02/ゴッドの居る日常

 夜が明けた。
 あれからなんとか寮に戻ることが出来た俺と彰利は、力の使いすぎで気絶した輝耀を……

「ア、アタイの部屋に連れてくべーよ! そしてふんどし締めて女体の神秘を研究するどすこい!」
「却下だたわけ」

 白瀬の部屋へ届けた。
 「あのー……何がどうなって泊めることになったのですか?」と、当然ツッコまれたわけだが……理由は明日、部室でということでなんとかスルー。
 そして現在がその部室なわけで。

「それで、部長さん? 悠介さん? これはいったいどういうことですか」
「火事場のクソ力ってマジであるんだぜ? なにせトンベリスーツを腕力のみで引き裂けたんだ」

 早速訊ねてきた白瀬に対し、まるで関係ないことを返す彰利はある意味勇者だ。
 しかも実際引き裂いてみせたからツッコむことも出来ん。

「そんなこと訊いてないです黙っててください部長さんは」
「“それで、部長さん?”って真っ先にアタイに言ったのに!?」

 いや、それはお前がまるで関係ないことを返すからだろ。
 ちゃんと聞く姿勢で待ってた白瀬が逆に可哀相だ。

「そうですわね……晦さん? 私も是非、この状況の説明をしてほしいですわ」
「……! 彰利、さん……プレゼント、破いた……!」
「え? あ、ギャア! いやそのこれはねマリヤさん!? いろいろと生きるために仕方が無かったっつーか!」
「お前の生死は神をローアングルで撮影することで決まるのか」
「すげぇだろ」
「そこは否定しような、親友」

 あー……なんだ。言うまでもないかもだが、現在この部室には、普段は絶対に来る筈のない人物がやってきている。
 茶色なはずの髪が黒く、今までつけていなかった空き缶のような髪留めで髪を二房ほど結った存在。……そう、八幡颪神覚醒状態の輝耀晃光である。
 そんな状況のさなか、彰利は目に涙を溜めるマリヤの頭をイーコイーコと撫でつつ言う。

「ところでヤワチン、キミのことってなんて呼べばいい?」
「ヤワチッ……!? 八幡颪神じゃ! なんじゃそのおかしな名は!」
「むっ!? おかしな名とは失礼な! 日本では古来より、あだ名といえば“〜〜ちん”というのが当然なのですよ!? ヤワタオロシノカミならヤワチンになるに決まっとるべヨ!」
「〜〜〜〜っ……《かぁああっ……!》」
「ややっ!? マリヤさんが真っ赤に! どうしたんだい!? いったい何事だい!? 何を考えて真っ赤になったのかお兄さんに報告するんだ! さ、さあ早く! ハァハァ!《バゴォ!》ニーチェ!!」
「とりあえず落ち着け。な?」
「ワガガガガ……ふぁ、ふぁい……」

 暴走を始め、真っ赤になったマリヤに迫る親友の顎を殴り、落ち着かせた。
 しかし5秒後には完全に治り、ニコリと笑ってやがるんだから異常だ。

「えーとね? つまりアタイら、ネタを捕まえてきたのじゃよ」
「ネタ、ですの?」

 と、巳浜。
 そう、あくまでネタ欲しさに捕獲してきた。憑依された輝耀が不憫だってこともあるが。
 勝手に憑依したんだから飽きればすぐに出て行くだろうと踏んでいたんだが、てんで出ていきやしない。

「うす。アタイと悠介、遺跡の奥でさらなる入り口見つけちゃってね? で、その先に八幡颪神を名乗る神様が居てさ。いろいろあって遺跡で出会った輝耀晃光ちゃんが憑依されてしまいまして、現在に至りマッスル。ところでキヨウアカリってスゲー名前だよね。苗字もじってキョンちゃんって呼んだら愛してくれるかな」
「あの……部長さん? 言うにことかいて憑依って……」
「あれ? 愛発言はスルー?」
「ふむ、まあ憑依という表現は間違いではないのぉ。妾はこやつの体を借りておる。いろいろあって霊体のようなものじゃからな、憑依という言い方は間違いではない。というわけで、自己紹介をしよう。妾は八幡颪神。八幡の風を司る神じゃ」
「や、やわたおろしのかみ……?」

 輝耀の口から語られる八幡の言葉に、マリヤが興味を引かれて俯かせがちだった顔をあげる。そこへ彰利が紳士的な笑みで一言。

「あ、本名スマタノモロチンだから」
「ひやぁああっ……!?《かぁああっ……!》」
「不潔ですわっ!」

 マリヤが真っ赤になったその横で、ズビシィと勢いよく人指し指を立てた手を振るった巳浜が叫ぶ。指差された彰利は何故かポッと染めた頬を両手で包み、目を閉じうっとりしていた。
 神の「そのような名前であるわけがなかろうが!」なんて言葉も普通にスルーだ。
 そんな神を見かねてか、茶を用意するのは白瀬。

「まあまあ神様? お茶を淹れましたのでどうぞ」
「む? おお、気が利くのぅぬしは」
「それを飲んだら体から出てってくださいませ」
「……前言撤回じゃ」

 しかし飲む。
 ちなみに輝耀は白瀬の友達でもある。その友達が憑依されたとあっては、心中穏やかじゃいられないんだろう。スマイルなのに顔が怖いぞ、白瀬。

「キョホホ、かなっちはすげぇんだぜ? なにせBPSと呼ばれるほどの機械マニア! かなっちにかかれば神などチェーンソーで一撃よ!」
「びぃぴぃえす? なんじゃ、それは」
「バトル・プログラマー・シラセの略なんだぜ!? ……うん、意味はないや」
「…………あの?」

 遠い目で壁の先を眺める彰利を無視して、いい加減イライラが募ったのか、巳浜が輝耀に詰め寄る。

「神だかなんだか知りませんが、私たちをからかいたいだけではありませんの? どこをどう見たところで髪を黒くした輝耀さんではありませんの」

 ごもっとも。
 昨日あんな体験をしなければ、俺だってそれはないだろってツッコみたい。
 しかし現に髪の色が変わったり口調が変わったりするんだからなぁ……。
 けど基本、八幡島民は黒髪だ。つまり輝耀の髪は茶色に染めたってことになるんだが。

「なんじゃ、説明だけでは不服か? ならばそこの頭の尖がった変態にでも投身自殺をさせてみればよいじゃろ。一刻も経てば普通に回復しておるはずじゃ」
「いや待て神様、こいつなら復活に一刻もかからん。5秒で十分だ」
「つくづくバケモノじゃのう……」
「あれ? なんかアタイの評価がどんどん怪物チックになってない?」
「ふふっ、スマキ状態で二階から捨てられても平気な部長さんがなにを今さら」
「マイフレンド、部員が僕をモンスターとして認識し始めてるんだ。アタイったらどこに相談すれば安らぎを得られますか?」
「電話で55−0000か54ー0000にでもかけとけ」
「OK!」

 その後彼はキッチョム話が終わるまで、ケータイを耳に当ててまったり笑顔で過ごした。

「では神らしい力のひとつでも見せてくださいますか?」
「昨今の人間は疑り深いのぉ……では風でも放ってくれようか?」
「いや、ここはてっとり早くアレでいこう。白瀬、たしか胡桃があったよな? それを素手で割ってもらおう」
「……時々、悠介さんって妙に力技できますよね」
「こいつが出す風は冷たいんだよ」
「いえっ、その意気やよしですっ」

 やっぱり“>ヮ<”顔で楽しそうに言う白瀬。ほんと、無駄にノリがいい。
 対する八幡は、俺が指差してまで言った状況に、なんでか赤くなってそっぽを向く。
 ……昨日は昨日でいろいろあったが、まさか本気で俺相手にアレコレ、なんて考えてないよな?

