───災いの消える刻───
…………。 凍弥 「あれ……?」 家を出てから十と数分。 視界の先に、見知った存在が座り込んでいた。 そして───その姿を見てからずっと、嫌な予感が消えない。 それでも俺はそれを無視できないことを誰よりも理解していた。 とんだ、お節介だと苦笑する。 その苦笑とともにこぼれた『ごめん』という言葉は一体。 誰に、向けた言葉だったんだろうか。 凍弥 「メルッ!」 俺は苦しそうに路地に屈むメルに駆け寄った。 息は荒く、汗が滲み出たメルは、お世辞にも『大丈夫』には見えなかった。 そういや……風間が言ってた。 最近のメルが辛そうだって。 メル 「と、や……さっ……」 凍弥 「どうしたんだよ……って、すごい熱じゃないか!」 額に触れてみると、信じられないくらいに熱かった。 人の熱では考えられない熱だ。 いくら死神でも、立っていられないくらいの高熱なんだろう。 メルの体から、どんどんと力が抜けていくのが解る。 凍弥 「くっそ……!どうしたら───そうだ与一!……あ」 与一は……そうだ、天界に行ったんだ。 彰衛門はどこに居るか解らないし───そうだ、椛に───! 声  「無駄だよ」 凍弥 「っ!?」 突然聞こえた声。 気高く、だけどどこか柔らかい声が聞こえた。 それとともにその場に降り立つ存在があった。 たしか───シェイドとかゆう死神だ。 ルヒド「メルはね、役目を果たそうとしてるんだ」 凍弥 「役目を───?」 いきなりそんなこと言われたって解らない。 なにが言いたいんだこいつは───! ルヒド「メルはね、災いを掻き集めるように出来ていたんだ。     メルはその場で起こり得る災いを最小化して、タライが落ちる程度に済ませる。     けど───それを上回る災いのタネがそこにある場合、どうなると思う?」 凍弥 「そんなこと訊いてるんじゃない!メルを助けるにはどうしたらいい!」 ルヒド「……せっかちだね。いいかい?メルはもともと『これ』のために作ったんだ。     世界の災いを吸収して消すためにね。     この世界には悪霊化した魂が多すぎる。そんな存在を狩らせて、吸収させる。     その末が今のメルさ。じきに消滅するよ」 凍弥 「消滅───?」 ルヒド「彼女もそれを知りながら生きてきた。それが答えさ。     彼女はね、災いから産まれたんだ。災いは災いを飲み込むものだ。     僕は僕の中にウィルヴスが流れてきた頃から、     ずっと地界に協力することを考えていた。     それはどういう方法で、どう行うのか。それの答えがメルだったわけだよ」 凍弥 「…………」 訳が解らない。 思考が追いつかない。 なんだ? こいつはなんて言ってる? 地界を助けるために……メルを生贄にした? 凍弥 「ふざ、けるなよ……メルを生贄にしたのか……?」 ルヒド「生贄、じゃないよ。僕には元々、選べるほどの手段がなかったんだ。     なにかを助けるためには何かを犠牲にすることが必要なんだ。     そんな『犠牲』に志願したのがメルティアさ」 凍弥 「な───」 死神は『生贄じゃない』、と言った。 それはつまり、メル自身が消滅を望んだってことか……? ルヒド「『災い』はね、善行を繰り返すと『幸福』になれるんだ。     そしてメルはそれを望んだ。けどね、考えてみてほしい。     悪霊とはいえ魂を狩る死神が、どうして幸福になんてなれるだろう。     結果、彼女は地界での初めての友達を殺すことになり、     それからも幾多もの災いを狩り───キミの幼馴染を狩った」 凍弥 「……待ってくれ。メルは、魂狩りを嫌がっていた。     そのメルが『幾多』も魂を狩ったなんて……」 ルヒド「それの結論は簡単だ。『メル』は『天界人』が堕ちて、災いとなった存在だ。     その災いを作り直した姿が彼女。解るかな?     彼女には『天界人』と『死神』との人格がある。     普段のメルティアは天界人の人格さ」 凍弥 「───っ……もういいっ!結論を言ってくれ!     メルを助けることは出来るのか出来ないのか!」 ルヒド「できるよ。