───笑撃(しょうげき)───
しくしくしくしく……。 情けない泣き声が木霊する。 誰のでもない、彰利のものだ。 彰利 「ううっ……はぅう……お、俺……もう生きていけない……!     恥ずかしさのあまりに切腹したい気分だ……。     そして介錯してもらって生首だけと成りて、     それでももののけ姫の親の……名前は忘れたけど、     あのジャイアント狼のように首だけでこの月詠街の民を全員滅ぼしてやる……」 悠介 「泣くか例えるか、どっちかにしろ」 彰利 「うおおお……!おーいおいおいおい……!おーいおいおいおいおい……!」 悠介 「すまん、やっぱ泣くな」 彰利 「どうしろっていうのダーリン!」 悠介 「やかましいっ!     大体ルナがふれあい通りを直してくれなかったら、     お前どうするつもりだったんだよ!」 彰利 「どうもこうもねぇべよ!?直す気なんざ元からねぇべよ!     俺様の恥ずかしい過去をそっと覗いた上に笑いやがったんだぜ!?     これが壊さずにおられようか!いや、おられまい!……反語」 悠介 「お前なぁ……」 彰利 「……うう、だってよぉ……!」 悠介 「……いや、あそこでふざけた俺も悪かった」 彰利 「ゆ、悠介……?」 悠介 「……悪い」 彰利 「………」 悠介 「………」 春菜 「……あのさ」 悠介 「うおっ!?ね、姉さんいつの間に!?」 春菜 「……端から見ると怪しいよ、ふたりとも……」 悠介 「ぐおっ……!?」 彰利 「怪しくなんかねィェーッ!なんたって俺様とダーリンは愛し合って」 バガァッ! 彰利 「ひぎゃあぉっ!?」 ドシャア。 悠介 「い、言っておくけどな!     俺は友人に対して本気で謝罪してただけなんだからな!     決して、こいつみたいにホモ精神全開で話を展開してたわけじゃ」 彰利 「んもうダーリンたらテレちゃってちくしょう……。     でもそんなテレ屋なキミにフォーリンラァーブ!」 悠介 「テレるか馬鹿者!ちょっと黙ってろボケ!」 彰利 「ひぃぃっ!?そ、そんな!ダーリンが怒声をプレゼントしてくれた!?     って、まあいつものことだけど」 妙に遠い目をした彼は、ホロリと涙を流した。 春菜 「あ……うん、ホモじゃないのは解ってるけどね。     悠介くんの場合はホントに、この男子ホモ生徒を心配してるだけだし。     ただ、その受け取る方がこうもホモチックだと、そう見えちゃって……」 彰利 「わぁ、自分の視力問題を緩やかに人の所為にしちゃってるよこの人」 悠介 「そうか、お前が悪いのか」 彰利 「そしていきなり納得されたー!?そりゃねぇぜダーリン!」 悠介 「ははははは、いやいやまあまあ殴らせろ」 彰利 「そしてやっぱり殴らずにはいられねぇー!?     ま、待て!ここは平和的に話し合おうじゃないかッッ!     今なら高枝切りバサミを現金一括払いの893ペソでオッケイ!」 悠介 「ペソかよ!」 彰利 「え、ええっ!?お気に召さない!?なら巨額の49800円!」 悠介 「よし、話し合いの必要はないな」 彰利 「あーっと殺る気満々だァーッ!?イヤァ待ってーっ!     今の状況って主にアタイが当り散らしたい状況でしょう!?     それがどうして殴られブゥォッホォッ!」 ドシャア。 彰利 「うう……切ねぇよぅ悲しいよぅ……!     こんなことなら街中なんぞをうろついてないで、     さっさと女風呂に侵入を果たせばよかった……」 畳みに膝をつきながら語る彰利。 悠介 「南瓜が嫌いになったんじゃなかったのか?あの暴れ様から見ると」 彰利 「いやねぇダーリソ、悪いのはジャックじゃなくてあのクソガキャアどもよ。     そして今度見つけたらただじゃおかねぇ。     