「はい、これですね」

 白瀬が胡桃を持ってきてくれた。その数三つ。
 それを受け取って八幡に渡すと、「き、綺麗な木の実じゃな……大事にしよう……」と懐に入れて、ってこらこら待て待てっ!

「プレゼントじゃなくて、それを割ってほしいんだよ」
「な、なんじゃそうか。ならばそうと先に言え」

 いや、言ったよな俺。間違い無く言ったよな?
 そんな思考が届くはずもなく、懐から胡桃を取り出した八幡はそれをカロカロと弄んだのち、ひとつを中空に放る。
 で、手刀をシュパーンと振るってみせると───冷たい風が吹き荒び、胡桃がパーンと縦に割れた。

「まあ、こんなものじゃが」
「まあ、輝耀さんは空手でも習ってらっしゃいますの?」
「唐手? いや、そんなものは習っておらんが……こやつはあれか? 不可思議を信用しない人間か」
「現実主義というだけですわ。すごい手刀で胡桃を割っただけではありませんの」
「あまり力を使うと、このめのこの体に負担をかけるからじゃ。妾は八幡の神。八幡に住むかわいい子たちに無理はさせられん」
「ハーイ! ハイハイ! じゃあアタイにも優しくして! 具体的には今すぐ衣服をはだけて写真撮らせてください! お願いしますビッグマム!」
「あ……彰利、さん……!」
「ギャアしまったマリヤちゃんが見てた! でもどうか解って。これは大事なことなんだ。男として女体の神秘は解明しねーと夜もモンモンで眠れやしねー」
「新聞部部長としてはアウトだろ、それ」
「男としては花丸だと思うんじゃぜ?」

 ニコリと笑ってカメラを構える親友をサミングで悶絶させて、話を進める。
 とりあえず巳浜にはこれから地道に知ってもらうとして、今はこの神をネタに新聞部の存続を確かなものにするのが先だ。

「事情は解りました。けれどどうしましょう。確かに神様を見たという事実は新聞部にとっては有益ですが、神を曝し者にするようで気が引けます」

 白瀬が左頬に左手を添えて言う。
 そうなのだ。確かに私欲で神を曝し者にするのは、神社の息子としてはしたくない。

「曝し者じゃなければEのYO。つまり同意を得ればモーマンタイ! かかか神様! 神様は己のボデーに自信がありますか? あるなら是非とも脱いでください! だだだ大丈夫! 曝されるのはキョンちゃんの肢体だから!」
「白瀬、空気の入れ替えがしたいから窓開けてもらっていいか?」
「はい」
「八幡、遠慮はいらんから思いっきりやってくれ」
「そうじゃの」
「え? え? なに? もしかして今からストリップショー!? どどどどうぞ遠慮なく! アタイはいつでも準備OKだぜ! こんな日のためにカメラ新調しといてよかった!」

 カチャリと取り出されたのは新品のカメラ。中々大きく、迫力満点。
 俺はそれをちょっと貸してくれと言って借りるとGOサイン。

「さわやかな風をぷれぜんとしよう」

 八幡はにこりと笑むと手を軽く振るう。
 途端に突風が吹き荒び、彰利は部室から大空へと一気に羽撃(はばた)いた。

「……綺麗に飛びましたわね」
「あ、あうっ……彰利さんがっ……!」

 その姿を目で追っていくと、学校の外まで見事に飛んでいき……落下寸前で車にゴシャアと撥ねられていた。遠くに居ても聞こえる「ニーチェ!」の声が、なんつーか“ああ、無事だな”って思わせた。
 現に、悲鳴をあげたマリヤが即座に澤田さんに呼びかける中、眺めていた景色の先で彰利はムクリと起き上がり、騒然たる状況の中で「特撮じゃよー!」と元気に叫んでいた。……それで散ってゆく八幡島民を、俺はどう捉えればいいのやら。

「相変わらず頑丈ですわね……」
「な? あれが神の力で頑丈になった彰利だ」
「普段からあれくらい頑丈ではありませんでした?」
「いや……白瀬? 何気にすごいこと言ってるが、あそこまで勢いよく飛んであそこまで見事に勢いよく車に撥ねられて、平気でこっちに走ってくるヤツは人間じゃないぞ?」
「ふふっ、そんなのは今さらですよ、悠介さん」
「……そうかもな」

 神に出会う前から不死身が定着している親友。
 そんな彼がこちらへ手を振りながら元気に駆けてくる景色を、どこか遠い目で眺めた。


───……。


 そんなわけで、ここ数日は新聞作りに励んでいるわけだ。

「フゥウウーーーーアァーーームアァーーーーイ!!」

 皆が慌しく動く中、彰利が部室の窓から外へ向けて叫ぶ。
 新聞作りはこれで結構面倒だ。
 俺と彰利の二人だけの時なんて、最初の一つを作るのにどれだけ苦労したか。

「紙がもったいないから出来るだけみっしり埋めてくれな」
「あまりにみっしり詰めすぎると、見る人が居ないのではありませんか?」
「字が小さいから見ないなんてヤツは、そもそも新聞に興味がないからほっとけ」

 文字などの並べ方や装飾は白瀬が担当してくれている。
 細かい作業が得意で、機械に強いのだ。

「うーん……この文面では少々押しが弱いですわね。新聞とはィヤンパクト! ィヤンパクトなくして読者は得られませんわ!」
「前面を“巳浜、ついに脱ぐ!”とかにすれば売り上げアップ間違いなしじゃぜ?」
「デマはもうやめろと言っていますわ」
「デマじゃなくするためにも脱ごう! 撮影は任せてアミーゴ!《ゾブシャア!》みげーる!!」

 さて、目潰しされて悶絶する部長はほうっておいて───って、

「目潰しされて目を離した瞬間にもう復活してるって、どれだけ回復が早いんだよお前は」
「もう慣れっこさ」
「お前が慣れても周りが慣れんわ!」

 溜め息を吐くと同時に視線を移せば、澤田さんがばたばたと走り回っている。
 その中でマリヤが「あ、あの、わたしもお手伝い……」と手を伸ばすのだが「いけませんお嬢様! 紙に触れ、指を切ったりでもしたらどうしますか!」とメイドな澤田さんに却下される。
 澤田さんにももちろん男女が居て、キリッとした澤田さん(女性)はいろいろとマリヤの身の回りの世話をしている。年長者の澤田さんは澤田さんの中でのリーダーで、この女性澤田さんは女性ならではの悩みに対処するために存在している感じだ。

「マリヤちゃん、こっちで一緒に作業しましょう」
「あっ……か、香夏子さんっ……!」
「あ、ちょっ……困ります香夏子さま、お嬢様が万一怪我でもされたら……!」
「過保護は敵ですよ、澤田さん。怪我も怖いですけど、やりたいことをさせてあげられるようにバックアップすることのほうが、マリヤちゃんはきっと喜びます」
「はっ───も、盲点でした! お嬢様を危険に曝さないために頑張るあまり、お嬢様の行動を制限するなど澤田失格! ───澤田老!」
「うむ。───各員に通達! お嬢様を全力でサポートせよ!」
『イエスマイロード!!』

