───放浪精神『第五章◆校務仮面と大友くんの涙』───
───……。 聖が落ち着くまで無視してた浅っちを、 太平洋プレート(地核変動させた聖域)ごと降ろし、迎えてやった。 彰利 「奇跡体験だったろ?キャア!アンヴィリーヴァヴォー!!」 声  「奇跡体験すぎて怖かったですよ!妙に酸素も薄いし!」 彰利 「まあそうでしょうなぁ。この神社自体、高すぎる位置にあるし」 泣きつかれて眠ってしまった聖をやさしく背負い直すと、聖域へと入る。 そろそろ俺も限界だ。 目も塞がったままだし。 カルビン先生の真似をして全力太平洋プレートやっちまった所為だ。 大樹の中で休めば随分違うだろう。 夜まで待って、月光浴に敷け込むかな。 彰利 「というわけで、俺は大樹部屋で寝ます故。浅っちも寝なさい。     布団あるから、聖と一緒に寝てやってくれ」 声  「はあ……まあいいですけど……あなたは?」 彰利 「俺はあそこだ」 感覚で大樹のてっぺんを指差す。 ああ、目が見えないのって本当に不便だ。 カルビン先生に至るまではまだまだ実力不足だな。 彰利 「月操力使いすぎた故、(せつ)はあそこで寝るゴワス」 『寝るでゴワス』じゃないのがミソである。 あそこで寝てれば、間違っても月夜を見逃すこともあるまいて。 ……寒いけどね。 彰利 「そんじゃあ聖を頼んだぞ」 声  「それはいいですけど……その格好で眠るつもりですか?」 彰利 「その格好って───ゲ、ゲェエーーーッ!!!」 なんか寒いなって思ったら! そうでした……俺、まだ“さとり”スタイルだった。 上半身、裸じゃねぇか……。 ズボンも膝くらいまでの“さとりズボン”だし。 ……やべぇ、着てた服、どこに置いたのか解らねぇ。 彰利 「い、いや、このままでは風邪を引いてしまうがよ。     ここはなんとしてでも探さねば」 えーと……どこ置いたかなぁ……。 声  「あ、それじゃあ……えっと、聖さんでしたっけ?     この子はわたしが預かりますね」 彰利 「ああ、頼む。泣かせたら許しませんよ?」 声  「は、はあ……って、この子……どこかで見た覚えが……」 ブツブツ言う声が遠ざかってゆく。 そんな中でも俺は服を探し───ボコッ。 彰利 「アレ?」 足場が崩れた。 そして体が心地良い浮遊感に襲われ───耳に『水が落ちる音』が聞こえた。 彰利 「滝壷ォオオオオーーーーーーーーッッ!!!!!????」 俺はもがいた!足掻いた!空を飛ぼうとした! でも無駄でした、人生って無情です。 ガボシャアアーーーーーンッ!!!! ───……。 しくしくしく…… その場に切なげな泣き声が響く。 何を隠すこともなく、アタイの泣き声である。 声  「あの……聖ちゃん起きちゃうから黙ってもらえません?鬱陶しいですよ?」 彰利 「あんたすっげぇ無情ッスねぇ!!」 びしょびしょに濡れながら、盲目ながらに必死で登ってきたってのに……。 でも確かに聖を起こしてしまうのは可哀相だ。 体が濡れちまったから服が見つかっても意味ないし……仕方ねぇ。 馬鹿は風邪を引かないという伝説(?)を信じるしかねぇよな? 声  「でも、ほんとにてっぺんで待つつもりですか?寒いですよ?」 彰利 「私は一向に構わんッッ!!漢に二言はねェのよ!!     絶対あそこで待つね!なんなら誓ってもよくてよ!?」 声  「そうですか。それじゃあ、頑張って漢を磨いてくださいね」 彰利 「オウヨ!風でも雨でも雪でも吹雪でも、どーんと来いってんじゃあーーっ!!」 こうしてアタイは上半身裸の“さとり”スタイルで夜を待つことになったのでした……。 ───ビュゴォオオオーー……!! 彰利 「おががががが…………」 ひでぇよ……神さま、あんたあんまりだ……。 なにも、ほんに吹雪にせんでもいいじゃない……。 彰利 「も、もうアカン……!大樹部屋に……!」 あまりの寒さに、大樹部屋(隆正用)へ入ろうとした時。 アタイの脳裏にひとつの言葉がよぎった。 『私は一向に構わんッッ!!漢に二言はねェのよ!!  絶対あそこで待つね!なんなら誓ってもよくてよ!?』 彰利 「………」 あそこまで大口叩いておいて、いまさら挫けることは出来なかった。 だってオイラ、漢ですもの……。 彰利 「こ、根性じゃあーーっ!!男塾魂をみせたるわあーーーっ!!」 