誘拐して家の電話番号聞き出して身代金としてレタス要求してやる」 悠介 「普通に買って食え」 彰利 「うんそうだね。素人が適当に買ったレタスなんて食えないものね。     でも安心してダーリン。アタイはどんなレタスでも愛するぞ。     たとえ納豆乗せてレンジでチンしても、バ・ソリーが乗ってても」 悠介 「腹壊すぞ……」 彰利 「レタス様を吸収してそうなるのであれば本望ぞッッ!?」 悠介 「馬鹿お前、それじゃあレタスだけを食ったことにならないだろ。     そんな味を損ねさせるものや、     寄生虫の宝庫と呼ばれるナメクジと一緒に食ったらレタスに失礼だ」 彰利 「───!!」 彰利がよろよろとあとずさる。 彰利 「そ、そうだ……!そうじゃねぇか……!俺は愚かだった……!     ちょっとレタス様に対する知識があるからって、てんぎゃんになっていた……!     いや、ほんとは……気付いていたよ悠介。俺こそが敗北者だったのだ。     勝利に彩られていたハズの人生がその実、暗黒に満ち───」 ドゴォッ! 彰利 「ウッヒョォーーッ!?」 どがしゃぁああんっ! どがっ!ぐしゃっ!ゴロゴロズシャーッ! 窓をブチ破ってその先の景色を飛び跳ね転がっていった彰利はやがて止まり、 ぐったりとした状態で動かなくなった。 悠介 「夕食、作るな」 春菜 「あ、う、うん……」 真面目に心配した俺が馬鹿だった……。 あいつは失敗事でいつまでもウジウジしてるヤツじゃあなかった。 まったく馬鹿馬鹿しい……。 彰利 「ちゃっちゃらちゃちゃーん、ちゃらちゃちゃ〜ん♪     ッちゃらちゃちゃちゃちゃ〜ん、チャチャチャチャ♪     ……はい、懲りずにやってきました『対・荒岩流クッキング』の時間です。     もうオーマイコンブなんざ過去のこと。     心のタイムカプセルにでも魔封波で封じ込めて、秩父山中に埋めましょう。     そしてぜってぇ掘り返さねぇ。俺は今日ほどコンブを恨んだ日はねぇぜ?     ───ところで話は変わりますが、コンブの苗字ってなんだったっけ?     常夏パイ助くらいしか覚えてないや。     でも順当にいって、殴舞 昆布(おうまい こんぶ)でしょう。     ぬおお、なんとも超実戦的な名前よ。殴りつつ、しかも舞うとは。     だが所詮は昆布だ、本人はエラ呼吸に違いねぇ。     さて、一通り悪口を言って気分向上したところで料理を始めましょう。     まず用意するもの。     残り物のスパゲティの麺とお茶漬けの……って!     またリトルグルメかよ!オーマイコンブかよ!     おい企画発起人!てめぇちょっと降りてきてリアルファイトの準備しろ!」 悠介 「…………どうしてお前がここに居る」 彰利 「キャーッ!?み、見たわね……!?アタイの独りノリツッコミ劇場を……!」 悠介 「………」 彰利 「イヤーァアア!そんな冷めた目で見ないでー!」 悠介 「退くか手伝うか、どっちだ」 彰利 「うっしゃあ手伝おう。そしてメシ食わせてダーリン。     ドサクサに紛れてオイラのサイフが灰燼と化した所為で、     オチオチメシも食えんのだよオイラは。     ハロウィンの後に買いだし行くつもりだったのに……」 悠介 「手伝ってくれるヤツにメシ食わせない馬鹿が何処に居るんだよ。     遠慮しないで食ってけ」 彰利 「ぬおお、後光が差して見えるぜ今のキミ」 悠介 「やめろ、気色悪い」 彰利 「……そうだよなぁ。冷静に考えると怖いよなぁ」 どうして何もない場所から光りが出るんだか、とか考え込む彰利を無視して、 俺は冷蔵庫を漁って食材をを取り出して並べた。 俺としては顔を光らせることの出来るお前の方がよっぽど怖い。 彰利 「お?夕食はあるモノづくしかい??」 