01/死ぬまでがテンプレです

 平凡な人生だった。
 自分を振り返って言える言葉なんてそんなもの。
 なにか目立ったことが出来たわけでもなく、幸福だったかと訊かれても首を傾げるしかない自分の人生。
 どうして急に終わってしまったのかを思い出そうとして、悲しくなった。
 周囲は騒がしい。
 アスファルトには、急ブレーキをかけた所為か、いやにくっきりとタイヤの跡がある。
 そんな歪なタイヤの跡をなぞるように、自分の体はおかしな方向に曲がっている。
 痛みは不思議となくて、ただ……視線の先。
 動かない自分の体のように、ぐしゃりと落ちてしまっているケーキの箱が、悲しかった。

「───、……」

 声は出ない。
 ぱくぱくと口を開くと、そこからごぽりと血が溢れた。
 助けてなんて言葉は、これも不思議と出ない。
 もう心も体も諦めてしまっているのだろう。
 だって、上半身と下半身が反対の方向を向いている。
 “これは無理だ”って、ひどく客観的に理解してしまった。
 横転したトラックの運転手は、携帯電話でどこかに電話をして、泣きながら喚き散らしている。
 そうだね、パニックになれば、救急車よりも知り合いか誰かに連絡するよね。
 救急車を呼ばれても、どうせ助からないけど。

「───」

 ごぽりごぽりとこぼれる血の感触に、ふと呼吸を確かめてみる。
 ……出来ているのかもよく解らない。痛覚とかが吹き飛んでいると、そういうことも解らないのだろうか。貴重といえば貴重な体験かもしれない。
 ただもう、息苦しさを感じるための器官も捻り潰されてしまっていて、痛みもないままに死ねるのなら、まだいいのかなと……そんなことを思った。
 だって、それは……死ぬとするなら、一番楽だろうし。
 苦しまないで死ねるのが一番に違いない。
 ケーキを贈る筈だった妹は、もうずうっと病気に苦しんでいるのだから。
 ケーキだって、買っていったってどうせ食べられない。
 解ってはいたけど、特別な日には特別なものをあげるって約束だったから。

「、」

 世間はクリスマス。
 寒く、真っ暗な空の下、赤い服を着た特別な誰かになりたかった。
 そんな些細で笑ってくれる妹を救いたかった。
 笑顔が可愛いあいつに、普通の日常の中を過ごさせてやりたかった。
 人の笑顔が好きだった自分が、それしか能がなかった自分が、それ以外で考えることなんてそれくらいだった。
 両親は僕に愛情はくれなかったけど、妹には愛情をあげていたから。
 どうして僕がその病気を持って産まれなかったんだろうなぁ。
 そうしたら、妹は元気に走り回って、両親もきっと笑顔だったのに。

“女の子がほしかったの。べつに男の子なんていらなかったのよ。ただ周りの目がいらつくから生んだだけ。堕ろしたらうるさそうじゃない”

 実際に言われた言葉を思い出す。
 小遣いもない生活を続け、やっとバイトが出来る年齢になって、バイトしながら高校通って。
 特別じゃない自分から、特別な妹に特別な日の特別なプレゼントを。
 それが自分に出来る妹を笑顔にする行動だった。

“いらない子はいらない子なりになにかが出来る。たとえばほら、妹を笑顔に出来た”

 妹へ、食べられもしない特別なものをプレゼントした時、両親に随分と怒られた。
 自分が食べられるからって、それは嫌味かと。
 その時初めて、妹がものを食べられないのだと知ったというのに。

「……」

 べつに、いらない子扱いされて、妹を恨んだことはない。
 羨んだことならあったけど、相手があの両親だと考えたらどうでもよくなった。
 自分はただ、誰かに必要とされたくて。
 だから学校はまだ救いがあった。
 自分の行動で笑ってくれる人が居て、隣を歩いてくれる人まで出来た。
 頑張ってその人の“今”を支えようって、頑張ったっけ。

「」

 結論から言うとあっさりフラれた。
 もう涙も出ない。苦笑しか出なかった。
 ただ…………うん…………ただ…………

「ヒト!? ヒトーーーッ!!」

 声が聞こえた。
 自分をフった女性の声だった。
 こっちまで泣きたくなるくらいの、苦しさと悲しさを混ぜたような声。
 未練だなぁ。
 こっちの道は彼女がよく通るから、なんて……回り道までして通るんじゃなかった。フラれたヤツがフった人の周りをうろうろするなって話だ。
 結果として彼女にこんな光景を見せてしまったし、彼女を悲しませることになってしまう。

