───体育(たいいく)───
パァン! 耳に響く音とともに、並んでいた生徒が駆け出す。 彰利 「ふぅううぬぉりゃぁああああああああああっ!!」 もちろん、トップ独走中は我がクラス最強の彰利だ。 悪ふざけでドシャアとコケてみせてもその差は揺るぎ無い。 彰利 「この勝利を悠介にささげる!我が生涯が開けたこと!その感謝をアナタに!」 ちなみに競技は借り物競争。 彰利は一番先に並べられていた紙を手に取り、辺りをキョロキョロと見渡し始めた。 やがて困った顔でこちらに来る。 悠介 「どした?」 彰利 「いやこれさ、見てくれ」 彰利がコサ、と紙を見せてくる。 そこにはハッキリとした文字で『ふんどし』と書いてあった。 彰利 「……実行委員の野郎、俺に生き恥さらせって言ってやがるんかい」 悠介 「大丈夫だ彰利、お前の存在そのものが生き恥だ。     今更何を恥ずかしがってんだよ」 彰利 「…………」 悠介 「泣くな」 彰利 「パトラッシュ……っていうかパドラック……。     オイラすっげぇ泣きたくなったよ……」 悠介 「誰だよ」 彰利 「酒とタバコと金と女をこよなく愛する男、かな」 悠介 「お前ももうちょい歳とればそうなるんだろうな」 彰利 「うわひでぇ!そこまで言う!?     言っとっけど俺ァな、悠介を愛してやまねぇぜ!?     こうしてダーリンと一緒の未知なる世界を歩める日が来たんじゃから。     もう……もうダーリン以外愛せない!」 悠介 「あ、すんませーん、ここにタンカお願いしまーす。     今からこいつ気絶するんで」 彰利 「キャアア!冗談よ冗談!あながち冗談じゃねェけど今はキミの愛に免じて!     うっしゃぁあああああああ!!     どなたかー!どなたかふんどし持ってませんかー!?     脱ぎたてホヤホヤでかまわねぇ!っていうか誰だよこれ書いた奴!     こっち来て歯ァ食いしばれ!     どうせならギャルのパンティー(脱ぎたて厳選)とか書けよ!     って、あれ?ダーリン?どうして顔赤くしてるの?ダーリン?」 悠介 「……今、俺に話し掛けるな……っ」 どうしてこいつは大衆面前でこういうこと言えるんだまったく……っ! 彰利 「ふんどしー!ふんどしだ!誰か持ってねぇのかYO!」 永田 「……組の恥だ、黙らせろ」 保田 「御意……」 彰利 「ふんど」 ドボォッ! 彰利 「げっほ!な、なにしやがるこの野郎!」 ドゴォッ! 保田 「ぐはぁっ!や、やりやがったなこの野郎!」 どかっ!ごすっ!スパァンスパァンスパァン!! 及川 「こ、こらっ!何をやっている!競技中」 ゴンッ! 及川 「くあっ……!こ、このっ!おいお前ら!     ふたりを止めるぞ!いやむしろ弦月を止めろ!」 御手洗「オーライ!オイちゃん!いくぜみんなぁ!クラスの恥は弦月の恥!」 彰利 「おおみんな、加勢してくれるのか!?     訊いてくれよ、俺一生懸命恥をしのんで頑張ってるのに」 ドゴォッ! 彰利 「ブホッ!な、なにをなさるの!?」 河合 「休むな!タタめタタめぇええっ!」 彰利 「あ、ちょっと待て!てめぇら人が競技中だってのにゲフッ!ゴフッ!     キャーッ!待ってホント待って!俺が何したっていうの!?     悪いのは『ふんどし』なんて書いた奴じゃない!     ていうかごめん!いたずらで俺が混ぜたヤツだったコレ!     ど〜ぉりで見覚えがある筆跡だなぁとか思って」 河合 「激しくアホォオオオオオオッ!!」 ゴッ! 彰利 「えほぁ!イヤ!マジでスマン!悪気は120%全快であった!     言い訳わしねぇぜ!?俺ってカッコイイ!?     潔い!?キレイでステキ!?わたしみたい!?」 悠介 「いっぺん頭冷やせたわけがぁああっ!!」 ガコォオオン!! 彰利 「ウギャアーッ!!」 ぐるぐるぐるぐる……ドシャアッ!! 彰利が空中で回転しながら地に落ちた。 中尾 「うわ、すげぇアッパー……」 河合 「今、空浮いて回転しただろ……」 そんな声をよそに、 ただいまの競技、弦月さんは失格とさせていただきますと通知があった。 ナイス若葉。 若葉の声に感謝した。 