───ザ・グレイトバトル〜彼女の苦しみと馬鹿の喧騒と〜───
───……。 ミニ 「それで、あの……どうしてわたしまで」 遥一郎「知らん。何処に行くかは解らないけど、人数が多い方がいいとのことだから」 ミニ 「うー……なんだか変な気分です……」 てとてとと俺とミニの先を歩くサクラを見る。 元気になったサクラを見たミニは相当驚いていたけど、 事実を事実として話すと───悲しそうに頷いた。 『普通に接してくれ』。 それが、ミニに頼んだ俺の願いだった。 遥一郎「なぁサクラ、何処に向かってるんだ?」 サクラ「もう少しで着くです」 ミニ 「……おばあさま、楽しそう……」 遥一郎「俺は若干、嫌な予感が隠せない気分だけどな」 ミニ 「どうしてですか?」 遥一郎「まあ、経験から来る直感ってゆうか、そんなところだと思う」 経験───うん、経験だな。 そういう言葉が随分としっくりくる。 特にそれがサクラのこととなると……この感覚は絶対に嫌な予感の部類だ。 ミニ 「───あ、あの……あのっ!わ、わたし逃げていいですかっ!?」 場所からして何かを感じたのか、ミニがあちこち見ながら逃走許可を得ようとする。 答えは当然、 遥一郎「却下」 ミニ 「そんな!」 即答に対する即驚愕。 なかなかやるな、ミニよ……。 遥一郎「この先になにがあるか知ってるって顔だな。なにがあるんだ?」 ミニ 「……死闘、でしょうか……思い出すのも嫌です」 遥一郎「それはいい、是非思い出してくれ」 ミニ 「遥一郎さん性格変わってますよっ!?」 遥一郎「はっはっは、何を言っているのかな、ミニくん。     俺は元々こんな性格なんだぞぅ?お前が昔の俺を知らないだけだ」 ミニ 「むー……あ、で、でも逃げてもいいですよねっ!?     死闘に向かうなんて馬鹿ですよね!?」 遥一郎「うん?んー……うん」 ポムとミニの肩に手を置いて、俺はヤァングミェエエンのようにニカッと笑ってみせた。 遥一郎「いまさらなにを恐れる!安心して向かえっ!お前にはその資格があるんだ!!」 ミニ 「それってわたしが馬鹿ってことですか!?」 遥一郎「ん?そう聞こえなかったのか?」 ミニ 「ギッ───ギィイイーーーーッ!!!!」 雄々しく叫ぶミニを他所に、笑いながらサクラの横まで駆ける。 そこで他愛無い話をしながら、俺は背にポカポカ攻撃を食らった。 遥一郎「あー、そこそこ。最近、肩甲骨のあたりが凝っててなぁ」 ミニ 「老人みたいなこと言わないでくださいっ!」 遥一郎「似たようなものじゃないかな。まあそれはいいからきびきび歩け」 ミニ 「あ、歩いてますよっ」 遥一郎「殴るのをやめろ」 ミニ 「もうやめてますっ」 遥一郎「息をしろ」 ミニ 「してますっ!」 遥一郎「ヒゲを生やせ」 ミニ 「もう生やしてますっ!」 サクラ「───えぇ……!?」 遥一郎「ミニ……お前ってヤツは……」 ミニ 「……え?あ、あぁあーーーっ!!!!」 ───新説!噂の彼女はヒゲ面ダンディ!? ミニ 「なっ───なんてことを!!わたしはヒゲ面でもダンディでもありませんっ!!」 遥一郎「人の心を読むなっ!!」 ミニ 「声に出てましたっ!」 遥一郎「な、なにぃ馬鹿な!!いや馬鹿はお前だったな、すまん」 ミニ 「そんなことで謝るよりももっと別のことで謝ってくださいよ!」 遥一郎「……すまん。10年前、お前のおやつのプリン食ったの、俺なんだ……」 ミニ 「なぁっ!?あ、あれ食べたの遥一郎さんだったんですかっ!?     わたし、ずっと凍弥さんを疑って大変だったんですよ!?     って、そうじゃなくてですねぇっ!!!     ああぁもう!いつもの理知的な遥一郎さんはどうなっちゃたんですかぁっ!!」 サクラ「くふっ……くふふふ……!!」 騒ぐミニと俺を見て、その間に挟まれるように歩いているサクラは笑った。 ……ああ、そっか……。 こんな遣り取りも、学生だった時以来なんだ……。 遥一郎「えーと、ミニよ」 ミニ 「な、なんですか、急に改まるように……」 遥一郎「まずはすまん」 ミニ 「え?……あ、やっぱり自分の非を認めるんですね?     