───義憐(ぎれん)───
水穂 「───お兄さん?弦月さんはもう帰ったんですか?」 悠介 「うん?ああ、水穂か。彰利ならまだ居るよ」 水穂 「え……?あ、用を足しに……?」 悠介 「いや、上に」 水穂 「上?……キャーッ!?なんか吊るされてるーっ!!」 水穂が見上げた天井にはぐったりとした彰利が吊るされていた。 ハングドマンも裸足で逃げ出しそうなその惨状に、水穂は驚いた。 水穂 「あ、あわわ……」 彰利 「やあ、キミもどうだい?この修行でキミもヨガの犠牲者に」 ぐったりとしていた彼が微笑み、そっと水穂を勧誘する。 水穂 「け、結構です……」 彰利 「ぬう残念。ところでダーリン?そろそろ頭に血が上ってきたんですけど」 悠介 「降りたいか?」 彰利 「降りたい!とっても降りたい!」 悠介 「助かりたいか?」 彰利 「助かりたい助かりたい!」 悠介 「だめだ」 彰利 「ええっ!?そんな!」 水穂 「お兄さぁん……そんなこと言わないで降ろしてあげましょうよ……」 彰利 「お、おおお!なんと思いやりのある娘ッ子ぞ!     お礼に降りたらたっぷりと愛してやるぜベイベー!」 水穂 「やっぱり降ろさなくていいです」 彰利 「キャーッ!?なんとなくこうなるんじゃねぇかとは思ってたけど、     いざこうやってなってみるととっても悲しいー!涙が止まらねぇーっ!」 水穂 「ところでお兄さん、体育祭のことなんですけど……」 彰利 「そして無視らずには居られねー!?なんかもうギャア!」 水穂 「これからしばらく、帰りが遅くなると思うんです。     だから遅かったら体育祭の準備だって思っててください」 悠介 「そっか、解った。ああ、なんなら迎えに行ってもいいけど」 水穂 「う、わわわ、それだけはやっちゃだめです!姉さん達に殺されます!」 悠介 「……殺されるって……どうして?」 水穂 「……お兄さん、妙なところで鈍いですよね……」 彰利 「だろ?こう見えても苦労してんのよ俺も、他のオナゴ達も。     でも苦労ってのはこの格好のことじゃないからね?確かに顔が痛いけど」 水穂 「はぁ……」 悠介 「じゃ、今日はもう寝るか」 水穂 「そうですね。おやすみなさいですお兄さん」 ペコリとお辞儀をして、水穂が広間を出て行く。 悠介 「よ〜っし、俺も寝るかぁ」 彰利 「その前にやることがあるでしょう?」 悠介 「無い」 彰利 「ウギャア悠介!?真っ向から否定することないんじゃない!?」 悠介 「冗談冗談、さすがのお前でもこのまま放置したら死ぬからな。ナイフが出ます」 ポム。 シュピン! ゴキィッ! 彰利 「あぐおっ!?」 支え(?)を無くした彰利が畳みの上に落下した。 彰利 「うう……なんか俺ってこんなんばっかり……。     もはやアイデンティティになりつつある自分が怖ぇぜ」 ぬおお、と身震いするこの馬鹿に、俺は呆れるしかなかった。 悠介 「で?これからお前はどうするんだ?」 彰利 「おう、今日のところはこれで勘弁してやるぜ。ということで帰る」 悠介 「そかそか。だったら俺も行こう」 彰利 「愛?どこへ?」 悠介 「愛?じゃなくてだな。今日はお前ン家に泊まるって言ってるんだ」 彰利 「なっ……マジか!?」 悠介 「もちろんヘンなことしたらただじゃおかねぇ」 彰利 「わぁっとるわぁっとる!もう大歓迎!それじゃあ行こうぜダーリン!」 悠介 「ああ」 ぐっと伸びをして、俺と彰利は玄関へと向かった。 彰利 「しかし意外だったのう。よもや悠介が俺の部屋に泊まるなんて言うとは」 悠介 「たまにはそういう時もあるさ」 彰利 「だな。バチはあたるめぇ」 靴をトントンと履くと、裏口のドアを開けて外へと旅立った。 彰利 「オウ、結構寒いな」 悠介 「今年は寒くなるのは早かったな。     