───変貌(へんぼう)───
散々冷やかして回った後、俺と彰利はムハァと息を吐いた。 彰利 「甘味処、無かったなぁ」 悠介 「……だな」 彰利 「昨年の顔黒人(ガングローリィ)が悪かったんだろうな」 悠介 「だな」 彰利 「まあ仕方ない。また和服の神秘を拝みたかったんだが」 悠介 「お前はそういうことよりも食い意地張っててほしいと思うんだ、俺としては」 彰利 「そんなの俺じゃねぇ!」 悠介 「いきなりキレるな!」 彰利 「おっとすまねぇ、俺としたことが大人げなかった」 悠介 「いつまで経ってもお前は子供だと思うが」 彰利 「そんなことはないと思うがな。まあ子供の方がいいな、俺は。     童心を忘れて態度だけはデカいクズ野郎なんぞ、俺が許さん」 悠介 「それは同意見だが、話が逸れてるぞ」 彰利 「なにぃ」 悠介 「……まあ、なんだ?こうなると文化祭でも退屈なものだな」 彰利 「そう思うか〜い?」 悠介 「実際、暇だろ?」 彰利 「フフフ、そうくるのを待っていたよダーリン。     実はですね〜ィェ、俺様も催し物を用意していたのよー!」 悠介 「メイド喫茶ならやらんぞ……」 彰利 「あー大丈夫大丈夫。惜しいけど今回ばっかりは違うから」 悠介 「……本当だろうな……」 彰利 「お、俺を疑うのかい!?」 当たり前だ。 前回だって普通の喫茶店やろうとか言っておきながら結局メイド喫茶だったし。 彰利 「いやーん、そんなに熱い視線を送られると彰利困っちゃう♪」 疑いの眼差しだ。 彰利 「だーいじょーぶだって。本当にメイド喫茶じゃないから。     な?一緒にやるべーや、な?いいでしょダーリソ」 悠介 「やるべーやってなんだよ……ほんとにメイド喫茶じゃないんだな?」 彰利 「おうよ、もちろんだよダーリン。     今回もツナっちやら若葉ちゃんやらに協力要請してあるから苦労もせんし」 悠介 「……あいつらが納得してるんなら大丈夫か」 彰利 「だろだろだっしょー!?うっしゃあそうと決まれば善は急げじゃーい!     さ、こっちよダーリン!急いでダーリン!ダーリン!?急げコラダーリン!」 悠介 「あ、おいっ……引っ張るな!」 彰利 「だめさ!」 悠介 「………」 高揚した彼には何を言っても無駄だと悟った。 でもまあ、確かにこのままボ〜ッとして過ごすよりは騒いで終わった方がいいよな。 ……せっかくのお祭り騒ぎなんだから。 彰利 「お待たせ皆の衆ーっ!」 去年と同様に校舎裏のような場所へ走った彰利は、みんなの姿を見つけると叫んだ。 若葉 「遅いっ!一体、人をどれだけ待たせるつもりですか!」 彰利 「えー?待たせるつもりって、今来たじゃない若葉ちゃ〜ん……」 若葉 「時間が無いんです!さっさと用意してください!」 彰利 「は、はい!彰利頑張っちゃいます!」 悠介 「……若葉、あのさー……」 若葉 「……?どうしたんですかおにいさま」 ……若葉の服装を下から上まで見る。 そしてひとこと。 悠介 「……どうして男のカッコなんてしてるんだ?」 そう、若葉は何故か男装をしていた。 いや、実際は若葉だけではなく、後ろに居たみんなも男装をしていた。 その様子を見て唖然としている俺を見て、若葉は首を傾げる。 若葉 「おにいさま?理解した上で来たのではないのですか?」 悠介 「理解って?」 なんだろう。 とても嫌〜な予感がする。 若葉 「前回に引き続き今回もまた変態オカマホモコン氏の提案だったんですが、     今回は逆性別喫茶ということで」 悠介 「逆性別喫茶───なにぃ!?」 