───南瓜(かぼちゃ)───
春菜 「……ごめんね、あの通り、不器用な人だから」 奈々 「………………」 春菜 「奈々?」 奈々 「…………………………」 春菜 「……言っておくけど、惚れたなんて言ったら全力で排除するわよ」 目がギパァと変異する。 奈々 「………」 春菜 「否定は、しないってこと?」 奈々 「惚れるなんて、そんなこと出来ませんよ……。     わたしが入るような場所なんて、ここにはありません」 春菜 「……そう」 加奈 「ところで……ここの神主って晦悠介なんですか?」 春菜 「加奈、名指しはやめなさい」 加奈 「は、はいっ!」 春菜 「……えーと、ここの両親が旅客機の事故で亡くなっちゃってるんだよね。     だからあの若さで事実上の神主、ってことになるんだと思うけど……。     ほら、ああいう性格でしょ?     前に訊いてみたら、自分は貰われた存在なのに継げるかって怒ったんだよね」 加奈 「貰われた、って……え!?」 春菜 「あれ?知らなかったっけ?宅の悠介は養子なんだよ?」 奈々 「……じゃあ、本当の両親は?」 春菜 「……まあいいや、バラしちゃおうバラしちゃおう。えーとね、実は───」 わしっ! 悠介 「本気で怒るぞ『先輩』……!!」 春菜 「あ、う……!や、やばっ……!悠介くん!目!目が変異してる!」 悠介 「嫌な予感がしたから戻ってみれば……!     あのなぁ!あんな過去を暴露して楽しいか!?」 春菜 「あぁあごめんなさいごめんなさい!わたしが軽率でしたぁっ!     あ、でもでも、話したらきっと避けてくれるよ?」 悠介 「思ってもないことを言わないっ!」 春菜 「ご、ごめんなさい……」 加奈 「あ、あの……」 悠介 「いいよ気にしなくて。どうせこのボケ者がベラベラと話そうとしたんだろ」 春菜 「ボケ者……」 悠介 「俺、もう行くけどさ。もう余計なことは話さないでくれよ」 春菜 「ぶー」 悠介 「返事ッ!!」 春菜 「は、はいぃっ!」 悠介 「……はぁ。いこう、木葉」 木葉 「はい、お兄様」 ……はぁ。 春菜 「あー、本気で裁きに来る目だったよ……」 加奈 「大丈夫ですか……?」 春菜 「慣れっこ慣れっこ。それよりさっきの話だけどね」 奈々 「……ボケ者」 春菜 「───奈々」 奈々 「なんでもないですっ!」 春菜 「で、話だけど───実はね、悠介くんは一家心中に巻き込まれたの」 奈々 「───!」 加奈 「そんな重い話を笑いながら話さないでください……」 春菜 「家に火をつけてね、すごかったらしいよ?     もう今じゃ新しい家が建ってるけどさ。     その時にね、目の前で両親が落ちてきた天井に潰されて絶命。     信じられる?小さい頃にそんな状況に身を置かれる子供の気持ち……」 奈々 「………」 春菜 「それと言っておくけど、     心中する前の親子関係が良かったなんて救いは無いからね。     彼は物心ついた時から親に殴られながら生きてきたの。     骨を折られたり、吐くほどに蹴られたりなんて日常的なものだった。     そんな彼が心の置き場所にしたのが───あの、弦月彰利ってわけ」 加奈 「───だから、いつも一緒に居るんですね」 奈々 「そ……っか。そうだよ。     弦月先輩と一緒に居る時のあの人、とても子供っぽい顔してた……。     普段は誰も寄せ付けないような厳しい顔してるのに……」 春菜 「あの人はね、いつも孤独と戦ってきたの。     友達と呼べる人をそれこそ死ぬ気で探して彼と出会って、     だけど名前も知らないまま、別れの言葉も別れたことも知らずに別れた。     でもきっと、別れを知ってても彼は待ってたよ。     