世界が染まる。 白く、さらに白く。 その景色が白だと解ったのは、空から降る雪を見てからだった。 寝惚けてたわけじゃない。 頭がボーっと、とか……そんなことじゃなくて。 ただ、自分が薄れてゆくのを感じていた。 ───二振りの刀をしっかりと握る。 すると、自分が自分であることを思い出せたような気がした。 なにかが終わるのはいつもあっさりとしてて。 まるで。 終わってしまった祭りの日に、飛びあがる花火をいつまでも待つ子供のように。 俺はまた、何かが始まるのを待っていたのかもしれない。 けど、もう始まるなにかなんてなくて。 終わりを迎えるものばかりが自分の傍に増えていって。 いつしか。 自分は雪の降る景色の中で、空を見上げたまま…… ───自分の行き先を思い出そうとしていた。 ───白く染まる世界、自分の行き先を探す少年───
ドタタタ───ガチャッ! 彰利 「リヴァーーっち!ちとお願いがあるんだが!」 リヴァ「なんだ検察官。ノックもしないで」 とある朝、アタイは鈴訊庵のリヴァっちラボに強襲をかけていた。 用件があったんだから仕方ねぇべさ? 彰利 「なぁリヴァっち、作ってもらいてぇ道具があるんだが」 リヴァ「道具?なんだ、言ってみるといい」 彰利 「いやいや、ふと思い出したゲームがありまして。     あ、ゼノギアスっていうんですがね?     そのゲームにステキなヒントが隠されておったんですよ!」 リヴァ「ヒント?なんのだ」 彰利 「レオをブチノメせるやもしれんヒントですよ!名付けて!システムルド計画!」 ジャジャーーン!! アタイは月奏力を奏でてまで演出した! ……しかしリヴァっちはなにがなんだか解らないらしく、 ポカンとした表情でアタイを見るだけだった。 彰利 「あー、えーとね?つまりね?     悠介の中のルドラの力だけを引き出して使うことは出来ないかなって。     ゲームであったんですよ、『システムイド』ってやつが。     そしたら滅法強いのね。     俺、ゼノギアスの機体よりも、ヴェルトールの方が好きだった」 リヴァ「訳の解らないことはいい。     それより、そのシステムなんとかってゆうもののことを詳しく教えてくれ」 彰利 「いけそう?」 リヴァ「やってみないと解らない」 でしょうね。 こうしてアタイは、リヴァっちにシステムイドのなんたるかを語ることにしたのだった。 ドシュシュッ!バオバオッ!ビッ!ブバッ!! でげででげででげでで〜ん♪ 彰利 「うむ!これでリヴァっちはシステムイドのなんたるかを知りましたぞ!」 リヴァ「悪いな、そのシステムイドを作るのは無理だ」 彰利 「ゲゲェーーーッ!!」 説明が終わった途端、あっさりとダメだと言われてしまった。 熱弁したアタイが馬鹿みたいじゃない……!! 彰利 「何故ェーーッ!何故なのリヴァーーっち!!教えて!何故!?」 リヴァ「そのシステムイドに似せたシステムルドは、     死神の能力を無理矢理引き出すわけだろう?     死神の力は並大抵のものじゃない。     それは『人』が扱いきれるような代物じゃないんだ」 彰利 「あらそう……」 名案だと思ったのに……。 リヴァ「ただ───」 彰利 「む?ただ、なにかね?」 リヴァ「……いや、調べてみないと解らない。     案外、家系の死神とやらなら平気なのかもしれないと思っただけだ」 彰利 「そうなん?だったら───」 リヴァ「同じことを言わせるな。調べてみないと解らないんだ。     死神の力とやらは、本当に呆れるほどだからな。     特に、悠介と検察官の死神は。     異端でありながらも、どちらも滅茶苦茶な『鎌』を持っている。     