───未来風幕の内弁当の開き売り───
───……。 南無 『う、むむ……』 ふと目が覚めた。 キョロリと辺りを見渡す……といっても『キョロリ』の擬音は目が無いと無理だな。 今の擬音は訂正しまよう、メキキキと辺りを見渡した、と。 ああちなみにメキキキというのは首の骨が軋む音であり───って何言ってんだ俺。 いや何言ってんだもなにも、そもそも喋ってないから言ってない。 南無 『うむむ……衝撃で脳でもやられたかな……って脳無かった』 こりゃいかん、一人ノリツッコミもままならんぞ。 いや、これは逆に成り立ってる方なのか? なんだか理不尽な上に納得いかないことも多数ありなわけだが─── とりあえずはあれだな、状況整理。 南無 『───……黄昏が無い。悠介は居る。弦月彰利が倒れてる。     そう……この状況から推理するに……犯人は俺だ!』 ジャジャーーン!! 犯人が決まった! 南無 『……よし、思考回路は立派に正常、と』 カツ丼でも食いますかぁ……ってそうじゃなくて。 南無 『終わったんか……?俺ャア……解放されたんか……?     死ねる体なのね?そうなのね!?やったわセーラ!俺は賭けに勝ったんだ!』 などと喜ぶのはあとにして。 なして弦月彰利が倒れてるのか調べねば。 俺は弦月彰利の隣に屈んでる悠介に近寄りながら気さくなココロで語りかけることにした。 南無 『やぁ僕のキミ。なぜそこのたわけが気絶してんのか教えてみろほね』 悠介 「───まだ居たのか。丁度いい、お前も消してやる」 南無 『へ?───あ、あれぇっ!?』 悠介の目が染まる。 赤く、紅く、朱く、緋く……! だがしかし! 悠介 「うぐっ!?」 黄昏の創造の影響かどうかは知らんが、悠介が頭を押さえて蹲った。 もちろんこのチャンスを逃す手はねぇ! 南無 『ネリチャギ!』 ガショォッ!! 悠介 「ぐあっ!?」 悠介の頭にネリチャギをクリティカルヒットさせ、気絶に導く。 さてあとは…… 南無 『アルティメットアイ!!』 パワ〜〜〜…… 奇妙な効果音とともに眼球の無い目の部分から光を放ち、弦月彰利の状態を調べる。 ふむ……こりゃあ……ってアレ!? 月操力の気配が全部無くなっちょおよ!? なんで!?って……まさかレオが全部奪って逃走したか殺されたかしたかとか……? 南無 『……レオが体から出たなら魂は半分……。     だがしかし、月操力まで奪われたとなると……』 魂に相当な付加が掛かる上、それを回復することも鎮めることもできない。 少ないとはいえ、まだ『傷』も残ってるだろう。 眠ったままなのは余計な消耗を防ぐため……か? とにかく目を覚ますのを意識と体が妨害してるとしか思えない。 いやはや、親思いの五体ぞ。 南無 『じゃけんど……このままではせっかく開けた未来が無駄になってしまうとよ。     どうしたもんか……』 いや、方法はある。 あるんだが…… 南無 『ほね……そうすると困る事態も起きるわけで、やっぱ困るほね……』 本当にどうしたものか。 大体、なんで俺がこのたわけモンのために悩まなきゃならねぇほね? あー……いやしかし、こんな状態のこいつを見たら夜華さんが悲しむというか…… ……俺も夜華さん思いになったもんだね。 フッ……だがおなごのために消えるのも漢の生き様のひとつ……。 ここは俺の顔を立ててもらうぜ。 南無 『感謝しろよカス野郎。俺が最高のプレゼントをくれてやる』 覚悟オッケイ。 俺は弦月彰利の胸板に手を添え、ピッコロさんの如くニヤリと笑った。 南無 『俺が貴様と融合すれば、かつてない力が貴様に宿るだろうほね。     そうすれば寿命も延びるし、     俺が貴様の魂に馴染めば月操力だって戻るやもしれんほね。     ……ムヒョヒョヒョヒョ、所詮貴様は月操力からは逃げられんのだよ!     というか月生力が無けりゃあツッコミ殺される。これは絶対だ』 周りの皆様、ツッコミに加減を知りませんからね。 絶対にツッコミで殺される。 基本的に俺がふざけなけりゃツッコミは飛ばないわけだが、 自身の溢れるからかいハートを考えればふざけるなというのは拷問の上を行く。 南無 『夜華さん……達者で暮らすのですよ。俺はこいつと融合する。     デスノートにはそれ自体に力が篭ってるから大事に使ってくだされ。     では───さらばだぁああああああっ!!!!』 ズズズズ……ギャオッ!! 意識を集中すると体が光に包まれて、 我が骨の肉体……というか骨体が弦月彰利の中へと消えてゆく。 意識の全てが弦月彰利に流れ込み、自分の視界が真っ黒に染まる。 ここに……融合は完了した! それとともに…… 困ったことに弦月彰利の記憶と俺の記憶までもが融合してゆくのを感じる。 こりゃあちと困ったことに……まあいいか。 こんなハプニングがあった方が……そう!面白(おもしろ)!だし! 最後に俺は『ほねほねほね』と笑いながら、その真っ黒な視界の中で眠りについた。 ───…………。 彰利 「う、むむ……む、むおお……」 ふと目を開ける。 するとそこにあるのは完膚なきまでに破壊された焼け野原……野原? 野原とはちと違うが……なんじゃこりゃ、境内? どことなく面影があるようなないような……。 彰利 「それはそれとして、何故に悠介が倒れてんでしょうね……。     つーか俺、どうしてここに居るんだ?」 少し考えてみましょう。 ポク、ポク、ポク、チーンと。 彰利 「そ、そうか!俺は地球外知的生命体に攫われてしまったのだ!!」 な、なんだってぇーーっ!!? とかやってる場合じゃなくて。 うむう……どうなって───はうあ!? 彰利 「な、なに……?なんなのこの脳裏に上映されるビジョンは……!     え、映画……?いや、これは───     グレート司馬とファイター大和のエキシビジョンマッチ!?