───レイヴナスの名───
───……。 凍弥 「というわけで、枕投げでもしたいと思うんだが」 そう切り出したのは俺だった。 だってさ、誰かの家に泊まるのって新鮮じゃんか。 浩介 「いきなりだな。まあ、我も鈴訊庵に下宿していた時はそう言ったものだが」 浩之 「我はそれどころじゃあなかったのだが……」 あれからしばらく歩いていると、浩之を発見したわけだ。 で、首根っこを引ッ掴んで、俺が泊まるらしい部屋へ引きずり込んだ。 そこは洋風のこの屋敷から懸け離れた和室だった。 凍弥 「そういやさ、どうしてここだけ和室なんだ?」 浩介 「うむ。ここはオチットさんの希望で作られた場所らしいのだ。     聞けば、オチットさんは昔、どこぞの和系の家に住んでいたらしいではないか。     そこで外国からここに移る際、この和室の製作をオヤジに申請したらしい」 凍弥 「作ったのに使わなかったのか?よく解んない人だな」 浩之 「月に一度、ここで黙想をしているらしいぞ。精神統一の好きな人だからな」 凍弥 「黙想って……」 ますますもってよく解らん人だ。 浩之 「とにかく同志にはここを使ってもらう。貴様には洋室より和室が似合う。     なに、広い場所だからな。     朧月の都合が合った時、引きずり込んでチチクリあっても構わんぞ」 凍弥 「お前最近オヤジ化してないか?」 浩之 「馬鹿め、純粋に貴様の幸福が嬉しいだけだ。貴様は幸せにならねばならん。     我とブラザーはその手伝いがしたいだけだ。なぁブラザー」 浩介 「貴様に言われるまでもないわブラザー。     そもそもそれは我が言おうとしていた言葉だ」 浩之 「なにを言うかブラザー貴様、この言葉は我が長い間暖めてたものだぞ」 浩介 「なんだとブラザー!」 浩之 「やるかブラザー!」 凍弥 「あぁあ待て!     幸せにならなきゃいけないって言葉なら前にも言ってただろうが!     どうしてそれで今更ケンカしようっていうんだよ!」 浩介 「む?別に。枕投げの口実が欲しかっただけだが」 浩之 「うむ」 ……前略、お袋さま。 いきなり泊まるのを後悔しそうになりましたです、ハイ。 ───……。 凍弥&浩介『フンフンフンフンフンフンフンフン!!!!!!』 ドスボスバスドボゴバドスドス!!!! 浩之 「ギャーーーッ!!ギャッ!ギャーーーーッ!!!!」 現在、俺と志摩兄弟は枕投げに熱中していた。 というのも、先ほどの会話が発端の地とされ、枕投げを決行することにはなったのだが。 浩之が漢を気取って『フッ……貴様らなぞ我ひとりで十分だ』と言うもんだから、 俺と浩介で枕を投げまくってるわけだ。 凍弥 「オラーーーッ!ジョーーッ!!立てーーッ!立つんだジョーーーッ!!!」 浩介 「貴様ひとりで十分だということを有言実行してみろブラザァーーッ!!」 ドスボスバスドボゴバドスドス!!!! 浩之 「ギャーーーッ!!!」 ───ちなみに。 枕などの一式は押入れに常備してあった。 そのありったけを浩之にぶつけてるわけだ。 浩之 「ちょ───待つのだ貴様ら!よってたかって卑怯だぞ!」 さっきまで立って堪えてた浩之だったが、屈んで防御に徹した。 その隙を突いて、俺と浩介が走る。 そして距離をつめたところで枕で殴る殴る殴る!! 浩之 「ぐわぁーーっ!!!」 浩介 「ふはははは!馬鹿めブラザー!攻撃こそが最大の防御なり!     普通の防御に徹した貴様に明日は無い!」 凍弥 「明日は無いって……」 何気に殺す気らしい。 とか思いつつも、俺も枕で殴るのをやめない。 浩之 「ぬわぁーーっ!!ぬわぁーーっ!!」 そうして俺と浩介は、SFCのドラクエXのパパスのように、 二回『ぬわぁーーっ』と言う浩之を殴りまくったのだった。 ───……。 凍弥 「で……気絶しちまったけど」 和室で茶をすすりながら、グッタリとしている浩之を眺める。 浩介 「風流だな」 凍弥 「そうか?」 俺には一方的な集団リンチをして祝杯を挙げているようにしか見えないんだが。 浩介 「しかしやはり、同志と共になにかをするのは楽しいものだ。     なんというのかこう……うむ。純粋で居られるのだな。自然体というやつだ」 凍弥 「それ、前にも聞いた気がするぞ」 浩介 「そうか?