そうですそうです、それでこそ理知的な遥一郎さんですよっ」 遥一郎「すまん……マジですまん。     懐かしさに揺らされたとはいえ、お前を観咲に喩えるのは失礼すぎた……」 ミニ 「…………さっきも言ってましたね。誰なんですか?その『みさき』って人」 遥一郎「お前も一度だけ会ったことはあるんだけどな。     覚えてないか?凍弥に連れられて鈴訊庵に来た時に居た因業ババアだ」 ミニ 「……………………ああっ!!あの人!!」 遥一郎「思い出したか?ヤツこそが世界にこの人ありと言われた、     至高にして伝説の最先端馬鹿、観咲雪音(独身)だ」 サクラ「うわ……まだ独身です?」 遥一郎「俺の独断だ。しかし、自分でも褒めてやりたくなるくらいに真実味があるぞ」 サクラ「……それは言えてるです」 言って、またクスクスと笑うサクラ。 やっぱりサクラも、あの頃が一番楽しかったんだろう。 最近、笑うことはあっても……ここまで楽しく笑うことはなかった。 つんつん。 遥一郎「うん?」 突付かれる感触に、そちらを見ると───サクラの横からストレインで俺を突付くミニが。 ミニ 「あの……遥一郎さん?最先端馬鹿と比べられたわたしは怒るべきですよね?     遠慮なく怒るべき……ですよねぇっ……?」 あ……ヤバイ。 血管ムキムキだ。 遥一郎「いや、安心しろ、馬鹿さ加減ならお前も負けてないとは思うぞ」 ミニ 「フォローになってませんっ!!!!」 うん、フォローじゃないし。 そう言おうとしたところに振り下ろされるストレイン。 遥一郎「って問答無用すぎやしないかぁぁあああああっ!!!!??」 ───めごしゃあっ!!……ドゥ。 ───……天界、養鶏ランティス牧場。 遥一郎「養鶏場?しかもランティスって……」 ミニ 「……………………」(ガタガタガタガタガタガタ……) サクラ「はいです。ランティス家は元々、養鶏牧場を生業とした家系です。     天界の卵の生産ラインは、すべてランティスが仕切っているです」 遥一郎「へぇ〜え……」 つい、と柵の中を見てみる。 ───ふむ、鶏……には見えない物体がざっと……何羽居るんだよ。 鶏冠(とさか)がヤケに大きく、体つきもいい鶏もどきが……とにかく沢山居る。 ……とまあ、それはそれとして。 遥一郎「なぁミニ……首が痛いんだけど……」 ストレインで殴られたために、大いに捻った首を擦る。 だがしかし、おミニさんはつんとそっぽを向くだけである。 その体がガタガタ震えているのが気になりはするけど、 今ツッコんでみても何も言いそうにない。 サクラはサクラでニコニコ笑顔で俺を促すし───なんだっていうんだろうなぁ。 遥一郎「ほら、行くぞミニ。震えて待てとはよく言ったものだけど、     そんなところでボディシェイカーしてると変人にしか見えないぞ?」 ミニ 「で、でも……」 ……?なにをそんなにビクビクしてるんだ? もしやこの養鶏牧場には謎の地球外知的生命体が───!? って、そんなわけないよなぁ。 サクラ「与一、こっちです」 遥一郎「え?あ、ああ……」 サクラに促された俺は、仕方なく震えるミニをそのままに、 養鶏牧場の小屋の中に入っていった。 ───で。 天鶏 「コエェエエエーーーッ!!!!」 ドゴスドスドス!!ドゴスドス!! 遥一郎「いででででぇえええーーーーーっ!!!!!」 入り、そして指示されるままに卵を手に取ろうとした俺は、 天鶏(てんけい)とやらに襲われた。 天鶏……つまり天界のニワトリ。 だがその外見は、明らかに地界のニワトリに比べると異質……っ! 雄々しく立った鶏冠は大きく、 その体さえも地界のニワトリのもより一回りも二回りも大きい。 そして恐るべきはこいつの持つ最大の凶器───クチバシである。 分厚い厚紙でさえ貫くとされるそのクチバシは、まさしく凶器ッ……! 遥一郎「てゆうか痛ぇ!痛ぇって!!このっ───精霊パンチ!」 天鶏 「コエッ!!」 ドゴシュ! 遥一郎「いっでぇえええええええっ!!!!!!」 勢いよく振った拳に、天鶏のクチバシが刺さる。 だがしかし!俺はそのままクチバシを掴み、思い切り振り回した! 