───ヤツの名はスネ毛リオン───
……。 彰利 「さて……叫びツッコミばっかりしまくる、     どっかのヅラでハゲで俺の隣を歩いてる殿様の所為で追い出されたわけだが」 冠太郎「そこまで明確に言ってて『どっか』もなにもねェーーッ!!     誰の所為で追い出されたと思ってんだ!」 彰利 「え?殿の所為だろ?忘れたのか?」 冠太郎「忘れる以前にお前の所為だぁっ!!     それが当たり前みたいに俺に擦り付けんなっ!!」 美和 「元気だよね、ふたりとも……。     わたしなんかとばっちりで、さっきの服買えなかったよ……」 彰利 「まったくだ……そうそうねぇぜ?ウェディングドレス売ってる場所なんて」 冠太郎「買うつもりだったのかよ……」 彰利 「ああ。だが手持ちがなかった」 冠太郎「なに素で返しとんじゃあーーーっ!!!     普通こういう場合は否定するもんだろがァアーーーッ!!!!」 彰利 「いちいちうるさいよね、殿って。     そうやってすぐカッカするところ、人としてダメだと思うな俺」 冠太郎「ウェディングドレス試着しながら店内を練り歩くヤツは     人として良いっていうんですかねぇっ!!!」 彰利 「いいに決まってんだろなに言ってんだこのスネ毛カス。     ウェディングドレスに憧れるおなごさん達に謝れ」 冠太郎「スネ毛カス!?なにこのヒドイ中傷ッ!!     って、俺は男であるお前に言ってんだよ!!女は関係ないっ!!」 彰利 「男がウェディングドレス着ちゃいけない法律なんざ無いわ!!     だから着てもいいんじゃい!     だからモロッコへ飛べ、そしてスネ毛を消してから着ろ」 冠太郎「俺は着たいなんて一言も言ってねぇ!!」 それもそうだ。 彰利 「しっかしウェディングドレスの話題を出してれば華やかになると思ったのに、     『スネ毛』の一言で華やかさの欠片も無くなったな……」 冠太郎「さっきからスネ毛スネ毛言ってるのはお前だけだろが!!!」 彰利 「栽培してるのはお前だけどな」 冠太郎「さッ……栽培とか言うなァーーーッ!!!!」 さてさて……カンタロスが今日だけで何回叫ぶつもりなのかは知らんが、 なんにせよいい加減上手いことしてもらわねば。 さて……そうなると何処がデートスポットとかに良いのやら……知らん。 考えてみりゃあアタイってデートとかした時ないのよね。 まいったなぁ。 彰利 「んー……よっしゃ、ゲーセンにでも行くか」 冠太郎「ゲーセン?面白いのか?」 彰利 「さあなぁ。アタイも滅多に行かないから」 美和 「女の子連れでゲームセンター行くのって減点ですよ?」 彰利 「大丈夫、減点されるのはどうせ殿だし」 冠太郎「『どうせ』とか言うなよ……」 さっきからチョロチョロしてばっかだなぁと思いつつも、 アタイ達はゲーセンに行くことにした。 ───そして。 冠太郎「お、パンチングマシーン!俺、一度こういうのやってみたかったんだよな〜」 カンタロスがコインを入れて、グローブをはめた。 彰利 「殿様姿でパンチングマシーンをやるのがお前の宿願だったのか……」 冠太郎「ちがわい!!」 バスンッ!! カンタロスがサンドバッグに模した計測器を殴る。 すると、162という数字が表示された。 冠太郎「へへっ、有名人はひ弱だとかよく言われるけどな、俺はそうでもないんだぜ?」 彰利 「もっとひ弱なのか……可哀相に……」 冠太郎「無理に哀れむのもやめろ!!」 バスゥンッ!! ガシャッ!ガシャッ!! 冠太郎「え……」 彰利 「オウ?」 まだ殴る回数が二回残ってる筈のマシーンを殴る影があった。 ……ガラの悪そうなあんちゃんだ。 男  「へっ、318だってよ、だっせぇの」 冠太郎「な……」 男  「あ……?ンだよ、なにジロジロ見てんだ?殴られてぇのかよ」 冠太郎「あ、いや……」 美和 「ちょっと、なに割り込んでるんですか!」 男  「あぁ?」 