そう!この時、俺の中に男塾一号生筆頭『剣桃太郎』の言葉がよぎったのだ! それは確か、なまじっか靴を履いているから寒いと感じるんだ、とかゆうものだった! “さとり”スタイルに靴などない───ならば!脱ぐのは服だ! なまじっか、こんなズボンなどを穿いてるから寒いと感じるのだ! 全身、是、一体感!! こうすれば全身の体温が一定化され、バランスが保たれる!! 俺は恥じの一切を脱ぎ捨てた修羅と化し、フルティンで大樹のてっぺんに仁王立ちした! 彰利 「さあ来い吹雪!俺は負けんぞ!!     正々堂々と貴様に対立し、自然をも超越してくれるわぁーーーっ!!」 わぁーーーっ!! わぁーーっ…… わぁー……(エコー) ───…………翌日。 気になった浅っちが大樹のてっぺんに昇ってみたところ、 その場で仁王立ちしたまま凍っている、フルティンのアタイが発見されたそうな……。 ───……。 声  「あのですね……!!     つまらない意地張って、馬鹿なことしないでもらえますか……!?」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 凍っていたアタイは浅っちに救われた。 もちろんその際、 浅っちにはアタイの産まれたままの姿を見られてしまったというわけだが……。 声  「男の人の裸なんて見るの初めてだったのに……相手がこんな人だなんて……」 彰利 「あの……見られた方としては、それはとても複雑なんですが?」 声  「うるさいです!大体どうして裸だったんですか!馬鹿ですかあなたは!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!     男塾魂が沸き起こったんだからしょうがねぇだろ!」 くそ、目が見えない俺に対して、なんという言い草……! まあハンディキャッパーに対して特別な態度を取る人なんざ、嫌いですけどね? 彰利 「だが今なら、みさき先輩の気持ちが解るぜ……。     この苦行を乗り越えてこそ、俺はいつの日かカルビン先生となるのだ」 ちなみにカルビン先生とは、盲目でもその世界を見れているような先生なり。 なんでも普通にこなすし、その本質は教師の鏡のような人である。 声  「それで、それだけヒドイ目にあったのに、     月光浴できなかったから回復できなかったと……そう言うんですね……?」 彰利 「うむ、困ったもんだ」 ちなみに今のアタイの状況はと言えば、真ッ裸で毛布に包まっている状態です。 かっぱらってきたのが『布団一式』でよかった。 声  「それで……これからどうするんですか?」 彰利 「いきなりですな。ああまあアレじゃい、適当にやりますよ。     この精神の中で何をすりゃあいいのか解らんしね。     だったら俺がやるべきことは、聖を立派に育てることだぜ?」 声  「立派に……」 視線を感じる。 どうやら浅っちが、今の俺を上から下まで見ていっているらしい。 声  「……そんなザマなあなたが、どうやって聖ちゃんを立派に育てるんですか……」 彰利 「……耳が痛いよそれ」 どうせ俺は、社会の鏡とは言えんよ。 やることなすこと、大体が裏目に出ますしねぇ? だが、負けんよ? これしきのことで聖を見捨てたりはしません! 彰利 「とにかくだ。俺がすべきことは聖を育てること!     あの時代のように鬱気ばっかりのメルティア嬢のようにはさせませんよ!?」 声  「え……?あ、あぁーーっ!」 むう!?人が熱弁してる時に奇声をあげるとはいい度胸だこの小娘め! 彰利 「なんじゃいグラッ!なんか文句あるんかオゥ!?やンのかコラ!」 声  「やっ!か、勘違いしないでくだ───きゃああーーっ!!?     立ち上がらないでくださいっ!!」 彰利 「ややっ!?」 バサッ。 俺の足下に、毛布が落ちた。 声  「きゃあああああああああーーーーーーーーっ!!!!!」 彰利 「キャーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」 目が見えないことで別の感覚がレベルアップしていたアタイは、 その羞恥心を全開にして叫んだ。 ───……。 彰利 「しくしくしくしく……もうお婿にいけない……」 声  「あなたが言わないでくださいっ!!」 