───ささやかな結婚式(仮)───
───……。 悠介 「あのなぁお前ら……俺は料理中で……」 椛  「お願いですおじいさまっ!」 椛が消えたと思ったら、悠介さんを連れて現れた。 てゆうか……悠介さん、エプロン姿だ。 意外だけど、凄く似合ってる。 悠介 「ま、いいけどな……。けどな、椛。俺はウェディングドレスなんぞ知らんぞ?     イメージ出来ないものを創造するってのは無茶ってもんだ」 椛  「それならここに雑誌が!」 鞄からババッ!と雑誌を取り出す椛。 これまた意外だったけど、椛も結婚のことを考えていたらしい。 悠介 「……和装にしないか?     てゆうか、文金高島田やら綿帽子やら打掛の創造なら一発だぞ?」 椛  「いえ!凍弥先輩がわたしのウェディングドレス姿を見たいそうなので!」 悠介 「……凍弥……」 悠介さんが呆れた顔で俺を見る。 凍弥 「綺麗だと思う、って言ったらこうなってしまって……」 悠介 「まあ……想像出来そうだ。     俺もルナとの会話の時は、そういう言葉には気をつけてるからな……」 凍弥 「お察しします……」 ここに、ふたりの情けない男達の集いが結成された。 悠介 「まあいい。未来の義孫の願いを聞いてやるのも一興か。     ……けどな、絶対に和装の方が似合うぞ?」 椛  「もちろんです。婚儀当日は白無垢(しろむく)です!」 悠介 「当然だ!それでこそ俺の孫だ!」 椛  「おじいさま!」 悠介 「椛!」 ひっし、と抱き合うふたり。 ああ、感動ドラマがここにあるよトニー。 ……誰だ、トニーって。 悠介 「んじゃ、この雑誌の中のものを創造すればいいんだな?」 椛  「はいっ」 悠介 「それはいいが……サイズとかはどうする?」 椛  「あ───」 グボンと赤くなる椛。 どうやらそこまで考えてなかったらしい。 悠介 「よし、それじゃあこの件は無かったことにしよう。     俺も反和装服を創造せずに済みそうだし」 凍弥 「悠介さん、それって潔癖ですか?」 悠介 「俺は和が好きなだけだ。潔癖なんかと一緒にするな」 ……そういうのが潔癖だと思うんですが? 凍弥 「ところで悠介さん。自分以外の人のイメージを創造することって出来ます?」 悠介 「ん?んー……出来るが、どうしてだ?」 凍弥 「いえいえ。ちょっと待っててください」 俺は、これからどうするかを考えているらしい椛を抱き締めた。 椛  「ひゃっ!?と、ととと凍弥先輩っ!?」 凍弥 「んー……」 さわさわ…… 椛  「ひゃああっ!!?ど、どこ触ってるんですかっ!!」 凍弥 「んー……んむんむ、なるほど」 イメージ完了。 パッと椛を離し、悠介さんに頼む。 悠介 「……なるほど、そういうことか」 悠介さんも理解出来たらしく、俺の額に指を当てて目を閉じた。 そして─── 悠介 「───創造」 ポムッ。 軽い音とともに、純白のウェディングドレスが創造された。 ───途端、悠介さんが倒れた。 凍弥 「うわっ!?ゆ、悠介さんっ!?」 悠介 「い、いや……大丈夫だ……。     てんで『必要だ』ってイメージしなかったから疲労が多いだけだ……」 凍弥 「………」 潔癖決定。 悠介さんの和にかける情熱は相当だ。 ……さて、それで創造したウェディングドレスだが─── 椛が自分の体の前に持ち上げ、自分が着れるかを調べていた。 椛  「…………寸分の狂いもなく、ぴったりに着れそうです……」 凍弥 「当然だ。椛のことで俺が間違えることなどあるもんか」 椛  「だからさっき、抱き締めてきたんですか?」 凍弥 「そゆこと」 悠介 「よかったな、愛されてるぞ」 椛  「それは嬉しいですけど……」 自分の体躯を知られてしまったのが恥ずかしいようで、 椛はドレスを手にしながら真っ赤になっていた。 悠介 「じゃ、次は凍弥だな。待ってろ、今すぐ素晴らしい紋付袴(もんつきはかま)を」 椛  「わたしがウェディングドレスなのに、     凍弥先輩に紋付袴を着せてどうするんですか。     