彰利 「む……!」 なんと、ガラの悪いあんちゃん……てゆうかおっさんに講義を唱える美和っち。 ちなみにおっさんってのは、 アタイはこういう輩は年齢に関係なくおっさんと呼ぶことにしているから。 美和 「あのっ!割り込むのはよくないと思います!」 男  「うっせぇな、だったらねぇちゃんがやってみるか?ホレ」 美和 「きゃっ!?」 おっさんは美和っちの手を乱暴に掴んで、そのままマシーンを殴った。 美和 「あぅうっ!!!」 バァン!という音が鳴り、美和っちは表情を歪ませて屈み込んでしまった。 相当痛い筈だ。 男  「おーおー!200だってよ!お前、そこの男よりパンチ力あるじゃねぇか!     ウヒャヒャヒャヒャッ!!うざってぇことすんなよバカアマが!!」 ……野郎、許せん。 ここで殴りつけるのは簡単だが、女だからって見下された美和っちの無念は晴らせない。 ───となると。 アタイはまず物陰に隠れてから月空力を発動させた。 ───……。 キィンッ!! 椛  「ひゃっ!?」 凍弥 「うおわっ!?」 降り立った場所は如月高等学校の屋上。 そこで椛と小僧がちちくりあっていた。 だがそんなことはどうでもいい。 彰利 「椛、チスの邪魔をしちまったのは謝る!だが一刻を争う自体だ!     俺を───また女に変えてくれ!」 椛  「え───えぇっ!?どうして───」 彰利 「椛さん、じいやはね?一刻を争うと……そう言っておるのだよ。     そのような質問は……また今度にしてくれたまへ」 椛  「は、はい……」 あいつ、マジで許せん!! 女をナメとったらどうなるか───存分に思い知らせてやるわ!! 彰利 「あ、身体能力はそのままな」 椛  「う、うん……」 ───……。 ───キィン!! 男  「はぁ〜あ、ったくムカツクやつだぜ」 彰利子「待てコラハゲ!……じゃなくて、待ちなさい」 男  「あぁ?」 転移してからすぐさま、おっさんに待ったをかける。 そいつの傍まで行き、キッと睨む。 彰利子「わたしと、勝負してください」 男  「ハッ、こりゃまたカワイイ娘が出てきたじゃねぇか。     じゃ、アレだ。俺が勝ったら俺に付き合ってもらうぜ?それならいいけどな」 彰利子「構いませんよ。それで、わたしが勝ったら?」 男  「ンなこと有り得ねぇよ。なんでもやってやるぜ?」 彰利子「そうですか。それじゃあ始めましょうか」 男  「金はてめぇが出せよ」 彰利子「いいでしょう」 コイン一枚を弾き、マシーンを起動させる。 冠太郎「お、おいお前!関係無いのに……!」 彰利子「関係ありますよ。誰も守ろうとしない男に、価値なんてありませんから。     この人は女の敵でありながら男の敵でもあります。     典型的なクズ野郎ですね。     自分だけ守れればいいとか思ってる割に、自立すら出来てない存在です。     そのくせタカることしか考えてない……ほんと、救いようのないクズです」 男  「───ンだとォッ!?」 彰利子「殴るのでしたら相手が違いますよ?     ほら、その怒りをマシーンに叩きつければいいじゃないですか」 男  「チッ!オラァッ!!」 ゴバァン!! おっさんが怒り任せにマシーンを殴る。 数値は342。 男  「どうだよ!これが男と女の差だよ!     女なんかに抜けるかってんだよクソアマが!!」 彰利子「言ったなぁ〜?よ〜し、アッちゃん負けないぞぉ〜♪」 男  「ヘッ!今更可愛く見せて逃げようったって、そうはいかねぇよ。     お、なんならマシーンの代わりに俺を殴るか?     ま、あとで泣いてもらうんだから、それの貸しってことでよぉ。     んじゃ、いちにのさんで殴れよ?いち、にの、さ」 メゴシャアァーーーーン!!!!! 男  「んベェーーーーッ!!!!!????」 言われた通りに殴ってやった。 