アナウンスやら実効係は実行委員会および生徒会が行っている。 まあ、言ってしまえば2年だ。 悠介 「はあ、これで先輩が居てくれたらこっちの組も完全無欠だったんだけどな」 無茶な話だ。 先輩はもう卒業してしまって、俺ももう3年だから。 そういう意味では先輩と呼ぶのはもう相応しくない。 もっとも、家ではもっぱら『姉さん』と呼んでるが。 彰利 「ふう、往復ビンタ万歳」 彰利が盛大に復活した。 なんとも理不尽な奴だ。 まあ往復ビンタを保田に見舞ってたのも確かだが。 彰利 「しかしどうすんだよ友よ。このままじゃあ我が軍の劣勢に終わるぞ」 悠介 「いいんじゃないか?別に俺はどっちが勝ってもいいし」 彰利 「そんなこと言って、     100メートルリレーの時にぶっちぎりで走ってたのは誰だったっけ?」 悠介 「やるからには全力で行く。     勝敗は問題じゃないってこったよ。いいからさっさと戻れ」 彰利 「ふっ、しょうがねぇなぁ。ダーリンがそこまで言うなら戻ってやるかぁ」 悠介 「来るな、あっちいけ、頼む、ホント、本気で」 彰利 「そこまで言う!?」 悠介 「そこまで言ったんだから来るな」 彰利 「俺の風向きが変わった。俺は戻るぜ」 悠介 「どのみち戻るんだろが」 彰利 「そうだ」 悠介 「………」 小さく溜め息を吐いて、俺は自分の陣地へ戻った。 『次の種目、パン食い競争に出場なさる方は、入場門へ集まってください』 そんな言葉を耳にして、彰利は立ち上がった。 悠介 「お前、ひとりで何回出る気だ」 彰利 「ふっ、俺は勝負ごとにゃあうるせぇのよ。     勝つためだったらなんだってやるぜ。暗殺とかも」 悠介 「…………なぁ、彰利」 彰利 「なんだいスウィ〜ティン」 悠介 「誰がスウィ〜ティンだ。     あのさ、相手軍の3大勢力のひとり、岡田が今日の朝から行方不明なんだが」 彰利 「ごらん、お星様が綺麗だ」 悠介 「やっぱお前か!」 彰利 「なにぃ!?どうして俺だと分かった!」 悠介 「お前なら絶対やると思ったからだバカ!」 彰利 「俺じゃない!先祖の遥照とかいう人のやったことだろぅっ!?」 悠介 「そんなことは知らん!お前が悪い!」 彰利 「ゲェーッ!?キミ、それは千差万別でどうしようもないほどに差別ですよ!?」 悠介 「ワケ解らん!いいからさっさと岡田を連れてこい!」 彰利 「え?リンチ?うっしゃあ、喜んで加勢するぜ!」 悠介 「アホかッ!正々堂々勝負しなきゃ勝っても勝った気にならんだろうがっ!」 彰利 「なにぃ、俺はそんなことないぞ」 悠介 「………」 彰利 「……ダーリン?」 悠介 「純粋な『人間』の勝負だ。それを汚す奴は俺の敵だ」 彰利 「キャア!そりゃヤベェ!俺ってどんな感じなの!?」 悠介 「レッドゾーン。とりあえず殴らせろ」 彰利 「解放してきまーっす!アデュー!」 ドヒュウウウウ!と、彰利が逃走した。 悠介 「…………あ。おーい彰利ー!パン食い競争どうすんだー!」 そんな言葉は、彼には届いていなかった。 彰利 「夕飯までには戻るー!」 ……聞こえてたらしい。 『2組、弦月彰利くん、さっさと位置に着いてください』 彰利 「解っとりゃぁな!なんじゃいぬしゃあ、人が岡田を救出してる時に!」 岡田 「お前が悪い」 彰利 「安心しろ、同点に抑えておいた。いやー、得点コントロールするの大変だった」 岡田 「なにお前、そんなことしてたの」 彰利 「上手くやらんと悠介が怒りそうだからな。     やっぱり正面からぶつかって勝たんと」 岡田 「それは俺を簀巻きにして閉じ込めておいた奴の言葉か?」 彰利 「そうだ」 岡田 「………」 彰利 「それにさ、遅れて行って『ふふ、すまねぇ、遅くなっちまった……』、     とか言って登場したらそりゃアンタ、感動の名シーンですぜ?」 岡田 「やるかっ!」 彰利 「そうか、まあいいけど」 ………………。 悠介 「彰利!お前どこ行ってたんだ!」 彰利 「ふふ、すまねぇ、遅く」 ドゴォッ! 彰利 「ぶべぃっ!な、なにしやがるのさダーリン!名シーンが!」 悠介 「みんな待ってるんだよ!はよ行け!」 