ならばそれほど、同志と共に居るのは落ち着けるということだ。     楽しいではないか、こうして日々を過ごすのも。     無茶が出来るというのはいいことだ。     実際、同志とともに無茶が出来るのもあと一年くらいだろう」 凍弥 「……そうかもな」 浩介 「我としては、いつまででも無茶をしていたいが。     時というのは残酷だ。楽しい時間ばかりを早く過ぎさせてしまう」 凍弥 「………」 ふぅ、と息を吐く浩介。 確かに、今年の春に俺達は三年になり、やがてその次に迎える一年で卒業してしまう。 そうなったら志摩兄弟は家を継ぎ、俺と会う機会も無くなるのだろう。 いや、そもそも。 俺がその時までこの世界に居られる可能性なんて無い。 俺はきっと、卒業まで持たないから。 ───ピピッ。 凍弥 「?……なんの音だ?」 小さな音に、思考が中断させられた。 ふと見てみると浩介が腕時計を見つめ、溜め息を吐いているところだった。 浩介 「オチットさんからの通信だ。仕事が出来たから来てくれ、だと」 凍弥 「……なんてゆうか、お前が跡取りだってことがよく解った瞬間だ」 浩介 「そうだな。こうして呼び出し食らったからには、認めるしかないのだろう。     ……そうだな、見学していくか?同志なら邪魔にはならんだろう」 凍弥 「いいのか?」 浩介 「構わん。というより、ブラザーとオチットさんだけとなると、緊張する」 凍弥 「そか。なら、見学させてもらうか」 よっ、と掛け声をあげて立ち上がる。 浩介は倒れたままの浩之の脇腹に貫手をやって起こし、その旨を伝えた。 浩之 「仕事か……ダルイな」 浩介 「愚痴るなブラザー。馴れればどうとでもなる」 浩之 「はあ……」 珍しく愚痴って溜め息まで出す浩之。 そんなふたりのあとに並び、仕事があるらしい社長室へと向かった。 ───……で。 凍弥 「ほうゎああーーーっ!!!!?」 その仕事の量に唖然とした。 チット「今日の仕事は書類整理です。おふた方、よろしいですね?」 浩介 「了解だ」 浩之 「善処しよう」 ふたりの身長くらいある書類がふたつほど。 薄っぺらな紙だから、それを考えるだけでもゾッとする。 浩介 「ああ同志よ、そこに座っていてくれ。     世話話でもしながら進めよう。どうせ退屈だ」 凍弥 「あ、あ……ああ」 置かれていた椅子に座り、ボ〜ッと志摩兄弟を見る。 書類整理というのは、書類ひとつひとつに目を通して、 必要なものかどうかをチェックするといったものらしい。 使用人の要望や、食品食材の在庫管理、 壊れた場所の修復の見積もりなど、様々な書類があるらしい。 見てるだけで疲れそうだ。 浩介 「オチットさん、電球の替えはあったかな?」 チット「ええ、あと14ダースほど。電球はよろしいですね」 浩介 「了解だ。ブラザー、こっちの書類に目を通してくれ」 浩之 「了解だ。ブラザー、ゲームの所望があるのだが……どうする?」 浩介 「菜苗さんか……まあ、我らも厄介になっているしな。了承」 ポンッ。 一枚の書類に判子が押された。 ……とまあそんな感じで、良いというものには判を、 悪いものは別に分ける等をして、書類を整理してゆく。 凍弥 「………」 俺はふと、興味を引かれ、社長室のデカい椅子に座っているふたりを横から見てみた。 浩介 「ドアの取っ手の修繕か……。     これは業者に頼むまでもないな。節約は必要だ、我が治そう」 浩之 「壷を落として割った?そんなものアロンアルファで一発だ。     割れたからなんだ、壷は壷だ」 ……思ったより、金には五月蝿いようだ。 まあ、そうだろうな。 こいつらは常に金と戦ってきた修羅どもだ。 金の節約に関しては厳しいものだろう。 ふたりのアパート暮らしは無駄ではなかったのだ。 浩介 「ブラザー、これとこれに目を通してくれ。それからここにサインを。     シーツの在庫確認表だ」 浩之 「うむ」 凍弥 「っと、ちょっと待った浩介。これ、シーツじゃなくてスーツ確認だぞ」 浩介 「なに?……むおっ!?い、いかんいかん……重大なミスをするところだった」 凍弥 「それからこれは……ああ、在庫がまだまだあるじゃないか。     補給するにはまだ早いだろ?」 