なんてこったい! しまった!確かにメイド喫茶じゃないけど俺は愚かだった! どうしてまず先に何をするのか訊かないんだよ! 彰利 「あ、じゃあアタイはお色直しに行ってくるわねダーリン♪」 ニヤァと腹の立つ極上のデビルスマイルを湛え、彼は奥へと消えていった。 悠介 「あ、あの野郎……ッ!」 騙された! いや、騙されたというよりは俺が愚かだった! 若葉 「おにいさま、苦悩しているところを申し訳ないのですが」 悠介 「なんだ……今、自分の愚かさに嘆いてるんだ……が……」 若葉に向き直ると、その手に化粧品やらなにやらが握られていることに気づく。 もしかしたら。 そう思い、俺は少し間合いを取った。 すると、トン、と。 背中に何かが当たった。 がしぃっ! 悠介 「!?」 ルナ 「つ〜かま〜えた〜♪」 ルナだった。 しかもいきなり俺を羽交い締めにして足を少し地面に壁抜けさせた。 ……ヤバイ。 なにがヤバイかって、化粧品とその他の道具や、 カツラとかを持ったオナゴどもが危険な笑みを浮かべながら俺に近づいてくるのだ。 悠介 「だぁあっ!離せルナ!     なんかちょっとヤバイ!いやちょっとじゃなくてすごいヤバイ!     離せ!はな……ぁああああ!!離せ!ギャーッ!ギャアアアッ!」 ………… しくしくしくしく……。 情けない泣き声が響く。 誰のものでもない、自分のものだ。 若葉 「おにいさま、泣かないでください。化粧が落ちます」 悠介 「う、うるさいっ!お前なんかに……お前なんかに俺の気持ちが……!」 思いきり沈んだ。 言ってしまえば影から現われた姉さんに、 首を360度曲げる勢いで(そう感じただけ)傾げられ、俺は気絶した。 そして目が覚めれば目の前には鏡があり、その中には女が居た。 どこか馴染みのある、だけど見たこともない女。 それが自分であることに気づき、俺は思わず涙した。 悠介 「ホモでもオカマでもない自分が誇りだったのに……」 男である自分が好きだった。 微妙に長めの短髪も、その中で少し長かったモミアゲ(?)も。 少しキツ目だった目も、キリッとした眉も。 それが…… 悠介 「……それが……それがどうして女装などォォオ……!」 それが、今はさらりと流れるような長髪とパッチリとした瞳を湛える女に……! 悠介 「うぁあああっ!俺を!俺を返せぇえええっ!俺の誇りをぉおおっ!」 ルナ 「そんな、なにも泣かなくても」 悠介 「お黙りゃあっ!」 若葉 「そうですよ、せっかく綺麗に仕上がったんですから」 悠介 「やかましゃあ!」 春菜 「諦めて今日だけでも女の子になろ?ね?」 悠介 「しぇからしか!」 木葉 「お兄様、似合ってます。さあさあさあさあ鏡をもっと拝見なさってください」 悠介 「うっさいわい!」 セレス「機嫌を直してください、数時間の辛抱です」 悠介 「辛抱たまらん!」 水穂 「もっと綺麗にしたほうがよかったですか?」 悠介 「良かないわい!」 満面の笑みで話し掛けてくる女性郡を追い払う。 イヤダ。 モウイヤダ。 チクショウ、コウユウノハ彰利ノ役デゴザイマショウガ。 彰利 「ダーリンお待た〜♪どうよこの女らしさ!     行く人来る人が振り返る度に嘔吐するぜ!?」 ……コイツダ。 コイツガ悪インダ……。 ソウ、スベテ……。 彰利 「……ありゃ?ダーリン?お〜い若葉ちゃん?悠介は?」 ヤツガ、キョロキョロト辺りヲネメマワス。 アアクソ……胸ノ奥デ魔ガ疼ク……。 悟ラレテハナラネェ……。 アノ馬鹿ガ、ソレヲ悟ルマエニ、コノ状況ノ根源デアル、アノ馬鹿ヲ……。 