───放浪精神『最終章◆そして光になる災狩』───
───……。 聖  「………」 高校一年の春。 わたしは椛ちゃんと浅美ちゃんと一緒に、同じ高校に入学した。 場所は如月高等学校。 どうして近場の漣高等学校にしなかったのかといえば、 椛ちゃんにしてみれば、両親のもとに戻ってみたかったってゆうこと。 浅美ちゃんにしてみれば、ひとり暮らしがしてみたかったってゆうこと。 そして、わたしは───強くなるために。 この世界から災いを無くすために。 家はアパートを借りることになって、 やっぱりパパに迷惑をかけることになっちゃったけど、 パパは笑って背中を押してくれた。 あとは───わたしが頑張る番だ。 ───……そう心に決めた途端、 同じクラスの西条ってゆう人に『俺と付き合わないか』って言われた。 もちろんわたしの答えはNO。 だって、パパに比べて頼りなさが目立つもの。 ───……。 浅美 「振っちゃったの?」 聖  「うん。パパに比べれば、情けない感じがして……」 椛  「出た……聖ちゃんの『パパ節』……」 浅美 「聖ちゃんってなんでも彰衛門さんと比べるよね……」 椛  「ファザコン?」 聖  「……えへへ、そうかも」 椛  「わっ、認めちゃった……」 パパはわたしの永遠の目標だから。 わたしもいつか、あんな風にやさしい人になるんだ───! ───……また告白された。 また断った。 そしてまた告白。 不思議に思って、一度理由を訊いてみた。 すると─── 中里 「だって弦月ってカワイイし、なんでも器用にこなすし……学園のアイドルだぜ」 弦月───パパとわたしの苗字。 カワイイ……わたしのこと? なんでも器用にこなす……それはパパがいろいろ教えてくれたから。 それはパパを誉めてくれたみたいで嬉しい。 けど、学園のアイドルってゆうのは嫌だ。 特別扱いは好きじゃない。 何事も普通が一番。 吉良吉影(きらよしかげ)になれってパパは言った。 そんな噂がたってたなんて知らなかった。 聖  「……ごめんなさい。わたし、特別扱いされるの……好きじゃないですから」 中里 「なっ……いいじゃんよぉ、俺と付き合えよ。な?退屈させないぜ?」 聖  「……ごめんなさい」 中里 「───チッ。ちっとモテるからって」 声  『シーハァーーッ!!』 ボゴシャア!! 中里 「ベップ!?」 聖  「ひゃっ……?」 中里先輩が顔面を蹴られて、地面を滑ってゆく。 そしてさっきまで中里先輩が立っていた場所に、みっつの影が舞い降りた。 校務仮面1号「校務仮面ンンンンーーッ!!1号!!」 校務仮面2号「校務仮面ンンンンーーッ!!2号!!」 校務仮面3号「こ、こここ……ごがががが……!!こ、校務仮面……さ、3号……!」 1号&2号 『三人揃って!ギニュー特戦隊!!』 3号    「とく、せん……た、隊……」 ビッシィイイイン!! 妙なポーズを取って、そのまま動かなくなる、こーむかめんさん。 ひとりだけヤケに動きがぎこちないけど、誰なんだろう。 3号 「想いの丈をぶつけられれば満足だろう……!     それを貴様……無理矢理奪おうとは、     なんと大胆な───ではなく、卑劣な真似を!!」 1号 「3号、気持ちは解らんでもないが、まず落ち着け」 2号 「なに怒っとんのかねこのカスが」 3号 「だ、誰がカスだ!大体何故わたしがこのような格好をしなければならんのだ!     もう外してもいいだろう!?」 1号 「なにっ!?馬鹿な!」 2号 「そんなことをしてみろ!てめぇ……死ぬぜ!?」 3号 「なっ……し、死ぬだと!?どういうことだあきえ───」 2号 「シーハーッ!」 ───ギュウッ!! 2号さんが3号さんの左腕を掴んで、雑巾を絞るように捻った。 3号 「うあっ!いたたたた!!な、なにをする貴様!」 2号 「シードラゴン名物───腕絞(うでしぼ)り!     というかダメでしょう!?我らは校務仮面!素顔も秘密なら名前も秘密!     よいかね!校務仮面の素顔は絶対に秘密なんだ!バレようものなら切腹!!」 3号 「せっ───!?ふ、ふん、どうせまたいつもの冗談だろう!」 1号 「いや……違うな」 3号 「なっ……ゆうす」 1号 「シーハーッ!!」 ギュウッ!! 今度は1号さんが、3号さんの左腕を掴んで───雑巾を絞るように捻った。 3号 「くああっ!?