「な、なに……なに、これ……!? やだ、やだよ……! なんで? どうして……!?」

 ───僕は病気が嫌いだ。
 騒ぎに紛れるように駆け寄ってきた彼女を見て、ただそう思う。
 病気は自分からいろいろなものを奪っていった。
 妹の健康もだし、彼女も───

「しっかりしてよ! ねぇ! ね、ねぇ……!」

 彼女の姉が教えてくれた。
 彼女はある病気を患っていて、それが原因で自分を悪にしてでも僕をフったのだと。
 幸せだった筈なのに、急に発見されてしまった病気なんてものの所為で、僕らは互いに泣いていた。
 歩くことも出来るし、多少なら走ることも出来る彼女。
 でも、おばあちゃんになるまで生きることは出来ないと言われたって。
 そんな彼女を見て、口を開く。

「……」

 血がこぼれた。
 なにかを言いたいのに、口からは血しか出てくれない。
 だから血文字でも、なんてこんな状況なのに考えたのに……もう、体は一切動かなかった。
 やがて聴覚も消えてゆく。
 視覚も消えてゆく。
 最後になにを思って死のう。
 彼女のこと? それとも自分のこと? それとも───

(…………ああ)

 両親は僕に保険金をかけていてくれただろうか。
 せめてそれで、妹が助かればいいなあ。
 最後に思ったことなんてそんなもの。
 何も残せないなら、せめてお金だけでも。

「───」

 そうして。
 なにも残せず、自分を見て泣く人へ悲しみだけを残して。
 期待も込められないで付けられた名前で生きる人間、“多賀ヒト”の人生は、あっさりと終わった。




02/自分確認

 ……音のない真っ暗な世界に居た。
 静かで、静かすぎて、逆に気持ちが悪くなる。
 ハッとして自分を見下ろしてみるのだけれど、ねじれた体も血にまみれた道路もありはしない。
 ただ真っ暗な世界があって、手を動かそうとしても、手の感覚どころか体の感覚すらなかった。

「やーほい少年。ちょほいとばっかしおねーさんの質問に答えてね? もし次の人生を、記憶を持ったまま生きるとするなら、どんな生き方をしたい?」

 そんな世界、そんな状態の自分に、誰かがそんなことを訊ねてきた。
 疑問を浮かべるよりまず、自分は迷わずこう言った。
 なんでも治せる人になって、いろいろな存在を助けたい。

「自分のためになにかが欲しいとは思わない?」

 十分に自分のためだと思う。
 だって、自分の不甲斐なさを消せるのだ。
 救われた人はきっと笑ってくれるだろうし、誰かが笑ってくれるのが、僕は嬉しい。

「へー、ほー。じゃあギフトは回復能力、と。あと一個、望み言ってみ? 用意しちゃる」

 望み? 望み……。

「つゥかさ、真っ暗闇でこうして話しかけてんのに随分冷静だねーキミ。死んだって自覚、ある?」

 あるよ。
 みんな喜んでただろうね。

「そうなー。お前の両親、きっちり保険金かけてたから大喜びだ。お前の葬式は一番やっすい適当な業者に頼んだみたいだけど」

 それでいいよ。
 あ、そうだ。
 望みを叶えてくれるなら、妹の病気を治してくれないかな。

「あーそりゃ無理だね。出来るけどあたしが嫌だ。あたしが望みを叶えるのはキミに対する事柄だけだ。あくまで、次の生を生きるキミに対するもの。死ぬ前のキミの事柄までは面倒見切れんのよ」

 それは残念だ。
 じゃあ質問。
 どうして僕の願いを聞いてくれるの?

「そうなー……暇潰し。あ、言っとくけど最近よく流行ってる神々の遊びとかじゃないからなー? 手違いで殺しちゃってキャアゴメーンとかそういう下手に出る神なんて、実際いないから。はっきり言うと、神は頭なんて下げないし悪いとも思わない。そりゃそうだ、崇められて、願われてなんぼの神が、その対象に頭を下げるとか有り得んでしょ」

 や、そこまで訊いてないって。

「おっとこりゃまいったね。話をすすめよーか。えっとなんだっけ? あー……ああ、理由だ理由、キミの願いを聞く理由なー。……暇潰しってのと、そういう周期だから。定期的に力使わないと鬱憤溜まっちゃってねー。で? どーすんの? なにか欲しい能力とかないの?」

 ……ほんとに手違いで死んだとかじゃなくて?
 あんなタイミングで車に轢かれるなんて、今思うと……

「正真正銘、キミはただの事故死だ。数ある未来の中で、キミはその道に歩を進めた。それだけ。むしろどーすりゃ人が手違いで死ぬのさ。なに? あんなうざったくなるほどいっぱい居る人間一人一人の運命を見ていじくれって? っは、冗談じゃない。暇潰しは欲しいけど、そんな細かい作業なんてやってられっかってもんだ」

