29/冒険の基本は防御力だと再確認した日

 ◆リヴァイアサン
 アッサラントと北の大地の間に存在する海を棲息圏とする、海の王。
 陸の王者ベヒーモスとは分かたれた存在として知られ、かつては狭界に存在していた召喚獣。
 この二体を融合させると完成するのがバハムートと呼ばれ、かつては若かったモミアゲ野郎の召喚獣として存在していた。
 ああちなみにもうモミアゲ様の正体には気づいただろうから、調べられる情報の幅を広げておくよ。いやーめんどい、めんどいねーこれ。
 そうなー、とりあえずモミアゲ様はいろいろな意味で冒険者だった。当時はまだ感情の面でいろいろあったしね。
 ただまあ振り返ってみればただの精神異常者だ。“助ける”ってことや“守る”ってことにこだわりすぎてた馬鹿な。うん。
 まあモミアゲ様の話は捨てておいて、レファルドとかの王が居る前で、この海王の名前を呼ぶのはやめようね。
 王の名前がリヴァイアで、彼女が“さん付け”で呼ばれることを嫌う理由がこの海王だから。
 あ。現在はバハムート状態から元に戻されて、ウンディーネと海の守護をやってるね。
 海の守護っていうか、某カニの守護だけど。なにやってんだろねほんと。
 ところでそのカニが今、大絶賛咀嚼され中である。
 どこでって、ほら、きみの足の下のトラウヅボ。

「(うおシャァアアーーーーーッ!!!)」

 文字を見た途端、屈んでトラウツボの口に手を突っ込んだ。
 反芻するようにドゥルンドゥルンと口を動かし水を吸っては吐いていたその口に、ギャボリと篭手を潜り込ませるカタチで。
 そして遠慮することなくIYASHI発動。塵になっていなければまだ死んではいない筈。なので癒して、リヴァイアサン様のご機嫌取りをばぁあーーーーーっ!!
 するとどうだろう。
 反芻とともに甲殻の欠片までもがドゥルンと吐き出されていたそれが、ウツボの口内へと緑色の光とともに戻ってゆく。
 やがてその光がウツボの口の中へと消えてゆくと、篭手越しにも感じる、手のひらをカサコソと動く感触。───神は僕を見捨てなかった!

「(あ)」
『(ギ)』

 でも、そんなウツボの口内のことなどリヴァイアサン先生が知るはずもなく。
 リヴァイアサン先生は身を捻ると水の流れを一気に自分の周囲へ集めて───あ、だめだこれ、死ぬ。
 そう冷静に心が判断した時、ログには“リヴァイアサンは大海嘯の構え!”の文字。あ、やっぱりだめだこれ、死ぬ。

『(ギギギギーギギギギ!!)』
「(いやメッセージでギギギギ言われたって解らないからね!?)」

 けれどなんとなくは───しなければいけないことくらいは冊子がつく。いやごめん、察しだ。冊子がつくだなんて、お得だねとか全然関係のないことを考えるくらいまで混乱してるけど大丈夫、死ぬつもりはない。

「(このイージスの盾できみの攻撃は防ぐぞ)」
『《ジャキィーン!》(ギー!)』

 イグのMNDをMAXにして魔法防御を高めつつッッ! 僕はステータス移動は出来ないからそのままで、ひたすらにIYASHIを全力解放!
 水属性の加護があれば、このシールド・イグナショフも相当強かったんだろうけど、今は言っても仕方のないことだ。
 この状況を生き抜く方法なんて、きっとこれしか無い。

  ───もしかしたら死んでしまうかもしれない。

 頭によぎるのは恐怖であっても希望じゃない。
 僕はまだいい。僕が死んでも、意志体総合ギルドに飛ばされるだけだ。シアンでもテッドでもマリアでも、きっとそれは変わらない。
 けど、イグはきっと塵になってしまう。
 だから───意地でも守る! それがVITと防御に全てを捧げた僕に出来ること!

「(酸素を回復させて───! 一気に叫ぶ!) あー! 海が綺麗だなぼぼぶぼ!!」

 声として出せたのはほんの少し。口の周りの空気が気泡となって散ると、それはもう声ではなくなった。
 けれど。

『海を褒める者あらば私参上《ジョパァンッ!!》』

 さっきからそこに居たんじゃってくらいの速度で、目の前にウンディーネさんが参上してくれた。

『あら、あなたはいつぞやの。海の底に立ちながらも海を愛でるその在り方、実に良しです』
「───! ───!!」

 ゴボゴボと苦しみつつ、後ろを見てとゼスチャー!