な、なにをするのですゆうす───いたたたたっ!!」 1号 「馬鹿者!まだ自覚が足りんようだな!     校務仮面が素顔を見られる時───それは死ぬときのみだ!!     故に、素顔を見られれば死、あるのみ!」 3号 「───!!ほ、本当なのですかっ!?」 2号 「3号さん!?それってこの校務仮面2号を、     ハナから信じてなかったってことっすか!?」 3号 「当たり前だ!貴様はウソつきだ!!     何度騙されたか、思い出すだけで腹が立つ!」 2号 「腹が立つのがなんだ!俺は腹が減ってるんだ!」 1号 「よし!そろそろ2年の調理実習の課題が出来あがる頃だ!味見をしに行くぞ!     生徒の調理スキルを調べるのも、校務と言っても過言ではない!」 3号 「ゆ、ゆうす」 1号 「シーハーッ!!」 ギュウウウッ!! 3号 「いたたたたぁーーーっ!!!?ゆ───いや1号殿!!     それは盗み食いというのでは!!」 1号 「校務だ!」 3号 「そんな!普段の落ち着いた物腰はどうしてしまったのですか!」 1号 「俺は校務仮面だからそんなことは知らん」 3号 「な、ななな……」 2号 「悶着などしてる場合ではありませんぞ!     今日のメニューはアサリの味噌汁と炊き込みご飯───!!     乗り遅れれば無くなるぞ!」 3号 「た、炊き込みご飯!本当かあきえ───」 2号 「シーハーッ!!」 ギュウウウウウウ!!!! 3号 「いたたたたたたたっ!!こ、こらやめんかぁっ!!!     ゆ、ゆう───1号殿!あきえ───2号をなんとかしてくださ───」 1号 「シーハーッ!!」 ギュギュウウウウッ!!!! 3号 「いたたぁーーーっ!!!?う、うぁあああああああっ!!!!」 ………………。 なにがやりたいのかさっぱりだ。 でも、悪い人たちじゃなさそう……。 左右の腕を捻られている真ん中の3号さんは……その、お気の毒だけど。 2号 「よし1号!このままの状態で乗り込むぞ!」 1号 「おう!───だが、あさりの味噌汁……     きちんとあさりを窒息させたのだろうか……」 2号 「気になるところではあるな……。砂抜きに、あさりの窒息は大事なことだ……」 あ……それって。 聖    「わたしっ、それ知ってます!」 1号&2号『ぬっ!?』 3号   「ごががが……」 ギリギリ……。 聖  「わたしのパパが教えてくれたんです。     水につけておいたあさりを3分間水から出しておいて、     また水に入れるとあさりが元気になって、砂を吐くって……」 1号 「ほう……それから?」 聖  「そ、それからですね……」 思い出すんだ。 パパは本当にいろいろなことを教えてくれた。 それを身につけていないなら、わたしはまた親不孝者だ。 聖  「砂を吐いたあさりをまた水から出して、     濡れタオルを被せて3時間放置するんです」 1号 「ふむふむ……さて。3時間も放置しておいて、あさりは悪くならないのか?」 聖  「なりません。それどころか美味しくなるんです。     それはその行為があさりを窒息させるためのものであって、     殺すためのものじゃないからです」 2号 「………」 聖  「ああ見えて、あさりもエラ呼吸です。でも、魚と違って死んだりしない。     窒息しそうになったあさりは、     酸素の変わりにたんぱく質を燃やして生き繋げるんです。     そうすることで『コハク酸』ってゆう旨味の成分が出てくる……だから」 1号 「だから美味しくなる。……そういうことだな?」 聖  「は、はいっ、間違ってるでしょうかっ」 1号 「………」 2号 「………」 3号 「ごが……ごあががが……」 ギュウウウウ……!! 三人が険しい顔……というか雰囲気でわたしを見る。 中でも3号さんの気迫はとんでもなく険しい。 ……間違え……?ううん、パパに言われた通りに説明したんだ、間違いなわけがない。 こう見えてわたしは記憶力はいい方だ───! 1号&2号『……正解!!』 ジャジャーンッ!! 聖  「えっ……?」 1号 「うむ!なかなか素晴らしい説明だったぞ見知らぬ少女よ!」 2号 「オウヨ!きちんと勉強しなくては、誰もそこまで気づけないものだ!     合格っ……!これはまさにっ……!合格っ……!!」 ギリギリギリ……! 