───カンタロスの華麗なる一日───
───それは、とある冬の日のお話。 女A 「ねーねー知ってるー?この辺りに(かん)サマが来てるんだって!」 女B 「え!?ウソ!ホント!?」 女A 「ホントホント!会いたいよねー!」 ふと耳に聞こえた声が、ヤケに大きく聞こえることってのはあると思う。 凍弥 「ん───」 けど、別に気にすることでもないなと思い、また普通に戻る。 毎日ってのはこんなことの繰り返しだと思う。 ───……そしてふと。 口に出してみたことが、何かのきっかけになるのもまた日常ってことで。 凍弥 「なぁ椛。冠サマって……知ってるか?」 椛  「なんですか?それ」 凍弥 「なんだろな……擦れ違った女が全員言ってる気がしてさ。誰のことかなって」 椛  「知りません」(キッパリ) 凍弥 「う……あ、いや……あのな?別に擦れ違った女を見てたってわけじゃないぞ?」 椛  「いきなり何を言ってるんですか?わたしは全然そんなこと気にしていませんよ」 凍弥 「……そのバカ丁寧な言葉が、結論を物語ってる気がするんだけどな」 結局それだけ。 特になにが変わるわけでもないなと思う日常に身を置くことで、 今日もまた自分の身の周りに相応しい日常が訪れる。 ───筈だった。 ドンッ! 凍弥 「おわっ!?」 椛  「凍弥先輩っ!?」 誰かが俺にぶつかった。 そいつは眼鏡を掛けて帽子を被った、一見すると変質者に見えなくもないヤツだった。 男  「チッ───どこ見て歩いてんだっ、気をつけろっ!」 女A 「あっ!あの人!冠サマじゃない!?」 女B 「えっ!?ウソッ!」 男  「っ───!やべっ……!」 男が走り去っていく。 それを女達が追うことで、元通りの日常が帰ってくる。 凍弥 「……なんだったんだか」 椛  「わたしの凍弥先輩にぶつかっておいてあの言い草……!     今度会ったらただじゃおきません……!」 凍弥 「いいって。有名人なんてあんなもんだろ」 それに二度と会うこともないだろ。 そう付け足して、のんびりと歩いた。 登校中ってゆう、日常の出だしからああゆうヤツに会ったことなんて忘れたい。 代わり映えの無い日常ってのは意外に貴重なモンだから。 ───……。 ドンッ! 冠太郎「つっ……!おいっ!何処見て歩いてんだっ!」 男  「………」 ったく……!今日はよくよく人にぶつかる日だ……! せっかくゆっくり出来ると思ったのに、これじゃあ休まらねぇじゃねぇか! 冠太郎「今度からは気をつけろよっ!」 俺は、ぶつかった拍子にたこ焼きを落とした男に向かって吐き捨て、走り出した。 ガッシ! 冠太郎「あ───?なんだよ」 男  「おい兄ちゃん、てめぇでぶつかって来て『気をつけろ』もねぇってもんだ」 冠太郎「……フン」 やれやれ……こいつ、俺が剣冠太郎(つるぎかんたろう)だって知らねぇんだな? 冠太郎「俺が誰だか解らねぇのか?俺は剣冠太郎だぞ?」 男  「それがどうしたよ」 冠太郎「チッ……これだから流行り廃りに疎いヤツは……」 仕方なく、持っていた色紙にサインをして渡してやった。 冠太郎「ホラ。それで好きなだけ買い直せよ」 男  「うっわ汚ェ字……。お前さ、小学校からやり直した方がいいぞ?」 冠太郎「なっ───こりゃサインだよサイン!!ンなことも解らねぇのか!!」 男  「サイン?ンなもん俺だって出来るわ。そら」 冠太郎「がっ……!」 男は俺からペンを奪うと、俺のサインの横に名前を書いて見せた。 滅多にサインなんか書かない俺のサイン色紙だ、売れば10万は行くってのに! 冠太郎「おいお前!何考えてんだよ頭悪ィのか!?」 