───堕ちた存在、処罰の末路───
───……。 ルヒド「……呆れたものだね、キミも」 彰利 『………』 気づけば俺は、ルヒドの手の上で光となっていた。 どうして……って思ったけど、思い出してみて……ああ、俺は死んだんだって理解した。 ルヒド「レオが怯んでいる内にトドメを刺せば、キミは死なずに済んだのに。     ……まあ、過ぎたことをグチグチ言っても仕方が無いね。     でもね、ぼくは怒ってる。どうしてだか解るかい?」 彰利 『………』 ルヒド「メルティアの魂が無駄になってしまった。     悠介の魂も無駄になってしまった。残されたルナはどうなる?     キミを待っている時代の人たちはどうなる?」 彰利 『………』 ルヒド「……喋りたくないくらい、自分でも呆れているんだろう?     それが後悔ってゆうものだよ。キミは道を誤った。その結果がこの現状さ」 彰利 『………』 ルヒド「……さあ、キミに質問をするよ?キミはどうしたい?     レオが消えた今、キミを縛るものはなにもない。     だから転生することも可能だ。     なんだったら新しい入れ物を用意して、月癒力で蘇らせてあげてもいいよ?     あんな失敗を仕出かして、生きていられる自信があるのならね」 彰利 『………』 ……怒ってるのがよく解る。 無理もない……全てが俺の判断ミスだ。 何を言われても、言い返す言葉が見つからない。 あの戦いは……俺が親友を殺してしまったようなものなのだ。 情けない……本当に情けない。 なんでもなんとかなるだなんて思って、慢心して…… なにをやってるんだよ俺……。 掛け替えの無い親友が、自分を犠牲にしてまで俺に未来をくれたのに…… 俺が……その未来を閉ざしてしまった……。 ルヒド「……選んでもらうよ。転生するか、生き返るか。     知り合いのよしみとしても、キミには軽すぎるくらいの罰だ」 彰利 『………』 情けない。 俺は……自分が本当に情けない。 『自分』なんてものを捨ててしまいたいくらいに。 ───……自分を捨てる? 彰利 『………』 ああ……そうか。 いいかもしれない。 もう……なにも考える必要なんてないんだ。 俺が俺じゃなくなればいい……。 俺……もう疲れたよ。 自分のために精一杯生きてきたつもりだった。 それなのに周りに引っ張りまわされて、自分もその気になって……馬鹿やって。 その挙句が親友の死……? よしてくれ……俺はこんな未来、望んじゃいなかった……。 彰利 『……堕として……くれ……』 ルヒド「……なんだって?」 彰利 『俺を……俺を堕としてくれ……』 ルヒド「………」 彰利 『俺はもう……弦月彰利でなんて居たくない……。     もう解放されたいんだ……。家系だとか罪だとか呪いだとか、     そんなものから懸け離れた……自由な何かになりたい……』 ルヒド「………」 彰利 『姿なんてどうでもいい……。自分のことが他人みたいに思えるなにかに……』 ルヒド「………」 シェイドが冷たい目で俺を見下ろした。 けど、しばらくしてから『それでいいんだね?』と訊いてきた。 俺はそれに……『頼む』と言った。 ───……。 ルヒド「キミが望めばキミは災狩にもなれた。     だっていうのに、どうして堕ちることを望んだんだい?」 目の前にズタズタになった『俺』の身体があった。 こうなると、もうゾンビだ。 面影なんてまるでない。 ルヒド「堕ちるってゆうことは生易しいものじゃない。     『死』が無くなり、さらに深い孤独を味わうことになる。     何故ならキミは、人間ですらなくなるのだから」 その『俺』の身体が、さらにズタズタにされてゆく。 肉を削がれ、血管を焼き尽くし、やがて───露出する骨。 ルヒド「僕はね。キミが背負ってきた苦しみを知っている。     知っているからこそ……キミが望めば何かを叶えてあげたいと思った。     たとえそれが、生であっても死であっても。     でもね……この処罰の末は、キミの孤独を意味する。     二度と親友なんてものは出来ない。故郷も無くなる。     キミはそれで満足なのかい?選ぶことの出来る『生』があるっていうのに───」 彰利 『……ああ。俺への罰だ……このくらいじゃ足りないくらいだよ……』 ルヒド「……そうか。決意は固いんだね?」 彰利 『ああ、やってくれ。戻れなくてもいい……』 ルヒド「……うん、解ったよ」 今では骨もケシズミになり、もう何も残っていない。 これで……俺は二度と、弦月彰利になることはない。 月操力もなにも使えない、ただの光になった。 光  『俺は……何に堕ちるんだ?』 ルヒド「堕ちる───とは少し違うかもしれない。     ただね、キミには死神になってもらう。それだけだよ」 光  『死神……』 ふと、頭の中に浮かぶ映像があった。 そして……ああ、そっか……と笑った。 ルヒド「うん?どうしたんだい?」 光  『いや……そういうことか、ってね……』 つまり俺は、随分と未練たらしい馬鹿野郎なんだなって……。 そう思って笑った。 光  『記憶は消さないのか?』 ルヒド「消さないよ。消してしまったら罰にならない」 光  『……そう、だよな』 やっぱりだ。 