そんなものを引き出して、ただで済むとは思わない……が。     どちらにせよ、調べてみないとなにも解らない」 彰利 「あらそう……」 リヴァっちの言葉に、なんだか突破口を塞がれた気分でございます。 ま、これがダメなら他の手口を考えるさね。 彰利 「あ……そういやさ、その『鎌』ってのは……鎌だよな?あの」 リヴァ「ああ。死神が振るう鎌のことだ。それがどうした?」 彰利 「いや……レオとルドラの鎌ってどんなんなのかね、って」 リヴァ「なるほど、そういうことか」 リヴァっちは一度咳払いをすると、虚空に式を描き、弾けさせた。 するとその場に大量の文字が現れる。 リヴァ「……これだけの量のデータを刻み直すのにどれだけかかったか知りたいか?」 彰利 「爆破事件はほんにすんませんでした……」 リヴァ「……まあいい。これを見ろ」 彰利 「む?」 虚空に謎の文字がズラーーッと並んでいる。 が、リヴァっちが指を輝かせて式を描くと、それが日本語になる。 彰利 「おお、便利やね」 リヴァ「そんなことはどうでもいいだろう。鎌について知りたいんじゃなかったのか?」 彰利 「ィヤッハッハ、そうでした」 気を取り直して、その文字に目を向ける。 リヴァ「悪いとは思ったんだけどな、     検察官が倒れた時も悠介が倒れた時も、検査をさせてもらった。     血というものはウソはつかない。それは、その身に宿っている死神も同じだ」 ───その文字は、なんてゆうか……人を落胆させるのが上手い文字だった。 まず最初。 レオの鎌は『運命破壊せし漆黒の鎌(デスティニーブレイカー)』。 名前だけなら気に入れるが、 これは『運命を破壊して、無理矢理別の未来を作る』ような鎌だ。 ようするに、正攻法は利かないってこと。 そしてルドラの『黄昏を抱く創造の世界(ラグナロク)』。 ラグナロクって聞くと、ゲームとか思い出して『剣』とかに感じるけど、 ここで言うラグナロクは違うらしい。 語源は『神々の黄昏(ラグナロク)』から。 ルドラはその黄昏を創造することで、 体力を削ることもなく何度でも無茶な創造が出来るようになる。 それは、自分の目で見た通りだろう。 あんな威力のある創造を連発してみせたんだ、信じる他ない。 一応は鎌らしいけど、鎌としては一切機能しないらしい。 しかも鎌の創造世界なのに、主体となる創造攻撃が『槍』。 そういや逝屠を殺す時も『槍』ばっかりだったよな。 アキレウスとかゲイボルグとか。 彰利 「……OK、もういい。十分だ」 リヴァ「もういいのか?」 彰利 「十分解ったよ。世界を作り出す力とか、     運命を無理矢理破壊しちまう力なんて、人間風情が扱える力じゃないだろ」 リヴァ「どうかな。案外出来るのかもしれないぞ?」 彰利 「……否定したのリヴァっちじゃん」 リヴァ「可能性はゼロじゃないって言ってるんだ。わたしの辞書に『絶対無理』は無い」 彰利 「………」 そうだっけ?まあ、いいけど。 リヴァ「運命の破壊は流石に無理だけど、世界の創造なら無茶をすれば可能だろう。     まあやってみたところですぐ倒れるかもしれないけど」 彰利 「そりゃ、世界作りゃあ体力なんてあっという間に枯渇するだろ」 リヴァ「そんなところだ。絶対無理とは言わないが、無理だ」 似たようなもんだと思うけど。 彰利 「で、結局はシステムルドは無理ってわけね?」 リヴァ「ああ。無理だな」 彰利 「……そうザマスか」 せっかく生き残れる方法を見い出せたと思ったんだけどなぁ。 アタイは落胆を隠しきれないまま、リヴァっちラボをあとにした。   そして、ラボを出た途端。   