───日常。 その空に、風に、桜に、さまざまな思いが募って。 その上で───その先に望める未来を感じて。 けど……そんな思いも消えてしまった世界の中を、俺は歩き始める。 その道を、街を、空の下を、時節の流れの中を。 誰にも見守られず、約束もされてない未来を目指して。 ───春。消えることを知りながらも、その日常を望んだ少年が居た。 ───冬。雪が降る度に笑っていた少年が居た。 ───秋。長い長い夢を望みながら、親友との日常を望んだ少年が居た。 ───夏。風の吹く丘で、その奇跡を願った少年が居た。 ───……そして───蒼い季節。 奇跡の中で産まれて、自分を削りながら生きてきた馬鹿野郎が居た。 そんな人たちが居た世界の中で、俺達は精一杯に生きて───やがて死にゆく。 そんなことを思うと、ふと感じることがあった。 『死ねる』ってゆうのはまだ幸せなんじゃないかって。 『消滅』に比べたら、全然幸せなんじゃないかって。 誰からも忘れられて……自分が歩んできた全ての歴史が消えるよりは─── ───そして訪れた小さな未来───
───……日々の流れはあまりにも普通。 訪れて、流れて、過ぎて、また訪れて……昨日になる。 ───風の無い日常……春の初頭。 暖かさを忘れたその世界で、俺は普通の日常を送っていた。 変わり映えのしない季節の中で、変わり映えのしない喧騒に囲まれながら。 ただ───足りないものがあって、それを思うといつでも苦しくて仕方が無かった。 足りないものには心当たりがないものとあるものがあって─── 心当たりのないものは消えてしまったなにか。 心当たりのあるものは───彰衛門と悠介さん。 彰衛門を追ってリヴァイアの工房を出た悠介さんは───その日以来、消えてしまった。 どこを探しても見つからず、彰衛門までもが消えてしまった。 ───怖かったのは確かだ。 けど、それがリヴァイアの言う通りにレオとの戦いで散った命としたなら……? そう思った俺はシェイドに問い詰めた。 ……そして。 そして……俺は……彰衛門と悠介さんの死を知った。 そんな事実を知っても、その世界で悠介さんを待ち続ける姿があった。 ……ルナさんだ。 どんなことを言っても神社の石段から動こうとせず、 雨にうたれても、風に吹かれても……きっと帰ってくると信じて、悠介さんを待ち続けた。 ……でも。 いつしか時が流れ、ふと気づいた時。 神社の何処にも……彼女の姿は無かった。 ───……。 そう、日常は普通に動いていた。 凍弥 「浩介ぇっ!この書類、あとどのくらいあるんだよ!!」 浩介 「そんなこと我こそが知りたいわ!!」 浩之 「ユンケルだ!ダースでユンケルを所望する!!」 菜苗 「それはやめておいたほうがいいと思いますよ〜……?」 志摩兄弟は俺が消滅せずに済んだことを素直に喜んでくれたし、 喜兵衛に操られていた佐古田はあの時のことを覚えておらず、 普通の日常へと戻っていった。 牙王のみんなも命に別状はないらしく、今では元気にやっているそうだ。 ───俺と志摩兄弟も相変わらず。 カンパニーの仕事に追われながら、それでも……日々をそれなりに楽しく送っていた。 彰衛門と悠介さんの死によって一時は塞ぎこんでいた椛も、 成長してほしいという彰衛門の言葉を思い出したとかで、すっかり元気になっている。 ……ただ、時折見せる悲しげな表情は……どうしても消えることはなかった。 凍弥 「終わった!次は!?」 シルフ「フェザードカンパニーの若社長との謁見です」 浩介 「そんなもの親父にやらせろ!!」 凍弥 「同意見!!」 浩之 「さらに賛同!!」 チット「旦那さまは国外で同じようなことをなさっていますが……まさか。     