 澤田さんの結束力は高い。
 マリヤのためならえんやこら、すぐにコツなどを教えて、マリヤが行動しやすいよう準備を完全なものにした。
 そんな厚意を受け取って白瀬とともに作業するマリヤは自然と微笑み、それを見ていたメイドな澤田さんがブシッと鼻血を吹き出した。

「ぐっ……! 強烈ですお嬢様……! そして香夏子さま、ナイス助言です……!」
「いえあの、お礼よりもまず鼻血をなんとかしてください」
「恐れ入ります……」

 鼻に冷や水を搾ったハンカチを当て、はふーと熱い溜め息を吐くメイド澤田さん。
 澤田老もうむうむと孫を見つめるおじいちゃんな顔で、マリヤを見守っている。
 平和でいいな、澤田さん。

「つーわけで見出し! 見出しにィヤンパクトが欲しい! なんたら新聞〜なんてもんじゃあねぇ! もっとィヤンパクト優先の名前! なんかない!?」
「ん? んー……そうだなぁ」

 急に話を振られ、思考。
 インパクトある名前……“校内新聞”じゃあ普通だ。
 八幡新聞でも普通だし───いや待てよ? 八幡新聞?

「……八幡の神自らに何かを書いてもらうってのはどうだ?」
「それいただきっ! よっしゃあ神てめぇ! タイトル書けタイトル! あとパンツ見せてください!」
「神てめぇじゃと!? 恩恵を与えた相手によくもまあそんな口を……! しかしそれも案外面白そうじゃな。よし、妾の達筆っぷりをその目に焼き付けるがよい」
「なんかさりげなく入れてるセクハラ発言がことごとく無視されてる……恥らい怒るおなごの顔が好きなのに……。あ、タイトルは“神でさえ惚れるドキドキ乙女チックトルネード新聞”。略してカミボレだ。しっかりカタカナで書けよテメー」
「お前のその“トルネード”にかける情熱はなんなんだよ」

 部の名前だってロマンストルネード新聞部だし。

「くくっ、妾を過去の者と侮ったな? 神である妾にかかればカタカナくらい造作もないことじゃ」
「なにぃ!? ……ククク、どうやらとんでもねぇヤツを相手にしちまったようだぜ? だがこの俺も男よ。貴様が書いたもの……どんなものでもタイトルにすると誓ってやろうじゃないか!」
「ほっ! ははははは! ほざきよるわ!」

 八幡が書き物から筆ペンを選び、用意した和紙に文字を連ねる。
 おおっ……しっかりとカタカナ! しかも上手い! うま…………

「……ところでこの文字を見てくれ。こいつをどう思う?」
「すごく……カニボレです……」

 彰利が白瀬に和紙を見せると、白瀬はひどく疲れた顔でそう返した。
 そう。カタカナの“ミ”を書こうとしたんだろうが、一本線が足りなかった。
 お陰でテイルズウィーバーのモンスターであり、以前彰利の口から出た存在の名がタイトルとなってしまった。

「ふふん? どうじゃ?」
「そしてこのドヤ顔である」
「……ドヤ顔なのは見事ですわね。けれど、部長? まさかこれ、そのまま新聞にするとか言いませんわよね?」
「………」
「部長?」

 八幡のドヤ顔(顔はまんま輝耀だが)にボブシューと溜め息を吐く彰利だったが、巳浜の問いにびしりと停止。やがて歯を食い縛りながらポロポロと涙を流し、

「言っちゃった……! どんなものでもタイトルにするって言っちゃった……!」

 後悔しか含まない口調で、カタカタと震えながらそんなことを言い出した。

「えぇええっ!? まさか本気でやるんですの!? いいですわよっ、部長権限とか使って却下したり訂正したりをなさい!」
「巳浜っち……普段から不真面目なところばかりを見せる部長ですまない。だが私たちはもう悲しむまい。俺は今から誠実に生きるぞ。だからタイトルはこのままだ」
「次からでいいですわよ! あ、あのですねぇ輝耀さん!? この字、間違えてますわよ!? これではカミボレじゃなくてカニボレですわ!」
「……な、なんじゃとっ!? 妾が間違ったと申すか!!」
「申します! 正しくは〜……こうですわ!」

 和紙の横に同じくカミボレと書いて見せ、八幡に見せる巳浜。
 それを見た八幡はかぁあああと赤くなっていき、

「かかかっかか返せ戻せそれは無しじゃ!」
「馬鹿野郎! 貴様……神のくせに俺を嘘吐きにするつもりか!? 俺はどんなものでもタイトルにすると誓ったんだ! なのにっ……なのにそれをお前が裏切ったんじゃないかぁああああっ!!」
「はうぐっ!? じゃ、じゃがしかしな……!」

 彰利の手に目薬が輝いた。
 そんな彼は涙に見せかけた目薬をだぽだぽと流し、身振りも合わせて八幡を全力でからかっている。……あーあ、知らねーぞ彰利……バレたら絶対にボッコボコだ。
 ……まあ、ソレを承知でからかってるんだろうけどさ。

「皆の者、状況は理解したな? では部長命令だ! 神の過ちをタイトルにした新聞を全力で発行する!」
「ままま待たんか! ぬしは妾を曝し者にする腹積もりか!? それは間違いじゃと言っておろうが!」

 自分の話を受け取ってもらえない状況に、ついに八幡が怒りを露にする。
 しかしそこは彰利。キリッと真顔を作ると、平然と嘘を吐いた。

「じいちゃんの遺言なんだ……嘘はついてもいいが、約束は守れる男になれって……!」
「な、なんと……! 知らぬとはいえ怒鳴ったりして悪かっ───」
「ちなみにこいつのじいちゃん、まだピンピンしてるぞ」
「貴様ぁあああああっ!!!」
「ゲェばれた。あわわわ」

 そんな嘘をバラしてやれば、次の瞬間、彰利が不可視の力で空を飛んだ。
 窓ガラス破壊コースだったから窓を開けてやると、そのままの勢いで大空を舞い……落下した先で再び車に撥ねられ、ニーチェと叫んでいた。
 ……なのに普通に「何処見て運転しとんじゃコラァーーーァアア!」と叫んでいるあいつは、もはや人間をやめていた。

「何処を見て運転していたら、空から飛んでくる人間を躱して運転できるんでしょうね」
「どこだろうなぁ」

 心配して窓際に駆け寄った白瀬とともに、遠い目で彼を見守った。
 マリヤは手で顔を覆ってこちらに近寄ろうとしない。最悪の場面を想像してしまったために、足が動かないとか……そういったところだろう。

「普通に手を振って戻ってくるか……回復力が尋常ではないのぉ」
「尋常ではない、って。お前の力のお陰なんだろ?」
「それはそうなんじゃが、あそこまで適合するとは思わなんだ。妾の社の傍に近寄った者の中には、閉じ込められていた妾の“風”を浴びることで異能を手にする者も居た。今のぬしやあの尖がり頭、そしてこの体の持ち主のようにな」

 …………。マテ。今さらりとすごいこと言わなかったか?

