───放浪精神『第四章◆“さとり”と災狩(さいか)の子』───
───……悠介(おっちゃんバージョン)がルナっちを連れて消えてから数分。 アタイは大樹の部屋で穏やかに眠っている聖の顔を見てホッとした。 よかったよかった、あの騒ぎで起きたんじゃないかと心配してたんだ。 彰利 「俺……決めたよ。聖を立派なおなごに育ててみせるよ」 パパと呼ばれた弱みだ。 アタイ、もうこの娘を放っておけない! 彰利 「くそう……なんてめんこい寝顔してやがるんだこの野郎……!!     添い寝して撫でたくなるじゃねぇか……!」 でも実際やったら変態扱いなんでしょうね。 世知辛い世の中です。 しかし、ふと思う。 なんだかんだとアタイが子供のおなごと縁深いのは、 アタイと粉雪が結ばれた末に産まれる子供が男だからなのではと。 運命なんぞは信じぬが、世の中ってのは数奇なバランスで成り立ってますから。 だとしたら……アタイはこうして、自分の子を愛でることは出来ない……と? 彰利 「…………………」 ……うん、俺……決めたよ。 アタイ、きっと聖を立派に育てるよ……。 てゆうかもう愛してる。 この愛をもって、最高のおなごに成長させてみせるよ……。 聖  「う……ん……」 彰利 「ム───!」 草葉のクッションで寝ていた聖が、身を丸くして震えた。 やはりこの季節だ、寒いに違いない。 彰利 「くっ……抱擁して暖めてやりたいところだが、それでは根本が変わらん!     ここはひとつ、布団のひとつでも入手せねば───!」 このままでは風邪を引いてしまうがよ! よし決めた!どんな手段を用いてでも、聖のために布団を入手するぞ! 彰利 「そうと決まれば下界へGOだ!ぬくくしてろな、聖!」 アタイは一度、聖の髪をくしゃっと撫でてから、大樹の部屋から飛び出した!! 彰利 「大樹の部屋は結構デカイから……うむ、一畳分くらいの布団は余裕な筈!!     フフフ、ショッピング魂が燃え盛るぜ〜〜!!舞空術ーーっ!!」 こうしてアタイは逸る気持ちを抑えきれず、 月空力で空を飛んで下界へと飛び立ったのでした。 ───……そして僅か1分後……金が無いことに気づいた。 彰利 「所詮この世は金ですか……嫌な世の中になったもんだぜ……」 経済大国日本とか言うけど、ただ物価が高ェだけじゃねぇか……。 民のことなど二の次にして、他国に見せつけてるだけみてぇなもんじゃねぇか……。 彰利 「大体、税金制度がどうかしてるのよ。     消費税を日本中から取るだけで一日にどれだけの金が入手できると思ってんだ……」 それがいつかは5%から30%になるっつぅんだぜ? そんなにまでして金が欲しいのかお偉いさん方は。 てゆうかその金をなにに使うんだ? また失敗するようなロケットに使うのかね? 宇宙の先はNASAに任せときゃいいじゃねぇの……。 くだらん見栄張ってないで任せときゃあいいじゃねぇの……。 彰利 「聖……」 今頃、寒さに体を震わせてるんだろうなぁ……。 ごめんなぁ、甲斐性のないパパで……。 せめて北海ミルクパンくらいは奪取していくからなぁ……。 『ぬくくしてろな』って言っちまったからなぁ……。 ───アタイは一度、大樹近くまで戻って、とある武装をして再び街へと降りた。 この瞬間から『俺』は『オレ』となり、先を読める『妖』となったのだ─── ───ドガシャーーーン!! 運送者「うわあーーーっ!!!」 運送車を襲い、その大きな積荷の中の『北海ミルクパン』をたんまりと奪取した。 これ食えばミノル……また笑ってくれるかな。 