それは昔の物語。

我が強き者ではなくなった、我が消滅するその刻。

我は叫んだ。

その声は高い空の空気を振動させ、辺りに静寂をもたらした。

我が向かってゆく先にはふたりの男。

我の身体はもうボロボロだった。

次で己が滅びることなど、誰に教えられるまでもなく、己が一番解っていた。

だが。

我は迷うことなく、ふたりの男へと向かっていった。

唯一迷うことがあるとすれば。

それは、自分の力への疑問。

人間風情に敗れる我は果たして───強者と、言えたのだろうか───。

大きな閃光が我に向かって放たれ、我は突き出した爪の先から滅びていった。

喋ろうとしたわけでもないのに、喉が悲鳴をあげた。

無様な。

自分でそう思い、我は笑った。

笑ったのだが、口から漏れるのは悲鳴だけだった。

くだらぬ。

実にくだらぬ。

これが、感情というものか……。

こんな、情けないものが。

だとしたら、確かに。

我に生きる価値など無い。

なぜなら、自分自身が自分を必要としないからだ。

我は己こそが強き者だと信じていた。

いや、それ以外信じる必要がなかったのだ。

そして、その自身が自身を情けぬものと知り、必要ないと呆れた。

ならば。

『ゼノ=グランスルェイヴ』という死神など、居なくなってしまえばいい。

そして、貴様が我の『死神』だというのなら。

我は、それを受け入れよう。

───人間の場合、このような時は相手の名を訊くのだったな。

最後に、貴様の、名を……。

………………

………………………………

──────目の前の死神は、弦月彰利と名乗った。

それが、貴様の名か、人間…………。

不思議だ。

これを感情と呼ぶのであれば、その感情とやらが尽きることなく溢れてくる。

悔しい、というのだろうか。

この感情を持った状態で、貴様と戦いたかった。

───やがて、自分の身体が消滅し切る寸前。

目の前の『彰利』という人間は言った。

『12回分の借り、返したぜ』、と。

疑問が残ったが、もうそれもどうでもいい。

感情を持って初めて感じたことが己への失望だとは。

実に、くだらぬ───

最後に己の生き様を鼻で笑い、我は完全に無に還った。

死神のみが受ける、死とは別の『消滅』という名の虚無へ。











───秋日(ときび)───
───秋。 紅葉の見映える季節、この街は賑わっていた。 今日は秋の風物詩、と言えるかは微妙なところのハロウィンパーティだった。 俺と彰利は子供のようにこの瞬間を待っていた。 というのも、この街でハロウィンというものをやるのは初めてなのだ。 当然この街で育った人はそれが初めての体験。 どうということでもなく、だけどそうすることが当然のように俺達は興奮していた。 ───数日前のことだ。 街の民ひとりずつ南瓜(カボチャ)役を選ぶ抽選が行われた。 ジャック・オー・ランタンというか、やはり例えるなら南瓜で十分な被り物。 それを被る者を決めるのだ。 年齢は20代以下限定。 その抽選で当たった人が誰かに交代するのもアリらしい。 そんなこんなで『この年齢になって』とか言って辞退する人も少なくなかった。 …………。 ……。 朝。 その日は小鳥の囀りが聞こえるいい天気だった。 俺、晦悠介は遊びに来ていた彰利と一緒になって屋根に登って日向ぼっこをしていた。 彰利 「なぁ悠介」 悠介 「んー……?」 彰利 「気持ちいいなぁ」 悠介 「そうだなぁ……」 彰利 「……ところでさ、ハロウィンの抽選ってば誰が当たると思う?」 悠介 「さぁなぁ」 彰利 「当たった人にだけ教えてもらえるらしいから誰かなんて謎だし、     当たったら当たったで南瓜被れば我らだなんて解らんし。     これこそ、我らの家系にバッチリマッチした最高の催しモノじゃないかね」 悠介 「言われてみると、そんな感じもするな。特に俺達の場合は」 彰利 「顔が割れてるからクラスとかのヤツらが居ると心置きなく騒げないんだよな」 悠介 「悪いな」 彰利 「よせやい、俺は別に悠介の意識を尊重してるわけじゃない。     ただなんとなく、初めての騒ぎで喜んでるヤツらを沈ませたくないだけだ」 悠介 「……それ、昨日俺が言った言葉だろうが」 彰利 「いや、俺は今思いついたんだぞ」 悠介 「まったく……」 損な性格だ。 