『ええそうでしょう、そうして体全体で感じたくなるほど水というのは素晴らしい。……いい瞳を、持っていますね《にこり》』

 ギャアア気づいてくれないぃいいいいっ!!
 なんでそんないい笑顔で“理解を得た”みたいな顔をしてらっしゃるの!? ていうか水の中なのに普通に喋れるんですねさすが水の精霊!
 とかなんとかやってる内に大海嘯発動ォオオオオーーーーッ!!? いやぁああーーーーーっ!! 助けてぇええーーーーーっ!!

『ふふふ、海底で無邪気に水を堪能するその姿、実に素晴らし《ガヴォオッシャアアア!!》ルヴォァアアーーーーッ!!?』

 僕の前に居た精霊様が、いい笑顔のままに水の暴力に飲まれた。直後に僕も飲まれたけど、ルヴォアーとか変な悲鳴は出なかったことを、せめて言い残しておこう。




-_-/シアン・ド・ギャルド

 ───体が思うように動いてくれない。
 なぜ、どうして、そんなことばかりが頭の中に浮かんできて、きちんとしなくちゃと思いたいのに、たったひとつの物事が頭の中を支配する。

  ご主人様

 無事だろうかとか傍に居てくださいだとかそんなことじゃない。ただただご主人様という言葉とお姿のみが頭を支配して、視覚として見るものがまるでうすっぺらな絵本のように思えてしまう。

  ───じくりと浮かぶのは、小さな頃から見てきた景色。

 それが悪いものであったなんて知らずに生きていた頃のこと。
 “親という役”をしていた他人が私を叩くことなど当然であり日常であったあの日のことを、私は今でも夢に見る。
 仕方ない。だって、それしかなかった。
 だから、自分以外が自分に手を上げることなんて当然だと、今でも思っている。
 けど。───けど。
 守ってくれる人が居て、その人が殴られるくらいなら自分が殴られるべきだと思える人に出会えた。
 自分の中の常識が覆されるのは好きじゃない。誰だってそうだと、私はナビを通して知った。
 この世界は“楽しいこと”に溢れていて、いろいろな人がそれを盛り上げようとがんばっているって知った。
 なら私は、私がされることを楽しまなければいけなかったはずなのに、楽しむなんてことを知ることさえ出来ないまま、親だった筈の人に売られた。
 べつにそれはどうでもいいことなんだと思う。母にとってはそれがきっと楽しかったのだろう。私は楽しめなかったけれど、そうされたということはそういうことなのだ。
 だから私は楽しまなければいけない。売られた先での生活を、楽しまなければいけないのだ。

  売られてから、“痛い”はなくなった。

 奴隷商という人は、人にやさしくすることが楽しいと感じる人だったのかもしれない。
 必要以上には干渉してこない人だったけど、叩かないだけ苦しくはなかった。
 それだけ。
 一緒に連れられていた奴隷の子がなにかを言っていたけど、言葉の意味も解らない私はただ震えるだけだった。
 それだけ。
 友達なんて呼べる人も、知り合いや苦笑する相手さえ居なくて、興味が向くなにかもなにもなかった。
 私の世界なんてそんなものだ。
 そんなものだと考えれば、あとは楽だった。
 体が動く通りに体を動かしているだけで、それだけでよかった。
 手を振り上げられれば体は震えて、頭を庇うために両腕が動く。
 知らない町で震えた私はなにも変わらず、そうやって弱って死ぬだけだ。
 それが自分の中の当然だ。だって、死ぬとか生きるとかの意味さえ知らなかった。

  だから、そんな世界を壊す人が居て、私の中の世界は崩れた。

 だって、呪われた人を買って、その日の寝食くらいのお金しか残らないなんて状況になっても笑う人なんて、初めて見た。
 知識を得たからこそ考えられる今でも、時々なんてことをしでかすんだろうか、なんて目で見てしまうことがある。
 壊れてしまった常識があって、怖くない笑顔があって、やさしく呼びかけて手招きしてくれた手があって……呪いを解いてくれて、笑ってくれた人が居た。
 怖がりながら食べたパンの美味しさを覚えている。
 一日も痛くない日があるなんて知らなかった。
 怖くない笑顔があるだなんて、不安も湧かない笑顔があるなんて、知らなかった。
 どころか、殴られることを自分の役目だなんて言って前に出る人が居るなんて知らなかった。
 どうしてそんなことをするのかが解らなかった。
 その人のことを知れば知るほど、疑問はたくさん増えていった。
 疑問が増えれば、その人がよく見ているマクスウェル図書館というので学ぶ日々。
 いろいろな本がそこにはあって、選べば“えいぞう”というものが出てきて学べる。