北海ミルクパンを手に、そう思った時───近くの派出所から警官が駆けてきた。 警察 「貴様!派出所の前で事故を起こすとはいい度胸だ!逮捕する!     妙な仮面をつけて、なんのつもりだ!」 そう。 今のオレは上半身裸で、顔には笑い顔の面具。 下半身には白く、膝あたりまでしかないズボン。 右手には大きめの草刈鎌、 左手にはたんまりと入手した北海ミルクパンを入れたビニール袋。 完全な、『うしおととら』の『“さとり”』スタイルだ。 そんなオレに、警察が警棒を手に襲いかかってくる。 だがオレは冷静に、その先を()た。 さとり「右ナナメからの振り下ろし、怯んだところで逮捕、と思ったろ……」 その警棒を軽々と避け、警察との距離を取る。 警察 「このっ!大人しくしろ!」 さとり「距離を詰めてから右手の攻撃を囮にして左手で掴む、って思ったろ……」 伸ばされた右手が『囮』になる前に掴み、警察をブン投げた。 ───ドカァッ! 警察 「げはっ!!」 さとり「甘いなぁ、オレは“さとり”だぜ……?お前なんかには捉えられねぇなぁ」 警察 「ぐ……は……」 がくっ。 さとり「待ってろな、ミノル……。今、帰るからなぁ……」 発動させていた月視力を消し、その場から走り去った。 ───ドガシャーーン!! 店員 「きゃああああーーーーっ!!!?」 伊藤養家堂(いとうようかどう)・二階の窓ガラスを破壊し、中へと侵入する。 さとり「ミノル……待ってろなぁ。今すぐお前に合う目を持っていくからなぁ……」 店員 「け、警備班来てください!二階の布団売り場に変人が!!     ───あ、……え!?ど、どうして!?通じない!!」 さとり「警備班を呼んでなんとかしよう……と、思ったろ?」 壁を破壊して、通信のための回線を切っておいた。 これで邪魔は出来ない。 警備班「なにか物凄い音が聞こえたぞ!何事だーーっ!!」 さとり「ゲゲェエーーーッ!!!」 しまった!これは読んでなかった!! そりゃああそこまで大きな音が鳴れば、誰だって気づくわ! 店員 「ああ!あの人です!あの人がいきなり窓ガラスを!」 警備班「む!いかにも怪しいヤツ!来い!逮捕する!」 警備班が駆けて来る。 だが俺は冷静にそれを視て、警備班の攻撃の全てを避けてみせた。 警備班「な、なな……」 さとり「ヘタな鉄砲、数撃ちゃあたる。って……思ったろ」 刑事犯「な、なにをこの!伊藤養家堂の警備を勤めて20余年!!     貴様のような変人を捕まえられぬ私ではないわぁーーっ!!」 さとり「重心を低くして足払い、倒れたところに警棒。って思ったろ」 警備班「なっ───!!」 ザコォッ!! 警備班「あっ……あひぁああーーーーっ!!!!」 店員 「ひっ……きゃあああぁぁぁぁーーーっ!!!!」 警備班の手首から先が床に落ちた。 これぞ超実戦柔術本部以蔵(もとべいぞう)流・草刈鎌奥義『毒手狩り』だ。 でも流石に殺す気は無いので、手首を拾って警備班の腕に接着し、月生力を流して治す。 だがショックのあまり、警備班と店員は気絶してしまっていた。 さとり「……布団取るなら今だなぁ」 強盗への抵抗は、“さとり”になって運送車を転倒させた時点で消えております。 さとり「ははははは!!ミノルはオレんだァーーーッ!!」 オレは高級羽毛布団一式を手に掴むと、ブチ破った窓から逃走を謀ったのだった。 ───……。 大樹部屋に戻ると、 強奪してきた布団を敷いて、 その上にミノル(聖)をやさしく乗せ、掛け布団を掛けてやった。 そうすると震えも止まり、どうやら温かく眠れているようなので安心した。 さとり「ごめんなぁミノル……。     