3号   「い、いいい……いい加減に……離してくれ……!!」 1号&2号『へ?って、うおっ!?』 ババッ! 3号 「くはっ……!」 左右から腕を絞られていた3号さんが、ようやく解放された。 その腕には、くっきりと絞り跡が。 1号 「あー……」 2号 「えーと……」 3号さんがゆっくりと、腰にある刀に手をかける。 3号 「……覚悟はいいな……」 そして低い声でそう呟いた。 そんな声を聞いた途端─── 1号&2号『とんずらぁーーーっしゅっ!!』 1号さんと2号さんは一目散に逃げ出した。 3号   「待てぇっ!!刀の錆にしてくれるわぁーーーっ!!!!」 1号&2号『おわぁーーーーっ!!!!!』 やがてそれを追ってゆく3号さんを最後に、その場にはわたしだけが残された。 中里先輩は……まあ。 学校の係員みたいな人に蹴られたんだから、悪いことをしようとしていたに違いない。 気にすることはないだろう。 ───……。 高校一年の夏。 なんだか最近、椛ちゃんの様子がおかしい。 浅美ちゃんは『青春だね』なんて言ってるけど、なにがなんだか解らない。 浅美 「あのね聖ちゃん。椛ちゃんはね、二年の男子……霧波川先輩にホの字なの」 聖  「ホの字?……どんな字?」 浅美 「ありゃりゃ……彰衛門さんはいろいろなこと教えてくれたみたいだけど、     色恋沙汰はてんで教えてくれなかったんだね……」 聖  「……?」 訳が解らない。 恋? 色恋ってなんだろう。 浅美 「椛ちゃんはね?二年の霧波川凍弥先輩のことが好きになっちゃったの!」 聖  「……ほえ……?」 浅美 「あぅ、ほえ?じゃなくて……」 聖  「好きって……椛ちゃんが?」 浅美 「そう。うーん、この数年間、     あんなに乙女チックな椛ちゃんを見るのは初めてだよ……!」 聖  「その霧波川先輩って……どんな人?」 浅美 「ん、結構カッコイイ人だよ?みんなから頼りにされてるし、面白いし。     ただ会いに行く度に、絶対に双子の邪魔者が入るとかでね……」 聖  「う……ん……」 浅美 「……聖ちゃん?どうかした?」 考え事をしていたわたしの顔を、ひょいと浅美ちゃんが覗いてくる。 聖  「あっ、えっと……『好き』ってどんな気持ちなのかなって……」 浅美 「ふぅむ……相手が居ないわたしたちには、その感情は難しいねぇ……。     聖ちゃんはよく告白されるけど、その人が好きってわけじゃないしね……」 聖  「わたし、恋人になってくれる人はパパみたいな人がいい……」 浅美 「……そ、それは相当難しいんじゃないかなぁ……」 聖  「うん……そう、そうだよね。あんなにやさしい人、滅多に居ないもんね……」 浅美 「いや、そっちじゃなくて……その性格面が……」 聖  「性格?やさしいよ?頼り甲斐もあるし」 浅美 「だめだこりゃ……完璧なファザコンだよ……」 聖  「……?」 浅美 (やさしいのは聖ちゃんにだけってゆうこと、気づいてないのかなぁ……) 聖  「浅美ちゃん?」 浅美 「あっ!ううんっ!な、なんでもないからっ!     そろそろ行こっ!昼休み終わるよっ!」 聖  「う、うんっ」 浅美ちゃんの手に引かれて、小走りに校舎へ入る。 ……そんな中。 わたしの頭の中を支配しているのは恋ってなんだろうって言葉だけだった。 ───……。 最近、椛ちゃんの物腰が変わった気がする。 なんてゆうのか……丁寧になったってゆうのかな。 落ち着いていて、だけど霧波川先輩のことになると、その物腰が砕ける。 たまに霧波川先輩のことを『たかまささま』だとか『はやたかさま』だとか言ってる。 なんのことかな……ちょっと心配。 彰利 「ふむ……どうやら既に、楓巫女の記憶の移植はやってあるみたいだぞ……」 悠介 「そうらしいな……。しっかし、まさか椛の方から好きになるとは」 彰利 「なに言ってんのさ。未来の時も、好きになったのは椛からだぞ?」 悠介 「そうなのか?     まぁ……こういう場面が見れるってのも、なんだか複雑な気分だな」 彰利 「まぁなんにせよ……小僧の幼馴染が死ぬこともなかったし、     災狩が順調なお陰で、無駄にお節介をすることもない。     細かいことは俺達が校務仮面となって潰していってるから、     ……うむ、この時代の小僧はまだまだ生命に満ち溢れておりますぞ。     