たしか夏の終わり頃にはもう涼しいってくらいだったろ」 彰利 「そうそう、あの時はまいったよなぁ。俺が部屋の鍵無くしちまってさぁ」 悠介 「あんなのはもう二度と御免だからな」 彰利 「大丈夫大丈夫、そんなお馬鹿なことはもうしないよ。んじゃあ行きますか」 悠介 「言うより歩け」 彰利 「まったくだ」 冷たくなり始めた風を浴びながら、俺と彰利は石段を降りてゆく。 そうした秋の夜空の下。 俺はただ、ボ〜っとしながら空を見上げていた。 彰利 「こけるぞ?」 そんな彰利の言葉もハッキリとは聞いていなかった。 悠介 「なぁ……彰利?」 彰利 「ん?どした?」 悠介 「いつか話してくれただろ?お前は違う歴史を繰り返して、     その全ての歴史で何度も俺と一緒に居てくれたって。     ……俺はさ、多分自分で思ってるほど強くないんだと思う。     だからこんなこと訊くのも、それを認めることなんだと思うよ。     でもさ……俺は…………俺は、さ。     お前の居ない世界の中で、どんな生き方してるのかな……」 彰利 「悠介……」 悠介 「平然としてるのかな。笑ってるのかな。     それともヤケクソじみた人生送ってるのかな。それとも……泣いて、いるかな」 彰利 「───」 悠介 「人が死ぬこと、生きること。     そんなことを目の前で勝手に見せられて、     俺の芯はとっくの昔に折れてたのかもしれない。     だけど、それでも信じていたかったものがあったよ。     だから……涙がこぼれてしまうまで、あの木の下で待っていたかった。     ……腐るだけだった俺を持ち直させてくれたのは、やっぱりお前なんだよ。     誰かのために生きること、人のために自分の全てを捨てられたお前だった。     だけど……俺は、お前に何をしてやれた?     俺はいっつも助けられてばっかりで、不甲斐無さを抱いたことだってある」 彰利 「………」 悠介 「親父に殴られて、抑えてたものがこぼれた時、俺は強くなろうって思った。     友達なんか居なくてもいいって思った。     そうじゃないとどうかしちまいそうだったんだ……。     大切な物は自分のもとから去っていくものなんだって思ってた。     でもそれは思ってるだけで、きっとちょっとしたことだったんだと思う。     だけど義父さんや義母さんが死んだ時、それは恐怖に変わった。     自分の周りにはこんなにも孤独が溢れてて、     そんな自分が人に近づけばその人は居なくなるのか、って。     ……涙が止まらなかったよ。     そうして泣いてる時、遺産のことでケチつけてきたやつらが俺を殴った。     そんな状況の中でも俺は、俺に近寄るな、とかそんなこと考えてたよ。     ……誰かが死んでしまうのは、もう嫌だったんだ。それが誰であろうと……」 彰利 「悠介……」 悠介 「いつだったかな……。     そいつらが帰ったあと、若葉と木葉が両親の位牌の前で泣いててさ。     そんなのを見たら、もうダメだった。罪悪感に押しつぶされるかと思った。     だから───あのとき家出した」 昔の話。 幼かった俺はふたりの涙に耐えられなくて、家出をしたことがある。 ……小さな冒険だった。 幼い四肢を振り回すようにがむしゃらに走って、俺は目的地もない旅に出た。 泣いていた若葉や木葉を置き去りにして、だ。 2日間。 今で思えばたった2日間の冒険だった。 当時の自分からしてみればそれは無茶なことで、いつだって不安は纏わりついた。 自分なりに頑張っているつもりだった。 ふたりが泣いていたのは自分が居たからなんだって思って、 子供なりに考えた行動のつもりだった。 ───だけど、自分はやっぱり子供なんだ、って。 家に連れ戻された時に思った。 小さな冒険は、あっけなく幕を閉じた。 義父さんの親父さんが俺の行方を探させたとかで、俺は連れ戻された。 面倒かけさせやがって、と叫ぶ男は、やっぱり俺を殴った。 どうして。 そう訊いてみたら、ある部屋に連れていかれた。 そこは台所だった。 腕を乱暴に引っ張られてその場に連れられた俺は、そこで見てしまった。 男に罵倒されながら、隅で泣きじゃくるふたりを。 ───自殺しようとしていた。 男がそう言ったことを憶えている。 自殺の意味が解らなかった俺は、その時は首をかしげるしかなかったけど。 ふたりは俺の姿を見ると抱き着いてきて、大声で泣いた。 ……子供だったんだ。 自分は辛いことを知っている分、大人なんだって思って背伸びをしていた子供。 その時になって初めて、俺はこいつらの家族になろう、って。 そう、思った。 彰利 「……あの時か」 悠介 「………」 彰利 「あのオッサン、今どうしてるかな」 悠介 「……今日、会った」 彰利 「え……羽棠のオッサンだぞ?」 悠介 「ああ」 彰利 「……なんだよそれ。いまさら何の用だったんだよ。     自分の息子の葬式にも来なかったヤツが……」 悠介 「……いいさ。     あの人は嫌いだけど、あの人のおかげで若葉達が生きてるのも事実だ」 彰利 「そらそうだけど……」 悠介 「なぁ、彰利?」 彰利 「うん?」 悠介 「高校卒業したらさ、どっか遠くに行かないか?」 彰利 「遠くって?」 悠介 「どこだっていい。宛てもなく旅をするのもいいだろ。     ……もう、若葉も木葉も独りじゃないから」 彰利 「……そうだな」 悠介 「俺はさ、きっとお前になんにもしてやれないんだろうけど……。     多分、一生かけてお前と友達で居られると思うんだ。     いつか分岐点に差し掛かって別れることになっても……     俺はきっと、お前のことを胸張って親友だって言えると思うから」 彰利 「───……」 悠介 「だから……いつか本当に最後が来たときにさ、思いっきり喧嘩しよう?     俺はお前のこういうところが嫌いだったとか、     死の気配も吹き飛ぶような喧嘩をさ……。     きっと、本当に最後の思い出になると思うんだ……」 彰利 「…………そうだな」 そう言って、彰利は微笑んだ。 いつものようなふざけた笑いではなく、時折に見せる大人びた顔で。 その笑顔がとても印象的で。 ああ、俺はきっと、死ぬまで今の笑顔を忘れることはないんだろう、と。 そう思って、小さく笑った。 彰利の部屋は相変わらず殺風景だった。 悠介 「相変わらず何も無いな」 彰利 「何も無い、じゃなくて余計なモノを買ってねぇのよ。     どちらかって問われりゃあ家事が好きな方だし、整理整頓なんでもござれ。     節約だってお手のものだぜ?」 悠介 「サイフは灰燼と化したけどな」 彰利 「それはタブーだ」 ちくしょう、あのクソガキャア……と呟いてお茶の用意をする友を見送る。 ひどい八つ当たりのようにも聞こえるが、それであいつがキレたのも事実だ。 ていうかさ、むしろリトルグルメ会員証こそ、灰燼と化しとけばよかったのでは? そんな疑問を手で払い、俺は窓際に腰掛けた。 声  「お茶と麦茶と谷川の名水(水道水100%カルキ入り)、どれがいいー?」 悠介 「お茶頼むー!」 声  「うっしゃあ任せろー!」 ……ふう、と息を吐いた。 そうして顔を上げた時、窓越しに夜空が見えた。 窓際から眺められる空は、外から見たそれとは少し違って見える。 ブラウン管から覗いているような違和感。 ……窓に映る自分を見る。 部屋の明かりに照らされるように浮かび上がる自分の顔は、とても情けない顔をしていた。 ───そして思う。 どうして彰利にあんなことを言ったのか。 自分でもイマイチよく解らなかったけど……いや、やっぱり解らん。 彰利 「おまっとさーん!」 悠介 「ん?おう」 愉快そうな声に、俺の思考は中断された。 まあ中断されたところで困るほどの価値もない考えだったからべつに構わない。 彰利 「ン〜フン?ンーフン?」 画郎のンーフン氏の真似をしつつ、お茶をたてる彰利。 って、なにを本格的に茶ァたててんだこいつは! 彰利 「粗茶ですが……三回まわして呑んでください。じゃねぇと許さねェ」 悠介 「………」 何気に脅迫紛いの言葉を受けながら、俺は茶を飲んだ。 ……ぐえぇ、苦ぇ……。 彰利 「うわ、よく飲めるなぁ。俺じゃあ無理だ」 悠介 「───」 コトン。 彰利 「おろ?だめでしょダーリン、ちゃんと呑まなきゃ」 悠介 「お前はなにか?自分が呑めないものを人に奨めたのか?」 彰利 「え?だってお茶でいいって」 悠介 「本気で茶を出すとは思わないだろ普通!むしろそうする方がおかしいわ!     普通の茶でいいんだよ!普通のやつで!」 彰利 「フフフ、残念だが今は茶葉を切らしちまっててな。これしか出来ねェのよ」 ……どうして茶葉が無いのに、こういう茶は立てられるんだよこいつは……。 彰利 「さてと、これからどうする?もう寝るかい?」 悠介 「さらりと話題を流すな。でも……そうだな、どうするか」 彰利 「ああ、そういやさ」 悠介 「うん?」 彰利 「体育祭まであんまり期間ないよな」 悠介 「そうだな」 彰利 「何をやるのかなんて、全然解らんな」 悠介 「種目は大体、ありきたりなやつだろ」 彰利 「パン食い競争とかか?」 悠介 「ああ」 彰利 「そうじゃね。悠介は何やりたい?」 悠介 「俺はなんでもいい。楽しめれば」 彰利 「そかそか。俺はもう全部やってもいい気分だ」 悠介 「それはやりすぎだ」 彰利 「優勝も夢じゃねぇぜ?」 悠介 「お前の場合、ただで終わるとは思えないんだよ。     まず、わざと足を引っ張るのは目に見えてるし」 彰利 「うお、そりゃひでぇな」 悠介 「お前のことだ。他人事みたいに言うな」 彰利 「そんなことしねぇってばさぁ〜ん。     やるとしたら正々堂々と別クラスの勢力を拉致監禁するくらいで」 悠介 「すなっ!」 彰利 「まあそげなことせんでも勝てるだろうけどさ、     ハプニングあってんこその騒ぎってもんでしょ」 悠介 「解ってるなら企むなよ……」 彰利 「まあまあ、楽しくいきましょうや」 悠介 「それは賛成だけどな。お前が言うとどうにも裏がありそうで……」 彰利 「ギャアもう!それって個人種差別YO−ゥ!?     そったらこと言われたらいくらミーでも傷つくでねぇべさーっ!」 悠介 「よし寝よう」 彰利 「無視!?」 悠介 「まあまあ、寝ようや。特にやることもないんだし」 彰利 「ぬ……そりゃあ間違っちゃいない意見ザマスけど」 悠介 「明日、どうするかな」 彰利 「ガッコか?」 悠介 「いまさらどう足掻こうと大した変化もないけどな。     出席日数は稼いでた方がいいだろ」 彰利 「勉学は?」 悠介 「それこそいまさらだろ、卒業したら神社継ぐことになるんだろうからさ。     勉学とかは姉さんに教わるさ。     細分化した物事を虱潰しに破壊していけば、     辿り着きたかったものに辿り着けるさ」 彰利 「そんなもんかね」 悠介 「ああ、そんなもんだろ」 彰利 「じゃあ出席するだけして、エスケェ〜イプ?」 悠介 「どうしてそんな発音で言うのかは謎だが、まあそうだな。     第一つまらないだろ。それならお前と遊ぶさ」 彰利 「俺で遊ぶ、の間違いでは……?」 