ちゃんとタキシードにしてくださいっ」 悠介 「……………」 ああ、悠介さんが物凄く悲しそうな顔を。 悠介さんのこんな顔、初めて見たよ俺。 悠介 「……サイズは?」 凍弥 「あ、はい……」 凄まじい暗さでサイズを訊いてくる悠介さんは、 俺が今まで見てきた中で一番の切ない顔だった。 ───……。 凍弥 「……うん。椛ー、準備出来たぞ〜」 ───…………あら? 返事がない。 悠介 「椛なら彰利に連れられていった。俺達も行くぞ」 凍弥 「へ?行くって何処に───」 悠介 「いーから。20秒で消えるブラックホワイトホールが出ます」 ビジュンッ! 悠介さんが空中に黒い渦を創造する。 悠介さんはそれを顎で促し、先に入っていった。 ちょっと躊躇したけど、俺もそれに次いで渦に飛び込んだ。 ───トンッ。 悠介 「よし、到着」 凍弥 「───ここは……」 辿り着いた場所。 そこは、この街にある教会だった。 凍弥 「悠介さん……」 悠介 「ほれ、とっとと入れ。花嫁が待ってるぞ」 凍弥 「………」 その言葉にドキッとした。 けど落ちつく暇もなく、悠介さんはひとつの指輪を創造すると、俺に手渡した。 驚いたけど一度頷くと、その扉に手をかける。 ガ、チャッ…… 凍弥 「……うわぁ……」 中に入るのは初めてだったが……その景色は綺麗なものだった。 丁度、日の当たる位置にあるステンドグラスが綺麗な光を漏らし、 その場が、今まで自分が居た世界とはまるで違う場所のように思える。 そして、その光が降りる場所の真ん中で、 綺麗なウェディングドレスに身を包んだ椛が居た。 凍弥 「っ……」 ぞくっとした。 今、自分が置かれてる状況が信じられなかったからだ。 凍弥 「あ、っと……」 体が自然に前へ進む。 ゆっくりと歩いて、その光が降り立つ場所へと。 凍弥 「───ああ、そうか……」 どんなカタチであれ、隆正も鮠鷹も、この時が来るのを願っていたんだ。 そして、俺も─── 凍弥 「………」 自然に進む体が、自然じゃなくなった。 前世も、そして俺も、自分の意思で歩き始めたから。 ずっと待っていた。 ずっと、願っていた。 気が遠くなるほどの昔に俺と彼女は出会い、いつしか恋をして。 そして───今ようやく、ここに辿り着いた。 凍弥 「ああ、そうさ……」 たとえそれが試しみたいなきっかけで始まった遊び半分なものでも構わない。 俺は……俺達は、彼女のためにその生涯を生きようと決めたのだから───…… ……トッ。 日の当たる場所へ、そのつま先を下ろした。 そして隣に立っている彼女へと向き直る。 椛  「凍弥先輩……」 凍弥 「……綺麗だよ。すごく、綺麗だ」 椛  「……はい」 自然と出た言葉がくすぐったかった。 そして、前を向く。 そこには神父の代わりに、二振りの冥月刀を手にした彰衛門が立っていた。 彰利 「あー、それでは……聖魔なる冥月刀の名の下に、     これより第二十一回、昂風街400メートルリレーを行う」 ズパァン! 彰利 「ベップ!」 何処から出したのか、スリッパが飛翔して彰衛門の顔面に直撃した。 悠介 「真面目にやらんかっ!」 彰利 「だ、だって妖精さんが見えて、     アタイに『400メートルリレーを宣誓しろ』って!」 悠介 「幻覚見てねぇでシャンとしろっ!!」 彰利 「Certainly Sir(かしこまりました)ッッ!!」 ゴホンと咳払いをして、彰衛門がキリッとした表情になる。 彰利 「たった一夜(ひとよ)の宿を貸し 一夜で亡くなる筈の名が     旅の博徒に助けられ たった一夜の恩返し     五臓六腑を刻まれて 一歩も引かぬ“侠客立ち”     とうに命は枯れ果てて されど倒れぬ“侠客立ち”     とうに命は枯れ果てて 男一代“侠客立ち”」 ガゴシャアアアンッ!!!バリバリバリィイイイイッ!!!!! 彰利 「ヒギャアアアアアアアア!!!!!」 神父もどきに裁きが落ちた。 巨大な落雷は青白く瞬き、彰衛門を焦がす。 