うわぁ訳解らん!」 これはどうしたことか! 思考回路が通常の二倍の速度で動く気分だわYO!! しかも見たこともない記憶が上映されてるというかなんというか。 彰利 「つーか……えぇ!?お、俺があのボーン=ナムだとぅ!?」 上映された記憶を辿ると、精神世界で会ったボーン=ナムが俺だったことが発覚───! しかもさらに驚くべき事実があますことなく上映さえ───ぬおおおおお!!! ま、まさか聖が……楓巫女が……アワワワワ!!! お、俺ってヤツは俺ってヤツはぁっ!! 彰利 「───いや、結局のところ未来が開けたって事実は確かなわけで……」 ポ、ポジティブポジティブ……。 いやしかし……いろいろとシャレにならんことをやってきたんだな、ナムの野郎……。 しかもさらに俺と融合するとは……。 彰利 「…………いや、なんつーかもう……どうしましょ……」 どーするもなにも、真実レオが退治されたんなら自分の世界に帰りゃあいいんだが…… 彰利 「まいったね、どうも……」 未練があるのだ。 それは夜華さん。 ヤバイことに、夜華さんのことを考えるとハートがドッキンコ状態。 あのカス骨野郎……俺のくせに夜華さんにホレるとは……どうしろっつーんすか。 骨のココロが俺の中にダイレクトに流れてきてますよ? それは即ち……夜華さんにトキメく可能性大……。 彰利 「やっぱ帰ろうかなぁ」 会うとシャレにならんことになりそうな気が……。 夜華さんはからかえばこそ夜華さんなんだがなぁ……とかなんとか思っていたら、 どこぞから聞こえてくる謎の声。 声  「……、……って言ってるでしょ!」 声  「でもですね!もしまだ死神さんが居たらっ!」 あー……空から飛んでくるあの影はルナっちと浅っちだな───って浅っち!? いけませんよ!?これで夜華さんとチェンジでもしようものなら─── 彰利 「というかね!浅っちってだけでも姿が同じだから顔が灼熱してるんですけど!?」 なんなのこの気持ち! でも粉雪を愛する気持ちには負ける! 故に俺は負けてねぇ! 彰利 「ヌゥン!」 俺はビシィとファイティングポーズをとって構えた! 彰利 「さぁ来いぃっ!!」 そう、どっからでもかかってきなさいとばかりに構える。 ルナ 「だぁーかぁーらぁーっ!何十回言わせる気なの!?     もう死神の気配なんて消えたんだから大丈夫って言ってるでしょ!?」 浅美 「だからですねっ!気配なんて消してるだけかもしれないじゃないですか!     何十回言わせる気ですかっ!!」 ふたりはワヤワヤと騒ぎながら降りてくる。 俺はそげなふたりに向かって冥月刀を構え───って! 彰利 「あ、あれ!?冥月刀が無ェ!!」 い、いや!それならば普通にブラストでも───って! 彰利 「あ、あれ!?ブラストが出ねェ!!」 …………いやーーん!! なんで!?どうして!? 彰利 「答えろナム思考!!何故なのグレース!」 ナム思考展開!…………そして原因解明。 『月操力はレオが全部持っていっちまった』。 これで俺も家系から解放される───と思うのも束の間、 ナムの思考によればナムが魂に馴染むと月操力が浮上するとかなんとか……。 彰利 「ナムの月操力はナムが骨になった時点で消えてる筈なのに、なんでじゃい……」 それについて思考を掘り起こしてみると─── 彰利 「冥月刀の影響……?」 ナムの思考によれば、過去……俺が居るべき時代で回収した全ての月操力が、 冥月刀から少しずつ漏れて俺の魂に流れ込んできているのだそうだ。 それはかつて『俺』だったナムも同じ。 だから俺とナムが融合することでそれはようやくまともな月操力になるのだという。 いくら冥月刀でも、無限に力を受け取れていられるわけじゃない。 だからそこから漏れてきた力が俺に流れてきたのだ。 彰利 「………」 ……そして俺は理解した。 ナムは見ていたんだ。 冥月刀の中に宿る存在が誰なのかを。 その存在の気配を探り、そいつが誰なのかを。 彰利 「………」 こうしちゃおれん。 冥月刀を回収しなければ。 俺はこんな記憶を見せ付けられて、あの刀を放っておけるほど馬鹿じゃない。 ルナ 「え───あれ!?ホモっち!?もう───」 ドシュゥンッ!! ルナ 「…………え?」 ルナっちの横を凄まじい速さで疾走する。 目指す場所は鈴訊庵。 かなり遠いが止まってなぞいられるか! 最初から最後まで全力疾走だ!! ───……。 ズドドドドドドドド!!!!! 彰利 「ゲハーーッ!!ガハーーーッ!!」 月生力無しでの全力疾走はこたえる……!! だがそれでも立ち止まってなどいられねぇのだ!! 彰利 「ギィイイイーーーーーーッ!!!」 今ようやく半分ってとこか……。 くそっ!昔のように建物が無けりゃもっと早めに辿り着けるっつーのに!! 彰利 「大体ナムもナムだちくしょう!!余力残して融合すりゃ転移くらい出来たのに!」 わざわざ弱るようなことして能力なんも残さずに融合しやがってちくしょう!!! 人力車乗り「危ない!お嬢さん!」 彰利   「なにぃ!?誰がお嬢さんだコノヤロ───ぉおおおおっ!!!!?」 ドグシャアッ!! 彰利 「ブラッジェーーーン!!!」 何故か道路を凄まじい速さで走ってきた人力車に轢かれた。 彰利 「ゲ……ゲフッ……」 かつてないダメージ……! 回復が出来ないだけでこうまで重いとは……!! 人力運転手「……なにをやってるんだお前」 彰利   「なにって……てめぇに吹き飛ばされたんだよ……!」 意地でもその顔見てやる……! じゃなきゃ……気が済まねぇ……! 男  「キミ、大丈夫か……?」 人力車に乗ってた男が人力車を降りてくる。 俺をお嬢さん呼ばわりしたヤツだ。 だがこいつはどうでもいい……! 男  「葉香さん、気を付けてもらわないと困るよ……!」 