遥一郎「こンのクソニワトリがぁーーーっ!!!」 回し、さらに回す!! やがて遠心力は俺の重心を下へ下へと促し、その体勢はハンマー投げの選手のようになる! 遥一郎「室伏よ!俺に力を与えてくれぇえーーーっ!!!」 ───来た! 室伏のイメージが今───俺のものに!! 遥一郎「吹き飛べニワトリャアアアーーーッ!!!」 ブンブンブンブンブンブン───ブォンッ!! 天鶏 「コエエエエェェェェェェーーーーー…………!!!」 遥一郎「ォオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!」 ハンマー投げのセオリー、投擲の後の絶叫で気分スッキリリフレッシュ。 しかし思ったよりは飛ばなかったためか、天鶏はとっとと着地。 やがて─── 天鶏 「コエエエエエエエエエッ!!!」 天鶏2「コェッ!!コエェエエッ!!」 天鶏3「コエェエエエエッ!!!」 なんと仲間を引き連れて襲い掛かってきた!! 遥一郎「うわっ!なんかどっかで見た時ある状況だぞこれっ!!」 なんだっけ!? って、そうだ!ニワトリを苛めすぎたアドルフ君!! というよりは、志摩どもが持ってた年代物のSFCゲーム、ゼルダの伝説のニワト─── 天鶏×36『コエェ!コエコェ!コエッコ!コェエエエエエエエッ!!!!』 遥一郎  「たわっ!ちょ、待───だぁあわぁあああああっ!!!!!」 ドスドスバサバサドゴシャザクドシュドカバキガゴシャベゴシャ…………!! ───…………。 遥一郎「かはっ……!はぁっ!はぁっ……!!せ、成敗……!!!」 実に辛勝。 俺の目の前にはうざったいほどの数の天鶏が倒れており、 その中心には、足場もないくらいのその現状に呆れる俺が立っていた。 体はボロボロで、回復のために精霊力使ったから相当にぐったり状態。 精霊体じゃなかったら死んでただろ、これ……。 サクラ「大量です♪」 そんなぐったりマイハートな心境の最中(さなか)、 ムンと大量の卵を盛った籠を見せるサクラさん。 つまり俺は囮だったということか……───ミニが嫌がった理由がようやく解った。 って、そうだ。 ミニはどうしたんだ? ミニ 「ひやぁあああああああん!!!!!」 天鶏 「コエコエコエェエエエーーーッ!!!!!」 バサバサドゴドゴドゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!! ミニ 「や、やめっ……助けてください遥一郎さぁああああん!!!!」 遥一郎「わり……もう限界……」 精霊力が枯渇しそうだ。 休まなきゃ体力が保たん……。 ミニ 「そ、そんな!」 天鶏 「コエェィッ!!」 コツッ!!ゴコツツツッ!!! ミニ 「いたっ!いたっ……う、うわぁああああんっ!!!」 あ、泣いた。 でも体が動かないというのが現在の状況。 俺にはどうすることもできないな……強く生きろ、ミニ。 ミニ 「───ッ」(ブチリ) あ。 なにやらイヤな音が─── サクラ「与一、非難するです」 遥一郎「サ、サクラ?」 サクラ「毎回のことです、気にしてたら精神が持ちません」 遥一郎「それって……」 ビコォーーン!! ミニ 「きしゃああーーーっ!!!」 天鶏 「コエッ!?」 パグシャボゴシャメゴシャ!! ドゴボゴボゴシャメゴシャギョパァン!! 天鶏 「コゴゲゴボゲガゲギョギョキヒェエーーーッ!!!!」 うあ……ストレイン発動。 目を輝かしく閃かせたミニが、俊敏かつ繊細な動きで天鶏を薙ぎ倒してゆく……。 一発かましたその次の瞬間には、先ほど俺が薙ぎ倒した天鶏どもが起き上がり、 ミニに向かって飛んでいっていたわけなんだが……それまでも薙ぎ倒していってる。 ミニ   「シャアアアアーーーッ!!!キシャアアアーーーッ!!!」 天鶏×32『コッ……コエェーーーッ!!!?』 ……やがてボコボコに薙ぎ倒されてゆく天鶏ども。 それを見た俺とサクラは、極々自然に合掌をしていたのだった……。 ───…………。 ミニ 「いたいぃ〜……いたいよ〜……」 さて、サクラの家に戻ってきた俺達だが─── 思ったよりミニのダメージがデカかった。 