ちとフライングだが、おっさんは地面と平行に飛んでいって壁にぶつかり、 糸の切れたマネキンみたいに倒れた。 彰利子「思い上がるなよクソカスがぁ……」 てゆうか……殴ったまではいいが、おっさんが動かない。 ……えーと。 どうしたもんでしょ? 彰利子「わたし達は愛と正義のために戦いました……。     ゲーセンはゲームを楽しむ場所であり、     カツアゲや喧嘩のための場所じゃあありません。よござんす?」 冠太郎「あ、あ……ああ……」 彰利子「それだけ聞ければ十分です。んじゃ、行くか」 冠太郎「へっ!?い、行くって何処に!」 彰利子「何処って……なにラリってんじゃいお前。     こんなクズの居ない楽しい場所探すんじゃい」 冠太郎「それはいいけどっ!どうしてお前が付いてくるんだよ!」 彰利子「馬鹿かねキミは!アタイが連れ出したんだからアタイが付いていくのは───」 ……マテ。 こいつ、アタイがアタイだということがてんで理解出来てねぇや。 ここはひとつ、正直に話そう。 って考えてる内に、カンタロスは美和っちを立たせてさっさと外へ行ってしまった。 彰利子「こ、これ貴様ら!無視はいかんよ無視は!!」 ───……。 美和 「居心地悪かったね……」 冠太郎「ああ……。俺、二度とゲーセンには行かねぇ……」 彰利子「その気持ちは解るよ、殿」 冠太郎「ってうわぁっ!!ど、どうして付いてきてるんだよ!!」 彰利子「へ?なんでって……ホレ、まだ遊びの途中だったっしょ」 冠太郎「俺はあんたなんかと遊んじゃいない!」 彰利子「むう……」 やっぱアタイだと気づかれてない? 確かに女になっただけでかなりの変貌を遂げてますからなぁ。 彰利子   「アタイですよアタイ、弦月彰利。故あって、女になっちゃいますが」 冠太郎&美和『え───えぇえええええええええっ!!!!!??』 本気で驚かれてしまった。 しかも体中ぺたぺた触られてる。 特に美和っちに。 彰利子「なにをなさる!」 美和 「……ショック……わたしよりスタイルいいし顔もいい……」 冠太郎「女だったのかお前……あ、じゃあ名前は偽名だったのか?なんていうんだ?」 彰利子「彰利子だ」 冠太郎「そッ……そのまんますぎるわァーーーッ!!!     なんだそのヒネリの無い名前!!少しはひねれよ!!」 彰利子「じゃあ、狼田漢☆義流津(ろうたかんぎるつ)だ」 冠太郎「ヘンすぎるわ!!元の名前から離れすぎにもほどがある!     なんだよそのヘンな名前!!」 彰利子「ハイ、狼田漢☆義流津を逆にして読んで見ると〜……」 ジャジャ〜〜ン!! 彰利子「アラ不思議、剣冠太郎に!うわははは!!ヘンな名前ヘンな名前!!」 冠太郎「こ……こんなところにだけヒネリを入れんなァーーッ!!しかも意味ねぇ!!」 美和 「はぁ……でも不思議。……えーと」 彰利子「彰利。弦月彰利ぞ?」 美和 「彰利さんが手に触れてきたら、痛みが無くなっちゃった」 彰利子「実は俺は、勇者を影でサポートする妖精だったんだ」 冠太郎「それが当然みたいにウソつくの、やめたほうがいいと思うが」 鮮やかかもしれないツッコミだ。 カンタロスも大分、人との会話に『見下す感』が無くなってきた。 いいことだ。 彰利子「しかし───……」 困ったぞ、こげなことでよかですか? アタイの目的は美和っちとカンタロスをハッピーにすることだったが、 ひとつ問題点が浮かんだ。 有名人とのお付き合いってのは気苦労が絶えないもんだ。 特にこのカンタロスが相手では、美和っちが参ってしまわぁな。 …………よし却下! ラヴ作戦は放棄!只今よりただ遊び尽くす修羅となる!! 彰利子「よっしゃ!次はアクセサリー屋にでも行きますか!」 冠太郎「断わっても連れていくくせに、なに大声あげてんだか」 彰利子「なんだとてめぇ!」 冠太郎「……わかったよ、付き合うよ……ったく……」 美和 「彰利子さんっ!その顔で怒ったら、カワイイ顔が台無しですよっ!」 