葉香 「こいつが飛び出してくるのが悪い。わたしの知ったことじゃない。     大体フェイ、お前が急げって言ったんだろう?     志摩どもの誕生日がどうとかなんてわたしの知ったことじゃないんだぞ」 フェイ「そう言わないでくれ。     車を出したんじゃ今日中には間に合いそうになかったんだ」 葉香 「……それで女に人力車を漕がせるのは男のやることか?」 フェイ「ごめん。オチットさんを経由してのお願いは卑怯だったかな」 葉香 「……まったく。いいから乗れ、急ぐぞ」 彰利 「ちょ……待て、コラ……」 さっさと行こうとするヨウカンを声で止める。 もはや今のビッグバンタックルの所為で走る体力残ってない。 葉香 「なんだ。なにか用なのか?」 彰利 「お、俺も連れてけ……体が動かねぇ……」 葉香 「なに馬鹿なこと言ってるんだ。     わたしに勝った男があれくらいの体当たりで動けなくなるか」 彰利 「月操力が……全部……無くなったんじゃい……!     いいから……俺を鈴訊庵に……」 葉香 「………」 ヨウカンが倒れたアタイを見下ろす。 そして一言。 葉香 「……わたしはこう見えて、案外根に持つタイプでな」 ……あの。 それってつまり見捨てるってこと? ひでぇ……ここまでやっといて見捨てるってのかい……! 葉香 「だが非道を突き進む趣味もない。乗れ、連れていってやる」 彰利 「……フフフ、恩に……着るぜ……」 葉香 「ただし全快したらもう一度わたしと戦え。今度は最初から手加減無しだ」 彰利 「……鬼だねアンタ」 なにはともあれ、こうして俺は凄まじい速さの人力車に乗ることになったのだった。 もちろん凄まじい速さのおかげですぐに昂風街は見えてきたわけだが─── ───……。 葉香 「到着だっ」 キキィイイイイイイッ!!!! ブワァッ───ドガシャアアアアアアアアアンッ!!!!! 彰利 「ズイホォオオーーーーーーーッ!!!!!!」 急に止まった人力車の自然運動で人力車から放り出された俺は、 鈴訊庵の窓ガラスをブチ破って到着を果たした。 なにもあそこで回転ストップせんでも……。 嗚呼、遠心力ってコワイわ。 彰利 「いで、いでででで……!!」 やべぇ……マジで死ぬ……。 た、たすけて……。 葉香 「それじゃあな、精々養生するんだな」 ドギュウウウウウン!!!!! ボロボロになった俺を見てせせら笑いをしたヨウカンが人力車を駆る。 すぐさまに見えなくなったその姿を思い、 『やっぱ負けたこと根に持ってんだなぁ』と実感。 彰利 「く、くそ……!せっかく未来が開けたってのに……!     お、俺はこんなところでは死なんぞ……!」 とは言うものの、意識が遠退く。 だ、誰かヘルプ……!エウフ!エウファーッ!!(ヘルプ!ヘルプーッ!!) リヴァ「なんだ今の音は……うわっ!?検察官!?」 彰利 「リ、リヴァっち……!おお、リヴァっち……!」 おおおお!後光が差して見えるぜリヴァっち! あんた聖母だ!マリアさまだ!タチバナだ!ピーカヴァヤ・ダーマだ!! リヴァ「凄い怪我だな……あ、おい検察官?     お前が人格として表に出てるということは、つまり……」 彰利 「う、うむ……レオは消えたよ……。だ、だからね?早くこれ治して……」 リヴァ「……ああ、解った。回復系の式は得意じゃないから時間がかかるぞ?」 彰利 「なにもされないよかマシでしょ……頼んます……ってそうじゃなくて。     あ、あのさあリヴァっち?ここに刀あるかな。冥月刀」 リヴァ「刀?……ああ、あの刀か。あるぞ、瓦礫の下に埋もれていたのを悠介が発見した」 彰利 「だったらそれ貸して……。その方が早いと思う……」 リヴァ「そうなのか?解った、待っていろ」 立ち上がりトタタと走ってゆくリヴァっち。 そげなリヴァっちがなにやら貴重に思えた。 リヴァっちっていやぁ、ラボで座ってるか歩くかばっかりで、 走ってる姿なんてそうそう見れないしね。 リヴァ「二本あったけど二本ともでいいのか?」 彰利 「……早いね」 リヴァ「走るまでもないことに気づいてな……」 ……なるほど、転移か。 彰利 「そ、それを渡してたもれ……。     じゃなきゃ気合を入れてアナタの秘孔を突くヨ……。     そうなればアナタ、ニイイチンスラヨ……」 リヴァ「ニ、ニイ……?」 彰利 「『おまえはもう死んでいる』って意味だと思います」 リヴァ「……そんなことを言われる覚えはないが……」 と、奇妙な理解の末に納得したところで刀を受け取り、意識を集中させる。 が─── 彰利 「ぬお……発動出来ない……」 そもそも思考が足らなかった。 冥月刀って月蝕力か月壊力か月光力が無けりゃ発動できなかったんでした……。 フフフッ、ド、ドジこいちまったぜ……。 彰利 「め、冥月よ……どうやら俺はここまでみてぇだ……。     だが安心おし……。俺は貴様ひとりを残して逝かん……」 とは言うものの、マジで意識が朦朧としてきました。 いや……まいったねどうも……。 彰利 「わ、忘れねえでくれ……俺の名は虎丸龍次……。     今度生まれ変わる時も桜花咲く男塾の校庭で会おうぜ……。     き、貴様はひとりじゃあ……ねぇ……」 ガクッ。 リヴァ「───!?け、検察官!?おいっ!検察官!!」 彰利 「い、いや……辛うじて生きてます……」 リヴァ「そ、そうか、心臓に悪い冗談はよせ……。今、式を編むから待ってろ」 彰利 「CertainlySir(かしこまりました)……」 謝謝、楊海王……。 などと思っていた時、奇跡が起こった。 ガカァッキィンッ!! 彰利 「ほあちゃあっ!!?」 突如、冥月刀が凄まじい熱を放ってきたのだ! しかも物凄い音まで……って…… 彰利 「あ、あらっ!?体が治ってる!?」 何事!? ってまさか…… 彰利 「……冥月?」 ……キィンッ。 声を掛けてみると、二振りの刀が小さな音を立てて返事をした。 彰利 「……ったく、無茶しやがって……!」 持ち主からの発動条件を満たさずに力を解放させるなんて、相当な負担になる筈だ。 だってのに……くそう!嬉しいことしてくれるじゃねぇか! 彰利 「おうっ!そうよ!誰が貴様を見捨てようとも俺が見捨てはせんぞ!     ともに生きよう!世界の果てまでも!」 キィンッ! まるでノってくれるかのように鳴る冥月刀を振り上げ、腰に括って構えた。 ううむ……やはりしっくりくる! やはり今となっては、俺と冥月刀は切っても切れぬ存在! 彰利 「家系から逃げることばかりを考えてた俺だが……フッ……。     どうやら骨折り損だったみてぇだな」 冥月刀に月操力の全てを封じ込め、その上で手に入れる家系からの脱出なんて、 冥月ひとりに力を押し付けて逃げるも同じ!! そのようなことではいかんのだ!! 彰利 「なぁ冥月……俺、真正面から向き合ってみようと思うんだ。     さっきも言った通り、俺はお前を捨てたりなんかしない……ずっと一緒だ。     ともに極めようぞ!家系の道!!」 そしていつか攻略してくれるわ! 孤独も、宿命も、その全ても!! 彰利 「僕たちは仲間だ!ロミオ!」 キキィンッ!! 鳴り響く冥月刀を手に、俺は高らかに腕を振り上げた。 ここから始まるんだ……俺と貴様の長き家系への反発旅行!! リヴァ「あー……独り言を言っている最中にすまないんだが」 彰利 「え?なによリヴァっち。雰囲気ってもんを読んでもらいたいんだが……」 リヴァ「そう言うな。検察官のこれからの行動を聞きたい。     元の時代に戻るのか、それともまだこの時代に残るのか」 彰利 「まだ残りますよ?だってナムが馴染んでないんだもの。     馴染まないと月操力が使えないからね。     月壊力が無いと冥月刀を発動させられない上に、     月空力も使えないから歴間移動なんてもっての他。     どの道少しこの時代に居なきゃならんのよ」 リヴァ「時空干渉の式なら使えるぞ?わたしが送ってやってもいいが」 彰利 「……?」 とかなんとか言ってるリヴァっちってば乗り気って顔じゃないけど……? もしかして帰ってもらいたくないとか?……まさかね。 彰利 「んーにゃ、やっぱもうちょいこの時代に残るさね。俺は俺の力で帰りたいコテ。     それにこの時代の見治めもしておきたいし」 ぐぅっと伸びをして、鈴訊庵を後にしようとした───その時。 リヴァ「なに……?ちょっと待て。     元の時代に戻ったらもうこの時代には来ないってゆうのか?」 彰利 「ほへ?」 驚いた顔で俺に問いかけてくるリヴァっちが居た。 アタイはそんなリヴァっちにそれが当然だというように答える。 彰利 「だって……この時代ってば俺が居るべき場所じゃねぇもん」 そげなところさ居座る理由がどこぞにあるさね!? 目的は果たしたのYO!? 俺には俺の幸せ鷲掴み旅行があるのYO!? リヴァ「それぞれの時代に『居座る権利』なんてものは必要じゃないだろう。     それをどうしてお前は自分から捨てるようなことを言うんだ」 彰利 「アタイにはアタイの場所があるからぞ。他にどんな理由があろうか」 リヴァ「ああ、そうだな。わたしにもわたしの住むべき世界がある。     だけどわたしは気にしてない。気にしなければ問題なんて出ないだろう?     検察官、お前もそうしたらいい」 まるで願うように言ってくるリヴァっちだったが…… どうしてそこまで言うのかがまるで謎である。 彰利 「気にします。めっちゃ気にします。俺にとってこの世界はゼノに殺された世界だ。     つまり死んじまった世界なわけですよ。     えーと、何が言いたいかっつーとですね、     俺は俺が生きていられた世界でこそその先を目指したいわけ。解る?」 リヴァ「そんなものは解らない。この世界に居ろ」 彰利 「あのー……真面目に聞いてもらってる?」 リヴァ「真面目だ。こんなこと、ふざけながら言えるもんか」 彰利 「だったら何故納得しないのかね!キミの言うことは解らんよ!」 リヴァ「この世界に居ろって言ってるだけだろう、なにが解らないんだ」 彰利 「どうしてアダムとイヴから原始人が生まれたのか教えてくれ」 リヴァ「…………すまない、わたしにも解らない」 彰利 「そんなわけだ、諦めてくれ」 リヴァ「ま、待てっ!訳が解らないぞっ!!どういう意味だ!」 彰利 「どうもこうも!そういう意味ナリ!     ……つーかなにをするのかね!離したまえ!失礼ではないのかね!?」 怒ったような困ったような顔で俺の服を掴むリヴァっち。 ぬう……い、いったい何を企んでいるのだ……!? ハッ!?ま、まさか俺をこの世界に封印して人体実験材料にするつもりでは!? さらにリヴァっち自身が───地球外知的生命体だったとか!? 彰利 「な、なんだってぇーーーっ!!?」 リヴァ「うわっ!?」 ……などとMMRやってリヴァっちを驚かせている場合ではなくて。 彰利 「……あのさぁリヴァっち?なにが不服なのかね?     そこんとこをしっかりと話してほしいタイ」 リヴァ「不服?……不服そうに見えるのか?」 彰利 「だってイチャモンつけてくるし。なにかあるんでないかい?」 リヴァ「なにかって言われてもな……漠然としすぎてる、解らないよ」 彰利 「解れ」 リヴァ「無茶言うな」 ぬうう!これでは話が進まんではないか! どうしろっつーんじゃい! 彰利 「んじゃあ答えられれば一発で疑問解決!スッキリ爽快な質問をしてやろう!」 リヴァ「うん?あ、ああ」 ……いまいちノリの悪いリヴァっちを前に、俺はコホンと咳払いをしてから口を開けた。 彰利 「つまるところ、リヴァっちは俺をこの時代に残させて何やらせたいの?」 