 死んだ人を前に、随分だなぁ。

「そうなー、御託はいーよもう。あぁどうせ訊かれるだろうから言っとく。あたしは天秤の悪魔。秤を使うことが仕事の美人なねーさんだ。容姿はロリぃけど」

 言った途端、その姿が目の前に現れる。
 真っ暗な世界なのに、やけに鮮明に。
 うん、ちいさいや。
 頭とか撫でてやりたくなるよ。やったら警察呼ばれそうだけど。

「ケーサツのことは知らんけど、あんがと。さいこーの褒め言葉だ。そィでだ。キミにはこれから別の世界で生きてもらう。なんでかっつーと、お前が居るとバランス悪ぃから別の世界に移す。だから死ね。それだけ」

 よしわかった。

「よし交渉成立。面倒がないのはいいことだ。死んだやつらってのはぎゃーぎゃーうるさいからねー。だからさっさと欲しい能力言えこの野郎」

 行く世界はどんな世界?

「そうなー……キミが生きてた世界は地界って名前だ。キミがこれから降りる世界は空界。世界ってのは天と地と空間、あとは神界冥界ってのがある。その空間に位置する世界がそこ、空界だ。あー、まあ解りやすく言うなら剣と魔法の世界だねぇ」

 どんなところ? ファンタジーっていうのは解ったけど。

「レベルと武具がモノを言う世界だね。ま、そこに住む魔女がいろいろやっちゃって、以前よりもややこしい世界になってるようだけど」

 ややこしい?

「こっちの話さね。んじゃ、能力はもうこっちで勝手に決めるよ? めんどいし」

 どうぞ。
 むしろ貰えるのに選べるなんて、うさんくさいや。

「そうなー、いーこと言うなぁキミ。けどさ、あたしゃ天秤の悪魔だ。秤に見合わないものはどうやったって渡す気もない。キミは生前、随分と愛を知らない生き方をしてきたようだから、愛ってものを知ることの出来る人生をくれてやろう」

 それはどうも。ありがとう。

「あ、ちなみに移すわけだから、赤子からとかそんなことはないから安心すんだね。で、あたしがキミに贈るものはこの金だ。昔はアルデットからゴルデットまで、ややこしい貨幣の呼称があったんだけどね。アルミからゴールドまで、デットってのはほら、あのー……ドル? A$って書いてアルデットって読んで……って、細かいこたぁいい。ともかく今は、全部こんな文字で数えられている」

 声がしてから、なにも映ってなかった闇に“£”の文字が浮かぶ。

「オロって読む。地界じゃ他の読み方だが、それが空界の通貨だ」

 随分親切に教えてくれるね。

「質問されて返すってのが嫌いなんだ。言えって言われたから言ってるみたいじゃんか。どーにも指図に従うのは嫌いでね。思うに、質問と回答ってのは秤に合ってないんじゃないか? 知識欲に動かされて相手は訊ねて、訊ねられた方は自分の知識を渡さなきゃいけない。相手は労せず知識が得られるんだ。不公平だ。だから嫌い。いいね? ……んじゃ、あとは向こうで適当にやんな。この金……£を持って、最初の町で家を買うんだ。そうすりゃキミの将来は約束される。そこで能力使ってのんびり人を救っていきゃーいいさ」

 ……ずしりとなにかしらの重みを感じた……途端、世界が真っ白になる。

「んじゃまぁ。冒険の世界、魂の蝋板と書いてフェル・マデオネスへようこそ。めんどいからマデオネスを逆に読んでから略せ。スネオでいいだろもう」

 せめてフェルマデルとかにしなさいな……。

「やかーしい。こーいうのは解りやすいのがいーんだよ。略語は四文字が基本とかそーいう知識もいい。重要なのは覚えやすいか否かだ。だからはいスネオ。いーね?」

 ……わかった。スネオね。

「で、そーいやキミ名前は?」

 ヒト。多賀ヒト。
 ヒトガタって意味らしいよ。

「人? 愛情無しに適当につけられたみたいな名前だねぇ。よくそれでその歳まで生きてきたもんだ。そだね、もうちょい楽観的な性格にしてあげよう。その方が面白そうだし。んじゃ、がんばってー」

 え? あ、ちょ《ブツッ》


……。


 急にスピーカーの電池が切れたみたいに、何も聞こえなくなった。
 喋り途中だったのに強制的に飛ばされたようだ。
 ……今度会うことがあったら、姿をきちんと確認した上で殴ってくれよう。
 大丈夫、僕は相手が女子供だろうと敵なら殴れる。敵なら。