彰利子「か、カワイイとか言うの……やめてくれません?」 男としての愛が痛い……。 ───さぁ!アクセサリー屋に来ました! 煌びやかなアレコレに、どこかオシャレを目指したかもしれない眼鏡など。 結構いろいろある。 彰利子「ほへ〜、初めて入ったけど……」 冠太郎「気に入ったとか言う気か?」 彰利子「気軽さを持ってこれなくて息苦しいわカスが。なにこの店」 冠太郎「素直に意見しすぎだァーーーッ!!!     も、もうちょい気遣いを持って発言しろォーーーッ!!!」 彰利子「うわ〜、どこもかしこも清潔すぎて、これ見よがしっぽくてステキ〜♪     なにこの幸せになれるイヤリングって〜。うわぁ〜、胡散臭そぉ〜っ♪     こんなイヤリングひとつで幸せになれるなら苦労はしないわクソカスがぁ〜♪」 冠太郎「たッ……楽しげな声なのに言葉がイタすぎるッ!!!!     失礼だぞお前!しっ……失礼だぞお前ぇーーーっ!!!」 彰利子「精一杯、気遣ってみました」 冠太郎「き、気遣ってあの暴言ッ……!!お前今すぐ『気遣い』を辞書で引け!!!」 彰利子「気遣い……『心配すること』。……だからどうした!!」 冠太郎「開き直ンなァーーッ!!!」 彰利子「やかましい!!     大体貴様こそ意味解ってて『気遣い』がなんたら言ってきたのか!?     この店に俺の心配が必要だってのかこのチンクシャがァーーッ!!」 冠太郎「チ、チンクシャッ……!!     言葉の意味は解らんがヒドく侮辱された気分だァーーッ!!」 彰利子「当然だ、侮辱だからな」 冠太郎「ムギィイイーーーッ!!!!」 さて、あくまで他人のフリを続ける美和っちを余所に騒ぎまくる俺とカンタロス。 これはこれで楽しくやっております。 ふたりの先を考えれば、くっつけるべきじゃないし。 ならばこそ、こうやって騒いでれば自然に美和っちも呆れるというものよ〜!! 彰利子「冗談はこれくらいにして、アクセサリでも見るか。     ……っと、これなんかどうだ?お前に似合いそうだ」 アタイはひとつのアクセサリを手に取り、カンタロスに見せた。 それは人差し指ほどの大きさの骸骨を三つ付けて装飾したようなもので、 なんとも呪われそうな雰囲気抜群だった。 冠太郎「凶々(まがまが)しすぎるわ!!!     てゆうかどこにあったんだこんなもん!!!」 彰利子「俺がこの日のために作ったんだ」 冠太郎「なんて手の込んだ嫌がらせを───ヒィ!!     なんか骸骨の顎が動いてッ……!イヤァッ!イヤァアーーーーーッ!!!!」 ちなみにシェイドにも協力してもらって、地獄の怨霊を封じ込めてあります。 無力だが、時折に顎を動かしたり奇妙な笑い声を発したりするスグレものだ。 彰利子「唯一無二だぜ!?大事にしろよっ!」 冠太郎「イヤァ!捨てたのにいつの間にかポケットに入ってる!!     しかも血の涙流しながらゲッゲッゲって笑───イヤァーーーッ!!」 彰利子「静かになさい!また追い出されるでしょう!」 冠太郎「だ、だったらこんなもん渡すなァーーッ!!誰だって叫ぶわ!!」 彰利子「なにを言い出すんだこのクソカスバカスネ毛は……。     なんだったら美和っちで確かめてみるか?」 冠太郎「だからどうしてお前は人を罵る時に容赦の一切も無いんだよ!!」 彰利子「あーあハイハイ、格好いいぞー、お前はほんとカッコイイぞー」 冠太郎「聞けぇえええーーーーーーーっ!!!!!!!     なにひとつ話題の噛み合わない返事を返すなぁーーーーッ!!!!!」 カンタロスの言葉を受け流しつつ、アタイは美和っちへと声を張り上げた。 彰利子「おーい、そこで超絶に他人のフリしてる美和っち〜」 冠太郎「……他人のフリしたくもなるよな、こんなヤツ相手じゃ……」 彰利子「原因を人に押しつけんじゃねぇヅラスネ毛」 冠太郎「ヅラスネ毛ェエーーーーーッ!!!!!????」 おなご「お客様!!」 