───放浪精神『第十章◆親心と悲しみと別れと苛め撲滅作戦』───
───……。 飛鳥 「ひぅっ……うっく……ごめ……さい……ごめん……なさい……」 彰利 「知らんね!おんしはそうやって泣いとるがよかとね!!なんね、まったく!     オラが本気で心配さしてやれば、全ては飛鳥の掌の上だったと!?     こげんことさされて怒らねぇヤツさおるなら見てみてぇさね!!」 完全に泣き出してしまった飛鳥を余所に、 彰利は本気で怒っているようで、かなりぶっきらぼうだった。 彰利 「解っとーと!?アタ(アンタ)、人の目の前で自分が死ぬのを見殺しにさせたとよ!?     あん時のオラがどんだけ心配さすたかオメに解っか!?」 飛鳥 「ごめ……ひっく……うあぁあああん……!」 彰利 「泣けば全てが許されるったい!?ンっとになまらはらくしゃあとよ!!     今日という今日はオラの堪忍袋さ微塵切りとよ!?     ッあー!!ほんにはらくしゃあたい!!     オメ、オラがこげに怒るなんて滅多でねぇぞ!?」 ……それよりも、どうして妙な方言使ってんのか気になるんだが? しっかし……確かに『おとうさん』だなぁ。 しっかりと怒るところは怒るってか……飛鳥には悪いけど、なんか面白い。 彰利 「ウダラいま鼻で笑っちょがァ!!売っとるぞ!こいつ完璧に売っとるぞ!!」 悠介 「なにをだよ……」 彰利 「なにって……喧嘩?」 悠介 「言ったお前がどうして疑問系なんだよ」 彰利 「チーム『タナトス』のウポが俺にそうさせたんだ」 悠介 「普通に誰だよ」 彰利 「秘密だ」 フフフと、何故か男塾風に笑う彰利。 ……なにが解らないって、やっぱりこいつの思考回路が一番解らん。 一生かかったって無理だろうな、うん。 そうじゃなけりゃ彰利って感じがしないし。 悠介 「彰利、お前はこれからどうするつもりなんだ?」 彰利 「大樹に戻って月を待つ……と、言いたいところだが。     フフフ、どうやら体が動かねぇみてぇだ……」 悠介 「そりゃあよかった」 彰利 「どこがじゃい……とにかく!     よいかね、未来……てゆうか、今の悠介にしてみれば現代の時代には、     予想ではあるが喜兵衛の転生体が居るのですよ!」 悠介 「あー、そういえばそんなこと言ってたな。どういうことなんだ?     逝屠が楷埜上喜兵衛ってのの転生体じゃなかったのか?」 彰利 「そう、そこに矛盾があるのだ。     神の子の血を飲んだ者はね、神の子が転生した頃に転生するんだ。     隆正と楓巫女がそれぞれ、鮠鷹と楓、凍弥と飛鳥、椛に転生したように。     ───さて、ここで問題ザマス。     喜兵衛は間違いなく楓巫女の血を飲んでたと思われるわけだが、     どうして逝屠だけあんな時代に転生したんでしょう」 飛鳥 「あ……」 悠介 「……つまり、神の子か凍弥と同じ時期に、     誰かに転生した喜兵衛ってヤツが居るかもしれないってことか?」 彰利 「そうじゃねぇと辻褄が合わんのだよ。     楓の魂は転生のために飛ぶ時、喜兵衛の魂に妨害されてふたつに割れた。     その結果が飛鳥と椛。けど考えてみてくれ。     人の魂が、神の子の魂を分割したんだ。     人間の魂の方が無事で済んでると思うか?」 飛鳥 「ぐすっ……それは……わたしも……ひっく……思いました……」 ……泣きながら喋ってるから、どうにも聞き取りづらい。 けど、飛鳥もなにかを感じていたらしいということは事実だ。 悠介 「それで───彰利。その転生体かもしれないヤツってのは誰なんだ?」 彰利 「んー……ちっとね、当たるも八卦、当たらぬも八卦って感じだけど。     でも気配は感じた。うっすらとだけどね。     ただ、まだ喜兵衛の意識の覚醒はしてないみたいじゃけん、     刺激さえしなけりゃどうってことないかもしれんよ」 悠介 「それでもいい。