若い衆三人がかりでも、それが出来ない、とでも……仰るおつもりですか?」 志摩 『うぬっ……!』 凍弥 「くあああ……!!あぁもう解ったよ解りましたよ!!」 志摩 『よし頼む同志!!』 凍弥 「お前らも行くんだよ!!」 志摩 『なんですと!?』 仕事に追われる日々を逃げだとか思ったことは何度かあった。 仕事している最中は、無くしてしまったもののことを考えずに済むからだ。 今なら……昔、父さんが話してくれた自分の昔話が納得出来る気がする。 閏璃凍弥の死や、好きだった人の記憶の消去。 それらを仕事で誤魔化していたという父さん。 ……結局俺は、そんな父さんの息子で─── でももう、それをイヤだと思うこともない。 ───弱さを知らないヤツは強くなんかなれない。 喧嘩してた頃、唯一父さんの言葉の中で好きだった言葉。 それを忘れるわけにはいかないから。 ……だけど。 そんなことを心の中で思ってみても…… 気持ちを切り替えることが出来ていないのは、きっと俺だけなんだ……。 ───……。 椛  「お疲れさまでした」 凍弥 「あぁ、ありがと、椛……」 自分の部屋───和室へと戻ると、その場に椛が居る。 そこに来てようやく、自分が仕事から解放されたのだという実感が沸くのだ。 ……ただ─── 凍弥 「……大丈夫か?」 椛  「……はい。平気ですよ、わたしは」 椛は時が経つにつれ、どんどんと弱っていった。 外見におかしなところなんてないのに、だけど内側からどんどんと弱っていっていた。 それが喜兵衛の残した爪跡だということは、きっと俺も椛も知っていた。 凍弥 「病院、行くか?」 椛  「ダメです。そんなことをしたら、     凍弥先輩……じゃなくて、凍弥さんと一緒に居る時間が無くなっちゃいます。     それに医者なんかよりわたしの方が治療術に長けてますから」 凍弥 「……そっか。そうだよな」 ……開けた未来。 それは……本当にその先に『幸せ』のある未来なんだろうか。 俺にはそれが解らなくて……いつだって不安だった。 ───……。 凍弥 「はぁ〜あ……ガッコ行くの、どれくらいぶりだ?」 志摩 『忘れたわ……』 卒業式を終え、その先の入学式を過ぎ─── クラス発表を見に学校に逃れてきた俺達。 3年として人垣に揺らされながら、久しぶりに腕を通した制服に顔も綻ぶ。 あまりの忙しさに忘れてたけど、俺って学生なんだよな、うん。 実感沸いてきたっ! センセ「お、志摩に霧波川か。丁度いいところに来た、ちょっと話があるんだが」 凍弥 「へ?」 志摩 『このパターン……オチットさんなら山積みになった書類を見せる状況だな』 ……とまあ、そんなことがあった所為で、 『話がある』という言葉は嫌いになっていました。 けどまあ、ガッコの雑用なんてカンパニーの書類整理に比べたら……なぁ? 凍弥 「なんですか?」 志摩 『用件を言うがいい……どこからでもかかってこい!!』 凍弥 「喧嘩売ってどうするんだよ……それで、なんの用で?」 センセ「ああ……オホンッ」 わざとらしく咳払いをするセンセを前に、俺と志摩兄弟は普通に構えた。 沈黙は好きじゃない。 だからさっさと教室に行きたかった。 浩介 (クラス連中は変わってるだろうか?) 凍弥 (さぁなぁ。楽しみではあるかも) 浩之 (ここ数ヶ月、仕事に追われて登校出来なかったからな……) ───なぁ〜んてことを言い合っていた時でした。 センセ  「お前ら三人、留年な?」 凍弥&志摩『ゲェェーーーーーーーーッ!!!!!!!』 いきなり舞い降りた留年決定のお言葉。 そりゃもう、俺と志摩兄弟は迷うことなく叫んだ。 浩介 「な、何故だ貴様ァーーッ!我らを陥れようとしているのではあるまいな!?」 