彰利子「ゲゲェエエーーーーーッ!!!!!」 ─── おなご「出ろォーーッ!!!」 バキャーーン!! 冠太郎「ズイホーーーッ!!!!」 アタイと美和っちが普通に店を出る中、 何故かカンタロスだけ窓ガラス越しに追い出された。 彰利子「おお、見事だ」 冠太郎「いつっ……!あ、あの女……!俺のファンだとか言ってたくせに……!!」 彰利子「おや、知ってるんか?」 冠太郎「ファンとの交流で握手会ってのをやったんだよ……!     その時にひときわ騒いでた女だ……!」 彰利子「……所詮あやつは『剣冠太郎』のファンであり、     『ヅラ殿スネ毛リオン』のファンなどでは決してない。そういうことだろう」 冠太郎「俺をヅラ殿スネ毛リオンにしたのはてめぇだろうがぁっ!!     いい加減このヅラの鍵よこせよっ!!」 彰利子「ええい!まだ解っておらんのかね!!ほんとバカだねキミは!」 冠太郎「なにっ……!?」 彰利子「俺が何故、貴様を『剣冠太郎』としてではなく、     『乱闘殿様』としてこの街を歩かせてたか解らないのか!!」 冠太郎「───!」 アタイの言葉に、カンタロスがハッとする。 冠太郎「───……まさか、俺の慢心を無くすために……!?」 彰利子「いや、純粋なからかい精神からだけど。     なにドラマみたいなこと言ってんだ、このスネ毛リオン」 冠太郎「ムギィイイイイイイイーーーーーーッ!!!!!!!」 歯を食い縛りつつ、悔し涙と憎悪の涙を同時に流す器用カンタロスを前に、 アタイは小さく溜め息を吐いた。 彰利子「だがしかし……そこまで解ってればもう言うことはないな……」 冠太郎「っ……褒めるつもりがあったんだったら、最初から」 彰利子「今日からお前が勇者だ……見事ドラゴンを倒してくれ」 冠太郎「まだ勇者ネタ引っ張ってたんかアンタァーーーッ!!!!」 美和 「〜〜っ……あのっ!」 彰利子「ウィ?」 冠太郎「へ……?」 突如、話に割り込んできた美和っちに、アタイとカンタロスは少々戸惑ってしまった。 てっきり他人のフリし続けると思ってたのに。 美和 「あの……冠くんとふたりきりで話をさせてくれませんか?」 彰利子「別に構いませんよ?」 美和 「え……いいんですか?てっきり、彰利さんは冠くんを……」 彰利子「なっ……なんば気色悪かことさ言っとるたい!!アタイは男!男ですよ!?     てゆうか誰がこんなヘタレを好きになるか!俺ャノーマルだ!!」 冠太郎「ヘタレとか言うな!!」 彰利子「そうか……すまなかった……悪かった……ごめんよ……」 冠太郎「へ?あ、いや……そんな真剣に謝るなよ……アンタらしくもない……」 彰利子「いや……ほんとごめんな……お前はヘタレなんかじゃなかったもんな……」 冠太郎「いいって、解ってくれりゃあそれで」 彰利子「ああ、俺だけはお前のことを解ってやれるさ……このスネ毛が!!」 冠太郎「てんで解っちゃいねぇえええーーーーっ!!!!     ああもうてめぇいい加減にしろ!!」 彰利子「きゃああ〜〜〜っ!!スネ毛が襲ってきたぁ〜〜〜っ!!!」 冠太郎「ギ、ギムゥーーーーッ!!!」 美和 「───あ、あのっ!!?」 彰利子「ややっ?」 冠太郎「あ……っと」 いかん、騒ぎ出すと美和っちの存在を忘れがちだ。 そういやカンタロスとふたりきりで話したいとか言っておったな。 ……よござんしょ! 彰利子「では、アタイは貴様らの会話が終わるまで暇潰しでもしてましょう。     だから存分に語ってくれ。酢豚の作り方を」 冠太郎「誰が語るかそんなこと!!」 彰利子「すまん、スネ毛の生やし方についての議論で大統領を論破するんだったな」 冠太郎「だッ……誰がするかァーーーッ!!!!」 ギャーギャー騒ぐカンタロスの声を聞き流し、アタイはその場を離れた。 ……クォックォックォッ……初恋同士の男女の会話って言ったらおめぇ、アレだ。 