涙声の罵声。 思いっきりビンタを食らわせてくれた上に、人のウェポン見て泣くなんて何様ですか? 声  「はぁ……聖ちゃんが誰かに似てると思ったら、メルちゃんだったとはって。     そう思った瞬間に、なんてもの見せるんですか……」 彰利 「面目ねぇ……」 でもね?アタイだってとんでもなく恥ずかしかったのよ? 彰利 「しかしまいったね……あのさ、せめて俺の服持ってきてくれない?     上の方の大樹部屋にあると思うから」 声  「解らないんじゃなかったんですか……」 彰利 「思い出した」 声  「………」 おお、ぶっすぅ〜っとした顔が見えるようだ。 けど、部屋から人の気配が出ていくのを感じる。 どうやら取りに行ってくれるらしい。 えがったえがった。 ───しかし、それから少しして戻ってきた浅っちが繰り出した言葉は、 『……ありませんでしたよ?』という、あまりにも無情な言葉でした。 もしや、太平洋プレート発動の際に巻き込まれて……───? ───……。 彰利 「というわけで、せめて顔くらいは隠したい乙女心を想定してみて、     神社脇に落ちてた紙袋らしき物を被ってみましたよ」 声  「そこに服があれば一番だったんですけどね……」 それは言わないお約束。 結局未だに毛布男な俺は、こうして地道に装備を増やしていくしかないのだ。 彰利  「これから俺のことは校務仮面と呼んでくれ。      紙袋を被ってしまったからには、そう名乗らないと気が済まない」 声   「なんの話ですか……」 校務仮面「校務仮面の話だ。校務仮面の素顔は絶対に秘密なのだ。      あ、そだ。この紙袋の中に一緒にマジックペンらしきものが入ってたんだ。      悪いんだけどさ、紙袋の額あたりに『校務』って書いてくれんか?      あ、ついでにさ、俺の目線に合わせた場所に、      横に長方形な穴を開けてくれると歓喜して太平洋プレートやっちゃうよ?」 声   「あれはもうやらないでくださいっ!大体もう力が残ってないんでしょう!?」 校務仮面「そうだった。校務仮面ともあろうものが、そげなことを忘れているとは……」 けど、怒るわりには浅っちはきちんと紙袋の額部分にマジックを走らせてくれた。 ありがたや、やはりこの世は人情よのう。 声   「目の位置に横に長方形な穴ですよね?大き目ですか?小さ目ですか?」 校務仮面「縦に小さく、横に大きくで。あ、だからって穴を繋げちゃあならんぞ?      それじゃあ校務仮面としては下の下だ」 声   「……よく解らないです」 それでも、刀を使って上手く斬り抜いてくれたようだ。 なんだかんだで楽しんでたように感じたのは気の所為だろうか? 声   「はぁ〜、やっぱり人間らしいことをすると、楽しいですね〜♪」 校務仮面「む?あ、そっか。浅っちって元は幽霊だったからなぁ」 声   「失礼ですね。元は人間ですよ」 校務仮面「む、確かに。で、なにやら鼻歌とか聞こえてたのはその所為かね?」 声   「はいっ。やっぱり実体があるって素晴らしいことですよ。      物にも触れるし、こういうふうに紙を切ることも出来ますし」 校務仮面「フッ……この校務仮面に感謝するんだな」 声   「……とことん人の気分を害す人ですね、あなたって」 校務仮面「すげぇだろ」 声   「褒められたものじゃないですっ!」 怒られてしまった……。 校務仮面「ま、ま、ま、とにかく月の夜を待とうじゃないか。      幸い、ドサクサ紛れで警察も帰ったし。      手元には腐るほどの北海ミルクパンがあるわけだし」 声   「飲み物無しで食べるのは辛いですよこれ……」 校務仮面「うーぬ……月操力が使えれば、月然力・水で飲み物くらい出せるんだが……。      残念なことに、この校務仮面は今、月操力が使えない」 『傷』が痛むが、前ほどではない。 嗚呼、いろいろあったけど、そのいろいろが俺を癒してくれたのだ。 なんだかんだで、未来に来てよかったのかもしれない。 ……もちろん、帰れるかどうかなんて解らんのだけど。 こんなんでレオに勝てるんかなぁ。 校務仮面「───あれ?ちょっと待て、俺……なんか忘れてるぞ?」 どうしてこういう状況になってんだ? 