今のところ……かなり順調だな」 悠介 「ああ」 パパと童心さんが何かを話してる。 でも、なにについて話しているのかがまるで解らなかった。 ───……。 それから、椛ちゃんに付き合って、騒がしい日々に身を置く。 椛ちゃんが『おとうさん』って呼ぶもうひとりのパパは、過去から来たパパなんだって。 そしてこの人の未来の先が、わたしのパパなんだって。 どちらにしてもパパなんだけど、わたしがパパって呼ぶのはわたしのパパだけだ。 だってわたしは、わたしのパパからしか大切なことを教えてもらってないのだから。 わたしが大好きなパパは、わたしのパパだけなんだから……。 聖  「……好き?」 ふと、頭が思考した言葉が頭にひっかかる。 好き……うん。 わたしはパパが好き。 誰に告白されてもパパと比べちゃうのはその所為だ。 好き……───好き? これが『好き』なのかな。 どきどきして、そわそわして…… 頭撫でられるだけで嬉しくて、一緒に居るだけで楽しくて。 これが……好き? 聖  「でも、パパはパパだよ、うん」 恋人とかじゃない。 パパはパパだから好き。 それが多分、『恋愛』と『好感』との違いなんだと思う。 そしてわたしの感情は───………… 感情、は……? 聖  「……パパ」 とくんっ……! 聖  「ッ……!!」 ……違う、よね? 好感だよね? だってわたし、パパの娘だもん。 娘は親となんて恋人になれないもん。 だから……───だから…… ───……。 彰利 「暇だー、うおー暇だー……」 悠介 「さすがにこう何度も校務仮面やってると、やることも少なくなってくるな……」 夜華 「わたしは反対だったのです……紙袋を被って、妙な仕事をするなど……」 三者三様。 共通して言えることは暇だってことくらいだろう。 暇……むう、実に暇だ。 彰利 「ちと校務に精を出しすぎたかねぇ……。すっかり平和なガッコになっちまって」 悠介 「悪さをしでかしたやつらに幻惑見せてこらしめるのは、     精を出すって言えるのか?」 彰利 「言えますよ失礼な」 悠介 「そうか……?」 今は聖も椛も浅っちもガッコ。 アタイと悠介と夜華さんは、 双子馬鹿兄弟が借りているアパート部屋の横の部屋でくつろいでいた。 そう、こここそ聖が借りている部屋なのだ。 悪霊が居たらしく、家賃は随分と少なかったが。 災狩も出来て家賃も少なかった。 言うことないね、至れり尽せりだ。 夜華 「……質問があるのですが」 悠介 「ほい篠瀬」 悠介が、小さく手を挙げていた夜華さんをビシィと指差す。 夜華 「この時代からは、いつ抜け出せるのでしょうか……。     そもそもわたしと悠介殿の目的は、彰衛門の記憶と経験とやらの回収でしょう。     このようなところでいつまでも道草をくうわけには……」 悠介 「……それについては、俺もずっと考えていた。     彰利の言う通り、本当に聖を育てるのが目的だとしても……」 夜華 「それは一体いつまででしょうか……死ぬまでですか?」 悠介 「解らない。     ただ言えることは、精神の中だとはいえ、外の時間はちゃんと進んでいる筈だ。     さすがに10年経ってるとは思えないが、それでも───」 彰利 「んでもって……精神から出たとして、     俺が俺として目覚められる保証なんてない……か」 困ったもんだ。 俺はここに俺として居るってのになぁ。 彰利 「いっそこのまま、聖の親としてこの世界で生き続けるかなぁ……」 夜華 「なっ───馬鹿を言うな!貴様は彰衛門として目覚めるんだ!     この世界に居座り続けるなど、わたしが許さん!!」 彰利 「馬鹿とはなんだコノヤロウ!!     つーか事ある毎に人のこと馬鹿って言うのやめません!?」 夜華 「馬鹿者を馬鹿者と言って何が悪い」 彰利 「アンタ!そりゃ才能が無いから努力でカバーしている人に、     才能が無いやつが努力しても無駄だって言ってるのと同じですよ!?」 悠介 「落ち着け、それは極論だ」 彰利 「そう感じなかったんすけどねぇ……」 まあ……なんにせよ、 この精神の世界から抜け出せたとしても……俺はどうなるか解らない。 知識と経験に穴が空いた状態で目覚めるのか、レオとなって目覚めるのか……。 ……うむ、まったくもって謎だ。 悠介 「どちらにしろ、なにかしらの目的があったとしても……     この生活はそうそう変わるもんじゃないだろ。     