彰利 「え?え?俺ってそんなにモテモテだったの?     いや〜、英雄(ひでお)はつらいねぇ」 悠介 「パン食い競争だ!」 彰利 「……え?」 悠介 「……お前、忘れてたろ」 彰利 「そんなことはないぞ!?憶えてる!うん憶えてる!     うっしゃあちょっくら行ってくらぁ!あ、応援よろしくねー!」 ハンケチーフをヒラヒラさせて、彰利は入場門へと走って行った。 それから間もなく、教師が構えて───パァン! 大きな音とともに、それぞれが駆け出す。 それと同時に観客の皆様がワッ!と声を張り上げて応援を始める。 そんな中で。 あのバカは、俺に向かって走ってきた。 彰利 「ダーリィイイン!あなたを食べちゃいたぁあい!」 悠介 「敗北覚悟のジェノサイドナックルァアアアッ!!」 ゴパァアアアン! 彰利 「ウギャアーッ!!」 彰利がギュリギュリと大回転して地面に倒れる。 悠介 「生きてたらさっさとパン食ってゴールしてこい!     それが出来ないなら帰れたわけ!」 彰利 「うう、ダーリンがこの熱狂の中で猛る武士(もののふ)と化しちまったい……。     でもそんなあなたを食べちゃいたぁあああいっ!」 悠介 「振り抜きクリティカルチョップブロォォオオオオオ!!」 ガコォオッ! 彰利 「ウギャアーッ!」 彰利がゴシャアと地面に倒れる。 悠介 「いいから行け……。     お前が今まで相手に手加減して点数誤魔化してたことくらい知ってるんだ……。     このままわざと負けるようだったら───」 彰利 「彰利におまかせ!俺ァやるぜ!?」 ようやく彰利が走り出す。 わざわざスタート地点にまで戻り、そこからクラウヂングスタートで突っ走る。 その速さたるや、人間業じゃない。 ないが、まあこの学校の皆ならそれくらい解ってる。 彰利や俺は『勝負の鍵』とまで言われているから。 彰利 「うぉおおおっ!」 土煙をあげて走る彼は雄々しかった。 が。 彰利 「カーフブランディングー!」 ゴシャア! 西田 「ギャーッ!」 追いついた西田にカーフブランディングを爽快にキメ、その先を走っていた田辺に 彰利 「ウィーッ!」 ゴパァン! 田辺 「ギャーッ!」 身体が回転するほどのウェスタンラリアットをキメた。 彰利 「ランランラーラララー!」 ドドドドドド! 岡田 「う、うわーっ!!」 やがて一番前に居た岡田の首を小脇に掴み 彰利 「ブルドッキングヘッドロォオオック!」 ゴシャァッ! 岡田 「グヘッ……!」 ブルドッキングヘッドロックを…………。 彰利 「アーイム・ナンバーワーン!」 勝ち名乗りを挙げた彰利がパンを手にとったのち、 どっかからテーブルをズォオと取り出してテーブルクロスを敷き、 やがてナイフとフォークで優雅に食する。 あの馬鹿……。 そして食し終えたヤツが俺に向かって大激走。 彰利 「ダーリン!アタイやったわ!」 悠介 「激しくドアホォオオッ!」 バガァァッ! 彰利 「ウギャアアアアアーッ!!!」 彰利の身体が宙に浮き、ギュルギュルと回転してドシャアと倒れた。 彰利 「……うう、俺はもう駄目だ……。あ、あとを……た、頼んだ……」 悠介 「とっととくたばれクズが!」 彰利 「わぁヒドイ!そんなことまで言いはりまっしゃろ!?」 悠介 「何語だ!」 彰利 「まっしゃろ弁」 悠介 「お前、いいから黙ってろ」 バチィッ! 彰利 「ギャアオッ!」 軽く裁きを流しておく。 裁きにてぐったりと気絶した(フリをしている)彰利をズリズリと自軍に引きずり、 ひとまずはムハァと溜め息を吐いた。 悠介 「まったく……綺麗に競技に取り組む気があるのかねぇ……」 ぶつぶつと疑問にも似た不安を抱く。 この調子で彰利っぷりを発揮して暴れまわったらさすがに父兄の皆様が黙っちゃいない。 彰利 「ダーリン、キミに悩みは似合わないぜ……?」 悠介 「悩みの種が何を言っている」 彰利 「ええ!?俺様ってば種だったの!?スゲェ!するってぇとなんですか!?     こうしてサンサンの太陽に当てられている内にメキメキと芽を広げて     やがてジャックと豆の木のようにウジュルウジュルと天高く成長して     皆様に悩みを与える美しい大木と化すの!?」 