悠介 「それは違うぞ。遊んでいるのはお前だけだ」 彰利 「フフ、違ぇねェ」 威張るな、そんなもん。 小さく笑うと、俺は布団を引きずり出して敷いた。 彰利 「寝るのか?」 悠介 「そんなすぐには眠れないだろうさ。     だからまあ、寝るまで話相手にでもなってくれ」 彰利 「任せろ」 悠介 「どういう返事だよ」 彰利 「俺のブレインから醸造される、ほのかな香りを醸し出す返事だ」 悠介 「醸し出さん醸し出さん」 彰利 「ふむ、んじゃあ俺もまずは寝転がるか」 言って、ぎしぃっ、とベッドに身体を預ける。 彰利 「んー、やっぱ自分の布団はいいなぁ。泊まるとどうにも寝苦しくてさ」 そしてふゥおぉおおぅと唸る。 悠介 「お前は寝苦しいと人の布団の中に潜り込むんかい」 彰利 「あれはほんのジョークだ」 悠介 「ジョークの見返りに殴られてどうすんだよ」 彰利 「なになに、あっしゃあ幾分も気にしちゃいねぇぜ?」 気にしろって……。 いや、むしろしてくれ……。 彰利 「ああ、寝るなら電気消しとくか」 悠介 「俺が消すよ」 カチッ。 彰利 「オウ、センキュウ」 電気を消そうとして少し起こした身体を寝かせ、彰利は息を吐いた。 彰利 「明日はどんな日になるやら」 悠介 「退屈だけはしないだろうな」 彰利 「俺が居るからか〜い?」 悠介 「……そうだな」 彰利 「あら、否定せんの?いつもだったら『ンなわけあるかいっ!』て言うのに」 悠介 「いつ言った……そんなこと」 彰利 「俺の中の悠介がいつだって叫んでる」 悠介 「………」 彰利 「沈黙しないで、お願い」 悠介 「呆れてただけだ」 彰利 「なんじゃい、そっかー、いやーヨカッター」 いいのか、それで。 そんなツッコミをしようと思ったが……まあ、なんだろう。 こいつには言っても無駄だと思ったので、今回は流した。 本人がいいならそれでいいか……。 そう思って、ひどく悲しみを残しながら俺は笑うのだった。 彰利 「いや、ツッコんでよ悠介」 悠介 「どっちじゃぁあああっ!!」 彰利 「ウヒョオ!?」 悠介 「───はっ!?」 いかんいかん、つい自分の中の考えと合わせてごちゃ混ぜにした思考が暴発した。 彰利は『?』顔をしながら俺の様子を伺っている。 悠介 「あー、すまん、なんでもない」 彰利 「いやいや、あれはきっと、ダーリンの心のツッコミだったのYo」 悠介 「無意識上のツッコミだったが」 彰利 「なにぃ、キミの心はそこまでツッコミに染まってしまったのか」 悠介 「お前がふざけてばかりだからだろう」 彰利 「言葉もねぇや……」 俺から視線を外して天井を見る彰利。 そんなふざけていた顔が、瞬時に真面目になった。 彰利 「なぁ悠介」 悠介 「ん?」 彰利 「俺さ、いつまでお前と友達でいられるかな、って思ってたんだけどさ」 悠介 「……そりゃあ、奇遇だな」 彰利 「ああ。だけどさ……さっき、ようやく解った気がした」 悠介 「そうなのか?」 彰利 「俺は多分、死ぬ最後の瞬間までお前と友達なんだと思う」 悠介 「……もの凄い腐れ縁になりそうだな」 彰利 「お前が言ったんだぞ、最後に喧嘩しよう、って。     それはお前、最後まで付き合えってことじゃないか」 悠介 「……それもそうだな……言ったのは俺か」 彰利 「俺もね、それまでずっとこの関係が続くんか〜、って少し呆れたけどさ。     ……どうしてかな、不思議と嫌な気分じゃなかったよ」 悠介 「……そうか」 自分もそうだった。 言われてみなければ実感出来なかった言葉が自分の中に溶け込んで、 臨終が訪れるその時までこいつと友達でいるのか、と思っても……。 それもいいな、って思って苦笑している自分が居る。 飽きるようなこの世界の中で、退屈ばかりを探すのではなく、自分なりの楽しみを探す。 