悠介 「真面目にやれと、言ってるんだがなぁっ……!!」 彰利 「だ、だってアタイ、神父なんて初めてで……!き、きき緊張しちゃってYO!」 悠介 「お前はなにか!?緊張したら『侠客立ち(おとこだち)』を謳うのか!?」 彰利 「すげぇだろ」 悠介 「威張れることじゃねぇって……。     あのなぁ、お前がどうしてもって言うから神父役を任せたんだぞ……?」 彰利 「いや、緊張をほぐしてやろうと、俺なりに全力を見せたんですが」 悠介 「どういう全力だよそりゃ……」 彰利 「どうって……たった一夜の宿を貸し 一夜で亡くなる筈の名が」 ボゴシャア!! 彰利 「ネギィーーーッ!!」 悠介 「いーからっ!ちゃんと真面目にやれ!     結婚式ってのは緊張してなんぼだろうが!」 彰利 「でも、いきなり殴るのはひどいと思いますよ?」 悠介 「お前がふざけなきゃ殴らんっ!いいなっ!?」 彰利 「Certainly Sir(かしこまりました)ッッ!!」 彰衛門が再びゴホンと咳払いをする。 彰利 「それではまず、神父の聖歌をご清聴ください……」 ……聖歌? 彰利 「日本男児の生き様は 色無し 恋無し (なさけ)有り     男の道をひたすらに 歩みて明日を魁る     嗚呼男塾 男意気 己の道を魁よ     日本男児の魂は 強く激しく 温かく     男の夢をひたすらに 求めて明日を魁る     嗚呼男塾 男意気 己の夢を魁よ 嗚呼男塾 男意気 己の道を魁よ」 ズパァンッ!!! 彰利 「いぎゃああーーーっ!!!」 彰衛門の顔面に、スリッパが強襲した。 目の近くに当たったな……あれは痛い。 彰利 「あぁあ〜〜〜……目がぁ〜〜〜目がぁぁあああ〜〜〜っ……!!」 ムスカくん、キミは英雄だ。 悠介 「お前はなにか?この式をブチ壊したいのか?え?言葉はちゃんと通じてるか?」 彰利 「つ、通じてます、ハイ……」 悠介 「だったらちゃんとやれ!いいなっ!?」 彰利 「Certainly Sir(かしこまりました)ッッ!!」 彰衛門がまたゴホンと咳払いをする。 彰利 「えー……新郎、霧波川凍弥。汝は新婦、朧月椛を生涯の妻とし、     病める時も健やかなる時も欲情せし時も愛することを誓いますか?」 ごがしゃああああああん!!!! 彰利 「ウギャアアアーーーッ!!!!」 落雷が落ちた。 彰利 「な、なにすんのダーリン!!アタイちゃんとやってたでしょ!?」 悠介 「神父は『欲情』とか言わんわっ!!」 彰利 「え!?ウソ!!マジでっ!?───言ってなかったっけ!?ウソ!!」 悠介 「そんなもんを本気で間違えるなぁっ!!」 彰利 「いや……え?言ってなかったっけ……馬鹿な……」 本気で悩み出す彰衛門だったが、悠介さんに殴られると気を取り直して咳払いをした。 彰利 「新郎、霧波川凍弥。汝は新婦、朧月椛を生涯の妻とし、     病める時も健やかなる時も、愛することを誓いますか?」 凍弥 「はい」 彰利 「───新婦、朧月椛。汝は新郎、霧波川凍弥を生涯の夫とし、     病める時も健やかなる時も、愛することを誓いますか?」 椛  「はい」 彰利 「では───指輪の交換を」 凍弥 「あ……」 手に握っていた指輪を思い出す。 そっか。 このために創造してくれたのか。 椛  「………」 凍弥 「………」 ドキドキしてるのが解る。 それはきっと椛も同じで、俺が緊張していることくらいお見通しなのだろう。 凍弥 「………」 俺はスッと椛の指に指輪を通した。 その指輪の大きさはピッタリで、感心した。 さすが悠介さんだ。 彰利 「では次に、誓いのぶっちゅを」 めごしゃああああああああんっ!!!!! 彰利 「ギョアアアァァァーーーーーッ!!!!!!!」 落雷が落ちた。 青白い光が、彰衛門を焦がしてゆく。 彰利 「な、なにすんのっ……な、なななにすんの!ななななにすんのぉーーーっ!!」 悠介 「この期に及んで、まだふざけるかてめぇっ!!     