「恐らく直接宝玉を手にしたあやつが得た恩恵と、妾が渡した能力とが同じものだったのだろうよ。あやつとぬしはよく八幡の洞窟に訪れておったようだしの」
「え……知ってたのか?」
「ん? ん、んん……まあ、の。なんじゃ。そういうことに……なるのかの?」

 訊ねてみれば急に歯切れが悪くなる八幡。
 何か不都合でもあるのか、と思っていると、

「へへっ……嬢、それは何かを隠している声色と受け取るぜ?」
『うぉおわっ!!?』

 窓の外から声。
 見れば、彰利が窓枠にしがみ付いてニヤリと笑んでいた。
 ……あのな、ここ、二階なんだが?

「ゲームとか小説的には、こりゃあアレじゃぜ? 過去にアタイらはこやつに会ったことがあるフラグ。そしてきっとアタイはその時にも能力の片鱗を頂戴していた。頑丈なのはなんかそんな感じの出来事が原因に違いねー。解り易いですか?」
「む……」
「あれ? 反論なし? ……キャアマジ!? 新聞に載せるネタが増えたYO!」
「おいおい……八幡、本当なのか?」

 キャッホーイと彰利が諸手を挙げて喜ぶ。その瞬間、窓枠を掴んでいた手は宙を掻き、彼は地面へ落下した。その際、園芸部が急ぎ足で押していた台車にドゴォォォォと轢かれ、ニーチェと叫んだ。

「部長さんが頑丈だったお陰で助かったことも何度もありますから、真実だったら素直にありがとうですけど……あの、本当に?」

 そんな彰利を完全無視で話を進める白瀬。
 うん、それが正解だ。俺だってそーする。

「ぬしらが社に訪れたのは最近のが初めてじゃ」
「……だよな。言いよどむから本気でそうなのかと思った」
「騙されるな鉄郎! ヤツは“社に訪れたのは”と言ったのだ! 出会ったのが初めてとは言ってねィェーーーッ!!」
「……のう。こやつ、突き飛ばしてもよいか?」
「ってことは事実なのか?」

 再び登ってきた彰利だが、ペリペリと窓枠を掴む指を剥がされてゆく。
 ギャーと叫んでいるが、神の握力には勝てず、結局落ちて───ラグビー部の猛烈ダッシュ鍛錬に巻き込まれ、ゴキベキと踏まれていった。

「……八幡に住む子は妾の子じゃ。皆一様に妾の血を継いでおる」

 そんな彰利を見下ろしながら、八幡はどこかやさしい顔をしていた。
 復活した彰利が壁をカサカサと登ってきても、笑顔で突き落しまくっている。

「勘違いしてもらっては困るが、妾は誰とも睦み合っておらぬ。血を継ぐ、というのは妾の生き血を使うことで産まれたのが八幡の子だからじゃ」
「八幡の、って。じゃあ島民全員にお前の血が?」
「今のところ、色濃くそれを感じるのがぬしと尖がり頭とこの体じゃな」
「そういうのって基準ってあるのか?」
「ふむ。主に髪じゃな。八幡の血を濃く受けると髪がより黒に近付く。なにを思ったのかこやつは茶色になぞしとるが、本質は真っ黒じゃ。それ、今の妾のようにの」

 綺麗じゃろ?と促す髪の色は真っ黒。
 俺も彰利も、それはもう黒だ。
 巳浜は金髪だしマリヤは蒼、白瀬は白だが。

「私のは隔世遺伝ですわよ。この島がまだ八幡になる前に出会った外の国の者と添い遂げた結果がこの髪、と言われていますわ」
「あ、は、はい、私も……。スカーレットなのに蒼だなんて、って……お母様に嘆かれたことがあります……」
「私のもそうですね。白瀬は元々色素が薄い子が生まれてきたと言われていますが、私は特に薄いそうです」
「そう考えると、隔世遺伝ってのが都合よく三人同時に現れるってのもすごいことだよな」

 しかもその三人ともが一緒の部活とくる。
 そんな俺の疑問に対し、もう一度彰利を突き落した八幡がくすりと笑う。

「昔、八幡は人を拒まぬ平和な場所じゃった。人と人とが協力することが当然であり、手に手を取れば笑顔が生まれる、それはそれは平和な、の」
「それがこの三人と関係あるのか?」
「妾がまだ人であった頃の話じゃ。遥か昔に戦があってな、それらに敗れ、しかし死にたくはないと思った者たちは揃ってここへ集まり、別の国である者だろうと構わず、生きることを願った。持っていた武器を投げ捨て、言葉は通じずとも生きようと願った」

 巳浜の目がテコーンと光った。
 ペンと持ち、ノートに八幡の言葉を高速で書き連ねてゆく。


  ───この島には、平和があった。


 人々は争うことの愚かしさを知り、手に手を取ってお互いを励まし合って生きた。
 言葉は通じずとも雰囲気で受け取り、やがてそれが慣れてくると、互いの言葉の意味も受け取れてきた。
 ただ生きたかったという理由で集った人々は、その島で自給自足の生活を始める。
 互いが互いの技術を行使し、互いの手助けをすることでその平和は長く続いた。

  ……しかし、やはり人だったのだ。

 つまらない些細なことから再び争いは始まった。
 投げ捨てた武器を手に争いを始めてしまった。
 誰が上に立つべきかなど、考えるべきではなかったのに。
 大人同士の争いは続いたが、その子供たちに争う理由などなかった。

  ある日のことだ。

 黒髪の子、金髪の子、蒼髪の子、白髪の子が一箇所に集い、争う大人たちの姿に涙した。
 そして願った。
 この争いが終わってくれるのなら、どんなことでもすると。
 こんな血の臭いしかしない自分たちの世界を吹き飛ばしてくれる風になりたいと。
 子供たちは別の子供たちと一緒に洞窟を掘った。
 やがて大人になるまで、堀り続け、その奥に社を建てた。
 成長した子供たちはそれぞれが、こんな争いは親の代で終わりにするという意思を込め、当時大切にしていた宝物と自らの髪を切り、小さな箱に詰めて願いの箱として大切に保管した。
 そして……子供の中でも髪の色が他と違った者たちは社の奥で命を断ち、自らの親に争いは大切なものを壊す行為でしかないのだと理解させることで争いを終わりにさせた。

  ……以降、この島は平和そのもの。

 友好の証に社を建てようと言った少女は“八幡の神”として祀られるようになり、人々らの想いが社に集い、彼女の霊魂は神格化した。
 その影響で、かつて彼女らの血で濡れた宝の箱は長い年月を経て様々な色が混ざり、小さく輝く球に。その球は八幡の神の御魂と名づけられ、平和と奇跡の象徴とされ、洞窟のとある位置に埋め込まれることとなった。

……。

 ……と。

「まあ、妾が神格化したのはそういう経緯からじゃ」
「人々の想いで神格化、って……」
「想像出来んか? 今では不可能じゃろうが、昔はそれはもう人々は神というものを信仰しておったのじゃ。いや、妾たち島に集った者達は神というよりも仲間を、じゃな。だからこそ命を賭してまで平和を願った妾たちへの想いで神格化などといったものが可能じゃった」
「……ん? 神格化したのはお前だけ……なんだよな?」
「うむ。他の者は早々に転生させた。楔となるのは一人だけで十分じゃろう? しかし、その末裔たちによもやこうして会えるとは思いもせなんだ」