男  「俺が今考えてることはお前にたこ焼きを弁償させることと、     人に対する礼儀だけだけど」 冠太郎「〜〜っ……!つきあってられっか!もう行くぜ!」 男  「だめだ」 冠太郎「ンッだよ!離せよ!離───!?」 振り払おうとしたが、男の握力が強過ぎるのか、離せやしなかった。 男  「さあ、たこ焼き弁償しろ」 冠太郎「ったく!待ってろ、今サイン書きなおしてやるから、それ売って金にしろよ!」 男  「はい?ナメとんの?キミ」 冠太郎「あ───?なんだと?」 男  「俺はお前に弁償しろっつとんのじゃーーっ!!     言葉通じてるんか!?えぇーーっ!?おんどれ何県民じゃい!!!」 冠太郎「なっ───」 男  「なんでも金で解決かね!?金があれば幸せなのかね!?     金なんて腐るほど持っとんのじゃ!     お前のサインなんぞ、この小判一枚にも勝てぬわ!」 男はそう言って、小判を見せた。 冠太郎「……ハッ、どうせ金メッキのニセモノだろ?     知ってるぜ?こうやって噛めば解るんだ」 ゴリッ。 冠太郎「ほらみろ、メッキが剥がれて……」 ……ない。 冠太郎「ホンモノォーーーーーーーーーッ!!!!???」 男  「こっ……このわらしゃあ!!アタイの過去世界の大切な思い出の品を!!     オメェアレだな!?俺に喧嘩売ってんだな!?ちょっとツラ貸せコナラァッ!」 冠太郎「ちょっ、待て!どうしてホンモノの小判なんて───」 男  「たわけボケ!ンなこたぁ今は問題にもならんわ!!     人の思い出の品を汚らしい唾液で汚しおって!     たこ焼きにしたってそうだ!!アレはなぁ!     アルティメット人気店『メッサーノ』で二時間待って買った、     伝説のたこ焼きなんだぞ!?キミはなにかね!?     サイン色紙ごときでたこ焼きが作れるとでも思っているのかね!!」 冠太郎「う、あ……!なにしがやる!俺は冠太郎だぞ!?     こんな引きずるようなことしてタダで済むと思ってんのか!?」 男  「アタイは弦月彰利なり!!そして貴様は冠太郎!それがどうした!     名前名乗って誇らしいかね!名前がそんなに偉いかね!えぇーーっ!?」 冠太郎「な、なに考えてんだてめぇ!俺に手ぇ出したら業界が黙ってねぇぞ!」 彰利 「業界?……ハッ!俺を殺したいなら核兵器かママっちでも呼ぶんだな!!」 冠太郎「う、うわぁーーーっ!!」 ───……。 ───……よく解らない石段を登った先の家。 俺はそこに連れられ、モノを食う男を前に座っていた。 彰利 「へー、そんで?お前は仕事の休暇日に落ちつける場所へ行こうなんて甘い夢見て、     外界に飛び立ったカゴの中のトンビの……カンタロス?」 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ 冠太郎「モノ食うのか理解するのか(けな)すのか間違えるのかどれかひとつにしろよ!!」 彰利 「カスが」 冠太郎「ムッ───ムギィーーーッ!!屈辱ーーーッ!!!!」 彰利 「おーおー、髪の毛こんなに染めちゃって。髪の繊維がボロボロじゃん」 冠太郎「なっ!触ってんじゃねぇよ!」 彰利 「安心しろって、俺のも触らせてやっから!ホ〜レ!     ゲッゲッゲッゲッゲッゲ……」(ざわざわざわ……) 冠太郎「な、なにしやがっ───ヒイ!!髪が伸びっ……イヤァ!イヤァーーーッ!!」 悠介 「そのくらいにしとけ……」 彰利 「あら悠介」 冠太郎「はっ……はぁ……」 た、助かった……! 悠介 「ったく、いきなり男を連れてきたと思ったら、支柱に括りつけて遊びか?     