ふと、どうして自分がそのラボに行ったのかが解らなくなった。 ───自分はどこに向かっているんだろう。 ふと、そう疑問を感じた。 どこに向かっているだって?そんなものは簡単だ。 自分は滅びに向かっている。 解ってる筈だ。 俺なんかが、レオに勝てるわけないって。 そうさ、解ってる。 俺みたいなどこにでも居るチンピラが囃し立てられ、挙句にリーサルウェポンなどと…… ははっ、彰利よ……お前の一体、どこがリーサルウェポンだ? お前なんかどこにでも居るチンピラ───ってそうじゃねぇでしょう!? 彰利 「───はうあっ!?」 パッチリとオメメを開く。 するとそこは白い世界。 雪よ……雪が降ったのよッッ!! 彰利 「てゆうか寒ッ!!雪降る寒さなのになに平然とベンチで寝てんだ俺ッ!!」 バッと起き上がり、体に積もった雪を払う。 うう、なんだって急にこげな雪が……って 彰利 「キャア!そうYO!!今日ってばクリスマスじゃない!     するってーと……キャア!ホワイトクリスマス!?」 そうと決まれば!……あれ? 彰利 「そうと決まれば……なんだっけ?」 ……あれ? なんだろ。 なんか最近もの忘れ多いんだよな、俺……。 なにしようとしてたんだっけ? 彰利 「……雪だるま?……そか、雪だるまだきっと」 アタイは雪を小さく丸めると、それをボソボソと転がし、大きな球を作っていった。 そして……ただ黙々と雪だるまを作ってゆく。 一個、二個、三個……そして四個。 そんな俺を見た子供がなにか言ってたけど、どうでもよかった。 そしてふと。 また、なにやりたかったのかと思う。 ……記憶が定まらない。 まるで、なにかに経験を吸収されていってるような気分。 彰利 「なにか……?なにかって……なんだ……?」 解らない。 けど、なにかが危ない。 俺が俺じゃなくなるような…… 彰利 「………」 考えてみても解らない。 解らないから、俺は両手にある刀を強く握った。 すると、自分のこととか、いろいろなことが思い出せた。 彰利 「……うん。俺は弦月彰利。そして……これは冥月刀。うん、大丈夫」 なんで忘れてたんだ? 自分のことだろうに……。 彰利 「……予想は……まあ、立てられるけど」 レオが、俺の経験を全て蝕もうとしている。 つまりはそういうことだ。 蝕んだ上で俺を殺し、自分を外に出すだろう。 経験を奪われた俺が、なにをどうこう出来るわけもない。 おそらく、あっさりと殺されるだろう。 ……考えやがったな、レオの野郎……。 彰利 「……まあ、そっちがそのつもりでも。俺は出来る限りの抵抗をするだけだ」 さて───それはそれとして、この雪だるまどうしましょ? 彰利 「…………やるか?アレを……」 アタイの脳裏に、かつての記憶が甦る瞬間だった。 ───で。 雪達磨「やあ、ぼくはスノーメン。龍神烈火拳を覚えるならぼくに任せておくれよ」 アタイは雪だるまを装着したような状態で、晦神社に舞い降りた。 そして───アタイの目の前には驚く夜華さん。 夜華 「お、おおおおおのれ妖怪!!この神社になんの用だ!!」 雪達磨「フッ……知れたこと。ここをこの関谷さまの城にするのだ!!」 夜華 「関谷───?貴様、関谷という名なのか!!」 雪達磨「誰が関谷だこの野郎!!ひどい侮辱ですよ!?」 夜華 「貴様が関谷と言ったのだろう!!」 雪達磨「うそつけ!人に罪を押し付けるな!」 夜華 「押しつけているのはどっちだ!」 雪達磨「俺だーーーっ!!俺が帰るんだ!チビ、お前はどけーーーっ!」 夜華 「な、なにを訳の解らぬことを!!貴様、斬られたいか!」 雪達磨「ならば貴様に問う!貴様は斬られたいかね!」 夜華 「斬られたいわけがないだろう!