 ちらりと見た先には新聞部の富豪三人娘。

「その三人がそうだっていうのか?」
「ああ。魂のカタチが瓜二つじゃ。どうやら妾に神格化という結果が齎されたのとは別に、こやつらには別の結果がもたらされたようじゃの」
「別の…………ああ、金持ちってところか?」
「恐らくは、じゃが」

 また登ってきた彰利が落とされた。
 しかし咄嗟に窓枠を掴んだ彼は一気に体を滑り込ませ、マジックショーヨロシク、背筋をピンと立てて両手を天に翳し、足はクロスさせて立ってニコリと笑った。

「話は聞かせてもらった! つまりアタイは貴様のベビー! 母乳吸わせて!?」
「誰とも睦み合っておらんと言ったろうがこのたわけめ」
「そうだぞたわけ。人の話はきちんと聞け」
「わあ、ステレオたわけだ。なんかこうなると悠介がヤワチンの血を、ってのが頷ける!」

 血……って、そうだ。

「そういえばお前の生き血がどうのとか言ってたが、あれはどういう意味だ? 誰とも睦み合ってないんだろ?」
「う……う、その、な。そのことなのだがの……」
「ハッ!? もしかしてヤヴァい血!?」
「いいからぬしは黙っておれ。……その。当時、妾には好いておった者が居てな。社を建て、自害する際に最後に話した相手でもある。晦といって、約束を守ってくれているのであれば、己の社を建てて今も神事に就いている」
「んなっ───」

 晦!? もしかしてご先祖様ってやつか!?
 つーか、この神、頬を染めながら指をこねこねしている姿が無駄に可愛い……って落ち着け俺! 神が宿ってるからって、相手は輝耀だぞ!?

「隣にはやたらと頑丈な馬鹿な友人がおっての。思い出すのも忌々しい上に、見た顔がそこにおる」
「まさか、苗字は───」
「弦月じゃの」
「マアステキ! ご先祖様YO!!」

 やっぱりかー……。
 つーことはなんだ、ここに様々な因果を過去に持った者のほとんどが揃っていると?
 そして社の前で俺にあんなことを言ってきたってことは、八幡は過去に好いていたヤツと俺を重ねて見ているわけで───

「……なぁ八幡。お前、本名はなんていうんだ?」
「それが思い出せんのだ。頭を捻ってみようとも、神格化の所為か過去は思い出せても名が思いだせん。まるで昔から八幡颪神であったと過去に云われ続けているようで気色が悪いのぉ……」
「もうスマタノモロチンでいいっしょ」
「いいわけがなかろうが……! ……ああ、んんっ、つまりじゃな。自害したのちに残った血を、その場に居た者は“見届けた者”として飲んだのだと聞く。娘を自害するまで追い込んで、己らは生きている。その罪悪感から少しでも逃げたかったのじゃろうの。当然血なんてものを飲んだところで何がどうなるわけでもないが───」
「あ……そっか。神格化の所為で───」
「左様。妾の血のみが神の血となり、飲んだ者に神の恩恵を与えた。結果としてこの島は八幡と呼ばれるようになり、飲まなかった者は病などで病死し、この島には八幡の者しかおらんようになってしまった」

 そっか。他の自害した子の血が未だに生きているなら、八幡以外の名が残ってないとおかしい。つまりこいつの苗字は八幡で間違いない、とは思うんだが───他の子は神格化になる代わりに、歴史に名を残すくらいの金持ちとして成り上がった。
 巳浜、フレルミラージュ、白瀬の三つの家を知らないヤツなんて、島の外でもそう居るかどうか。

「ん……じゃあ輝耀はどうなる? 金持ちってわけでもなく、神社を営んでるわけでもないぞ? なのにお前と波長が合うなんて、出来すぎてるだろ」
「恐らくは妾と同じ血を持つものじゃろう。当時、妾には妹がおった。じゃから、の」

 神になった姉の妹か。
 妹としては相当複雑な気持ちだったろうな。

「姉が神ですか……変態さんが部長な私たちとはいろいろと差が大きいですね……」
「変態とは人聞きが悪い。アタイは本能に正直なだけ。そう、より人間的なだけさね。変態変態と言うけれど、人間的に変態なのは果たしてどっちかな!? むしろアタイの方がより人間的! そう! 世界の常識がそれを変態と言っているだけで、アタイほどの真人間などおろうはずもなし! 我々はともに愛を叫ぶべきなんよ! しゃーから一緒に叫ぼう! さんはいっ! 我々はっ! おっぱいだっ!!」

 ……部室が凍りついた。

「ほれほれダーリン! キミも叫ばんね!」

 「やーん!」と、顔を白瀬みたいに“>ヮ<”にして騒ぐ親友。
 俺はそんな親友につんつんとつつかれながら、遠い目をした。

「……なぁ八幡。こいつの前世って……」
「おなごの尻ばかり追っておった。頑丈なのはその頃からまるで変わっとらんの」
「お前……」
「彰利さん……」
「あ、あれ? なにその目。アタイも前世も、人として男として当然のことをしておったと思うのですが?」

 それが当然って時点でいろいろだめだろ。
 しかしマリヤの前では少しでも格好いい自分でいたいのか、意味もなく格好いいポーズを取る彰利。

「あなたは節度というものを知るべきですわ、この変態紳士」
「大丈夫。巳浜っちの控え目なおっぱいも愛してる」

 そしてそんな格好のままで、平気で変態発言をするんだから台無しだ。

「誰も愛せなどと言っていませんわよ!!」
「おっぱい皆平等! アタイはおなごの胸が好きなのであって、ボインだから小さいからというもので見る愛など持ち合わせておらぬ! だから恐れることなどありません。脱げや」

 直後、渾身の巳浜ビンタが彰利の頬と衝突。風船が爆砕したような音が弾け、たたらを踏んだ先で白瀬に蹴落とされ、彼は再び窓から落ちた。さらには窓をピシャリと閉められ、鍵もかけられ、トカゲのようによじ登ってきた彼は窓の外でギャースカ騒いだ後、しくしくと泣き始めた。

「……ふぅ。では、八幡の歴史はこんなところで終了、ですの?」
「細かいところを語ってみてもキリがなかろう? 妾自身はあの社で八幡の風となり島を守ってきたが、力の源である宝玉が割れてしまってはあの社に居ても消えるだけ。人々に忘れられた社に居ても信仰は集まらん。なので、妾は晦の社に向かうつもりじゃ」
「んなっ!?」
「悠介さんのところの神社に、ですか?」
「……おおっ、やはりぬしが晦の。ひと目見た時からそうではないかと思っておった。なにせその揉み上げは他に類を見ぬほどに美麗じゃからの」
「モミアゲで人を判断するなよ!!」

 またか!? またモミアゲなのか!?
 ええいどいつもこいつも人のモミアゲをどーのこーのと!

