06/文化部を始めよう

 そうして刷り上った一枚新聞。名をカニボレ。
 長ったらしい名前の略なのに“ニ”になる部分がどこにもないと、他の生徒からはいろいろとツッコミがあるのだが、

「細けぇこたぁええのよ!! そんなことよりも見ろ! 刮目せよ! 読むでおまー!」

 早速新聞を配る(押し付ける)彰利は、廊下を走ってはいけないというルールをスキップすることで完全にいなしていた。

「生徒会長の名において命ずる! 新聞等の押し付けは校則で禁止されている! ただちにやめろ!!」
「ゲゲェーーーーッ!!」

 そして配り始めて僅か3分で、トルネード新聞は回収作業に見舞われた。

……。

 ───で、八幡高校新聞部部室。
 
「ちくしょう! ニムシャクの所為で全て台無しだ! どーすんだよちくしょう!」
「とりあえずニムシャクという略しかたをやめなさい。不愉快ですわ」
「口癖はきっと“ちょっ、待てよ”とかだよきっと」
「そんなことは訊いてませんわ」

 生徒会長二村灼夜に敗北をスウィーティーに味わわされ、無意味に「どーなってんだ地球は!」と叫ぶは新聞部部長、弦月彰利。
 ニムシャク、というのは二村灼夜のキムタク的略称である。
 ……ちなみにその生徒会長ニムシャク、巳浜=アリス=十和の幼馴染みでもある。
 この島で幼馴染みといっても大したありがたみもないが、近しい存在ではある。色恋関係のないところでの、だが。

「そういや巳浜っちって、ニムシャクに恩があるんだっけ?」
「違いますわよ、もう一人の幼馴染みのほうですわ」
「おろ? ……名前なんだっけ?」
「閏璃凍弥。自由奔放な男ですわ。ただ、ええ。命を救われたことがございますの。私はその恩を、私が良しと思うまで返すつもりでいますわ」
「良しって思うンはいつまでだと思っとるん? こう、自分的には」
「そうですわね……凍弥の命を救うか、私の命の分を私が納得するまで返すまで、ですわ。ああ、ただし恋をするとかそういう方向は絶対に在り得ませんわ。家族同然の関係ですもの、そんな感情、微塵にも動きません」
「……ミャービちゃんは?」
「アレは例外中の例外ですわ」

 ミャービ。弥弥弥茶沙良。物凄い苗字を持つ女性教師である。
 黒髪ロングでスタイルもよく、あの胸の中で死にたいと世迷言をぬかす生徒も居るくらいに人気の教師。なのだが…………

「アレで、馬鹿でポンコツウルーリィマニアじゃなけりゃあねぇ……」
「同感ですわ」

 閏璃凍弥にご執心。むしろその他一切がどうでもいい女である。
 やろうと思えばなんでも出来るのだが、大の犬嫌いであり……犬に襲われたところを凍弥に助けられ、惚れた。以来、依存といっても過言ではないほどにべったりだ。

「……まあ、それはそれですわよ。これからどうなさいますの?」

 新聞の配布がいきなり禁止されたではありませんの、と続ける十和を前に、彰利はグゥムと返す。

「や、やー、でも大丈夫YO? 押し付けが禁止されてるんであって、普通に渡すくらいわけねーべよ!」
「まあ、それはそうですわね」
「OK! つーわけでレッツハバナーーウ!!」

 彼は走った。
 希望を胸に、刷りすぎたと後悔した新聞の量を手に、生徒たちがうろつき休む休み時間の中へ───!

……。

 ゴゴゴゴゴゴ……!!

「オイ……新聞受け取るよな……? オ……? 受け取るよなァコラ……!」
「ひ、ひぃいいーーーーーーっ!!」

 そして逃げられた。
 八幡高校二階廊下、十和とともに新聞を配りにきた彰利は、たった今23回目の失敗を味わっていた。

「まいったぞ、また逃げられた。いったいなにがいけないのやら」
「顔面青筋だらけで出会いがしらにメンチ切られれば誰だって逃げ出すわ!!」
「バッケヤラァ! きちんと押し付けずに訊いてるところにまず注目すべきでしょー! 誠心誠意、マゴコロ込めて渡せば受け取ってくれるさ! とか言ってるあいだにもう一人発見!《ピグッ! ピググッ!》オイてめぇ……日々の潤いに新聞とかどーヨ……! オ……!?」
「な、なんだこいつ……! 頭おかしぃんじゃねぇかっ!?」

 そして逃げられ───

「逃すかァーーーーッ!!!《ギャオッ!!》」
「ヒッ、ヒィイイーーーーーッ!!?」

 ───たが、即座に追った。
 「タックルは腰から下ァーーッ!!」と盛大に叫び、タックルをかますと廊下に転倒。即座に相手のズボンのポケットに新聞を捻り込むと、「捨てたらどうなっか解ってンだろうな……オ……!?」と顔をミキビキと血管ムキムキにさせながら凄んだ。既に新聞部という範疇を超越した行為である。