また自分の苦しみを受け止めてくれる人がそこに訪れるのを。     ……だって自分で選んだ、本当に『ただひとりの友達』なんだから。     それでも、子供であり、もともとの支えも無かった悠介くんが、     そんなに長い間を待つことなんて出来る筈がなかった。     悲しい気持ちを隠すこともしないで泣きながら家に帰っても、     待っていたのは自分を殴るだけの親。     慰めてくれる人も居なくて、打ち明けられる人も居なくて。     そうなって初めて、悠介くんは心の底から泣いたんだって……」 ───辛かった。 自分はいつでも独りで、拠り所を見つけた筈だったのにそれは知らない間に消え失せて。 気がつけば小さく涙がこぼれて。 だけどその涙の理由があの頃の自分には解らなかった。 ……帰る場所も逃げる場所もなくて。 怯えながら。 どうなるか解っていながら家のドアを開けて。 壁に叩きつけられて、口の中を切っちゃって。 痛みに目を瞑る暇もなく、お腹に痛みが走って。 おとうさんが自分に向かって怒ってて。 どうして怒られるのかも解らず、 ただ、ごめんなさいと謝る理由も時間も見つけられないままに殴られて。 そんな時になって初めて。 自分が、大切なものを無くしてしまったんだって気づいた。 そうしたら、涙が止まらなくなった。 どんどん溢れる涙が視界を塞ぐ中で、初めておとうさんがとまどいの声を漏らした。 ───この日。 ぼくは初めて、おとうさんに殴られている最中に泣いたんだっけ。 だけど殴られたのが原因じゃなくて。 涙をこらえてぐすぐすというぼくに腹を立てたおとうさんがやっぱりぼくを殴って。 もう、やめてって言いたかったのに、声も出なかった。 喋れなかったんじゃない。 そうしようとすれば、できたはずなのに。 あんまりに悲しくて。 嗚咽に掻き消された声は、ぐすぐすというものにしかならなかった。 苦しくて、悲しくて、痛くて、熱くて。 叫びたくなるくらいの、確信を持てない悲しみの中で。 ぼくはただ、あの、自分によく似た表情をする友達が居なくなってしまったことが。 きっと、ただそれだけが苦しくて。 叫ぶこともしないで、抗うこともしないで。 ただ、殴られつづけながら。 初めて、身体への痛み以外の苦痛に顔をくしゃくしゃにして。 声も出さずに涙したんだ───。 木葉 「───お兄様、注意するのではなかったのですか?」 悠介 「……無理そうだ」 木葉 「……そのようですね。     では、先方を待たせたままですので、そちらへ行きましょう。     家の方で待たせてあります。距離がありますから、その間に……」 悠介 「……悪い」 ───。 春菜 「こんな話をしたのも、誤解されたくないからだからね。     彼は好き好んで孤独を選んだわけじゃないってことを憶えておいて」 奈々 「───はい」 加奈 「それじゃあ、わたしたちはこれで……」 春菜 「待った」 加奈 「はい?」 春菜 「誰も帰れなんて言ってないでしょう?     祭りまでは時間がありそうだし、お茶でも飲んでいきなさい」 奈々 「でも」 春菜 「───つべこべ言うんじゃありません。わたしのお茶が飲めないんですか」 加奈 「ご、ごちになります」 …………。 ……………………。 悠介 「……はぁ、どうだ?目、治ったか?」 木葉 「お言葉ですが、このような短時間で治るのは無理かと思います」 悠介 「そらそうだ……」 まったくやってくれる。 過去の話をしていたとはいえ、あの頃のことを話されるとは思わなかった。 とんだ不意打ちだ。 べつに姉さんに対して嫌悪感を抱いたとか、そんなことじゃない。 俺自身、あの頃の記憶は思い出しただけでも涙が出る。 