「あー……ん、んんっ! で? うちの神社に来るのは別に構わないんだが、そこに籠もってどうする気なんだ?」
「どうもこうも、以前と変わらぬ。血生臭さを拭い、吹き飛ばすために妾は風となった。八幡の風がなければ、人はまた争いを始めるじゃろう。……おっと、そこまで愚かではないなどとぬかすでないぞ? そうであったのなら、妾たちは自害する必要なぞなかったのじゃからの」
「む……そりゃそうだ」

 はふーと溜め息を吐く八幡。
 しかしその目はずーっと俺の顔を捉えていて、ふと目が合えば顔を赤くして逸らす。
 ……なんだろうなぁ、変わらず嫌な予感しか感じない。
 顔になにかついてるぞってオチならいいんだが…………まさかな。

「それで、八幡颪神さん? あなたが晦神社に行くのはいいとして、それに巻き込まれる輝耀さんはどうなさいますの?」
「大丈夫じゃ、問題ない。こやつの親には既に話を通しておる」
「話とは?」
「花嫁修業のために神社に籠もると。晦のムスコと添い遂げると言ったら泣いて喜ばれたぞ。黒髪に戻してくれたということは本気なのねと」
「うぉおおおおおい!? 人の迷惑ってもん考えろ神ぃいいいいいいっ!!!《デゲデーーーン! デッテッテッテーーーンッ!》ゲッ……!?」

 ケータイが鳴った。
 おそるおそる取り出してみれば、神社と表示された画面。
 頭が痛くなるのを堪えつつ出ると、そこから親の悲鳴にも似た叫びが解き放たれた。

『悠介ぇえええっ!! お前っ……お前はぁああっ!!』
「うるさっ……! お、親父っ!? あのなっ、なんとなく察しがつくから言うけど、」
『どぉおおしてまず父さんに相談せんのだぁっ!!』
「…………ヘ?」

 誤解だと言うより先に、妙な言葉が飛んだ。

『奥手どころか女に興味がないと思っていたお前が、まさか婚約までしていたとはっ! 父さんはっ、父さんはなぁっ! お前の部屋にH本のひとつもないことをいつも心配してっ……! だ、だがよかった! お前は女に興味があるどころか同棲する覚悟まで持っていた! 父さん応援しちゃうぞぅ! だから早く帰ってきなさいっ! 義娘の顔を見せてくれ! 今相手さんの……輝耀さんの親御さんが挨拶に来ていてなぁ! いやぁいい人たちじゃないか! お二人とも、お前のお陰で娘が黒髪に戻ってくれたって泣いて喜んで! やるじゃないかこのこのぉっ! もう父さん嬉しくてなぁ! あのぶっきらぼうで彰利くん以外の友達をあまり連れてこないお前がっ! ……学生結婚でも構わん! 孫を! 孫を見せてくれ悠介! 今から父さん、輝耀さんと話し合って孫の成長計画立てるから! あ、心配するんじゃないぞぅ? 輝耀さんも孫の顔が早く見たいと微笑んでいたからなぁ、ぬっふっふっふっふ……!!』
「寝言は寝て言えたわけぇえええっ!!!」

 通話終了。すぐにかけ直されたが電源を切ってシカトした。

「八幡!」
「《がしぃっ!》お、おうっ? なんじゃ? その、出来るだけやさしく頼む……!」
「今すぐ輝耀の体から出て行け! じゃないと俺が大変だ!」
「……な、なんじゃ、そっちのことか。……悪いが出来ん相談じゃ。あまりに魂が合わさりすぎて、抜け出そうにも抜け出せん」
「んなっ……!?」
「おおそれとな、以前ぬしたちと会ったことがあるかどうかの話じゃが、会ったことはない……気がするだけで、思いだせん。たしかに普通の人間だというのにあそこまで頑丈な者がおるというのも不思議なものじゃが、まああれじゃ。さっきもちらりと言うたように、洞窟に何度も来ているうちに微量ながらも妾の“風”を浴びた故じゃろう」
「いやもうこの際そんなことはどうでもいい! お前っ、そこから出て行かないと本当の本当に一人の女の人生を台無しにした神の出来上がりだぞ!?」
「…………てへっ♪」
「よぅし解った表出ろコノヤロォオオオッ!!」
「わあああ待て待てっ、待つのじゃっ! 話せば解るぅううっ!!」

 ペロリと舌を出しつつウィンクをした神の胸倉を掴んで怒り爆発!!
 ええいこの古のおちゃめさんめどうしてくれよう!

「べつに妾が入っているためにこやつが死ぬわけでもないっ! 妾が眠ればこやつは普通に活動できるんじゃっ!」
「……本当だろうな」
「うそなぞついてどうするっ! それともう少しやさしゅう扱えっ! おなごっ……もとい、神をなんだと思っておるかっ!」
「知らん」
「仮にも神社の息子の言葉がそれか……」
「俺は神事を誇りに思っちゃいるが、だからって神の全てに敬意を払う安っぽい信仰は持ってない」
「む……う……」

 “晦”は代々、“形無き神”を祀ってきた。
 初代から現代に至るまで、誰を祀っているのかが語られたことはない。
 八幡に宿る神を祀ってきたといっても、その八幡がどんな神だったのかも知らなければ、何をしてくれた存在なのかも知らなかった。
 ……それが、この地から争いを無くした風の神だなんて知ることになって、しかも己の命を捧げてまでそれを為したとくる。
 尊敬する理由はそこにあり、自分の中にも出来上がったわけだが───

「ぅぅうう……」

 目の端に涙を溜め、こちらを迫力なく睨んでくる顔には、神の威厳なんてものは存在しなかった。

「少女が泣いていると聞いて!《ガラリ》」
「なにっ!? って鍵が開いてる!? なんで!?」
「鍵の横の窓に穴が開いてたから鍵開けた。無用心だぞお前」
「無用心ってレベルかこれが! 絶対お前が破壊しただろ!!」
「フッ……きっと俺の美麗さに窓の野郎が物理的にとろけたに違いないワ。アタイったら罪作り。ヒギャアアォ、俺はまるで人間罪悪発電所だ」
「そこは“うォおん”って言おうぜ、親友……」
「無駄にオリジナリティを目指してみればこのザマさ。まあ良しです。つーわけでいろいろ纏まってきたよね? 新聞作りもいよいよ大詰め! これからはこの部も安泰ぞ!」

 ウヒャッハハハハーイ!と元気に喜んでいるのはいいんだが……マテ。

「この新聞が通ったところで、次も通るとは限らないぞ? 得た知識を全部使っちまえば、それこそこの話はここで終わりだ」
「あ、そのヘンならダイジョブYO。きちんと続きも考えてある。つーわけで新聞作りを再開しよう! アタイらで八幡の真実をみんなに伝えるのさ!」
「真実を知ったからといって、何がどう変わるわけでもないとは思うがのぉ……」
「ダマップ! もはやこの勢い、神にも止められぬ!」
「……やれやれ。ほんに……以前の頃から人の話を聞かぬやつじゃ」

 八幡は苦笑しながらも、どこか……ひどく懐かしいものを見る目でそう言った。
 お前が言うなと思ったものの、その顔が泣き顔のようにも見えてしまった俺は、どれだけ周りがうるさくなろうとも声をかけることが出来ず───その日を見送った。


───……。


 誰しもが恋人に言われたい言葉ってあるんだと思う。
 友達だろ、仲間だろ、親友だろ、好きだ、大好きだ、愛している、結婚しよう……いろいろある。
 俺はその中でも別の意味での言葉を放ち、それによって誰かさんを昏倒させた。