オレ……お前のためにって思ったけど……やり方間違えちまったみてぇだ……。     オレはしばらく反省するために離れるけど……ぬくくしてろな。     そいからなぁミノル……。オレ……お前のお父さんじゃねぇんだ……」 言いたいことだけ言うとその場に北海ミルクパンを置いて、部屋を出た。 その刹那にサトってみせた。 さとり「な、何者だ貴様!何故大樹から出てきた!って思ったろ」 夜華 「なっ───うわっ───うわぁあああああっ!!!!」 サトってみせた先には、心底驚いている夜華さん。 さとり「オレは“さとり”だぁ……。ミノルのために目玉を集めてる……」 夜華 「さとり……?みのる……?そんな者はここには居ない!     貴様、なんの用があってここに来た!」 さとり「ミノルのために目玉を集めるために来たんだ……邪魔はさせねぇ」 夜華 「目玉……?その血塗られた鎌……まさか貴様、あの幼子を!!」 さとり「抜刀して牽制、抗うようなら叩ッ斬る───って思ったろ」 ガキッ…… 夜華 「ぐっ……!?き、貴様……!」 抜刀されようとした刀の柄を押しつけ、鞘から抜けないようにする。 さとり「抜けぬなら素手。相手を突き飛ばして抜刀、って思ったろ」 ブンッ! 夜華さんが繰り出した拳が空を裂く。 夜華 「なっ───!?」 さとり「甘いなぁ、そんな攻撃、オレには効かねぇよぉ」 夜華 「くそ───ならば!」 さとり「足払いをしてバランスを崩させてから抜刀って思ったろ」 夜華 「なにっ!?」 ガツッ! 勢いのついた足払いを重心移動で耐えてみせる。 さとり「飛び退いてから抜刀って思ったろ」 夜華 「!?」 背中に腕を回し、夜華さんのすぐ後ろに草刈鎌を構える。 さとり「飛び退いたら死ぬなぁ。お前ごときがこの“さとり”に敵うかよ」 夜華 「き、貴様……本当に何者だ……!」 本当に手も足も出ない状況に、流石の夜華さんも驚愕を隠せないでいた。 刀を持った手が震え、恐怖していることが窺い知れる。 さとり「オレは“さとり”さ。ミノルの目に合う目玉を探してるんだぁ。     ───話をさせて油断したところに蹴撃って思ったろ?」 夜華 「っ!」 夜華さんの首を片手で掴み、その行動をやめさせる。 さとり「負けず嫌いなのはいいことだけどなぁ、     オレに出会って勝てるヤツなんか居ないなぁ」 夜華 「ひっ……!?」 夜華さんの首を掴む手に、徐々に力を込める。 夜華さんの震えはピークに達し、手に持った刀を落としてしまった。 さとり「この“さとり”はなぁ、相手の取る行動が先読みできるんだぜ?     お前なんかがこの“さとり”に敵うかよ」 夜華 「っ……〜〜……」 ガクッと、夜華さんから力が抜けた。 すると次の瞬間、目付きがとても弱々しいものになった。 さとり「───どうして自分が首を絞められてるか解らない。そう思ったろ」 夜華?「うっ、く……!?な、なな……?ど、どうしてわたし……首絞められて……?」 見事サトってみせた。 そしてこやつは夜華さんではなく、浅美チャンとやらだということが確定。 オレは絞めていた首を離し、浅美チャンを解放してやる。 浅美 「ケホッ!コホッ!う、うー……ひあっ!?」 さとり「どうして目の前にこんな人が居るんだろうって思ったろ?」 浅美 「───なっ……ななな」 さとり「なんで考えてることが解るんだ、って思ったろ」 浅美 「なんで考えてることが───あれぇ!?」 さとり「どうして先読みできるんですかって思ったろ」 浅美 「どうして先読み───あ、あわわ……!!」 浅美チャンの全てを先読みして語ってみせた。 