そうやって考えると、自分は未だに自分の中の『当然』が消えることを恐れている。 ───突然、なんの前触れも無く友達が消える。 子供だった自分にとって。 ……いや、親の時点で人から嫌われているんだと思っていた自分にとって。 友達が突然消えてしまった事実は、自分に原因があったのかと不安にもした。 孤独だった自分がそれをどれだけ恐れていたのか。 自分のことだというのに、その感情を思い出すことが怖いくらい、あの頃は不安だった。 身体を震わせ、自分の髪の毛を鷲掴みにして。 ただ、見当もつかない自分のことに対して自問自答を繰り返していた。 ───どうして。 その言葉だけが自分の中で反芻していて、いつだって自分がコワレそうで怖かった。 悠介 「───ああ、だめだな……。一度落ちると沼にはまる思考回路は」 頭を振る。 それを見た木葉が戸惑いながら声をかけてきた。 木葉 「……お兄様。あまり考えすぎるのは」 悠介 「……ああ。解っては、いるんだ」 そう、解っている。 こんなことしていたって、過去が変わるわけでもない。 ───そういえば、誰かがこんなことを言っていたな。 たとえば誰かが適当な当てずっぽうで予言だと言い張って未来を予想した。 いろいろな人は笑いながら聞き流していたけど、未来においてそれは当たる。 そこで考える。 その人が予言したことが当たったのなら、それまでの経緯は運命だったのか、と。 そうなる他なかったのか、と。 極論であることはもちろんだ。 そもそも例え話を真面目に解答していてもしょうがない。 そう、それは例え話だった。 もし、その答えが『運命』だったとしたなら、 人間ってのは『運命』って檻の中で『偶然』って抜け道を探して生きているんだって。 そんな話。 でも、俺と彰利が想像しているのはそんなものじゃなく。 例えば───偶然じゃなくて必然。 だけど運命なんかじゃない偶然。 そんな矛盾を具現したものが、俺達が立っている世界なんだと思う。 最初から決められたものなんてない。 それは世界の理に背くこと以外なら、望む限りは叶えられるということなんだとも思う。 木葉 「……さま。お兄様」 悠介 「え?あ……悪い、どうした?」 木葉 「はい、既に家の前に到着しているのですが」 悠介 「───あれ?」 言われてから気づいた。 目の前には家への玄関。 ───なんてマヌケな。 悠介 「どうにも今日はブルー入りやすいみたいだ」 俺は小さくハハ、と笑うと、玄関を開けて中へと進んでいった。 木葉に案内されるままに辿り着いた部屋には、頭が薄くなった老人が居た。 老人 「……ほっほ!おまいさんが神社の所有者かい?若いのぅ〜!」 老人は笑う。 その拍子に入れ歯が外れ、ゴシャアと畳みの上に落下した。 老人 「ふお〜!?」 慌ててそれを拾い上げると、パコッと口に含んだ。 ……パーシャルデントでもつけてろ。 老人 「いや〜、すまなんだ。     今日ここを訪れたのはおまいさんにひとこと謝りたくての」 悠介 「謝る……?」 老人 「勝手に神社を使うことになっておるじゃろう。そのことでじゃよ」 悠介 「……っていうと……あんたは?」 老人 「うん?ワシはこの街の長を20年以上続けておる者じゃが?」 悠介 「な───!?」 慌てて木葉を見る。 と、眉を寄せながら『当然です』といったような顔で溜め息を吐いた。 ……いやん。 18年この街に居ながらも知らなかった。 老人 「それで……どうじゃ?ワシはおまいさんが断るならば早々に撤退させるが」 悠介 「……言いたいことがある」 老人 「なんじゃ?」 悠介 「あんたは卑怯だ。     ここまで人を集めている時点で、それを追い返すのは気が引ける。     