センセ「あ、あのなぁ、無断欠席をあれだけ積まされれば、     やり直しを要求するのは当然だろうが……」 浩之 「ば、馬鹿な……!」 センセ「元よりお前らはサボリも多かったし、そこに来てここ数ヶ月の無断欠席。     いいな?とにかく二年をもう一度やり直せ」 凍弥 「なんとまあ……マジすか」 センセ「マジだ」 なんというか……あまりにも無慈悲な現実がここに。 てゆうかこの調子で仕事に追われてて、卒業出来るんかな、俺達……。 ───……三年教室前。 浩介 「村田センパ〜イ♪」 村田 「あれ?志摩じゃん。って、なんだよそのセンパイっての」 浩介 「死ねぇええええええええええええええっ!!!!!!!」 村田 「へ?おわっ───おわぁああああああっ!!!!!!」 ぱぐしゃあっ!! 村田 「ギャッ!!」 ……どさっ。 浩介 「成敗!!」 ……留年した腹いせか、浩介が元同じクラスの村田の顔面にヤクザキックをブチかました。 浩之 「我も誰かに八つ当たりせねば治まらんぞ……」 凍弥 「同感……」 悪いのは俺達じゃない! 俺達を置いて、大人の階段を一歩先んじた元同級生が悪いのさ! 佐古田「なにッスかまったく騒がしい……あ」 凍弥 「ぬ!佐古田キサマ!」 佐古田「フッ……聞いたッスよぉ?三人揃って留年したって」 凍弥 「死ねぇえええええええええっ!!!!!」 佐古田「え───!?まだ喋り途中───」 メゴッシャァアアアアン!!!! 佐古田「ふぎぃっ!!」 バキベキゴロゴロズシャアアーーーアーーーッ!!! 渾身のポセイドンウェーブをくらった佐古田が、廊下を転がり滑ってゆく。 ……これでチャラだ。 椛を斬ったことも、俺を斬ったことも、これで全て忘れよう。 佐古田自身には罪が無かったとしても、 意識を奪われるような軟弱な精神には喝を入れたかった。 センセ「あっ───こら貴様!女子になんてことをしとるかぁーーーっ!!!」 三人 『とんずらぁーーーっ!!!』 センセ「なっ、こ、こら待て!!待たんかぁーーーっ!!」 脇目も振らずに大・激・走!! 捕まって目をつけられるのは勘弁だし! センセ「こりゃああーーーっ!!待たんかぁーーーっ!!」 浩介 「なにぃ!?追ってくるぞブラザー!」 浩之 「安心しろブラザー!こんなこともあろうかと───まきびしっ!!」 ジャララッ───ザクッ!! センセ「ギャオォーーーーッ!!!!!」 浩之の撒いたまきびしがセンセの足に炸裂! 凍弥   「てゆうかどっから持ってきたそんなもん!!」 浩之   「カンパニーで発注させた」 凍弥&浩介『無駄な書類を増やすな馬鹿!!』 浩之   「な、なにぃ!?何故だ!現に今、まきびしのお陰で助かったではないか!」 浩介   「同志よ。貴様が教師に捕まった時は、迷わずブラザーの所為にしてくれ」 凍弥   「そのつもりだ……。お前も遠慮することないと思うぞ」 浩介   「無論だ」 浩之   「なんだと貴様ら!我を!我を売るというのか!?」 凍弥&浩介『売らん。生贄に捧げるだけだ』 浩之   「同じようなものではないか!!」 ───……なんだかんだで、俺達は騒いだり仕事したり─── それなりに楽しくやっているつもりだ。 でも……ふと立ち止まってみるとどうしようもなく悲しいのは何故だろう。 鈴訊庵に戻ってみると、とても悲しいのは何故だろう……。 そんな理由さえ無くしてしまった自分が悲しかった。 ───そして……もうひとつ。 自分が嫌な気分を抑えられない理由があった。 それは…… 生徒1「そういや聞いたか?風間のこと」 生徒2「え?あ〜あ、女を妊娠させて退学くらったってアレか?」 生徒1「学校側も厳しいよな〜。