悠介 「やかぁしい!お前はもう少し静かに競技に勤しめ!」 彰利 「ゲェーッ!やかぁしいって言われた!     でもダーリン、ジャックと豆の木ってさ、絶対『木』じゃないよね。     だって豆のツルだもの。アレがもし『もやし』だったら俺は絶対に笑ってた」 悠介 「童話にツッコミ入れる余裕があるなら自分で歩け」 彰利 「ア、アタイ、ダーリンの支え無しでは歩くことすらままならイヤァアア!     だからどうして無視してさっさと行っちゃうのよー!     ダーリンてばアタイが嫌いなの!?     そうじゃないでしょ!?愛してるでしょ!?」 悠介 「嫌いじゃないが愛してない」 彰利 「ほらごらんなさい!やっぱりアタイにメロメロなんじゃないの!     まったく照れ屋さんなんだからァん!!     ふふ、仕方ねぇなぁ、ここは俺がリードしてやらないとね。     ささ、キミのハートを僕にさらけ出してごらん。まずは熱いキッスを」 及川 「ぐああああ!やめろ離せ口突き出して近寄るな馬鹿者!!」 彰利 「ムチュウ!?ダ、ダーリンじゃない!?     いくら俺が愛しいからってダーリンと入れ替わるたぁどこの影武者だてめぇ!     でもそんなシャイな貴方も輝いてるわオイちゃん」 及川 「わかったから離れろ!キモイわ!」 彰利 「キモッ!?ギャアア!先生にキモイって言われた!俺様ショック!     ダーリン!?どこなの!?アタイを慰めてダーリン!     やいオイちゃん!アタイのダーリンをどこにやった!     身代金が欲しいなんて教師がほざいていいと思うなよ!」 及川 「そんなこと言うか!」 彰利 「ええっ!?言わないの!?     そ、そんな……それじゃあアタイ、身体で払うしか……」 ぬぎぬぎと服を脱ぎ捨てドゴォッ!! 彰利 「ギャアアッ!!」 悠介 「こんな公衆の面前で脱ぐ奴があるかっ!!」 彰利 「ええっ!?そ、それじゃあ校舎裏とかでダーリンがやさしく脱がして」 悠介 「いっぺんその薔薇色の脳髄洗い流してきやがれぇえええっ!!!」 バガァアアッ!! 彰利 「ウギャアーーーッ!!」 やはり彰利がギュリギュリと回転して、大地と熱いキッスを交わした。 彰利 「キャア!そんな!ファーストキッスだったのに……!」 そして蘇った。 悠介 「だからお前何者!?」 彰利 「フフフ、俺はほんの軽い出来事であっさりと死んでしまう、     出来の悪いB級映画のヒロインとは格が違うんじゃい。     こんくらいのことではたとえファーストキッスに傷ついても死にゃあせんのよ」 悠介 「わけわからん。お前の例え話はホントにワケ解らん」 彰利 「それはダーリンが純粋無垢なボーイだからさ。     そしてそんなダーリンが大好きィッ!!」 ボゴォッ! 彰利 「ベム!」 悠介 「誰がボーイだ!」 彰利 「その時わたしは目の前の少年の言動にどうしようもない『照れ』を感じた。     『ああもう、照れることないのにダーリンたら可愛いじゃねぇかチクショウ』。     わたしは心の中でそう呟くと、     やがてクラウヂングスタートでダーリンに向かって一直線に走り」 バガァアアッ!! 彰利 「ウギャアーーーッ!!」 ギュリギュリドシャアッ! 悠介 「妙なナレーション呟きながらトチ狂ってんじゃねぇよ馬鹿!」 彰利 「いやぁん怒らないで!そんな言葉遣いダーリンには似合わないワ!     そう……ダーリンはいつも綺麗なままで居てくれ……。     汚れるのはボクだけで十分さぁ……ッ!」 ファサァッ、と髪をなびかせてクネクネと歩み寄ってくる彰利。 悠介 「寄るな汚物!」 彰利 「ゲェーッ!?汚物呼ばわりですか!?ちょっと待ってダーリン!ドントムーブ!     アタイ確かに汚れるのはアタイだけでいいって言ったけど、     そりゃヒドイよあんまりだ!     そりゃあ某CMに似せて『汚物談の〜長谷川〜』とか言いたくなるってばさ!     傷つけた責任としてアタイと結婚しろこの野郎!     新婚旅行は熱海がいいなぁ!