  男が女を守る意味

 それを調べると、様々な言葉が出てきた。
 男は見栄を張りたいものだとか、そもそも意味などなく、そういうものだからとか。
 でも、私はそんな見栄や意味を求めるより早く、ひとつの文字列に釘付けになって、納得してしまった。

  大切なものを守りたいから

 それだけでよかったのだと、納得してしまった。
 だから、ご主人様だけが殴られるのは間違っていて…………ああ、そうか。親の役をやっていたあの他人も、他の誰も、私のことが大切なんかではなかったのだ。
 理解と一緒に、私の中では弱弱しく点っていた小さな火が消えた。
 ご主人様以外のことがどうでもよくなって、この人だけは自分の全てを捧げてでも守り、幸せにしたいと思った。
 だから、ご主人様が幸せになるのなら、なってくれるのなら、それをする役目は私でなくてもいいと思っている。
 けど。ああ、けどだ。
 そんな人が傍に居ないだけで、こんなにも不安だ。世界がこんなにも怖い。
 私は私の幸せなんてとっくの昔に捨てていたと思っていたのに、ご主人様とテッドさんが二人でスキルギルドに篭っている間、ずっと怖くて仕方が無かった。
 そして、それはきっと今も。

「シアンちゃん! って! ああもう! チャージブラストォッ!!」

 思うように動かない体のまま、思考の海に埋没していた時。
 怒鳴り声が聞こえて、反射的に体がびくりと震えた。
 殴られると思って勝手に動いた両手が頭を守って、足は折り曲がって、勝手に座り込んでしまう。
 瞬間、私の体は吹き飛ばされて、海に落ちた。
 吹き飛ばされながら見る景色の中、テッドさんがクラゲのモンスターの攻撃を受けて、苦悶の表情を浮かべていた。

  ぞくん、と。“わたしのせいだ”が浮かんだ。

 不安を抱えたまま海から這い上がると、うるさいくらいにどくんどくんと動く心臓の鼓動と一緒に走る、“なんとかしないと”に襲われて。
 でも、なんとかって、なにを? わからない。そんなの知らない。誰も教えてくれなかった。
 知らない知らないって言っていれば誰かが救ってくれるのだろうか。
 知らないことは罪じゃない、なんて言葉が図書館にはあった。
 じゃあ、知らないままに自分の中にある“大切”が壊れることがあったら、果たしてそれは罪ではないのだろうか。

  動け、走れ、敵を倒すんだ

 答えはある。罪でしかない。
 だって、あそこに居るのはご主人様のために立ち上がれる人だ。
 ご主人様と笑ってくれる人だ。
 そんな人を失うことが───自分の無知で失うことが罪じゃなくて、なにが罪だ。
 無知を嘆く暇よりも、助けてから散々と後悔すればいい。生きていれば出来ることがあるんだ。死んでから、意志体になってからどうのこうのと考えるのでは、きっと遅いんだ。だって───それは結局、一度は死んでいるのだから。

  馬鹿は死ななきゃ治らないなんて言葉もあった。

  馬鹿笑いって言葉を知っている。

  馬鹿につける薬はないって言葉も知った。

  馬鹿正直なんて言葉も知って。

  そして───私は。

 初めて自分のために財産まで捨てて、自分を受け入れてくれた馬鹿な人が───大好きだ。

「う───アアアアアアアアッ!!!』

 声がブレてゆく。
 手がメキメキと音を立てて変異して、足がより速く動くためのものへと───獣のように変わってゆく。

  壊せ。大切だと思うもの以外など斬り捨てていけばいい。
  自分に守れるものなんてとても僅かなものだと知れ。
  知ることなんてそれだけでいい。
  知って、それだけを守るために今を生きるだけでいい。
  欲張ればそれだけ、大切だったものは欠けてゆくのだから。

 海に沈んだ足を弾かせ、海から飛び出て、そのままの勢いで駆ける。
 握り締める手には拳武器。
 内側に渦巻く破壊衝動を吸収してか、景色を歪ませるほどの熱を発するそれをより一層に握り締め、肉迫したモンスターへと遠慮もなく振るった。