普通こんな時に『ぶっちゅ』は無いだろうが!!」 彰利 「俺らしくていいじゃん!」 悠介 「よくないっ!!やり直せ!!」 彰利 「えー……?」 悠介 「さっさとしろっ!」 彰利 「グ、グウウ……なんだかんだ言って、楽しく結婚式を仕切ってるじゃん……」 ブツブツ言って、彰衛門がまた咳払いをした。 彰利 「えー、それでは……誓いの口付けを……」 凍弥 「……椛」 椛  「……はい」 俺はゆっくりと、椛の頭を薄く覆ってるヴェールをめくる。 そして、綺麗な陽射しが降りるその世界の中で。 ただ、ゆっくりと…… 彰利 「ぶっちゅ!ぶっちゅ!!」 悠介 「カァアーーッ!!」 ボゴシャア!! 彰利 「つぶつぶーーっ!!!」 彰衛門が殴られる中で、ゆっくりと。 長い長い、誓いのキスをした─── 声  「おめでとさーーん!」 凍弥 「え……?」 キスが終わる頃、その教会には拍手と祝いの言葉が溢れた。 浩介 「ひどいな同志、我らに内緒でこのような催し物をするとは」 凍弥 「浩介……」 浩之 「ペンが油性だということくらい知らせてほしかった……。     なにも今日やらんでも……」 凍弥 「ひ、浩之……」 まだ顔が黒い浩之が、悔しそうに呟いた。 うーん、なんとタイミングの悪い……。 佐古田「まあせいぜい幸せになるッス」 凍弥 「佐古田……」 風間 「おめでとうっす!センパイ!」 凍弥 「風間……」 サクラ「おめでとうございます、凍弥さ───あ、あれ……?どうして……涙が……」 凍弥 「……サクラ」 サクラ「あ、こ、これはおめでとうの涙ですからっ、気にしないでくださいっ」 凍弥 「……ありがとう」 祝ってくれながら泣いてしまったサクラに、ただ謝った。 こいつの気持ちには気づいていたのに気づかぬフリをしてきたから。 遥一郎「仮の結婚式だっていうのに、随分盛り上がったんだな」 凍弥 「無意味に盛り上げたのは彰衛門だよ、俺じゃない」 遥一郎「……だろうな」 メル 「おめでとう、ございます」 凍弥 「メル……久しぶり」 メル 「はい。兄と仲直りしてくれて、ありがとうございました」 凍弥 「いいって、お礼を言われるほどのことじゃないから」 メル 「はい」 静香 「おめでとうございます、霧波川センパイ」 凍弥 「皆槻か。風間とは仲良くやってるか?」 静香 「はいお蔭様で」 凍弥 「そか。そりゃよかった」 次々と祝いの言葉を言われる中、ルナさんが椛に近づいていった。 ルナ 「また次に本婚儀するんでしょ?おめでとうってちょっと違う気がするけど。     ───でも、おめでとう、椛」 椛  「おばあさま……」 ルナ 「……おばあさま、かぁ……。子供が産まれたら曾お婆さんだよわたし……」 夜華 「……ふん。一応、おめでとうとは言っておくぞ、鮠鷹」 凍弥 「篠瀬……相変わらずだなぁ」 夜華 「うるさい。そもそも、貴様があの時死ななければ……!」 凍弥 「あー、解った、悪かったよ。その言葉はもう耳にタコだ」 夜華 「だ、誰がタコだっ!!」 凍弥 「いや……そういう意味じゃなくてだな。     ……はぁ、こんな言葉で怒るなんて、     存分に彰衛門に振り回されてる証拠だな……」 美紀 『やっほ、おめでと凍弥くん』 凍弥 「よっ、美紀。サンキュな」 美紀 『ちょっと複雑だけどね。素直に祝えない人は最低だから』 凍弥 「複雑とか言うなよ、悪いとは思ってる」 美紀 『わたしはいいけど、サクラちゃんが、ね───』 凍弥 「ああ……まさか泣かれるとは思わなかったな」 美紀 『気にしなくていいよ。わたしが慰めておくから』 凍弥 「ああ、悪い。頼むよ」 美紀 『はいは〜い♪』 彰利 「カスが」 凍弥 「いきなりそれかよ……」 彰利 「いやほら、祝い言葉の中にもシビアなのがあってもいいと思うんだ、俺」 それがカスって言葉なのは勘弁だと思う。 悠介 「仮とはいえ、結婚式だ。悪い気分じゃないだろ?」 凍弥 「大袈裟になってしまって、申し訳無いって気持ちばっかりですけどね。     