尽くせる万全は尽くしたい」 彰利 「ふむ……じゃ、耳をお貸し」 悠介 「普通に喋れよ……」 彰利 「この世界が一応精神世界なら、リヴァっちにも届いてるかもしれんでしょう。     気の所為だとしたら気の所為で済ませたいのよ。     さすがにシャレにならんからね、喜兵衛の転生体容疑ってのは」 悠介 「……そっか」 俺は一度肩をすくめてから、彰利に耳を貸した。 そして───その口から聞いた名前は、とんでもない者の名だった。 悠介 「……本当、なのか?」 彰利 「予想だって言ってんでしょうが。     あんまりコトを荒立たせるんじゃおまへんよ?     俺はあくまで、悠介が訊いてきたから教えたってだけだ」 悠介 「……予想を立てられるなにかはあるのか?」 彰利 「一応」 悠介 「………」 そうは言うものの、喋る気は無い……か? 彰利 「ンマー、そういうことじゃけん、アタイは聖の成長に全力を注ぐけん!     災狩の子としても、アタイの子としても、最強の子供に育ててみせるよ!」 そう言った彰利は、体を起こして聖とかゆう少女を抱き上げた。 ドゴシャア! 彰利 「ベップ!」 聖  「ひゃぅ……!」 ───が、いきなり転倒。 どうやら月操力がカラだということを忘れていたらしい。 彰利 「グウウ……す、すまん悠介……。     ブラックホール転移で、大樹まで送ってはくれまいか……」 悠介 「悪ぃ。俺もスッカラカンみたいなんだ。正直、立ってられるだけが限度」 彰利 「え……ってことは……」 悠介 「ここらで野宿、だろうな」 彰利 「なんとまあ……マジすか」 まさか、野宿するハメになるとはなぁ……。 目の前で驚いている彰利も彰利だが、俺も内心溜め息が止まらない状態だ。 悠介 「……よし、なにはともあれ動くか。歩かないと始まらない」 ひとまずはぐったり中の浅美を肩に担いで歩き出す。 彰利もなんとか立ち上がると、俺に対抗してか、聖を肩に乗せた。 彰利 「フォ、フォフォフォ……!まだまだ若いモンには負けんよ……!」 飛鳥 「……!」 悠介 「……そこ、なにを目を輝かせてるかな?」 飛鳥 「えっ!?や───別に羨ましいだなんて思っていませんよっ!?」 悠介 「羨ましいのか……」 飛鳥 「違いますってば!」 だめだ、椛と同じだ。 彰利のこととなると、気品をもすててしまう。 彰利に会う前は、あんなに礼儀正しかったのになぁ。 彰利 「そんじゃあ飛鳥よ。キミはこれから、余生を凍弥とともに過ごしなされ。     アタイの月操力が回復したら、     天界に突入して奇跡の魔法を回収してきてやっから」 飛鳥 「え───?……おとうさん。     わたしの体はもう、聖魔のバランスの所為でボロボロで、     とても治せるようなものじゃないよ……」 彰利 「それを治す方法があるんじゃい。いいから、月が出る日を待ちなさい。     回復してからじゃなけりゃ、天界のヤツラにゃ勝てんからなぁ。     ……あ、言っとくけど悠介も来るんだぞ?」 悠介 「俺?───って、天界にか!?」 彰利 「他にどこがあるのかね!いいから、サクラってゆう小娘を拉致して、     シェイドの協力を煽って移植をするんザマスよ!」 悠介 「そりゃいいが……奇跡の魔法の移植はリヴァイア無しで出来るのか?」 彰利 「───ぬお」 意気揚揚としていた彰利の動きが止まった。 どうやら、シェイドしかアテにしてなかったらしい。 悠介 「いろいろ詳しそうだけど、前にもやったことがあるのか?」 彰利 「オウヨ。以前は別の歴史で、リヴァっちとシェイドを引っ張ってきましてね。     そんで奇跡の魔法の移植をしたんじゃが……」 悠介 「じゃが?」 彰利 「……まいったな。     この過去精神の世界、転移は使えても歴間移動は出来ないみたいなのよね」 悠介 「───……それじゃあ」 彰利 「そゆこと。リヴァっちが地界に現れるのは何年も後のこと。     