俺は多分───あいつになる。 ルヒド「……どうだい?これが新しい身体だけど」 そうして見せられた身体は、やっぱり予想していた通りのものだった。 光  『構わない。死ねない体でいい。それから───     俺をその身体に詰め込んだら……俺を過去へと送ってくれ』 ルヒド「そのつもりだよ。ああそうだ───名前はどうするつもりなんだい?     生まれ変わると言ったら聞こえはいいけど、     もうキミは弦月彰利じゃない。好きな名前を考えるといい」 光  『名前なら決まってる。運命を認めるみたいで癪に障るけど……ああ。     俺はもう弦月彰利じゃないんだからな。     だから、俺は自分の好き勝手にやってゆく自由な死神になるよ』 ルヒド「うん。それで───」 光  『ああ、名前だな?名前はさ───……ボーン=ナム、でどうかな……』 ルヒド「変な名前だね」 光  『ほっとけ!とにかく俺は───うむ!天空×字=南無と名乗る!!     天空×字=南無と書いてボーン=ナムと読め!!』 ルヒド「無茶言うねぇ」 南無 『それでいいのだ、骨だし』 ルヒド「そうかもね。仮にも自由を謳う骨だからね」 南無 『そうだ』 ……さて……と。 訊きづらかったけど、ひとつ……どうしても訊いておきたいことがある。 それを訊かなきゃな。 南無 『なあシェイド……。この時代で死んだのはどのくらいの人数なんだ……?』 ルヒド「……そうだねぇ。悠介に精霊くんにサクラに……結構いるね、なんとも言い難い」 南無 『そか……精霊野郎も死んだのか……。     って、奇跡の魔法ってそいつが死ぬか消えるかすると、     そいつのことを忘れるとかってヤツじゃなかったっけ?     なんで俺、覚えてんの?」 ルヒド「それはキミがもう人じゃなくて光だからだよ。     その状態で身体を手に入れれば、それを忘れることもない」 南無 「そうなんか……あ、先のことは解るか?』 ルヒド「ちょっと先のことならね。     といっても、この先がどういう道を辿るのかは解らないよ?     僕が視た未来は、未来の中の一部にすぎない。     未来の可能性は人の数だけあるのだからね。     でも教えちゃったらつまらないだろう?だから教えない」 南無 『そか……そりゃ残念だな』 …………。 ───……。 南無 『………』 そして───過去に立つ。 風が吹く度に黒マントが揺れて、 その度に……自分の姿が骨であることを再確認させられる。 南無 『でも……これでいい』 俺はもうボーン=ナムであり、弦月彰利じゃないんだ。 そう考え続ければ、やがていつかは自分のことなんて忘れられる。 他人事にしてしまえ───俺はもう弦月彰利じゃない……。 南無 『……うん。まず手始めに口調を変えてみようか。     骨なんだから……語尾に【ほね】をつけるのもオツだよな。     って、確か俺が見たボーン=ナムも語尾に【ほね】だったよな?』 思うところは一緒か。 まあいいさね。 南無 『月空力も無くなって、暦間移動も出来なくなった……。     もうあの時代には帰れないけど……ごめんな、粉雪、悠介……。     俺はもう弦月彰利じゃないから……。弦月彰利は死んだから……。     謝っても足りるものじゃないけど……ごめん、謝ることしかできねぇよ……』 これからゆっくりと生きていこう。 いったいどれくらいの時間がかかるか解らないけど───それでいい。 これは俺の罰だ。 償えるとは思っちゃいない。 だから、俺は好き勝手に生きていこう。 ……いや。 せめて、あの時代で死んじまうやつらの子供を作ってやるってのはどうかな。 シェイドの話じゃあ、骨型死神にはかなり特殊な力があるらしいから───うん。 南無 『じゃあ───精一杯生きてみるか。あの時代まで───』 そして、その先もずっと。 死ぬこともなく、消えることもなく……ずっとずっと、生きてゆこう───。 南無 『まあ、まずは小手調べということで』 試してもいない能力で未来を望むのは馬鹿だ。 南無 『ほねほねほね、そう、【ほね】も忘れちゃいかんほね』 よっし、しっくり来た。 どんなことから試そうか? 子供を作る───ふむ。 まずは子供を作ってみましょう!それがいい! 南無 『どうせ一番に試すなら、変わった交配がいいほね!     ということで───まずは天界と神界の間に子を作ってみましょう!     よって転移!暦間移動は出来ないが、転移は出来る筈!     ほねほねほね!楽しくなってきやがったほね!     俺はもう何も怖くない!だって死なないし!骨だし!』 そう───今まで以上に無茶が出来ると思えばいい! 俺───俺、やるぜ!? キィンッ!! ───どがしゃあああああああん!!!!!! 南無 『ほねぇえええええええっ!!!』 転移した途端、いきなり天界のやつらに見つかった!! それも、突然の光弾贈呈での開幕! こりゃキビシイ!! 南無 『とんずらぁああーーーーっ!!!!』 カッショカッショカッショ……!! 南無 『ギャーーーッ!!走ると衝撃が直接骨に響き渡って痛ぇーーーっ!!』 天界人「逃がすな!邪なる者の進入を許したとあっては、天大神さまに申し訳が立たん!」 