浩介 「む?……む、確かに」 凍弥 「それから……ああ、掃除洗剤はこれじゃない方がいい。     いや、そもそも掃除に洗剤はいらんだろ。それから……───」 志摩 『………』 チット「………」 凍弥 「これとこれにチェック入れてくれ。それと、これ判が逆さまだぞ。     それにこの書類、さっき同じのが混ざってた」 ……ポム。 凍弥 「……ん?どした?」 肩を叩かれて、浩介に向き直る。 浩介 「……同志。我は素晴らしいことを思いついた」 凍弥 「なにがだ?」 浩之 「我もだ」 チット「わたくしもです」 凍弥 「だ、だから……なにがだよ」 浩介 「我とブラザーと同志が離れる必要の無い、素晴らしい方法だ。     我らは永遠に盟友。そして、常に顔合わせが出来る」 浩之 「うむ、素晴らしい」 チット「そうですね。おふた方ではまだまだ旦那さまには敵いません。     ですが、あなたとおふた方が協力すれば……」 凍弥 「……あの。話が見えないんだけど?」 浩介 「まあ聞け同志」 浩介と浩之が俺を挟むようにして立ちあがった。 浩介 「同志、貴様は結婚した。卒業すれば朧月のためにすぐ働くだろう。     だが、世界は未だ不景気。そうそう働き口が見つかるとは思えん」 凍弥 「まあ……そうだな」 浩介 「苦肉の策で会社に就職してもリストラが待っているかもしれん」 凍弥 「……お前はなにか?俺の未来にケチつけたいのか?」 浩之 「まあ聞け。つまりだ、そんな先行き不安な場所で働くより、     このレイヴナスカンパニーで働かんかと言っているのだ」 凍弥 「……誰が?」 浩介 「お前がだ、同志」 凍弥 「……俺?」 浩之 「そうだ」 …………へ? 凍弥 「ちょ、ちょちょちょちょっと待て!どうしてそうなるんだ!?」 浩介 「なに、安心しろ。     あの部屋が狭いというのなら、もうひとり分くらいのスペースを作ろう。     そこで新婚生活するのも悪くはなかろう」 凍弥 「いや、そーじゃなくて!どうして俺をカンパニーで雇うなんてことに───」 浩之 「考えてみれば簡単なことだったのだ。貴様は頭の回転が速い。     勉強も出来るし清掃も嫌いではないし運動も得意だ。     全てにおいて、通常の男児の平均を上回っている。     先ほどの書類整理、見事だったぞ。というわけで、ここで働いてくれ」 凍弥 「そ、そう言われてもだなっ……お、オチットさん……」 俺は助け舟を期待してオチットさんを見た。 が、オチットさんはニコリと笑って─── チット「わたくしは大歓迎ですよ。     旦那さまからあなたのことは手厚く歓迎しろと言われておりますし、     葉香さんもあなたのことを気に入っているようですからね」 そう言ってのけた。 ……なんだか、目の前が真っ白になったような感覚を味わった。 浩介 「大丈夫だ、盟友だからといって金を出さないということはしない。     給料はきちんと払うぞ?盟友だからといって給料を上げるなんてこともしない。     給料は他の使用人と同じ額だ。差別は嫌いだからな。どうだ?」 凍弥 「………」 浩之 「……同志?」 凍弥 「…………」 チット「……まあまあ大変、気絶してらっしゃいますね」 志摩 『……器用だな、同志』 ───…………。 正直、自分が存在する未来があったとして、 そんな自分がなにをしているのかなんて想像できなかった。 だって、自分は三年に進級する前に消えるって思ってたから。 だったらその先を思い描くのは虚しいものだろう。 こんなこと、その状況になってみた人以外には解らない。 ───だけど。 だからこそ、その『先』のことを自分で作ってみたらどうかなって思った。 思ったからこそ─── 浩介 「本当かっ!?」 凍弥 「あ、ああ……一応、マジだ」 目を覚ました俺は、浩介に申し出た。 カンパニーで働く、と。 チット「それでしたらあなたにも、     レイヴナスの有り方についてみっちりと叩き込みましょう」 凍弥 「へ……?だ、だって俺、掃除とかする使用人になるんだろ?     それならそういうのは……」 チット「あなたには、おふた方の補助及び、様々な役割をして頂きます」 凍弥 「うお……マジですか?」 