現状維持ってところでいいんじゃないか?」 そうかも。 彰利 「ほいじゃあ、のんびりゆっくりとゴールを探しますか……」 悠介 「だな……」 夜華 「ごーる……?」 結局、話し合ってみてもゴールは見つかりそうにないので。 俺達はのんびりと、この世界の果てを待つことにした。 ───………………。 そんな調子で夏が過ぎ、秋が過ぎて……やがて冬が訪れる。 その世界は俺が未来で見た景色とそう変わらない。 けど……そんな景色の中で、少しずつ変調は起きていった。 昂風街でも災狩を続けていた聖だったけど、苦しそうに身体を折ることが多くなった。 彰利 「聖……大丈夫か?」 聖  「だい、じょうぶ……だよ。わたしのことはいいから……災狩、続けよう……?」 彰利 「だがしかしのぅ……」 聖  「ほんとに、大丈夫だから……。早く……」 彰利 「……解った。聖が大丈夫って言うんだ、俺が信じないわけにはいかんよな」 頷くしかなかった。 聖にはバレないように月生力や月清力を流してみても、聖の容態は回復しない。 だったら───聖の『大丈夫』を信じるしかないのだから。 ───けど、そんな聖を信じていた時間も……シェイドの登場で幕を下ろすこととなる。 ルヒド「時が来たんだよ」 彰利 「時……?」 シェイドが言うには、 聖は今、この時をもって災いから解放され、神界人に戻るのだそうだ。 戻る、といっても……それは魂レベルの問題。 既に死していた肉体には戻れる筈もなく、神界人として転生をするのだとか。 聖が行った災狩はシェイドの想像以上に行われていて、 これなら間違い無く神界人として転生できるのだという。 俺はそれを……喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。 転生とは言っても、聖は消滅してしまうのだ。 俺はそれを喜べるのか……? ルヒド「記憶が消えるわけじゃない。     ただもう一度、生まれるところからやり直すんだ」 彰利 「でも……聖は死ぬってことだろ?」 ルヒド「転生するんだ。死ななければ出来る筈が無い」 彰利 「………」 それはそうだ。 けど、そう簡単に納得できないのが人間ってものだ。 彰利 「───聖は神界人として転生するんだな?」 ルヒド「うん。まあ、望めば人の子にだって転生できるけど」 聖  「っ……ほ、んとう……ですかっ……?」 彰利 「聖、喋るでない……!キミの体調はすこぶる最悪なのですよ……!」 ルヒド「……メルティア。望む転生先でもあるのかい?     それなら力を貸してあげてもいい。元々、神は転生が自由らしいからね。     少し助力するだけで成功はするよ」 聖  「それ……なら……」 ルヒド「…………」 聖が、シェイドの耳元で何かを囁いた。 それに対してシェイドは頷き……やがて。 聖は俺に向き直り、『また会う時まで……バイバイ、パパ』と言って……消滅した。 彰利 「………」 そして、その場に眩しいくらいの光が残される。 ルヒド「……うん。神々しいくらいの神力だ。これなら転生は絶対に成功する」 彰利 「……そか。それで……聖はなんて言ったんだ?」 ルヒド「はい」 ズチュウウ……ゥウウン…… 彰利 「あっつっ!?熱ッ!!あっつぅーーーっ!!!!」 何を思ったのか!シェイドの野郎、アタイの腹の下あたりに聖の光を埋め込みおった! てゆうか熱ッ!!とんでもねぇ熱さですよこれは!! ルヒド「メルティアがなにに転生したかったのか。     それは、キミが結婚して子供を授かった時に解るよ」 彰利 「なんと!?それでは───」 ───言葉を続けようとしたのに、声が出なかった。 俺の身体は、まるで夢から覚めようとするように、ゆっくりと消えてゆく。 ルヒド「この波動……精神と過去を繋げたのか。     こんな面倒なことをするのは僕とリヴァイアくらいだろうね。     ……キミが目覚めた先に僕とリヴァイアが居るのなら、よろしく言っておいて」 彰利 「───!───!」(なにぃ!自分で言えボケ!) ルヒド「あはは、何を言ってるのか解らないなぁ」 彰利 「─────────!!!」(おのれぇえええええっ!!!) ルヒド「───大丈夫。     キミが生き続けて誰かを愛せば、必ずまたメルティアに会えるよ。     