馬鹿なのか貴様は!」 雪達磨「バカとはなんだコノヤロウ!!」 ハッ!い、いかん!このままではいつものパターンではないか! 雪達磨「よいか小娘!貴様は斬られたくないと言った。それは当然のことだ。     しかし今の貴様はどうだ!     あっしに刀を向け、今まさに斬ろうしておるではないか!     貴様はおめぇ……アレだ。     自分がされたら嫌なことをやろうとしておるのだよ!?」 夜華 「妖怪相手に何を躊躇しようか!貴様は斬る!」 雪達磨「ゲーーッ!!」 問答無用のようでした。 この雪達磨も老いておったわ……まさか夜華さんの無法の量を見誤るとは……。 ザグシュドシュザシュズバズバザグシャアアーーーーッ!!!!! 雪達磨「ギョゲキャヒエェーーーーッ!!!!!!」 こうしてアタイは、雪達磨アーマーごと夜華さんにザックザクに斬られた。 ───…… 彰利 「グビグビ……」 夜華 「あ、彰衛門っ!?」 散々刻まれたおかげで雪達磨は崩れ、まるで桃太郎のようにアタイは産まれた。 夜華 「何故貴様が雪の塊の中に……?」 彰利 「うう……実は雪魔人に操られて雪の兵士にされ、ここに飛ばされたのです……」 夜華 「そ、そうなのか?大変だったな……」 彰利 「チョロイぜ」 夜華 「……なに?」 彰利 「なんでもないですよ?」 ふう、危ねぇ危ねぇ、危うくバレるところだったぜ〜。 夜華 「なにが、チョロイんだ……!?」 彰利 「ゲーーーッ!!しっかり聞こえてるーーーっ!!!」 夜華 「貴様!最初からわたしをからかうために、     あんなものを身に纏ってきたんだな!?許せん!斬る!」 彰利 「ち、違う!俺はそんなこと考えちゃあいない!     アタイはただ、クリスマスを祝いたかっただけなのYO!!」 夜華 「くり……?なんだ、その『くりすます』というものは」 彰利 「『めにぃ……苦しみます!』と言って、誰かの腕を斬る日です」 夜華 「ウソをつくな!それがウソだということくらい、わたしにだって解る!!」 彰利 「なんと……これは失敬。夜華さんをナメていたようだ。     では真実をば。クリスマスってのはね?キリスト教が産まれた日らしいぜ?」 夜華 「……誰かが産まれた日と雪のバケモノと、なんの関係があるんだ」 彰利 「いやいやいや、なんでか解らんのですがね?     そんな誰かが誕生したって日を自分のことのように喜ぶ人達が、     そのクリスマスになるとデートしたりなんだりとしてるわけよ」 夜華 「でと?なんだそれは」 彰利 「デートね。前に言わなかったっけ?男と女が一緒になって遊ぶこと」 夜華 「……よく解らん」 彰利 「カスが」 夜華 「カスと言うなっ!!」 なんで『カス』って言葉にここまで敏感に反応するんでしょうねぇ夜華さんたら。 彰利 「でね。クリスマスの前日やクリスマス当日に雪が降った時、     それをホワイトクリスマスと言いましてね?大変貴重な日とされてるんですよ。     とある地方じゃあ雪の所為で散々苦労してるってのに」 夜華 「そうなのか。くりすますとやらも大変なんだな」 彰利 「そゆこと。だからアタイも雪を丸めた『ゆきだるま』というものに身を包み、     悠介達を驚かそうとしたんですよ。     そしたら……驚くのは夜華さんだけで、しかも散々斬ってくれちゃって……」 夜華 「貴様がこの神社を『せきや』のものにするとか言うからだ!     この神社はわたしが楓さまに守ってくれと頼まれたものだ!     それをどこの誰とも解らぬ者に渡せるものか!!」 彰利 「いやはやいちいちもっとも!!というわけで、悠介居る?」 