俺、確かクリスマスに夜華さんをからかいに行って─── そっからの記憶がてんでないぞ? どうして誰かの精神に入る、なんて状況になってるんだ? 校務仮面「……もしかして、その間……レオに乗っ取られてた?」 となると、他のやつらが気になる。 殺されたりしてないだろうか……。 それともこの世界への見解は俺の間違いで、ここは死後の世界……とか? だって、どうして夜華さんが童心になってたのかがまるで解らない。 理解へ辿り着くための過程がまるっきり無いんだ。 これでなにを理解しろと……? 校務仮面「フッ───決まってる。それは俺が校務仮面であるということだけだ!」 ……しまった、思いっきり関係ない。 とにかくこういう状況があるからには、俺はこの状況で生きるしかない。 ようするに俺は、この世界で聖を立派に育てればいいんだ。 だってそれは俺が決めたことザマスから。 校務仮面「もう迷うこたぁねぇ……。俺は必ず、聖を立派なおなごにしてみせる!」 俺は誓いを胸に、握り拳を胸の前に持ち上げた。 校務仮面「誓おうロミオ!ぼくらは必ずまた会える!」 声   「………」 小さな溜め息が聞こえた。 ……なにやらやたらとショックだった。 校務仮面「とにかく俺は、校務仮面としての職務を果たしたいと思う」 声   「なんですか、それ」 校務仮面「ばか、校務仮面は校務仮面なんだぞ?校務を果たさないでどうすんだ。      今から漣高校に行って、備品などの修理をするんだ」 声   「……本気、ですか?」 校務仮面「当たり前だ。校務仮面ナメんなよ?」 声   「聖ちゃん、置いていくんですか?」 校務仮面「ゲッ……ウ、ウググ……ウウーーッ!!」 そ、そうは言っても、俺には校務仮面としての使命が……! ほら、よくあるじゃないか。 誰がどう見たってその人物なのに、変身したと言うだけで別人に見えるヤツ! あれだよ!今の俺は校務仮面であって、パパじゃないんだ! 校務仮面「ぼくのパパはパパじゃない!」 声   「……はい?」 校務仮面「とにかく!校務仮面になったからには、      正体を悟られずに学校を修繕していかねばならんのだ!      止めてくれるな浅っち……!ぼくだって辛いんだ!」 声   「その格好見れば、誰だって辛くなりますよ……」 校務仮面「言うこといちいちヒドイよキミ!!」 けど、めげてなどいられません。 校務仮面となった今、俺の中に喩えようのない使命感が浮上してきたのだ! もはや誰にも俺を止められん!! 校務仮面「それじゃあな!俺は校務に行ってくる!聖を頼んだぞ!」 声   「あ、ちょ、ちょっと待ってください!目が治ってからの方がいいですよっ!」 校務仮面「心配いらん!校務仮面に不可能などないのだ!」 声   「でも目が見えないのにその先に行ったら───」 がくんっ! 校務仮面「ややっ!?」 踏んだ筈の地面が無い───!? 校務仮面「石段ンンーーーーーーッ!!!!!??」 ズドガシャドガドゴベキバキョボギョバギョンッ!!! ごろごろドカバキドシャドシャ─── 校務仮面「ギャーーーーーッ!!!!!!」 ───……。 ごろごろ……ドサ。 校務仮面「グビグビ……」 ようやく落下の勢いを止められた頃には、俺はもう満身創痍だった。 しかしそんな俺を見下ろす気配を感じた。 校務仮面「だ、誰だ……?……すまない……もう、目が見えないんだ……。      手を……手を、握ってくれないか……」 ?   「………」 きゅっ。 体がボロボロながらに言った冗談を受けとめてくれたその存在は、 俺の手をやさしく握ってくれた。 校務仮面「フフフ、ド、ドジこいちまったぜ……。お、男塾万歳……」 コトッ……。 ?  「っ……!?」 息を飲む声が聞こえた。 それは恐らく、転がった所為で毛布が取れてしまった所為だろう。 今の俺はまさに、バース校務仮面なのだ。 あ、『バース』ってのは『誕生』ね? ?  「しっかり……してください」 あら?心配してくれてる……? 妙なこともあるもんだ……。 もしかして、特にそういうことには疎い、子供かな? ……考えてみれば、手を握ってくれた手は、随分とちっこかった気がする。 もしや─── 校務仮面「もしや……椛?」 ?   「えっ……?どうして、わたしの名前を……?」 