もちろん浅美チャンはカタカタと震え、 訳も解らないままに状況に飲み込まれるだけだった。 ───……。 浅美 「え、えっと……つまりここは過去の世界で、今のわたしは童心……。     あなたは“さとり”さんで、ミノルって子の目を探してる……?」 さとり「違うなぁ。“さとり”(アイ)で見てみたが、     どうやらここは、過去は過去でも精神の過去のようだぁ」 浅美 「精神の過去……?」 さとり「そうだ……」 ───震える浅美チャンが落ち着きを取り戻してからしばらく。 オレと浅美チャンは一度、じっくりと状況を考えてみることにした。 さとり「この世界を視てみるとなぁ、そいつの正体が解るんだぁ。     この世界はメルティアの精神の世界で、その精神に入るのに的確な精神体……     つまりは童心にされた状態で、オレ達はこの世界に立っているんだぁ」 浅美 「あれ……?ということは“さとり”さんも童心なんですか?」 さとり「そうだぁ」 浅美 「誰なんですか?     精神介入が許されるってゆうことは、親しい人ってことですよね?     お面外してみせてくださいよ」 ぐっ……! 浅美 「あれ?」 ぐっ!ぐぐっ!! 浅美 「あれれぇっ!?は、外れない……?」 さとり「無駄だぁ……。付けた時から予想はしてたんだぜ?     この面、ジャストフィットしすぎてて外れねぇんだぁ……。     所詮オレが何かを真似ると、いつもこうなるんだぁ……」 もう馴れてるからいいです、諦めます。 浅美 「……誰なんですか?教えてくださいよぅ」 さとり「いいんだ……オレは“さとり”だぁ……」 浅美 「イジケてないで教えてくださいってば……」 さとり「“さとり”だぁ」 浅美 「うー……」 んむ……ふと思ったんだが、 浅美チャンってば少し性格が活発な水穂ちゃんって感じだよね? なんてゆうか、話してると懐かしい気分になれる。 浅美 「メルちゃんと仲がよくて……こんな格好する人……?     あぁでも、童心になってるんだから、みんながみんな普通だとは限らないし」 とかなんとか、この“さとり”の横で喋ってる時。 きゅく〜っと、なにやらカワイイ音が浅美チャンの腹部から鳴った。 浅美 「わっ……あ、わわ……」 さとり「腹……減ってんのか……?」 浅美 「う、うう……恥ずかしながら……」 さとり「なら……これ食え」 ガサリと、ガメてきた北海ミルクパンとビン牛乳を渡す。 浅美 「北海ミルクパン……ですか。     “さとり”さん、どうしてこんなの持ってるんですか?」 さとり「食い物を『こんなの』なんて言うんじゃねぇ……。     ……あのな、ミノルのやつがな、これ食うと……笑うんだ。     だから俺……あいつのためにな……」 浅美 「そうだったんですか……。     ミノルって人がどんな人かは知らないですけど、きっと嬉しいでしょうね。     あ……でも、食べちゃっていいんですか?」 さとり「あぁ……まだたくさんあるからな……」 浅美 「そうなんですか。それじゃあ、ご馳走になります」 ぱんっ、と手を合わせて、北海ミルクパンの封とビン牛乳の蓋を開ける浅美チャン。 そして交互に元気よく食べてゆく。 ……ここに、共犯が誕生した。 浅美 「ン……んくっ。あれ?パトカーの音だ。     なにかあったんですかね……あむっ、んぐんぐ……」 さとり「実はそれなぁ?運送車を襲って手に入れたパンと牛乳なんだぁ」 浅美 「ぶぅーーーっ!!?」 さとり「ギャッ!?ギャーーーッ!!」 なんと! 