リヴァ「───…………え?」 まるでそんな質問をされるとは思ってもみなかったという顔。 なんかアタマ痛くなってきたよ俺……。 リヴァ「なにをって。居るだけじゃ不満なのか?     こうして話すだけでもいいじゃないか。     そうだ大体検察官、お前は何が不満で元の時代に戻るんだ」 彰利 「『俺の粉雪』が居ないし、俺には俺の時代が……って。     俺、何度言ったっけ?この言葉……」 リヴァ「『コユキ』ってゆうのがどんなヤツなのかは知らない。     だがな、検察官。別に全てが揃ってなくてもいいんじゃないか?     親代わりになっていた娘が居ただろう?     そいつのこともあるし、この世界にはやることが残ってるだろう?」 彰利 「婚儀も済ませたし、既に俺はあいつの親代わりじゃない。     娘って呼べるヤツが居るとしたら、     今レイヴナスカンパニーで働いてる聖くらいだ」 ちと納得いかんが、ナムの記憶によれば聖が俺と夜華さんの結晶として存在してる。 ちゃんとした『聖』としてだ。 俺としては粉雪との間に生まれてほしかった娘っ子だったんだが……。 生まれた子に罪は無いし、 ましてや生まれた子供が聖だっていうんなら俺は喜んで歓迎する。 んーまあ、夜華さんの反応がと言えば不安なわけだけど。 彰利 「そげなわけだから、     俺ャア体が回復したら皆様に挨拶して元の時代に戻るつもりさね。     これは俺の勇者としての決定だ!誰にも文句は言わせん!!」 リヴァ「…………そうか」 やがて諦めたようにフウと息を吐くリヴァっちに、俺は小さく安堵の溜め息を吐いた。 どうしたっつぅんでしょうねぇリヴァっちったら。 リヴァっちらしくもない。 リヴァ「あ……けどしばらくは居るんだろう?」 彰利 「オウヨ。それは確実じゃよ?」 リヴァ「……ああ。それで十分に思えるようにしよう。     って、なんだろうな、自分でも何を言ってるのかよく解らない。忘れてくれ」 彰利 「忘れん!」 リヴァ「……勝手にしてくれ。わたしはカンパニーに戻る」 苦笑交じりのリヴァっちが式を編み、その場から消えた。 転移の式か……そういや貰いっぱなしだったっけ? 返そうかのう……? 彰利 「ま、いっか。いまさらだ」 これはリヴァっちの厚意だ。 いまさら返すのも気が引ける。 彰利 「そんじゃあ聖にでも会いに行きますかねぇ。クォックォックォックォッ!!」 俺は冥月刀を輝かせ、月空力を───って、出来ないんだった。 彰利 「ちくしょ〜〜〜っ!!家系に反発するとか言っといて、     能力に頼りっぱなしの自分が情けねィェーーーッ!!!」 だがこうなっては仕方が無いッ!! 走るンだッッ!! 彰利 「行くぜ冥月ッ!!ふんぬおぉおおーーーーっ!!!!」 ───不器用なタイプでもなかった。 しかし、確信とも言える肉体信仰が───少年に乗り物を選択(えら)ばせなかった。 彰利 「ッシャアアァーーーッ!!!」 急ぐのだからこそ(はし)るッッッ!!! 加減無しに走るンだッッ!早く!より早ドゴシャアーーーッ!!!! 彰利 「ボロッツェーーーン!!!」 走った途端に轢かれた。 ドゴシャッ!ボゴシャッ!バキッベキッ!ガッゴッ───ゴロゴロズシャーーッ!! 彰利 「グビグビ……」 吹き飛び、跳ね転がり、かなりの距離を滑ってようやく止まれた俺は再び虫の息だった。 だ、誰だよちくしょう……って…… 葉香 「………」 彰利 「て、てめ……」 倒れつつ見上げた先にヨウカン。 一度ならず二度までも轢きやがったのだ。 葉香 「わたしか?わたしはこの人力車を返しに行くところだ」 訊いてねぇ。 葉香 「なんだ、これにまた乗りたくて飛び出てきたのか?物好きだな」 彰利 「ふ、ふざけ……ゲフッ!ゴフッ!」 うおお……内臓がイカレちまったのか……? 血ィ吐いたよ今……。 葉香 「ああ、それくらいは構わないんだ。行動は個人の自由だと思う、うん。     だけどな、あれほどの勢いでぶつかられれば無事に済まないことくらい解るだろ」 好きでぶつかったわけじゃないんですけど……? 葉香 「……まあいい、乗れ。そこでそのまま血を吐いて倒れられていたら迷惑だろう」 彰利 「だっ、誰の所為じゃいっ!!」 葉香 「……なんだ。まさかわたしが悪いとでも言うのか?」 彰利 「当たりま───グプッ!ガホッ!ゴボッ!!」 うおっ!?血が出てきた! 叫ぶと血が出る! 叫べねぇ!こりゃヤバイよ! 葉香 「仕方ないな、まったく。お前、家はどこだ?連れて行ってやる」 彰利 「実は……ホームレスでして……」 血をコポコポと吐きながら衝撃告白。 もう血が衝撃なのか告白が衝撃なのか。 どっちが衝撃だか解らねぇ。 葉香 「じゃあ知り合いの家でいいな?どこだ」 彰利 「つご……晦神社とか……」 葉香 「───……ああ、あそこか。なんだ、お前月詠街出身か」 彰利 「オ、オウヨ……。家系の最高峰の一、弦月の小僧ぞね……」 葉香 「弦月……相当前に潰えた家系じゃないか」 彰利 「すげぇだろ、ファイナル遺伝子だぞ」 葉香 「へえ……じゃあこのまま放置してればエンド遺伝子か」 彰利 「ゴメンナサイ、生意気な態度とりませんから連れていってください……」 葉香 「……人聞きが悪くなるようなこと言うな。脅迫してるみたいじゃないか」 彰利 「そうとしか聞こえませんが?」 葉香 「馬鹿言うな、わたしは凍弥と志摩ども以外を脅迫したりしない」 彰利 「……してんじゃん」 ゴロロロベキボキ!! 彰利 「スペライツァーーーッ!!!!!」 正直なツッコミを言った途端に人力車でゆっくりと轢かれました。 重ッ!!見た目以上に重いよコレッ!!重いって!重ゴキュッ! 彰利 「アバラスタァーーーッ!!!」 