怒りに任せて台無しにしてしまった去年の文化祭の償いってわけでもないが、 俺は極力、このハロウィンではあいつらに顔を見せたくないと思っていた。 どうしてこんなことを考えるかは自分の中では不思議なんだが、 俺としてもあいつらと遭遇して落胆するのはイヤだった。 どっちもどっちなんだ。 悠介 「でもまあ、確かにな」 彰利 「うん?」 悠介 「誰に当たるのかな、ってさ」 彰利 「そうだな」 抽選というのが一定区域の中からひとりだけ選ばれるというものなのだ。 だから俺達の中で選ばれるのはひとりだけ。 ともなれば、ガラにもなく俺も期待していたりする。 彰利 「そういやそろそろだよな、抽選発表」 悠介 「今日の午後過ぎに発表されるとか言ってたな」 彰利 「……あれ?なんかそれ、おかしくねェザマスか?」 悠介 「やっぱりそう思うか?」 彰利 「そりゃそうでしょダーリン。     だって当たった人にだけ教えるんザマショウ?発表もなにも」 だんだんだんっ! 彰利 「ウィ?」 ふと、玄関をノックする音が聞こえる。 彰利 「まったく……誰ザマスか、     人がせっかく説いて教えるという名の説教をしているっていうのに」 悠介 「ああ、行ってくるからここで寝てろ」 彰利 「おーう。いつまでだって待ってるワ」 悠介 「やっぱ帰れ」 彰利 「いやーん冗談ザマス!せっかくだから俺様も行こう!」 悠介 「別にいいけどな。邪魔だけはするなよ」 彰利 「おう任せろ!いつでも邪魔してギャアア!冗談です!」 悠介 「……ああ、今度こそ、本当に本かな」 彰利 「本って……去年言ってたアレか?……なに、まだ来てなかったの?」 悠介 「ああ、まだだ」 いい加減呆れる。 悠介 「まあいいや、行ってくる」 彰利 「行ってこい!」 悠介 「行くって」 彰利 「……たいした野郎だぜ」 悠介 「なにが言いたい」 彰利 「梁師範」 悠介 「誰だ」 彰利 「ジャングルの王者の知人だ」 悠介 「……俺、行くぞ」 彰利 「おう、俺はやっぱりここに居るから」 悠介 「………」 実に疲れる。 俺は溜め息をひとつ吐き、屋根から跳んで降りた。 一応靴は履いてある。 足が着くと同時にざりゃぁっ!という石が擦れる音が鳴る。 俺はそのままの足で玄関へと向かった。 悠介 「届け物ですか?」 玄関前で玄関をノックしていた男に語り掛ける。 配達人「っ……はぁーっ、はー……っ!」 真っ青っぽい顔で、しかし汗をだらだらと流しながらそいつは振り向いた。 その隣には大きな荷物。 ……そりゃあな。 これだけデカけりゃ息も切れる。 ただでさえ心臓破りで有名な晦神社の石段だ。 何も持たなくても疲れること請け合いなのに、こんなものを持ってでは……。 配達人「お、おにも……っ!お……荷物……はぁーっ!はーっ!」 悠介 「ご、ご苦労様です……」 話を長引かせるのは可哀相な気がしたので、印鑑を創造する。 ……うん、理力も少しは馴染んだか。 小さく頷くと、震える手で差し出された配達明細書に印鑑を押す。 配達人「………」 ペコリとお辞儀をして、彼は去っていった。 ……ほんと、ご苦労様。 多分明日あたりには筋肉痛だろうな。 に、してもだ。 悠介 「……なんだいこりゃあ……」 いやにデカい荷物を見る。 ダンボールに包まれているから中がなんなのかは一切謎である。 ただ、見るところによると……一応はコワレモノ注意らしい。 ……気になる。 一体誰に……? ───晦 水穂 様 荷物の表記にはそう書かれていた。 水穂に? ……ますますなんだろうか。 ぬう……気になる。 セレス「お届け物ですか?」 手を拭きながらセレスが玄関まで歩いてきた。 どうやら皿洗いが済んだあとらしい。 セレス「すいません、お皿を洗っていたためか、客人に気づきませんでした。     聴力、鈍りましたかね……」 悠介 「いや、いいって。     本来、こうやってぐーたらしてる俺が他の雑務をするべきなんだし」 セレス「人数分の料理を毎日毎食作るだけで十分だと思いますけど。学生ならば」 悠介 「そうでもないさ。     特にセレスと水穂には十分すぎるくらい家のことやってもらってるし。     家事の手伝いや各個所の掃除とかやってもらって、ほんと助かってるよ。     どっかの姉に見習ってもらいたいんだけどね」 春菜 「それってわたしのことかな、悠介くん」 悠介 「そうそう。