デカかったのだが─── アル 「まったく……もう少し攻撃を食らわないように収穫できないのかお前は……」 レイル「無茶言うなよ。天鶏ってあれで結構強いんだぞ?     血気盛んな所為で誰が取りに行っても襲ってくるし」 アル 「ブラストの一発でも撃てば黙るだろ」 レイル「お?強気じゃねぇの。なんならミニっ子の傷を治したら行ってみるか?」 アル 「ああ、構わないぞ」 レイル「───っしゃあ!!」 ガッツポーズをとるレイルは気にしないとして。 ミニはアルベルトさんに治癒法術をかけてもらい、あっさりと回復。 その後───レイルと連れ立って、家から出て行った。 遥一郎「……天鶏も散々っぱらボコボコにされたけどさ、大丈夫なのか?」 サクラ「天鶏には治癒能力があるです……。だから……」 遥一郎「あー……」 嫌な予感がする。 かなり特殊な方向の嫌な予感だが─── 声  「大変だぁーーっ!!アルが天鶏の群集に襲われて為す術もなくーーっ!!!」 遥一郎「………」 サクラ「………」 ミニ 「………」 『天界の長の実子、ニワトリに敗れる』 ……素晴らしく情けない見出しの号外が出来そうだった。 ───……。 ふたりが戻ってきたのは、それからすぐのことだった。 アル 「………」 レイル「まったく……もう少し攻撃を食らわないように収穫できないのかお前は……」 アル 「ぐくっ……!」 レイル「ブラストの一発でも撃てば黙るだろ」 アル 「お前が黙れ……!」 レイル「撃った途端に一斉攻撃くらって、回復だけで手一杯だったの……誰だったっけ」 アル 「くうう……!!」 レイル「いやぁ〜、お前らにも見せたかったよぉ〜。     アルのヤツ、意気込んで開幕ブラスト撃ったはいいけどよ、     その後に天鶏の一斉攻撃くらってボッコボコ。     もちろん俺は堪えることなく大笑いしてやった。いや〜ぁ情けねぇヤツよォ」 アル 「やかましい!」 人をからかうのが好きなヤツってゆうのはどこにでも居るんだな、やっぱり。 遥一郎「で、そこまでボコボコで……なんの収穫も無いと……」 アル 「俺の元々の目的は天鶏との戦いだったからな、収穫なんて望んじゃいない」 レイル「訳:『ボロ負けした上に収穫を要求されても困るんだよ……察しろ』」 アル 「誰がいつそんなこと言った!!」 レイル「お前との付き合いも長いからな。経験上の俺の独断だ!」 アル 「随分と立派な独断だな……!今すぐ改めてもらいたいくらいだ……!」 レイル「難しいことは難しく考えようとしないのが俺のいいところだ」 遥一郎「いいところ?短所の間違いじゃないのか?」 レイル「ほっとけ」 そんな会話を聞きながらも、サクラはクスクスと笑っていた。 そういう笑顔が嬉しい。 だから……消える時に笑顔で消えてくれだなんて願わない。 苦しいなら苦しいって言ってほしいし、無理矢理な笑顔なんて見たくはない。 俺はサクラに、そういう思いを願っている。 今日……もって明日が最後の日になるとしても、俺は最後までサクラに付き合うつもりだ。 ……終わりが来たら、俺も消えよう。 精霊としてしがみ付いてきたこの世界……─── 一度消えた自分にはもったいないくらいの思い出がある。 それがあれば十分だから。 幸せのカタチは、なにも生の先のみにあるわけじゃないのだから。 ……もっとも、生の先が解らないように、死の先だって解らないのが人間なんだけど。 だから俺は『夢』になろうと思う。 奇跡の魔法の末である自分を放棄して、ただひとつの夢に。 アル 「お前は卵黄丼でも食ってご満悦してればいいんだよ!!」 レイル「なにぃ!?卵黄丼を『でも』扱いするな!     お前卵黄丼の良さがまるで解っちゃいねぇ!いいか!?卵黄丼はなぁ!」 ミニ 「ちょっ……やめてくださいよふたりとも!     天界の実力者がそんなのでどうするんですか!」 アル 「実力があるからって『俺』が変わってたまるか!」 レイル「縛られるなんて冗談じゃねぇ!実力あっても凡人がいいんだよ俺は!」 ミニ 「別にレイルさんには何も望んでませんけどね……」 レイル「……言うことキツイぞミニっ子……」 ミニ 「ミニっ子って言わないでください!」 