悠介 「ああ、悪くなる前に片付けないとな。     限られた材料で何を作るかを考えるのが、大変だが面白い」 彰利 「ほおほお、ちゃんと考えて作ってるのね。     俺なんて四六時中レタスばっか食べてるから栄養バランスなんて最強よ?     むしろ安眠効果が働いて、いつだって眠ぃのよ」 ぬぅううん!とポージングを決めながら言う目の前の彰利。 心なし、筋肉量が当社比で平均の1.5倍はマッスルになっているようにも見えた。 ───冗談だぞ。 悠介 「………」 彰利 「どした?」 悠介 「いや……俺もよくよく、お前に感化されてるのかなぁ、ってさ」 彰利 「なんだいそりゃ」 悠介 「いやさ、俺って今まで……あ、中学までって意味だぞ?     それまで誰かを殴るだなんて冗談じゃないって思ってたんだよ。     親があんなヤツだったから『殴る』って行為に吐き気も憶えてたほどだ。     それがどうしてだかお前と対峙するとこう、……なんだろうな。     すまん、忘れてくれ。自分で例えててワケが解らなくなった」 彰利 「……ふむ」 ちょっと考える仕種をすると、彰利は口を開いた。 その行為はもともと口にする言葉が決まっていたのに、 わざわざ考えるフリをしたように見えた。 ……いや、あえてそう見せたのか。 意味の云々への理解は皆無だが。 彰利 「あのさ、それってつまりはこういうことじゃないか?     って、いきなり真面目に話すのも拍子抜けするけどさ。     つまりアレだ。お前は俺と対峙する時だけ、     『過去』って枷を外した状態で向き合ってくれてるんじゃないのか?」 悠介 「言われても実感なんてないけどな。多分、そんなとこなんだろうな」 彰利 「そうそう、無意識上での真の友ってやつか。文字で書けばこうか?」 どこから出したのか、筆で書いた書初め調の文字で『真友』と書かれた半紙を見せる。 そんな彼を見て俺は、なにも文字で書くことはないとか、そんなことを思っていた。 彰利 「ふむ、書初めしたのも久々だった。     ところで書初めってどうしてあれで『かきぞめ』って読むんだろうなぁ」 悠介 「またいつもの疑問か?」 彰利 「まあまあ、世の中は疑問がいっぱいでしょうが。     それをひとつずつ自分の見解で解決していくのは中々面白いもんだぞ?」 悠介 「そうだな。俺も時々考えるし」 彰利 「………」 悠介 「………」 食材を並べたまま、俺と彰利は小さく息を吐いた。 彰利 「時々さ、思うんだよ」 悠介 「いきなりだな」 彰利 「まあまあ、流す程度でいいから聞いてくれ」 悠介 「……そうだな」 そんな言葉を聞いてから、俺は食材を手にとって調理を始めた。 彰利もそれに習うように手を動かす。 彰利 「また、疑問だけどさ。友達ってのはどれだけの時間を友達で居られるンかナ」 悠介 「よく解らん疑問だな」 彰利 「解ってたら疑問って言わないだろ」 悠介 「ははっ、違いない」 小さく笑った。 俺はこいつが時々見せる、この大人びた性格が嫌いじゃなかった。 大人びていると言っても子供が背伸びしているような段階。 それでもこいつが見せる目っていうのはホンモノなんだと思う。 事実、こいつは何十年も生きてきたんだから。 ……残酷な話だ。 大人にもなれず、先を見ることも出来ずに、幾度となく時間を繰り返す呪縛。 嫌気がさして逃げ出してしまえば、そんな歴史を踏まずに済んだというのに。 それでもこいつは運命っていう壁に向かい続けた。 その時まで、何がこいつの支えになってたかなんてものは───自惚れなのだろう。 もし立場が逆だったとしたら、俺はこいつのためにどれだけ頑張れたのだろうか。 確かにそれはその時になってみないと解らないんだと思う。 とはいえ、俺は自分がそんなに強い人間だなんて思っちゃいない。 失うことは怖い。 