北海ミルクパンと牛乳を口に含んでいた浅美チャンが、 この“さとり”に向けて吹き出した!! さすがのこの“さとり”も、こればっかりはサトれなかった!! さとり「あぁ〜〜〜……目がぁ〜〜……目がぁああ〜〜〜っ……!!」 ムスカくん、キミは英雄だ! 浅美 「あ、あれ……?その言葉って確かムスカ……って!あぁっ!     あなた、弦月彰利さんですねっ!?」 さとり「“さとり”だぁ」 浅美 「ウソつかないでください!     考えてみれば、そんな格好を平気でするのはあなたくらいです!」 さとり「さ、“さとり”だぁ!信じてくれ!     オレは“さとり”なんだぁ!し、信じてくれーーっ!」 てゆうか、数えられるくらいしか邂逅してないのに、 あっさりとオレという人間を見破ってるんですけどこの人……。 浅美 「あなたの言う『ミノル』ってゆう人も、誰かの童心なんですね!?     誰なんですか!自分の正体ともども白状しちゃってください!」 さとり「い、いやだ……!ミノルは“しじゅつ”は怖いって言った!!」 浅美 「だ、誰が手術するだなんて言ったんですかっ!     とにかくこれからのことをその人と相談してですねっ!」 さとり「だ……誰がお前なんかに渡すか……ミノルはオレんだァーーーッ!!!」 ドシュゥーーーン!! その場で素晴らしきジャンプをして見せ、大樹部屋の入り口へと降り立つ。 浅美 「歩いてもすぐに着く距離じゃないですか!飛ぶ意味あったんですか!?」 さとり「ミノル……オレ、やっぱりお前をひとりにしておけねぇ……一緒に逃げよう」 浅美 「あ───そこに居るんですねっ!?誰ですか!」 さとり「……自分で叫んでおいて、叫び方が椛ちゃんみたいだ……って思ったろ」 浅美 「うぐっ!」 さとり「そんなことだけ先読みしないでくださいって言うつもりだったろ……」 浅美 「はうっ!?」 さとり「お前みたいに心に隙のあるヤツに、この“さとり”は止められねぇよぉ……」 大樹部屋を開け、中へ入る。 すると、丁度ミノルが目を覚ましてキョロキョロしているところだった。 さとり「ミノル……」 聖  「ひぅっ……!?あ、あぅっ……!!パ、パパ……!?パパァッ!?」 けど、オレを見ると、突然怯えだした。 さとり「ミノル……どうしたんだ……?なに、怯えてんだ……?」 聖  「パパ……どこなの……!?怖いよぅ……!おばけが居るよぅ……!!」 さとり「ミノル……」 頭を撫でてやろうと、手を伸ばした。 けどその手は弾かれ、ミノルは泣き出してしまった。 さとり「………」 浅美 「泣き声が聞こえますよ……?なにやったんですか……」 さとり「オレ……ミノルに笑ってほしくて……。ほら、ミノルが好きなパンだぞ……」 ガサ、と北海ミルクパンを取り出して、ミノルに差し出す。 けど、ミノルは泣くだけだった。 声  「ぜぇっ……ぜぇっ……!い、居たぞ……!     この神社に……逃げ込んだという、通報は間違いじゃ……なかったようだ……!     ひ、引っ捕らえろぉっ!」 さとり「………」 浅美 「わっ……!警察の人、いっぱい来ちゃいましたよっ!?」 オレは草刈鎌を手に、ゆっくりと警察の群集に向き直った。 さとり「なぁ……もしオレがあいつらをやっつけて、正体をさらしたら……     ミノルはオレを見て、お父さんって言ってくれるかなァ……」 浅美 「言わないと思いますよ」 さとり「おめぇ……厳しいなぁ……。まるで……夜華さんみてぇだ……」 草刈鎌を握る手に力を込め、軍勢へと疾駆した。 浅美 「あっ!」 さとり「ミノルを……泣き止ませてやってくれ……」 それだけ言い残し、群がる警官の波に飲まれる。 