夜華 「母家で料理を作っていた。邪魔をするなと言われている」 彰利 「む、そうか」 どうしたものか。 って、─── 夜華 「な、なんだ」 彰利 「夜華さん、雪合戦やらない?」 夜華 「合戦───戦か!」 夜華さんの目付きが変わった。 あれは戦う武士の目だ。 夜華 「ふふふ……嬉しいぞ彰衛門……!     まさか貴様がわたしに決闘を挑んでくるとはな……!!」 そう言って、シャアアと刀を抜く夜華さん。 あ、あの……盛大に勘違いしてるようなんですけど? 彰利 「あの!?夜華さん!?ゆ、雪合戦ってのはね!?」 夜華 「雪の上で戦うことだろう!!そんなことは解ってる!」 彰利 「なにひとつ解ってねぇーーーっ!!」 夜華 「いざっ!!たぁあああああっ!!!」 夜華さんが雪を蹴って疾駆する! そしてアタイは、漂流教室の子供のような形相で逃げ出した!! 彰利 「ギャーーッ!!ギャッ!ギャーーーーッ!!ワーーーッ!!キャーーッ!!!」 夜華 「待て!何故逃げ───うわっ!なんだその顔は!!」 彰利 「ギャーーーッ!!ワーーッ!!ウオーーーッ!!!」 夜華 「その顔をやめろ!気持ち悪い!!」 彰利 「ワーーッ!!ウオーーーッ!!!」 夜華 「やめろと───うわっ!?」 ズルッ───どしゃあっ!! なんと!夜華さんが雪で滑って転倒!! 彰利 「……死んだ!!」 夜華 「倒れただけで殺すな!!やはり貴様、わたしをからかっているのだな!!」 夜華さん復活! アタイはそれを確認した刹那、再び逃走した!! 彰利 「ワーーーッ!!」 夜華 「くっ……逃げるな!男なら戦えぇーーっ!!」 ヒュッ───ザコォッ!! 彰利 「ゲーーーッ!!」 夜華さんが投擲(とうてき)した刀が、アタイの足に突き刺さった! 彰利 「ギャーーッ!!」 その所為でアタイはバランスを崩し、雪原に滑った。 彰利 「ギャッ!ギャーーッ!!」 夜華 「五月蝿いっ!男なら堪えろ!そしてその顔をやめろ!!」 彰利 「だ、だけど足に刀が突き刺さってしまったのだ!これでは動けないッ!」 夜華 「当たり前だ、そのために投げた」 そうでしょうね。 てゆうかなんつうコントロールですかまったく。 見事に足に突き刺さるとは……アンタ、本部以蔵(もとべいぞう)ですか? 夜華 「さあ、覚悟はいいな。戦だ」 そう言いつつ、アタイの足に刺さってる刀に手をかけ、 ズチャアア……!と引き抜く夜華さん。 彰利 「ウオオオォォーーーッ!!!ウググーーーッ!!ギャーーーッ!!!!!!」 夜華 「その顔をやめろ!」 無理ってもんですぜ!? こりゃ痛いよ!麻酔無しで盲腸手術に堪えた高松くんが勇者に思える!!
 ◆高松 翔───たかまつ しょう  漂流教室の主人公。  小学生なのに度胸と精神力がかなりのもので、なかなか頭もキレる。  しかし学級委員長の大友くんの所為で、散々ヒドイ目に遭う。  ペストに感染したり麻酔無しの盲腸手術(カッターで腹を切る)などの苦難を乗り越え、  学校の荒んだ子供たちの心をなんとか一纏めにすることに成功。  しかしこの先、いつ再び大友くんが裏切るかは解らない。  ちなみに『関谷(せきや)』とは、漂流教室の舞台となる学校に給食を届けてたおっさんである。  この漫画、えらく『ギャッ!』『ギャーッ!』『ウウッ……!』という言葉が多い。  さらに、大友くんは餓死した生徒を焼いて食うわ、  槍を投げて生徒を殺すわと、いろいろと大変な小学生である。   *神冥書房刊『漂流教室:大友、自分で高松くんを殺そうと言っておいて、          えらく真面目な顔で後ろのヤツに頭突きをするの巻。          -てゆうか彼を許す高松くんが神に見えた偏-』