「───、あ」

 声が漏れた。
 ハッと驚いた瞬間、目の前に景色があることにも気づいて、驚きのままに辺りを見渡した。

「ふ、あ…………!?」

 見渡す限りの草原と、鼻に届く自然の香り。
 遠くに見えるのは……町、だろうか。
 あそこで家を買えばいいんだっけ。

「うん」

 まずは歩こう。
 そう思った時、ふと思い出すのは“天秤の悪魔”からのギフト。
 貰いはしたんだろうけど、どう使うのだろう。

「え、っと……? っと、なんだこれ」

 視界の隅にちらちらとなにかが存在している。
 目で追おうとすると、それは視界の隅に固定されているように、視線と一緒に移動する。

「…………うわっと!?」

 軽く意識をそこに集中させると、三角形をしたそれから半透明の枠のようなものが現れた。
 おおう、ファンタジー……。

「すごいな……本当にファンタジーじゃないか」

 ドキドキしてきた。
 なのでドキドキしたまま、枠の中の項目に目を通す。
 様々なRPGよろしく、魔法だのステータスだのがある。
 その中でステータスを意識すると、その項目から新たなウィンドウが出現した。

◆ツァガ・ヒト/JOB:癒し人
 Lv 1

 HP 50/50
 SP 50/50

 EXP 0
 NEXT 5

 STR 5
 VIT 5
 DEX 5
 AGI 5
 MND 5
 INT 5
 CHR 5

 SKILL:ヒール、オートヒール、ソウルヒール、オートソウルヒール
 £:5555555

 ◆EQUIP
 頭:無し
 首:無し
 胴:村人の服(全身装備扱い)
 手:無し
 腰:無し
 足:無し

 *人物説明
 日本に産まれた普通の人。
 家族からは男だという理由だけで無視されていた。
 しかし世間体を気にするっていう理由のためだけに小中高と学校へ。
 高校ではほぼ自分で稼いでの生活。
 クリスマスにトラックの暴走に巻き込まれて死亡。
 ちなみに死を悲しんでくれた女性、香織はその後、彼の友人と結婚。
 幸せな家庭を築いた。
 妹は彼が死んだ後の保険金でいろいろあって助かった。
 兄の墓参りがしたいと両親に願ったが、そもそも墓がなかった。

「あんのクソ両親……!!」

 墓くらい作ろう!? ていうか説明あっさりしすぎじゃない!?
 そして香織さん!? もうちょっと悲しんで!?
 友人と結婚って、いつ頃したのか知らないけど書かれ方があっさりしすぎてて、もうギャグみたいにしか受け取れない!

「……ああ、そっか」

 そう受け取った方が楽なのか。
 そう思えばこの書かれ方も、いっそ笑い飛ばせた。
 やっぱり死んだんだなぁ。ろくな人生じゃなかった。でも楽しさがひとつもなかったかと訊かれれば、そんなことはなかった。
 少なからずやりたいことはあったし、元気な妹も見てみたかった。
 でも、それももう……過ぎたことなのだ。
 切り替えの速さは結構いい方だと思う。むしろ今からそうする。なのでもう気にしない。

「よしよし。じゃあ早速別のことを考えてと」

 金……£が綺麗に5の並びでございます。
 桁までもが5だったら最高だった。
 でもさすがに5万程度で家は買えないのだろう、こんな金額になってらっしゃる。
 イメージしてみると手が勝手に何かを掴むかたちになって、そこによくある$袋が出現する。ずっしり重たい……なるほど、これが5百万の重みか。
 中身はどうやら全て硬貨らしく、金色の硬貨が輝いていた。
 おお綺麗……これ溶かして武具とかに……してもしょうがないか。
 それよりもなにかを買ったほうが安上がりだ。むしろもったいない。
 で、他に調べておくことは……と。

「………………そーるひーる?」

 なんですかそれ。
 早速疑問符を浮かべながらスキル項目をいじくってみると、スキルの詳細が見れた。

◆ソウルヒール、オートソウルヒール
 SP、ソウルポイントを回復、または自動で回復する能力。
 ヒールやオートヒールがHPを回復するものなら、こちらはSPを回復する。

「うわぁい」

 すげぇや、これはかなり反則技だ。
 でも“癒す力”という意味では、なるほど、MP……じゃなかった、SPを回復できないでどうするって話だ。ずっと疑問だったんだよなー、癒しの……たとえば癒しの巫女〜とか言っても、能力を使うと疲労してしまって長くは保たない、とか。“それでも癒しの偉い人か!”って。
 そんな疑問を掬い取ってくれたのだろうか、この癒しは僕の疑問を打ち砕いてくれた。

「で、ええと?」

 話じゃもうひとつあるとか言ってたけど……ハテ。
 いや、もしかして貰った金がそうなのか?