その時、アスファルトを掻くように動いていた手の平…… というよりは小指に、凄まじい激痛が走ったのでした。 見れば、しっかりと踏まれてる俺の小指。 彰利 「本気で鬼ですかアータ!……ゲホォッ!ゴホッ!!」 葉香 「……まったく。いい、まずはカンパニーに行くぞ。     救護班の聖なら治癒が出来るだろう」 正直、ここまでボロボロにした人に救護班紹介されるのって凄い微妙です。 じゃけんど、なにはともあれ俺はヨウカンに連れられて、 レイヴナスカンパニーへと向かうことになったのでした。 ───……あ、あぁっ!嫌な予感! 葉香 「───到着だっ」 キキィッ!!ブワァッ─── 彰利 「やっぱりぃいいーーーーーっ!!!!」 到着とともに止まった人力車から放り出された俺は、 そのままの勢いに身を委ねることを強制されながらガシャアアアアアアアン!!!!! 彰利 「ズイホォーーーッ!!!!」 ドゴッ!ゴロゴロゴシャッ!! ……窓ガラスをブチ破り、廊下に転がって壁にぶつかった。 彰利 「ゲホッ……ゴホッ……」 や、やべ……マジで……───死…ぬ…死…… 彰利 「……た、たすけ……」 バチッ───ズババババババババ!!!! 彰利 「シギャアアアーーーーーーーッ!!!!!」 あ……で、電撃……?なんで……? なんで俺、こんな目に……なんか涙出てきた……。 ───……。 聖  「なにやってるんですかリヴァイアさん!パパに恨みでもあるんですか!?」 リヴァ「す、すまない。ボーっとしてた……」 凍弥 「動かないけど大丈夫かよ……」 医務室のベッドで寝かされている彰衛門を見下ろす。 そこら中ボロボロで、ひどい有様だ。 リヴァイアの話じゃあ彰衛門の問題とやらも解決したらしい。 行方不明だった彰衛門がどうして葉香さんの人力車に乗ってきたのかは謎だけど。 聖  「パパぁ……久しぶりに会えたのにこんな姿に……」 リヴァ「すまない……」 凍弥 「いやちょっと待ってくれよ。これくらいの傷なら自分で治せるだろ?」 リヴァ「あ……それはダメなんだ。今の検察官には月操力だったか?それが無い」 聖  「え……?」 凍弥 「月操力が無いって……どうして」 リヴァ「レオ───検察官の中に存在していた死神が全て持ち出してしまったらしいんだ。     だから今の検察官は運動能力が高いだけの普通の人間なんだ」 凍弥 「普通の……」 聖  「人間……」 俺と聖は顔を見合わせたあと、彰衛門を指差して 凍弥&聖『この人がぁ?』 と一言。 リヴァ「うん、そうだぞ。おかしいか?」 凍弥 「リヴァイア……」 ポムとリヴァイアの肩に手を置き、軽く一言。 凍弥 「お前、絶対に『彰衛門』という人物のこと解ってない」 リヴァ「なに?馬鹿なこと言うな。わたしは検察官のことならいろいろなことを」 聖  「……多分、データが全てじゃないってゆうことを知ることになりますよ……」 リヴァ「う、うん……?」 ───……。 ───で、後日の社長室前。 佐野崎「たっ、大変よっ!!厨房が襲われたわっ!」 浩介 「なにぃ!?誰だ!」 佐古田「今、侵入者迎撃隊長が向かってるッス!」 浩之 「ぬうう!あのリヴァイアとやらの絶対的な監視を抜けてくるとは!何者……!?」 チット「いえいえ、なにやら内部犯のようで」 志摩 『内部犯!?誰かが摘み食いのために厨房を襲ったというのか!?』 ズドドドド─── 彰利 「うめぇえええーーーっ!!久しぶりのシャバのメシだぁああーーーっ!!     点滴と栄養剤で生きてきたこの体には染み込みすぎるぜぇええーーーーっ!!」 ───ズドドドド…… 佐野崎「…………アレ……犯人?」 チット「あらあら、そうでしょうねえ……」 浩介 「あやつ、確か昨日運ばれてきた弦月彰利という男では……む、葉香さん」 浩之 「凄い速さで追っていったな……」 佐古田「あ、毒霧吐いたッス」 浩介 「ぬおっ!?葉香さんが豪快に転倒したぞ!?大丈夫なのか!?」 サクラ「すごい……あの葉香さんが翻弄されてる……」 佐野崎「……モノ食べてたのに、どうして毒霧吹けるのよ……」 六人 『……あの男が相手なら、なんでもありって思うべきだぞ(だよ、ですよ)』 佐野崎「うわ……そうなんだ……あ、捕まった」 ───ドカバキ!ギャアアアーーーーッ!!! ───……医務室。 彰利 「グビグビ……」 レイン「……またですかあなたは」 聖  「今日で10回目……本当に懲りないよね」 リヴァ「あー……確かにな。わたしの見解は間違っていた。     『普通の人間』はこんな無茶な行動を立て続けに行わない」 凍弥 「本当はもう、月操力とか使えるようになってるんじゃないか?」 リヴァ「いや、それはない。少しずつ回復してはいるみたいだけど」 レイン「やれやれ───まったくどうやったらこんな無茶うわぁっ!!?」 聖  「きゃっ!?ど、どうしたんですかレインさ───あぁっ!?     ベッドに寝かせてた筈のパパが交通安全の可動式立て看板に!!」 凍弥 「……普通に人間超越してる気がするな」 リヴァ「……わたしもそう思っていたところだよ」 ───……養鶏場。 彰利 「タックルは腰から下ァーーーッ!!!」 天鶏 「コエェエエーーーーッ!!?」 バサササササ!!! 存在としての本能か、 俺から逃げ惑う変わったカタチの鶏にアメフトばりのタックルをかます! そして足を引っ掴み、逆さ吊りに持ち上げて─── 彰利 「ゴ、ゴクッ!!」 生唾を飲み込んだ! さ、さあ!どう料理してくれようか! ホームレス生活を始めてからというもの、肉なんて満足に食えたためしがねぇ!! 思わず顔も漂流教室の飢えた子供のようになるってものだ! サクラ「あっ!なにしてるんですかっ!」 彰利 「も、もう我慢できないんです!     本当です!本当にお腹が減って死にそうなんです!」 