若葉 「なに言ってるんですか、これだからホモは。     いいですか?そこに居るその人が」 ───アノガキ、ブチノメーション。 悠介 「ガァアアアアアアアッ!!」 彰利 「おわッ!?な、なに!?いきなり謎の美女が俺に牙を剥いた!?     いやぁ照れるなぁ、こんな熱烈なアタックを体感するのは生まれて初めて」 バガァッ! 彰利 「ぐぅっはあっ!!」 悠介 「グゥォオオオオオオオオオオッ!!」 彰利 「ウギャアなに!?なんなのこのオナゴさん!アタイが何をしたってギャアア!」 ルナ 「わー!悠介がキレたーっ!」 若葉 「お、落ち着いてくださいおにいさま!」 彰利 「ええっ!?この娘さんってば悠介なの!?     ど、どうりで一目見たときからブゥォッホォッ!!」 春菜 「ゆゆゆ悠介くん!さすがにそれ以上は常人の踏み込める境界じゃあ」 悠介 「グルルルル……!」 春菜 「ひぇっ!?あ、あの悠介く」 悠介 「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」 春菜 「きゃぁあああああっ!!」 水穂 「お兄さん!せっかく綺麗なのにそんなに暴れちゃダメですよぅ!」 若葉 「みみみ水穂っ!この状況でそういうことはっ!」 悠介 「ウガァアアアアアアアアッ!!」 水穂 「ひゃぁっ!?」 若葉 「ああもう馬鹿っ!少しは隣に居るわたしのことも踏まえなさいっ!」 木葉 「姉さん、ファイト」 若葉 「木葉ぁあああああっ!!あなたも高みの見物してないで降りてきなさい!     ていうかいつの間にそんな場所に移ったんですか!」 木葉 「お兄様ならキレると思ったから」 若葉 「こっ……木葉ーっ!!そう思ったなら先に言いやがりなさい馬鹿ぁーッ!!」 セレス「もっともな言葉ですね〜。     ですがそれを言うなら今の状況も予測できないことはないと思いますが」 若葉 「ああっ!?ちょっと!あなたも何をのんびりと高みの見物してますか!     ちょっとこっちに降りてきなさい!ひとりだけ逃げようなんて」 悠介 「うがぁああああああっ!!」 若葉 「きゃーっ!!」 ルナ 「ね!悠介!?落ち着いて!?こんなことした双子の姉が悪かったから!」 若葉 「ひぇぇぃっ!?なななにを人の所為にしていますかあなたは!     元をただせばそこでミンチ気味になっている変体オカマホモコンが」 悠介 「ヌガァアアアアアッ!!」 ルナ 「わわっ!こりゃダメだっ!逃げるが勝ち!」 春菜 「ああこらっ!せめて助けなさいっ!」 水穂 「が、がんばってくださいね、おねえさま〜」 若葉 「ぐあっ……水穂っ!あなたまでちゃっかり!」 セレス「まあ、友好関係の問題ということで」 若葉 「それはなんですか!?わたしの日頃の行いが悪いとでも」 ズシンッ。 若葉 「───……っ!」 春菜 「あ、あわわ……」 悠介 「グルルルルル……」 若葉 「あ、あのあの……おにい、さま?」 春菜 「うう、こうなったら……ごめんね悠介くん!ちょっと眠って!ブラストッ!」 ドチュ───バチィッ!どかーん。 春菜 「い、いやぁあああああっ!あっさり払い退けたぁあああっ!!」 若葉 「ど、どうするんですか姉さん!     年長者でしょう!?無い知恵絞って活路を見出してくださいよ!」 春菜 「無い知恵は余計だよっ!ホーミング・レイ!」 ドチュチュチュチュチュ───ばちばちばちぃっ!どかかかかーん。 春菜 「い、いやぁああああああっ!!」 