さとり「ミノルはオレんだァーーーッ!!」 警察1「うわぁっ!?なんて足が速いんだ!!」 さとり「愚直に真っ直ぐ来るなら、そのまま叩き伏せてやるって思ったろ」 ヒュッ───ガツッ!! 振り下ろされた警棒が、石床を叩いた。 警察1「なっ───消えた!?」 ドコッ! 警察1「───!」 草刈鎌の柄で警察の後頭部を殴りつけ気絶させる。 続いて月視力を全開させて、先の先までをもサトる。 さとり「閃光手榴弾を投げて捕らえようって思ったろ───」 警察2「ひっ……!?」 シュカァン! 警察2 「ひあっ……!フ、フラッシュグレネードが簡単に真っ二つに……!?」 さとり 「ふたりがかりで、下段上段から警棒で殴りつけようって思ったろ。      それを囮にして、中断を狙おうって思ったろ」 警察×3『なにっ!?』 ドボォッ!ガツッ!!ザコォッ!! 警察×3『ぐあぁあっ!!』 さとり 「無駄だなぁっ!おめぇらにこの“さとり”は捕らえられねぇよぉ!」 警察6 「くっそぉぉおおっ!!」 さとり 「捨て身の一撃をって思ったろ」 警察6 「!?う、うわぁああああっ!!!!」 ゾブシャアッ!! 顔面に、草刈鎌が突き刺さった。 警察6「───……」 どさっ。 警察6が、力無く倒れた。 さとり「…………適当なやつに取り憑いて、オレを殺そうって思ったろ」 悪霊 『ううう……!!』 悪霊の顔面に刺さった草刈鎌を引き抜き、悪霊を睨みつける。 さとり「おめぇ、弦月彰利の公開処刑の時、レオが殺した家系の存在だなぁ……?」 悪霊1『ニクイ……ニクイ……!!』 悪霊2『ナゼ……オレタチガシナナケレバ……ナラナカッタンダ……!!』 悪霊3『セイイキナドツクルナ……!ココハ……ワレラノリョウイキダ……!!』 さとり「邪魔者はどんな手段を持ってしても殺す、って思ったろ」 悪霊4『コロシテヤル……ミチヅレダ……!!』 ルナっちが居ながら、今まで消されなかったのが不思議なくらいの悪霊だ。 まぁ恐らく、ルナっち自身が魂狩りを嫌ってたってことも理由のひとつだろう。 どのみち、消滅させるべきか。 こいつらがここに居ちゃあ、この場に不幸をもたらすだけだ。 さとり「ミノルはオレんだ……おめぇらなんかに……渡すもんか」 草刈鎌をギリ、と握り締めて歩き出す。 フオオ……!人を囲んで殺そうとしてくれた記憶が甦ること甦ること! どう料理してくれようか……! ───いや、待てよ? こいつらも災いって言やぁ災いだよな? だったら……ミノル(聖)に狩らせるべきだよな? さとり「でも……ミノルに、急にそんなことさせるのか……?」 ミノルはまだ子供だ……。 なにも、こんな早くに災狩(さいか)をさせることは……ないかもしれない。 警察2「あぁあっ!」 さとり「あ───」 油断。 ミノルを思うあまり、月視力の発動を怠った。 ───ガツッ! さとり「ギャーーーッ!!」 憑依された警察の警棒が、“さとり”の面具を破壊した。 額が少し割れ、血が流れるのと同時に、割れた面具が石床に落下して砕ける。 ───その瞬間、『オレ』が『俺』になった。 彰利 「ああくそ!“さとり”面具が!これじゃあ“さとり”スタイルが輝かない!」 “さとり”スタイルは“さとり”面具あってこそ輝くもの……! それを……よくも! 彰利  「ぜっ……絶対に許さんぞムシケラども!      じわじわとなぶり殺しにキャーッ!?」 警察×6『うあぁああああーーっ!!!』 怒りを奮い立たせてた最中だってのに、警察のみなさまがアタイ目掛けて襲いかかる! 思わず怪虫に襲われそうになった仲田くんの叫びを出してしまったじゃないか! 