやら顎が砕けたらしく、彰利は倒れながら足をバタバタさせて暴れていた。 悠介 「代金ここに置いておくっ!ごちそうさまっ!」 女子 「あ、は、はい……」 悠介 「こいっ!!」 彰利 「ギャアアアーーーッ!!!!」 口から夥しいほどの血を流している彰利を引きずり、喫茶店をあとにした。 …………。 悠介 「……はぁ」 彰利 「俺は悪くないぞ」 悠介 「お前が悪いっ!!」 彰利 「だってYO!」 悠介 「やかましい!お前が悪い!」 彰利 「うう……」 校舎裏に連れ出した彰利は、意気消沈した状態だった。 相当に腐っている。 彰利 「へーへーへーへー、どーせ俺が悪いんですよぅ。なんだいまったく。     毎度俺が悪者ですか?こんな役回りですか?     嫌なこと嫌って言ってなにが悪いのさ、まったく。冗談じゃないってんだい」 ああ、凄まじい勢いでイジケてる。 こいつでもここまで露骨にイジケるところはあまり見ないな。 彰利 「あぁあぅ……ぁ〜……あ〜あ……あ〜……」 悠介 「こっちまで脱力するような溜め息、吐き散らかさないでくれよ……」 彰利 「うっせうっせ!どうせ俺は落ち込み野郎だよ!ほっといてよもう!」 悠介 「よしほっとこう」 彰利 「イヤァーーーッ!!構ってぇええええええっ!!!!!」 突如、俺の胴に抱きついてくる彰利。 鬱陶しいことこの上ない。 悠介 「な、なにしやがる!離せ!お前を誘った俺が馬鹿だった!」 彰利 「さらりと懺悔してないで俺の話を聞いておくれよロザリン!!」 悠介 「誰だよロザリンって!!」 彰利 「知らん!」 悠介 「真面目に話す気がないなら引き止めるんじゃねぇーーーっ!!!」 ───……。 ───……。 彰利 「うぐっ……ヒック……ヒャック……ウグッ、オエッ……ゲェエエ……」 びちゃびちゃびちゃ…… 悠介 「泣きながら吐くなよ!なにやりたいんだよお前は!!」 彰利 「い、いや……軍曹さんの泣き真似してたらちょっと吐いちゃって」 悠介 「誰だよ、軍曹さんって」 彰利 「気にすんな!さあ鬱なんて吹っ飛ばせ!暗闇もぶっとばせ!!     まずアレだ!アレ!たこ焼きとか食おう!さっきクレープ屋も見つけたし!」 悠介 「……ま、いいけどな」 ………………。 ───というわけで、出店回り。 彰利 「ふーむ、これがクレープか……結構美味いんだな、初めて食った」 悠介 「実は俺もだ。たこ焼きは……まあ、この程度だなって味だが」 彰利 「そうさねぇ……っと、おい悠介悠介、     あんなところに『お茶同好会の店』があるぞ!」 悠介 「お茶同好会?……ふーん」 彰利 「あら、感心ない?あ、まままま、いいから入ってみよう!」 悠介 「いいけどな、べつに……」 暖簾(のれん)をくぐり、茶を頼む。 一応本格的にしたかったのか、お湯も茶立てもある。 着物を着た女の子がまず一礼をして、茶を立てるが…… 女子 「どうぞ」 悠介 「………」 礼儀として、それを口に含む。 が─── 悠介 「5点にも満たないな」 彰利 「うおっ!?」 きっぱりと言い切る俺に、彰利が驚いた。 彰利 「ゆ、悠介?そんな、本人の目の前で……」 悠介 「黙れ。こんなものは茶とは呼べない」 彰利 「あ、いや……えっと……ゴメンナサイ」 彰利を黙らせ、次いで女子を睨む。 女子 「あ、あの……」 悠介 「どけ。茶というものを教えてやる」 女子 「で、でも」 悠介 「どけと言っている!!」 女子 「はぁっ!は、はははいぃっ!!」 彰利 「……ダーリンが壊れた……?」 『やっぱりここに誘ったのはマズったか……』と言う彰利を無視して、茶を立て…… 悠介 「……ぞんざいだな。管理が行き届いてない。茶がダメになっている」 女子 「え……?」 悠介 「人を茶の湯に招くつもりなら、これは相手に対して失礼だ。     