天界には天界に通じる『穴』ってのがあってさ、     そこを通れば誰でも天界には行けるみたいなんだけどね、     俺はまだ空界への穴は発見出来てないんだよ」 悠介 「じゃあ、飛鳥は……」 彰利 「………」 飛鳥 「おとうさん……」 飛鳥が寂しそうに彰利を見上げる。 彰利も飛鳥を見下ろし、やりきれない表情をした。 彰利 「……すまない、飛鳥。一瞬でも期待を持たせちまって……」 飛鳥 「〜〜っ……」 彰利は本当に辛そうな顔で、飛鳥を抱き締めた。 飛鳥も目尻に涙を溜めながら抱き付く。 ……正直、俺は驚いていた。 彰利が『成長』だの『娘』だの言ってるのは、ただの気紛れなんだと思ってた。 けど……全然違う。 彰利は本当に、自分が『娘』だと思った子に愛情を注いでいる。 それこそ、かつての自分が知らなかった親からの愛を教えるように。 そして今も、彰利は少女のために悲しんでいる。 それは───親が持つ愛情以上に深い愛情なんじゃないだろうか。 彰利 「飛鳥……お前は俺の自慢の娘だ。     楓巫女から始まって、俺の知っている現在では椛となってもそれは変わらない。     ……いいか、泣くことを恥じるな。     悲しいことがあったら泣いたっていいんだ。感情があることを誇りに思え。     そして……願わくば、弱った体でもいいから……生き続けてくれ。     そして、もし生きていられて───     いつの日かなにも知らない『俺』がその時代に現れたら……     お前の好きなように、からかってやってくれ」 飛鳥 「うんっ……うんっ……」 彰利 「……ごめんな。思えば俺は、お前にはなにもしてやれないダメな父親だった」 飛鳥 「そんなことないっ……そんなことないよっ……!」 彰利 「……余裕があったら、いつでもあの大樹に遊びに来い。     俺はずっと、あそこに居るから」 抱き締めた飛鳥の頭をやさしく撫でて、彰利は本当に穏やかに笑った。 前までは考えられないくらい、やさしい顔で。 そして飛鳥は───そんな彰利の言葉に、 聞き逃してしまいそうなくらいの小さな声で……『うん』と言ったのだった。 ───……。 それからの日々は、本当に平和なものだった。 なにか大きな変化があるわけでもなく、ただ流れるだけの時間に身を置くような季節。 俺達は大樹の部屋に住み着き、 『晦悠介』やルナにはそれぞれに事情を説明したおかげで、妙な対立関係もなくなった。 彰利が盗んできたらしい布団には浅美と聖が眠り、 俺と彰利はその上の大樹部屋で雑魚寝をしていた。 といっても辛いのは外気の温度だけで、 寝転がる分には弾力のある草木だけで十分だった。 腹が減ったら彰利と俺がローテーションで料理を作り、 彰利が偽造したいろいろなもので聖を学校へ通わせたり─── とにかく俺達は、その世界にある辛いことや悲しいことを忘れるかのように、 その日々を出来る限りに楽しく過ごした。 ───そして……二度目の冬、とある病室で。 飛鳥は、何も知らない凍弥と彰利に見守られながら……静かに息を引き取った。 ───……。 最近、彰利は無理矢理元気に振る舞おうとしている気がした。 以前はそんなことを感じさせなかった彰利だったけれど、 半ば感情が浮上してしまうと、どう感情を制御したらいいのかが解らないのだ。 それでも、あいつは笑顔だった。 聖にはとことん笑顔で、けど叱る時は叱った。 いい父親であろうとするそいつの姿がとても儚くて。 泣いてしまえばいいのに、そいつは歯を噛み締めながら必死に涙を堪えていた。 だから訊いた。 『辛くないのか』って。 そしたらあいつは笑って答えた。 『……やっぱり、俺には涙なんて似合わんから』……と。 そう答えた彰利に、俺は出来る限りのことをしてやろうと思った。 じゃなきゃ、こいつは与えるばかりで……誰からもなにも貰おうとしないから。 ───……。 彰利 「───……つーわけでさ、俺は今日、学校に乗り込もうと思ってる」 悠介 「いきなりだな、オイ」 とある朝。 あれから何度目かの季節に、彰利は開口した。 