盗み聞きするっきゃねぇだろうが、おォ? こうしてアタイはカンタロスと美和っちの言葉を聞くために駆け出したのでした。 ………………。 …………。 ───。 彰利 「………」 公園のベンチで呆けていた。 なんとなくそうしたい気分だったからだ。 見上げた空は白く濁っていて、夏に見えた蒼空の面影なんて一切無い。 彰利 「………」 手には鍵。 かつて、カンタロスにつけたヅラを固定していたものの鍵だ。 今ではもう、役に立たない。 彰利 「………」 ふと、先週起きた出来事のことを思い出してみた。 あいつがまだ、元気に殿様やっていた頃のことを───
ガサガサ……。 彰利子「こちらフラウディオ。配置は完璧だぜ」 自分でも謎な言葉を言いつつ、茂みの中に隠れた。 目の前のベンチにはカンタロスと美和っち。 彰利子「むうう……」 告白するようならば止めようと思ったが、それもなんだか妙である。 好いた惚れたは人次第で、アタイが首を突っ込むことじゃあござんせん。 というか、もうよいかもしれません。 カンタロスからかうのも飽きたし。 アタイは時を止め、カンタロスへと近づいた。 そしてヅラを取り外し、乱闘殿様の服も奪った。 まあ、中にはカンタロスが着てた服があるわけだし、OKだ。 彰利子「そして時は動き出す───」 パキィン! 凍っていた時を戻すと、美和っちが大層驚いていた。 そりゃね、目の前の殿様が突然普通の男になったら驚くわい。 彰利子「さて……俺の仕事はここまでだぜ?」 役目を果たした武士が如く。 俺は小さく笑みをこぼし、月空力を発動させた。 ───……。 キィン! 凍弥 「うわっ!?」 椛  「ひゃあっ!」 彰利子「…………またちちくりあってたんかい……」 ガッコの屋上に転移すると、小僧と椛がチスをしていた。 いや〜んァ、まるでいがみ合ってた時間を取り戻さんが如しだね。 彰利子「椛、男に戻しておくれ」 椛  「………」 どこか拗ねたような顔で、椛がアタイに手を掲げる。 うう、昔はアタイを一番に思っていてくれてたこの娘も、もう人のモノなんじゃね……。 アタイをこげな瞳で見つめる時が来ようとは……。 椛  「……終わりました」 彰利 「む……確かに」 うむ、最強です。 やっぱ男だな、動きやすい。 椛  「それで……女になるなんて、どんな用事だったの?」 彰利 「んむ?んー……まあ、悪者退治だな。いいんじゃよ、もう済んだことじゃて。     椛はまた、小僧と仲良くやってりゃあそれでええ」 椛  「………」 アタイもそろそろ、潮時かいのう。 仲良くやってる男女を見ると、置いてきちまった粉雪の顔が思い浮かぶんじゃい。 しかも最近は頻繁にだ。 感情が大分戻ってきてからというもの、粉雪への愛は臨界突破を迎えようとしてますよ? でも……まだ帰れない。 いや、帰れるかも解らない。 椛  「……おとうさん?」 彰利 「───……おとうさん、か……」 考えてみれば『椛』にはちゃんと親が居て。 もう俺を『おとうさん』なんて呼ぶ必要もない筈なんだ。 俺はいつかはこの時代から居なくなる。 だったら───余計な記憶なんて残さず、 この時代から『俺』という存在を消してしまったほうが─── 彰利 「………」 椛  「……?」 ポム、と椛の頭を撫でた。 そして小さく笑ってから、月空力を発動させて屋上をあとにした。
───……それが、先週の出来事。 あれから時々、テレビでカンタロスを見たが……まあ、楽しそうにやっていた。 けどアタイに向かって叫んでたような『自然性』は一切無く。 ほんとに『役をこなしてる』って感じだった。 彰利 「ムハァ〜〜〜アァ」 どうするか。 いや、どうするかじゃないな。 俺は過去に帰れない。 レオってゆう死神をなんとかしない内に帰るわけにはいかない。 もしいつかのようにレオが覚醒して、 悠介や粉雪を殺めちまったら……今度こそ俺は正気でなんていられない。 