こんな時のためにアタイ、お金貯めてあるの!     欲しいものある?あったらなんでも言ってね?     アタイがどーんとプレゼントしちゃるけん!」 悠介 「彰利が静かな世界」 彰利 「そりゃ無理だ、たとえこの俺が許してもこの俺が許さねぇ」 悠介 「ワケ解らんっての!あーもう、いいからこっち来い!!」 彰利 「え?そんな、まだ早いわアタイ達」 悠介 「それはもういい!」 彰利 「ええ!?あ、飽きたの……?そうなのね……?アタイに飽きたのねーッ!?     最初っからアタイの身体だけが目的だったのねーっ!?     畜生、男ってみんなそう……。それでも貴方にアイニィイジュゥウウッ!」 ガバァッ!! 悠介 「おぉわっ!?こ、こらっ!離せ!」 彰利 「イヤアアァ!いつまでも一緒って誓い合ったでしょう!?」 悠介 「誓っとらん!」 彰利 「ゲェーッ!?撤回する気!?」 悠介 「誓っとらんと言っている!」 彰利 「嘘おっしゃい!」 悠介 「おっしゃってるのはお前の方だろが!いいから陣地に戻れスダコ!」 彰利 「スダコ!?ついに俺がひと味違う男に!?」 悠介 「寄るな!酢臭いわ!」 彰利 「ゲーッ!?そうきましたかダーリン!?     フフフ、さすが俺がこの男だと決めただけのことはあるぜ」 悠介 「あ、そ……」 彰利 「ギャア冷てぇ!やいコラダーリン!     そんな態度とってっとこのレタスをさばいて食っちゃうぞ!?」 悠介 「あー、構わず続けてください。     この変態オカマホモコンは放っておいてかまわないスから」 彰利 「キャーヒドイ!!ダーリン!     ダァアリン!それはいくらなんでもあんまりな態度よ!?     な、泣くぞ!?本気で泣くぞアタイ!     責任とってくれんでしょうねこの野郎ダーリン!」 悠介 「がんばれ水穂ー!」 彰利 「ギャアア!完璧にシカト決め込んでるよダーリンてば!     グフフフ、それならば俺様がひっそりと手を出そうが」 ドゴォッ! 彰利 「ゲブボッ!な、なにするのダーリン!裏拳は危険がいっぱいなのよ!?     俺じゃなかったらクリーンヒットで大騒ぎじゃぜ!?     そしたらお祭り騒ぎに移行して一緒に騒げるってもんですか!?     って聞けダーリン!聞いてー!アタイを無視しないでぇええっ!!」 悠介 「ああもう、なんなんだお前は」 彰利 「よくぞ訊ねてくださった!とくと聞けダーリンこの野郎!     アタイはそう、愛の伝道師にしてダーリンのラ・マン!     弦月彰……って聞いて!お願い聞いてーッ!」 悠介 「あちゃぁ、水穂は3位か。惜しかったけど妥当なとこだな」 彰利 「な、なに……?ダーリンたらアタイを見てない……?     あ、あんな小娘の方が気になるっていふの……?」 悠介 「いふの、ってなんだ」 彰利 「キャーァアア!よくツッコンでくれたダーリン!アタイもう寂しくて寂しくて!     ウサギは寂しいと死ぬんだぞこの野郎気を付けろこの野郎!     でもそんなアナタを愛してる!骨の髄まで!     骨髄バンクに通ってもいいくらいよ!?」 悠介 「そうか」 彰利 「………う……」 悠介 「うん?」 彰利 「アタイを殴ってもくれねぇダーリンなんかダーリンじゃねぇええええっ!!」 悠介 「むしろ俺はお前のダーリンじゃない」 彰利 「ええっ!?ハニー!?ごめんよアタイが間違ってた!OHマイハニーッ!!」 悠介 「寄るなタコ!」 ズパァン! 彰利 「ウギャ痛ェ!?ていうかまたタコ呼ばわり!?そしてビンタですか!?」 悠介 「お前さ、のんびり観戦も出来ないのか?」 彰利 「感染?いや、そんなことしたらオイラ、     ダーリンを手込めにする野望も志半ばでゾンビになっちまう」 悠介 「アホウ!観戦だ観戦!」 彰利 「ぬう、日本語は難しい」 悠介 「もういい、お前はそこでダンスでも踊ってろ」 彰利 「え?なんだダーリンたら俺のダンスを見たかったの?     ではゆっくりとごらん、アタイの華麗なステップ!」 彰利がくるくると奇妙に踊り出した。 及川 「こら弦月!踊ってないで応援しないか!」 彰利 「ええっ!?