風間と皆槻って真剣に付き合ってただけなのに」 生徒2「ば〜か、学校側にとっちゃ、     高校一年で女を妊娠させたってだけで風紀問題なんだよ。     そんなもんだろ?ガッコって」 生徒1「嫌ンなるな、ったくよ」 ───……噂話に耳を傾けた途端、嫌な気分になった。 つまり……そういうこと。 風間と皆槻は退学扱いにされ、既に学校には通っていない。 風間は皆槻の父親や自分の両親に散々なことを言われながらも、 皆槻を幸せにしてみせると言い張って、決して諦めようとしなかった。 多分……いや、絶対。 今も何処かで仕事をしているんだろう。 ……だけど。 この間、久しぶりに会った風間は…… とても風間雄輝には見えないほど、やつれていた。 現実は甘くない。 そんな言葉が理解できてしまうほど、あいつは頑張っていた。 学校を退学させられた途端、クビにされたバイトもあったらしい。 だけど、顔はやつれてるのに……不思議なくらいに生き生きとしていた。 子供が産まれるから。 産まれたら抱いてみてやってくださいって、 やつれた顔を緩ませ……笑いながら言っていた。 今の風間は───俺なんかよりよっぽど強かった。 ───………………。 とある休日。 鈴訊庵に戻ってみると、その場でリヴァイアが自分の部屋の前でドアを閉めていた。 凍弥 「リヴァイア?どこかに出掛けるのか?」 リヴァ「───……いや。空界に帰ろうと思ってな」 凍弥 「………」 なんだか……ひとつのピースが無くなってしまっただけで、 バランスを保っていたパズルが崩壊していってしまうような感覚に襲われた。 リヴァ「不思議なんだ。検察官が死んでしまってからそれ以来……     何度研究に没頭しようとしても進みやしない。     イライラして、集中もままならず……ふと気づけば何かに八つ当たりしている。     このままじゃあ……わたしはダメになってしまう。だから帰るんだ、空界に」 凍弥 「……そっか……」 止めようって思ったけど───リヴァイアの顔を見たら、それが出来なかった。 リヴァ「だけどな、凍弥。わたしはこの地界で経験したことを忘れようとは思わないぞ。     この部屋を出るのも……正直名残惜しいんだ。     ───ああ、せっかくだから最後に訊かせてくれ、凍弥」 凍弥 「うん?」 リヴァ「───空界の魔術師になる気はないか?」 凍弥 「───……」 いつかの質問。 それを今、リヴァイアは俺に向けて放った。 それはつまり───この世界を捨てて、空界に来ないか、という誘いの意味。 凍弥 「……ごめん、リヴァイア。俺にはこの世界でやらなきゃいけないことがあるから。     その誘いを受け入れることは出来ないよ」 リヴァ「……ああ、解っている。未練だな、まったく。     返ってくる答えなんて解りきっていた筈なのに……」 自分の髪をくしゃっと握るようにして、リヴァイアは顔を俯かせた。 けれどもすぐに顔を上げると、俺に向かって言葉を放った。 リヴァ「数宿数飯の恩、知り合いのよしみ───なにか礼をさせてくれないか。     ……なんだっていい。最後に、この世界で何かを残してやりたい。     死んでいった検察官が守ろうとした、この世界の未来のために」 凍弥 「リヴァイア……」 ふと思った。 リヴァイアはさっきから検察官───つまり彰衛門の名前ばかりを口にしている。 もしかしてリヴァイアは─── 凍弥 「…………いや。言ったところでどうにもならないんだよな……」 既に日常は動いている。 彰衛門は死んでしまって、もうこの世界には居ない。 生きることを放棄して死神になったんだとシェイドは言った。 