よくよく暇だよな、お前も」 彰利 「まあね」 冠太郎「……な、なああんた!」 悠介 「うん?」 こいつだ……こいつなら俺のことを知ってる筈だ! この彰利ってヤツよりは常識がある! 冠太郎「お、俺は剣冠太郎だ!この縄をほどけっ!」 悠介 「俺は晦悠介だ。それから、今のは人にものを頼む言葉としては適当じゃない」 冠太郎「なっ───てめぇも流行りを知らねぇヤツかよ!     この街は世間知らずの巣窟か!?」 悠介 「───……」 彰利 「あーあ、俺知〜らねっと」 冠太郎「あ?」 悠介と呼ばれたヤツが、俺の目の前まで歩いてきて屈んだ。 悠介 「初対面だからな、注意するだけで済ませておいてやる。     ……俺はな、『流行り廃り』なんてものが大嫌いなんだよ……!     俺達の好みや趣味の基準や範疇をてめぇが勝手に決めんじゃねぇ……!!」 冠太郎「───!」 な、なんだ……!? 一瞬、目が赤くなったように見えたような……! 冠太郎「は、はははっ!流行り廃りが嫌いだって!?     だからこんな古臭い屋敷に住んでんのか!オーケーオーケー!     おいお前、俺を解放してくれたら俺の別荘を貸してやってもいいぜ?」 彰利 「うわっ!バカっ!」 冠太郎「あぁ?なん」 バガァンッッ!!!! 冠太郎「ブゲッ───」 血が飛び散りました。 ええ、雷刃一閃って感じのブチギレナックルでした。 支柱を男の頭ごと破壊せんばかりの威力だった。 バカだねー、こいつ。 悠介の前でこの家をバカにするなんて。 この家は嗄葉の時代から建ってるってことが解ったからねー、 それを馬鹿にするってことは、日本文化を馬鹿にするのと同じだ。 彰利 「うぅわっ……支柱が軋んじまってる……!     こりゃ回復してやらんと死にますな……ベホイミ♪」 パァアア…… 彰利 「はぁ……。悠介ったら過去文化が好きな分、     流行好きで過去を見下す現代の若造が嫌いだからなぁ〜……」 まさか目を変異させてまで殴るたぁ思わなんだ。 当たりどころ悪けりゃ死んでましたよ? 怒ってさっさと出て行っちまうし……。 彰利 「そこんとこいくと、小僧はある意味運が良かったな。     隆正や鮠鷹の意思を継いでるから、現代より過去文化が好きだし詳しいし」 悠介も小僧のことは気に入ってるしねィェ〜。 冠太郎「う……ぐ……?」 彰利 「ややっ!目が覚めたかね!」 冠太郎「ここは……いつっ……!?……っあの野郎……!俺の顔を殴りやがった……!」 彰利 「馬鹿かオマエ。あそこまで見下した態度とってりゃ殴られて当然だろが。     なにオマエ、聖人君子とでも言い争ってたつもりか?」 冠太郎「う、うるせぇ!俺の顔はダイヤ以上の価値があンだよ!!」 彰利 「なんと!ダイヤより価値があるってのにあっさりと鼻を折られたのか!?     謝れ!金剛拳の楊海王に謝れ!貴様は金剛拳のツラ汚しだ!!」 冠太郎「わ、訳解ンねぇことで罵んなっ!!」 彰利 「そんなに顔が大事ならヒゲ生やしてやるヒゲ。ほぉ〜れダンディ〜」 冠太郎「な、なにしやが───ヒィ!ヒゲが!ヒゲ生えてきたぁーーっ!!」 彰利 「いきなりこんなにヒゲ生やすなんて貴重な体験だよ〜?」 冠太郎「思いっきりハタ迷惑だ!!何モンだよてめぇは!!」 彰利 「うむ……これは長ヒゲ世界記録かもしれん」 冠太郎「人の話を聞けぇーーーっ!!!!」 彰利 「解ってる……なにも言うな……。     お前が一時の安らぎを求めて、一歩を踏み出したことくらい……」 冠太郎「あ……」 彰利 「気にするな……お前がゲイバーに通ってたことは黙っててやるから」 冠太郎「なにでっち上げてんだてめぇーーーっ!!!     