「い、いらねぇよ! 返すよ!」
「いやいや受け取れって無料だよこれ。タダで読めるんだぜ? スゲェだろ」
「いらねぇって!」
「いやマジで! 無料なんだって! べつにあとでなにかよこせとか言わんから!」
「いらねぇよ!!」
「またまた〜〜〜っ、読みたくてうずうずしてんだろほんとはぁ〜〜っ。えぇ〜〜っ? あたしゃちゃぁ〜〜〜んと解ってるんだからぬぇええ〜〜〜っ?」
「ギャアアアうぜぇええーーーーーーっ!!!」

 逃げようにも巧みなサブミッションで体を固められ、逃げられない生徒Aが叫んだ。
 しかもようやく読ませられると興奮中の彰利は、新聞を持って「さぁ読めー!」と叫び返す始末。それだけならよかったんだが、目を逸らす生徒Aの視線の先に新聞を持って行く行動を何度もしているうちにキレ、

「目の前に新聞用意してんのに読まんとはどういう了見じゃコラァアアーーーーッ!!!」
「《メリメリメリメリ》オゴギャアーーーーーーッ!!!!」

 新聞を生徒Aの顔面にメシャアと押し付け、まるでデスマスクのように浮き出させた。
 破けずに伸びる新聞も新聞である。

……。

 ……再び新聞部部室。

「えーはい、騒ぎが過ぎて鬼山先生にボコボコにされたので戻ってきたアタイです」
「あれからどれだけ配れた?」
「いやそれが一枚も。なんでかみんな、キャーとかヒーとか言って逃げんのよね。なんでだろ。今ならおなごには熱いチッス、男にはカーフブランディングをプレゼントするって公言したのに」
「誰でも逃げるわ!!」

 付き合わされた十和が机に突っ伏し、動かない中での会話はいつも通り。
 ハッとしたマリヤが小さく何かを受け取る仕草を見せたが、彰利は気づかなかった。
 その一方で気づいた香夏子は瞳をテコーンと輝かせ、彼女を小声で応援した。

(マリヤちゃん、ふぁいとですっ、ここで勇気を出さなければ、いったいどこで出しますかっ! 受け取れば確実にキスですよっ、ふぁいっとぉっ!)
(は、はう、はははうはう……! きききっきききす……彰利さんと、きすぅ……!)

 椅子からよろりと立ち上がり、ふらふらと部長席へと歩く。
 その過程で部長が「おや?」とマリヤを見るが、その表情は俯かされているために見てとれない。しかし何故かその傍らには寄り添うように香夏子がおり、彰利はハテと首を傾げた。

(さあ、夢にまで見たキスは目前ですっ、ここで一言!)
(はぁぅっ……! だ、だめっ……やっぱり恥ずかしいですっ……!)
(そんな弱気でどうしますかっ、さあっ!)
(だ、だめです……足が竦んで、頭も真っ白でっ……なにを言えばいいのかっ……)
(なんでもいいんですよっ、たとえば“命が惜しくば新聞だせやトンガリ”でも───)
「命が惜しくば新聞出せやトンガリィ!!!」

 …………。
 普段では絶対に聞くことのできないほどの、大声量だったという。
 それを真正面から笑顔で受け止めた彰利は、プルプルと震えながら涙目で、カタカタと新聞を一部差し出している。

「はぁうっ!? ちがっ……今のはっ、今のはぁああっ!!」
「さあキッスを!!」《どーーーん!》
「白瀬センパイ!? 今そんな雰囲気じゃないですよぅっ!?」

 輝く瞳の先輩を前に、彼女はいっそ泣きそうだった。
 さて。そんな輝く瞳の暴走少女の頭頂にゲンコツをお見舞いし、黙らせた悠介がこれからのことを彰利に投げ掛ける。
 涙目で殴られた部分を両手で押さえる香夏子を見やりつつ、「容赦ねぇねぇ……」と呟く彰利は、少し楽しそうだった。

「うっしゃ、んじゃあ真面目にやりますかい。まずアタイらは新聞を作りました。しかし今までが今までだったためにみんな読んでくれません。まことに遺憾である!!」
「お前が関係ねぇ新聞ばっか刷るからだろうが!!」
「ためになる豆知識満載じゃね!? ヴァンプ将軍もきっと太鼓判押してくれるぜ!? ちなみに今回のトルネード豆知識は───」
「? あ、これですね。えーと……風呂上りに耳掃除をすると、湿ってる」
「てめぇは何処の聖徳太子だ!!」
「《ズパァン!》ニーチェ!!」