今の彰衛門がどんな姿をしているかなんて知らないけど─── 俺はきっと、どんな姿の彰衛門でも応援したいと思ってる。 凍弥 「───けど、礼って言ってもな───あ……あ、ああ!!そっか!」 リヴァ「凍弥?」 ひとつだけピンと来るものがあった。 そうだ……リヴァイアなら解るかもしれない。 彰衛門もきっと喜んでくれるそれを───! ───………………。 リヴァ「……へぇ、機械か」 レイヴナスカンパニー地下室。 その中で、メイさんを見ながらリヴァイアが笑った。 リヴァ「地界人も案外やるな。ここまで精密に人を象るなんて」 凍弥 「出来そうか?」 リヴァ「ばか、わたしを誰だと思っている。     地界人に出来ることがわたしに出来ない筈がない」 どこか小馬鹿にされた子供のような顔で、リヴァイアがざっと機械一式を眺めた。 リヴァ「ああ、これくらいなら10分以内にどうとでもなる」 凍弥 「早ァッ!?」 リヴァ「なにを素っ頓狂な声を出してるんだ、お前も手伝うんだ」 凍弥 「へ!?お、俺もか!?」 リヴァ「次にこの機械───いや。     この女が眠りについた時、誰がメンテをすると思ってるんだ。     言っただろう、『最後に礼をしたい』と。     わたしは時間が経てば終わってしまうような礼なんてしたくないぞ」 凍弥 「……でもさ、それって結局……     リヴァイアの礼を俺が引き受けるってことになるんじゃ……」 リヴァ「ご、ごちゃごちゃ言うなっ!!いいから手伝えっ!!」 凍弥 「わ、わーった!わーったよ!!」 まったく……どうしてこう、知り合う人それぞれが気の強いヤツばっかなのか……。 だけど───なんかいいよな、こういう時間って。 凍弥 「よかったよ、これで死んだ彰衛門も喜んでくれる。     なんだかんだで仲良かったみたいだからさ、メイさんと」 リヴァ「───なに?」 凍弥 「あ、けどさ……俺、こういう機械系のことってやったことないぞ?」 リヴァ「───…………前に言っただろう、お前には素質がある。     わたしが魔導錬金術の基礎を教えてやるから、それを頭に叩き込め。     こんなメンテ……空界の魔導技術にしてみれば下の下だ」 凍弥 「は、はぁ……」 ……なんかヤバイ。 リヴァイアの目が危険な方向に……。 なんで? リヴァ「……ククク……!そうかぁ……検察官はこういう女が好みだったのかぁ……!」 凍弥 「お、おーい……リヴァイア〜?」 リヴァ「なんだ!!無駄口は叩くな!!」 凍弥 「うおっ!?いやちょっと落ち着いた方が……な?冷静に、冷静に……」 リヴァ「ククク……なんだ?わたしが冷静さを欠いてるとでも言うのか……?     冷静……至って冷静だよ凍弥……!わたしは冷静だぁ……!!」 凍弥 「………」 なんてゆうか……俺とは関係ないところの地雷を俺が起爆させてしまったような気が……。 いや、大丈夫……だよな? リヴァ「凍弥……お前に魔導錬金を叩き込んでやるぞ……!     拒否は許さん……お前が望んだことなんだからな……!     なぁに、お前なら今日一日もあれば覚えられるさ……!」 凍弥 「へ……へぇ!?今日一日って───10分で終わるんじゃなかったのか!?」 リヴァ「うるさい黙れ!!」 凍弥 「ひぃっ!?」 おおお……!!なんという恐ろしい殺気……!! 立っているだけでも威圧感がビリビリと……!! リヴァ「ぼ〜っとするな!!さっさとこっちに来い!!」 凍弥 「そ、そんな怒るなよ……なんだってのさ……」 リヴァ「うるさい!わたしは怒ってなんかない!」 凍弥 「怒ってるじゃないか……」 リヴァ「うるさいうるさい!!」 なんかもう……滅茶苦茶だった。 