サクラ「くふふふふっ……♪」 ……そう。 ただ、こんななんでもない日常が続いてゆく夢を見られるように。 ───人は生き、やがて死ぬ。 その先に何を望むかなんてことは個人の勝手でいいと思うし、 それをとやかく言うつもりもないし、言われる筋合いもない。 ただ……心配のタネがあるとしたら、やっぱり凍弥で…… あいつが大人になってからどんなことをするのかと思うと、今から苦笑が絶えやしない。 それを見られないのは残念だけど…… 遥一郎「………」 肝心なのは、自分が『これでいい』って思えることなんじゃないかな。 世の中には『諦めが肝心』って言葉もあるように、 それは誰かが『諦めた』ことで道を開くことが出来た例があるってゆうわけで…… ……なんだろうな。 会話に置いてけぼりされてる所為か、考え事が増えてきてる。 まあどっちにしたって『これでいい』と『諦める』ってゆうのは同じ意味じゃない。 確かに俺は、凍弥の未来の先を見ることを諦めるわけだけど、 それは別の誰かが見ていてくれるだろう。 たとえあの骨が言ったように、凍弥が消えるのだとしても─── 俺が消えたその時から凍弥が消えるまでは、ちゃんと『未来』があるのだから。 遥一郎「……幸せ、か……」 自分の幸せがなんなのか。 そしてそれは、いったい何処にあったものだったのか。 少し考えてみて───俺もまた、サクラのように笑った。 ───簡単だ。 俺は間違いなく、普通の日常に幸せを感じていた。 サクラに会って、蒼木に会って、観咲をからかって、笑い合って…… 凍弥をガキって呼んで、ミニを庇って、そいつらの成長を見守って─── 穂岸遥一郎という男は、そんななんでもない日常にこそ幸せを感じていたんだ。 遥一郎「なぁサクラ」 サクラ「やぅ?」 レイル特製の卵黄丼を口に頬張ったサクラが振り向く。 喋ろうにも口の中がいっぱいで、それを必死に咀嚼する。 そんなサクラを見て、自然と吹き出してしまった。 サクラ「むぐっ!?んぐんぐんぐ……はふっ!!どうして笑うですか!」 遥一郎「はははっ……悪い悪いっ……くくっ、だってお前……ぷふふはははっ!!     モノ食ってる時の顔が昔と全ッ然変わらな───くふふはははは……!!」 サクラ「うー……!」 遥一郎「格好ばかり大人で、中身変わってないって思ったらおかしくておかしくて……!」 サクラ「以前のままのわたしでいいって言ったのは与一です……」 遥一郎「そうだけどさ、俺が言いたいのは違和感のことなんだよ。     今そういう仕草してても全然違和感がないから余計に面白くってさ」 サクラ「むぅう……与一ひどいです……」 遥一郎「ひどいのは観咲の脳内くらいだと思うんだけどなぁ」 サクラ「関係ないです」 きっぱりと言われてしまった。 けどまあ、やっぱりこういう時間が一番好きだ。 いや、好きとかじゃくて……なんてゆうのかな。 合ってるってゆうのかな。 そう、性に合ってる。 真面目に勉強したり、苦労して一人暮らしを望んだり─── いろいろあった末にこういう時間があることを、やっぱり俺は喜んでるんだと思う。 そりゃあ、精霊にもならずにサクラとあのままずっと暮らしていけたら、 なんて考えると……惜しい気もする。 けどそれは、どこまで行っても『惜しい』なんだろう。 でももう、この歴史は結果を───少なくとも『俺の道』の結果を出してしまってる。 よっぽどのことがなければそれが覆ることはないし、 そもそも俺には覆す気がないのだろう。 『これでいい』。 そう思える状況が出来上がってしまったのだから。 それも、『イヤだ』なんて思えない状況が。 遥一郎「天大神居るか?是非とも将棋で戦いたいんだけど」 だからだ。 後悔なんて未練が残らないように、思いっきり楽しもう。 『これから消えるから湿っぽく』じゃない。 『どうせ消えるんだからパァッと明るく』。 人の道にはどうやったって『状況』が付きまとうものなんだから、 それを楽しむ方向で行動しないのは損だろう。 ……それぞれが毎回楽しめる状況かどうかは不問にするとして。 アル 「親父か?