人が来ない神社で破魔矢とおみくじ売ってる、     ちょっぴり哀愁漂う姉さんこと晦春菜さん」 春菜 「確かに毎日毎日人が来なくて、     『これって無駄なんじゃ……』とか思ってるけどさ。     でも働いてないわけじゃないもの、そこのところは解ってよね」 悠介 「大丈夫、冗談だから」 春菜 「………」 悠介 「ところでさ」 俺は視線をダンボールに移す。 悠介 「これ、なんだと思う?」 春菜 「ダンボール」 悠介 「はい、お約束のボケはいいから。中身のことだ」 セレス「そうですね……。このダンボールからは南瓜の香りがしますね」 悠介 「カボチャ?なんだってまた。ていうか差し出し人は───極秘!?」 なんだこりゃあ。 セレス「カボチャ、といえば───もうすぐですよね、ハロウィン」 悠介 「ああ、そうだよな。さっき彰利と一緒になってそのこと話してたところだ」 春菜 「うーん……」 悠介 「姉さん?」 春菜 「もしかして、だけどさ。アレじゃないかな」 悠介 「アレ?」 春菜 「たしかジャックランタンの抽選発表は本人にだけ教えられるんだよね?     ホラ、これなら本人のもとに届いて、本人にしか解らないし」 悠介 「いきなり開けるたわけ者が居ないとも限らないけど……そうかも」 ちなみにたわけ者とは俺がよく知るヤツだ。 あいつならまず確実に『キャアア!なにが出るかな!なにが出るかな!』とか言って、 ハサミどころか高枝切りバサミをズオォと取り出して切り刻んで開封するに違いない。 言葉に自信はないが、高枝切りバサミには自信が持てた。 悠介 「もし、姉さんの予想が的中してるとしたら……」 この中に憧れのあのジャック・オー・ランタンが……!? だ、だからこんなにデカいのか!? あのバカデカい南瓜とともに黒ずくめっぽいマント風の服、そしてランタンが!? ……み、見たい……! 悠介 「………」 春菜 「……悠介くん、目が輝いてるよ」 悠介 「はっ!?」 いかんいかん!何考えてんだ俺は! これは抽選で水穂に送られてきたものじゃないか! 俺が……抽選に掠りもしなかった俺がこれを当日以外に見ようなど……片腹痛いわ! 悠介 「……よし、これは水穂に渡して、と」 春菜 「……本気?」 悠介 「な、なにがだ?」 春菜 「知ってるよ?わたし。悠介くんがジャック見たくてそわそわしてたの」 悠介 「な、なにを言う、この歳にもなって、そんなこと」 春菜 「悠介くん?     昔っからこういう催し物に縁が無かったキミが惹かれるのは当然なの。     別にわたしたちはそれがおかしいだなんて言わないよ?」 悠介 「……誘惑するな、俺は歯を噛み砕くくらいの根性で開封を諦めたんだぞ」 春菜 「うわ、もうそんな激しいバトルが展開されてたんだ」 悠介 「これは、水穂に」 ダンボールを持ち上げ、玄関をくぐる。 セレス「待ってください悠介さん」 が、セレスが俺を呼びとめる。 セレス「それならば、名前を書き換える。というのはどうでしょう」 悠介 「名前を?」 セレス「この荷物が水穂さん宛ての物なら、名前の部分を創造して貼り付ければ」 悠介 「……そうまでして中身が見たそうに見えるか」 セレス「見えますね。     こちらが驚くくらいに子供のような目で、しかもそわそわしてます。     まるでゲーム機本体を買ってもらったのに、     ソフトが無いことに気づいて親に頼んだら、     『明日買いに行こうな』と言われた子供を見ているようです」 悠介 「長いな(例えが)」 セレス「出来るだけ具体的に語りたかったんです。まあこんな日もありますよ」 悠介 「そうか」 セレス「オチとしては親は仕事三昧で結局ゲームは翌日には買えず、     しかも学校で話題に乗り遅れた上に親は残業。     ようやく帰ってきた親が手に持っていたものに興味を示し、     しかも『遅くなってごめんなー』とか言って渡すもんだから、     てっきりゲームだ!と思ったものの、     まあ確かにゲームなのだけれどまるっきり違うゲームだったとか。     ああちなみにそのゲームの違いは、ファイナルファンタジーと     ファイナルファイト涯(無頼伝)くらいの違いです」 悠介 「どうしてそこまで詳しいんだよっ!しかも微妙に違うぞ!?」 セレス「日本文化は難しいですから。勉強してみました」 悠介 「待て!それは日本文化じゃあ断じてないっ!イヤな憶え方をするな!」 