この後俺は……予想を遥かに超越して二日間みっちり絞られ…… 魔導錬金術のなんたるかを叩き込まれた上に、 数々の理不尽な愚痴を聞かされるハメになったのだった……。 ───…………。 それから数日後───篠瀬が行き場を奪われた。 晦神社が重要文化財として認定されてしまったのだ。 住む人もおらず、持ち主であった悠介さんもルナさんも居ない今…… その場を篠瀬の説得だけで維持するのには無理があった。 凍弥 「篠瀬……」 夜華 「……わたしは……どうしたらいい……?     悠介殿も彰衛門も居なくなって……     楓さまも今では貴様に嫁ぎ、この神社には居ない……。     わたしは……いったい何を糧に生きていけば……」 凍弥 「………」 かけてやれる言葉がなかった。 目的の全てを失ってしまった篠瀬からは、もう以前までの覇気がまるで感じられない。 夜華 「初めはこの場に……楓さまと同じ時代に居られるだけでよかった……。     楓さまを守ることがわたしの勤めだったからだ……。     しかし楓さまにはもう、わたしの力など必要なかった……。     ならば、せめてこの神社を守ろうと……それを糧に生きようと思った……。     時に彰衛門とふざけあうのもいい……。     楓さまが訪ねてきてくださるだけでもいい……。     ただそれだけを糧に生きようと……思っていたというのに……」 ……全てが少しずつズレてゆく。 守りたかったものも、自分の手から奪われて……そんな状態でなにを願えばいいのか。 ……なにを求めればいいのか。 元々この時代の人間じゃない篠瀬には、この時代は辛すぎた。 声  『ほねっほねっほねっ……そんな貴様にいい提案がある……!』 夜華 「───!この声は───」 ズズズ……!! 宙に現れた黒い渦から、ゆっくりと───白骨が現れた!! 夜華 「また現れたか貴様!なんだ……!?今度はわたしを嘲笑いに来たのか!」 南無 『お望みとあらば笑ってやろう!ほ〜ねほねほねほねほねほね!!』 夜華 「くっ───貴様ぁあっ!!」 シュフィンッ!! 南無 『ほねっ』 夜華 「あっ───」 かしゃっ、かしゃん……。 勢いよく抜刀された刀はあっさり避けられ─── その勢いが強すぎたため、篠瀬は刀を滑らせてしまった。 夜華 「あ……くっ……!くそっ……!くそっ!!くそぉっ!!     わたしは……!わたしはなんのために刀を取ったんだ……!!     守るべきものも無くし、生き甲斐も奪われ……     そのうえ、バケモノすら斬れぬ刀になんの意味がある……!!」 凍弥 「篠瀬、それは───」 南無 『なにも言うな、小僧』 凍弥 「え───?」 ……不思議だった。 この骨に『小僧』って言われた瞬間、懐かしい思いが自分の中に走った。 南無 『……さあ夜華、デスノートを手に取れ。     貴様にはもう残された道は残ってない。このノートで世界を変えてやるんだ』 夜華 「黙れ!わたしはバケモノなどの言うことなど信用───……」 叫んだ篠瀬だったが……骨の顔をじっと見て、言葉を無くした。 南無 『……俺とともに来い。世界を変えるのが嫌だというのなら、     貴様と弦月彰利の精子と卵子を使って生まれた子供の育成を頼みたい。     名前は【聖】と決まってしまってはいるが……貴様にこそ頼みたい』 夜華 「……貴様は……そんな!……だが……」 凍弥 「篠瀬……?」 ガッ!! 湧き上がる何かを抑えきれないといった様子の篠瀬が、 骨のマントの胸倉を掴んで引き寄せた。 南無 『ほねっ!?な、なにをするほね!失礼ではないのかねほね!?』 夜華 「貴様か───!?貴様なのか!?いや───わたしには解るぞ!!     苦しんでいたんだ!思い苦しんでいた!!