悠介 「ガァアアアアアアアッ!!」 若葉 「あぁああごめんなさいごめんなさい!わたしが悪かったですぅううっ!!」 春菜 「悠介くん落ち着いて!メイク落とすから!ね!?女装も元通りにするから!」 悠介 「うがぁあああああああっ!!」 若葉 「いやぁあああっ!おにいさまご乱心ーっ!」 どかああぁあああん! 春菜 「ゆゆ悠介くん!     いっつも人に落ち着けとか言いながらこれじゃあ説得力ってものが」 ガカァアンッ! ゴカァアアン! 春菜 「ひぇぇええっ!」 悠介 「がぁっ!がぁあああああっ!!」 ルナ 「うわー、怒ってるねー。たーまやー」 木葉 「お兄様ったら大胆……」 水穂 「……そういう状況じゃないと思いますけど」 セレス「まあ、上は見てないようですから、ここに居る限りは安心で」 がしゃんっ。 セレス「……うそぉ」 水穂 「ひぃやぁあああっ!!」 悠介 「ガァアアアアアアアアッ!!」 どがしゃぁあああんっ!! 木葉 「お兄様、非常階段を壊すと怒られますよ」 ルナ 「あはははははははっ!ネッキーったら変な声ー!」 セレス「やかましいですっ!人間が!人間がこの高さをひとッ跳びですよ!?     これを驚かなくて何に驚きますかっ!」 ルナ 「ネッキーの素っ頓狂な声〜♪」 セレス「殺しますよっ!?いっぺんブチますよっ!?」 木葉 「お兄様ったら大胆……」 セレス「それはもういいです!」 ルナ 「あーあー、悠介ったら目覚めちゃったみたいね」 水穂 「ど、どういうことですか?」 ルナ 「んー、いいかなベニー。月の家系のこととかは」 水穂 「ベニーじゃないです」 ルナ 「……続けるわよ?月の家系のこととかは知ってるわよね?」 水穂 「一応。教えてもらいましたから」 ルナ 「だったらどんな家系にも魔の血が流れてるのも知ってるわね?」 水穂 「……つまり、そういうことですか?」 ルナ 「そうそうー♪あ、ベニー。右」 水穂 「え?」 ルナ 「ああ違う違う。わたしから見て右ね」 水穂 「え、わきゃぁっ!」 ブォッ!! 水穂 「人の立場になって教えてくださいっ!死ぬかと思いましたよ!」 ルナ 「はいはい、じゃあもう悠介を正気に戻そうね」 セレス「出来るんだったらさっさとやりなさい愚者がぁっ!」 ルナ 「うっさいなぁ。物事には順序ってものがあるでしょ?     それに正気戻せるかも不安だし。     ああ、ようするに傷つけた痛みで正気に戻すの。     というわけでこの子の出番ってわけ」 セレス「……大鎌ですか」 ルナ 「一応、切れないものはないって言われてる黄泉の斬在刀だからね。     これで感覚の集中してる足の指を狙うってわけ」 セレス「…………右」 ルナ 「え?」 セレス「ああごめんなさい?あなたから見て右でした」 ルナ 「なっ!」 ゴンッ! ルナ 「あうぅっ!!」 どかぁっ! 彰利 「ゲェーッッファアッ!な、なにしやがるてめぇっ!     アタイに落下してくるとはどういうつもりじゃい!おお!?」 ルナ 「うる……さいなぁ……!いま話し掛けないで……」 彰利 「オウ?大丈夫かね?一体何が」 ルナ 「………」 彰利 「オウ?上?」 悠介 「ガァアアアアアアアアッ!!」 ドシャァアッ! 彰利 「イヤァアアアアアッ!夢じゃなかったぁああああっ!!     どうするルナっちヤバいぞルナっち!よ、余を助けてたもれ!     むしろアタイを助けさえすればバッチリオッケン!死ねぇい貴様ーっ!」 トチュッ。 彰利 「キャーッ!?」 ルナ 「黙れって言ってるでしょうがーっ!!」 