ザクシュッ! 彰利 「ホギョアァアーーーッ!!!!」 夜華 「なにをブツブツ言っている!」 彰利 「いでぇ!いでぇってばよ夜華さん!やめて!やめれーーーっ!!」 夜華 「さあ!貴様も刀を抜け!この刀は飾り物じゃないだろう!」 ガツッ! 夜華さんの刀が、手に持っていた冥月刀を叩く。 油断してた所為か、冥月刀はあっさりとアタイの手を離れ、雪の上に落ちた。 それを拾おうと思って体勢を捻った拍子に、 もう一振りの冥月刀までもが落ちてしまった。 その途端─── 彰利 「───……え?」 その場所が、景色が、解らなくなった。 どこ、だっけ……ここ。 女性 「彰衛門?おい、なにを呆けている」 自分 「……あれ……?」 解らない。 なにも、なにもかも。 俺……誰だ?この人は……一体……? 自分 「───…………」 染まってゆく。 白く、白く。 自分の中の全てが、真っ白に。 まるで自分が塗りつぶされていってるように。 視界が色を無くす。 黒が白くなり、輪郭さえ白く染まり。 やがて、その景色の全てが真っ白に染まった。 自分 「え……、え……?」 なにも見えない。 ただ、景色が白かった。 解るのは。 こんな、真っ白な世界で解るのは─── そんな、当たり前のこと、ひとつだけだった。 自分のことさえ解らない自分は、一体なにに向かっている? 滅び? それとも…… それとも───? ───……。 リヴァ「……食われてる」 リヴァイアはただ一言、そう言った。 悠介 「食われて……?」 リヴァ「ああ、食われてるんだ。経験、存在、魂を。     検察官が経験してきた全てが、内に眠るレオに食われていっている」 悠介 「んなバカな……!」 リヴァ「今までこうならなかったのが不思議なんだ。     おそらく、目標みたいなものがあった筈なんだ。     自分はそれまで頑張ろう、と言い聞かせられるくらいのなにかが」 悠介 「───!」 その言葉にピンときた。 彰利が頑張れたってゆうなら、それは───凍弥と椛のことだ。 あいつらの幸せを願ってたあいつだ、 恐らくふたりが無事に婚儀を済ませたことで気が抜けて─── その瞬間、レオの蝕みは始まっていたんだろう。 悠介 「心当たりはある。けど、どうしようもなかったことだ」 リヴァ「責めるつもりなんてない。ただ───正直、     わたしは検察官が検察官でなくなるのは我慢ならない」 悠介 「当たり前だ、俺だってそうだ」 リヴァ「だが……」 悠介 「………」 客間に、息苦しい沈黙が訪れる。 リヴァ「ひとまず───この刀を持たせておけば、検察官はまだ大丈夫だ。     この刀が、レオが検察官を蝕むのを食いとめてくれるだろう」 悠介 「どうして冥月刀がそんな効果を……?」 リヴァ「そんなこと知るもんか。知りたかったら刀の中の人格にでも訊いてみろ」 悠介 「……無茶言うなよ」 リヴァイアは、彼女らしくもなく苛立っている。 頭を乱暴に掻き、溜め息を何度も吐いている。 リヴァ「とにかく。     検察官が刀を落としてしまうような事態が起きないように気をつけてくれ」 悠介 「ああ……すまなかった、呼び出したりして」 リヴァ「気にするな。わたしとしても、検察官の危機は見過ごせない。     不思議だけど、検察官が居ないと張り合いがないんだ。     ……まったく、よく解らない影響力を持ったヤツだよ、検察官は」 リヴァイアはそれだけ言うと、空中に穴を開けてその中に消えていった。 悠介 「……違いない」 俺も、こいつには降り回されっぱなしだったけど…… 不思議と、本気で縁を切りたいなんて思うことはなかった。 