だ、だってダーリンが」 及川 「ダーリン?晦なら応援で前の方に出てるぞ」 彰利 「ダッ……!!ひ、ひどいやダーリン!     マジで泣くぞ俺!ていうかもう目から液体が出てるし!     な、なに!?目からオイルが!こ、これが───これが涙!?」 及川 「馬鹿やってないで、お前も前に出ろ」 彰利 「だ、黙れ魚類!貴様なんぞにアタイの気持ちが!」 及川 「解らんな」 彰利 「ゲェーッ!?ひでぇ!てめえそれでも教師か!ええ!?」 及川 「教師だが」 彰利 「嘘おっしゃい!」 及川 「真面目に話す気はあるのかお前は!」 彰利 「ない!胸張って噛み砕いて言ってやる!ない!」 及川 「………」 彰利 「そして及川は静かに頭を下げながら去ってゆくのであった」 及川 「ナレーションつけるな!」 彰利 「なに、ちょっとした趣味だ」 及川 「人をからかうのはそれくらいにして、次の種目には出るんだろ?」 彰利 「実行委員が決めたプログラムはそうなってるね。よほど俺が嫌いらしい」 及川 「ふんどしはお前が書いたんだろう、自業自得だ」 彰利 「……それを言っちゃあおしまいだよオイちゃん……」 及川 「ほら、いいから行け」 彰利 「任せろ。あ、ダーリンには夕飯までには戻るって伝えといて。     今日の晩ご飯は彰利の裸体盛りよ♪」 及川 「おぞましいわっ!」 彰利 「うわあ教師に中傷された!訴えてやる!     PTAのおばさまの権力と迫力を思い知るがいいんだわ!     オイちゃんの馬鹿ーっ!アホーッ!アンポンターソ!!」 …………。 彰利が奇妙な内股で去ってゆく。 そんな景色を生徒群に紛れながら眺めていた。 悠介 「ふう……」 及川 「ん?なんだ、そんなところに居たのか」 悠介 「俺がクラスメイトの先陣きって応援するわけないだろうが」 及川 「あのなぁ。一年経っても口調は直す気はないのか?」 悠介 「今更、敬語を使えって?」 及川 「…………いや、いい。ある種、不気味だ」 悠介 「それはありがたい。ところで彰利は何処に?」 及川 「次の種目に向かった。で、次はなんだったか?」 悠介 「学年・クラス対抗リレーだろ」 及川 「その通りだ。お前も早く並べ」 悠介 「……はぁ、どうして嫌ってるくせに俺を選ぶかねぇ」 及川 「負けたくないからだろう?」 悠介 「……はぁ」 小さくため息を吐いて、彰利の後を追うように走る。 及川 「いい機会だから、思いっきり走ってこい!     どの授業でもサボってるならこんな時くらい頑張ってみろ!」 悠介 「余計なお世話だっ!」 及川の声に何か照れくさいものを感じて、声を張り上げた。 彰利 「お、ダーリンじゃねぇのー!」 走っていく中、入場門の側に居た彰利が俺に手を振って声を上げる。 彰利 「な、なに?とうとう俺様の魅力に気づいて我慢出来ずに走って」 悠介 「あ、足下に美女の写真」 彰利 「なにぃ!?」 悠介 「いっぺん死ねーッ!!」 彰利 「なっ───ギャアアア!!!」 ガコォッ! 上手い具合に屈んだ彰利の顔にシャイニングウィザードを決めた。 彰利 「ぐふっ……!かつて無い技を決めに入るたぁ……!     心得たものだなダーリソ……!これからも一層……精進せえよ……!」 鼻血をだぼだぼと流しながら、彼は微笑んだ。 一歩間違えれば変質者だ。 ……まあ、元々こいつは変質者の類だろうけど。 悠介 「俺はリレーのメンバーのひとりだ。お前なんかが目的で走ってくるかダァホ」 彰利 「ぐっ……!ダ、ダーリンたらあんまりだわ……。     ゼノとの闘いが終わった辺りから俺様に冷たくなったわよね……。     ───はっ!?も、もしかし女!?アタイに黙って女を作りやがったのね!?     そうなんでしょ!?えーっ!?あたしにゃちゃーんと解るのよ!?」 悠介 「誤解してる時点で全然解ってないじゃないか!」 彰利 「そんなこたぁねぇぜ俺ゃあ!     俺は悠介のホクロの位置だってちゃあんと知ってるのよ!?」 悠介 「───な、なぁ……今本気で、お前のこと変質者だって認めたんだが……。     …………全力で撃退していいか?」 彰利 「ええ!?