チット「ええ、マジですよ」 凍弥 「あー……こ、浩介?」 スッと浩介に向き直ると、瞬時に合掌する浩介。 浩之も、それに習っている。 凍弥 「………」 チット「さあ、ではさっそく始めましょう。まずはレイヴナスの第一科条からです」 凍弥 「うへぇ〜……」 ドデカイ本棚から取り出された書類が目の前にドッサリと置かれた。 その数、さっきの書類整理の比じゃない。 凍弥 「………」 志摩 『強く生きろ、同志……』 いっそ、その言葉が憎かった。 ───……………………。 ……………………。 ………………。 …………。 ……。 チット「か……完璧です」 凍弥 「ぐはぁ〜〜……」 さて。 久しぶりに全力で思考を回転させたわけだが、ひどく疲れた。 科条の書類全てに目を通し、オチットさんが出す問題のすべてに答えてゆくというもの。 それに、俺はパーフェクトで合格してしまった。 チット「……坊ちゃん方は、科条を覚えるのに一ヶ月、     問題を解くのに一週間かかったのに……。たった半日で……?」 あー……ガッコのテストより性質悪いぞこれ。 でも、なんとか覚えた。 ありがとう与一。 あんたと会ってなかったら、俺も志摩兄弟みたいになってたよ。 チット「───まあまあ、これは大変。この成績は歴代の誰よりも優秀ですよ?     文句などありません……現時刻をもって、     あなたはカンパニーの一員として正式に認められました」 凍弥 「───へ……へぇっ!?一員!?あ、の……使用人じゃあ……」 チット「あらあら、言ってませんでした?     この試験で歴代の社長よりも良い成績を取ると、     その方の家はカンパニーの家族として認定されるのですよ」 凍弥 「なっ───なんだってぇーーーっ!!!?」 チット「ああ、きっと旦那さまも喜びますでしょう。     旦那さまはあなたのお父上に友情を感じておりましたから……」 凍弥 「あ、あのっ!?オチットさん!?じょ、状況が掴めないんだけど!?」 チット「さっそくカンパニー本社に連絡して旦那さまに報告しなければ!     あらあらどうしましょう!急がなければ!」 凍弥 「ちょっ───オ、オチットさん!?待って!イヤァ待ってェーーーッ!!!」 老人とは思えない早さで、ゴシャーーアーーーと走り去ってしまうオチットさん。 ……そして俺は理不尽とはいえ、さっきまで感謝してた与一へ呪いの言葉を吐いた。
じゃりりりりんっ!! 柾樹 「んあ?電話か。ったく、のんびりと読書しようって時に……。夕〜?」 声  「ごめんね〜、今手が離せないの〜!出て〜!」 柾樹 「……ふむ」 まあ、夫婦は助け合いが基本。 他の誰であろうと押し付けるが、夕だけは別だ。 がちゃっ。 柾樹 「ほいもしもし、霧波川ですが」 声  『ああ、失礼します』 柾樹 「?……はあ」 聞こえたのは女の声。 どこか、厳しく躾られたようなキリッとした声だった。 声  『霧波川柾樹さん、ですね?』 柾樹 「ああ、そうだけど」 声  『霧波川凍弥さんの父親で、間違いありませんね?』 柾樹 「……新聞なら間に合ってるぞ」(遠回しに『さっさと用件を言え』) 声  『いえ、新聞ではありません』 柾樹 「じゃあ用件を言え。急いでるんだ」 声  『かしこまりました、それでは……。     あなたさまのご子息の知識と経験により、     あなたの家系をレイヴナスカンパニーに迎えることが認定されました』 柾樹 「───……あい?」 声  『それでは、失礼しました』 柾樹 「なっ───オイコラ!凍弥がどうしたって!?家系がなに!?     待てこらっ!!お、おい!?」 ツー、ツー……。 切りやがった……。 柾樹 「………」 夕  「お待たせー、誰から?……って、どうしたの?」 柾樹 「いや……まあ、その……なんだ?と、とりあえずは凍弥だよな。     前に聞いたレイヴナスカンパニーの電話番号はと……」