『《ジョゴォッパァンッ!!》ピュギィッ!!?』

 何かを焼く音と一緒に殴った音が響き、マリアへ触手を伸ばしていたクラゲが吹き飛ぶ。けれど、吹き飛んだ体が途中で止まると、焼けた部分が粘液で覆われて、その部分が癒えてゆく。
 癒し、という文字が頭に浮かんだだけで、またしても心が、体が震えて動かなくなってゆく。いやだ、今は怯えている場合じゃないんだ。今動かないと、私は私の“大切”を守れない。

「く、っは……! 冗、談……じゃねぇ、ぞ……! なんだ、よ……この痺れ……! 息するのも、苦しい、と、か……!」

 私を庇った所為で敵の攻撃を受けたテッドさんは、うつ伏せで倒れたままに苦しそうに呻いていた。
 なんとかしないといけないのに、体はやっぱり動いてくれない。
 どうすればいいんだろう。こういう場合いつもご主人様が考えてくれた。
 私はただ暴れていただけだ。ご主人様が敵を引き付けるカタチで、私は遠慮なく敵を倒して───……でも、今そんなことをしたらみんな死んでしまうかもしれない。

『は、は……ハ……ッ……!』

 体が獣になったのは初めて。
 猫狼、なんて奇妙な種族とのハーフである私は、それになるだけで随分と疲れるみたいだ。敵を一匹殴っただけなのに、こんなにも苦しいくらい息苦しい。
 相手は全然平気そうなのに、不公平だな、なんてことを考えた。
 でも───

『ハー……! はー……!!』

 モンスター。
 相手がそんなものだから、私たちの中の常識が通用しないのなら。
 それになれば───なりきれば、私でも守りきれるのかな。
 そんな願いを、期待を、少しでも持ってしまった。

『───……!!』

 ぎ、しぃいい、と奥歯を噛み締める。
 もういい。もう、こんなバカみたいな無茶はしないから。
 今だけ、ばかみたいにまものになろう。
 きらわれたっていいから、あのひとがくれた“ちしき”ってものをすててもいいから───てきをたおすだけの、まものに。

『っ───クォオオオオオオーーーーーー───ッ!!!』

 まるでおおかみのとおぼえ。
 のどからはなたれた“おと”といっしょに、わたしのからだがかわってゆく。
 いっしょに、いろいろなものがきえていくかんじ。
 たのしいがきえて、あたたかいがきえて、いたいがきえて───こわいがきえて。
 さいごに、あのひとのあたまをなでてくれたおもいでがきえ───

『っ!!《びくぅっ!!》』

 ───きえかけて、それはいやだって、きょぜつしてしまった。
 とたんになみだがこぼれて、きえたはずの“こわい”があふれて、でもからだのへんいはとまらなくて。
 もんすたーのわたしが、こわせこわせっていって、もう、とまれなくて───からだがかってにくらげをなぐって、でもくらげはぜんぜんへいきそうで。
 ああ、そっか……ごしゅじんさまがおしえてくれたことのなかに、あったじゃないか。こういうなんたいせいぶつには、たいじゅつがきかないのがおおい、って。
 なのにかってにうごくからだは、つめでのこうげきさえしなくて、ただあばれるだけ。
 やがてかこまれて、こうげきをうけちゃって、しびれて。

  こわい

 “いし”になったら、そのさきでまたあえるかな、なんて考えて、こわくなった。
 だって、はんぶんがもんすたーのじぶんがしんだらどうなるのかを、わたしはしらない。
 しんじゃったらもう、あえないかもしれない。

  こわい

 こころがおれてしまう。
 うまくしゃべれもしないくちで、ただただ“やだよぅ”とつぶやいて、ひとでとくらげがおそいかかるけしきを、なみだににじんだめのままながめていた。

  だから、その。

 つぎのしゅんかん、どごっしゃどっぱーんって、すっごいおとといっしょにそれらがながされたとき、ほんとうにおどろいた。

「ぷぁあああっはあぁあっ!! 死ぬっ! ほんと死ぬっ!!」

 そして、それといっしょに、なみからでてきたひとをみて……わたしは、もうどうしようもないくらいに───




-_-/ヒッティー

 咄嗟に水バリアーを張ってくれたウンディーネさんに感謝しつつ、ざざーんと見事に波に流されて海岸に辿り着いた僕とイグは、なんだか一緒になって倒れているシアンとマリアとテッドを見て、「やべぇ……やっちまった……」なんて犯罪者的な言葉をもらしていた。
 い、いや、違うんだよ!? 今回は僕悪くないよ!? リヴァイアサンが勝手に怒り狂って大津波を起こしただけで! って! そんなことよりとりあえず癒し癒し!
 びくんびくんと痙攣するイグに癒しを送りつつ、すぐに三人に駆け寄って癒しをかけると、三人とも無事だったようで普通に回復した。……のはいいんだけど、あれ? なんか僕ら以外にも居る? というか囲まれてる? ヒトデにクラゲに……あれぇ!? やっぱり囲まれてる!?
 なにこれなんでこんな状況に!? リヴァイアサンと遭遇するよりは心優しいけど、それでもよく知らない固体に囲まれるとか怖いです!