なんでも、椛が苛められているのだそうだ。 それが許せんらしい。 ……もちろん、俺もだが。 悠介 「あの髪の色にはやっぱり問題があるからな……」 彰利 「持って産まれちまったものをとやかく言っても、どうしようもねぇのにねぇ。     まったく、これだから人間ってやつぁ」 悠介 「ああ。それで……乗り込むってどうやって?」 彰利 「オウヨ、そう言われると思ってこれを用意した」 彰利がガイアの如き極上のスマイルを見せながら、ひとつの紙袋を見せてきた。 ……それには二本の横長長方形の穴が空いており、 とある部分には『校務』と書かれていた。 悠介 「……校務仮面か」 彰利 「おお、やはり悠介は知っておったか!それなら話は早い!     一緒に校務仮面となって、小学校へ乗り込もうではないか!」 悠介 「………」 ま、たまには……な。 こいつのためだとか、そんなことは二の次。 俺は俺で、こういう世界でくらい馬鹿をやってみたいと思った。 悠介 「それ、いいなっ」 彰利 「だっしょお!?ではもうひとつの校務仮面がここに。     これを装備して、早速乗り込みましょうぞ!」 悠介 「おうっ!!」 俺は紙袋を被り、気合を込めた。 校務仮面の素顔は絶対に秘密……これくらいの気合が無ければやってられんのだ! 悠介 「目標は?」 彰利 「暗殺よ……イッツァ……アサスィヌェイシュォオオ〜〜ン」 妙な低い声で喋り、親指で首を掻っ切るポーズ。 普段なら止めるところだが、校務仮面を被ったことで、俺のネジは外れていた。 悠介 「……Certainly Sir(かしこまりました)」 彰利 「謝謝、楊海王」 こうして俺達は校務仮面となり、 椛と聖と浅美(子供)が通う小学校へ向けて飛び出したのだった。 ───……。 ヒョーーー……ビタッ!! 彰利 「……吸盤、良好。校舎の壁にも引っ付いてられるぜ」 悠介 「当たり前だ、そうなるように創造した」 手足に付けた吸盤を足とし、俺と彰利は小学校への到着を果たした。 もちろん屋上からゆっくりと壁伝いに降りていき、椛達の教室を探そうって作戦だが。 彰利 「行くぞ、アルファ・ワン」 悠介 「おう、アルファ・ツー」 『作戦名:オペレーションサンダーボルト改め、コードネーム・シードラゴン。  誰かに見つかった時は、相手の腕を掴んで雑巾を絞るように捻るべし!!  それから、掛け声は『シーッ!ハーッ!』。それこそがシードラゴンだらかだ』 ……とのこと。 馬鹿やろうとしても、やはり彰利の馬鹿には追いつけやしないと実感した瞬間だった。 彰利 「では行こう」 彰利が腕を伸ばす。 それとともに吸盤がニュオ〜〜と伸びる。 彰利 「………」 ニョ〜〜〜、ニュオ〜〜〜…… 悠介 「………」 ニョ〜〜〜…… 彰利 「……あの、吸盤が強過ぎて外れないんですけど……」 悠介 「………俺のもだ」 のっけから不安全開だった。 ───……。 作戦2、ロープを使って、ゆっくりと降りてゆく作戦。 彰利 「よし、これは悠介にゃあ無理だ。     この俺のスパイダーマンばりの逆さ吊り能力があってこそ、     偵察できるってもんだ」 悠介 「そか。んじゃ任せる」 彰利 「オウヨ!たーーっ!」 ババッ!シュゴォーーッ!! 彰利が元気よく、屋上から飛び降りた。 彰利 「スパイダメェーーーン!!」 そしてロープを掴み、逆さ状態で教室を見て行き─── 悠介 「……あ。ロープの先、縛っておくの忘れてた……」 ヒョ〜〜〜……グシャッ。 スパイダーマンがストレートに落下していって地面に激突した。 ───……。 彰利 「アータねぇっ!!俺じゃなかったら死んでたよ!?」 悠介 「いや、お前がえらく自信満々に言うもんだから」 地面に落ちた彰利が、 シコルスキーばりのロッククライミングを見せて屋上へ登ってきてしばらく。 彰利は血塗れになった校務仮面の新調を要請してきた。 俺はそれに応じて、校務仮面を作ってやった。 