南無 『キャーーッ!!』 やがてゾロゾロと増えてくる天界の兵士どもを見て、 この骨様は怪虫に襲われそうになった仲田くんの真似をして叫んだ! 南無 『し、しかし逃げてばかりではどうにもならん!     ここはひとつ───出でよ鎌!このボーン=ナムの名の下に!!』 チュキィンッ! 南無 『おおっ!ほんとに出た!』 冗談で言ってみただけだったのに、まさか出るとは! 南無 『では思いっきりいくほねよ!?奥義!カルボーン衝撃波!!』 ビジュンッ───バッガァアアアアアアアアアアアアンッ!!!!! 天界人×23『ギャーーーーッ!!!』 南無    『ほねぇっ!?』 たった一振り……。 たった一振りで、その場に居た天界の兵士どもが吹っ飛んでいってしまった……。 ……シェイドの野郎、面白半分でボディを強化作成しやがったな……!? これじゃあまるでママっち……いや、フレイアみたいじゃないか……。 普段なら救出に向かいたいと思うところだが───まあいっか、骨だし! そんなわけで人の呼び方も変えよう!弦月彰利はもう死んだのだ! もとよりあんなクソ家族のことを考えれば、 300年も弦月彰利を名乗ってられたのがどうかしてたのだ。 今こそ俺は、あの家族とは無縁の骨となる───!! 南無 『ほねほねほねほねほね!!どなたのアレを頂きますほねかねぇ!!     親が良ければ子も良いというわけじゃないほねが、     出来れば良質な精子と卵子が欲しいほね!!』 子を作るための条件───精子と卵子は自分で確保しなけりゃならんらしい。 不思議なものだが、それは相手の腹をさするだけで手に入るそうな。 でもいきなりおなごの腹を撫でるのは変質者だよね? だがいいのだ……骨だし!! 南無 『骨に法律など関係ない!そして俺は不老不死!     だからこそ無謀なことも可能!ああステキ!なんてステキな骨人生!……人生?     骨生……ってのもなんか違う気がするし───グウム』 いやいやいや!骨こそ最強!骨こそ究極!! 人体とて骨がなければなんにもならんのだ!! 建物も骨組みから始まる!骨最強!骨最高! 南無 『骨さまばんざ〜〜〜い!!ばんざ〜〜〜い!!!』 俺は両手を高く掲げながら、ミニ四駆に命をかけた男のように叫んだ!! ほんとは姫様だが、今この状況で称えたいのは骨だからこれでよいのだ!! 天界人「居たぞ!あそこだーーーっ!!」 南無 『ほねっ!?』 しまった見つかった! こりゃあ一刻も早く誰か素晴らしい素材を探さねば!!骨らしく! 南無 『ほーーねほねロックほ〜〜ねほねロック!!』 自分でも意味不明を自覚できることを叫びつつ、俺は走りだした!骨っぽく!! なんつーかすっげぇ気分いい!! 骨万歳ーーーッ!!! ───……。 カッショカッショカッショ…… 南無 『ほね……』 道に迷った。 まいったなぁ、この骨さまとしたことが……。 南無 『さて───ひとまず城っぽい場所に入ってはみたがなぁ。     なんにせよ、奇跡の魔法の無い遺伝子がよいほねよね?』 大きすぎる力は身を滅ぼすというほね。 まあ今の俺は骨であり、力が強くて身を滅ぼしても消滅しない存在。 どうでもよいことだが。 南無 『まあ今はとにかく人を探すほね。     というか、さっき吹っ飛ばした兵士どもから奪ってもよかったほね……』 この骨としたことが……否!そげなことを気にしていてはどうしようもない! 修羅になれ!骨らしく!───意味解らん!! 南無 『ほねほねほねほねほね!!     ではまず、適当な寝室への侵入を果たすとするほね……!!     ムヒョヒョヒョヒョ……!!』 ズズズ……!! 壁抜けを実行しつつ、まずは頭だけを通して中の様子を伺う。 天界女「キャーーーッ!!?」 南無 『ほねぇっ!?』 なんと!寝室ではおなごが脱衣(クロスアウト)を実行していた! しかも俺を見て絶叫!! ここはひとつ───むむっ!? 天界人「なんの騒ぎだ、まった───く!?」 ベッドからのそりと起き上がったカッチョマンが、おなごと俺を見て驚愕!! ───読めたわ!このおなご、夜這いをかけようとしていたのだ! だってこのおなごさん、心底驚いてるし。 だがだが、ふむふむ……おーおー、なるほど。 このカッチョマン、なかなか綺麗な魂を持っておるわ。 曲がったことが嫌いで紳士。 若いというのに見上げた魂だ。 ───決めた!男の方はこいつに決定ほね!! 南無 『ほねぇ〜〜〜んっ!!』 がばちょっ!! 天界人「ぞわぁっ!?な、ななななな!!?」 熱き抱擁をかます! ……いや、どっちかっつーと冷たい。 かなり冷たい。 だって骨だし。 南無 『お願いがあるほね!この骨に、貴様の精子を寄越すほね!!』 天界人「な、なにぃーーーっ!!!!?」 天界女「えぇーーーっ!!!?」 南無 「……ほね?」 ……あらやだ、なんだか物凄く誤解を招くようなことを言ってしまったような……。 ぐいっ!!ズルズル……! 南無 『ほね?なんで俺、天界男から引き剥がされてんの?』 天界女「アルスさまから離れなさいっ!!───もう!!この変態骨!!     わたしのアルスさまの、そそそそんなものが欲しいなんて!     