彰利 「お、おのれ貴様ら!よってたかって卑怯───ムグオオ!!血液が目の中に!!     グウウーーーッ!!こ、これではなにも見えーーーん!!!」 バッドなタイミングで、額から流れた血が両目に入った。 視界は完全に奪われ、『視る』こともできない。 ───ドカッ!ガスッ! 彰利 「げふっ!ごっ!」 体に走る鈍痛。 操られた警察どもが、俺を本気で殺す気で殴ってきている。 や……まいった。 こいつら頭ばっかり狙ってきやがる……。 割れた額の傷が広がって、もう完全に視界が塞がれちまった。 彰利 「ハッ!い、いや!俺にはあれがあった!ピエロアイーーーン!!」 閉じた状態の瞼から一気に飛び出させれば、少しは血液も取れるだろう作戦! ───ザギィッ!! 彰利 「いぐあっ!?」 目を伸ばそうとした刹那、両の瞼が縦に裂かれた。 警棒で、強引に。 これじゃあ目を開くどころの問題じゃない。 伸ばしたところで血液まみれになるのは、見えないけど目に見えている。 彰利 「くっそ……いい加減にしやがれ!!」 月然力・風で警察どもを吹き飛ばそうとする。 だが、力を発動させようとした瞬間、頭に警棒が振り落とされた。 彰利 「がっ……───」 ……当たり所が悪かった。 意識が遠ざかってゆく。 けど、倒れるわけにはいかない。 こいつらは俺が倒れたことを知ったら、次は聖や浅美チャンを狙うに違いない。 ……倒れるわけにはいかない。 いかせるわけにはいかないんだ……。 声  「パパァッ!!」 ───声が聞こえる。 薄れゆく意識に喝を入れてくれる声が。 ……ああ、解ってる。 お前のところになんか行かせるもんか。 行かせるくらいなら───! 彰利 「俺に開けぬ物は無い!!───開け!!太平洋プレートォオオォ!!!」 月壊力+月切力全開!! 聖域となっている線の波動を頼りに、その境目からを破壊する!! バガァッ───ゴガァアアアアアッ!!! 声  「パパッ!?パパァッ!!」 大地が割れる感触を感じながら、地鳴りとともに聞こえた声に微笑んだ。 その声はどんどんと空へと昇ってゆく。 聖域部分だけを、高い位置まで地核変動させた。 これで、あいつらに手を出せるやつらは居ない。 声  『ウ、ウウウ……』 声  『イマイマシイ……!ソンナニシニタケレバ、キサマカラ……!!』 無数の気配が近づいてくるのを感じる。 ……まいった。 がむしゃらだった所為で、余力残しとくの忘れてた。 どうやら……ここまでみてぇだ……。 でもよ、へへ……悪くない人生だったぜ……? ああ……友情フォーエバー……。 ───ザコォッ!! 声  『ギィイッ!?』 声  「っ……!」 ……俺に向かって近づいてきていた気配が、ひとつ消えた。 そして聞こえる小さな息遣いは─── 彰利 「聖……?」 声  「パパは……殺させないっ……!!     パパはわたしを信じてくれるって言ってくれた……!     会って間も無いわたしに、パパで居てくれるって言った……!!だから───」 ……この、馬鹿……。 なんのために俺が……! 声  『シニガミ……!?バカナ……ナゼ!』 声  『オチツケ……シンジラレヌガ、コイツハ……シニガミノコドモダ……。     シカシ、ソレガユエニチカラガチイサイ……。     ワレラデモジュウブンニ……ホロボセルゾ……!』 声  『ダガ、アノ【カマ】ニダケハキヲツケロ……アレデキラレレバ、イチゲキダ』 声  「っ……だ、だめ……!近づかないで……!」 声  『コロスコロスルル……スリリリリ……』 声  『ギリィイイイヌゥウウウウウーーーッ!!!!』 