「あ、これか?」

 SKILLの項目の下に、小さくSubSkillというのがあった。
 開いてみれば、“I★YA★SHI”ってスキルと“ステータス移動”というものがあって……ステータス移動?
 疑問に思ったら説明をGO。ていうかこのI☆YA☆SHIの書き方、なんだか無性にむかつくんだが。

◆SUB1:I★YA★SHI
 天秤の悪魔より押し付けられた能力の1。
 癒しスキル。なんかもう癒す。癒しなんだから癒す。
 いやいいでしょもう、癒されなさいよ。
 え? 治らない? うるさいわね、治りなさい。

◆SUB2:ステータス移動
 天秤の悪魔より押し付けられた能力の2。
 今現在のステータスを別の何かに移せる。
 例:STRが5の場合、そこからいくつか取ってVITに振り分ける。
 1以下には出来ないので、たとえば初期値5の場合は最大で4を移せる。
 つまり全ステータスをSTRに振り分ければ29となる。
 別に全部を移さなければいけないわけではない。
 そこは上手く思考を回転させよう。

◆ステータス説明
 STR/ストレングス=腕力
 VIT/バイタリティ=体力
 DEX/デクスタリティ=器用さ
 AGI/アジリティ=機敏さ
 MND/マインド=精神
 INT/インテリジェンス=知性
 CHR/カリスマ=魅力

 STR/物理攻撃力に影響
 VIT/物理防御力、最大HPに影響
 DEX/クリティカルヒットの確率に影響
 AGI/身体速度に影響
 MND/回復魔法や弱体系の魔法、状態異常抵抗、最大SPに影響
 INT/攻撃魔法や補助系の魔法、魔法防御力に、最大SPに影響
 CHR/対人、対魔物などとの交渉に影響

……。

 ……わあ。
 攻撃とかあるってことは、やっぱりモンスターとか居るってこと?
 剣と魔法の世界だものね、そりゃ居るよね。
 ていうかこうまで5が綺麗に並んでると、レベルアップがもったいないような。

「むしろツァガヒトって誰?」

 僕は多賀ヒトなんだが。
 由来を訊いてみれば、ただの人だからだとか“ヒトガタ”だからだとか。
 ろくな名前じゃないからいいけどさ。

「せっかくの心機一転なんだし、リネームとか出来ないんだろうか。ああいやいや、ステータス移動を試してみるべきか? それとも魔法……スキルを?」

 いきなり送り込まれても困る。
 まず何をするべきなんだろう。ああそっか、家を買うんだっけ。

「よ、よし、そうだよね、まずは家だよね。でも戸籍もないのに売ってくれるもんなの?」

 疑問だ。
 疑問だが、送り込んだ張本人がそう言うんだ、やってみるしかないでしょう。
 数々の疑問に後ろ髪を引っ張られながら、こうして……僕の異世界での第二の人生は始まった。

「ところで僕、明日18歳の誕生日なんだよね」

 家を買ったら盛大に祝ってみよう。
 家族に祝われたことのない僕だ、ハッピーバースデーイとか言って、クラッカーとか鳴らすんだ! いい! いいね!
 わくわくしながらちょっぴり遠い場所にある町を目指し、駆け出した。
 なんだか笑いが止まらない。
 妹を元気づけるために馬鹿をやってきた僕だけど、なんだかもうその馬鹿の部分が地になりつつあるなぁ、なんて、地味に遠い町を目指しながら思った。



03/家を買う……んだよね?

 町へ辿り着くと、活気溢れる喧噪が迎えてくれた。
 現代日本ではまずないような、“ああファンタズィー!”って感じの家とかが並んでいる。
 建ち方からしてまず日本とは違っていて、外国にならこういうのもあるんだろうなーとか考えられるそれらに、無駄に感動。

「マラカルニの町へようこそ!」

 ほら、町人も元気に迎えてくれた。マラカルニって名前らしい。
 マカロニのほうが覚えやすそうだ。

「元気な挨拶をありがとう。ところで家を買いたいのですが、どうすればいいですか?」
「町に辿り着いていきなりだなオイ!! い、家を買う!? ぃやっ……そりゃああるけどよ……」

 RPGならば町の名前を教えてくれるだけのモブっぽい人が、大層驚いておった。
 そりゃそうか、いきなり来ていきなり家を買うじゃあ怪しまれるよね。

「ご、ごめんなさい、ちょっと急ぎすぎました。ええっと、ごほん。…………」
「………」
「急がなくても、結局は家を買いたいわけなのですが」
「だよな。結論変わらねぇよな」