───……。 声  『なにやっとんのだお前は……』 受話器から聞こえた父さんの第一声はそんなものだった。 声  『さっきいきなり電話が来て、     あなたの家がレイヴナスカンパニーの家族として、     正式に迎えられましたって言われたぞ……。なにやったんだお前』 凍弥 「な、なんにもしてませんよ?」 声  『なにやったんだ』 凍弥 「なにもやってないって」 声  『怒らないから』 凍弥 「カンパニーで出された妙な試験に完璧(パーフェクトゥ)で合格したら家族に迎えられまして」 声  『馬ァ鹿者ォオオオオオオオオオッ!!!!!』 凍弥 「やっぱ怒ったぁあああああっ!!!」 予想は出来てたけどね。 声  『で……。ど〜すんのだお前は』 凍弥 「えーと……実は、カンパニーで働くことになった」 声  『………』 うお、『ハァ〜〜〜ァアア……』って重苦しい溜め息吐かれた。 凍弥 「あ、あのなぁ、俺だってこんなことになるとは思わなかったんだぞ?     カンパニーで働くってことを決めて、     そしたらカンパニーのことを覚えなさいって言われて、     そして覚えたことを試験として出されたから覚えた通りのことを書いたら……」 声  『書いたら……家族かよ』 凍弥 「……すんません」 なんだか自分が謝ってる状況が理不尽な気がしてならない。 嗚呼、どうして謝ってるんだっけ俺……。 そもそも被害者じゃないか? 声  『……ま、いい。お前の決めた人生だ、お前が責任とって行動しろ』 凍弥 「ぬお!?いたいけな息子を見捨てるってのかい!そこゆくオヤジさん!」 声  『真面目に話し合ったその日に他人と家族になるいたいけな息子など知らん』 一息で言われてしまった。 声  『俺から言えるのは、頑張れ、ってことだけだ。そんじゃな』 凍弥 「えぇっ!?ちょ───父さん!?」 ブッ───ツー、ツー……。 凍弥 「……切られちった……」 父さんのことだ、電話のモジュラーも抜き取ってしまっただろう。 電話はもうだめだ。 凍弥 「いや……まいったね」 いよいよもって、自分が追い詰められたのだと自覚した。 というか……これって策略だったのでは? いきなりだったもんなぁ、家族になる、だなんて。 よし、ちょっと訊いてみるか。 ───……。 声  『やあ、話はオチットさんから聞いたよトーヤ。     今日からキミも家族の一員だ』 凍弥 「あの、そのことで聞きたいことがあるんですけど?」 声  『うん?なんだ?家族なんだ、遠慮しないでくれ』 オチットさんに取り次いでもらって、国際電話で会話。 しかしすっかりその気になっているカフェイン氏は、それはもう上機嫌だった。 凍弥 「えっと。レイヴナスの科条と箇条の試験の話ですけど。     あれに合格するだけで家族になるのって、真実なんですかね」 声  『ハッハッハ、面白いことを言うなあトーヤ。     実はレイヴナスの箇条の書類はね、     カンパニーの存在が認めた者にしか見せやしないんだ。その上で問題を出し、     カンパニーの部外者である者がカンパニーの者の成績を上回れば、     その人物はその時点でカンパニーの者よりも、     カンパニーの実情を知っていることになるだろう?』 凍弥 「そりゃそうだけど……」 声  『だから家族として認める。     私たちはね、そうやって外との交流を深めていったんだ。     もちろん、南城菜苗の祖父ともね』 凍弥 「え……?」 そうなのか。 それじゃあ菜苗さんの祖父も、こうして俺みたいに親戚になった人だったのか。 声  『まあ、聞けばオチットさんが、     【家族になる】ってことを聞かせずに試験をしたらしいじゃないか。     だからキミにはチャンスをやろう。本当に家族になるか、それともやめるか』 凍弥 「───いや、なんかもう考え纏まってるんで。     ……これから、よろしくお願いします」 声  『……そうか。ははっ、そうかぁっ!いやいや、私の方こそよろしくだっ!     っと、それじゃあ仕事があるのでこれで失礼するっ!』 ブツッ───ツー、ツー……。 凍弥 「………」 まあ、いいよな? 困ることなんてなにもないし。 チット「これであなたはレイヴナスの一員ですよ」 凍弥 「うん、よろしく、オチットさん」 チット「はい、よろしくお願いしますね」 ───こうして。 済し崩しに近いけど、納得した状態で─── 俺の家系は、レイヴナスの家族に入ることとなった……らしい。 Next Menu back