それと、ついでのように謝られてもこっちの腹が立つだけだ」 老人 「む……おぬし、人をよく見ているようじゃな」 悠介 「これでも相手の黒い部分には敏感なつもりだ」 老人 「そのようじゃ。……うむ、試すようなことをして悪かったのぅ。     最後にもう一度訊こうか。おまいさんの好きなように答えればいい。     神社で祭りのために貸してもらっても構わんかな?」 悠介 「……勝手にしてくれ。どうせ引き下がる気なんてないんだろう?     曲げるつもりの無い意思を人にぶつけすぎる行為は身を滅ぼすぞ」 老人 「く〜〜〜っ、おぬしホンッッットに人をよく見てるおのぅ〜!」 悠介 「どうやらあんたは見ていないようだな。からかう相手を間違えてる」 老人 「……うむ、そのようじゃ。ところでおまいさん、名前は?     おっと、ワシは羽棠黄仁じゃ。うどう、おうじん。憶えたか?」 悠介 「俺は晦悠介。好きなように呼んでくれ」 黄仁 「つごもりゆうすけ、か。相解った!それでは悠の字と呼ばせてもらおう!」 悠介 「いうのじ……」 黄仁 「悠の字、おまいさんもワシのことを好きなように呼ぶがええ。     なぁに、街の長といっても所詮はただのジジィじゃ。     どう呼ばれようが構わんよ」 悠介 「それじゃあじいさん」 黄仁 「おう、なんじゃ?」 悠介 「ここはハロウィン中は好きに使ってくれていい。     だが、俺の家族をあまり巻き込まないでくれ。それが条件だ」 黄仁 「ふむ……巻き込むとは、例えばどのようなことじゃ?」 悠介 「物事を強制させないことくらいだ。     自分から進んでやること以外は押し付けないでくれ」 黄仁 「うむ、承知した。おまいさん怖い顔して家族思いじゃの〜!     例えるならアレか?狼かのぅ?」 悠介 「さあな」 黄仁 「むおっほっほ、おぬしは自分のこととなるとすぐにはぐらかすのぅ。     自分から人を避けておるのかな?」 悠介 「知りたがりは長生きしないぞ。     この話はもう終わりだ、用が済んだなら神社で司会でもやっててくれ」 黄仁 「うむ、そうするかの。ああ、それとなぁ悠の字。     おまいさんはワシをも遠ざけようとしてるようじゃが、     ワシはおまいさんを気に入ったぞい」 悠介 「是非とも嫌ってくれ。人が訪ねてくるのは迷惑だ」 黄仁 「───おまいさんはやさしいのぅ。     本当に家族思いじゃ……。ワシの息子も、おまいさんのような男じゃったよ」 悠介 「………」 黄仁 「あ……うむ、お邪魔したのぅ。それではな、悠の字」 じいさんが、木葉に誘導されて出ていった。 しばらくすると玄関が閉まる音が聞こえて、木葉が戻ってきた。 木葉 「お兄様、羽棠さんがお帰りになりました」 悠介 「そうか、ありがとう」 木葉 「……あの、お兄様?     何故、羽棠さまと会話をなさっていた時、あんなに苛立っていたのですか?」 悠介 「……そっか、木葉は解らなかったか」 木葉 「お兄様……?」 悠介 「なんでもないよ。     ただ、あのじいさんの息子ってのはどんな気持ちだったんだろう、ってな」 木葉 「知っているのですか?」 悠介 「さあ」 木葉 「………」 悠介 「もう始まる頃だろう?行こうか」 木葉 「……はい、お兄様」 何か言いたそうな木葉に心の中で謝ると、俺は外へ向かった。 神社で待つこと数十分。 ようやく南瓜が現われた。 南瓜A「トリックオアトリート!トリックオアトリート!」 お決まりのセリフを唱えながら、南瓜は石段を登ってきた。 ……へえ、さすが子供。 体力あるなぁ。 ……とか思いきや、その後ろでなにやら異様な南瓜を発見する。 南瓜B「トリックオア……トリック!」 ギシャアと目と口から光りを漏らしているヤバげな南瓜。 