 なんだかしんみりと頷き合ってしまった。
 それから自己紹介などをして、この少し腹の出っ張ったおっさんがドルモスというステキな名前であることを知る。
 ドルモスさんは大工さんらしい。
 “この出っ張った腹の下には立派な筋肉があるんだぜぇ……!”とニタリと笑っていた。なかなか面白い人だ。

「んで、家を買いたいんだったな。1から建ててぇってんなら結構かかるが、無人の家もあってな。お前さん、どんな家がいいんだ?」

 そんなドルモスさんと、町の中を歩きながら話す。
 ……今さらだけど、言葉通じてよかった。
 ドルモスさんが普通に日本語話してくれたから、なんかこっちも普通に話してたけど、内心は緊張してました、はい。そして家の件ですが、家を買えとしか言われてないのでなんとも言えません。

「無人の家っていうのは前に人が住んでたとか?」

 ならば訊いてみましょう。幽霊とかが居たら怖いし。

「いやいや、スキル上げのために大工が建てる家ってのがあってな。あ、もちろん手抜きはねぇぜ? じゃなきゃスキルが上がらねぇからな。ともかくそういう家を、安値で売ってんのさ。客の要望を聞き入れたもんじゃねぇから、当然ここがああじゃなきゃ嫌だ、なんて話は聞かねぇ。そこにあるもので満足できるなら買いやがれって、そういったもんさ」
「ほええ……」

 なんかいいね、そういうの。
 僕そういうの大好きです。

「でも、お高いのでしょう?」
「安値だって言ってんだろが……そうだなぁ、土地込みでの話になるから、そりゃあ借家よりゃあ高ェエぜ? しかしまあ1から建てるのに比べりゃあケタが違う」
「ちなみに1から建てるとおいくら?」
「客の要望もいろいろあるからなぁ。一千万から始まって、上は要相談だ。広さや構造でも値段は変わりすぎるからよ」
「ワーオ!」

 こっち5百万なのに、そりゃ無理だ。
 よ、よーしよしよし、つまりそのスキルアップ用に作られた家を買えということですねデビル様!

「じゃあそっちの大工スキルで作られた方を───」

 買わせてもらおう。
 そう言おうとした時でした。
 町の一角、家と家の間にある道の暗がりで、妙なものを見てしまった。
 ちらりと視界に入っただけなのだが、慌てて引き返して見てみれば……なんと、ヒゲ面のおっさんが女の子目掛けて拳を振り上げているではないか!

「ぉわちょっ……なにやってんの!?」

 慌てて止めようと走り出そうとした───んだが、その腕をドルモスさんに掴まれる。

「なにをなさるの!?」

 なんでこんな言葉が出たのかは僕にも解りませんが、ともかく出た言葉に対して、ドルモスさんは溜め息を吐きながら仰った。

「やめときなあんちゃん。ありゃ奴隷商だ。言うことを聞かない奴隷や、動けなくなった奴隷にああして罰を与えているんだよ」
「罰って……」

 泣きながら蹲っているお子を殴ろうとするあれが……罰と言いますかアータ。

「奴隷は買われるまでは奴隷商の所有物だ。はっきり言って見るに堪えないが、俺達がなにか言っていい問題でもねぇ。なにせ、そういう世界───」
「その奴隷!! 買ったァアアーーーーーーッ!!!」
「なにににににににににィイイイーーーーーーッ!!?」

 叫び、走った僕を止められる者はおりませんでした。
 ドルモスさんがとんでもなく驚いてらっしゃったが、そげなことはどうでもヨロシ。
 怯える奴隷さんと奴隷商のヒゲの間に立ち塞がり、キッと睨みつける。

「な、なんだ貴様! またろくでもない正義感を振り翳した馬鹿か!?」
「客です」
「お客様は神様です!《どーーーん!》」

 すげぇ掌返しを目の当たりにした。
 貴様から神様へ、アルティメットクラスチェンジですよ。

「で、この子いくら?」
「…………ほんとに買うおつもりで? 隙を見て強奪とかではなく?」
「だってそういう世界なんでしょ? 仕方ないじゃない」
「いや、今までの正義感を振り翳す馬鹿は、自分が正しいとばかりにこちらへ攻撃してきましてねぇ。こっちも商売だというのに、まったく。正当な理由の下に奴隷を売るという状況にいきついているのに、どうしてそれを悪と決め付けるのか……。売れなければこっちも金を貸したただの馬鹿ですよ?」
「あ、やっぱり借金とかを返せなくなって奴隷になるの?」
「この子の場合は親に売られたんですがね。たまにいるんですよ、そういう親。こちらとしては金を返していただければそれでいいのに、こうして人を押し付けられてしまうと、売れなければ金にならない。解ります? それなのに悪だ悪だと言われる辛さ」
「うんまあいいや。で、いくら?」