だけど、失ってしまうものだからこそ大切にしたい。 そうやって考えて、ふと。 ……俺はいつまで、こいつと友達で居られるんだろうな……。 と、そんな考えが頭の中をよぎった。 彰利 「俺、思うんだ。人間ってのは結局アレだろ?     何かを達成することを糧に生きてるようなもんだろ?     日々、何かをやりたいとか、これをやりたいとか。     例えばある子供が勉強が嫌いだったとしても、     学校行かなきゃゲームをやっちゃダメとか言われたら行くわけだ。     それはその子供が『そのゲームをやりたい』とか思ってるからであって、     学校が突然好きになったってことはないわけだ」 悠介 「まあ、そうだよな」 彰利 「そりゃあ人によってはそんな生き方を笑うヤツも居れば頷くヤツも居る。     まあ俺はどちらかって言われりゃあ後者か。     でもそれはこの際、分身魔球で空の彼方に放っておいて、だ。     やっぱりひとりの時ってのは結構考えるわけだよ。     それは些細なことなんだろうけど、     答えを見つけられないヤツにとってはどんなものよりも難しいんだ。     だからって、誰かに教えられたからって頷けるわけじゃない。     いわゆる個人知識の違いってやつだな、的を射てるんだけど納得できない」 悠介 「そりゃそうだろ、誰だって自分の考え方を持ってるんだ。     人ひとりに脳がひとつ付いてるんだから、     世界がひとつのことを考えても一致することの方が極めて稀だろう。     考える課題によっても解れるけど、     たとえ同じ考えが出たとしても細分化してみると案外違うもんだよ。     そういった意味では、この世界で本当に同じものなんてないんだ。     だから個人の答えを出すなら人間てのは案外いい加減なのかもしれない。     『こいつ、俺と考えが似てるし趣味も似てる』とか思ってても、     結局は自分の見解ってだけで、根を掘れば全然違ってた、なんてざらにある」 彰利 「だな。片方が本当に『友達だ〜』とか思ってたところで、     相手の方は違ってたってのは残酷だけど有る話だ。     それでも、信じるヤツは信じるもんさ。     最後の最後まで信じて、本当の答えを聞いて、     それが吉であっても凶であっても……自分の考えと似てなきゃ納得しないんだ。     いや、出来るわけがないんだな……。     納得ってのはさせられるものじゃなくてするもんだろ?     誰かに強制されて頷くことなんか納得って言わない。     言葉にするなら『言いくるめられた』って言うんだ。     こっからは俺の極論だけどさ。     言いくるめられて黙るくらいなら、     最初からそんな考えなんて出さない方がいいと思わないか?」 悠介 「……いや、思わないな」 彰利 「それはどうしてだ?」 悠介 「誰も言いくるめられるって解ってて言葉にしてるわけじゃないだろう?     言いくるめられるのってさ、     自分の意見より相手の意見の方が説得力があるって悟ったからだと思うんだ。     負けず嫌いみたいに自分の意見を曲げないのは、見苦しいな」 彰利 「そう、思うか?」 悠介 「……一般的な見解から言ったらな。でもこれは例え話だろう?     俺から言わせてもらえれば、     意見を曲げないヤツの方がよっぽど輝いて見えるよ。     言いくるめられたってことは、     自分の意思にも言葉にも自信がなかったってことだろ?     そんなヤツが『納得した』だとか、     目を逸らしながら言ってるなんてなんか嫌じゃないか。     ───まあ、もっとも……それは真面目な話のことで、     ふざけている時なんかはどうだっていいことだけどさ」 彰利 「……まったく、違いない」 悠介 「俺もいろいろ考えるよ。     