ダーリンの中で俺様の株が急上昇しずぎて、     ついには破壊すべきターゲットに進化を遂げた!?     うっしゃあ迷うこたぁねぇ!アタイがダーリンの全てを受け止めてやるぁ!     ぶつかってこーい!あ、服脱いでくれたあとの方が嬉しいとか」 悠介 「激しくアホォオオオッ!」 彰利 「やだなぁダーリンたら、ほんのジョー」 ガコォッ! 彰利 「クぼふぁあああっ!?」 彰利が大回転しながら入場門を越えて地面にドシャアと激突する。 おお、日本新。 彰利 「うう……俺じゃあダーリンの愛を受け止めきれねぇっていうのか神よ……!     こんな筈では……!もう一度、今一度、奇跡を……!我にチャンスを……!     ていうか……未来が開けても俺ってこんなんばっかり……」 ガクッ。 あ、死んだ。 声  『学年・クラス対抗リレーの代表選手は入場門へ集まってください』 聞こえる木葉の声。 それとともに、まだ来てなかった学年、クラスごとの代表が集まる。 で、自分で言っていた木葉もその場所に小走りにやってきた。 悠介 「なんだ、木葉も出るのか」 木葉 「こう見えても姉さんとともに二年の最速を担う者ですから」 悠介 「と、いうことは、だ」 若葉 「はい、もちろんわたしも出ますよ」 悠介 「そっか。こりゃあ俺のクラスかお前たちのクラスが勝つか、だな」 木葉 「その考えは早計すぎかと思います。     3年にはおにいさまの他に早い方が居ると聞きました」 悠介 「ああ、だから彰利だろ?」 若葉 「あ、いえ。あのホモさんではなく……」 悠介 「んー……まあ、彰利じゃないなら家系の身体能力には勝てないだろ。     まあ普通の人でも早い人はいるけどさ」 木葉 「……その考えは、即急に捨て去ることをお奨めします。     本気でかからなければ負けるかもしれませんよ」 悠介 「……ん、忠告ありがとな。……と、そろそろ始まるな」 ざっと、各学年の代表を見てみた。 ……と、どこかで見た覚えのある顔が見えたような……。 声  『ただ今より、学年・クラス対向リレーを始めます』 悠介 「っと、よそ見してても始まらないか。彰利、起きろ彰利」 未だに地面に転がっていた彰利を棒でつつく。 彰利 「ダーリン!起こすにももっとやりかたってもんがあるでしょ!?     俺はなんですか!?汚物ですか!?」 悠介 「さっき自分で認めてただろ」 彰利 「あれはそういう意味じゃなかったんですよダーリン!     誤解解かせて!?ねっ!?いいでしょダーリソ!!」 悠介 「断る」 彰利 「ギャアやっぱり!」 悠介 「ほら、お前が騒ぎ出すとホントにキリがないんだよ。早く行け」 彰利 「うう……。     この借りはこの実戦でダーリンを惚れさせることで返させてもらうとしよう」 悠介 「そりゃ無理だ」 彰利 「ギャアもう!いきなり否定しないでよ寂しいじゃない!」 悠介 「いいから座れって。お前はアンカーなんだから、無駄口叩いて体力消耗するな」 彰利 「まあ!ダーリンがアタイの心配を!?こ、こりゃあ明日は大雪注意報だぜ!?     でもそんな気遣いがたまらなく嬉しいったらねぇぜダァアアアリィイイン!!」 ドスッ! 彰利 「ギャオッ!な、なにするの木葉ちゃん……!」 木葉 「やかましいです。静かにすることを要求します」 彰利 「もう……木葉ちゃんたら、なにも喉に貫手することないでしょうに……!」 ゲハァッ!!と血を吐いて、彰利がゆっくりと倒れる。 悠介 「あ、こら彰利!寝るなっての!起きろこら!」 木葉 「それでは失礼しますお兄様。     勝負事である限り、わたしたちも全力を尽くしますから」 悠介 「あ……いや、それはまあ望むところなんだが……」 彰利が起きない。 なにやらカタカタと小刻みに震えながら『お得でっせ……』と唸っている。 悠介 「起きんかいっ!」 ドスッ! 彰利 「ギャアア!腹部に激痛が!?も、もしかして陣痛!?     ついにアタイとダーリンの子がブッファアアッ!!」 悠介 「やっぱ寝てろお前!むしろ寝ろ!寝やがれ!」 彰利 「いやああん!ほんの冗談じゃないのさマイダーリン!     