ああ解るさ!貴様は」 ゴキュリッ!! 夜華 「うきゅっ!?」 南無 『狼髏館回頭閃骨殺(ろうろうかんかいとうせんこつさつ)!!』 凍弥 「な、ななななぁあああ……!!!」 いきなりだった。 なにかを叫ぼうとした篠瀬の首を、骨が折った。 男塾に出ていた狼髏館の首天童子(しゅてんどうじ)の如く。 当然篠瀬の身体は倒れ、ピクリとも動かなくなった。   ◆狼髏館 回頭閃骨殺   狼髏館に伝わる技。奥義には至らないものだが、その殺傷能力は本物。   素早く跳躍し、相手の頭上へと飛び、頭を掴んで回すことで首の骨を捻り折る技。   *神冥書房刊『狼髏館伝承・狼の巻』 南無 『……ややっ!?ゲーーーッ!!しまったつい……!!     聖!?聖ーーーッ!!今すぐ癒してあげなさい!あなたのママですよーっ!?』 骨がそう叫ぶと、空間からひとりの少女が現れた。 あれは───月空力?どうして…… 聖  「言われなくてもやるよぅ!───もう!     相変わらず勝手で約束を守らないんだから!」 南無 『ままま、神界のアレは悪かったって言ってるだろう。     あれも聖の先のことを考えてだな……』 聖  「ふ〜んだ、知らないもん」 南無 『あらひどい……』 聖  「わたし、本当に怒ってるんだからね?     わたしを一緒に連れていってくれなかったことも、     田吾作どんだったってことを黙ってたことも……」 南無 『ったくよぉ〜〜ほね。過ぎたことをグチグチとしつけぇほねねぇ〜〜っ』 聖  「過ぎたことを言うのはわたしも嫌だけど、     篠瀬さん……ママのことは別問題でしょ?     絶対にからかったり危害を加えたりしない約束だったのに。     リヴァイアさんの時も同じことやって首を折っちゃったの、忘れた?」 南無 『ほねぇ〜〜?なんのことほねか〜〜?そんなの忘れたほね〜』 聖  「……月聖力、流していい?」 南無 『溶けるからやめてください』 感じるものは家系の波動。 つまり、あの聖って娘は───月の家系の子。 凍弥 「な、なぁお前!」 南無 『ほね?なにかね、見ての通り忙しいのだがねほね』 凍弥 「あ、いや……その娘、何者なんだ……?     篠瀬と彰衛門の子供とか言ってたけど……」 南無 『そのままの通りほね。     弦月彰利の精子と篠瀬夜華の卵子を融合させて産まれた娘ほねよ?     弦月彰利の【生きた時間】を少なからず吸収したお陰で、     少女の状態で産まれたほねが』 凍弥 「な……」 じゃ、つまり……この娘は本当に彰衛門の娘ってことになって、 しかも……彰衛門が開花させた月操力全部を使える……? 南無 『おっと、夜華が起きるほね。今の内に運んでしまうほね』 聖  「そうだね、パ───」 南無 『シーハーッ!』 ギュムッ!! 『パ』って言われたその刹那、骨が聖と呼ばれた娘の腕を雑巾絞りの要領で捻った!! 聖  「いたたたたたっ!!な、なにするのパ───」 南無 『シィイーーー!!ハッ!!』 ギュギューーッ!!! さらに捻る!ありゃ痛いな…… 聖  「いたたたたた!!ごめんなさい!言わないから離してぇっ!!」 南無 『俺を呼ぶときはボーン=ナムと呼べと言ったでしょうほね!!』 聖  「うう……痛いぃ……」 南無 『まだ天界にヨシュアを、冥界に和哉を送らなきゃならんのだから!     こげなところで面倒を展開させるわけにはいかんほねことよ!?』 聖  「そんなこと言ったって……     ヨイチも和哉もまだ子供だから、わたしがしっかりと育ててあげないと……」 南無 『お黙り!ヨシュアは撲殺乙女に、     和哉はルナに育ててもらうと決めてあるのですよ!?     