そんなこと、このわたしが許さないから!!」 南無 『ほね……』 やっぱり思いっきり誤解されてます。 でもいいか、骨だし! 南無 『ほねほねほねほね!!小娘ごときがよくぞ謳ったほね!!さあやれアルスさま!』 アルス「やるものか!!     何故天界に貴様のような邪なるものが───!何の用で来た!!」 南無 『えーと、精子ください』 アルス「やるものかぁっ!!」 南無 『やれやれ、仕方のない……』 ドシュンッ!! アルス「なっ───はやッ……」 南無 『ン〜〜〜♪』 スリスリ…… アルス「ぐわわあぁあああああああああっ!!!!!」 コパキャアアアアアアッ!!! 南無 『ほねぇええええええっ!!!!』 一気に間合いを詰めて、腹に触れて精子を取り出した───途端、 アルスさまに思いっきり殴られた。 おかげで頭が首から外れてエライ目に…… 南無 『あぁあああ待って〜〜っ!!ってなんか違う!     くそ!頭が外れるなんて初体験だぞ!?方向感覚が滅茶苦茶だ!!』 転がった視界で身体を動かして頭を拾おうとするが…… こりゃあ慣れるまで時間かかるぞ……! アルス「おのれ!成敗!!」 ザグシュゥッ!! 南無 『ほねぇええええええええっ!!!!!』 カタカタと動き回っていたボディに激痛が走る!! ひでぇよこれ!首と胴体離れてても痛覚が一緒だ!!繋がってやがるほね! てゆうかどっから剣なんて取り出したんだこいつ!! 南無 『ほ……ほねほねほね!!     だが精子は確かに頂いた!これで貴様の子供を作ってやるほね!!』 アルス「なんだと───!?」 天界女「な、ならわたしの卵子を使ってください!そうすれば玉の輿に!!」 南無 『うわぁ正直なお方!やっぱ人間て───面白(おもしろ)!!』 アルス「なにが面白いものか!!いい迷惑だ!返せ!!」 南無 『俺のものは俺のもの、アルスのものも俺のもの』 アルス「屁理屈をッ!!せいッッ!!」 ヒュオッ!!ブスッ! アルス「っ!?手ごたえが───ない!?」 南無 『残念だったほねね……。このマントの下は骨。     この骨さまは突きでは倒せんよ……』 アルス「ならばこのまま薙ぎ払う!!」 南無 『ほねっ!?ちょ、ちょっと待───』 バギギッ!ボギンボギョン!! 南無 『ほねえぇええええええええええっ!!!!!』 なんて強引な人!! 肋骨の間を通してた剣を無理矢理地面に向けて下ろしやがった! おかげで肋骨がバラバラ……トホホ。 南無 『だが無駄!無駄無駄無駄!!どれだけ痛めつけようが再生など容易いほね!!』 アルス「くっ───……!?そ、そうか!身体はイミテーション!本体は頭なんだな!?」 南無 『ほっ、ほねっ!?』 アルス「はぁああっ!」 ダタタッ!! なんと!アルスさまが骨フェイス目掛けて走ってきた!! 南無 『ま、待つほね!!話し合えば解るほねよ!?     待って!イヤァ待ってぇーーーっ!!』 アルス「せいぃっ!!」 バゴキュッ!! 南無 『ほねぃっ!?』 かしゃっ……バラバラバラ……。 アルス「……!?やはりか。頭を破壊した途端、身体の方が崩れた……」 ……あらら。 どうやら人であるときと同じように、 致命傷と言えるような攻撃をくらうと、身体の方が勝手に崩れちまうらしい。 まあこういうものもありだよね?骨っぽく。 アルス「……で、だ。何故私の寝室に居るのだ?ミリル」 ミリル「あ、えと……その」 アルス「……はぁ。また例の玉の輿というもの狙いか……いい加減にしろ」 ミリル「うう……」 ───さて……人間離れした復活っていったら、どんなものがあるかなぁ。 面白おかしく復活? それとも平然とした顔で復活して、 『なんなんだぁ?今のはぁ……』ってブロリーの真似して言ってみるか? ……いや、どれもダメだな。 だったら───よし!アレだ!! ───ポロロロン♪ポロロン♪ アルス「ン───?」 ミリル「な、なにっ?」 バラバラになったそれぞれのパーツを宙に浮かせ、足の部分から合体して直してゆく!! これぞ───ブルーダイヤ合体!! 南無 『青い〜空に〜♪キミの白い骨〜♪』 がしょんがしょんがしょん! ミリル「ひゃっ……!?ほ、骨が合体してく……!?」 南無 『光に〜輝〜く〜〜♪キミのド〜ク〜ロ〜がぁ〜〜〜〜っ♪』 ガシンッ!ガッシィィイン!! アルス「しかも、とても骨が合体する音とは思えない音が……!!」 南無 『かぁ〜ぜぇ〜にぃ〜消えてゆく〜♪肉も血潮も〜♪』 あとは頭をくっつけるだけ! ───だが待て。 このままくっつけていいものか? 合体の最後ってのはやっぱり、素晴らしい効果があってこそだと……うむ! 南無 『ならば回転しよう!!そりゃあああ〜〜〜〜っ!!!!』 ギャルルルルル!!!キュイィイイイイイイイイイン!!!!!! ミリル「ひゃあああああっ!!!!?頭が信じられない速さで回って───!!」 ズバッ!!ザシュッ!バシュッ! アルス「な、なにっ!?あまりの回転の速さに鎌鼬(かまいたち)現象が───!!」 南無 『白さと〜カルボ〜ンの〜♪ボォ〜〜ン=ナァ〜〜ァム〜〜〜♪』 ガッシィイイイン!!! ドッキング完了!!決まった───美しいくらいに決まっ───ガリガリガリガリ!!! 南無 『ギャーーーーーッ!!!!!