 配りきれずに積み重なっていた新聞を重ねて丸め、彰利を殴った悠介は、殴ったソレを丁寧に広げて積み直していた。律儀である。

「聖徳太子ってハーブの香りがするんだって。イケメンすぎて困ったりエアギターで弾き語ったり瞼が異様に伸びたり───」
「で、新聞をどう受け取ってもらうかだが」
「かなっちがメイド服着て配るとかはどぎゃんね?」
「お前がキレそうだからダメだ」
「私は構いませんよ? 奉仕相手が学校と考えれば、違和感などありませんから」
「ぬう! その意気や良し!! そう、雇い主が居ることを想定してやらねばメイドさんと違う! つーわけで新たなメイド服をあなたに! プレゼンテッドバーイ彰利ィーーーーッ!!!」

 叫びつつ、香夏子のように(>ヮ<)な顔をして、どこからかメイド服を取り出す彰利。
 両手にてンバッと突き出されたそれは綺麗に仕上がっており、パチもの臭い様子など微塵も無し。

「こんなこともあろうかと誠心誠意、魂を込めて作りました! 以前のメイド服とは少々デザインが違うんだぜ!?」
「はい、ありがとうございます」

 突き出されたそれを受け取る。
 その瞬間に十和が彰利に目潰しをし、仰け反ったところを悠介が羽交い絞め、マリヤが顔にハンカチを被せる。
 それを確認すると香夏子は慣れた調子で服を一気に脱ぐと、メイド服を着付け、さらには頭の中の意識を切り替え、自分はお嬢ではなくメイドなのだと自己催眠を施し───しゃらんと身振りをしてからお辞儀をする。
 その間、僅かに10秒。

「……見事って言うべきなのか? これって」
「見えない! ギャアア見えない! 着替えが! 貴重な着替えシーンが!」
「やかましい、落ち着けって何回言わせる」
「だってYO!《はらり》……あら?」

 暴れた拍子にハンカチが落ちる。
 その頃には目も回復し、くっきりと見える見慣れた部室。
 しかしその中にあって、見慣れぬ姿をした見慣れた女性。
 気づけば彼は羽交い絞めされながらも強引に手と手を合わせ、メイド服姿の香夏子へ向かって拝んでいた。

「お前の中の神はなんなんだよ……」
「神ではない。メイドさんという職業に対して拝んでおるの。その姿ってことは、もう意識チェンジも済んだん?」
「はい、彰利さん。私はこの学校に仕えるメイドです。学校に関して困ったことがありましたら、是非」

 薄く微笑み、胸に手を当てて言う。
 紺と白のエプロンドレスに、白い髪の上に被せるように通したホワイトブリム。
 揃えた足には黒の革のブーツと、黒のニーソックス。
 そんな彼女を拝む親友の後ろで、悠介は少し遠い目をした。

「うんうん……やっぱメイドさんっていったらロングスカートだよね。短いのなんてもっての外。サマータイプとかぬかすことすら許せん。黒ニーソなら短いスカートの間の絶対領域がいいんだろとか言う輩もおるが、それをメイドさんに求めるのは前提からして間違ってるぜ? メイドさんは欲望の捌け口にするためのものじゃあねぇ……神聖な職業よ」
「お前はメイドのこと話し始めると長いんだから、ほどほどにしとけ」
「っとと、せやね。大丈夫、アタイも学んでる。……こほん。というわけで香夏子さん。急な話で悪いのですが、この新聞を学校で過ごす皆様に配っていただけないでしょうか」
「はい。それが学校のためになるのなら、誠心誠意」

 ばさりと渡した新聞を胸に抱き、笑顔で応える。
 普段は香夏子のことを“かなっち”と呼ぶ彰利だが、メイドモードの香夏子のことは何故かさん付けで呼んだりする。
 かつて彰利がメイド服をプレゼントした際、それをおどおどと着てみたことがきっかけといえばきっかけで、彰利に「やっぱカタチだけ着てみたところでメイドさんにはなれぬか……」と落胆されたのがそもそも。
 ならばと寮内でメイド服を着ての奉仕訓練が始まり、自分革命とばかりにのめりこんだ。いや、のめりこみすぎた。メイド好きの彰利がアレだコレだと指導しすぎたこともあって、いつからかメイド服を着ると人格が変わったように性格が変わる彼女が完成していた。
 しかしながら「仕えるべきがいないのではメイドさんとは呼べねィェー!」と懲りずに言い出した彰利の助言により、彼女は人ではなく学校に仕えるようになった。もちろん、服を着ている時だけ。

「行ってしもた」
「校舎内でブーツって、よかったのか? あれ」
「大丈夫っしょ。オージーンにも許可得てるし。大体外で使ったわけでもないしね、あれ」
「本当、不思議な学校ですわ……」
「うどっ、羽棠さんは、やややさしい校長先生、ですよ?」
「マリヤ、お前はもうちょっと噛まずに喋れるようになろうな?」
「はぁうっ!? ごごごごめんなさいごめんなさいっ!!」
「あぁこらこらっ! そこまで必死になって謝るなっ!」