「……今日、帰りたくないんだ」
「きゃあっ♪《ポッ》」
「!?《ブシャーーアアアア! ……どしゃあ》」

 八幡島の高校には寮がある。
 べつに家から通えないくらい遠いってわけでもないのだが、望めば入れる寮がある。
 彰利は寮住まいで、俺は神事を覚えるって理由もあって神社から通っている。
 しかし帰りたくなかったのは事実で、彰利の部屋に泊まろうと思った。んで。出たのがこの言葉だったのだが……白瀬が頬を染め、彰利が鼻血を噴き出して倒れた。

「いいっ、いぃいいけませんっ! だめですよぅ晦先輩っ! そんな男同士だなんてっ!」
「へ? ………………はっ!? いやちょっと待てっ! なにか盛大な勘違いが混ざってるぞ!? 俺はただ泊めてくれって言ってるだけだ! 今家に帰ってみろっ! 問答無用でうちの親や輝耀の親に婚約させられるだろうが!」
「ウフフ……こ、今夜は寝かせねぇぜ? ダーリン」
「お前もちょっとは空気読もうな!? あと鼻血拭け!!」
「あのっ、明日に会った際には、昨日はおたのしみでしたね、と声をかけていいですか?」
「やめい!!」

 しゃらんらあと目を輝かせる白瀬に盛大にツッコんだ。
 コイツの場合、男色に目を輝かせるとかじゃなく、ネタに走りたいだけだから困る。
 つまり、おたのしみでしたね、と言いたいだけなのだ。
 部に招いた時は静かな子で、細かな作業に強いからありがたいって真剣に思っていたのになぁ……蓋を開ければノリのいいお嬢様だった。

「では私の部屋に来ますか? 悠介さんなら大歓迎ですよ」
「なんですって!? ダーリンはアタイのところに泊まるっちゃ! そしてアタイがかなっちの部屋へウヘヘヘヘ……!!」
「女子の部屋に男子が泊まる時点で大問題だろうが!」
「だったらアタイ女装する! 今時の“男の娘”だなんてナメた姿ではなく、“ギャアこいつ男だ!”ってメイクで! 詳しく言うならジョセフが女装した時みたいにゴリモリ女装で!」
「大問題を超越するわ!!」
「バッケヤラァ! 女みてぇな男が居るわけねーべよ! あんなの妄想で空想さ! だから女装なんて雄々しくして然るべき!」
「それの何処が然だ!!」

 彰利とギャースカ騒ぐ中、服をちょいと引かれる。
 振り向いてみれば、にっこり笑顔の白瀬。

「トランプがありますよ? 一緒に遊びましょう、夜通しでっ」
「いやトランプってお前……」
「では、かるたなどいかがでしょうっ」
「……《うずり》」
「あっ、反応しました」
「マリヤ、そういうことは気づいても無視してくれ」

 新聞部メンバーに、自覚するほどの暗い過去はない。
 個人がそれを暗いかどうかを判断する中で、それはない。
 しかしながら、白瀬も巳浜もマリヤにも、共通するひとつの常識があった。
 “親しい友達がいない”。
 それを当然として生きてきたのだから、それを暗い過去と受け取ることが出来なかった。
 高校で俺達と出会い、こうして盛大にアホゥなことをやって笑顔を見せてはいるが、そうなるまでに時間がかかったのは言うまでもない。
 その笑顔の大半が、彰利のアホゥな行動によるものだ。
 だからこそ、変態的な行動で馬鹿をやっても、注意はするが許している。
 ここは、そういう部活なのだ。

「これぬしら、何処に泊まるだのとしち面倒くさいことをぬかしとらんで、帰るぞ。神社でなければ妾にも力が戻らん」
「じゃあ親父に連絡つけとくからお前だけで行ってくれ」
「よいのか? あることないこと口走ってしまうやもしれぬが」
「ああもう今すぐ家に帰りたいなぁ!! さっさと行くぞちくしょう!!」
「おお、しっかりと先導してたもれ?」

 くつくつと笑う八幡を連れ、日が暮れる道を歩く。
 その途中で寮へ向かう道と自宅へ向かう道とがあり、寮住まいの四人とはそこで別れた。

「はぁあ……なんでこんなことに……」
「男子がそう溜め息を吐くものではないぞ。双方の親公認で、こんなにも可愛い娘が嫁になるんじゃ、もっと喜ぶべきじゃろう」
「輝耀の気持ちを無視してる時点で喜べるかたわけ!」
「ふむ……」

 ちらりと来た道を振り返り、なにを思ってかこくこくと頷く八幡。
 そして誰も居ないと知ると、急に俺の腕に抱き付いてきた。

「うぉわっ!? ちょ……っ!?」

 するとどうだ、腕に押し付けられるやわらかい感触がっ……ってこらこらこらっ!!

「うわわ馬鹿離せっ! 急になにしやがるっ!」
「ふふふっ……真っ赤になりおって、かわゆいのぅ……」
「かわゆいとかそういう問題じゃないだろうが! それは輝耀の体でっ!」
「なんじゃ。妾が妾自身の肉体を持てば問題がないとでもぬかすか?」
「それはそれで問題だ!」

 引き剥がそうとするのだが、手を伸ばした途端にビクッと身を竦めて涙目で見上げてきやがった! うぅぁあああ手ェ出しづれぇええええっ!!
 解ってる! これはウソ泣き的なものだって解ってるのに! 引き剥がせねぇ!
 大体あの輝耀がこんな可愛い反応するわけないだろ! だって輝耀だぞ!? 目が合えば憎まれ口ばっかりの文化部の輝耀だぞ!?

「はぁあ……ほんに、見れば見るほど似ておる……。心残りがあるとすれば、恋よりも平和を願ったことか……悔いはないが、恋をしてみたくなかったといえば虚言になる……」

 腕に抱きついた八幡が熱っぽい視線で俺を見上げる。
 大変困ったことに、そんな顔が可愛いと思えてしまった。
 笑うなら笑えっ、女の顔をこんな間近で、しかも抱きつかれながら見上げられたことなんざ一度もないんだよっ!
 しかも黒髪の輝耀は、さらに困ったことに、どうやら俺の好みの容姿そのものなのだ。
 以前から「黒髪にすりゃあええのに」と言っていた彰利の気持ちが今なら解る。

「じゃが安心せい、妾は似ているからというだけで人を好いたりはせん。きっかけにはなるが、そこからどう思うのかは妾とぬし自身じゃ」

 うっすらと笑う姿は輝耀のままなんだが、輝耀は笑わない。
 会えば因縁つけてくる困ったヤツだった。
 そのギャップの所為なんだろう。妙に笑顔が可愛く見えた。
 だから引き剥がしに入るのだが、腕を掴んで無理矢理剥がそうとすると、その腕を胸でガードしやがって、迂闊に手を出せば輝耀の胸を触ることになり……!!