彰利 「いや待った!うしろうしろうしろ!ぎゃああああああああああっ!!」 ルナ 「え!?あ、わーっ!!ディ、ディファ−シックル!」 ヒィンッ!ぱしっ。 ルナ 「……うっそぉ……」 彰利 「ゲェーッ!?指だけで真剣白刃取り!?マジですか!?ありえねぇっ!     ルナっちルナっち!俺が試してやるカマーン!真ッ剣!白刃取りィーンヌ!!」 トチュッ。 彰利 「ギャアアアア!!やっぱ無理!無理無理無理ーっ!!     力込めないで頭が割れちゃう逝っちまうーっ!」 悠介 「ガァアアアアッ!!」 ルナ 「や、やっぱり逃げるが勝ちっ!」 がしぃっ! ルナ 「きゃっ!?」 彰利 「待ってー!アタイを置いていかないでーっ!     生まれた日は違えど、死ぬ時は同じ日、同じ場所って誓い合ったでしょ!?」 ルナ 「そんな桃園の誓いみたいなことした憶えなんてなーいっ!     離してっ!離してよっ!逃げられないでしょ!?」 彰利 「なにぃっ!?敵に対して背を向けるか!?ええぃ貴様それでも女かぁっ!?」 ルナ 「知らないわよそんなこと!いいから離───あ……」 彰利 「え?あー……ギャア……」 ───合掌。 いやぁあああああ待った悠介待ったぁあああ落ち着いて落ち着けダーリギャアアアちょっと どこ触ってっていいから離しお兄様ったら大胆あぁああああっなんとかしなさい年長者でし ょうそんなこと言ったってことごとく払われたわたしの力でどうしろって言ういいからどう だっていいからなんとかしてくださいこのままじゃみんな打ち死にますよだったら死ぬ気で ガンバローって気にならねぇんですかお姉さんお兄さーん落ち着いてくださぃぃいいガァア アッガァアアッひぇえええいギャアアアちょっとなんで俺を盾にブボォッギャブボッイヤア アア助けてぇえどうして俺ばっかり狙うんだよそれってあんまりじゃないのダァアアアリィ イイン─────────………………!! ───……。 悠介 「……どうしたんだ?」 疑問の言葉が漏れた。 気づけば俺は呆然と立っていて。 目が捉える景色の先には、 ところどころボロボロになった非常階段の影でカタカタと震えるみんなの姿があった。 ふと手に重みがあることに気づき見てみると、彰利がぐったりとしていた。 悠介 「……どういう状況だ、こりゃ」 パッと手を離すと、彰利がどしゃあと倒れた。 彰利 「よろしい、説明しよう」 しかしあっさりと蘇り、俺にコトの顛末を話した。 …………。 ……。 悠介 「……マジですか?」 彰利 「それはあそこのオナゴ達を見れば一目瞭然な気がしますが?」 言われて、ついっ、と。 片隅で震える女性郡を見やる。 悠介 「俺はてっきり、お前が変態行為に走った所為で俺がキレたのかと思ったが」 彰利 「一理あるが、ダーリンに嫌われることはギリギリでしてないつもりだ」 悠介 「……この状況を見て、まだ言うか」 まだ女装したままの自分を見る。 彰利 「やれやれ、またお色直しですかい。手間のかかるヤツじゃい」 悠介 「ていうかそもそもやるな」 彰利 「それは無茶な話だ。俺は悠介に女装させるのも夢だったんだ」 悠介 「……お前の夢ってさ、人を巻き込むものばっかだよな」 彰利 「いやん、そんなに誉めないで♪」 誉めてない。 彰利 「若葉ちゃんやら皆様さん?もう大丈夫だから出ておいで」 若葉 「………」 彰利 「だいじょぶだいじょぶ〜。外見は違えど、中身はおにいさまだから」 若葉 「お、おにいさま?」 悠介 「……その、すまなかったな、若葉。