 ぺこぺこと謝るマリヤを前に慌てて止める悠介だが、テンパッたマリヤにはそんな声が届かず、ひたすらに慌てるだけ。彰利に助けを求めて視線を送るが、何を勘違いしたのか彼はサムズアップして歯を輝かせた。
 頑張れとでも言いたいのか、なにを頑張れというのか、などなど、様々な言葉が頭の中に溢れたが、落ち着かせることしか出来そうになかった。テンパっている人を前に、落ち着かせる以外になにが出来ようか。……普通ならばそう考えるのだろうが、悠介は親友をちらりと見ると、溜め息を吐いた。

……。

 部室の扉がノックされ、声をかけると開かれる。
 その先に経っていた人物は綺麗なお辞儀をし、済んだことを報告すると綺麗な姿勢で部室へと入った。 

「香夏子さん、全部配り終えたの?」
「はい。皆様、自ら取りにきてくださいました」
「……アタイの時は逃げ回ったくせに」

 メイド服姿の香夏子は腹部の前で手を重ね、投げられる質問に答えてゆく。
 それらが済むとテキパキと行動、お茶や紅茶を淹れて配り、自らは下がった位置で目を閉じて立っていた。

「あー……あの、香夏子さん? 一緒に飲みません?」
「申し訳ありませんがそれはできません。のちほど一人でいただきます」
「おおう……」

 話しかけてもメイドさん。
 お茶に誘ってもメイドさん。
 何事にも三歩下がった位置で取り組む姿勢に、彰利は困り顔をしながらも頷いた。

「あ、じゃあ別のこと。配ってる最中に誰かにいろいろ話しかけられたりした?」
「二村灼夜さんと閏璃凍弥さんに。二村さんには、彰利さんに生徒会室まで来るように言伝を頼まれました。閏璃さんには軽い冗談を少々」
「ワーオ……」
「メイド相手でも普通に冗談が出るのか、あいつは……」
「歩くジョーカー(冗談を平気で言う人)だからねぇアヤツ……で、冗談以外では?」
「ギュスター部が廃部になったそうなので、次は文化部に入ると。巻き込まれるカタチで橘鷹志さん、郭鷺真由美さんも一緒に」
「うーわー……可哀相に……」

 八幡高校ギュスター部。
 自分のみの武器を見つけ出したり作り出したりするという、独特な部活である。……訂正、であった。
 石を拾って原始的な武器を作るもよし、枝を加工して弓を作るもよし。
 フレアブランドに認められない者が集う部活として、仲間うちでひっそりと人気があった……一言で言うなら帰宅部である。もちろん部費も出ないので基本自由なものだったのだが、とうとう羽棠黄仁より廃部通達がなされ、廃部に。
 そんなことをしている暇があるのなら、部として成り立っていないところにハイって部活でもしろと言われたため、彼らは文化部に入った、ということらしい。

「ほへー……つーことは、今日ゴッドがこっちに来てないのは───」
「はい、恐らくは部室に押し入られているものかと」
「……頭が痛いですわ」

 8割の冗談と2割の真面目で生きる男として有名な閏璃凍弥。
 基本誰とでも仲良くなるが、遠慮がないので冗談と本気の境が見えづらいことも有名だ。
 それが解る者は親友となり、解らずに調子を合わせる者とは友人で通っている。
 たった今、どこかから輝耀晃光の声にも似た、というかそのもののような絶叫が聞こえたが、新聞部員は全員聞こえないフリをした。

 ……さて、ではそんな文化部室がどうなっているか、なのだが。


───……。


 文化部部室は奇妙な空気に包まれていた。
 べつに暖まるために用意したストーブの灯油をこぼしてしまったわけでもなければ、そもそもこの島に灯油はなく、ストーブもない。
 ガソリンもないので、車を動かす力はもっぱら太陽光だったりする。
 天気が悪い日は動かない車を思いつつも、それでも暮らしていける日々を八幡島民は歩いている。
 ……話しを戻そう。
 現在文化部部室は奇妙な空気に包まれている。
 部として成り立っていないのに部室があることにも驚きだが、実は無断で無使用の教室を使っているだけにすぎない。その中にあって、部長を名乗る輝耀晃光は長い髪を指で払い、つまらなそうに目の前の男、閏璃凍弥へと質問を投げ掛けた。

「で……なんでウチなのよ……」
「よくぞ訊いてくれた。何度目かの説明かは忘れたが、実はギュスター部が潰されてしまったのだ。なので新たなる部活、ヒップで表現する紳士率を研究する“臀部”を始めようとしたところ、校長がキレた。頭痛がするというからヴァファリンを進呈しつつ、ならば別の部活に入り、そこを乗っ取って名前を変えてしまおうとこうして来たわけだ。というわけでお茶をくれ。あと茶菓子も」
「図々しいにもほどがあるでしょうが! と、とにかく出ていきなさいよ! 男と一緒に部活なんて冗談じゃないわ! ウチは女しか認めないって事前に通達してあるのよ!」
「知ってるぞ。それなら出されたその日に弦月彰利が修正液持って書き換えてた。百合百合しい世界へあなたをいざなう百合文化を知るための部活ですと」
「あぁあんの男ォオオオオオオッ!!!」