彰利 「まったく……血がべっとりついた校務仮面なんて、     ハタから見ればバケモノじゃないか」 悠介 「普通に見てもバケモノだろ……」 彰利 「すげぇだろ」 悠介 「褒めてねぇって……」 さて……それはそれとして、どうやって教室を探したものか。 屋上へは飛んできたから入れたわけだが─── 悠介 「……つぅかさ、既に人間やめすぎてるよな、俺達」 彰利 「いまさらですな」 そうだな、いまさらだ。 彰利 「じゃあ、アタイが腕を組みながら空を飛びつつ探してこようか?     グラーフのごとく」 悠介 「ゼノギアスネタはいいから、普通に探そう」 彰利 「むー、普通ってのが一番つまらんのだが……」 ぶつぶつ言う彰利を前に、俺ももう少し考えてみようと思った。 なにも、外から探さなくてもいいんじゃないか、 という考えも出たが───面白味に欠ける。 そんなわけで、俺達はしばらく考え事を続けた。 ───……キーンコーンカーンコーン…… 彰利 「うおっ!?」 悠介 「ハッ!?」 ……で、ふと気づけば放課後。 彰利 「馬鹿な……」 悠介 「馬鹿な……」 呆気に取られた俺と彰利は、それはもう馬鹿みたいな言葉を口にした。 唖然としすぎたのだ。 まさかここまで考え事に意識を集中させるとは……。 彰利 「こりゃあ相当だぜ……?」 悠介 「しっかし……まぁ、なんだ?この小学校も懐かしいな」 彰利 「そりゃな、一応は母校だ」 悠介 「お前が先生らと上級生を半殺しにした、な」 彰利 「……つまらんこと覚えてるな」 悠介 「きっかけは……情けないが、俺が苛められてたことだったな。     クラスから孤立して、理力のことでバケモノ呼ばわりされて。     俺は耐えてたけど、ある日───お前が家族のこと言われてなぁ」 彰利 「……はぁ。あのね、俺ゃ家族なんてものが大嫌いなの。解る?     それをしつこくねちねちとくっちゃべってきた小野田が悪い。     ハッキリ言うぞ、あれはカウントに入らないからなっ!     あんなヤツ女じゃねぇ!ああゆうのをゲスって言うんだ!!     だから俺は女は殴っちゃいねぇ!!」 悠介 「はいはい……」 ───……その日、学校で小学生ならではの劇があった。 クラスメイトや知らんクラスの家族達や知り合いが見に来て───中々賑わっていた。 そんな中、俺と彰利は孤立していた。 見に来る家族もなく、話し掛けてくるクラスメイトも居ない。 そんな、今思い出してもつまらん時間の中で───俺達は最大のポカをやらかした。 クラスに小野田ってゆう女が居た。 偉そうに振る舞って、学級委員長であることをいつも自慢してたっけ。 小野田「晦に弦月だっけ?相変わらず一緒に居るのね。     男ふたりで庇いあっててなにがやりたいの?寂しいだけじゃない?     ふふん、わたしみたいに知り合いがいっぱい居れば、     そんな苦労はないんでしょうけどね」 小野田は自分の兄の知り合いが見に来ていることを俺達に自慢してきて、 去り際に『寂しいやつらね、見に来てくれる家族も居ないんでしょ』と言った。 その刹那、彰利の目がビキッと見開かれて……だが、襲いかかろうとはしなかった。 彰利 「ッ……違う……俺は……俺はあんなヤツとは同じじゃない……!     殴るな……女を傷つけるな……!!」 悠介 「彰利……?ははっ、気にするなよ。あんな言葉言われ馴れてるだろ」 彰利 「そうじゃねぇ……!そうじゃねぇんだよ……!!     『家族』がなんだ……!あんな親に見に来てほしいわけがあるか……!!」 悠介 「彰利……」 この頃から、なんとなく気づいてたのかもしれない。 彰利は親を憎んでいた。 それは『親』であり、どっちか一方じゃない。 両親という『親』を憎んでいた。 家族を憎んでいた。 だから、普段は感情をぶつけられてる気がしない彰利の言葉も、 『家族』という単語が入るだけで……殺されそうになるくらいの殺気が込められた。 悠介 「……劇、やろう。