その時こそ、胸を張って『娘』と呼ぶといい」 彰利 「───!」(いつだって胸張って呼んでたわい!!) ルヒド「これから、この世界に精神体として来ている存在は、全て元に戻される。     けど、この世界のことは忘れることはない。     精神と照らし合わされたとはいえ、過去は過去だからね。     それじゃあ、これが最後になるだろうから言っておくよ。     ───どうか、キミと、メルティアの未来が幸せでありますように」 彰利 「───!!」(待てコラ!待てっつーとるのに!お、おわぁーーーっ!!) 景色が霞む。 真っ白い霧に覆われてゆく。 それとともに意識までもが吹き飛んでゆく中。 自分の中に、確かに生きている聖の暖かさが嬉しかった。 嗚呼……これが子供を宿すということなのねィェ……!! ───ぶつんっ。 ……やがて、まるでブラウンカンの電源が落とされたかのように。 俺の意識は、黒い渦に飲み込まれた。 ───…………。 悠介 「ぷはぁっ!!」 夜華 「はっ───!!」 勢い良く起き上がった。 そして、ゆっくりと消えていった自分の手を見てみる。 ……が、存在してる。 悠介 「……っはぁ……なんだ……」 精神の中から消える時、腕が消えたように見えただけか……。 焦らせやがって……。 リヴァ「目覚めたか」 悠介 「あ……よう、リヴァイア。ったく……今回の精神内、どうなってたんだ?     まったく訳が解らなかったぞ?」 リヴァ「……ああ。今回のはな、メルティアってゆう死神……いや。     聖ってゆう神の子の精神内部を過去に照らし合わせたものだ」 悠介 「聖、って……あ、そういや彰利はっ!?」 診療台のようなベッドから降り、掴みかからんばかりの勢いでリヴァイアに詰め寄る。 リヴァイアは……視線を落とし、目を閉じて淡々と語った。 リヴァ「……以前より状態はよくなっている。が、目は覚ましていない。     記憶と経験はシェイドが集めてきてくれたが、     目覚めるためのきっかけが足りないんだ」 悠介 「きっかけって……?」 リヴァ「───レオ=フォルセティーの殲滅」 ───! リヴァ「どの道───あいつを始末しなければ、同じことの繰り返しだ。     それならば、成長しきっていない今こそ好機。     そして───お前は黄昏の創造を成功させた。準備は整っている」 悠介 「………」 リヴァ「なにも今すぐ向かえとは言わない。ただ、準備は整っているんだ。     お前の好きな時にわたしに言え。その時は、精神に送ろう」 悠介 「…………ああ」 搾り出すように返事をした。 正直……レオがどれだけの力量なのかも解らずに突っ込んでいって、 それは好機と言えるのだろうか。 ……解らない。 けど、やるなら早いほうがいいのは確かかもしれない。 レオが、彰利の経験や記憶を全て食い尽くしてしまう前に─── 悠介 「……聖は───」 リヴァ「うん?」 悠介 「光がどうとか言ってたよな。メルティア───聖は……どうなったんだ?」 リヴァ「……この時代では災狩の量が少なかったため、     未熟な光として検察官に埋め込まれた。     その中で精神を過去へと繋ぎ、徳を高めるために災狩を繰り返した。     ……精神内の聖は、間違い無く転生できる。     そして───その光は検察官の中にある」 悠介 「彰利の……?」 リヴァ「ああ。次に生まれてくる時は、間違い無く本当の親子として再会できるだろう」 悠介 「……じゃ、彰利が結婚したとして、生まれてくる子供ってのが……」 リヴァ「そう、聖だ」 悠介 「…………そっ……か。そっかぁっ……」 なんだか安心した。 冬に入ってからの聖は、とにかく苦しそうだった。 苦しみに耐えながら、彰利に自分の頑張りを見せようとしていた。 結局───それを見せることが出来たかどうかは解らない。 けど、子供として生まれ変われるのなら…… いつだっていいところくらいは見せられるに違いない。 悠介 「……ちょっと寝るわ。安心したらドッと疲れた……」 リヴァ「ああ、そうするといい。わたしはもう少し、検察官の状態を監視している」 悠介 「あー……」 ばたっ。 再びベッドに倒れて、目を閉じた。 すると驚くくらいの睡魔が俺に襲いかかってきた。 ……もちろんそれに抗える筈もなく。 俺は、あっさりと眠りに落ちていった……。 Next Menu back