一瞬でもジーンときちまった俺が馬鹿だったわ!!!」 彰利 「だが、今の反応で解ったよ。お前は安らぎが欲しかったんだな?」 冠太郎「っ……」 カンタロスが俯き、『チッ……』と言ってみせた。 彰利 「お前はファンからも業界から逃れて、     一度だけでも本気で休んでみたかった……そうだろ?」 冠太郎「……ああ、そうだよ。俺は疲れてたんだ……。     ファンの期待に応えるのも、業界に頼られるのも……。     だから離れたかったんだ……ファンからも、業界からも……」 彰利 「そうか……」 アタイは俯くカンタロスの肩にポンと手を乗せ─── 彰利 「ホーレ肩毛〜」 肩に月然力を流して毛を生やしてみせた!! 冠太郎「ギャアアアーーーッ!!!     な、なにしやがんだっ……なにしやがんだぁーーっ!!」 彰利 「この馬鹿ーーっ!!」 ばちーーん!! 冠太郎「ぐはーっ!!」 彰利 「なにが『ファンから離れたかった……』じゃーーっ!!     おんどれ散々っぱら『俺は冠太郎だ』とかサインがどうとか言ってただろうが!     オメェアレか!?こりゃドッキリか!?だとしたら面白すぎンぞお前!     笑いてぇなら腹筋が壊死するまでマツタケモドキ食わせてやンよ!!     オラ口開けろこの野郎!!」 冠太郎「ヒィ!頭にキノコが生えっ───イヤァ!イヤァーーーッ!!     食わせないで食わせないでぇーーーーっ!!」 ───…………。 冠太郎「ぶわぁーーーっっははははははは!!!!かはっ!ごほっ!がはははは!!!     げっほ!がはははははは!!〜〜〜っ……はっっっっ───!!!」 彰利 「……有名人 笑えばただの ヒューマンぞ」 笑い方がすっげぇオヤジっぽい。 まあ、笑気マックスになれば誰だってこうなるけど。 ……アイドルも所詮こんなもんか。 などと思っていると、ルナっちが壁抜けして現れた。 ルナ 「ちょっと五月蝿いわよ……って、なにそいつ」 彰利 「ああ、この涙と鼻水とヨダレ垂らしながら爆笑してるヒゲヅラの自称アイドル?     カンタロスという名前らしい。きっとモンスターハンターのファンだぜ」 冠太郎「ちがっ……!げっほ!ごはっ!た、たすけっ……腹、痛ぇ……!」 ルナ 「……苦しんでるみたいだけど?」 彰利 「こいつの趣味なんだ」 ルナ 「傍迷惑な趣味ね……余所でやりなさいよ。     それはそうと、悠介の機嫌が悪いんだけど……なにかあった?」 彰利 「ああそれね。こいつが『女紹介しますぜ旦那』とか言ってきてさぁ」 ごちゃあ!! 冠太郎「ブゲッ!!」 ───……。 彰利 「キミ、命いらんの?あんなこと言うなんて」 冠太郎「お前が言ったんだろうがぁーーーっ!!なんなんだよあの女!!     女なのに俺を殴りやがった!信じられねぇ!」 彰利 「有名人になったからって世界見えてる気になってんじゃねぇクズが」 冠太郎「のっ……罵るにしたってもうちょっと選ぶ言葉ってもんが!!」 彰利 「クズが」 冠太郎「選んでそれ!?」 彰利 「あーーー……まあ、いい加減真面目に話そうか」 こう馬鹿やってても先に進まん。 彰利 「んで?お前がゲイバーに通ってたとこまでは解った。それで?」 冠太郎「なんにも解っちゃいねぇじゃねぇかぁーーーっ!!」 ちゃぶ台ひっくり返さん勢いでカンタロスが猛った。 いちいちうるさいやっちゃのう。 彰利 「わぁったよ、ひとまずゲイバーの件は俺の胸の中に仕舞っといてやる。     