そんな中で分岐点を見つけた時に出会える本当の友達。 信用したりされたり、時には裏切られて悔しさを知って。 だけど本当に裏切られることが無い限り、そいつも自分も相手を信じて道を歩く。 もちろん、その道がずっと一緒なわけがない。 だけど望む限り、やっぱりその関係は続いていくんだと思う。 形は違っても、本質───気持ちはきっと曲がらない。 曲がってしまったら、それはきっと知り合いというだけの。 それだけの存在だったということだろう。 そして俺は、こいつはきっと死ぬまで変わらないんだと思って笑った。 彰利 「どした?歯周ポケットに海老の尻尾でも刺さったか?」 悠介 「あー、海老の天ぷらを尻尾まで食う人はよくなるよなー。て、そうじゃなくて」 彰利 「なにぃ違うのか」 悠介 「まず海老なんて食ってないだろ」 彰利 「あ、そういやそうね」 悠介 「まあ……んー、いいか。寝よう」 彰利 「あら?答えは?笑いの理由は?」 悠介 「お前が馬鹿だってことだよ。寝よ寝よ」 彰利 「むう……まあいいか。よし寝よう」 ───……。 瞼を閉じると、自然に眠気が出てきた。 その過程で欠伸が出た。 彰利 「フフフ、キミの意思はまだ起きていたいらしいな」 悠介 「あー、欠伸が出るのは眼を覚ませるために人体が起こすものらしいなー。     って、だからそうじゃなくて。いいから寝よう」 彰利 「寝るのか?何か用があるから欠伸をしたんじゃないのかね」 悠介 「そんな人体の神秘なんぞ考えてたら眠れないだろうが」 彰利 「至極尤もだ。寝よう」 彰利も目を閉じると、そのまま呼吸を一定にしてさっさと寝てしまった。 ……早いな、オイ。 少し呆れると、俺も眠ることにした。 ───どうか。 願わくば、このなんでもない小さな幸せが続きますように。 頭の中で唱えてみて、俺は苦笑する。 だけどやっぱり、嫌な気分じゃなかった。 ───ん……? 悠介 「ん〜……」 目を開けると、そこは彰利の部屋だった。 当然だが、少し驚いた。 彰利 「よーう、起きたか?」 彰利は制服の上にエプロンを装着した状態でフライパンとフライ返しを持っていた。 その手のフライ返しが、何故か逆手に持たれていた。 彰利 「交わらざりし生命に───」 ギシャアア! フライパンが輝く。 次の瞬間に野菜を宙に放る。 彰利 「今もたらされん刹那の奇跡……!」 その野菜をフライパンに宿った光で切り刻んでゆく。 その際、何故か最後に切った時に跳躍した。 彰利 「時を経て───」 跳躍していた彰利は、 着地すると同時にフライパンを黒い光りで輝かせた。 彰利 「ここに融合せし未来への胎動!」 落ちてきた野菜を再び切る。 しかしフライパンで野菜を切る姿は異様意外のナニモノでもないぞ彰利……。 彰利 「義聖剣!」 両手の光を融合させ、それを振りかぶって野菜に斬り付けた。 が、ゴバァン!という音とともに野菜がフッ飛んだ。 彰利 「僕には……無理だ……」 バガァッ! 彰利 「ギャース!」 悠介 「野菜を粗末にすんな!」 彰利 「いたたた……だ、大丈夫よぅダーリン……。     あれは野菜のようで野菜じゃない、ビーチボールだから」 悠介 「───なに?」 彰利 「ウフフフ、キャベツ型ビーチボールぞー!」 ボールを持ち上げて、ハラショー!と叫ぶ彰利。 悠介 「いや待て。お前確かに斬ってたじゃないか」 彰利 「ああ、それならホレ、既に盛り付けは完了しとる。     途中で摩り替えておいたのよー!     いやー、なんかいきなり義憐聖霊斬やりたくなってさー」 ……人騒がせな……。 朝の気分が台無しじゃないか、まったく。 俺はひとまず思いきり溜め息を吐くことにした。 Next Menu back