せっかく見に来てくれてる人が居るんだ、     俺達は褒められたくなくても、あいつらは褒めてもらいたいだろ」 彰利 「あ、ああ……」 そして───劇が始まる。 陳腐なつまらない劇の中で、彰利はただ黙々と劇をこなしていった。 本当に、無感情のまま───台本通りに。 だが、その時は案外あっけなく訪れた。 小野田と対話する場面があったんだ。 その中で、小野田は言ってはいけないことを口にした。 小野田「弦月、あなた親が死んだんだってね。     噂で聞いたんだけど、いろいろな人を巻き込んで死んだらしいじゃない。     みんな、あなたの親が道連れにしたんだって言ってるけど───     ふふっ、そんなことどうでもいいわね。     それより残念ねぇ、見に来てくれる人が居なくて。     親も居なければ、引き取ってくれた人も学校なんでしょ?     学校行って仕事して、ボロ雑巾みたいな生活してるんでしょ?たいへ───」 バゴガァンッ!! 悠介 「───!」 ───人が、爆ぜた。 穏やかに劇が進められる筈だった舞台の中央で、 その舞台に殴りつけられた子供が、高くバウンドした。 悠介 「なっ───」 観客席が刹那に、水を打つよりも静かになった。 なにが起きたのか解らない。 みんなきっと、そう思ってたに違いない。 けど───そんな、静まった全員の視線が、倒れた小野田よりも─── 物凄い形相で目を真紅に染めた彰利を見ていた。 小野田はたった一発で鼻を完全にぐちゃぐちゃに砕かれ、 車に轢かれて生死を彷徨う小動物のように痙攣していた。 そして───それを見た教師が彰利を注意しに駆けた。 ……そう、注意だけに済ませておけばよかった。 ゲンコツなんてしようとするから敵とみなされ─── 結果、教師は手足をズタズタに折られた。 ……響く絶叫。 彰利は理性を失ったかのように小野田の襟首を掴み寄せ、尚も殴りつづけた。 そんな状況を見てようやく、 小野田を見に来ていたであろう兄の知り合いとやらの大勢が乗り込んできた。 しかし───結果なんてとうに見えていた。 今思えば、真紅眼の彰利に人間が挑もうなんて愚行の『それ以上』なんて考えられない。 蟻が人間に踏み潰される瞬間に、ようやく敵意を持ったのと同じだ。 ある者は小野田のように舞台に叩きつけられ、ある者は歯を砕かれ。 その場に倒れた者は全員、およそ人がかろうじて生きていられる程度の状態だった。 つまり彰利は、瀕死って言ってもいいくらいの状態をたった一発で与えていったんだ。 ……もちろん劇は中断。 血塗れになった舞台は掃除され、ますます俺と彰利に近寄る存在は無くなった。 教師連中どもは気絶している内に月生力で治されたんだろうな、いつの間にか治ってた。 けど、小野田だけは病院送り。 砕けた鼻は一生治らないと診断されたらしい。 教師連中達は雪子さんに彰利のことを報告しようとしたけど、 その日の内に彰利が職員室を訪問しただけで、そんな話は流れた。 ……曰く、弦月彰利には関わるな。 ここに、暗黙のルールが創造された。 けどそんな噂も小学を卒業する頃にはすっかり消えていた。 中学に上がった俺達は、能力を隠しながら人間らしい世界を満喫する。 思えば、学生時代で楽しかったのって中学の時だけだな。 ほんと、ろくでもない学生生活だったよ─── ───……。 悠介 「あの頃のお前、感情が無かったって割には怖かったからなぁ」 彰利 「理性ってのは、存在してるからこそ理性って呼べるんだぜ?     理性が無くなれば獣になるだけよ」 悠介 「そんなものは小野田の重症見れば一発で解るよ馬鹿たれ」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!」 悠介 「……ツッコミ入れるのがそこだけっての、虚しくないか?」 彰利 「虚しいッス……」 正直なやつだった。 ……普段からこれくらい正直だったらなぁとつくづく思うよ……。 ……と、ふと彰利が咳払いして俺を見た。 彰利 「多分ね、俺、悠介が止めてなけりゃ小野田殺してたよ。