首骨がぁああああああああっ!!!!!』 あまりに速く回転しすぎたために、合体した首骨部分がガリガリと削れてギャアア!! 痛い!これは痛い!痛───カラカラ……ごしゃっ。 南無 『ゲーーーッ!!!』 ひでぇ……せっかく繋ぎ合わせたパーツがまたバラバラに……。 この骨ボディ、力は強いけど耐久度が少なすぎ……。 アルス「……ま、まあいい!その小瓶を返してもらうぞ!」 南無 『ほねっ!?』 アルスさまが俺の骨の手にある小瓶を奪おうとする! 確かにこの中にアルスさまの精子が入ってるわけだが───誰がやるものか! 南無 『とぅぁのむらぁっ!』 ドシュウ!ガブッ!! アルス「ぐわぁああああっ!!!?」 俺は頭骨を飛ばし、入れ歯カミカミでアルスさまに噛み付いた!! これぞ妖怪腐れ外道奥義の応用───飛びカミカミ!! ……でもいきなり欠点見つけちまった。 この技、このあと何も出来んわ……。 アルス「くぅっ!!」 ガッシ!! 南無 『ほねっ!?』 アルス「私を───舐めるな!!」 俺の頭を掴み、高く持ち上げるアルスさま───ってまさか! ブン───ガッシャア!! 南無 『ギャーーーッ!!!』 予想通りだ……。 俺の頭骨は床に目掛けて思いっきり投げつけられて、ヒビが割れた……。 アルス「フン!!」 バキャア!! 南無 『ほねぇい!!』 しかも一撃必殺ストンピング付き。 ああ……俺の頭が砕かれてしまった……。 ───……。 南無 『う……むむ……』 む……? 南無 『む、むおお……』 なんてことだ……この骨としたことが、気を失っていたらしい……。 南無 『───ハッ!?小瓶!小瓶は───あるか』 驚いたぜ……。 てっきり奪われてるものかと思ってた。 頭骨を治した際、頭蓋骨の中に収納しといてよかったほね。 南無 『……住人も居ないみたいだし……逃げるか』 もう天界には用が無い。 ならば、あとは神界に……。 南無 『つーか……神界ってどうやって行くんだろ……』 まるっきり謎でした。 まあいいコテ、死神として、神力を感じる場所を目指せばいいだけほね。 さー、いきましょいきましょ〜。 ───……で、地界を放浪し始めて3年後。 南無 『なんだろ……すんげぇラーメン食いてぇ』 不思議だ……骨なのに、なんだってラーメンを……? いやそもそもこの3年間、食に関する欲なんてなかったのに。 ……ま、なんとかなる。 我慢だ我慢。 ───……5年後。 相も変わらず神界への道は見つからない。 ───……10年後。 カラスに突付かれたので殴ってやったら、カラスの軍勢に襲われた。 ───……15年後。 南無 『神力なんぞそうそう見つかるもんじゃねぇよね……』 しかもこの時代、相当に昔ですよ……? ───……20年後。 南無 『───聞こえる!闇の中に蠢く何者かの気配が!!』 そう……神力を探し続けて早や20年……。 とうとう神力を探知することに成功したのだ……!! 今、俺の視線の先にはひとりのおなご───神の子が居る! しかも都合よく飛んできた……これは交渉してみない手はありませんよ!? ……だがしかし……最近の神の子は飛んでくるものなのか? ドガシャーーン!! 馬  「ヒヒィーーン!!」 男1 「あ!武流豚(ぶるとん)さんも轢かれたぞーっ!!」 南無 『……ほね?』 ふと、声のした方向を見ると─── おデブさんが頭を地面に刺した状態で倒れており、 そのおデブさんを轢いた筈の馬が気絶してた。 すげぇ……どういう男なんだ?この武流豚さんって人……。 南無 『───って、ほねっ!?』 気づけば神のおなごの姿は既に無かった。 しまった……武流豚さんに気を取られてホウけてた……!! 探し直しですか……トホホ。 ───…………。 南無 『……道に迷った……』 いかんぞ……骨になってからというもの、方向感覚が悪くなった……。 ふと気づけば時は過ぎ……俺はまた、旅に出ていましたとさ……。 ───…………。 で、とある日。 再び神の子を発見!! しかもおるわおるわ!神の子がふたりもおるでよ!! ほねっほねっほねっ……!!こりゃあ奪い甲斐がありそうだぜ〜〜〜っ!! 南無 『てゆうか───ほねっ!?な、なんか腕が溶けてる!!なにこれ!     こ、これもあの少年の───○インの力なのか!?』 などと天○伝説やってる場合ではなくて。 ヤバイ───もしや骨死神って神力に滅法弱い……!? いやいやいや!!貴重な卵子を手に入れるためにはこれしきの痛み───なにくそ!! 南無 『つーわけで突貫ンンーーーッ!!』 カッショカッショカッショ……!! 南無 『いでででで!!やっぱ飛ぶほね!ダッシュは響くほね!!』 俺は空を浮き、高所の屋根に居る(何故あげな所に居るのかは謎)、 神の子ふたり目掛けて一気に間合いを───ややっ!? 南無 『まあまあなんと!!ひとりの神の子が謎の男にチスなんぞしおったぞ!?』 しかもその直後に神の子がふたりとも消えた! 南無 『そげなぁああーーーっ!!!!』 やっと……やっと見つけたのにそりゃああんまりだよ!! あ、いや!あそこが神界への道を繋げた場所なら、 転移のパターンの波長を合わせれば飛べる筈!! 追うか───!?よし追おう!! 