セレス「補足してみればその日から数日、その子供さんは親と口を利かなかったとか」 悠介 「それは子供の典型パターンだな。いかにもやりそうだ。     って、だから子供の話はもういいから。     確かに残念だけど、水穂が当選(?)したんだからこれは水穂の物だよ。     いくらなんでも横取りするようなことはしない」 セレス「残念です」 悠介 「残念がるな」 セレス「それもそうですね。それではわたしは洗濯物を見てきますね」 クスクスと笑うセレスは俺の脇を通り抜けて家の中へと消えていった。 春菜 「……既に吸血鬼ってイメージなんて皆無だね」 悠介 「楽しそうでいいじゃないか。いいことだよ」 春菜 「悠介くん、なんかオヤジくさいよ」 悠介 「誰がオヤジだ」 春菜 「誰でもいいけどね」 悠介 「オヤジ」 春菜 「わたしは違う!!」 悠介 「誰でもいいって言ったじゃないか」 春菜 「だからって、女の子を……しかも姉をオヤジ扱いなんて……。冗談だよね?」 悠介 「俺は至って真剣だが」 春菜 「───」 悠介 「姉さん?ホウキを人に向けて輝かせるのはどうかと思うぞ」 春菜 「姉をオヤジって言うのはどうかと思うよ」 にっこりと笑う。 いかん、ほんのジョークのつもりだったんだが。 なにやらとても絶体絶命的状況下に放りこまれたような気がする。 悠介 「ほんのジョーク!ジョークだから!」 春菜 「…………悠介くん?     キミにはジョークとかそういうものって似合わないからやめたほうがいいよ。     ひとことで言えば『らしくない』し、才能がないよ」 悠介 「才能って……」 ジョークには才能が必要なのか。 解る気もするけど、なにか釈然としない。 悠介 「……荷物、置いてくる」 春菜 「はい、いってらっしゃい」 ……。 なんか変な気分だ。 とんとんとん。 水穂の部屋の襖をノックする。 が、シーンと静まっていて、返事もなにもなかった。 この時間なら───あ、そうか。 セレスの言葉を思い出して、恐らくは洗濯物だろうと考え、軒下へと歩いた。 悠介 「水穂ー?」 声に出して探してみる。 しかし返事はない。 セレス「悠介さん。どうかしたんですか?」 悠介 「いや……あのさ、水穂を見なかったか?」 セレス「水穂さんですか?恐らく掃除に出たのでは?」 悠介 「掃除か。頑張るな」 セレス「確信は持てませんよ」 悠介 「いいいい。情報が得られただけで十分だよ。それじゃ」 セレス「はい」 セレスに手を振ると荷物を抱え、神社へと歩いていった。 ………… ……。 悠介 「ぐおぉっ……!」 こ、これは……確かに疲れるわ……! よくもまあ、一介の配達人がこの長い石段を登って来れたもんだ……! 悠介 「……よっ!」 ダンボールを抱え直して───ってアホか俺は! 悠介 「水穂は庭の掃除だろが……」 自分のアホさ加減に呆れながら、石段を降りていった。 そして玄関へと舞い戻り、水穂を呼んでくればいいだけの事実に気づくと、 溜め息を吐きながらダンボールを置いた。 ………… …… 庭の到る所を覗いてみても、水穂は居なかった。 そこで俺は思いつく。 まさか、と。 ドキドキしながらその場所へ足を進める。 と。 水穂 「んー!んー!」 水穂が案山子(カカシ)にされていた。 畑の中央付近でキリストのように十字架式の(はりつけ)にされている。 その周りで猿が飛び跳ねている。 そしてガッチリと固定された腕にはカラスが留まっている。 口にはがんじがらめに巻かれた手拭い。 その瞳からは一目で解るほどに、だうーっと涙が滝のように流れていた。 悠介 「な、なに考えてんだあのバカ……」 猿とカラスをウガーッ!と威嚇して退散させて、俺は水穂へと近づいた。 ───途端! バチンッ!ガバァッ! 悠介 「へっ?」 畑の中からガトリング砲を胸に備えた案山子が起き上がった。 悠介 「こッ───これはあの懐かしの」 ガラタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!! 悠介 「おぉわぁあああああっ!!」 足元に威嚇射撃をされる。 慌ててその場から離れると、ロックオンした状態で案山子が静まった。 ……あ、あのバカ……! まさか某・農作老人サイボーグネタで来るとは……! どこの世界に日本マンガに詳しい死神が居るんだよ……。 悠介 「………」 それはそれとして、薬莢はどこから? 悠介 「チィイ……!仕方ない、そっちがその気なら……彰利ー!」 