「はははっ、初心じゃのぉ」
「ぐっ……、……? ……おい。そういうお前も、顔真っ赤じゃねぇか……!」
「うぐっ……や、やかましいわっ!」

 そういった経験が無いと聞いた。
 これでも神としての威厳を保つために無理でもしているのだろう。
 真っ赤にした顔を指摘され、その赤さのままにそっぽを向く。それでも腕は話さず、ぶちぶちと口を尖らせながら文句を吐いていた。

「と、とにかく。信仰が集まるまではずっとこのままじゃ。まあもっとも、周囲からの信仰が足らずとも抜け出す方法が無いかといえばそうでもない」
「今すぐ教えろ!」
「……それほどまでに妾を追い出したいのか……?」
「う」

 きっぱりすっぱり言ってみれば、寂しさと怯えを混ぜた目が俺を見上げる。
 さっきまでの表情にはからかう様子が混ざっていたものの、この顔は……

「…………はぁ。ったく」
「《わしわし》わぷっ!? こ、これっ、なにをするかっ」

 少々乱暴に髪を掻き混ぜるように撫でてやった。
 そりゃ、元人間があんな場所でずぅっと一人でいたんだ、人恋しくもなるだろう。
 これは一種の、青春を満足に送れなかった神の我が儘ってやつなのだろう。
 だったら、神社の息子としては……やさしくしてやるべきなんだろうな。
 頭が高い考えではあるが。

「寂しかったならそう言え、ばかもの」
「な、なんじゃその上から目線はっ! ぬしっ、妾を誰じゃと───っ!」
「相手が誰だろうが知らん。地位だのなんだのをいちいち気にして、人と会話が出来るか。誰かと話したいって思ったなら、その目線まで降りてこい。降りたくないなら話なんざせずにずぅっと洞穴で過ごしてろ」
「………」

 きっぱり言ってから、デコをズビシィと弾いてやる。
 はにゅっ、と可愛い悲鳴が漏れ、額を押さえる神は……なんというか拗ねた子供のようなムスッとした顔で俺を睨んでいた。

「相手が誰でも自分を崩さぬか。そういうところはまるで別人じゃの。“晦”は地位などをよく気にしておった。波風立たぬ生活をいつでも望むような者じゃった。そういう意味では……妾はぬしのほうが好きになれそうじゃ」
「そか? まあ、嫌われるよりはいいさ」

 離れる気はさらさらないんだろう。
 さっきよりしっかりと腕に抱き付いている八幡の頭を撫でてとぼとぼと歩いた。
 こんなもの、諦めてしまえばどうということはない。彰利の言葉を借りるなら、もう慣れっこだ。伊達に新聞部の台風の目って言われてない。

「堅苦しいのは嫌いか?」
「重くないのが好きなんだ。そういう理由で彰利とは腐れ縁を続けてる」
「なるほどな。あの三人娘とも同じ理由か?」
「白瀬以外は彰利が拾ってきたようなもんだ。白瀬は……俺が勧誘した」
「ほう?」

 一年の頃、勝気な巳浜や澤田さんが一緒に居るマリヤとは違い、これといった主張をすることもなく黙し、日々を送っていた白瀬。高校に上がるまで一度も同じクラスになったことはなかったんだが、高校の一年で一緒のクラスになり……終始一人きり、登校から下校までを一人っきりで過ごしていたそいつに声をかけたのがきっかけ。
 彰利のアホゥに引っ張られるように元気になったのは確かだが、そうなる前は好んで口を開くこともない、静かなやつだった。
 そう、暗い事情はない。それが当然として生きてきたのだから、それが常識。
 しかしながらまあ……なんつーか。ほっとけなかったんだ。
 だからある日、問答無用で手を引いて駆けた。
 俺にしては随分な冒険で、初対面にも近いってくらいの仲だってのに、手を引いて連れ攫った。お稽古があると言われようと無視した。
 で、連れ攫った先の新聞愛好会で僕と握手ってノリで、半ば無理矢理部員に。
 てっきり無理矢理だったから来ないかなと思っていたら、翌日もその翌日も律儀に部活へやってきた。当然俺と彰利は気をよくして、様々な遊びや自分たちの話をこれでもかってくらいした。
 まあそんな経緯もあって、俺や彰利と一番ノリ的なものについてこれるのが、一番大人しそうな見た目である白瀬だったりするのだ。

「なるほど? それであの“こーないほーそー”か」
「そゆこと」

 主に昼などに、彰利は放送室を乗っ取る。
 クラシック音楽を流すだけのそこに刺激をと、ほぼ毎日やっていることだ。
 教師連中ももういい加減諦めている。
 しかしそこに時々混ざる者が居て、それが白瀬香夏子だった。
 ちなみに今日の出だしはといえば、

  『ネプチューンマン!』
  『ビッグ・ザ・武道!!』
  『天気予報〜〜〜っ♪』

 ……だった。
 ビッグ・ザ・武道が白瀬だ。
 天気予報なんて全然しなかった上に、終始謎のノリツッコミと世話話だけが流れた。
 しかし、だからこそいいってのが昼の放送ジャックだった。

「あれには笑わせてもらった。あの堅物で物静かだったシラセがのぉ、くっくっく」
「先祖もやっぱり白瀬って苗字だったのか?」
「苗字という感覚は持っておらなんだ。妾たちは皆、己を己として呼んだ。晦なら晦、シラセならばシラセと。シラセは元々体が弱くてな。陽の光に当たるだけでも貧血を起こして倒れるほどじゃ。それがあそこまで元気に。……長生きはするものじゃな」
「………」

 死んでるけどな、というツッコミは飲んでおいた。
 どういう経緯があってこの時代に過去の血を持つ俺達が揃ったのかは解らん。
 解らんが、まあいいんじゃないだろうか。そういう偶然があっても。
 だって、昔に島を守るために死んだヤツが、こんなにやさしい顔をしている。
 どんな理由があるにせよ、こういう顔は守ってやりたいって思うじゃないか。

「死んだこと、後悔してるか?」
「当然じゃ。なんの楽しみも知らずに死んだ。しかしそんなものは今さらじゃな。今におるのなら、今を楽しまぬのは勿体の無いこと。こうして、軽々と頭を撫でおる者もおることじゃしのう」
「そか。んじゃ、一度彰利に攫われてみろ。肩の力が一気に抜けるぞ」
「子供が出来たらどうするっ!」
「出来るかっ!! あいつはおふざけでエロスに走りはするが、本気の本気で人に迷惑かけるようなことをするやつじゃねぇ! ……そこのところは俺が太鼓判押すから。あ、ちなみにな、だからって写真撮られるのをほっとくと、あいつのコレクションにされるからそれは全力で潰せ。人に見せびらかしたり売ったりなんてことをしない分、あいつは自分で楽しみやがるから」
「問題児じゃのう……」
「ああ。だから、付き合ってて楽しいんだよ」

 なにせ全力で止められる。
 線を引きすぎた付き合いなんて、俺たちには合わんのだから仕方ない。
 ふざけた分は体で返す。それが俺達新聞部の付き合いだ。

「白瀬も彰利に攫われてから変わったんだ。いきなり放送室に拉致されて、そこで“お話すっべー”、ってな。その時は俺も同行してたから、まあ全力どつき漫才みたいな血生臭い放送になったんだが……それを何度か繰り返してるうちに付き合い方を知ってくれたみたいでな。今じゃ白瀬も随分と元気っ子だ」
「気の毒に……ぬしらの付き合い方に慣れるとなると、余程に苦労したじゃろうなぁ」
「人間は順応出来る生き物だって、島外れに住む灯台守が言ってたぞ」
「それはよいからいい加減神社に案内せぃ」
「………」

 話、長引かせてうやむやにしようとしていたんだが……無理だった。
 そもそも腕を掴まれている時点で逃げるのも無理か。
 女を森の小道に置き去りにするのも気が引けるし……はぁ。




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