ああ、なんかもう間違い無い……。 ていうかそもそも間違える要素がなにひとつとして見つからない……。 溜め息を吐くと同時に、子供たちが前を通る。 そこでようやく、子供達が疲れていない理由に気づく。 悠介 「月生力だな……?」 疲れてきたら回復させてたってわけか。 その代わりにあの馬鹿自身が疲れているように見えるのは気の所為などではない。 だって肩で息してるし。 ───さて。 子供達が一直線に破魔矢を受け取りに姉さんのもとへ行く中、 一体の南瓜がドシャアと倒れた。 そしてなにやら痙攣。 ……予測するに、あれは月操力の使いすぎだ。 仕方ないなぁ。 悠介 「───彰利の口の中にエリクサーが液体状で出ます」 イメージを弾かせる。 すると、痙攣していた南瓜の目と口からギシャーアーッ!とまばゆい光りが漏れ、 彼は起き上がった。 南瓜B「ハ……ハラショー!?」 黒マント越しにも解るくらいに南瓜の筋肉が隆起していった。 そして無言のままに俺を2秒ほど見つめると、その足で姉さんのもとへ向かった。 ───ああ、これであの馬鹿を縛るものはなくなるわけだ……。 破魔矢を受け取った南瓜はクックックと含み笑いをこぼした。 ハッキリと嫌な予感がしたが、南瓜はそのまま子供南瓜と一緒に石段を降りていった。 悠介 「───?」 考えすぎ、かな。 南瓜のあとを追うように降りてゆく人々の喧噪の中、俺もまた石段を降りていった。 恐らく。 予測するに、子供達は自分達だけで行き先を話し合ったんだと思う。 そういうことはよくあることだと思うし、子供なら尚更だ。 相手が解らないという不安もあると思うけど、 相手が子供だと解っているなら話は別だと思う。 石段を降りている内に人垣の所為で南瓜を見失った俺は、 街中を宛てもなく適当にうろついていた。 ……考えてみれば、学校へ行くこと以外に街を歩くのも久しぶりだな。 散歩をすることはあっても、そういう時はまず誰かが付いてきたから。 こういうのは新鮮な気がした。 悠介 「………」 だが、街の中なのだから静かであることは稀だ。 それにここは市場だ。 こんな所で静かさを求めるなんてこと自体がどうかしている。 セレス「……ああ、悠介さんじゃないですか」 悠介 「うん?ああ、セレス。買い物か?」 セレス「ええ、散歩がてらに」 悠介 「そっか。……あ、なあセレス」 セレス「はい?」 悠介 「えーと……聴力はいい方か?」 セレス「……そうですね、人間よりは高いですけど」 悠介 「じゃあさ、『トリックオアトリート』って声、どっかから聞こえないか?」 セレス「はい、それならそろそろここを通りますが。     子供の声と、それと……なんでしょう?     なにやら関係の無いことを口走っているように聞こえます」 悠介 「関係ないこと?」 セレス「───悠介さん、今日はハロウィンですよね?」 悠介 「え?あ、ああ。そう、だけど」 セレス「………」 少し、考えるように頭を捻るセレス。 ……なんなんだ? 俺も負けじと頭を捻った。 と、そんな時。 遠くからトリックオアトリートの声が。 悠介 「お、来た来た」 いたずらされたくなかったら、持て成せ。 そんな暴挙を唱える南瓜が、景色の先に見えた。 お決まりの言葉『トリック オア トリート』を唱えながら、 ハロウィンが街の中を楽しげに歩いていた。 そんな中。 南瓜B「悪ぃ子は居ねがーっ!」 場違いな言葉を放つ南瓜が居た。 南瓜B「泣く子は居ねーが!?悪い子は居ねがァーッ!!アァーッ!?」 何故かランタンではなく、ナタ包丁を振りかざしている。 そんな馬鹿は俺の知る限り、ひとりしか居ない。 南瓜A「トリックオアトリート!トリックオア」 南瓜B「居ねがァーッ!」 南瓜C「トリッ」 南瓜B「泣く子は居ねーが!?