ピィイーーーッ!! 口笛を吹いて、彰利を呼んだ。 すると、風を切る彰利が空から降ってきた。 ドカァッ! 彰利 「呼んだかい、この俺を」 俺に向き直ってニヤリと微笑む彰利。 悠介 「キミに死命を命ずる」 彰利 「うっしゃあダーリンのお願いならどんと死命!?殺す気満点!?」 悠介 「はっはっは、間違えた。使命だ使命」 彰利 「あはははは〜、なぁんだ〜。って俺の目ぇ見て言えよ!     どうして目ぇ逸らしながらボソボソ言うの!?」 悠介 「じゃあお願いだ。あそこで囚われの身になっている水穂を助けてやってくれ」 彰利 「そして助けた姫とハッピーエンド!?」 悠介 「大事な妹を貴様なんぞに嫁がせてたまるか」 彰利 「ゲェーッ!?それがお願いする人に対する言葉なの!?ひでぇ!」 悠介 「な、頼むよ。あいつを助けてやってくれ」 彰利 「……むぅう……この俺に対して手を合わせて懇願するダーリン……!     なんとたまらぬ状況よ……!世が世ならこのまま押し倒したい気分ぞ」 悠介 「さっさと行きやがれホモ」 彰利 「冗談YO!」 彰利が走り出した。 そこで気づいたが、案山子が消えていた。 一定時間経ったりすると地中に戻る仕掛けなのだろうか。 彰利 「水穂ちゃぁ〜ん!ラブリィイイイッ!!」 唇を突き出しながらズドドドドドと一直線に走る彼に対し、 水穂は囚われていることよりむしろ、彰利に恐怖を抱いたようだった。 だめじゃん。 バチンッ!ガバァッ! 彰利 「ウィ?」 彰利が『?』を浮かべながら音のした方に振り向く。 彰利 「……ギャア!」 そして叫んだ。 ガラタタタタタタタタタタタタタタタタタッ!!!! 彰利 「ギャアアアアアアアアアアッ!!!!」 彰利が大慌てで逃げてくる。 彰利 「ダーリン貴様ァアアアッ!!あんなの聞いてねぇぞコラダーリン!     ちょ……っ!ちょっとちびっちゃったじゃないかァーッ!」 物凄い形相で彼は叫んだ。 悠介 「すまん、言い忘れた」 そんな彼に輝く笑顔をお見舞いしてやった。 彰利 「言い忘れたで済むかーっ!!マジでビビッたぞチクショーイ!」 悠介 「悪かったって。だから震えながら泣くな」 彰利 「うぅ……ビビッた……心の底からビビったYO……」 彰利もまさか実弾が飛んでくるとは思ってなかったらしい。 だって……なぁ? 『まさか』だもんなぁ。 彰利 「大体、ダーリンたら俺が実弾に弱いこと知ってるでしょ?」 悠介 「誰だってそうだと思うが、お前ならなんとかなると思ったんだ」 彰利 「信頼してくれるのは嬉しいが、それはせめて状況を伝えてからにしてくれ」 悠介 「大丈夫!お前なら打たれても死なん!」 彰利 「死ぬわぁっ!」 どっからそんな自信と根拠が出てくるのさ!と叫んでる彰利をなだめる。 悠介 「安心しろ、コンティニューならルナが居る限りは何回でも利くぞ」 彰利 「過程の時点で何回も死ぬことが決定付けられてるじゃねぇの!     大体ルナっちがアタイを蘇らせてくれると思うの!?えぁ!?」 悠介 「えぁ!?じゃない。逝け」 彰利 「イヤァア!なんか『いけ』の部分に殺戮的なものを感じたァーッ!」 悠介 「いざとなったら案山子とか壊してもいいから。     大根さえ破壊しなければ死因にはならん筈だ」 彰利 「それってダーリンが何か創造して破壊しても一緒なんじゃないの?」 悠介 「創造理力はまだ回復中だ。破壊的なものはまだ創造できん」 彰利 「ぬおお……なんと都合主義な能力じゃい……。     しかしそうと決まれば仕方あんめぇ。俺が行こう」 ズシャアアと砂煙を舞わせつつ、彰利が一歩を踏みしめた。 ガシャン! 途端、ガトリング砲を備えた案山子が彰利に向き直る。 彰利 「……抜きな。どっちが早いか勝負」 ガラタタタタタタ!! 彰利 「ギャアアアアア!!」 彰利が一目散に逃げ帰ってきた。 彰利 「て、てめぇ卑怯だぞ!まだ喋り途中なのに!泣くぞこのカカシ野郎!」 悠介 「ふざけてる場合か!」 彰利 「なにぃい、俺はあいつと西部劇の素晴らしさをだな」 悠介 「それで撃たれてどうするんだ」 彰利 「至極道理。だが我にとっては些事に他ならぬ。     故に我は彼の物に影響など受けぬ。受けると例えるならば、それは我が」 悠介 「妙な口調を駆使しとらんとさっさと行きゃーね!」 彰利 「何語だ」 悠介 「何語でもかまうか」 彰利 「ならヴァサー語だな」 悠介 「誰だ」 彰利 「海水生物系モンスタ−だ。