ただ、お奨めはしない」 凍弥 「いいから教えろよ!苦しんでるヤツを見捨てるなんて出来るわけないだろ!?」 ルヒド「………」 死神は俺の言葉を聞いて、心底呆れたように溜め息を吐いた。 そんな冷静な顔に、ひどく腹が立つ。 ルヒド「呆れた人だねキミは。     キミはまたそうやって、自分の中の奇跡の魔法を消耗していく気かい?」 凍弥 「───!」 ハッとする。 けど、誰かを助けようとするのとお節介とでは違う筈だ。 ルヒド「これはお節介なんかとは違う、なんて考えは捨てた方がいいよ。     キミが『誰かを助ける』という行為が、自分を削ることになるんだ。     ああ、そうだね。キミが助けようとすればこの子は助かるだろう。     キミの中の奇跡の魔法が勝手に発動してね。     けどそうすると、キミは春になる前か後、確実に消滅する」 凍弥 「っ───!」 ルヒド「キミはキミの魂の支えになった、     閏璃凍弥や支左見谷由未絵の魂を無駄にすることになるんだ。     そして、母さんの願いをも無視して消える。     ……そして誰の記憶からも消えるんだろうね。     ああ、確かにそうすればキミは誰に迷惑をかけることもないかな。     誰もキミのことを覚えていないんだから」 凍弥 「………」 目の前の死神は……本当に、心底呆れていた。 今まで俺のためになんらかの努力をしてきたヤツが可哀相だ、と。 ルヒド「なんとかなる、なんて思わないことだ。     キミが頼れる存在は、もうこの世界には少なすぎる。     弦月彰利も、助かる見込みは少ない」 凍弥 「───!?彰衛門───彰衛門がどうしたって!?」 ルヒド「……彼は今、自分の中の死神と戦っている。けどね、時間の問題だ。     彼の中の死神は、全ての存在にとってジョーカーだ。     ……例外はあるけど、その例外ももう死んでしまった」 凍弥 「………」 彰衛門が……? それじゃあ、椛の様子がおかしかったのって……。 凍弥 「そういう、ことだったのか」 ルヒド「言っておくけど、母さんはキミが周りを心配することを望んでいないよ。     キミは『日常』に居ればいい。他の処理は僕らの役目だ。     もともと、キミは地界人だ。無理に僕らの問題に首を突っ込むべきじゃない」 凍弥 「……何度も言わせるなよ。     苦しんでる人を見て、見捨てることなんて出来るもんか!」 そう言って俺は駆けた。 『災い』という言葉に心当たりがあったから。 必死に駆け、一分、一秒でも早くと自分を急かした。 そしてそれを持ち、もう一度戻ってくる。 凍弥 「はっ……はっ……!よしっ……」 ルヒド「……ストレインか。ああ、そうだね。確かにキミならそれが使える。     けどそれに波長を合わせることは寿命を縮めることにイコールするよ?     災いの量を考えると、今のキミには手に余る」 凍弥 「五月蝿いっ!     メルティアってゆう存在が神界人と災いの融合体みたいなものなら!     『災い』さえ取り除けば、また元の神界人に戻れるんだろ!?」 ルヒド「……知らないね。それと、僕はキミがそれを使うことを良しとしない。     どうしてだい?どうしてそこまで他人のために何かをしようとするんだい?」 凍弥 「そんなこと知るかっ!自分でだって自覚してるよ!     ほんと救いようのない馬鹿だ!     けどな、こんな俺だったからこそ今、この時があるんだよ!     俺が今の日常が好きなら、それを否定するわけにはいかないんだよ!」 意識を集中する。 ストレインを手に、ゆっくりと息を吸う。 ルヒド「……本当に呆れた人だ。今が好きなのに、今を自分で壊す気なんだね」 凍弥 「俺はなぁ……!『今』の一部分である人を見殺しにしてまで……     生き長らえたいなんて思えない大馬鹿野郎なんだよ!!」 波長が照合される。 それとともに、魔器と呼ばれたカタチが鈍く光る。 凍弥 「メルの中の災いを───全て吸収しろ!」 眩暈がする。 視界が軋み、立ってられなくなって、俺はその場に膝をついた。 けど、ストレインは離さない。 ルヒド「……普通。