ビンゴ!? キャア!こげなところで子供の椛に会えるとは! ……でも目が見えんからどうにもならん。 校務仮面「じ、実は私は校務仮面と言って……とある神社に出没すると言われている、      『ジャスティスレイザー』という者を探しているんだ……。      長い階段の先にある神社、と聞いたのでここではと思ったんだが……。      昇る前に強盗に会ってしまってな……。      身包みを剥がされたうえに、突き落とされてしまったのだ……」 声   「そんな……ひどすぎます……」 うおう、素直に信じてくれましたよ? もしかしてこの頃の椛、随分と素直ちゃん? ああくそう!見てみたい!目が見えないのがもどかしい! 校務仮面「すまんが……俺は目が見えないのだ……。      そこらへんに毛布が落ちている筈だ、取ってくれまいか……」 声   「あ……はい、ありました」 ボサッ、と毛布が渡される。 それで体を包み、立ち上がろうとしたが─── 激痛に襲われたため、座り直すことにした。 校務仮面「フッ……この校務仮面ともあろう者が……。どうやら立てないらしい……」 声   「大丈夫ですか……?」 校務仮面「ああ、なんとか……な」 声   「肩、貸しましょうか?平気ですか?」 校務仮面「………」 随分と献身的なんだな。 なんでだ? 校務仮面「俺はここで月を待つことにするよ。      校務仮面のエネルギー源は月明かりなんだ」 声   「そうなんですか。変わってるんですね」 校務仮面「任せろ」 変わってなけりゃあ、こんな格好で校務に行こうなどとは思わないだろう。 校務仮面「ところで……椛はどうして、      見ず知らずの野良校務仮面にやさしくしてくれるんだ?」 声   「どうしてかは解りませんけど……なんだか安心するんです。      あなたは絶対、わたしにヒドイことをするような人じゃないって。      なんだか……そう。時々見る夢に出てくる人に似てるんです」 校務仮面「なんと……この校務仮面が?」 声   「雰囲気がです。あの……ヘンなこと訊きますよ?      でも、真面目に答えてください」 校務仮面「よろしい。この校務仮面になんでも話してみなさい」 声   「はい。あの……髪の毛が銀色で、目が赤い子供をどう思いますかっ」 ……その言葉で、忘れていたことを思い出した。 ずっとそんな日常が続いてたから忘れてた。 ───ああ、そうだった。 椛は元々、髪の毛が銀色だったんだ。 ……俺は、不安を隠すように早口で言った椛の頭を探り当て、やさしく撫でてやった。 そして校務仮面ごしに笑ってやると、これまたやさしく言う。 校務仮面「……椛。じいやはな、たとえお前がどんな姿で生を受けようとも、      お前をヘンなヤツだなんて思ったりはしないよ。      椛は椛じゃ。それは、どんなことをしたって曲げようがない事実。      そんな色の髪を持って産まれたとしても、      自分が自分であることを誇りに思いなさい。      たとえ椛の周りが敵だらけでも、じいやは椛の味方じゃよ……」 声   「………───」 椛は俺の言葉に横槍も入れず、真剣になって聞いているようだった。 一言も聞き漏らさぬように、真剣に。 やがて俺の話が終わると、椛は我が校務仮面ボディに抱きついてきた。 校務仮面「おっとと、な、なにをなさる?」 声   「ごめんなさい……。少し……甘えてもいいですか……」 校務仮面「む……それは構わんが」 声   「解らないんです……。      でも……校務仮面さんに頭を撫でてもらうと、すごく嬉くて……。      自分にはそんな資格がない筈なのに、その資格ってなんだろうって……。      訳が解らないのに、嬉しくて……。      もうひとりの自分が泣いているような気がして……」 校務仮面「もうひとりの自分……?」 声   「どこかにもうひとり、わたしが居る気がするんです……。      そのわたしは、わたしが好きだった人と一緒に居て……。      でも、その人はわたしのことを覚えてなくて……。      ……なんとなく、解るんです。      その『わたし』が死ぬ時、こんな感覚はきっと無くなるんだって……」 校務仮面「なんとまあ……」 つまり……こういうことか? 