 彼の隣には橘鷹志と郭鷺真由美。
 同じく元ギュスター部のメンバーだが、このたび部無し扱いとなった。
 叫ぶ晃光をよそに、凍弥は考える。

「喜べ鷹志、この部は思ったよりも乗っ取りやすそうだ」
「お前のその包み隠さない性格、嫌いじゃないけど巻き込むなよ?」

 考えるどころか口走っていた。
 もちろん耳に届いた晃光がオガーと怒るが、真由美にまあまあと宥められて落ち着く。

「……あなたいい人ね。やっぱり女よね。男なんか全然ダメダメよ」
「聞いたか鷹志。ヤツは自分の父親に平気でダメ出しが出来る女らしいぞ」
「なっ!?」
「いや、だからどうしてそこで俺に話を振るかねお前は」
「仕事で疲れてへとへとになって夜に帰ってきた男に、平気でダメ出しだせるなんて凄まじいな……パパと約束してた子供だってもうちょっと気を使えると思うんだが」
「ち、ちがうわよ! お父さんは特別! 他の男、ダメ!」
「なにぃ、差別はいかんぞ差別は。いいか部長、これからためになる素晴らしいことを話すから今すぐ茶と茶菓子を用意するんだ。そして部室を明け渡せ」
「あなた言ってることが滅茶苦茶よ!?」
「よく言われる」
「言われるの!?」
「ああ。いつもこいつが書いてくれる台本通りに喋ってるだけなんだが、お陰で俺だけ悪者だ」
「最ッ低ッ!!」
「出会ったばかりの相手に悪印象与えるような発言するなよ! 台本なんて書いたこともなければ、お前がいっつも勝手してるだけだろーが!」
「あ、あはは……」

 閏璃凍弥と橘鷹志もまた、悠介や彰利と似た腐れ縁という関係で成り立っている。
 そこにパーシモンを足すことで三馬鹿の完成となるわけだが、別件で来られない状態だ。

「とにかく出てって! べつにあたしは一人でも───」
「四人。俺達を入れれば同好会が部活になるぞ? パーシモンはあとで来るそうだ。ここに居る貴様を含めた四人でもいいだろうが、五人。敵は無しと知れ」
「はうっ!?」

 晃光の中で、“文化部”の文字が躍った。
 同好会どころか一人しか居ないために、会にすらなっていなかった“文化”が部になる。
 その喜びは彼女を興奮の頂までいざない、シビレるほどの熱い希望を持たせた。

(が……がが我慢すれば部活……! 郭鷺だけ見るようにすれば部になる……!)

 他人には解らない彼女のみの葛藤。
 新聞部にいつも遅れをとっていた文化が文化部へクラスチェンジする時。
 これを逃す手があるだろうかいや無い! ……反語。
 彼女の脳内で様々な意見が交されたが、結局は脳内晃光全員が手を取り合い、受け入れるカタチになった。

「い、言っとくけど! 部長はあたしだからね!?」
「なにぃ、なら俺は社長だ」
「なにそれ!? しゃちょっ……社長!? 部なんだからそんなのあるわけないでしょ!」
「……知らんのか? このガッコじゃあ部長の上に社長ってのがつくんだ。部の管理をするためにな。もしや“部”になったことがなかった所為で知らなかったのか?」
「え……ほ、ほんとに……?」
「うそだ」
「ギィイイイイーーーーーーッ!!!」
「おお、アブラゼミの真似か。上手いな」
「違うわよ!」
「……ハリガネパンダの真似か!」(作:梶原あや氏/殺し屋ジョージ)
「違うわよ!!」
「まあお茶でも飲んで落ち着け。怒るとシワができるぞ。だから早く茶を淹れるんだ」
「あなたが淹れなさいよ!」
「なにぃ、ここでは客に茶を淹れさせるのか。礼儀がなってないぞ礼儀が」
「あなたが礼儀云々を語るなぁあああああっ!!! 大体あなたはもう文化部で───!」
「まだ入部届けにサインしてないが。さあどうする。サインしてほしくば茶を淹れろ。もういいと言うのであれば、茶を飲ませてから追い出せ」
「どこまでお茶に飢えてるのよあなた!!」
「今この島で一番と言っても過言ではないほどに飢えている。さ、聞けて満足だろう? 茶を淹れるんだ」
「淹れないわよ!!」
「茶菓子は串団子がいいな」
「淹れないわよ!!」
「じゃあ団子だけでいい。くれ」
「あるわけないでしょそんなの!」
「お前は俺にどうしてほしいんだ」
「あなたがあたしにどうしてほしいのよ!!」
「よし、じゃあ茶を淹れるところから始めよう。話はそこからだ」
「淹れないわよ!!」