ひとりっきりで考えることは大体が暗いことだけどさ。     そんな中で、時々に思うわけだ。     人間てのはどの考察、知識、経験よりも、     自分自身に自信がないんじゃないか、ってね」 彰利 「それは……」 悠介 「そう、ただの極論だ。     ひとりで考え事をしてるとさ、こうやって極論ばっかりが生まれる。     確かにどれだけ論理を並べたところで、説得力がなければ人には通用しない。     だけど誰もが誰も、誰かを言いくるめたくて考えてるわけじゃない。     俺だってそうさ。極論並べても、疑問抱いてもさ。     結局はその極論も芯まで考えると自分でも答えが見つからないんだ。     俺は毎回、そこで諦めるよ。だからってわけじゃないけど───」 彰利 「?」 悠介 「何度死んでも諦めなかった馬鹿を、俺は友達として尊敬してる」 彰利 「───」 いつの間にか止めてた手を動かして、調理を再開した。 そんな中でふと気になって、動かない彰利を見た。 悠介 「───彰利?」 彰利 「……え?あ───……は、ははっ、メシ作らないとなっ!     うっしゃあ今日は俺様も腕によりをかけて作るぜ!?」 彰利は乱暴にエプロンを身に着けると、包丁を回転させて構えた。 やがてキャベツを千切りにしていく。 悠介 「………」 ツッコもうと思って、やめた。 小さく苦笑を漏らして、俺も包丁を構える。 彰利 「あ、いいっていいって!今日は俺に作らせてくれって!」 悠介 「え?いや、だけどな」 彰利 「いいんだって!……ちっきしょぉ……!もう悠介はどんと構えててくれ!     あとは俺がやっとくから!ほらほらほら!」 悠介 「あ、おい!彰利……?」 ───なんだかワケの解らないままに追い出されてしまった。 ……なんだってんだ? ───今、自分は幸せなんだと思う。 人の言葉で感動したのなんて初めてだった。 ただがむしゃらに走り続けてきた、自分の人生。 友達のため、自分のため、運命に打ち勝つため。 大きな壁にぶつかって、挫けそうになるたびに起きあがって、何度も走った。 確かに。 時々馬鹿らしくなることがあった。 自分の人生を捨てるような生き方をして、自分はなにをしているのかと。 誰だって死ぬのは怖い。 それを解っていながら、自分はただひとりの友達のために起き上がっていた。 起き上がるたびに、自分のために無理に力を使って意識不明になっているそいつを見て、 俺はまた頑張ろうって気になれた。 だけど……頑張れはしたのだろうけど、いつだって疑問に思っていた。 自分はどうしてこんなことをしているのだろう、と。 何年、何十年と時間を繰り返しながら、ずっとそれを考えていた。 ……わからなかった。 だけど───今。 ようやく解ったような気がした。 俺はきっと……あいつの友達でいることを『諦めたくなかった』んだ───。 そこにどれだけの価値があるんだと問われれば、 前の俺だったらふざけて返してたんだろう。 でも、答えは見つかった。 いや、見つけられた気がした。 誰が認めてくれるわけでもなく、ただひとり。 自分の友達が、自分を信頼してくれたこと。 まるで、長い迷路に迷い込んだ自分がようやく出口を見つけられたかのように、 あんななんでもない一言が、こんなにも嬉しかった。 生まれて初めての照れ隠し。 笑ってしまうような話だけど、本当に不意打ちをくらった。 その時になって。 ああ……諦めずにこいつの友達でいて良かった、って─── そう思えて。 生まれて初めて、俺は喜びの中で泣いたのだろう─── ───その日の夜食は、とても豪華なものだった。 彰利 「さあ!とくとイート!言っとくけど美味ェぜ!?     悶絶して泣き叫びたくなるほど美味ェぜ!?     