誰にも言わねぇから安心しろ」 冠太郎「ちゃっ……ちゃっかり事実として受け入れてやがるっ……!!」 彰利 「そんで?結局どうしたいんだよ。     ふんどし一丁で街を走りたいんだったらひとりでやってくれよ?     同種族だと思われたくない」 冠太郎「ふんどし!?喩え話にしたってもうちょっと程度ってもんが───種族!?」 彰利 「寄るな、ふんどし菌が伝染る」 冠太郎「どんな菌だよ!!」 彰利 「フッ……言わばアイドルが隠し持つ新種のウィルスと言ったところか」 冠太郎「そんなもん隠し持ってねぇっ!!」 彰利 「隠さないのか!?……お前がそんなに堂々としたインキン持ちだったとは……」 冠太郎「なんの話をしてんだァーーーッ!!!!」 大口開けて唾を飛ばしつつ咆哮する有名人。 もはやカッチョマンとしての自覚は皆無だろう。 彰利 「でさ、ハッキリ言ってさ。     この街に有名人なんぞが居ると害虫にしかならんから失せろ」 冠太郎「際限無しにストレートな物言い!?     て、てめぇなんの権利があってそんなこと言いやがる!!」 彰利 「簡単なことだ。     人としての礼儀を無くしたクサレ有名人など邪魔だと言ってるんだクズが」 冠太郎「もうちょっと言葉選べよ!傷つくだろうが!     お、俺みたいな売れっ子なヤツは心が繊細なんだぞ!?」 彰利 「自分で心が繊細だって……プッ、ダセェ」 冠太郎「ム……ムギィーーーーッ!!!!」 なにやらとても有名人とは思えんツラで血管モキモキのカッチョマン。 なにやらとても可哀相になってきた。 彰利 「苦労してんだな……」 冠太郎「今この時にお前以外の誰が俺に苦労かけてるっつぅんじゃぁーーーっ!!!」 おお泣いた。 彰利 「よっしゃ、それでは貴様を外界へと連れてってやろう。     そこで思う存分楽しんだら成仏するんだぞ?」 冠太郎「す、既に幽霊扱いッ……!」 アタイはカンタロスを抱え、外へと 冠太郎「ま、待てよっ!こんな格好で出たら俺が冠太郎だってことがバレ」 彰利 「脱穀スープレックス!!」 ビターーン!! 冠太郎「ギャーーッ!!」 抱えてたカンタロスの足を掴み、勢いをつけて畳に叩きつけた。 彰利 「おんどれ頭薄いンかオラァーーーーッ!!!??     だったらそんな格好で外界に出てたお前はどこのどなただこのナルスィー!!     一般常識を知らないてめぇは何星のイキモノだこの野郎!!」 冠太郎「げほっ!げほっ!……ンなこと言ったってよ……!     事務所から抜け出す時に着替えなんて悠長なこと出来るわけ……」 彰利 「なんですと!?それでは自覚があったにも関わらず、     ぶつかったアタイにあげな偉そうなことを言ったのかね!     お前もうこっち来い!!その性根を服装からコーディネートしてやる!!」 冠太郎「最初に言っておくが俺はブランド物の服しか」 彰利 「一本足打法ォーーーッ!!!」 バゴォオオオン!!!! 冠太郎「ギャアアアアアア!!!!」 カンタロスの足を掴み、壁に向けて思いっきり振った。 カンタロスの上半身が壁にしこたま打ち付けられた。 彰利 「おんどれホントに安らぎ求めてんの!?     高価なもの装着してりゃあ休まるんだったら事務所に返品するぞタコ!!」 冠太郎「モ、モノ扱いすんな……!」 彰利 「黙れジュエルマン!お前なんて通販で手に入れた商品並にカスだカス!!     紹介では良さそうなのに手元に来てみればカスでクズでゴミな物体だ!!     このスチームクリーナ−MOZMAめが!!」 冠太郎「モズマじゃなくてオズマだろうが!!」 彰利 「おやぁ〜〜〜?