悪ぃ子は」 悠介 「アホかてめぇはーーっ!!」 ドガォオンッ!! 南瓜B「ウギャアーッ!!」 南瓜が悲鳴を上げてドゴッ!ゴシャッ!と吹き飛んでゆく。 悠介 「お騒がせしましたーっ!」 俺は転がっていった南瓜を追いかけ、そのデカイ頭をドリブルしながら逃げ出した。 その過程で『グッフォ!ゴッファ!ベッホ!ウゲェエ……景色が回る……!』とか、 そんな泣き言が聞こえてきた。 が、当然無視した。 それからしばらくして切なそうな声で『ウゥウェエェ……フォオオゥウェェエ……』と、 なんとも言い表せないほどの気持ち悪そうな声が聞こえてきた。 涙声も混ざっているようだ。 それでも無視してドリブルした。 そうして走っていたら突如、南瓜に掘られた口からキラキラと輝くものが溢れ出した。 慌ててドリブルを止めたが、止めた南瓜はぐったりとしていて、 その南瓜の口からは後から後からコポコポと輝く液体が溢れ出していた。 悠介 「あ、彰利〜……?」 ぐったりと動かなくなったジャックランタンをつんつんと突つく。 しかし反応は得られなかった。 悠介 「……彰利の口の中にエリクサーが出ます……」 イメージを弾かせると 彰利 「ゲッフゥォッ!マズいッ!これはマズいっ!」 更に嘔吐した。 彰利 「エリクサーの苦味と嘔吐した液体が渾然一体となって、なんとも……オェエ!     お、嘔吐を促すこの異臭……まさに国宝級である……ゲェエ……!」 更に更に嘔吐した。 彰利 「ていうかギャア!臭い!臭いよダーリン!     しかも相変わらず外れないこのジャックさんが俺を涙に濡らしてくれる!     首周りが汚物で汚れる!ていうかもう汚れている!いやむしろ臭い!」 元気だなぁ。 彰利 「匂い移っちゃってるだろうからもう壊してオッケイ!頼むから壊して!     臭い!気持ち悪い!臭ッ!キモッ!オエェエ!ゲェーッ!オゥィェーィ!」 ドシャア。 あ、倒れた。 そしてコポコポと口からこぼれる輝く液体。 俺はやっぱり溜め息を吐くと、ナイフ(イメージ=切れ味抜群)を創造して、 南瓜を真っ二つにした。 悠介 「臭ッ!」 たしかに臭かった。 しかもどうやら創造理力も失敗したらしく、エリクサーからも匂っているようだった。 なるほど、渾然一体だ。 悠介 「彰利が吐いたモノを吸いこむブラックホールが出ます」 イメージを弾かせて、汚物を排除した。 そうすることによって彰利が美しく変化した。 彰利 「……ふう、やぱりシャバはいいものぞ」 目を開けてからの第一声はそんなものだった。 彰利 「しかしまいったなぁ。南瓜が壊れてしまってはもうトリックできない」 悠介 「お前は毎度毎度トリックの嵐だろうが」 彰利 「でも暴挙許可証も紙クズと化しちまっただよ。なんてこったい」 悠介 「んー……」 彰利 「こ、こうなりゃ子供ジャックを襲って奪っちまうか……!?」 悠介 「襲ってもサイズが合わないだろ」 彰利 「フフフ、欲望のためなら骨格をも変えてみせるぜ」 悠介 「すなっ!」 彰利 「だってYOダーリ〜ン!     始まった途端に野望が粉砕骨折したようなこの状況の中で、     アタイにどうしろって言うのYO〜!」 悠介 「俺からは何も言えないな。     それより匂いは取れてないから家に帰って風呂にでも入れ」 彰利 「任せろ」 そうして彼は、異臭を放ちながら歯を輝かせるのであった。 彰利 「まあその前にさ、そこの販売機でなにか飲まんか?     暴れたり叫んだり、なまはげしたり吐いたりで喉乾いたよ」 悠介 「ああ、そうだな」 彰利 「うっしゃあダーリンサンクス!     気持ち良く了承してくれたお礼におごってやらァな!     