なんてったってこの俺が怨念と憎悪を込めて作ったんじゃからのう!」 悠介 「いただきます」 一同 「いただきます」 彰利 「無視!?ノーリアクションかよ!」 ぱくっ。 ……モゴモゴ。 悠介 「………」 彰利 「どーよ!美味ェだろ!?」 悠介 「質問、いいか?」 彰利 「おうよ!なんじゃい」 悠介 「これ、本当に残り物とかで作ったやつだろうな」 彰利 「───あ」 ハッと気付く彰利。 やがてだらだらと汗が流れ出る。 悠介 「でもまあ……美味いからいいか」 彰利 「あ、だ、だろ!?美味よね!?」 若葉 「おにいさまが作ってくれればもっと美味しかったのに……」 彰利 「文句言うなら食うんじゃありません!」 木葉 「食材を勝手に使い果たして、なにを言ってやがるかこのボケ野郎が……」 彰利 「裏モード!?ま、まあそう言わないで!ほら、これなんか自信作だぜ!?     パンプキンスープ!このトロトロ感がもう最強!───俺は食わんけど」 悠介 「……俺もいい」 木葉 「お兄様?どうかされたのですか?」 悠介 「ちょっとな……」 カボチャで液体とくると、アレを見た俺と彰利が食えるわけもない……。 ていうか作るなよ馬鹿……。 水穂 「食べないんですか?じゃあボク、いただいてみますね。よ、っと……」 俺と彰利が目を逸らしている中、その物体を椀に盛る水穂。 そして、つ……と、スプーンで呑んで見せた。 水穂 「……わぁ」 どういうわけか嫌な印象を持っていただけに、水穂の反応は以外だった。 口周りから広がっていくように笑顔になる水穂。 水穂 「お、美味しいですよこれ!すごいです!いい仕事してます!     一見、具が無いように見えますけどこれは具が溶けるまで煮込んだんですね?     しつこくならないように弱火でじっくりと!───って、変ですね。     こんな短時間でこれほどのものが出来るんでしょうか……」 悠介 「………」 月空力か。 また時間飛ばしやがったなあの馬鹿……。 水穂 「でも……もうもう、美味しいからいいですっ!」 弾けるような笑顔でスープをすくって口に運ぶ水穂。 その笑顔は本当に───本当に……あら? 水穂 「くっ……う、は、ふふ……あははははははははははっ!」 悠介 「み、水穂?」 水穂 「あ、あれっ……!?あは、あははははははははっ!」 悠介 「………」 無言のまま、彰利に向き直る。 彰利 「笑顔をプレゼントしたくてね?こんなこともあろうかとワライタケを」 悠介 「アホがァーッ!!」 バガァアッ! 彰利 「トクホーン!」 ゴシャア! 悠介 「呑め!責任持って全部呑みやがれ!」 彰利 「ゲェエッ!?無理だって!そんな熱いもん呑まれへん!     やめっ!ごぼっ!ぐぼぼっ!あぢっ!わぁじゃあっ!」 がぼっ!がぼっ!がぼっ! 彰利 「ん゙ー!ん゙ー!」 ドボボボボ……ごくん。 彰利 「ぐっはぁっ!はー!はー!し、死ぬかと思わははははははははっ!!」 悠介 「よし。じゃあ続けてメシでも食うか」 若葉 「そうですね」 春菜 「賛成」 ルナ 「……んーんん」 セレス「喋るなら、その口の中の大根おろしをなんとかしてからにしなさい」 水穂 「あははっ!あはははははあはははは!     くっ、くひっ……ふ、ふふうふはふふあははははははっ!     たっ、たふけてくらは……あはははははははっ!」 悠介 「……ワライタケの効果を消す飲み物が出ます」 コップにイメージを弾かせて、それを水穂に渡した。 が、カタカタと震えていて頼りなかった。 仕方ないな。 悠介 「水穂、こっちこい」 水穂 「は、はひっ……は、はぁはははあ……!はぁっはぁっは……あははははは!」 息も途切れ途切れに笑う水穂の手を引き、その場に寝かせて膝枕させた。 若葉 「!」 