でも───うん。間違い無く幸せを感じてますよ」 悠介 「そりゃよかった」 佐古田「仮とはいえ、結婚は結婚ッス。ってことは、次の本結婚したら重婚ッス?」 凍弥 「……お前さ、意地でも俺をいじめようとするクセ、いい加減に直さない?」 佐古田「直さねぇッス」 クラスメイツ甲斐のないヤツだ。 彰利 「あー、それでは貴様ら外に出るんじゃー!!そして整列!!     そしたら花嫁がブーケ投げるから!」 悠介 「そういうことはわざわざ言わなくてもいいんだよっ……!!」 彰利 「え!?そうなの!?」 夜華 「あの、悠介殿?     楓さまが持っているあの『ぶーけ』とやらがどうかしたのですか?」 悠介 「ああ、花嫁の投げるブーケを手にした女はな、     次に結婚できるって云われてるらしい」 夜華 「な───あ、……っ……ま、まあ、     わたしは婚儀になど興味はありませんが、     他の女人が集まっているのにわたしだけ外れるのは妙ですから、その」 彰利 「しょぉお〜〜がねぇえ〜〜〜なぁぁああ〜〜〜〜〜〜っ!!!!     ブーケが欲しいなら欲しいって言やぁいいんだよぉおお〜〜〜っ!!     しょぉおお〜〜〜がねぇええ〜〜なぁあ〜〜ナランチャァアア〜〜ッ!!」 夜華 「わ、わたしは『ならんちゃ』とかゆう者ではないっ!!     大体貴様ッ!!わ、わたしは別に欲しいなどとは一言もっ!!」 彰利 「態度で十分解りますけど?」 夜華 「そんなことは断じてないっ!!」 ヘンな結婚式だなって思ったけど───うん。 やっぱり俺達の結婚式はこんなもんなんだと思う。 そう、形式に捕らわれる必要なんてない。 ただその時その時で幸せを感じられることが出来るなら、 それはきっと周りのヤツらのお蔭だから。 椛  「みんなっ、いきますよーっ」 彰利 「よし来ォーーい!!」 悠介 「男は参加する必要なんて無いだろうが!」 夜華 「そうだ!貴様は黙っていろ!」 彰利 「なんだとこのカス!」 夜華 「なっ───か、カスと言うなと言っているだろうがぁああーーーっ!!!」 椛  「えいっ!」 椛が投げたブーケが、空に弧を描く。 それを見て女性郡がキャーキャー騒ぎだし、 視界の隅では彰衛門が悠介さんと篠瀬に殴られたり斬られたりしながら、 別の意味でキャーキャー叫んでいた。 佐古田「距離良し方向よし角度よし!もらったッスーーーッ!!」 静香 「わ、渡しませんっ!」 ドンッ! 佐古田「ケホッ!?」 落下地点を押さえていた佐古田が、皆槻にタックルされた。 静香 「雄輝くんとのゴールのためにっ……!」 ゴインッ!! 静香 「はうっ!」 目を輝かせた皆槻だったが、急に落ちてきたタライが頭にぶつかり、倒れた。 メル 「これは、わたしが───!」 サクラ「させませんっ!」 ボゴッ!! メル 「いたっ……!」 サクラが振り下ろしたストレインが、メルの頭部を強打! アレは痛い!! てゆうか…… 浩介 「……なにやら……乱闘地獄絵図になっているのだが……」 浩之 「段々と皆の心の辞書から『手加減』の文字が消されてゆくのが黙認できる……」 地面に落下しそうになったブーケが、 暴れまわるおなご達の流れ攻撃などで再び宙に舞う。 志摩 『女は怖いな……』 凍弥 「そうだな……」 実に素直な意見だった。 メル 「邪魔しないでくださいっ……!」 ゴインゴイィンッ!! 佐古田「はごぉっ!?」 サクラ「なんとなく一番危険そうだから眠っちゃってください!!」 ぱぐしゃあ!! 佐古田「ふぐおっ!!」 静香 「眠っちゃってくださいっ!」 ぼかっ!ぼかっ! 佐古田「あいた!あいたっス!!」 三人 『このこのこのこぉーーっ!!!!』 バキボゴドスボカドゴボゴガンゴシャベキゴキパグシャア!!!! 佐古田「ふぎゃあああーーーーーーーっ!!!!!!!」 ……ああ、佐古田がボコボコにされてゆく。 浩介 「日頃のツケが今頃来たか」 凍弥 「遅すぎたくらいだろ」 志摩 『まったくだ』 日頃のささやかな恨みをこぼしながら談笑する。 