母さんを思えば手伝ってあげるのが常識だろうけどね。     僕は死神だ。天界の魔器を操作することは出来ないし、     それに……───僕はどうやらキミが嫌いらしい。     キミのためにどれだけ頑張った人が居ると思ってる。     そしてキミは、そんな人達の思いを軽はずみな行動で、     自分ごと消してしまおうとしているんだ。     本当、呆れてしまうよ。僕はキミみたいな存在が大嫌いだ」 凍弥 「っ……そう、かよ……!だったら黙って見てやがれ……!」 メルの体から、黒い影のようなものが次々と流れこんでくる。 だが、その量は桁外れのようだ。 ルヒド「……ストレインを停止させるんだ。キミは本当に馬鹿なのかい?     そんなことをしてメルティアが助かっても、彼女はキミを許さない。     役目を知りながら生きてきた彼女だが、確かに生きることも望んでいるだろう。     けどそれは、キミを死なせてまでのことじゃない。     メルティアだってキミと同じだ。     キミが誰かの犠牲の上で生きたくはないように、     メルティアだってそう考えている。キミはどうしてそれが解らない?     自分のエゴだけで、自分の嫌いなことを人に押し付ける気かい?     本当に呆れた人だ。そんなキミがどうして母さんを幸せに出来る?」 凍弥 「このっ……さっきからごちゃごちゃうるせぇな!     お前がなんて言おうが俺はメルを助けるって決めたんだよ!!     それが人ってもんなんだ!死神のお前にそれが解る訳がないだろうが!!」 ルヒド「ああ、解らないね。キミは間違ってる。     世界はキミが思っているより汚いものだ。『それが人ってものだ』って?     キミが言う『人』ってゆうのがこの世界に何人居ると思っているんだい?」 凍弥 「っ……!」 ルヒド「キミの言葉は、キミを苦しめた楷埜上喜兵衛や十六夜逝屠までもが、     その『人』だって言っているようなものだ。それは果たして正解なのかい?     私利私欲のために人を平気で殺す存在がキミの言う『人』なら、     僕は心底キミを哀れむよ。     そして、そんな救いようのない馬鹿を僕は許さないだろう。     キミはそんな馬鹿なことはしない賢い存在だと思っていたけどね。     あの精霊くんの傍で成長しながら、     よくもまあ命を無駄にするようなことが出来るもんだ」 凍弥 「………」 ふと、与一の顔が思い出された。 人のために、自分の存在を消したという彼を。 彼は自分が間違っていただなんて思わなかっただろうけど。 誰かを悲しませたことだけは、ずっと後悔していたと……そう言った。 凍弥 「でもっ……!」 さっき知った。 物事に等価値なものなんてないって。 俺はその言葉に感謝出来たし、悪いことだなんて思えなかった。 だからこそ泣くことが出来た。 何かを思い、涙することができたんだ。 この死神にとってのメルが『災いを集めるための道具』でしかなかったとしても。 俺にとっては違うんだ───! 凍弥 「……っ」 ───吐き気がする。 頭は割れるように軋み、視界は真っ赤に染まって。 目が回る。 倒れそうになる。 けど、なんとか持ちこたえようとした。 ふと見た自分の指が消えかけるのを見た。 それでも手を離さない。 離さない、つもりだった。 けど。 パキィンッ!! 凍弥 「っ───!?」 鎌が閃いた。 一瞬の出来事で、何がなんだか解らなかった。 でもそれは、横からきたものじゃない。 その鎌は……メルが掴んでいた。 凍弥 「メル……どうして……」 ストレインを破壊したメルに、呆然と呟いた。 メルはその言葉の返事としてひとこと叫んだ。 『馬鹿』、と。 そして───ストレインから漏れた災いをすべて吸収して─── 死神の言う通り、彼女は消滅した。 ………… 凍弥 「メ……ル……?」 わけが解らなかった。 思考が、どうして、どうしてとばかり叫ぶ。 解らない。 どうして消滅を選ぶんだ? 解らない。 ルヒド「どんな考えをしてるのかは知らないけどね。これだけは言える。     ……キミと僕の思考が等価値じゃなかったのと同じように、     メルティアとキミとの物事への思考も、等価値じゃあなかったってことさ。     僕は言った筈だよ、キミを犠牲にしてまで助かりたいとは思わないだろうって。     本当にキミは、呆れ果てるくらいのお人良しだ。     誰しもがそのお節介に救われたいと思うと思ったのかい?」 凍弥 「………」 消えてしまった。 日常のひと欠片が。 俺の、目の前で。 ……救えなかった。 見殺しにした……?違う。 じゃあ、どうして助けられなかった……? 俺には、それが出来た筈だろう……? ルヒド「助けられたからって喜ぶ者ばかりじゃないんだ。     キミは人を助けていく過程で、それを忘れてしまっていた。     それに……キミを犠牲にすることだけは、彼女が望むはずがなかった。     キミは残酷だよ、本当に。     特に、キミのことが好きだったメルティアにとってはね」 凍弥 「───!」 体が震えた。 シラナカッタワケジャナイ。 俺は、メルの気持ちに気づいて─── ルヒド「僕はもう、キミに何も望まないことにした。     誰かの犠牲の上にある自分を簡単に捨てようとするキミは、     もうただの自殺志願者のようなものだ」 そう言って、死神は俺の額に指を突きつけた。 そして目を閉じる。 ルヒド「キミの中のメルティアの記憶を消させてもらう。     彼女はキミの枷になることなんて望んでなかった。     キミはその思いを踏みにじろうとしたんだ。     助けられることばかりが幸福じゃない。     キミは母さんと結婚した時点で、それを自覚するべきだった」 凍弥 「あ───」 自分の中から何かが抜き取られてゆく。 ひとつのなにかが真っ白になっていき、 だけど他の記憶がその部分を埋めようと動いて…… 身に覚えの無い虚構の記憶が、その部分を埋めていった。 ルヒド「……覚えておくといい。     生きることが、幸せになることが、必ずしも幸福であるとは限らないことを。     物事の価値が等価値ではないことを知る時点で、     人はそれをも知らなければならないんだ」 ……記憶が真っ白になってゆく。 そして……出会った時のことも、辛い思いをしながらも美紀を斬った彼女の顔も、 なにもかも……彼女に関する全ての記憶が、真っ白に染まってしまった。 ……そしてふと気づいた時。 どうして自分が泣いているのか……その理由さえ、俺は忘れてしまっていた。 ───……カチッ。 凍弥 「………」 レイヴナスカンパニーの正門前。 その呼び鈴(?)を鳴らして、しばらく待つ。 ヴヴンッ。 使用人『───あなたでしたか。どうぞ、浩介さまと浩之さまがお待ちです』 ディスプレイに現れた使用人に促されるまま、屋敷へと入ってゆく。 その過程。 メイさんはどうしたのかなと、ふと思った。 凍弥 「んー……」 どうして自分がこんなに暗い気分なのかは解らないけど…… こんな気分のままでふたりに会うのもなぁ。 凍弥 「っしゃあ!!」 ズパァン!! 凍弥 「ギャーーッ!!」 よくある気合入れの要領で顔をズパンと叩いたら、凄まじい大激痛が俺を襲った。 うーむ、冗談抜きで痛かった……が、その甲斐あって、寝覚めスッキリ頭ハッキリだ。 凍弥 「ッ───よし!」 ただ、どうしてか。 自分は誰かの分まで幸せにならなきゃいけない。 ……そう、思った。 ───……。 浩介 「おお、よく来たな同志。待ちくたびれたぞ」 凍弥 「そんなに遅れた覚えはないんだけどな……」 出迎えてくれたのは浩介。 どこか、いつもより上機嫌の彼が、屋敷の正面ドアの前に立っていた。 浩介 「……む?目が赤いようだが……どうかしたのか?」 凍弥 「実は俺は充血戦士だったんだ」 浩介 「うむ、ナチュラルに訳が解らんな。つまり不問ということでいいんだな?」 凍弥 「悪いな。実は俺にも、なんだって目が赤いのかが解らないんだ。     まあそりゃあ、両親の前で泣いたことは確かだけど」 浩介 「喧嘩に負けたのか。情けないな」 凍弥 「マテ。なんでいきなり両親と喧嘩しなきゃならんのだ」 浩介 「違うのか?」 凍弥 「ちがわいっ!」 そんな会話をして、ようやく。 