それだけは文部省認定」 悠介 「ま、そうだろうな。ありゃ殺す勢いだった。     ……なにせ、俺も小野田のこと殴ろうって思ってたくらいだからな」 彰利 「……止めになんないじゃん」 悠介 「あー、それな?彰利が殴りまくってる小野田を見たらさぁ、     逆に可哀相な気がしてきてな?それでお前を止めることが出来たってわけよ」 彰利 「んじゃあ……もし俺が顔面じゃなくて腹とか狙ってたら……」 悠介 「殴ってたな、うん。俺もバウンド程度じゃ済まさなかったと思う」 彰利 「おおう……」 小野田はホンッットにむかつくヤツだった。 何度、若葉と木葉があいつに酷いこと言われて、 泣きながら帰ってきたかは覚えてられなかった。 ───もちろん、今では因果往訪としてしか思ってないけど。 何も知らない子供の彰利を殴った罰だ、ザマァミロだ馬鹿者どもめ。 悠介 「……なんかだんだん腹が立ってきたな」 彰利 「へ?小野田に?」 悠介 「違うわ、若葉と木葉にだよ。凍弥の結婚式の時はドタバタしてて忘れてたが……     そうだよ、俺はあいつらに言いたいことがあったんだ。     一度罰を与えなきゃ気が済まねぇ」 彰利 「……なんの話?」 悠介 「こっちの話だ」 彰利 「…………?」 罰ってのは考えてない。 けど、実際に子供の頃の彰利を誤解して、 抵抗しないこいつを殴りまくったのは許せない。 ああ……!思い出したらハラワタ煮え繰り返ってきやがった……!! 悠介 「───……若葉の家はあそこ。木葉の家はあそこだったなぁ……クックック」 彰利 「お、おい───悠介?」 悠介 「我が右手に雷神の加護を持て。租は創造を(おの)とする黄昏の神なり───」 頭の中のイメージを爆発させる。 視界が染まる。 赤く、紅く、朱く、緋く。 雷と創造を混ぜ合わせ、破壊をイメージし───放つ。 悠介 「───“神の裁き(エル・トール)”……」 彰利 「うわっ!ちょ、ちょっと待った!!そんな威力でやったら───」 バシュゥウウーーーン───……バガァッ!!ドォッゴォオオオオオオオオオオン!!! 彰利 「お、おわぁあああーーーーーーっ!!!!!!」 悠介 「ハッ───はっはっはっはっは!!くふふはははははは!!!!」 空へと飛ばした巨大な青白い光が、ふたつの家へと舞い降りた。 が、激しいのは音だけ。 悠介 「───安心しろよ彰利、家は無事だ。     なにせ、若葉と木葉にだけ通用する雷が出ますってイメージだからな。     ……ま、間違いなくふたりとも病院送りだろうがな。     ザマァミロってんだ、散々苦労かけさせたお礼ってやつだよ」 彰利 「……思いきったことするのな……」 悠介 「なにをするにも反対反対って、一緒に暮らしてると心が休まらなかったよ。     特に、ルナと結婚した時からな」 彰利 「で───今のがお礼……?おつりが五億ほど請求されそうなんだけど……」 悠介 「そか。なんならもっと撃っておくか?」 彰利 「じょ、冗談!冗談だって!     ったく……これだからお前って油断ならねぇんだよ……。     一度一線越えるとなにするにも遠慮が無くなるから……」 悠介 「俺も冗談だ。光は大袈裟だが、ちと痺れた程度で済んでる。     家族を病院送りにするようなこと、してたまるかよ」 彰利 「はぁ……家族を大事にする方がお前らしいって……。     あんま驚かさんでくれ……脅かすのを馴れてる分、逆はツライわ……」 悠介 「アホ、今の俺は校務仮面だ。晦悠介とは別人よ」 彰利 「…………あの。なんかヘンなスイッチ入った?」 悠介 「知らん。とにかく、椛をイジメてるってヤツを成敗するぞ」 彰利 「ラ、ラジャ……でも正直、悠介がエネルの真似するとは思わなかった……」 実は俺もだ。 気分が高揚してて、今なら普段出来そうに無いことが出来そうな気がする。 こいつの馬鹿にも付き合えそうな気がする。 ───今なら。 Next Menu back