その名もヴァサーゴ」 悠介 「知らん」 彰利 「だろうな。まあいいコテ、行ってきます」 悠介 「おう行け行け」 彰利 「さあ、どこからでもかかってきなさい」 彰利が構えたのち、ダッ!と走り出した。 その瞬間にガトリングが火を吹く。 彰利 「───ぬるい!時の力よ我に奇跡を!」 彰利が叫んだ。 その間にもガトリングは火を吹く。 が、それも長くは続かなかった。 しばらくするとカタカタという音が鳴るだけで、弾は出てこなくなった。 彰利 「……ハッ、未熟千万!」 彰利が手を広げると、そこからジャラジャラと弾がこぼれ落ちた。 悠介 「お前何者!?」 彰利 「ハハン、軌道とスピードとタイミングさえ解れば掴むことくらい造作もない」 人間じゃねぇ……。 彰利 「フフフ、さぁお楽しみの時間じゃてお姫さま。俺様がたっぷりと愛して」 ドガァアアアアアアアアアアアアンッ!! 彰利 「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!!」 彰利が畑に入った途端、地面が炸裂した。 じ、地雷……!? なんて驚く内に、この蒼い大空へと旅立った彰利が地面と衝突した。 彰利 「ぬぁああああああああっ!!」 そして起き上がる。 彰利 「上等だこの野郎!     この某・矢島とも思える状況!真っ直ぐ見つめて打破してやらぁな!     誉めよ筋肉称えよ祖国ーーーーーッ!!!」 ズドドドドドドドどかぁああああああああああああんっ!! 彰利 「ウギャアアーーッ!!!!」 彼は再び、この大いなる空へのフライトを我が身で体感した。 彰利 「ま、まだぞ……!この俺様をこの程度で止められると」 ツキューンッ! 彰利 「うごぉっ!」 ───……どしゃあ。 彰利が倒れた。 彰利 「ば、ばかな……力がでない……?麻酔……か……?」 彰利の瞼がガクガクと震えながら降りてゆく。 彰利 「だ、だーりんへるぷ……ちからがはいらなひ……。     あごのひからがぬけへ……ら、らーりーん!あなたのかおをわけてーっ!」 彰利がなにやらよく解らんことを叫んでいる。 むしろ俺はアンパン人間ではないので顔を分けたら死ぬ。 彰利 「ぬっ……ぐぉおおお……!」 彰利が自力で立ち上がる。 彰利 「まだだ……!やっぱまだだ……!     このふざけた畑から水穂ちゃんを救出して愛を育むまでは」 バチンッ! 彰利 「ウィ?」 ───あ、トラバサミ。 彰利 「ギャッ……ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」 彰利の足場が土埃を舞わせたと思ったら、次の瞬間にはトラバサミの姿があった。 彰利 「うぅわ!これすっげぇ痛い!所詮昔話で有名なモノだなんてあなどった!     これは本気で痛い!ツルの恩返しじゃないけどツルの気持ちが解った!     ダーリン助けてー!恩返しするから助けてー!     アタイの体中の毛という毛をむしって織物つくるからーっ!!」 いらねぇ。 彰利 「ああもうなんだか目も覚めたわ!これで覚めなかったら詐欺だぜ!?     ていうか血ィ出てる!思いっきり出てるよ!野郎ルナっち!     よくもこの美白で有名なアタイの肌に傷を!許せねぇ!     てめぇはこの俺とドモホルンリンクルを敵に回したーッ!!」 彰利が吼えた。 彰利 「ぬぅうううん!この痛み、アンナの痛み……!宣言しよう!     名物イベントの前に装備を奪われて拳でギルバードを殴る賢者様のごとく、     貴様は俺が直々に拳で屠ってくれるわぁあああああああっ!!」 妙に偏った知識を披露しながら、彼は何かを心に誓ったようだ。 彰利 「でも暴力はよくないよね」 にっこりと微笑み、トラバサミを拳で破壊する彰利。 彰利 「くそう、こういう時に『やまだのじゅつ』が出来れば、     人体以外の物体を浮かせることが出来るのに。もちろん標的はルナっちで」 なにを言っとるんだあいつは……。 彰利 「だが貴様は方法を誤った!俺様はこの程度じゃあ動じねぇのよ!」 悠介 「ガトリングでちびったのは誰だ〜」 彰利 「やかましいわよダーリン!お黙りになって!」 彼は元気だった。 見ればトラバサミによって傷つけられた足も、 血管同士がウジュルウジュルとくっつき合い、皮膚が傷を塞いで再生した。 