 聞いていてあまりいい話じゃなかったから、先を促した。
 べつに自分の親がああだったからとか、そういう理由で買おうって言ったわけでもないし。

「突き出されて、契約書やら証明書を書いてから気づいたんですけどね……この子、呪い持ちなんですよ。お陰で買う人だぁれも無し。いえね、私としましてもお客様に呪い持ちであることを伏せて売るなんて卑怯な真似はしたくないので、馬鹿正直に説明しているんですが、当然のことながら売れませんで」
「そっか。で、いくら?」
「………」
「いくら?」

 あの、聞いてます?
 なんで僕のほうこそ“話聞いてました?”って顔で見られなきゃならんの?

「いえあの、呪い持ちですよ? よろしいんで?」
「私は一向に構わんッッ!!」

 どんな不幸の下に生まれたーとかそんなことはどうでもよろしい!
 ただ、なにも殴られることはねーベヨと思ったなら行動! それのみ!
 微妙に体を震わせながら言う意味は、きっと友人の家で読んだ漫画が影響している。

「そ、そうですか。では」
「あ、呪い付きだから安くするとか、この子自身の価値を殺すことはしないでね? 元値でどーんとかかってきやがれコノヤロー!!」
「なんで私こんな言われ方してるんで!?」

 そうは言いつつも、なんだか奴隷商さんの僕を見る目がやさしくなった気がしました。

「では。この子の親の借金の押し付けとばかりに支払った値段と、これまでの旅費や食費など、様々を合わせまして───あ、もちろん私の分は入りませんので」

 当たり前でしょうが。

「そうですね。丁度5555555£になります」
「ウィー!」

 全財産をコシャンと清算!
 そしたら奴隷商さんびっくり。まさか即金で払われるとは思ってもみなかったらしい。

「も、持ち合わせがあるのならそう言ってください。即金の場合は安くなるんですから」
「エ? そうなの?」

 言いつつ、払った金の中から5000£をくれました。
 おお、あなたやさしい人。

「サンクス。あ、参考までに、呪い価格だとおいくらだったの?」
「ざっと百万£ですね」
「すごい下がるなぁ……あ、もちろんそっちにしてくれなんて言わないからね?」
「ええ。どうやらあなたはえらいお人好しのようだ」
「そんなんじゃないんだけどね……」

 理由はどうあれ人を買った。
 それでお人好しなんて言われたって喜べねぇやなぁ……。

「そんなわけでドルモスさーーーん! 家の話、やっぱりなしでーーーっ!」

 奴隷を買った! 残ったお金は5千£! 家なんて無理です無理無理!
 叫んでみると、路地のほうで待ってくれていたドルモスさんが頭を掻きながら歩いてきた。苦笑してる。

「お前さん、また随分と正義感の強い奴だぁなぁ」
「正義? 違います、僕のは私心を肥やす悪の道。これを正義などと、勘弁してください。僕は僕がそうしたいからした。自分のためですとも! だから悪!」
「俺にしてみりゃ十分善人だよ。で、こっちの嬢ちゃんが買った奴隷か」

 ちらりと、蹲っているお子を見るドルモスさん。
 釣られて見てみると…………ワオ、このお子、耳と尻尾が……! あ、や、耳があるのは当然だけど、なんとその耳が獣耳……!

「この子、名前は?」
「名前はありません。どうやら名前もつけられずに育てられたようでして」
「うわー……」

 銀髪の、垂れ耳の獣人少女を見下ろす。
 ペキニーズのような長くフサフサな耳のある頭を庇うようにして蹲って、ふるふると震えている。……うわあ、モフモフしたい。
 髪の長さはセミショートのクセッ毛。けど耳の毛は長く、耳に並んだ毛だけなら肩までってくらい。なんというかこう……モフモフしたい。

「奴隷商さんは何故にこのお子を殴っていたので?」
「格好だけですよ。殴るわけがないじゃないですか。ただ、この子の親は本気で殴っていたようで、格好だけでも物凄く怯えるわけですが……それを利用して、言うことを聞いてもらおうと」
「アー……」

 なんだろう。
 奴隷商って普通は聞こえが悪い筈なのに、この人結構普通だぞ? むしろその親がひどいわ。

「まあ、ともかく。はい、これが購入証明に、契約書と……手を出してください」
「ほいさ」

 出せと言われてサッと出すのは、少々無警戒が過ぎるでしょうか。
 いえいえとんでもございません、こう見えて、悪い人には敏感です。

「……オン・ラブラトルド・アンベルト……」

 奴隷商さんがよく解らないことを呟くと、僕の手の甲に奇妙な紋章が現れる。
 ……竜の紋章!? 紋章閃とか出来ますか!?