悪気は十二分にあったけどこれもあなたへの愛があればこその」 悠介 「だぁあっ!妙なこと言うな馬鹿!」 彰利 「そんな!妙なことだなんて!ヒドイわ!アタイとの愛を妙なことだなんて!」 悠介 「いや、むしろお前が変だ」 彰利 「ゲェーッ!?変って言われたーっ!     でも今に始まったことじゃないからいいや。俺様ったら健気♪」 悠介 「叫ぶのはもういいから起きろお前」 彰利 「ダーリンが添い寝してやさしく撫でてくれたら起きてやらんでもねぇぞこの野郎」 悠介 「どうして脅迫まがいなんだよ」 言っても無駄なのはもう解ってる。 うん、解ってる。 パンッ! 悠介 「あ」 なんてことをしている内に、もう第一走者が駆けだした。 彰利 「おお、走るブルマー少女のなんとも美しきことよ」 悠介 「口に出して言うな……」 彰利 「俺は己の欲望に純粋なのよ。     ちなみにスクール水着もスカート型のしか認めねぇ」 悠介 「だから……口に出して言うなよ……人の耳元で。     ていうかそもそもなんでこんなに近くに座ってるんだお前は」 彰利 「アタイたちが紅蓮の糸で結ばれてるからYO!」 悠介 「……今すぐ黙れ馬鹿」 彰利 「ギャア!冷めたツッコミが痛い!     んもう……ダーリン?ここは殴るか罵倒するかのどちらかでしょう?」 悠介 「いいから黙って観戦してろ。黙らないとお前の恥ずかしい話を言いふらすぞ」 彰利 「なにぃ、望むところだ。どんな赤裸々発言も俺には効きやしねぇぜ?     なんてったって俺自身が赤面道中で構成されたような男だからな!」 ……自分で言うなよ……。 彰利 「ほ、ほれ!言うてみい!アタイの赤裸々系を!さあ!」 悠介 「興奮するな!」 彰利 「断る!」 悠介 「力一杯断るな!」 彰利 「うふふダーリンたらその様子じゃあ特に思い浮かばなかったみたいね。     ううん、いいの、解ってる。アタイを困らせてみたかったのよね?     それでアタイの気を引きたかったのよね?んもうシャイなんだからこの野郎」 悠介 「……お前が小学の頃、間違えて女の先生を『お母さん』と」 彰利 「イヤアアアアアアアアアアアアア!     あー!ぎゃああ!!うゎぃぇぎゃああああっ!!     ダーリンてめぇどうしてそんなこと憶えてやがるの今すぐ忘れろ泣くぞコラ!!     脅迫するなんてダーリンらしくないじゃない!     っていうかどうしてそんなレトロな手でくるのさ!     俺様久しぶりに本気で恥ずかしいじゃない!現在進行形じゃない!」 わあ、ほんとに恥ずかしがってる。 悠介 「しかもそのあとの照れ隠しにその先生に告白してあっさりと」 彰利 「やぁああ!やめてくれ悠介!ほんとこの通り!マジで俺が悪かった!     静かにしてるから!いやっ!やめっ!喋らないでくれ!」 悠介 「しかもそのフラれ方が大人の言い回しでなぁ。     子供ながらに大人ぶってた俺達にはその意味がよぉ〜っく解ってて、     しかもその一ヶ月後にその人結婚しちゃって。その時のお前の泣き顔ったら」 彰利 「だ、黙れぇええっ!イヤァア黙ってぇええ!     やめてくれ悠介っ!これ以上俺の歴史を汚さないでくれぇえええっ!」 必死に俺の口を塞ごうとする彰利の手を全力で阻止しながら喋る。 彰利 「調子に乗ってました!俺にも恥ずかしいことってあります!     謝るから!敗北を認めるから許して!?ね!?もうやめてお願い!     これ以上語られたら俺、恥ずかしくてお天道様の下を歩けない!」 悠介 「そりゃあいいや」 彰利 「よくねえぇえええええっ!!」 悠介 「っと、次は俺か。アンカーよろしくな」 彰利 「ふ、ふん!もうダーリンの言うことなんか聞いてやらないんだから!」 悠介 「そういえば中学の時も女の先生に」 彰利 「あっしが悪ぅございました!     不詳、弦月彰利!誠意をもって走らせていただきます!」 悠介 「頼むぞ」 そう言って、俺は立ち上がった。 彰利 「うう、ちくしょう……」 前を向いた際、後ろからそんな声が聞こえてきたが、無視することにした。 Next Menu back