居ると安心するんだ、日常がそこにあるみたいで。 ルナ 「行った?」 悠介 「ルナか。どこ行ってたんだ?」 ルナ 「んー……隠れてた。ホモっちのことで悩むなんてヘンだし」 悠介 「そうか?そうでもないと思うけど。     あ、悪かったな。リヴァイア呼びに行かせたりして」 ルナ 「いいよ、悠介の頼みだもん。夫婦は助け合うのが基本でしょ〜?」 自分の言葉に顔を赤らめて、妙に上機嫌なルナ。 ほんと、幸せそうで羨ましい。 悠介 「ルナ、またひとつ頼みがあるんだけど」 ルナ 「うん、なに?」 悠介 「もしこいつがお前をからかったりして、お前が何かをしそうになっても───     この刀だけは、こいつから離そうとしないでくれ」 ルナ 「……どうして?」 悠介 「今の彰利は不安定すぎる状態にあるんだ。     それを、どういうわけかこの刀が支えてくれてるらしい。だから」 ルナ 「それで……その刀を奪ったりすると、どうなるの?」 悠介 「何もかもを忘れるそうだ。『弦月彰利』がリセットされた状態になる」 ルナ 「……それって、かえっていいんじゃない?ホモが真人間になるんでしょ?」 悠介 「いや……確かにその喩えは間違っちゃいないが、     俺はこいつが全てを忘れるのは嫌だ」 ルナ 「むー……せっかくホモっちを粛清するチャンスなのに」 悠介 「粛清言うな」 確かにあの愉快な思考回路は妙な分子でいっぱいなんだろうけどさ。 悠介 「とにかく。気をつけてくれればそれでいい」 ルナ 「ん、わかった」 ちと危なっかしいけど、一応頷いてくれた。 よしよし。 彰利 「ン……」 悠介 「っと、……目、醒めたか?」 彰利 「………」 一瞬、彰利の目がおかしかった。 まるで知らない人を目の当たりにしたって、そういう目だ。 彰利 「あ、あー……あれ?悠介、だよな?」 悠介 「……なに寝惚けとんだお前は」 彰利 「いやいや、悪い。で、そっちの人、誰?」 ルナ 「えっ───?」 彰利 「なかなか綺麗な人じゃないか。アレか?悠介の恋人か?」 悠介 「彰利……お前……」 彰利 「ほへ?なんだよその目。俺の顔になんかついてるか?」 ルナ 「ホモっち……」 彰利 「……初対面の人にホモって……失礼なヤツだなお前」 ルナ 「……っ……!」 初対面。 確かにこいつはそう言った。 いつものふざけ顔じゃない。 真面目な、自然な表情で。 ルナ 「なによこれ……!どういうことよ……!」 悠介 「落ち着け、ルナっ」 ルナ 「わたしよわたし!ルナ!ルナ=フラットゼファー!     忘れたなんて言わせないわよ!?」 彰利 「あ、こりゃどうもわざわざの自己紹介、痛み入る。俺は弦月彰利だ。     しかし大胆な女だな。いきなり知り合いってことで話を進めてくるなんて」 ルナ 「ッ───!」 パァンッ!! 彰利 「ぶべぇえーーーーっ!!」 ルナの平手が、彰利の頬を打った。 彰利 「な、なにすんだよ!」 ルナ 「っ……知らなかった……!なんなのよこの感情……!!     こんなバカに忘れられただけで……!     どうして『日常が無くなった』だなんて……!!」 彰利 「なぁ悠介。なんで俺、叩かれたんだ?なんか気に障ること言ったか?」 悠介 「……普通が普通じゃなくなることほど、辛いことはないってことだよ」 彰利 「……なんだそりゃ」 ルナ 「ごめん悠介……少し頭冷やしてくる……」 悠介 「ああ、そうしろ」 ルナは黙ったまま壁抜けをして出ていった。 そんなルナをボ〜ッと見送り、彰利は呟いた。 彰利 「そか。幽霊だったんか、さっきの女」 冗談なんかじゃなく、本心の言葉。 それはあまりにも……残酷すぎた。 Next Menu back