ジュエルマンともあろう者が通販商品を知ってるのかねぇ〜?」 冠太郎「ぐっ……!るッせぇな!俺がどんなものに興味持とうが勝手だろうが!」 彰利 「リバースパワーボム!!」 ブワァアッ!!───ドッッパァン!! 冠太郎「ブギャーーーッ!!!」 彰利 「自分だけ『勝手だ』とか言ってんじゃねィェーーッ!!     おんどれアタイや悠介になんて言った!?流行り廃りがどうとか言ったよな!     それこそ俺達の勝手だってことに何故気づかなかったんだスダコ!!」 冠太郎「げほっ!げほっ!お、俺とお前らとでは住む世界が違うんだよ……!」 住む世界が違う、って…… 彰利 「……火星人?」 冠太郎「違うッッ!!」 彰利 「地球へようこそ!そして帰れ!」 冠太郎「歓迎するのかしないのかハッキリしろ!!そもそも俺は火星人じゃねぇ!!」 彰利 「すまん……ナメック星人だったのか……」 冠太郎「違うッッ!!」 彰利 「うるせぇぞカス、近所迷惑だろうが」 冠太郎「ムギィーーッ!!この世間知らずがァーーーッ!!!」 簀巻きにされたカンタロスに何を言われようとどうでもいい。 そげなことより、いい加減に用意をするとしようか。 ───さて。 彰利  「うお……変態が居る」 冠太郎子「お前が着せたんだろうがァーーッ!!」 目の前で泣く変態。 試しにアタイ製のメイド服を着せてみたんだが……うわぁ変態だ。 彰利  「キミさぁ、仮にもイケメンアイドル謳ってるならさ、      スネ毛くらい剃りなさいよ……。      もっと、こういう事態が起こり得ることを想定するべきだぞ……?」 冠太郎子「どこの世界に      自分がメイド服着させられる未来を想定する男が居るんじゃあーーっ!!!」 てゆうかイケメンって言うな!とか謳ってるカンタロス子のスネは毛がもっさりだった。 顔は涼しげだが、中々に男性ホルモンが高いらしい。 彰利  「お前さ、この際だからモロッコに飛べ。男性ホルモン減らしてこい」 冠太郎子「唐突にモノ言うにももっと穏やかなことがあるだろが!!!」 彰利  「死ねカスが」 冠太郎子「穏やかに言っても言葉自体がドキツイわぁーーーッ!!!」 彰利  「いちいち五月蝿い上に注文の多いクサレカスだな……。      わぁったよ、服はそれ以外のを用意してやるから。      あ〜あ、このメイド服、もう汚くて着れないな」 冠太郎子「じッ……自分で着させといてなんだその言い草ァーーーッ!!!」 ───……。 ───……。 彰利 「オラ、これでどうよ」 冠太郎「黒服って……逆に目立つだろうが……。     それになんだよこの異様に長い付け鼻……」 彰利 「スパイ&スパイも知らんとは……。     まあいいコテ、腹減ったからまずはメシにしよう」 冠太郎「ハッ、ンなこと言って俺におごらせるつもりなんだろ」 彰利 「その通りだ」 冠太郎「少しは否定しろォーーーッ!!!     なんなんだよその今まで見たこともないような真面目な顔は!!」 彰利 「やかぁしいなぁ。だったらアレだ、ガイド料ってことで」 冠太郎「てめぇ今まで俺のことを有名人がどうとか言って貶してただろうが……!!」 彰利 「俺はその場で思いついた通りの素直な行動をする男だ。     いちいち有言実行を目指してたら肩が凝る」 冠太郎「お前絶対ロクな死に方しねぇぞ……」 彰利 「そういうお前はキレ痔が原因で死ぬと見た」 冠太郎「ロクでもなさすぎじゃあーーっ!!ひ、人の死に方勝手に決めんなァッ!!」 彰利 「アァハイハイ、服ナラ別ノヤツアゲルカラ、サッサト行キマショウネィェー」 冠太郎「む、無感情で面倒臭そうにいうな!!」 