サクラ「天鶏は食用じゃありません!今すぐ離してください!」 彰利 「い、いきなりなにを言い出すんだキミは!!     この鶏が食べられないという証拠でもあるのかっ!!」 サクラ「証拠!?そ、それは」 彰利 「証拠は!!」 サクラ「えと……」 彰利 「証拠は!!」 サクラ「と、とにかくダメなんです!!」 ボゴシャア!! 彰利 「ギャーーーッ!!!!」 『証拠は!』と叫びながら指差してた手を震わせてたら思いっきり殴られた。 妙なカタチをしたステッキはなにやら破壊力抜群で、 俺は再び意識を断たれることとなった。 ───……医務室。 レイン「よし、ロープを使ってベッドに固定しよう」 聖  「そうですね。そうじゃないと逃げちゃいます」 凍弥 「運ばれてきた患者をベッドに縛り付ける光景ってヘンだよな……」 リヴァ「ヘンなのは検察官だ。もう間違いない」 レイン「よし、じゃあ傷の手当てを……あぁ聖さん、そっちの棚にあるガーゼを」 聖  「はい」 レイン「さて……うわっ!?ちょっと目を離した隙にまた可動式立て看板に!?」 聖  「えぇっ!?」 凍弥 「転移も出来ないのにどうやってんだか……」 リヴァ「そうだな……あぁ、でもわたしが譲った式を使っているのかもしれない。     あれは『月操力』とかゆうものには直接関係ないことに気づいたんだろ」 凍弥 「うわー……こりゃ厄介な……」 ───……大広間。 レイル「しっかしこんな広いとこ、何に使うために作ったんだかなぁ」 アル 「そんなこと知るか。さっさと掃除を済ませるぞ」 レイル「へいへい……」 ポタッ。 レイル「ん?って熱ッ!!?」 ジュウウウ!! レイル「いででっ!熱ッ!な、なんだぁっ!?」 アル 「なに騒いでるんだレイル、ザボる口実作りか?」 レイル「そうじゃねぇって!上の方から熱いってゆうか痛い液体が降ってきたんだよ!」 アル 「上?───ってうおっ!?」 のたのたのたのた……ババッ!! 彰利 「………」 ポタポタッ……ジュウウウウウ…… アル 「……あいつ、弦月彰利だよな」 レイル「ああ……」 のたのたのた…… アル 「……なに、やってるんだろうな……」 レイル「そんな疑問の前にツッコムところが満載な気がするぞ……」 アル 「…………どうやってこの大広間の天井に張り付いたんだかなぁ……」 レイル「とりあえず落とすか……」 アル 「だな……ブラスト」 ドチュンッ───ドゴォオオオンッ!!!! 彰利 「ギャーーーッ!!!!」 レイル「おおっ、命中!落ちてる落ちてる!って……」 ドグシャアッ!! 彰利 「ギャーーーッ!!!」 アル 「………」 レイル「………」 大広間の天井(普通に考えて三階の天井くらいの高さ)から落ちた弦月は、 誰に受け止めてもらうでもなく……その勢いのまま床に叩きつけられていた。 ───……医務室。 レイル「いっそトドメを刺しましょうか……」 凍弥 「いきなり物騒ですな」 聖  「いいです。今度からはわたしが監視しておきますから」 レイル「お願いします。あ、リヴァイアさん、そこの瓶を取ってください」 リヴァ「これか?───あ」 レイル「え?あぁっ!!また消えた!」 凍弥 「……今度は聖もだな……」 ───……二階のテラス。 彰利 「こ、これ!何故ついてくるのかね!」 聖  「……やっとふたりきりになれた」 逃走する際に一緒についてきた聖がアタイに抱きつく。 なにをなさる!と言ってみると、『誰かが居ると甘えられないから……』との返答。 見られるのが恥ずかしいなら甘えなければいいものを……。 しかし……グウム? 彰利 「んー……聖?もしかしてキミ、みんなと居る時は猫被ってる?」 聖  「猫……?」 彰利 「別の自分で相手に接することだと思う。うむ」 聖  「接し方……?普通だよ……?」 彰利 「じゃあ今の聖は普通かね?」 聖  「普通だよ……?」 彰利 「…………俺への接し方と他のやつらへの接し方は同じかね?」 聖  「全然違うよ……?」 彰利 「………」 あー……まあ、どっちも普通に接してるなら猫被ってるわけじゃないだろうけどさ。 なんて言ヤァいいんだ? 解らん。 聖  「わたしが甘えるのはパパにだけだよ」 彰利 「ほ、ほうかほうか」 ポムポムと聖の頭を撫でる。 別に付いてくる分には構わんのだが……これで行動の範囲が狭まれるのは─── 彰利 「いや待てよ?」 誰かに捕まった時にボコボコにされてもすぐに回復してもらえるし……いいじゃん! 彰利 「よし行きますよ聖さん!偵察騎兵ド・ズーカになるんだ!」 聖  「うんっ!」 ───……。 ───……ヒタリ……。 彰利 「気をつけるんですよ聖。あのセキュリティーメカに見つかったらアウトですよ」 聖  「う、うん」 廊下をヒタヒタと歩き、社長室のドアに近づく。 そこで聞き耳を立てる。 特に意味は無いんだが、このカンパニーでの小僧の働きぶりを探ってみようかと。
浩介 「なぁ同志。この『平成おいしい牛乳』とやらを入荷する件はどうなった?」 凍弥 「ん?……あーあ、そういえば調理用に生乳に近い牛乳仕入れようって、     そんなこと言ってたっけ。どんな製法なんだ?」 浩之 「うむ、成分表はこれだ。1000人中900人以上が旨いと言ったらしい」 凍弥 「へえ……」 …………。 凍弥 「駄目だな、これは」 浩之 「な、なにぃ!?」 浩介 「どうしたというのだ同志!なにがあった!?メーカーの拘りか!?」 凍弥 「拘るかっ!!……そうじゃなくて、ほら、これ見てみろ」 浩介 「む?……生乳100%、であろう?なにが悪いのだ?」 凍弥 「次、ここ」 浩之 「む?……殺菌、130℃……2秒?これがどうかしたのか?」 凍弥 「フッ……───どうかするわぁっ!!     この文字を見よ!『新鮮な牛乳のおいしさに拘りました』!!     新鮮な牛乳のおいしさに拘るあまり、高温殺菌に走るなど愚の極み!!     牛乳らしさを保つにはそれこそ低温殺菌を選択するべきだろう!     新鮮を保ちたいからスピード殺菌!?ハッ!スピードが命ではないのだよ!     高温殺菌すれば確かに時間短縮できて新鮮さは保たれる感はあるが、     その分熱に弱い成分などが壊されるとは思わないのか!」 浩之 「すまん、正直何を言っているのかよく解らん」 凍弥 「なんで!?」 浩介 「そういえば同志は何気に牛乳には五月蝿い男だったな……」