悠介 「どこまでバケモノになる気だてめぇ!」 彰利 「人がせっかくストレイツォの真似して見せたのに、     その言いぐさは無いんでないのかいダーリン!」 悠介 「知るかボケーッ!いいから行けーっ!」 彰利 「それならダーリンもおいでよ!もう地雷以外無いから大丈夫よ!」 悠介 「地雷でも死ぬだろ!」 彰利 「あーっ!今死ぬって言ったァーッ!     ダーリンたら今自分が誰にその死ぬ行為をさせてっか解ってんのかコラァ!」 悠介 「俺はお前ほど頑丈じゃないんだよ!」 彰利 「そんなもん根性で乗り切りなさいよー!」 悠介 「出来るかー!」 お決まりのように言い争いが始まった。 水穂はそんな俺達を見て、諦めたようにだぅーっと泣いていた。 彰利 「もう!地雷がなんだっての!こんなもん無視して突き進めばいいのよ!     それに畑の大根の近くには置いてあんめぇ!はぁっ!」 ドドドド……バッ! ───ダンッ! 彰利 「───よしっ!予想通り!水穂ちゃ〜ん!今助けてやっからね〜ィェ」 ぶちっ!ぶちぶちっ! 握力で縄を千切り、水穂を救出する彰利。 自由になった水穂が小走りに俺の方へと走ってくる。 彰利 「うん、よきかなよきかな」 うんうんと頷きながら彰利も戻ってくる。 そして、ようやくこの畑を攻略することがカチッ。 彰利 「───……カチ?」 彰利が足元を見る。 やがて俺に向き直り、涙をホロホロとこぼしながら首をフルフルと振る。 彰利 「どうしてー!?水穂ちゃんの時、なんにもなかったじゃなーい!     どうしてー!?どうして俺ばっかこんな目に合うのよーっ!     なんか納得いかねぇええええええええっ!!」 どがぁああああああああああんっ!! 彰利 「ギャアアアアアアアアアアッ!!」 どかっ!ぐしゃっ! ぷすぷすぷすぷす……。 彰利がミディアムだ。 彰利 「くっそがぁああっ!ルナーっち!どこだルナーっち!勝負しろチクショー!     出てこないと貴様の大根の命はねぇわよーっ!?」 ルナ 「百年早い!」 トチュッ。 彰利 「キャーッ!?」 ディファーシックルが彰利の背中を襲った。 彰利 「痛い!これは痛い!貴ッ様卑怯だぞ!     正々堂々試合開始しろ!それはもうアイアンリーガーの如く!     ていうかOPテーマってどう聞いてもエイエンリーガーって歌ってるよね」 ルナ 「なにそれ」 彰利 「農作老人サイボーグ知っててどうしてエイエンリーガー知らねぇのよ!」 悠介 「アイアンリーガーだろう」 彰利 「どっちだって同じよ!……ふんっ!」 パンッ! 彰利が気合を入れると同時に、背中の傷が塞がる。 ホントにどんどんバケモノになってゆく。 彰利 「さ………………魅せますか…………」 悠介 「魅せんでいい。パクってないで冷静になれ」 彰利 「フフフ、アタイはいつでも冷静沈着ぞ?」 嘘だな。 ルナ 「それにしても……随分破壊してくれたわね」 悠介 「人のこと言えるのかお前は」 ルナ 「あぅ……あ、えっと、ベニーのことは、その……」 悠介 「ルナの口内にすりおろしニンニクが」 ルナ 「いやああああああっ!!」 ドシュンッ! ルナが一瞬にして視界から消え失せた。 彰利 「いきなり実力行使とは、珍しいじゃない」 悠介 「家族に手出しするヤツはたとえ知人であっても容赦しない」 彰利 「ストレイツォでも?」 悠介 「意味が解らん」 彰利 「ぬう……ダーリンはもうちょっとマンガとか見るべきだと思うね」 悠介 「べつに今のままでも構わないだろう」 彰利 「そんなこと言ったって、     知ってるのがキン肉メンとかそういうやつだけじゃあ寂しいのよアタイが」 悠介 「失礼なヤツだな。俺がストレイツォを知らないとでも」 水穂 「あの……」 悠介 「ああ悪い、なんだ?」 水穂 「どうかしたんですか?ボクを探してたみたいですけど」 ───そうだった。 悠介 「喜べ水穂!」 水穂 「え?え?」 悠介 「お前宛てに南瓜グッズが届いた!」 水穂 「え───」 彰利 「なにぃ!?」 彰利が俺と水穂の間に割って入った。 彰利 「譲ってくれ!その権利を!今すぐ!俺に!早く!」 水穂 「えぇっ!?あ、あの、その、あのあの」 カスッ! 彰利 「くほっ───」 ガクガクガクガク……ドシャァッ! 俺に顎を撃ち抜かれた彰利が崩れる。 悠介 「一応、玄関に置いてあるから確認してみるといい。     あ、俺は開けたわけじゃないからな?