こんなことになるとは思ってもみなかった」 彰利 「まったくだ」 悠介 「お前が言うなよ……」 ルナ 「……悠介?」 悠介 「そんな猛獣を見るような顔をするな。逆にだれる」 ルナ 「だって……ねぇ?」 セレス「まったくです。もう二度と、あんな悠介さんは御免です」 水穂 「寿命が5年は縮んだ思いですよぅ……」 木葉 「お兄様、先程はとても大胆でした」 何故か頬を染める木葉。 悠介 「……暴れたのは解ったが、一体俺は何をやったんだ」 若葉 「木葉のことは置いておいてください。さっきからネジが飛んでいますから」 彰利 「ところでさ。これじゃあもう逆性別喫茶は無理だよな?」 ところどころに崩壊した校舎裏と非常階段を見て、彰利らしくもないことを言う。 悠介 「お前らしくもないな。いつもなら意地でもやるだろうに」 彰利 「忘れたかい?俺は元々ダーリンの女装姿が見たかったのよ」 悠介 「……ハッ!」 言われてみて、女装しながら平然としている自分に驚愕する。 悠介 「───」 若葉 「……あの、おにいさま?」 ルナ 「ゆーすけー?」 セレス「………」 木葉 「……わたし、用事を思い出したので生きます」 彰利 「え?あ、ちょっと木葉ちゃん?     なんか『いきます』の部分に生命の息吹を感じたんだけど。     あ、ちょっと……無視ですかー!?……いっちゃったよ……」 水穂 「あ、セレスさん。あっちでお話したいことが」 セレス「丁度よかったです。実はわたしも」 彰利 「あ、あれー?どうしたっていうんだーい?」 若葉 「……これは」 春菜 「……だね」 彰利 「え?なになに?」 若葉 「変態オカマホモコンさん?わたし達、ちょっとこの服脱いできますね。     やらないって解ったのなら着る必要もないので」 彰利 「え?あ、そうだね、いってらっさーい」 春菜 「いこっ」 若葉 「はいっ」 たたたたたた……。 彰利 「ホッホッホ、あんなにハシャいじゃって……。     カワイイったらないねぇダーリン?」 悠介 「───」 彰利 「あの……ダーリン?話聞いてくれねぇと襲うぞ?」 ブチリ。 彰利 「あっ!なんかすっげぇヤな予感!うわヤバイ!逃げ」 悠介 「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!!」 彰利 「イヤアやっぱりぃいいいっ!気づくのが遅すぎたぁあああああっ!!     やめダーリンやめっ!やめった!?やゲブボブエバボバゲハゴハブハァッ!     しゃべっ!暇もっ!与───つもっ!ギャバアアア!!     たすけっ!助けて誰かーーっ!!ていうかどうして誰もゲフッ!」 ……ドサッ。 ───気づくと、もう終わりは近づいていた。 悠介 「さてと、一通り冷やかしたが───これからどうする?」 彰利 「ああハイハイハーイ!オイラ雪子さんとこの文化祭行きたいー!」 悠介 「却下」 彰利 「ええっ!?」 悠介 「これも冗談だ。別にいいが……今日、やってるものなのか?」 彰利 「いや、明日ある。     だから今日はキャンプファイヤーでも眺めて踊ろうじゃないか。     俺はこれでもダンスは上手なんだ。俺の華麗なステップを見て嘔吐するがいい」 悠介 「吐かせてどうする」 彰利 「なら悩殺してやる」 悠介 「すなっ!」 彰利 「俺にどうしろと」 悠介 「普通に踊ってくれ」 彰利 「解った。リンボーダンスなら俺に任せろ」 悠介 「そうしてキャンプファイヤーに突っ込むとか、そう言うんじゃないだろうな」 彰利 「それ死ぬって。