親父なら台所でエプロン巻いて料理を作ろうとしてるが」 レイル「うぅううううっひゃぁああああああっ!!!似合わねぇええええぇ!!!」 ジェス「や、やかましいわ!」 クルリと振り向き、 怒声を浴びせる天大神だったが……本気でエプロンが似合ってなかった。 その所為か、その場に居る全員に笑われる破目に陥った。 ジェス「ムォオ!?調理をする者としてエプロンを着用することの何が悪い!!」 アル 「着用に文句はないけどなぁっ……!!」 レイル「ぶくっ!ぐぶくくく……!!に、似合わなすぎ……!!」 ミニ 「ウォ、ウォルコット中佐並みですね……!     似合ってるんだか似合ってないんだか微妙です……!」 レイル「全然まったく似合っとらん!!」 今回ばっかりはレイルに賛同───……てゆうかウォルコットって誰だ? アル 「親父ぃ、料理なんてしたことあるのかよ」 ジェス「任せんか!よってたかって老人扱いしおって!     見ておれ、今すぐ美味い料理を」 ザグシュ!! ジェス「ひょーーーっ!!!?」 うお……第一刀で指切った人って初めて見たよ……。 しかもそれが天大神っていうんだから貴重だ。 貴重すぎる。 レイル「うわっ!卵に血がかかっちまったじゃないか!」 アル 「なにやってるんだよ親父!     せっかく取ってきた卵をジジイ菌でダメにしたいのか!?」 ジェス「それは偏見中の偏見じゃ!まったく、ちっとは心配せんか!!」 アル 「血ぃ流してないでさっさと法術使って治せよボケ老人」 レイル「気を引きたかったんなら逆効果だぞマイケル=ジジーソン」 ジェス「おぬしら言いすぎじゃ!     天大神を天大神とも思わぬその……───ジジーソン!?」 家の中はおかしいくらいに賑やかだ。 たとえサクラに気を使っての行動だとしても、静かな状況よりはいいのかもしれない。 そんなことを考えていた折……─── サクラ「天大神さま、お話があるのですが……」 ジェス「ひょっ!?なんじゃ、言ってみるといい」 サクラ「あお……すいません。あまり人には聞かれたくないことなので……」 ジェス「……うむ。ではワシの部屋で話すとしよう。     レイル、アルベルト、しばらく空けるぞ」 レイル「間違い起こすなよ〜」 ジェス「起こすかっ!!おぬしは本当に礼儀のないヤツじゃな!!」 アル 「張り切って自分の指を料理した天界人の長に言われたくない言葉だ」 ジェス「あの出来事のどこに『礼儀』が関連しておるというのじゃ!!」 レイル「サクラが困ってるぞ〜、さっさと行け〜」 サクラ「えっ?わたしは別に───あ、サイファー、あなたも来なさい。     あなたにも話しておきたいことがあるから」 ミニ 「え?あ、はい」 アル 「さっさと行けよ親父。女は待たせるもんじゃない」 ジェス「おぼえておれよおぬしら!!」 パァア……キュインッ!! サクラとミニ、そして天大神は、 発生させた光に包まれると、高く澄んだ音を奏でながら転移した。 レイル「……さて、と」 アル 「ああ」 レイルとアルベルトさんが俺に向き直り、真面目な顔をする。 その雰囲気から、次にくる言葉が心底真面目なことなんだろうと感じた俺は、 その表情に応えるかのように真面目に構えた。 レイル「……サクラとは何処までいってる?」 ガドシャアッ!! アル 「とわっ!?」 レイル「器用なヤツだな……いきなりズッコケるとは」 遥一郎「って!なんだよそれは!     真面目な話をされるって思ってた俺が馬鹿みたいな質問しやがって!!」 起き上がり、レイルを睨んで叫んだ。 だがレイルは特に気にした風でもなく言う。 レイル「俺は真面目だ」 遥一郎「………」 どうしてだろう。 どうして俺の知ってるヤツには、それぞれどの場所にもこういうヤツが居るのだろう。 観咲から始まり、学生時代に昂風街で会った閏璃凍弥、 この時代で会った志摩兄弟に佐古田に弦月彰利……。 そんでもってコイツ……レイル。 あれから随分経つってのに、性格がてんで変わってない。 アル 「こいつのことは気にするな。俺が訊きたかったのは先のことだ」 遥一郎「先?……ってことは……」 アル 「ああ。サクラが消えたら、お前も消えるつもりなんだろ?     