南無 『そりゃあーーー……っと、なにやら下の方が騒がしいですな……』 宙に浮いた状態から下を見下ろしてみると、なにやらゾロゾロと走ってくる人の群れ。 南無 『それはさておき───ほねっ。     ここだ……この小さな転移後の歪みパターンを辿れば……ほねほねほね!!』 もちろん迷わず突貫!! 南無 『そりゃ〜〜〜っ!!』 パキィ───ヒィンッ!! ───……ジュウウウウウウウ!!!!! 南無 『ほねぇええええええええええいいぃぃぃぃぃ!!!!!』 只今の現在地……神界。 そして溶ける骨ボディ。 キツイ!キツすぎ!! こりゃあ3分も経たずに消滅してしまうぜ〜〜〜っ!! 南無 『というわけでとんずらぁーーーーっ!!!』 俺は辿ってきた波長を逆にして、地界へととんずらを決めた。 ───……。 南無 『ほねねねねねね……』 シュウウウウ〜〜〜…… あの……腕から煙が昇ってますが? こんなんで卵子奪えるんかな……。 南無 『人々はなにやら争ってますし……」 かと思いきや───なにを思ったのか、 とんでもなく高い屋根から飛び降りるチスされた男。 もしや自殺志願者?と思ったものの……見事着地してみせた。 ……居るもんだね、世の中には達人ってヤツが……。 おそらくあやつは、受身の達人なんだろう。 南無 『大将っぽいヤツが攻められてあっさりと決着ついとりますな……』 しかし不思議なもんですねぇ、負傷者がまるで居ない。 無傷なままのスベスベお肌だ。 UVケア要らずですな、いいことだ。 …………む?待てよ? 神界ってのは骨死神には地獄……だが、そこにUVケアがあればどうなる……? 南無 『───おお!!』 つまり誰かに憑依して神界に行けば、波動に当てられて溶けることもない!! こりゃあ試すっきゃねぇぜ!? 俺はさっそくそこらの民をピックアップして、憑依することに決めた! 死神なんだからそれくらいは出来るだろう。 南無   『お前がいいほね!その身体───頂く!!』 田吾作どん「な、なにダス!?」 シュゴォオオーーーッ!! 田吾作どん「ウワァーーッ!!」 ズズズ……ズ。 田吾作どん「憑依……完了」 てゆうかさ、顔はいい男なのに……なんだよ田吾作どんって名前……。 ま、いいか。 今から俺は田吾作どんだ! そんでもって───向かう先は神界! やるぜ!?俺!! ───……………………………………。 で、神界。 身体が溶けることもなく、痛むこともない。 死神の力、死法力は極力抑えてるから、 普通に探知しようとしても人間の波動しか探知出来ない筈。 ……そこまではよかったんですけどね? 田吾作どん「あっさり……捕まってしまったがよ……」 神界に侵入した途端、謎のおなごに捕まって牢屋へ。 ……退屈だ。 退屈すぎて……殺してしまいそうじゃわい。 いや、誰を?と訊かれると困ってしまうが。 ───………………それから……50年の月日が流れた。 あの……もしかして俺、忘れられてる? 田吾作どん「あのー?おーい……。       憑依中は腹が減ったり老いたりしないとはいえ、       田吾作どんがかわいそうですよ〜?       お〜〜〜いぃ………………誰も居ねぇ」 退屈だ……退屈すぎる。 ───…………捕まってからどれくらい経ったんでしょうか……もう覚えてません。 ただ解っていることは、神界のみなさんが俺のことを完璧に忘れてるってこと。 しかし今。 ひとりのおなごが俺を見ていた。 おなご「……そんなところで、どうしたの?」 あどけない、まだ子供のおなご。 どっかで見た覚えがあるような気がする……けど、 閉じ込められっぱなしで疲れてた俺に、それを考える余裕などある筈もなく─── 俺はぐったりとした感じでおなごに語りかけた。 田吾作どん「ボク、地界人ノ田吾作イイマス。ココカラ出シテクラサイ」 おなご  「………」 田吾作どん「トユウカ……卵子クラサイ」 おなご  「らんし……?」 田吾作どん「知ラナイデスカ……」 さすが子供。 だが、子供であろうと骨死神にかかれば子供が作れたりするらしい。 だから安心して奪えるのです!! ……その前にまず、この牢獄をなんとかせねば。 特殊な神力で封じられてるのか、ビクともしないんですよ。 しかも人のこと忘れちまうなんて……ヒドすぎるってマジで。 ガシャンッ。 田吾作どん「ウィ?」 おなごが手を翳すと、牢屋はあっさりと封印が解かれた。 ……どなってるんスかね。 おなご  「……たごさくさん?」 田吾作どん「チガウ、田吾作どん、イイマス」 おなご  「たごさくどんさん……?」 田吾作どん「ノゥ、田吾作どん、イイマス」 おなご  「たごさくどん……」 田吾作どん「イエスアイアム!!で、なに?」 おなご  「……わたし、ひじり。ひじり……」 田吾作どん「オー、ヒジリイイマスカ。ボク、田吾作どんイイマス」 ……………………って、聖!?ウソ! そんじゃあ今って……おいおいおいおい!!いったい今何年なんだよ!! 俺、そんなに牢獄に入れられっぱなしだったの!? 田吾作どん「………」 ま、いいや。 一応は神の子に会えたわけだし、聖ならば綺麗な魂を持っている筈。 問題なのは───神界人と天界人の遺伝子の融合で、 突然変異な子供が生まれないかどうかだ。 ……いや、望むところ!! でも助けてくれた子の腹をいきなり擦るのはヒドイよね。 ゆっくりと慣れていきましょう。 ひじり  「……ね、田吾作どん。遊ぼう?」 田吾作どん「よいでしょう。僕は遊びのプロヘッソナルですから。       存分に楽しませてあげますよ」 ひじり  「……♪わぁいっ!」 きゅむっと腕に抱きついてくる聖。 その感触が懐かしいと考えながらも───俺はそんなことさえも忘れようとしていた。 ───…………。 聖と出会って一ヶ月が過ぎようとしていた。 聖は信じられないくらいに人懐っこく、 人の話をなんでも真に受けてしまう代わり者だった。 『静沈の神』としての称号を持つ聖は、『静沈の神』のくせに賑やかなのが好きで、 なにかというと俺にちょっかいをかけてきた。 もちろん俺もそれに付き合ってやり─── いつの間にかその場に馴染んでいる自分が居た。 それに気づくと……この場所を離れよう、という思考が溢れてきた。 ───俺に安住の地なんて、あっちゃならないから。 幸せなんてものは無縁。 それでいい……それがいいんだ。 だから───すっかり懐いた聖が俺の膝で眠る中、 俺は聖の腹をさすり───卵子を摘出した。 田吾作どん「最低だな、俺……」 田吾作どんの身体で懺悔しても、情けなさが倍増するだけだったが……俺は自分を恥じた。 けれど、それもちょっとした時間の中で消える。 こんなことを気にしていたら、また何処かで無理が出る。 骨になれ。 ハートも、人としての皮もない、ただの骨に。 田吾作どん「───……」 精子と卵子を融合させ、その場に卵を作る。 これが骨死神の能力のひとつ───強引交配だ。 未熟といえど、精子と卵子があれば卵を作成して子供を作れる。 しかも未熟児は産まれてこないってゆう優れもの。 ……だが、絶対条件として『神系の波動』が必要となる。 それはつまり、神か死神の波動が必要、というわけだ。 そしてその波動を吸収された者は、その吸収された分だけ『成長』を奪われる。 つまり人で言えば二歳分の波動を奪われたとしたら、 奪われた者は二歳若返る……ということ。 もちろん俺は─── 田吾作どん「……つくづく、最低だ」 ……眠っている聖の傍に卵を置く。 すると卵が淡く光り……聖から何かを吸収してゆく。 それとともに身体が縮んでゆく聖に申し訳なさと、自分へ情けなさを覚えた。 でも……なんとなく解った。 産まれてくる子はきっと─── 田吾作どん「……解らないことだらけだったのにな。       骨になってみてから、ある意味で自分が親だって気づかされるなんてな……」 そして俺はきっと、聖を泣かせてしまうのだろう。 『地界に戻りたい』と言って、神界のゲートを禁忌を破ってまで開けてもらって。 つまり……聖の言っていたやさしい地界人ってのは、田吾作どんに憑依した俺だったんだ。 俺が……聖を騙して、堕とした張本人だったんだ……。 田吾作どん「………」 神界に来た時は、 まだゲートにシールドが張られていなかったから行き来が出来たに過ぎないだろう。 けれど、あれからもう100年以上は経っただろう。 それを考えれば───シールドなんてものは張られてしまったに違いない。 田吾作どん「……ごめんな、聖……。ごめんな……」 心底安心した寝顔で眠る聖の頬に、涙が落ちた。 俺はこの安心した寝顔を裏切りに染めることになる。 それがただ……辛かった。 ───……。 そして俺は─── ひじり「え……?どうして……?田吾作さんっ!?     そんな───わたしも!わたしも連れてってくれるって───」 ただ駆けた。 地界への道を、振り向くことなく。 耳に聞こえるのは聖の泣き声。 そして───その場へと駆ける、大勢の神界の関係者の足音。 ひじり「待って!待ってよ!!     やだよこんなの───!!待って───待ってぇーーっ!!」 ……食い縛った歯が欠けた。 涙が止まらない。 自分が情けなくて、恥ずかしくて。 でも───立ち止まるわけにはいかなかった。 だって俺は……聖にウソをつき続けていたんだから。 俺は地界人なんかじゃなくて、神と対極に位置する死神で─── 聖がどんなに気を許していようと、神界側がそれを許す筈もない。 だから走った。 ───禁忌を犯した罪が消えるわけじゃない。 俺と一緒に居たってどの道捕まる。 だったら───せめて災狩となったその先で、 弦月彰利とささやかなる日常を送ってほしい。 風間の家に拾われるのもいい。 俺なんかと一緒に居るよりは……よっぽどいいに決まっているんだから─── ひじり「うそつき───!!うそつきぃいーーーっ!!!」 やがて俺は……自然と耳を塞いで走っていた。 脇目も振らず、ただ……走っていた。 ───…………。 南無 『………』 ───戻ってきてみれば、そこは見た覚えのある場所だった。 いつの間にか体は骨に戻っていて、田吾作どんボディがどうなったか心配ではあった。 南無 『……ここって……楓巫女が降りた場所……?』 そう、神降ろしの儀式を行った場所だ。 まだ誰も来てないけど……間違いない。 聖が居た歴史から遡っちまったらしい。 未熟な力でゲートをこじ開けた結果、かな。 そして俺は、この場所で自分がなにをするべきなのかを確信していた。 