「奴隷を手に入れた者の証、奴隷紋です。命を預かるのですから、主人としてきちんと世話をする義務が生まれます。それを怠った場合は……まあべつに罰はありませんが、あまりいい目では見られません」
「奴隷紋……ドラえもんと語呂が似てますね。あの、じゃあこの紋章ってなんの意味が……」
「手の甲に意識を集中してみてください。奴隷の状態が見れます」
「状態って……」

 言われた通りに集中して紋章を見てみると、自分のステータスを覗いた時と同じように、項目が現れる。

◆ネームレス/JOB:奴隷/主人:ツァガ・ヒト
 Lv 1

 HP 30/30(↓50)
 SP 10/10(↓40)

 EXP 0
 NEXT 5

 STR 2(↓4)
 VIT 2(↓3)
 DEX 2(↓2)
 AGI 15
 MND 2(↓1)
 INT 2(↓1)
 CHR 1(↓10)

 SKILL:嗅覚強化、聴覚強化、混血の呪い
 £:0

 ◆EQUIP
 頭:無し
 首:無し
 胴:奴隷の服(全身装備扱い)
 手:無し
 腰:無し
 足:無し

 *人物説明
 奴隷の亜人少女。
 猫狼・アイリュコスという魔物と人間のハーフであり、その影響か獣の耳と尻尾がある。
 人間の女性が魔物に襲われ、身籠って産まれた忌み子。
 それ故に親には嫌われ、殺すくらいなら利用してから売ろうと、そのためだけに育てられた。
 混血の呪いを産まれた頃から持っており、能力値が下がっている。
 混血亜人が誰でも呪われているわけではなく、呪われている彼女は稀。
 が、呪いが無ければ主人より能力値が高い。このザコめ。

……。

「うわぁ……」

 とんでもない裏情報が手に入ってしまった。
 なにか、この世界は魔物が女性に子供を産ませるのか。
 オークとかそういう話はなんかどっかで聞いた気もするが、まさかなぁ……。
 ていうか最後の一行余計です天秤の悪魔さん。

「亜人って珍しいんですか?」
「それはそうですよ。誰が好き好んで、女性を魔物に襲わせますか」
「そりゃそうですよね」
「当たり前だな」

 奴隷商さんとドルモスさんとともに、うんうんと頷く。
 けれど魔物との子であるこの子は、その言葉に涙を溜めて、僕を見上げてきた。

「いや、うん。キミが忌み子であることに、悲しいけど変わりはないと思う。親でさえそんな扱いをするなら、他の人だって平気でそんなことをするんだろうな、なんて僕でも想像出来るし」
「おいおいおい、俺はそんなことしねぇぞ!? 奴隷だから、亜人だからなんだってんだ、生きてて喋れて意志があるならそれで十分だろが!」
「……ドルモスさん、いい人だなぁ」
「大工にしておくにはもったいないですね」
「おいこら奴隷商てめぇ、俺に職失くしてどうしろってんだ」

 言いながらも笑って、肩を叩き合っている二人をよそに、僕は奴隷の少女を見た。
 歳は……僕より下だろうなぁ、随分と痩せてることも手伝って細く、余計に若く見える。見えるというか、実際若いだろこれ。
 怯えているのか、さっきから尻尾が丸まりっぱなしだ。
 そんな彼女へ、まず僕がすることは───

「名前を決めよう」

 ───これだった。




ネタ曝しです。 *スネオ  ええもう、スネちゃま。  ドラえもんですね。 *でも、お高いのでしょう?  テレビショッピングなどでの常套文句。  いいですよね、あれ。 *なにににににに  カメレオンより。椎名くんのイメージが大きい。 *私は一向に構わんッッ  バキシリーズより、烈海王。  少し体を震わせながら言いましょう。 *竜の紋章  ドラゴンクエスト・ダイの大冒険より。  ……アニメ、最初からやってくれないかなぁ。  どうも、恋姫も終わってないのに、ちょっと頭に溜まったなにかを吐き出したくなった凍傷です。  いつものことながら途中で飽きそうな気もしますが、暇潰し程度にでもどうぞ。なお、凍傷はプロレス技が好きなので、剣と魔法の世界なのに投げ技やラリアットばかりが活躍する可能性がございます。  その中でなにかに引っかかって削除対象になったら、是非とも笑ってやってくださいませ。 Next Menu