彰利 「なんとかなる、なんて不安な結論じゃなくて……もっとこう、確信が欲しいな」 手放したくない居場所が出来た。 死にたくない理由なんて……きっとそれだけで十分なんだ。 俺はもう、何年も何十年も、そして何百年も自分の日常のために生きてきたんだから。 彰利 「…………うっし!」 まず、出来ることをしてみましょうかねっ! なぁに、レオが覚醒した時はした時ぞ! いざとなったら悠介に頼んで、ルドラに殺してもらうとか───! 彰利 「って、ダメだ!逝屠言ってたじゃん!     ルドラってば悠介の中じゃなくちゃ発現できないって!」 グ、グウウムムウ……!! こりゃ困ったぞ……! まいったなぁ、もう死ぬのなんて御免ですよ?アタイ。 彰利 「……確実な死があったとしても呆気羅漢としてられんのは……     感情が完璧じゃねぇからでしょうなぁ」 どちらにしろ、死ぬのは御免だ。 だがしかし、レオのことは後回しだ。 今のアタイにあいつに勝つ力が無いというならば、その方法を探すまでよ〜〜〜っ!! 彰利 「というわけで悩みタイム終了!悠介の顔でも見に行きますかぁっ!」 アタイは心機一点の心を胸に、晦母家に向けて転移をした。 ───キィン! 彰利 「ダァアアアッハハリィイイイイイイイン!!!!!」 そして辿り着いた途端に絶叫。 悠介は母家の縁側で、そんなアタイを見て溜め息を吐きおった。 彰利 「いきなりですな……転移してきた人に溜め息はヒドイんじゃない?」 悠介 「やかぁしい。けど丁度良かったよ、お前宛てに荷物が届いてる」 彰利 「荷物?なんでまた」 渡された荷物は小さなものだった。 ただ、妙にイヤな予感がする。 ということで─── 彰利 「あげ」 悠介 「いらん!」 超即答だった。 『あげる』と言おうとしたのに……なんてゆう反射神経ぞ……! 彰利 「まあいいコテ。ところで差出人は───っと」 小さな荷物を見てみると、差出人に部分に『剣冠太郎』と書いてあった。 彰利 「……あやつか」 ふむ……もしやデートのお礼に贈り物を……? 彰利 「いいとこあるじゃねぇえええかよぉおおお〜〜〜〜っ!!!     しょおおおおおがねぇええなぁああ〜〜〜っ!!     ここまでやられちゃ受け取らねぇわけにはいかねぇええよなぁあ〜〜〜っ!!     えぇええ〜〜〜っ!?ナランチャァアア〜〜〜〜ッ!!!」 悠介 「五月蝿い、開けるならさっさと開けろ」 彰利 「ゴメンナサイ」 アタイは包装紙をメリビリゴシャメシャと乱暴に開け、その中の箱をゴチャアと開けた。 それとともに綺麗なオルゴールの音色が流れる。 悠介 「オルゴールか。いい音色だな」 彰利 「………」 悠介 「……彰利?」 悠介がひょい、っとオルゴールを覗いてくる。 悠介 「オワッッ!!!」 彰利 「キャーーーッ!!!」 悠介 「おわっ!?うおおっ!!?」 彰利 「キャーッ!?キャーッ!!」 悠介の驚きの声に、アタイの緊張が解けた。 アタイと悠介は小物入れになっていたオルゴールの中身を見て驚愕。 それはかつて、アタイが原因でカンタロスが入手することになった笑いモノだった。 まるで劉海王の顔の皮のような『スマイル』と、 骸骨が連なって出来た呪いのアクセサリとかが、 オルゴールの音色に合わせて『ゲッゲッゲッゲッゲ……』と笑ってやがったのだ。 世の中にゃあ因果応報ってモンがあって、 散々からかったツケが回ってきたのだなぁとヤケになって笑った。 その笑い声がスマイルグッズの笑い声とハモって宙に消えていく頃。 アタイはダーリンに『一緒になって笑ってんじゃねぇーーっ!!』と裁かれた。 ───サテ。 もちろんアタイがこのままで済ます筈もなく。 だが送り返そうとしても送り先の住所も無く。 アタイは乱闘殿様の格好でカンタロス事務所に殴り込みをしたのだった。 どさくさに紛れてスマイルグッズを置いていくアタイを見たカンタロスの顔は、 何故だか、どこか楽しげだったとさ。 Next Menu back