「テッドちょっとテッド起きてテッドテッドったら起きてぇええええっ!!」
「やめろやべべろやべっへごふぇえ!! おぎっ……起きでるがらっ……ちょっと落ち着げっ……! やめろ揺らすな脳が揺れる揺れる!!」

 回復した筈なのになかなか立ち上がらないテッドを揺さぶりまくったら、気持ち悪そうに立ち上がった。
 え? なにその嫌そうな顔。え? もしかして死んだフリしていたかったとか? そんなにやばい相手なの?

「ええっとだな……! 厄介なことに、敵が強力な麻痺攻撃を使ってくる……マリアちゃんでも立っていられないほどで、息するのも辛い強力なやつだ。……正直、お前が痺れたら強制的にゲームオーバー状態だな」
「え? 痺れても考えることが出来れば癒しくらいできるけど───でも面倒そうだから逃げ───離れよう」
「早いなおい!!」
「勝てないなら敵から距離を取る。当然じゃないか」
「いや、そうだけどよ……ああそうだなっ! そうなら逃げ───離れるかっ! なんだよそうじゃねぇか、勝とうとするからいけねぇんだ!」
「じゃあ戦術的大疾走!」
「おう! 逃げるんじゃあねぇ! 相手とは逆方向に全力で走るんだ!」

 マッスルに撤退はない。とは別に言わないけど、なんだか悔しいので走るだけ。に、逃げるんじゃないよ? ほんとだよ?
 だから次会った時は覚悟せよ貴様らー! とばかりに走ったはいいけど、既に囲まれておりました。

「おおう既にチェックメイト……! ど、どうするよ、ヒト……!」
「危機的状況で僕と握手!」
「え? お、おう《ぎゅむ》」
「そしてチャージブラスト!」
「おおなるほど!」

 言うや否やテッドはマリアの手を、僕はシアンの手を掴んで、ステータス移動でテッドのINTをMAXに。そして放たれるチャージブラストで僕は飛び、それに釣られるようにみんなも空を飛ぶ。……ほんの少しだけ。ああっ! やっぱり重すぎた! さすがにこの人数で一緒に飛ぶのは無理があった! ていうか鬼憧装備外すの忘れてた! これ外すだけでも随分違うだろうに!
 落下する中で装備を外───さず、まずは落下地点で触手を伸ばし始めたクラゲにバンカーバスター。全体重を乗せたBUCHI-KAMASHIで潰れてもらい、けれど死にはしなかったクラゲから降りるや装備を解除。もう一度テッドにチャージブラストを使ってもらうも、体が吹き飛ぶその瞬間、クラゲの触手が僕の腕に突き刺さる。柔らかな感触の先に毒針のようなものがあって、突き刺さった瞬間に麻痺が発動。
 ぐったりとしているシアンの手を取る左手の感覚が消え去って、同時に……吹き飛ばされて離れてゆく景色の中、シアンだけが残された。

「───!! イグ!!」
『ギー!!《キュバァンッ!!》』

 そんな景色目掛けてDマグナムを放つも、大して溜めもしていない上に離れてゆく僕らから放たれるそれは、注意を引くエサにもなりはしない。
 一瞬怯んだだけで、クラゲやヒトデがシアンへとゆっくりと近づいていくのが見えた。

「っ───!!」

 どうする。
 どうするどうするどうするっ……どうすればいいっ!
 このままじゃシアンが殺される! 考えろ、考え───るまでもなかった!

「VITMAX! 奴隷紋を通してシアンに鬼憧重鋼装を装着!」

 麻痺はどうにもならないにしても防御力ならなんとかなる!
 さらにオートヒールを、とスキルを発動させても、距離が遠すぎるために出来ませんというログが。
 ならばと着地してから《どぼぉっ!!》ゲバァッハァーーーッ!!?