だからキミはそこに送り届けてくれるだけでよいのですほね!OK!?』 聖  「……やっぱり月聖力流す」 南無 『ほねっ!?い、いかんよそげなことをしては!ほね!』 ヨイチ……和哉って……? 凍弥 「お、おい……ヨイチって……?」 なんだかその名前を聞いた途端、胸の中が沸騰してきたような感覚に襲われた。 訊かずにはいられない。 南無 『ほね……ヨシュア=イシュクス=チックフォールド。通称ヨイチほね。     貴様はもう忘れてるだろうから関係ねぇほね。関わるなほね』 凍弥 「ま、待ってくれ!それじゃあ和哉ってのは!?」 南無 『朧月和哉。ルナに預ければ面白!なことになること間違いなしほね!!     ああ胸が躍るほね!楽しみほね!!』 聖  「……踊る胸もないでしょ、ナムさん」 南無 『ほねっ……そうでしたちくしょう……。     腹いせに聖子(せいこ)さんて呼んでいい?それかホリィさん』 聖  「絶対にヤ」 南無 『……ま、いいけどね』 凍弥 「………」 何を言ってるのかがよく解らない。 解らないけど───その娘が彰衛門と篠瀬の子供だとするならば、 もしかしたら他のふたり───ヨイチって子と和哉って子も誰かの……!? 凍弥 「あ───なぁ!」 南無 『ダメほね!これは俺らの問題ほね!近寄るな失せろ人間汚らわしいクズが!!』 凍弥 「そ、そこまで言うか!?」 南無 『俺は死神!人とは相容れぬ存在ほね!!だが夜華は頂いてゆくほね!     こやつはもうこの世界では生きてはゆけまい。……だから次の移住世界は空界!!     そこで、先刻勧誘に成功したリヴァイアとともに生活をするのだ!!     あ、もちろん俺は骨だから一緒には住まんけどね?ほねほねほね!!』 聖  「あ!それじゃあ約束が違うよ!?     リヴァイアさんはナムさんが一緒に住むってゆうから頷いたのに!!」 南無 『ほねほねほね!!知らんなぁ〜〜〜っ!!ほね!』 聖  「うぅうう〜〜〜!!うそつき!!月聖力!!」 バシュンッ!!ジュウウウ!!! 南無 『ほねっ!?ほねぇええええええええっ!!!!!     ギャーーーーッ!!溶けるーーっ!!!』 聖  「一緒に住むって言ってよ!そうじゃないと解除しないよ!?」 南無 『住みます!住みますからやめて!』 聖  「ほんとだね!?絶対だよ!?ウソだったらヒドイからね!?」 南無 『俺がいつウソなどついたほね!?言いがかりはよしこさんほね!!』 聖  「……全然説得力ないけど……うん、許してあげるよ」 シュウウウ…… 月聖力を流されただけで溶けていた骨が、ようやく解放される。 ……てゆうか、会話においてけぼり食らってるぞ、俺。 聖  「それじゃあ、一緒に住んでくれるんだよね?」 南無 『聖よ……』 聖  「なに?ナムさん」 南無 『答えは───馬鹿めだ!!』 ババッ!!ビジュンッ!! 聖  「………………え?」 凍弥 「へ……?」 凄まじい速さだった。 なんてゆうか、反省したと見せかけた骨は倒れていた篠瀬を背負うと、 一瞬にして転移をして消えてしまったのだ。 聖  「な、あ……ああぁぁぁああああっ!!!もう怒ったんだからぁああああっ!!!」 ───キヒィンッ! で、あとを追うようにして転移を発動させる少女。 凍弥 「………………なんだったんだ?いったい……」 その場に取り残された俺は訳も解らず、そう呟いていた。 そのすぐ後……閉じてゆく転移の狭間の中から、 『ほねぇえええーーーっ!!』という危機感のない断末魔が聞こえてきたが……無視した。 凍弥 「ははっ───さあ、頑張ろうか」 幸せな未来なんか約束されていない、この世界で─── Next Menu back