……なにやってんだか。 だがしかし、確かに高温殺菌は許せんな。 おいしさに(かま)けるあまり、牛乳へのやさしさを忘れるとは…… 聖  「……よく解らなかった」 彰利 「む!それはいけませんよ!?調理者たる者、素材には五月蝿くあるべき!     ましてや厨房を預かる者はそれ以上に拘ればこそ!」 聖  「え……?どうしてわたしが厨房のお仕事してるって……」 彰利 「秘密ですじゃ!次いきますよ!?」 聖  「う、うんっ」 ───……。 ───……。 和哉 「ヨイチー、材料切ったかー?」 ヨイチ「終わってる。そっちは?」 和哉 「あー、下準備は済んでる」 ヨイチ「じゃあ」 ブシィッ!! ヨイチ「くわっ……がっ……!?」 和哉 「ヨイチ!?ってうわっ!?」 ブスッ! 和哉 「ギャーーーーッ!!!!」 彰利 「クォックォックォッ……!!     ヨゥメェーーーン!!この料理───俺が預かろう!」 調理の準備をしていた和哉とヨイチに毒霧とサミングを贈呈したアタイは、 切られた材料を手に不敵に笑った! 聖  「わっ、わっ……パ、パパ、何する気なの?」 彰利 「調・理!!」 材料を見ただけで完成品が解るのも料理人の眼力あってこそ! さあ!調理器具を構えて手際よく調理! 我が灼熱の魔手にて───灰燼と化せェーーーイ!! 聖  「わぁあああ……やっぱり上手い……」 彰利 「聖さんや?ちょほいとアタイの頭に月然力を流しておくれでないかい?」 聖  「え?どうして?」 彰利 「えーがらえーがら!     それが終わったらみなさまを食堂に集めておいておくれでないかい」 聖  「う、うん」 ───……。 ───……で、食堂。 彰利 「メイさん久しぶり〜♪」 メイ 「これは彰利さま。お久しぶりです」 彰利 「いやいや、元気そうでなによりっ!オチットさんは?」 メイ 「婦長でしたら先程、葉香さまに用があると仰られて食堂を出てゆきました」 彰利 「そかそか」 メイ 「ところで……あちらの皆様はどういたしましょうか……」 彰利 「ああアレ?ィヤッハッハ、ほっといていいんじゃない?」 エネル笑いをしつつ、『アレ』を見る。 凍弥 「ぶはははははははは!!!ぶはははははははは!!!」 志摩 『ぬわはははははははははは!!』 佐古田「げふっ!ごほっ!───くふふははははは!!」 佐野崎「ひはっ!はひひははははは!!」 皆様、楽しんで食卓を囲ってくれてるみたいザマス。 その場に居る皆様が笑い転げながら涙している。 感動の名シーンってやつです。 凍弥 「あきっ……!彰衛門っ……てめっ……!またワライタケをっ……!!」 彰利 「違うわ……それはあなたの中に眠る笑激なのよ……」 凍弥 「なに言ってぶははははははは!!!!」 笑いの所為で言葉もままならんか。 そこまで笑っていただけで最高の気分ですよ。 神界と冥界を覗いた天地空間の皆様が笑う図はまさに絶景! レイル「ぶふふはははは……!!ちっくしょ……力が入んねぇっ……!」 アル 「少しは先読みくらいしろ……。料理から嫌な匂いがしただろうが」 レイル「このっ……!!ひとりで清々しい顔しやがって……!───レイン!」 レイン「っ……!!」 アル 「爆笑中だが」 レイル「隙ありゃあ!」 がぼぉっ!! アル 「むぐっ!?」 レイル「ハイ、アーン♪」 ドンッ!!───ごくり。 アル 「ぐっはぁああーーーーーーーっ!!!!」 口に無理矢理料理を捻り込まれた上に、背中に衝撃を受けて飲んでしまった天界人ひとり。 絶叫してみせたが、それが笑いに変わるのにそう時間は要らなかった。 リヴァ「くふふっ……!!け、検察官……!これは……!」 彰利 「やあリヴァっち。楽しんでおるかね?」 リヴァ「楽しむとかの問題じゃあ……ないっ!!」 彰利 「笑っておるではないですか。楽しんでる証拠でしょう」 リヴァ「ち、ちがっ……くははは……!!」 うむ、楽しんでもらえてるようですじゃ。 聖  「どうなってるの?パパ」 彰利 「俺の頭に月然力を流すことで生えるキノコ……マツタケモドキ!     それを食うと究極の笑いを受け取ることになるのです!」 聖  「そうなんだ……」 彰利 「そうなんですよ。散々迷惑をかけた仕返し……いやもとい、     お返しにせめて笑いでもプレゼントしようって思いましてね?」 聖  「パパ、やさしいんだね」 彰利 「オウヨ!アタイのやさしさはもう、     言っちゃなんだけど世界規模で有名ですよ!?     ちなみに仕返しって間違えたからって、     『報復』と『抱腹絶倒』をかけたわけではございません」 聖  「?」 彰利 「なんでもござらん。さて……体も回復したし冥月刀も持った!     アタイはもうこの屋敷に用はねぇ〜〜〜っ!!」 聖  「え……?どこか行くの?」 彰利 「うむ!その通り!ちと蒼空院邸に行って椛に挨拶してくるさね!     その頃には夜になってるっしょ。蒼空院邸のある場所、知らんし」 聖  「わたしも行っていい?」 彰利 「了承!ついてまいれ!」 聖  「うんっ!」 こうしてアタイと聖は抱腹絶倒する皆の衆を余所に、外に繰り出したのだった! Next Menu back