ワガママカンタロスを着替えさせ、アタイは一路ニッサンへ。 ……てゆうか、冗談で言うのもなんだが、懐かしいな、一路ニッサンへって。 ───喫茶カルディオラ・月詠支店。 おなご「いらっしゃいま……うあ」 ドアを開けると、ウェイトレスのおなごに大歓迎された。 彰利 「やったな、大歓迎だぞ」 冠太郎「今思いっきり『うあ……』って言われたわぁーーーっ!!     だから嫌だったんだこんな服!!」 ちなみにカンタロスが装備してるのは、殿様の服。 アタイが居るべき時代での某地域で名を馳せた、伝説の乱闘殿様の装備だ。 頭にはちゃんとヅラも装着させてある。 彰利 「ホレ、この太鼓叩いて『あー!あー!』と言え」 冠太郎「ワケ解らんうえに強制口調で言うなよ!!」 おなご「あの、すいません。店内で大声を出すのは控えてください」 冠太郎「なっ───あ、あのなぁ俺は」 彰利 「乱闘殿様です」 冠太郎「う……」 ギロォリとカンタロスを睨み、そう言う。 ウェイトレスのおなごは『は、はぁ』と言いつつ、現実逃避することに決めたらしい。 究極の営業スマイルで俺とカンタロスを席に案内し、足早に去って行った。 そして店内からはヒソヒソ話。 彰利 「よかったな。この店内はもはや、お前の噂でもちきりだ。さすが有名人。     ……だから、さ。俺に話し掛けないでくれる?     知り合いだって思われたくないからさ……」 冠太郎「有名にさせた本人が涼しげな顔で他人のフリして言うんじゃねぇーーっ!!」 彰利 「あ、すんませーん。注文いいすかー」 冠太郎「無視すんなァーーッ!!」 声をかけると、ウェイトレスさんどもが揉め始め、 やがて一番の新人らしいおなごが抜擢されたようで、俯きながら歩いてきた。 おなご「ご、ご注文は……お決まりでしょうか……」 彰利 「頭が高い!このお方をどなたと心得る!!」 おなご「ひゃっ!?ご、ごめんなさい!!」 彰利 「ええい、控えい控えい!!     このお方こそ、かつて名を馳せた伝説の乱闘殿様の……レプリカなるぞ!!」 おなご「は、ははーーっ!!」 彰利 「うお……」 冠太郎「うあ……」 まいった。 おなごが本当に土下座して控えてしまった。 ……店内の空気が一気に重苦しくなりましたよ……? 彰利 「……殿様、出番だ。面を上げいって言え」 冠太郎「な、なんで俺がっ……」 彰利 「いいからやれ……!」 冠太郎「〜〜っ……覚えてろよてめぇ……!」 彰利 「忘れましたじゃ」 渋っていたカンタロスだったが、やりづらそうな顔でようやく言う。 冠太郎「く、くるしゅうない……面をあげい……」 おなご「は、はいっ……」 緊張した面持ちで顔を上げるおなご。 どうやら、『NOと言えないおなご』のようだ。 不憫な……。 彰利 「殿は寛大なお方故、おぬしを許すそうなり。     くるしゅうない、姿勢を崩して立ちなさい」 おなご「はい……」 すっくと立ちあがるおなご。 アタイはこれを機に注文することにした。 彰利 「あっしはミルクティーとミルフィーユケーキセット。殿は水道水で」 冠太郎「人を無理矢理殿様にしといて水道水単品かよ!!     頭が高いのはどっちじゃぁーーっ!!」 彰利 「あ、失礼。殿は水道水と雑巾の絞り汁セットで」 冠太郎「く、屈辱的なセットなうえにどっちも液状かよッ!!」 彰利 「水道水と雑巾の絞り汁を凍らせたもののセットを」 冠太郎「固形物にすりゃいいってもんじゃねぇーーーっ!!!」 彰利 「注文の多いカスだなこの……。