木葉 「姉さん、抑えて」 若葉 「どうしていきなりツッコミを入れるの……」 木葉 「そんな感じがしました」 悠介 「ちょっとだけ耐えてくれな?ほら、口開けて」 水穂 「は、は……はい……」 寄せたコップから水を呑む水穂。 すると、笑い声は収まった。 水穂 「は……はぁぁぁぁぁ…………」 安堵の溜め息を吐き、そのままぐた〜っと力を抜く。 悠介 「大丈夫そうか?」 水穂 「はい……だいじょ……わわわっ!」 がばぁっ! 悠介 「どうかしたか?」 水穂 「ひゃっ!?え、あ、いえ、その……」 起き上がった水穂は何やら顔を真っ赤にしながらあちらこちらに視線を泳がせている。 で、その視線がひとつの場所を通過した時。 水穂 「!!」 水穂の身体がビクンと跳ねた。 悠介 「……?」 見れば、食事の席を囲っていた人々の身体からモシャアアアと殺気が溢れていた。 その殺気が空気中に混ぜ合わされ、景色が歪む。 彰利 「ダァアアアアッハハハハハリィイイッヒッヒッヒィイン!!     アタッ!アタイにもぉっははははは!愛を!愛を分けてプリィイイヒッヒッヒ!     だめだハラ痛ぇ!マジで苦しい!笑わずには居られね……っははははは!     ぐふはっ!げほっ!ごっほほほっ!ごぉほはははははははは!     イヤアアアアハハハハハ!た、助けてセニョール!     笑う角には福来たるなら俺に福をぉっほっほほほほほほほ!!」 そんな中、畳みを力無くテシテシと叩く彰利。 冗談抜きで苦しそうだったが、無視することにした。 ………… …… 悠介 「ごちそうさまでした」 一同 「ごちそうさまでした」 手を合わせて、夕食は終わった。 そんな景色の中で、彰利だけがケヘケヘと小さく笑いながら干からびていた。 一生分の笑いを使い果たしたような苦しみに満ちた笑顔で、彼は痙攣している。 悠介 「……だいじょぶかー?」 彰利 「…………」 けひゅーけひゅーと息を吐くミイラ。 汗と涙で、もはや水分も失せたらしい。 悠介 「そんなんで、今度の体育祭出れるのか?」 彰利 「…………」 やはりけひゅーけひゅーと息を吐くミイラ。 悠介 「水、呑むか?」 彰利 「…………」 やはり、けひゅーなミイラ。 悠介 「ほら、水」 水を口にこぼすと、何故かジュワァアアという音とともに 彰利 「弦月彰利ィッ!復活ゥゥウウッハハハハハハハハハ!!     グッハ!ガハハハハハハハハ!ギャアアやっぱ治ってねィェーッ!!     もうやめてー!これ以上は腹筋が壊死しちまうわーっ!!」 ミイラだった彼が、人間への復活を果たした。 しかし相変わらず笑っている。 ───そして数秒後。 悠介 「……どうしてお前はたったの10秒程度でミイラになれるんだよ……」 彼は再びミイラになっていた。 そして相も変わらずけひゅーけひゅーと苦しそうに息をしている。 悠介 「しゃあない……ワライタケの効果を消す飲み物が出ます」 再びそれを創造した俺は、彰利の口にそれを流し込んだ。 彰利 「マズッ!」 ゲフゥッ! ボゴォッ! 彰利 「オンデュバァーッ!?」 悠介 「馬鹿野郎!せっかく作ったものを吐くんじゃねぇ!飲みやがれ!」 彰利 「ゲェーッ!?何気に飲ませる気満々だぁーっ!     いや待って!ワライタケ効果は一応消えたみたいだから待って!     そんなマズイもん、もう飲めない!」 悠介 「俺の酒が飲めねぇのかーっ!」 彰利 「ギャーッ!酒じゃない上にダーリンが暴走してるーっ!!     オエェ!マズイ!そしてやっぱり臭い!?     ダーリンやっぱ創造理力は抑えてーっ!副作用で匂いキツイ!     吐ける!マズイ!匂う!臭い!キモイ!苦い!染みる!臭い!     うぶぉっ!?オ……ぎゃああああああああああああああああああっ!!!!」 Next Menu back