やっぱり、堅苦しいものよりも、こういう楽しいことの方が性に合ってる。 そんな実感を感じてると、ふとこちらに走ってくる車が目についた。 凍弥 「ん?あれって……」 浩介 「む?……レイヴナスの車ではないか」 浩之 「なにごとだ?とうとうオチットさんが殉職したか?」 凍弥 「縁起でもない喩えはやめろって」 浩之 「無論、冗談だ」 ───キィッ。 目の前で車が止まる。 そして中から出てきたのは───いつかのメイドさんだった。 シルフ「浩介さま、浩之さま、勝手に動きまわられては困ります」 浩介 「シルフィーか。     勝手もなにも、我らは自分の行動に許可を貰う習性はないのでな」 シルフ「迎えの者が戸惑います。     今日は早くに帰るという報せを受けたからこそ、迎えを出したのです。     自己の言葉くらい、きちんと守って」 パサッ。 シルフ「くださ……い?」 志摩 『あ゙』 凍弥 「………」 おなご達が騒ぎまくる中。 花嫁のブーケを手に入れたのはラチェット=シルフィート……浩介の彼女だった。 シルフ「え、こ、これって……こーすけ、くん……?」 浩介 「あ、や、えっと……」 浩之 「いけブラザー!今こそ男を見せる時であろう!?」 浩介 「───然り!……シルフィー……次は、我らの番だな」 シルフ「こ、こーすけくん……!」 顔を真っ赤にして、目に涙を浮かべるラチェットさん。 そして、今更ブーケを奪われたことに気づき、顔を真っ赤にするサクラとメル。 ……うーむ、同じ赤でも、こうまで違う赤があるとは……。 ちなみに皆槻はサクラの不意打ちによりリタイア。 サクラ「ください!」 シルフ「えっ!?」 メル 「そのブーケを、わたしに……!」 サクラ「メルティアさん、あなたからはわたしに似たなにかを感じますけど、     それとこれとは話が別です!これはわたしのものです!」 メル 「いやです!わたしはもう、後悔しないために物事を諦めないと決めたんです!」 シルフ「か、勝手に話を進めないでいただけますかっ!?     このブーケはわたしと、こーすけくんのものですっ!!」 サクラ「なっ───なんですか!途中からしゃしゃりでてきたくせに!     激闘の『げ』の字にも参戦しなかったあなたに、     それを受け取る権利なんてありません!ないに決まってます!」 サクラの言う激闘の『げ』とは、あの佐古田へのリンチのことだろうか。 浩介 「……大した激闘だな……」 浩之 「だな……」 凍弥 「……俺も同じことを考えてたところだよ……」 椛  「これ……収拾つくんでしょうか……」 男×3『……無理だな』 そう言ってからふと、気になったことを訊いてみた。 凍弥 「そういやお前らどうやってここに?」 浩介 「同志が屋上で説教されているところ見てな。     その頃には丁度休み時間だったのをいいことに、     他のやつらも屋上に来ていたのだ。     で、しばらく見ていれば同志が黒い渦に消えたではないか。     だから我らも迷うことなくその渦に入った、というわけだ」 凍弥 「なるほど、ようするに盟友が説教されてるのを覗いてたってわけか」 浩之 「そういうことだ」 凍弥 「……ウソでも否定してほしいと思うのは俺だけか?」 やがてレイヴナス流護身術(オチットさん伝授)とやらを駆使して、 サクラとメルとの激闘を始めるラチェットさん。 しかし『ブーケを持ってる』ということが、三すくみを二対一に変えてしまった。 多勢に無勢───かと思いきや、無差別タライ流メルティア戦法がサクラに直撃。 戦況はやっぱり三すくみとなった。 だがしかし───戦っている内にブーケは粉々になり。 そのことに気づいた三人は、相当に落ち込んだままになってしまった。 そんなこんなで慌しい一日は終了。 俺と椛はより一層、お互いを大事に思うようになった。  ───と、気持ちよく終わる筈だったんだが─── Next Menu back