 ぜーぜーと息を荒げながら叫びきった晃光は、少しして「もうやだぁ……」と声をもらした。そんな晃光へと静かに歩み寄り、肩にポムと手を置き微笑む凍弥。

「人間、誰でも人付き合いの前では苦労するものさ。みんなそうやって成長していく。男との付き合いも、部員との付き合いもそういったもんだ。やる前から諦めてどうする」
「……あ、あなた……」
「それを円滑にするためにも茶をくれ。茶菓子はこの際贅沢は言わないから饅頭を」
「うああぁああっ!! もうっ!! やっぱり男なんて大ッ嫌い!!」
「そして彼女は百合に走った」
「走らないわよ!」
「ところでこの女同士の愛を百合と呼ぶの、花と百合って名前の子に物凄く失礼だよな」
「そんなこと訊いてなっ───やっ……そりゃ……同感だけど」
「よしその調子だ。否定ばかりじゃなくて歩み寄る努力をしよう。だから茶をくれ」
「ああもう! 勝手に淹れなさいよ! そこにあるから!」
「これだけ言ってもまだ解らないのか……? 俺はな……お前が淹れてくれたお茶が飲みたいんだ……! あと茶菓子」
「儚げな顔で何言い出してんのよあなた頭おかしいの!? ていうかなに!? 口説き文句かもとか一瞬思っちゃったあたしが馬鹿なの!? よくよく考えればただあなたが手間かけずにお茶飲みたいだけじゃない!」
「否定しづらいことを目の前で言うなよ……」
「そこは否定しなさいよ! 初対面相手にどこまで図々しいのよあなた!」

 いっそ泣きたくなるほどの羞恥心に襲われた晃光が、ズビシと音が鳴りそうな勢いで指差して言う。それに対して反応を見せたのは友人である鷹志であり、

「ああ、こいつ誰に対してもこんな調子だぞ。初対面相手とか関係無しに」
「受け入れてないで止めようとか思わないの!?」
「こいつの言葉遊びに付き合うと日が暮れるから」
「んなぁっ……!?」

 友人だからこそ見切ったもの全てを以って、真面目に向き合うのは骨が折れるだけだと語調のみで言ってみせた。それを受け取った晃光は項垂れるほか無く、そんな時に肩を再度叩かれて顔をあげると───

「ドンマイッ☆」

 笑顔でウィンクしながらサムズアップする馬鹿が居た。

「あぁあああーーーーあぁあああなたが言うなあぁああああああーーーーーーっ!!!」

 怒りはもっともである。
 羞恥心どころか泣きたくなるようなその場の怒りに任せて叫ぶのだが、相手はポッと頬を染めて一言返した。

「そんなにあなたあなた言うな……照れるじゃないか」

 と。
 もう泣いた。
 今度こそ泣いた。
 泣いたけど我慢を選び、入部届けを突き出して手続きさせた。
 こうして、遅れてきたパーシモンを混ぜることで文化部は誕生した。
 その事実に、部長である輝耀晃光は喜んだ。
 喜んだのだが……

「………」
「どうした部長。そんな遠い目をして俺を見たりして」

 部員の中の問題児を見やると、喜んだままではいられない事実にも気づき、途方に暮れたという。

「ねぇ。あなた、退部しない?」
「たった今入部したばかりなんだが」

 人数は四人から部として認められる。
 大体はキリがいい五人からと言われているらしいが、校長が四という数字が好きなのだ。
 なので一人が居なくなったところで部は続けられる。
 しかしこれをあっさり蹴られ、彼女は溜め息を吐いた。
 それは、とてもとても長く重苦しい溜め息だった。


───……。


 景色は戻って新聞部。

「ぬう、アタイがいったいなにをしたと」

 生徒会室から戻った彰利がそうひとりごちた。

「ちなみにひとりごちるとは、独りごちる。独り言を言う、的なものYO? ディスリスペクトをディスると言うようなアレ。略しちゃいないがノリは一緒と考えよう。そしてディスリスペクトはリスペクトの反語的なものでござーまして、尊敬などせぬ! 馬鹿にしておるのだ! と覚えてしまおう。“ディス”自体が“侮辱”とかそういう方向の意味を持つから、ディスるは侮辱するって意味だね。でも意味が解ってるならディスってんのか、とかじゃなくて侮辱してんのかと言ってみましょう。なんか少しだけ心に余裕が持てますよ」
「戻るなりどうしたんだお前は」
「やあマイダーリン。ディスるって言葉と侮辱するって言葉、どっちが好き?」
「どっちでもいいだろ。まあ、相手に意味が伝わらなけりゃそれこそ意味がないって理由では、ディスるは日常的に使えば馬鹿にされるだけだろうが」
「だよね」
「ですから……戻ってくるなり何を言いたいんですの、あなたは」
「いつものことだな。気にすると日が暮れる」
「難解動物やねアタイ。軟体ではなく」