ン〜フ・フッフ〜ン♪フ〜ンフ〜ン♪」 なにやらリズムに乗りつつ黒マント越しにズボンをまさぐる彰利。 彰利 「お?」 そして一声。 彰利 「あ、こっちか」 どうやら財布を探しているらしい。 彰利 「あ、あら?あららっ!?」 焦りつつゴソゴソと荒々しく探しだす。 やがて黒マントを脱ぎ捨て、ポケットなどをパンパンと叩いて 彰利 「オォオオマイコォオオンブ!?」 絶望の表情で叫んだ。 彰利 「う、わ……わわわ……どど、どうしよ悠介……!     お、俺のオーマイ……じゃなくて財布が……!     俺がリトルグルメ会員だってことがバレちまう……!」 ガタガタと震えながらだらだらと汗を流す彰利。 挙動不審者のように辺りをキョロキョロと見渡し、涙目になっている。 ……そこまでイヤか。 彰利 「誰かが拾って交番に届ける前に探し出さないと……!」 悠介 「拾ったからって交番に届けるとは限らないだろ。     今の世の中ならまず金を盗まれてそのまま捨てられるだけだ」 彰利 「金に目が眩んでオーマイコンブに気づかなけりゃ     それでいいとでもなんとでも思えるのよ俺ゃあ!」 悠介 「そこまでイヤか!?」 彰利 「ダーリンは持ってないからそんなこと言えるのよ!     ああくそう!こんなことになるなんて、なんという迂闊な───!」 ───……ート、トリックオアトリート。 ふと、聴覚を掠める声。 どうやら南瓜がこちらにやってきたらしい。 その中のひとりが屈み、何かを拾った。 彰利 「ギャーッ!?」 それがなんなのか解ったのか、彰利がクラウヂングスタートで走り出した。 がしぃっ。 彰利 「なにぃ!?」 悠介 「はっはっは、彰利よ。今日は南瓜の日だぞ?     財布の中身を見ることくらいの暴挙は許されるのだよ」 彰利 「なっ……!てめぇそれでも俺の親友か!?」 悠介 「トリックオアトリック……トリックオアトリック……」 彰利 「うがぁあああああっ!こんなときにだけふざけんな悠介ぇええっ!     頼む!マジで頼む!俺はこの瞬間まであれを隠してきたんだぞ!?     そんなものをいまさら暴露されたら俺はッ!俺はアァアアアッ!!」 南瓜A「───ブフゥーッ!」 彰利 「なっ───ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」 財布の中身を見た南瓜が噴出した。 そしてその周りの南瓜も笑う。 彰利はというと───う、うあ……!! 彰利 「わ、笑いやがったな……!?笑いやがったな貴様ら……!」 ち、血の涙……!? 彰利 「ウゥォオオオオオオオッ!!なぁにがトリックオアトリートじゃああっ!!     ポッと出のイベントに揺られた南瓜ごときがエラそうにしやがってぇえっ!!     歯ァ食い縛れてめぇらブッ殺す!生きて親のツラ見れっと思うなグラァッ!」 うわヤバイ! 彰利がキレた!本気でキレた! 悠介 「おぉおゎぁあっ!?お、落ち着け彰利!」 彰利 「ッしゃァッぞ!ンますンなグラァがぁぁあっ!!」 悠介 「何言ってんのか解らねぇよ馬鹿!」 彰利 「ンのガァキャァアアッ!ブチグラわすぞラァアアアアアアッ!!」 悠介 「わ、悪かった!俺が悪かったから!な!?落ち着け彰利!な!?」 彰利 「じゃァアすンなグラァガァアッ!!アァアアアアアアッ!!」 悠介 「あぁああっ!余計なことするんじゃなかったぁあああっ!!」 ───教訓。 慣れないことはするもんじゃない。 初めてのハロウィンはこんなカタチで幕を閉ることとなる。 放射能を吐くゴッドジラ(笑)のように口からアンリミテッドストリームを吐く彰利。 そして滅びゆく『ふれあい通り』を前に、俺は自分の愚かさを呪うのであった……。 Next Menu back