南無 『……卵がもうすぐ(かえ)る……。     産まれてくる子は……きっと───』 そう呟いて笑った。 運命を嫌っていた自分が、運命を司るような行動をしていることが滑稽だった。 それと同時に……ひどく物悲しかった。 ───……。 儀式が始まっていた。 宙に浮いた視界の下では、弦月彰利が舞い子に月影力を通して月生力を流している。 俺はというと、なるべく神っぽくて違和感がないように演出するよう準備していた。 子供 「……おと……う、さん……?」 南無 『違いますよ失礼な!』 儀式が始まる前に孵ってしまった子供は、俺を見ておとうさんと言った。 いわゆるすり込みってやつだろう。 南無 『よく見んさい!骨が親なわけがないでしょ!?』 子供 「……あ、う、うー……きゃふふっ♪」 南無 『……真面目に聞いてます?』 まあいい。 そろそろ舞いも終わる頃だし、演出を始めるとしよう!! まずは舞い子さんの腹に空気を転移させて膨らませ、 次の瞬間にはその場に子供を転移!! ───ちなみに。 産まれたばかりの子は病気とかに弱いだろうからと、 弦月彰利が流している月生力の波動を引っ掴んで、強引に流させた。 彰利 「やぁあああああめてぇえええええええええええっ!!!!!!」 なにか叫んでいるが気にしない。 そんでもって……これで、俺の仕事もひと段落だ。 実験……なんて、いまさら言えない。 俺は楓巫女を『作った』んじゃない。 産ませたんだ、と言い聞かせて。 南無 『しかし……』 考えていたことは案外その通りになっていた。 神界にしばらく居たおかげで解ったが、 楓巫女のように様々な能力を持っている神はそうそう居なかった。 つまり───突然変異。 異なる世界の遺伝子同士がなんらかの作用を発生させ、 その結果……楓巫女は様々な能力を持って産まれた。 そう考えると───楓巫女が攫われたのも、 隆正が死んだのも、全てが自分の所為のような気分になってきた。 南無 『……でも……俺は挫けないぜ?』 罪だってなんだって背負ってやる。 これは罰なんだから。 しかし、いつになっても孤独ってのは寒いもんだな。 南無 『ある意味……こっちの方が無限地獄って気分だな……』 ゼノとの戦いで死に続けた自分にとって、無限地獄は忘れたい過去。 だけど……もう気にすることもない。 俺は南無だ。 弦月とはもう関係無い───…… ───……。 時が経つにつれ、骨である自分の孤独が理解出来てきた。 帰る場所もなく、話し掛けられる拠り所も無く……なるほど。 ルナっち……いや、ルナが拠り所を探していた気持ちも解ってきた。 長い長い歴史の中で、そうして話してくれる人がどれだけ暖かく感じられるか。 ルナが小さな悠介に心を許せたのも───そういうところから来ているんだろうな。 ───だが俺は違う。 人型であるルナと違って、俺は骨型。 誰に心を許してもらえるという? シェイドが言っていた孤独ってゆうのはつまり、こういうことなのだ。 南無 『……ほねほねほね。しかしこれは俺が望んだことほね。     迎えてもらおうなんて思わねぇ。暖かく感じようとも思わねぇ。     拠り所など───この骨には要らぬのだ……』 覚悟なんて、この骨に入った時点で決めていたんだ……とっくに。 人じゃなく、バケモノと呼ばれることでさえ覚悟済みだ。 つまり─── 南無 『公に骨として出現するのも……俺の勝手!!』 そうすりゃ皆さん大騒ぎ! 人間って───面白!! 南無 『吹っ切れ……さらに吹っ切れ。弦月は死んだ……俺は骨……!!     忘れろ……さらに忘れろ。俺は弦月なんかじゃない……!!』 誰になんと思われようと構わない。 逃げていると言われようと構わない。 償う方法などないのだからこうするのだ。 南無 『……人の暖かみなど。もう感じられないんだよ、俺は……』 もう戻れない。 孤独の中にも親友の暖かみがあったあの頃には、もう帰れない。 だがそれがどうした。 闇になれ。 記憶を封印されないのなら、俺自身が封印してしまえばいい。 南無 『ははははは───あはははははは!!楽しみだよシェイド!!     かつての知り合いは俺を見てどんなことを言うかな!?     恐れるか!?バケモノと呼ぶか!?ああそれでいい!!     堕ちてしまえ!!罪とは!罰とはそういうものだ!!     暖かみなんて要らねぇ!!元より感じることすら出来ねぇ!!     その瞬間を楽しめれば───俺は満足だ!!!』 相手のことなど考えない。 自分が楽しめばれいい……それが死神だ。 南無 『……ゆっくりと楽しめばいいさ。     というわけで、まずはノートでも手に入れますか』 適当な骨死神を巻き込んでデスノートの真似をするのもいいかもしれない。 南無 『楽しみだなぁ……どんな歴史になっていくのかなぁ……』 楽しめればいい。 こうなってしまった自分には、もうこういう娯楽しか残されていないのだから。 時は長い……自分の天敵は、ただ退屈のみとなるだろう。 人をからかう骨となるか。 そうすればいつまでも退屈せずに済みそうだ───……。 やがて俺は─── クスクスと笑いながら、深遠の闇へと消えた。 Next Menu back