 新聞が配られてしばらく。
 新聞部を訊ねる人物は何人か居たのだが、そのどれもが“これは本当なのか?”と訊ねる者ばかり。
 本当だともと応えても、証拠はと返されれば終わり。
 神が語った歴史の真実!と唱えてみても、その神を信じる者が何人居るのか。
 それは羽棠校長も同じであり、またデマカセを……と呟かれただけで終わった。

「人を信じれないって辛いね……アタイ泣いちゃう。このままでは廃部だ」
「なっ……冗談ではありませんわ! 私が居る部が廃部など!」
「はいそれもう聞いたから。さて、信じさせるにはゴッドの存在を明るみに出さなければいかんわけだけど……どないしまひょ」

 神……八幡颪神のことは基本、内緒というカタチで落ち着いている。
 その割りにあっさりと部員には教えたわけだが、それは仲間意識から来るものであり、事実が無ければ信じられるものではない。ネタを持ってきたと言ったからにはタネを教えなければいけないのと同じで、遺跡の奥にスクープが事細かに書いてありましたと言って信じさせるよりは、神と会ったと言ったほうがまだ信じられるのだ。……あくまで、この状況では、だが。

「ではキョンちゃんを呼ぼう。で、ゴッドと変わってもらう。もらったら校長室に殴り込もう」
「殴り込み入れてどうする」
「新聞に書いてあることは事実なのYO! と言ってみる。さすがに目の前で髪の毛が黒くなったり茶色になったりすりゃあ信じるっしょが。あ、なんならゴッドパワーをもらったアタイが屋上から飛び降りてみせるってのもEかも」
「いや、それ普通にお前が頑丈なだけだって受け取られて終わる」
「えっ?」

 人としての問題を軽く流されてショックだったのか、彰利が悠介をバッと見るが、悠介は香夏子とオセロをしていた。

「詰みました。ここです」
「ぬおっ!? くっ……また負けたか。強いな、白瀬」
「お褒めに預かり光栄です」

 ペコリと綺麗なお辞儀をし、オセロが終了。
 メイド姿の部員とオセロをする姿は異様以外のなにものでもないのだが、悠介にしてみればメイドモードの香夏子のほうが好感が持てたりした。というのも、メイド側にスイッチが切り替わるとふざけたりすることがなくなるので、静かになるからである。

「ぬう。慎ましやかなのはいいけど、ここまで静かなのもどうか。香夏子さん、ジョークを言ってみてください」
「ジョーク、ですか? はい。では───」

 声をかけられると椅子から立ち上がり、椅子を戻してペコリとお辞儀。顔をあげた彼女は人懐こい顔で笑み、持ち上げた右拳から人差し指をピンと伸ばして語る。

「あるところに悪魔と称される存在が居ました。素早く大きく、声は背筋が凍るような、数キロ先まで響き渡るようなもの。時に生き物の血肉をむさぼるその姿はまさしく悪魔。人々はその姿に恐怖しました。けれどある瞬間を境に悪魔と呼ばれなくなりました」
「ホワイ何故?」
「タスマニア島から出てしまったからです」
「タスマニアデビルの話!?」

 気が抜けた。
 おもしろい話かと言われればそうでもないと答える者がほとんどだろうが、ジョークとはそういう軽いものくらいが丁度いいのだろう。
 「おあとがよろしいようで」と言ってお辞儀をする香夏子をよそに、悠介は「あまりヘンなことやらせるな」と彰利を睨んでいた。

「んもう過保護なんだから。キミは香夏子さんのお兄さんですかまったく。なに? もしかして好きなの? ホレてんの?」
「なにをそんなツンツンしてるのかは知らんが、仲間としては好きだぞ」
「あな口惜しやぁあーーーーっ!!」
「何をいきなり襲い掛かろうとしてやがる!!」
「《ドゴォン!》ゲポォイ!?」

 言葉を聞いた途端、彰利が手を揃えて立つメイドへ向けて襲い掛かるが、長テーブルを越えて殴りかかった悠介によって叩き落とされた。

「ワガガガガ……! な、なんという反射神経……! もしやキミの“風のギフト”って反射神経とかそっち系……?」
「いや、なんか知らんが鳩が出せるらしい。反射神経とかはお前の頑丈さと同じで生来だそうだ」

 言い終わりに「鳩が出ます」と言うと、指で作った輪から鳩が出る。
 それは床に倒れる彰利の頭の上に乗ると、ポッポーと鳴いた。

「ぷくっ……マヌケですわっ……!」
「え? まず仰ることがそれでええの? もっとほら、鳩が出たー、とか」
「……! ……!」
「ほら、マリヤさんは目ェ輝かせながら悠介ンこと見ておるよ?」
「ただの手品ですわね」
「超常現象は意地でも信じねーんですかアータ」