いくら俺でも死ぬってばよ」 悠介 「そうか?お前のことだから火傷して焦げてもそこを破壊して脱皮しそうだが」 彰利 「……ふむ。確かに面白そうだ。やってみる価値はあるかもしれん」 悠介 「……真剣に考え込まないでくれ…………頼む……」 彰利 「見くびるな!俺だってその気になれば脱皮のひとつやふたつ!」 悠介 「今回ばかりは見くびらせてくれ!そしてやる気を出さないでくれ!」 彰利 「なにぃ……んなこと言ったって、     今こうしている間にも刻一刻と俺の背中に亀裂が」 悠介 「今すぐやめろ!」 彰利 「冗談だってばダーリン。そんなこと出来るわけないじゃん」 悠介 「………」 何故だろうもクソもない。 こいつならやりかねないと本気で思った。 彰利 「じゃあどうする?キャンプファイヤーまではもうちょいあるぞ?」 悠介 「俺はべつにこのまま帰ってもいいんだが……。若葉達でも探すか?」 彰利 「なにぃ!?そんなことしたら俺とダーリンとのふたりきりの時間が」 悠介 「よし探そう」 彰利 「キャーッ!?失言だったァーッ!」 悠介 「若葉〜、木葉〜、水穂〜」 一応声あげてみる。 すると人垣を掻き分けて3人とも現れた。 若葉 「呼びましたか、このわたしを」 悠介 「……登場は普通だったのになぁ。頼むから普通の言葉で現れてくれ」 若葉 「姿が見えた途端にイチャモンつけないでくださいおにいさま」 木葉 「変態さんも一緒だったんですか」 彰利 「変態さん、て……」 水穂 「はぅ、はぅ……探しましたよ……」 彰利 「そんなにこの俺に会いたかったのかい?」 水穂 「いえ全然」 彰利 「うわひでぇ!嘘でも会いたかったって言ってほしかった!」 木葉 「あぁ〜あハイハイ、会いたかったですよ……チッ。     まったくどうして会いたかったんだが自分の感性を疑いたくなるほどですよ。     どうしてわたしがこんなホモで変態で馬鹿で愚者で色ボケオカマホモを」 彰利 「うわぁあああああん!なんかすっげぇいじめられてるーっ!!」 悠介 「泣くな」 彰利 「感動してるんだ」 悠介 「嬉しいのか……」 こいつの感性がますます解らん。 彰利 「あら?そういやいっつもくっついてる死神さんは?」 悠介 「ここに来る途中、畑が猿に襲われてな。暴走してた」 彰利 「……俺は二度と、あそこには手を出さないぞ」 悠介 「冗談抜きで半殺しだったからなぁ」 若葉 「それよりおにいさま、今までどこでなにをしていたんですか。探しましたよ」 彰利 「フフフ、アタイとのデートに忙しかったのよ」 木葉 「ホモの冗談に付き合うほど、わたしたちは暇ではありません」 彰利 「……木葉ちゃん、ノリ悪い……」 若葉 「ノリの問題ではありません。人種の問題でしょう」 彰利 「そんなぁ若葉ちゃん、アレは誤解だって解ってくれたじゃない」 若葉 「あれはあれ、これはこれ。     わたしたちは何も、過去を引きずって話をしているわけじゃありません」 彰利 「……昨年まで誤解したままだったクセに」 ドボォッ! 彰利 「おぐぅっ!」 ボゴォッ! 彰利 「あぐぅっ!」 若葉と木葉の拳が喉と項を襲う。 やがてグラリと傾く彰利。 彰利 「……ふんっ!」 が、留まった。 彰利 「ま、まだぞ……!我がこの程度で倒れるとでも」 ドゴォッ! 彰利 「ギャーッ!」 俺の拳が彰利を捉えた。 彰利 「こっ……こんな筈はないのにー!」 天草四郎っぷりを見せながら、彼はついに倒れた。 悠介 「悪い、俺はもう帰るよ」 彰利を担ぐと、俺はそう言った。 