茶筅も適当に扱ってたようだな、ボロボロだ」 女子 「あ、あうあう……」 悠介 「なにより、湯を沸騰させすぎだ。これじゃあ風味を吹き飛ばすだけだ」 懐から自分の茶筒と茶筅を取り出し、お湯には創造した水を差す。 それらを使ってゆっくりと茶を立てる。 女子 「うわぁ……上手……」 やがて立てた茶を回し、女生徒に奨める。 悠介 「……どうぞ」 女子 「はい……」 彰利 「あれ……俺のは?」 悠介 「───!」(ギンッ!!) 彰利 「ひぃっ!?な、なんでもありません……」 女子 「……?」 女生徒がゆっくりと茶を口に含み、飲み込む。 女子 「……は……」 そして驚愕の顔。 女子 「お、おいし───あ、いえ……結構な、お手前……」 悠介 「………」 美味しいと言いそうになったが、思いとどまった。 俺は頷いてみせ、ゆっくりと立ち上がった。 彰利 「あ、あれ?もう出るの?」 悠介 「ああ。十分だ」 彰利 「……ごちそうになりに来た筈だったのに、ご馳走してどうするんだか」 ………。 ───……。 彰利 「次どこ行く!?次だ次!」 悠介 「和食甘味処」 彰利 「え゙……?ま、まさか……礼儀だの作法だのを知らしめるとか……     あ、いや、ィヤッハッハッハッハ!!そげなこと言わないよねぇっ?」 悠介 「お前にしては察しがいいな」 彰利 「ィヤァアアーーーーッ!!!!」 騒ぐ彰利の襟首を引っ掴み、引きずりながら店を回り続けた。 最後の頃には彰利はぐったりとして動かなくなり、耳から緑色の汁を流していた。
───男の祭り……了───
凍弥 「……いっそ、哀れだな」 悠介 「俺は当然のことをしただけだが」 凍弥 「………」 倭道に関してはツッコまないようにしよう。 それが無難だ。 でも実際、晦が淹れてくれたらしいお茶は美味かった。 凍弥 「なぁ晦。話は戻るわけだが……お宅のお孫サン、好きなものはあるか?」 悠介 「……どうだろうな。よく解らん」 凍弥 「ふむ……」 せっかく作ったメシも、結局俺と晦で摘んで食ってしまった。 何がしたかったんだ俺は。 凍弥 「好物で釣る作戦もやる前から無念に散るか。どうしたもんか」 悠介 「普通に凍弥に任せた方がいいと思うが」 凍弥 「俺だって凍弥だ」 悠介 「いや、そうだけどな。これはあいつらの問題だろ?」 凍弥 「んー……ほら、考えてもみろ。     俺が正直な告白した所為で今の現状があるわけだろ?     だったら俺が落ち着かせたくなるってもんだろ」 悠介 「断言してもいい。余計に関係が崩れるだけだ」 ひでぇ……そんなキッパリ言わんでも。 凍弥 「んーじゃあ、最後に一発だけ話し合いを持ちかけてみる。     ガキっぽくじゃなく、大人としてだ。それなら文句ないだろ?」 悠介 「元から文句なんてなかった筈だったんだけどな……どこで捻れたんだか」 晦の溜め息を聞きながら、俺は立ち上がって朧月嬢のもとへと赴いた。 ……で。 凍弥 「ク、クロノスチェーーーンジ!!」 また逆鱗に触れたらしく、俺はさっさと人格交換をした。 ……次に目覚めた時、俺は庭の石砂利の上に沈んでいた。 どうやら豪快に吹き飛ばされたらしい。 体を動かそうにも動かせず、想像を絶するダメージを窺えた。 なんて思っている内に空は曇り、雨が降っても動けなかったりしました。 あんまりだ、こんな状況。 凍弥 「そもそも和解を求めて、どうして殴られなけりゃならんのだ?」 やはりアレか? フレンドっぽく振る舞うために無意味に褒めちぎったのがマズかったのか? 『お前の目、赤いよなっ!今日からレッドアイズと呼んでいいかっ?』 ……と、言っただけだったんだが。 なんだか考えれば考えるほど殴られて当然の要素が見つかった、悲しい秋の午後でした。 Next Menu back