「お、おいヒト!? 大丈夫か!? 思いっきり脇腹から岩に着地したみたいだが……!」
「グビグビ……!《こぽこぽ……》」

 口から謎の汁をこぼしつつ、脇腹への激痛にもだえた。
 けれどそれもなんとか癒してシアンのもとへとダッシュ。クラゲに刺されようがヒトデに蹴られようが私は一向にかまわんッッ!! 防御馬鹿をナメるなぁあああっ!!

『グチュグチュ……!』
『ピギーーーーッ!!』

 あ。無理だ。道塞がれたらどうしようもないや。こうなったら防御でどうにかなる問題じゃないや。

『グチュゥッ!』
「───!」

 クラゲの触手針攻撃! コマンドどうする!?

結論:スターシールド

「バーリア!」
『《ゾブシャア!!》ピギャアアアアーーーーーーッ!!?』

 コマンドとか言いつつ結論しか出ませんでした。
 敵が強い? 密集していて逃げられない? じゃあ盾になるじゃない。
 ヒトデの体を突き刺した針が、見事にヒトデさんを麻痺させた。そんなヒトデさんを横にするように持って、歯を食いしばって全力で振り回し───投げる!!

「これぞ戦場利用闘法外道拳の真髄! ヒトデソーサァアーーーッ!!」

 麻痺してガッチガチに固まっているそれは、さながら大きな手裏剣である。
 進行方向へとゴフォンと投げたソレは、非力の所為か大して飛ばなかったものの、前方のクラゲさんを押し退けるには十分だった。

「よし道が開け《ドスドスドス!》針がぁああーーーーーっ!!」

 そしてヨッシャアと喜んでいる内に刺される触手針。でも僕、脳で命令出来れば癒せるみたいなので無視して癒していざ突撃。むしろ飛び出している触手針に噛み付いて、顎と両腕を使って無理矢理ブブチャアと引っこ抜いた。

  コシャンッ♪《フリルクラゲの麻痺針を手に入れた!》

 そしてなんかインベントリに便利に収納された! ていうかフリルクラゲっていうの!? フリル!? ……あ、確かにひらひらフリル……ってそんなことは後でよろしい! テッドに依頼書任せっきりで、モンスターを“クラゲとヒトデ”としか認識してなかった自分に“お馬鹿さぁああん!”と叫びたい衝動もこの際うっちゃって!
 別個体でシルクラゲが居たりしないかなぁとか考えてないよ!? ほんとだよ!? だってシアンのピンチだもの! ピンチだから───ピンチ……

『ピギギギャアアーーーーッ!!』
『ルヂュルヂュヂューーーーーッ!!』
「…………《ガンゴンゴンガンガキゴキゴキィンッ!!》」

 襲い掛かる連撃! 叫ぶモンスター! ……そして、それらを容易く弾くオーガさん。
 ……うん。鬼憧装備&VITMAXの前には、モンスターさんの攻撃も意味をなさなかったよ。
 あれー? ピンチってなんだったっけー。

「……はぁ。イグ」
『ギッ』

 無事は確認出来た。ならば囲まれたままでいる理由もなく、僕とイグはシアンのもとへ。
 そして僕がイグの盾になりつつ、イグは破壊力全開でDマグナムを撃つ、という戦法で、一体一体確実に潰しにかかったのでした。




ネタ曝しです。 *うおシャアアーーーーッ!!  ジョジョでありそうな言葉。むしろあった筈。  どこでかは覚えておりませぬ。 *このイージスの盾できみの攻撃は防ぐぞ  SAGA2よりアポロンの有名なセリフ。  秘宝はなんだかよかった。最後、めがみに全部取られちゃうけど。  しちしとう、のレアさは無駄にひどかった記憶が。  ひほうをよこせ! おれはかみになるんだ! *危機的状況で僕と握手!  後楽園遊園地で僕と握手! *BUCHI-KAMSHI  SUMOUの技術の壱。  SURIASHIから派生する突撃技であり、ぶつかればスパークと衝撃破が広がる。 *あ。無理だ。道塞がれたらどうしようもないや。こうなったら防御でどうにかなる問題じゃないや。  あ、無理だわ。こうなったらどうしようもねーわ。ガニマタで取り戻せるもんじゃねーわ。  脱げたわ。道に置いていくカタチになったわ。  カッコカワイイ宣言より、地元で一番強そうな先輩。  強いじゃなくて強そうなのがミソ。 *これぞ戦場利用闘法外道拳の真髄!  これぞ南斗六聖拳白鷺拳の真髄! 烈脚空舞!  北斗の拳より。ネタとしては凶徒の拳。 Next Menu Back