椛と飛鳥は楓の魂が割れたもので、どこかで繋がっている。 だから、飛鳥の生前は時折、記憶の行き来があることがあって。 当然、そういうことが起きるなら……あの過去のことを夢に見ることも─── 校務仮面「じゃあ、今はまだ……飛鳥は生きてるってことか……?」 ───休んでる場合じゃない。 逝屠の野郎が昂風街に行く前に、仕留めなけりゃ……飛鳥の死期が早まっちまう! くそ!ここに来る前に飛鳥が居るかどうかを調べるべきだった! 声   「あっ……ど、何処に行く気ですかっ!?そんな体で……」 校務仮面「飛鳥を助けに行く……」 声   「え───?ど、どうしてその名前まで……?」 校務仮面「……なぁ、椛。神社の境内にあるご神木の中の部屋に、俺の娘が居るんだ。      ……そいつと、友達になってやってくれないか……?」 声   「そんな……会ったこともないのに、無理です……。      わたし……髪の毛、普通じゃないし……」 校務仮面「大丈夫だ。俺の娘も同じなんだ……。      銀色の髪じゃないけど、目は赤い。そして……死神なんだ」 声   「───……」 校務仮面「信じる信じないはお前の好きでいい……。      けどな、椛。俺はお前には、友達と呼べる存在があってもいいと思う。      浅美でもいい。聖でもいい。      誰か、一緒になって笑ったり泣いたりしてくれるヤツが傍に居てくれれば……      お前はきっと、その髪の色のことなんて気にしなくなるから……」 声   「───あ、の……まさか、あなたは……」 校務仮面「……俺は、校務仮面だ。彰衛門なんてヤツじゃあ……ねぇぜ」 声   「やっぱり!」 校務仮面「へ?ゲ、ゲェエーーーッ!!!!」 しもうた!なに自分で紹介しとおりますか俺!! ムグオオ!シリアスな場面が台無しだ! 声   「あなたが、夢に出てきた……彰衛門さんだったんですね……」 校務仮面「校務仮面だ」 声   「だったら、その紙袋を取ってみてくださいっ!」 がっし! 椛が校務仮面を鷲掴みする! 校務仮面「いかん!校務仮面の素顔は絶対に秘密なんだ!!」 引っ張られそうになった校務仮面を必死に押さえる! いかん───いかんぞ! 校務仮面となったからには絶対に素顔は秘密なのだ!! 素顔を見られる時───それは校務仮面が死ぬ時のみ! だから取られるわけにはいかん! 声   「んぐぐぐぐぐ……!!」 校務仮面「ヒャッ───ヒャーーッ!!いかん!校務仮面の素顔は絶対に秘密なんだ!      俺は絶対に負けないぞ!この額の『校務』の文字に賭けて!!」 声   「いいじゃないですか!減るものじゃないでしょう!?      大体、額に書いてあるのは『馬鹿』って文字だけですよ!?」 校務仮面「───……な、ななななんとぉおおおおおっ!!!!!?      あ、浅っちてめぇぇええーーーーーッ!!!!」 裏切られた気分でした。 そして何故、嫌々始めたことをあげに楽しんでいたのかが解った瞬間でもありました。 あの野郎、どうのこうの言ってて、この文字で楽しんでやがったのだ……!! 必ず報復しましょう……!校務仮面を愚弄した罪は重いぜ……? だが今は─── 校務仮面「と、とにかく!校務仮面は校務仮面を取られて素顔を見られると、      その代償として死ななければならんのだ!!」 声   「そんなウソは聞きません!見せてくださいっ!見せてっ!」 校務仮面「や、やめろーーーっ!!やめろ、みんなっ!!犯人はぼくだーーっ!!      ぼくが犯人だっ!!許してくれーーーっ!!      殺されるのはぼくだっ!高松くんじゃないっ!!」 声   「な、なにを言ってるんですか!!」 校務仮面「今まで、毎日がとても苦しかった!!罪の意識から逃れたいと思ったっ!!      でも、逃れることができなかった!だから、高松くんに罪をなすりつけた!」 声   「誰ですか高松くんって!そんなことはいいから素顔を見せてくださいっ!」 グググ……! 校務仮面「高松くん!!ゆ、許してくれっ!!今までのぼくを許してくれっ!      悪かったっ!!今度こそ力を合わせていこう!!      わ、悪───や、やめろーーーっ!イヤーーッ!やめてーーっ!!      ゆ、許してくれぇーーーっ!!