セレスが匂いで解ったみたいで」 水穂 「解ってますよ、お兄さんは勝手に人の持ち物を物色する人じゃないです」 彰利 「……どうして俺を見ながら言うのかな」 水穂 「あっ!そ、その、ごっ、ごめんなさいっ!」 彰利 「くっ……なんて正直な娘ッコなんじゃ……!そんな彼女が憎らしい!     いいや、違うな。妬ましいのねアタイったら。     これがもし少女マンガの世界だったらトゥシューズに画鋲入れてるわよ。     それはもう、ヒロインを妬む脇役のように……誰が脇役だこの野郎!」 悠介 「ひとりノリ逆ギレするな!」 彰利 「だって〜!羨ましいじゃない妬ましいじゃない!ジャックですよジャック!     ハンマーじゃないのがちょっと残念だけど、     南瓜ヘルム被っただけでどんな暴挙も許されるんでしょう!?     そんならアタイ、南瓜ヘルム被ったままで女風呂に侵入を果たしたい!」 悠介 「やめとけ、半殺しじゃ済まないぞ」 彰利 「そんなバカな!だってトリックオアトリートですよ!?     『お菓子か悪戯か』とか『いたずらされたくなかったら持て成せ!』とか!     悪戯ならいいんでしょう!?許されるんでしょう!?     グフフフフ、もちろん風呂入ってるオナゴが菓子持ってるわけねぇからのぅ、     安心して長居出来るわ悪戯出来るわでもうパラダイスですよ!?」 ドコッ! 彰利 「オッ───!?」 ガクガクガクガク……ドシャアッ! 彰利の人中に一本拳を見舞うと、 彼はバランスを崩したかのようにその場に尻餅をついた。 悠介 「ひとこと言ってやろうか。     それは既に『悪戯』ではなく……『痴漢行為』だ馬鹿者ッ!!」 バガァオォンッ!! 彰利 「ギョハァッ!!」 悠介 「漢として恥を知れ!この痴れ者がッ!!」 彰利 「甘いわ!痴れ者系の漢だからこその痴漢ぞ!?」 悠介 「そこで肯定してどうするかァーッ!」 バコォッ! 彰利 「ゲッファーッ!!」 ドシャア……。 彰利 「か、堪忍や……。もう言われへん……」 悠介 「だめだ」 彰利 「えぇーっ!?更正しようとしてる善良で純粋無垢なアタイに対し、     手を差し伸べるどころか谷へ突き落とした!?獅子の如く!?     なのに登ってくるまで待たずにシカト!?そりゃあねぇぜダーリン!」 悠介 「さー水穂、玄関に行こうなー」 彰利 「本気で無視かい!」 悠介 「騒いでたって始まらないだろ?」 彰利 「正論ですな。お供します」 水穂 「あ、でも……見せてしまっていいんでしょうか」 彰利 「わたしはかまわん」 悠介 「確かにそうだよな。主催者側も、本人だけに見てもらいたかったんだろうし」 彰利 「わたしはかまわん」 水穂 「はい……。ボクは全然いいんですけど、ルールとして、それはいいのかなって」 彰利 「わたしは一向にかまわんッッ」 悠介 「お前には訊いてない」 彰利 「だったら今すぐ訊いて!そしてアタイを抱き締めてモナムゥーッ!」 悠介 「えぇいっ!今や知っている人の方が少ないネタを使うな!」 彰利 「なにぃい!?ベルサイユ=一平=ルーブルをバカにするかダーリン!     ていうか彼を知ってるなんて、キミも結構深いのねダーリン」 悠介 「怒るか感心するか、どっちかにしろ」 彰利 「アタイに南瓜を横流しするんだ水穂ちゃん!     じゃねぇとダーリンの貞操に危機が訪れゲボブッ!」 悠介 「いきなり矛先を変えて何を勝手なことくっちゃべってやがるーーっ!!」 彰利 「ゲェーッ!連撃!?ボディブロゥだけじゃ飽き足らず、尚もアタイを殴ると!?」 彰利が次の衝撃に構えた。 ていうか避ける気がないのかこいつは。 彰利 「ライトサークル」 ばしぃっ! 彰利 「レフトサークル」 ばしぃっ! 彰利 「ハイ、アップ」 びしっ! 彰利 「ダウンねダニエル」 ボゴォッ! 彰利 「さんべらぁっ!?」 俺の拳が彰利の頬を捉えた。 が、彰利は受けた衝撃に耐え、無理矢理こちらを見た。 彰利 「ブンッ……キミへの疑惑が確信へと変わっ」 ドス。 彰利 「ギャア!」 彰利の脇腹に貫手を刺した。 不意打ちにもにた衝撃に、彰利が力を抜いた。 もちろん、その隙を逃したりはしなかった。 悠介 「サミング!」 トチュッ! 彰利 「キャーッ!?」 サミングを瞳にくらった彰利が身を丸める。 その隙に水穂を促し、俺はその場をあとにした。 Next Menu back