おなごさん困ってるだろうがボケカスイモハゲ」 冠太郎「人を殿様って言っておきながらそこまで罵んなぁーーッ!!     この娘が蟻ならお前は恐竜くらい頭が高いわぁッ!!」 彰利 「うわッ……散々嫌がっておきながら、     もうすっかり殿様ヅラだよコイツ……信じられねぇ」 冠太郎「信じられないのはお前の脳内じゃあーーーっ!!!泣くぞこの野郎!!     み、見るなぁっ!!汚物を見るような目で俺を見るなぁーーっ!!」 いやー、もうこいつ盛大に有名人から懸け離れてるな。 俺も時間を割いてやった甲斐があるってもんだ。 おなご「あの……もしかして、冠くん?」 冠太郎「あぁ!?なんだよっ!今誰かに構ってる場合じゃ」 彰利 「馬鹿野郎!」 ズパァン!! 冠太郎「ヴォヴァーーッ!!」 彰利 「ものを訊ねてるおなごに対してなんたる態度!     貴様、自分が殿様だという設定を忘れたのか!!」 冠太郎「設定を大いに破ってビンタするヤツに言われたかないわぁーーっ!!」 おなご「やっぱり……あの、わたし小学校の頃に同じクラスだった美和!     覚えてないかなっ!」 彰利 「知らん」 冠太郎「お前に訊いてるわけじゃないだろうが!!話の腰折るなよ!」 彰利 「キミが真面目に聞かないからでしょうが!     大体、服装からして真面目じゃないんだよねキミ!     公衆の面前で殿様ルックなんて、恥ずかしくないのかね!」 冠太郎「お前が着せたんじゃぁああーーーーーーーっ!!!!!!」 見苦しく涙を散らしながら怒号するカンタロス。 うーむ、元気だ。 美和 「えっと、あの……冠くん、だよね?」 冠太郎「あ、その……あ、ああ……」 彰利 「その時彼は彼女の目を見て、今までの自分の生き様が途端に恥ずかしくなった。     ああ、こんな俺を見ないでくれ美和……。     こんな、ヅラが太陽に反射している見苦しい俺を……」 冠太郎「滅茶苦茶で勝手なナレーション入れんなぁーーっ!!!」 彰利 「あの、眩しいから動かないでくれない?     前に乗り出されると丁度太陽が当たって眩しいんだよね、キミの頭」 冠太郎「ヅラを被せて顎に固定させて、     しかも鍵までつけたのは誰でしたっけねぇええええっ!!!」 彰利 「あんまり怒ってばっかだと本気でハゲるよ?」 冠太郎「ストレスの原因の塊がもっともらしいこと言うなぁっ!!!」 顔を真っ赤にさせながら激怒のカンタロス。 血管がピクピク躍動してて、中々に不気味だ。 美和 「……よかった、冠くんあの頃ままだ」 冠太郎「えっ……!?」 美和 「冠くん、テレビに出てるんだってね。     わたしそういうの疎くて解らないけど……ほら、     有名人になっちゃうと、昔の思いでとか捨てちゃうって聞いたからさ。     でも……大丈夫みたいだね。冠くん、昔みたいに元気だもん」 冠太郎「あ…………」 カンタロスが、俯く。 彰利 「そうか……殿様姿で『昔みたい』とか言われたのがショックだったんだな……」 冠太郎「違うッッ!!」 違うらしい。 むう、自信あったんだが。 美和 「それ、次のドラマかなにかの衣装なのかな。     わたし、あまりテレビとか見ないけど……これからは絶対に見るから頑張って!」 冠太郎「美和……」 ……ふむ。 幼馴染ってやつか。 しかも双方、初恋の相手と見える。 カンタロスはどうかは解らんが、おなごの方はまだ好きと見える。 アイドルなどではない、昔のままのカンタロスを、だが。 ここはおめぇ……アレだ。 なんとかしてやるしかねぇだろ? 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