許してぇーーーっ!!!」 グミミミ……!! 校務仮面「ギャッ!!ギャーーーッ!!タ、タスケテクラサイ!!」 ググ───ベリィッ!! 校務仮面「ギャーーーッ!!」 な、なんてことだ!校務仮面が破れてしまった!! 校務仮面「ギャーーーッ!!」 ドタッ。 声  「え───あれっ!?」 …………。 声  「し……死んでるっ!?どうしてっ!!」 ───……。 彰利 「う、むむ……む、むおお……」 ふと、目を開けた───と思ったら、目ェ開けられなかったことに気づいた。 しまった、ここが何処なのか解らん。 けど、どうやら何者かが服を着せてくれたらしい。 しかもこの感触は布団……。 そしてその先にあるものは板張りの床。 しかし人の気配はない……うむ、間違いない。 ここは神社の社の中だ。 恐らくは使われていなかった夜華さん部屋か楓部屋。 彰利 「そして……むう。この温度から察するに、今は───夜!?」 いかん!夜ならば月光を浴びねば!! とにかく外へ───しまった!どっちが障子だか解らん!! いや!進むンだッッ!! 進めば!壁伝いにでも出れる!! 彰利 「うおおおーーーーっ!!」 ドカァーーーン!!! 彰利 「ギャオォーーーッ!!!!!」 予想通り……まさに予想通りだ……。 シコルスキーの如く納得したところで、 壁に顔面からぶつかった俺は、その場でもんどりを打った。 彰利 「いたやぁーーーっ!!い、いたやぁーーーっ!!」 鼻血!鼻血出てる! ニチャッとした感触が鼻からたれてるよ!! 彰利 「グ、グウウ……!だが、これで壁の場所は解った……!     よし、こっから壁伝いに行って……」 ドタタッ……ドタタッ…… 脳震盪でも起きたのか、足が覚束無(おぼつかな)い。 彰利 「壁……壁……出口は何処だ……?」 ドタタッ……ドタタッ……ド───ズリャア!! 彰利 「ホキャアーーーーッ!!!?」 突如、壁が無くなった。 体重を預けていた俺は思いっきりズッコケた。 そこからなんとか立ちあがり、 先へと逃げようとしたら───太腿あたりに柵のようなものが当たった。 そしてそのまま前のめりになり……やがてドグシャアと地面に落下した。 しかし───外には出れた。 彰利 「とんずらぁーーーっ!!」 そうなれば、あとは逃げるのみ! しかし一度崩れた盲目マップは、もうイメージできなかった。 いかん……これはいかんぞ。 目が見えないなら見えないなりに、せめて校務仮面で居たかった……! 彰利 「くそ、何処に行けばいいんだ?」 転がった所為で方向感覚がメチャクチャになってしもうた。 くそ、大樹はどっちだ? 石段はどこだ!? ぬおお、解らーーん!! こうなったら適当!! こう見えて、俺の適当は宛てに───ならんよね。 そんなこと、この数百年で嫌すぎて泣きたくなるほど解りきったことじゃねぇか……。 彰利 「───あ、そっか。なら誇りを持って進めば間違いはないってことだよな?」 適当がダメならそういうこったよね? うっしゃあ!誇り───誇りぞ!! 彰利 「今こそ───ナメック星人の誇りさえも超越せん誇りを持って、この一歩を!」 ズシャア……!! ───この一歩は人類にとっては何気ない一歩だが…… 俺にとっては偉大な一歩となった───! ───一分後。 彰利 「滝壷ォオオオーーーーーーーーーッ!!!!???」 シュゴォオーーーー……───どぉっぱぁあああーーーん!!!! ───……。 彰利 「ヘェエエックショイ!!う、うぐぐ……!!」 くそ……外に出れたんだから、ゆっくりと月光浴してりゃあよかった……。 別に偉大なる一歩を踏みしめなくてもよかったんじゃねぇか……。 彰利 「月の位置がどこだか解らんのも考えものだよなぁ……。     ま、いいや。とりあえずは滝壷から出ないと月には照らされませんな」 びしょびしょで、尚且つとんでもなく冷えた体を引きずって歩いた。 壁、というよりは崖伝いに。 彰利 「ぐっ……だ、だめだ……!もう、体が……動かねぇ……」 足が勝手に崩れた。 その拍子に無様に倒れ、踏ん張ってみても立てなくなった。 彰利 「今なら……ザーボンさんにやられたベジータの気持ちが解る……ぜ……」 ───そしてそのまま、意識が遠ざかるのを感じた。 Next Menu back