あんまり面識があるわけでもないが、     お前ってゆう人間のことは解ってるつもりではある」 遥一郎「アルベルトさん……」 レイル「ああそうそう、吉報って言えるのかは解らんけどな。     ウィルス分析してから解ったことなんだが、     存在率の消滅によって消える者は、     その時に強く願ったものになれるんだそうだ。     お前が桜に、蒼木ってやつが風に、レイチェルが空になったようにな。     ノアは───ほんとはお前の子供になることを願ったんだけどな、     お前に起きた状況がそれを阻んだ」 アル 「そこでひとつ頼みがあるんだ。消える前にノアに会ってやってくれないか?     月日が経ったおかげで、あいつも郭鷺悠季美の中で存在が確立しつつある。     お前がもう、蒼木やレイチェルと話すことが出来るように。     ……このイマンシペイトをお前に預けておく。     発動させれば会話だけじゃなくて、その姿も見える筈だ。     ……サイファーのことは気にするな。天界帰還の書類も強引に作成させておいた。     あいつにその気が無ければ、もう地界に戻ることもないだろう」 遥一郎「そう……ですか。ありがとうございます」 かつて、サクラの魔器だったイマンシペイトを受け取る。 アル 「腕に付けておくといい。     一度発動させれば、お前が消えるくらいまではもつ筈だ」 遥一郎「はい」 腕に魔器を取り付け、小さく深呼吸をする。 そして俺は───重くもなく、まるで自分の体の一部になったような錯覚とともに、 自分が消えるという事実を魔器として受け入れた。 この魔器を付けるということは、つまりそういうことだ。 幸せを集め、その先の思いへと役立てるために。 俺はその消滅を受け入れる。 アル 「……まったく。ただの地界人の方が、     天界のお偉い方より根性が坐ってるってのは……正直情けない限りだな」 レイル「いーんだよ。馬鹿やらかさないことと指図されない限りは、     面倒ごとなんてものはお偉い方のやることだ。     ンまあ、上の者の喧嘩に民衆を巻き込むことがお偉い方の仕事だってゆうなら、     俺はもうカオス引き出して滅ぼしてるよ、こんなとこ」 アル 「あー、その時が来たら俺も協力するさ。     カオスには及ばないが、これでも法力には自信がある」 レイル「だったらもうちょっとやる気のある返事くらいしろよな。     アルってさ、普段はキリってしてるクセに、私生活だと不良みたいだよな」 アル 「常時不良院生してたお前に言われたくない」 レイル「アホウ、そりゃ俺が俺という存在を包み隠さず披露してるってことだろうが」 アル 「で、包み隠さず披露した結果、ノエル=グランシェルを病院送りにしたと」 レイル「……つまんないこと覚えてんのね」 アル 「なかなか有名だったからな、万能薬と偽って毒薬飲ませたアレは」 レイル「いやっ、俺は毒薬とは知らずに飲ませたわけで、     あげなことになるとは露知らず……」 なんのことだか解らん……会話に置いてけぼりだ。 サクラのことが気になったけど、天大神に話があるって言って、転移したままだ。 ミニへの話ってゆうのも気になる……ああもう、俺ってこんなに知りたがりだったか? ふと、知りたがりは長生きしないって言葉を思い出したが───どうせ俺、消滅するし。 遥一郎「……退屈だ」 結局、やることも大切な人も居ない現状の終着なんて、そんなものだった。 ───……。 サクラ「……なにやってるです?」 さて───あれからレイルとともに、 嫌がるアルベルトさんを無理矢理巻き込んでこっくりさんをやってた頃。 トコトコと歩いて帰ってきたらしいサクラが、アルベルトさんの顔を見て一声。 レイル「いや聞いてくれよサクラァ。アルの野郎ってばさぁ、     普段はキリッとしてるくせにこっくりさんが嫌いなんだとさ」 アル 「ば、馬鹿やめろ!こんなもの迷信だ!怖いってわけじゃ───」 つつつ…… アル 「おわっ!?お、おい!今勝手にコインが動いたぞ!?」 レイル「こっくりさん効果ってやつよ……」 アル 「な、ななななに馬鹿なこと言ってんだよ!     