ガンッ! 声  「あぅっ!!う、あ、ぅ……!!」 声  『コロス……』 声  『シネ……シネ……』 声  「うぅう……!!痛い……痛いよぅ……パパァ……」 声が聞こえる。 それは恐怖と痛みからの声だ。 だってのに、聖は俺の盾になったまま、退こうともしない。 彰利 「………」 俺はその気配を探り、聖をやさしく抱き締めて、頭を撫でてやった。 声  「あ……パパ……?───いたっ!」 すると、その手に温かい液体がついた。 ……つまり、─── 声  「パパ、ごめんね……。わたしさっき、パパにひどいことを……」 彰利 「───ッ……!!」 それなのに……頭を殴られて、血が出てるってのに……! 聖は必死に俺に謝っていた……。 それ……どころじゃあ……ねぇってのに……!! 許せねぇ……!よくも、聖を傷つけやがったな……!! 声  「───!だ、だめ!パパ……怖くなっちゃ嫌だよ!」 彰利 「聖……?」 声  「パパは、やさしいパパで居て……。災狩はわたしの仕事だから……。     だから……これが……終わったら、───」 ……抱き締めている聖の体が震えている。 それだけで、その言葉の意味が解った。 彰利 「……解った。胸でもなんでも、貸してやる。だから、頑張れ」 残りカスみたいな力を搾って、聖の頭の傷を癒す。 そしてその背中をポンと押してやった。 声  「───“不浄を滅する災狩の大鎌(ディザスティングヴァニッシャー)”」 聞こえた声に迷いはない。 ただ、目の前の『不浄』を狩るのみ。 さっきまでの不安や恐怖は感じられず、ただ。 そこに居る自分を『災狩』として信じる者が閃くのみだった。 ───……。 そして、事が済んだ瞬間。 聖は俺の胸に飛び込むように抱きつき、泣いた。 初めて狩る存在の重さや恐怖に押し潰されそうなんだろう。 無理もない。 聖はこんなにも小さく、か弱いんだから。 声  「っ……ひぐぅ……うっ……うぅう……!!     殺しちゃったよぅ……!わたしっ……!魂をっ……!!」 『何かを殺した』という事実が重過ぎた。 既に死んでいた存在をさらに殺せる死神としての在り方。 それが怖いのだろう。 けど───そりゃあ違う。 聖はそんなことを気にするべきじゃないんだ。 彰利 「聖……お前は殺したんじゃないんだ」 声  「ひぐぅう……!!でもっ……でもっ……!」 彰利 「不浄である存在を、お前が助けたんだ。     それはお前じゃなきゃ出来なかったことだよ。     もし俺が力を振り絞って切り裂いてたとしたら……     あいつらは別の憎しみを残して消滅するだけだった。     お前はそんなあいつらの憎しみもなにもかもを、全部斬ってみせたんだよ」 声  「パパ……」 彰利 「いいかい聖。お前のその鎌は、魂を破壊する鎌じゃない。     魂を救いに導く鎌だ。     それは聖にしか出来なくて、お前が誇ってもいいことなんだよ」 声  「でも……」 彰利 「……大丈夫。聖が悲しくなったら、いつでもじいやが抱き締めてやる。     たとえ周りの全てが敵になっても、じいやだけは聖を抱き締めてやるから」 声  「パパ……パパァッ!!」 より一層、きつく抱きついてくる聖を受けとめてやる。 その頭を撫でて、その不安がなくなるまで抱き締めていてやろうと思った。 で……思った時。 ずっと頭上の方から『助けてください〜〜〜……』という、情けない声が響いた。 浅っちめ……雰囲気ってもんが読めねぇのか。 って俺が言えるような言葉じゃないな、いやはや。 Next Menu back