自分の、自分らしさを思い出せた気がした。 ふと気がつけば暗かった気分は消えていて。 その気分の正体すらも忘れてゆく自分が、なんだか不思議だった。 凍弥 「浩之は?」 浩介 「ブラザーならば菜苗さんを探しているぞ。     いい加減、この屋敷も見取り図くらい作るべきだろうな」 凍弥 「そこまでしなきゃ道に迷う屋敷も、どうかと思うな」 浩介 「まったくだ」 適当な会話を済ませると、俺と浩介は屋敷へと入った。 いつ見ても、呆れてしまうくらいの大きな屋敷。 俺ひとりで歩いたら確実に迷子になりそうだ。 浩介 「こっちだ」 凍弥 「ああ」 浩介のあとに続き、屋敷内を歩く。 凍弥 「毎度思うんだけどさ。土足で上がるから使用人の仕事が増えるんじゃないか?」 浩介 「土足で上がろうが上がるまいが、結局は掃除をするだろう?     我も最初に聞いた時は驚いたが、     この屋敷に居る使用人は皆、掃除好きばかりなのだ」 凍弥 「……そ、そうなのか」 ふと視線をずらすと、たしかに掃除をしている使用人さんが居る。 壁も窓もピカピカだ。 凍弥 「あー……葉香さんは?」 浩介 「あの人は『侵入者』を掃除するからな。ある意味エキスパートだ」 凍弥 「やっぱりそんなとこか……」 あの人が掃除なんて、想像できやしない。 掃除どころか散らかす方だろう。 凍弥 「カフェインさんに挨拶とかしなくていいか?」 浩介 「親父は今、外国だ。     事実上、このカンパニーの管理などは我とブラザーが仕切ることになっている」 凍弥 「大変だな」 浩介 「なに、大変だったのは過程だ。     オチットさんにカンパニーの跡取りとしての有り方について、     みっちり搾られた今日までを思えば……フッ、物事の管理など楽なものだ」 おお、浩介が漢の顔に……。 どこか遠い目をしているところは無視してやった方がいいんだろう。 浩介 「大変だったぞ……。     書類整理にパソコンの操作、屋敷の管理に使用人の数と名前の記憶……。     今や、我はただの志摩浩介ではない……ニュー志摩浩介だ」 レベルアップしたんだろうけど、とってつけたようなレベルアップだった。 凍弥 「物覚えは悪い方だと思ってたけど。なんだかんだでやれば出来たんだな」 浩介 「不思議なことにな、誰かのために何かを頑張ると、自然と懸命になれた。     思考の回転だけを取れば、今までの我が遠くに感じるほどだ。     だが、我は我だ。変わったのはまあ……思考の回転くらいだろう」 凍弥 「勉強の方はどうだ?」 浩介 「うむ、『覚えること』が染みつけば、     何を覚えればいいかを間違えぬ限りは満点も夢ではないな。     知らなかったぞ、我にこのような潜在能力があるとは」 凍弥 「今までのお前がチャランポランだっただけだろ」 浩介 「だな。否定をする気は皆無だ。今までの我は間違いなく我だ。     思い出して悔やむこともあるかもしれぬが、     その過程がひとつでも崩れれば今の我は無い……───そうだろう?同志」 凍弥 「………」 ふと。 その浩介の言葉が、忘れていたなにかの答えになってくれた気がした。 自分はなにかのために頑張って、それを否定されて。 けど、その『なにか』は最後に笑顔を見せてくれたってことを、なんとなく思い出した。 幸せは平等じゃないけど……幸せになる権利は平等であることを願えば。 少し先を夢見るのは悪じゃなくなるんだって……そう思う。 凍弥 「なー浩介」 浩介 「ぬ?どうした同志」 凍弥 「友達って……やっぱ大事だな」 浩介 「……?当たり前だろう。どうしたのだ?」 凍弥 「な〜んでもねぇや。っははは!いや、なんかスッキリしたよ。     そーだよな、誰かが犠牲になることで得られる幸せなんて、     ホントの幸せじゃねぇや。あーあ、馬ッ鹿でぇ俺……あははははっ!」 浩介 「……とうとうヤツもイカレちまった」 その『なにか』がなんなのかは、ほんと真っ白だ。 それでも謝っておこうって思う。 ごめん、ありがとう、と。 ───ふと見た自分の手が、一瞬霞む。 けど、不思議と後悔の念は無かった。 Next Menu back