若葉 「………」 悠介 「そう睨むな。こいつには押さえつけとく馬鹿が必要なんだよ」 若葉 「おにいさまは馬鹿ではありません。ですからそんなことはやめてください」 悠介 「大体ここに居てもやることがない。     それなら明日の雪子さんのガッコの文化祭で楽しむさ」 若葉 「……え?明日、あるんですか?」 悠介 「ああ。だから、せっかくだから行かないか?みんなでさ」 若葉 「……はい!」 木葉 「姉さん、抜け駆けはさせません」 水穂 「抜け駆けがどうとかじゃないですけど、わたしも行っていいですか?」 悠介 「別に俺が開催するわけじゃないんだ、好きにするべきだと思うぞ」 春奈 「あ、じゃあわたしも行くね」 悠介 「姉さん、居たのか」 春奈 「さっきからずっとね。     気づいてくれない上に妹達は呼んでもわたしは呼んでくれないから」 悠介 「すまん、忘れてた」 春奈 「そんなことだろうとは思ったけど。それで、構わないよね?」 悠介 「俺は全然。訊く方がおかしいだろ」 彰利 「そうだそうだ愚問だばかー!」 ギリッ! 彰利 「ギャア!」 彰利が足を抓られて叫んだ。 彰利 「な、なにしやがる!嫁入り前の大事な身体がギャーッ!?」 ドゴォッ! 彰利 「ブフォォッ……!!」 悠介 「起きてたんだったら降りやがれ……!」 叫び途中の彰利にデスパレーボムが決まった。 彰利 「ダ、ダーリ……手加減……」 ガクッ。 死んだ。 うーむ、さすがの彰利といえど、地面にデスパレーボムは無茶だったか。 彰利 「いや、そうとも言い切れん」 蘇生した。 悠介 「生きてたか」 彰利 「フフフ……こんなこともあろうかと急所は外しておいた。     だが脳に衝撃があったようで、景色が歪んでいる。     悠介が100人に見えるよ」 悠介 「そうか、それはよかった」 彰利 「よくはないが……」 悠介 「俺はもう帰ることにしたんだが、お前はどうする?」 彰利 「なにぃ、帰るのか」 悠介 「帰るぞ。後夜祭にいい思い出はない」 彰利 「ゼノはやっつけたんだからもうダイジョブだって。     な?遊んでいこーぜダーリン」 悠介 「うんにゃ、やっぱり帰るわ」 彰利 「チィイ、わがままさんめ……!     そんなキミには抽選で、もれなく俺様をプレゼントしちゃうぞコラ」 悠介 「いらん」 彰利 「うおっ!?即答!?」 悠介 「お前はどうする?」 彰利 「俺様はまだ暴れ足りねぇのよ!だから暴れる」 悠介 「お前以外の怪我人は出すなよ」 彰利 「うわぁ、俺様なんてどうなってもいいというの?」 悠介 「そこまでは言わない。怪我はしても構わないと言っているんだ」 彰利 「ダーリンたら結構ヒドイのね。     まあいいや任せろ!致命傷を負ってやる!」 悠介 「かすり傷程度で抑えろ馬鹿!」 彰利 「なにぃ、馬鹿って言われたヤツは馬鹿なんだぞ!?」 悠介 「訳が解らん上に自分で馬鹿だと認めるな」 彰利 「あ、あら?馬鹿な……こんなハズでは」 悠介 「そんじゃな、俺はもう行くよ」 彰利 「仕方ないのぅ、     おやつのケーキは暖炉の中で炭になってるから温めてお食べね?」 悠介 「食えるかっ!」 彰利 「はっはっは、いやいやまあまあマルベヌゥ〜スベリヅゥルウェィ」 目の前の馬鹿はカタカタと顎で笑いながら謎の言葉を吐いた。 気持ち良く別れることが出来ないのかこいつは……。 ハンケチーフをひらひらと揺らしながら見送る彰利を背に、俺はその場をあとにした。 Next Menu back