この天地空間に、そんな意味不明現象があるわけがないだろうが!」 ま〜た言い合いを始めるふたり。 懲りないってゆうかなんてゆうか……まあ、言うなら『飽きない』だな。 レイル「こっくりさんこっくりさん……     精霊の野郎とサクラがどこまで進んでるのか、教えてください……」 サクラ「ドサクサ紛れでなんてこと言うんですかレイル兄さんっ!」 遥一郎「てゆうかこっくりさんに訊くか?そういうこと……」 つつつ…… 遥一郎「うわっ!?」 またしても動くコイン。 そのコインが、一文字一文字をゆっくりと辿ってゆく……。 『はんにんは、やす』 ……犯人は、ヤス? 全員 『誰だよっ!!』 俺とアルベルトさんはともかく、レイルまで叫んだ。 ……もしかして、ほんとに勝手に動いてる? レイル「あー、じゃ、じゃあ天大神の前世はなんですか?」 アル 「こりゃまた微妙なところを……」 つつつ…… レイル「おっ?最初は『か』か。ははっ、もしかして『カエル』とか?」 アル 「はっ、ど〜せお前がやってるんだろ?そんなこと知るか」 レイル「ん?なに言ってんだよ。俺ゃ別に動かしてなんかいないぞ?そら」 レイルが指をどかしてみせる。 が、俺とアルベルトさんが指を乗せたコインは……勝手に動いている。 アル 「…………ほ、穂岸……悪い冗談はよせ……」 遥一郎「な、なに言ってんですか、アルベルトさんこそ……」 アル 「………」 遥一郎「………」 つつつ…… アル&遥一郎『キャーーッ!!』 居た……!居たんだ……!! 夢じゃない……!こっくりさんは居たんだ……っ!! レイル「次は『ま』か。カエルじゃない、とすると……カマキリ!?」 遥一郎「暢気なこと言ってる場合かぁーーーっ!!!」 レイル「どんな状況でも楽しめるものは楽しむことが俺の信条だからな!!     まぁなんにせよ、天大神の前世が解るまで待てって。面白いだろ?」 アル 「面白いもんかっ!!」 レイル「いーからいーから♪     それとも自分の親の前世がカマキリだってことを知りたくないか?」 アル 「カマキリなんてことがあってたまるか!!人の名前に決まってるだろうが!」 レイル「じゃ、賭けるか?俺はカマキリで、お前は人間の名前って。俺はいいぜ?」 アル 「やってやる!」 遥一郎「……別にこんなことで熱くならんでも……」 少々呆れが入る。 が、どちらにしろ賭けの結果はそろそろ解る。 さあ……どっちなのか……! つつ、つつつつ〜…… コインが動く。 そんな中、レイルが立ち上がって───サクラに向けて小声でなにかを話していた。 サクラはなんだか驚いていたようだけど……つつっ。 遥一郎「……へ?」 アル 「………あ」 レイル「どした?……って、うあ……」 サクラ「…………」 そして俺達は固まった。 なにも言えず……というか言葉が見つからない。 まさか……まさかあの天大神の前世が…… レイル「かま……フフッ、かま、か……。確かにな……」 アル 「気にするな……前世だ、前世……。それにこれは迷信じゃないか……落ち着け」 遥一郎「…………なんてゆうか、言葉もないな……」 サクラ「……与一。『かまどうま』ってなにです?」 男衆 『ゔッ……!!』 震え、再び固まった。 そう……こっくりさんは答えたのだ。 天大神の前世が───“便所コオロギ(カマドウマ)”だと。 キッツイなぁ……これ。 空気が物凄く重く苦しいものになったよ……。 レイル「……こりゃあ、流石の俺でもネタに使ってからかえんぞ……」 アル 「カマドウマの息子……カマドウマの……」 遥一郎「天界を治める長がカマドウマ……」 シャレにならん状況がこの場にあった。 これからどうやって、天大神と顔を合わせればいいのか…… サクラ「……与一。お話があるです。いいです?」 遥一郎「え?あ、ああ……いいぞ」 暗い気持ちを払拭するために立ち上がった。 そして先立つように外に出るサクラを追いかけるように───俺は外に出た。 その時にどうして、心に不安がよぎったのか─── 俺にはまだ、そんなことも解らなかった。 Next Menu back