 鳩が出せる程度の能力。
 なんの役に立つのかは謎ではあるが、彼は結構気に入っていた。
 能力とはいっても支障があるわけでもない。おまけのようなものなのだから、こんなもんで十分だというのが彼の考え。
 彰利のように頑丈で復活が早い程度の能力に比べれば、随分と平和なものだ。

「しかし鳩。鳩ねぇ。他の八幡島民も、遺跡の颪を浴びれば能力発動したりするんかな」
「どうだろうな。白瀬、以前と比べてなにか違和感のようなものを感じたりするか?」
「ダーリン?」
「あそこに直接行ったんじゃなくても、ゲームとかだと神の封印が解けた〜とかだと突然能力に目覚めるとかあるだろ。八幡に吹く風はあいつの風だ。俺達が知らないだけで、とっくにその風が颪になってる可能性はあるだろ?」
「あ、ナルホロ。それでどうです? 香夏子さん」
「…………とくになにも」
「ま、そりゃそうよネ」

 そう都合よく得られるわけもない。
 不思議なことが起こると、そうなっても不思議ではないという気分にはなるものの、実際に起こるかといったら否だろう。
 香夏子は特に気にするでもなく、お茶を淹れ始めた。

「マリヤさんはどぎゃんね? なにか能力に目覚めた〜とか」
「はあうっ!? え、えと、えとえと……能力、能力…………う〜〜〜〜っ……!」

 急に話を振られたマリヤは肩を弾かせ、急に両手を前に突き出したかと思うと唸り出した。なにか能力的なものを出そうとしているのだろうが、当然出ない。
 そんな格好でうんうん唸るマリヤを見ての彰利の一言はといえば、「凍てつく波動を出そうとしてるゾーマみたいやね」だった。

「ふむん? ねー悠介? 悠介が能力発動できたのって、きっかけとかあった?」
「白瀬がな、手品を見たいとかぬかしてきた」
「それでかなっちの頼みだからって即座にやったの!? なんなのこのツンデレ!! アタイの頼み事は全然聞いてくれへんくせに!」
「ツンデレ関係ねぇだろうが!!」
「もう十分ツンしたっしょ? アタイにもいい加減デレてよこのモミアゲ……」
「お前の口の中に鳩出してシィイイザァアアって叫んでいいか?」
「ごめんなさい勘弁してください。じゃけんども、なんかこうありそうな気がするんよね。恩恵が金持ちになった〜ってだけじゃなくて……ねぇ?」

 贅沢な話だが、振られた女性陣は揃って『このままで十分』という結論に至った。
 特別、能力が欲しいわけでもないのだと。
 しかし、そんな彼女らの事なかれな思いとは別のところでは───


───……。


 コッパァンッ!!

「はぶぅいっ!?」
「ぬおっ!?」

 一人の男の手に、スリッパが現れていた。
 彼の目の前には、頭を押さえながら彼を睨む少女。

「ぬおお、これはどうしたことだ。急にスリッパで叩きたくなったから念じたら、手にスリッパが。これはあれか。ドナルドマジックとかそういうヤツか」

 ……スリッパを持つ男、閏璃凍弥は困惑していた───が、すぐに受け入れた。
 試しに手にあるスリッパをひょいと放り、スリッパが欲しいと念じる。しかしスリッパは出ず、ならばとツッコミを入れる気分で手を振りながら念じると、コッパァンという音とともに手にあるスリッパ。目の前では先ほど叩かれた少女が涙目で睨んでいた。

「不可抗力だ。許せ」
「許せるわけないでしょおぉっ!? あなた急になにすんのよぉっ!!」
「どうでもいいがお前の声って水橋かおりさん風だよな。ポケポケキャラからツンデレ、果てには永遠の次回作主人公の声も当てられそうだ」
「……ねぇ。ここ、怒るとこ?」
「そこにスリッパ落ちてるから、何度でも叩いていいと思うぞー」

 晃光の質問にあっさり答えた鷹志。
 目を光らせた晃光は、即座に先ほど凍弥が放ったスリッパを拾うと凍弥目掛けて勢いよく振るう。心地良い音とともに見事に炸裂したそれは、彼女の心を思いもよらぬほどにスカッとさせた。

「イイ……! じゃなくてっ! あなたなんで避けないのよ!」
「ハリセンやスリッパ攻撃を避けるヤツなど死んでしまえ。理不尽な攻撃以外、甘んじて受けるのがジョーカーというものだ。ジョーカーは逃げない。どしっと構えて挑む者だ」
「……よく解らないけど、ようするに馬鹿なのね?」
「否定はせん」

 胸を張られてまで言われると返事に困る。
 晃光がぐったりと脱力するのと、鷹志が「ていうかさ、スリッパについてそろそろツッコミ入れていいか?」と訊ねるのはほぼ同時だった。




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