それは昔の物語。

自分が子供だった頃のことを思う。

自分の親は両方とも最低なヤツだった。

言ってしまえば金の亡者ってやつだった。

金のためならどんなことでもするし、人を殺して金が受け取れるなら、喜んでしただろう。

事実、俺はそんな親と吐き気がするほど一緒に居たのだから。

その所為か、親が子供に暴力を振るうことが常識なんだとばかり思っていた。

だが───家を出てみればとんでもない。

世界は幸せに満ちていやがった。

どういうことだよこれは。

不公平だ、こんな世界。

初めて外に出た俺はそう思った。

そして思う。

平和ヅラしてるヤツを不幸にしてやるのもいいかもしれない、と。

そして俺はひとりの平和そうなガキを利用することにした。

名前なんて知らない。

ただ偶然居たガキだが、こいつも特別だった。

間違い無い、家系のガキだ。

俺はそいつを丸め込み、そいつの親のもとへと案内させた。

───そいつの親は、このガキよりも平和そうなツラをしていやがった。

それがまず、ムカツイタ。

表情通り、平和そうに話すソイツは俺が家系の子供だと知ると、ガキを俺から奪った。

そして何かを叫んでいた。

そんな親に対し、俺はひとつだけ質問をした。

簡単な質問だ。

『人間ってのはなんだ?』

そう訊いただけだ。

そいつは俺を、特に興味もないような顔で俺を見下ろすと、帰れと言った。

───ああ、残念だけど。

地に帰るのはテメェだよ。

俺は目を見開いて、隠していた包丁でソイツの首を切った。

血が大量に吹き出た。

どうやら頚動脈を切ったらしい。

ソイツは無言のままに吹き出る血を見ると、ただその血を押さえた。

表情を変えずに首の血をなんとかしようとするソイツを見て、俺は笑った。

まだ足りない、と。

だから、夫が血に塗れる姿を見て辺りが見えてない妻の手首も切った。

……ソイツの慌て様といったらなかったね。

そこで解ったよ。

そう、コレが人間だ。

極限状態でなければ現われない、心をも持たぬただの叫ぶ人のカタチ。

最高じゃないか。

俺は随分長いこと、人間を求めていた。

あんなクズでも親は親だが、殺すには価値が足らない。

だったらどうするかなんて、そんなことは考えるまでもない。

世の中はこんなにもムカツク野郎で構築されている。

こんなに居るんだ。

いくら殺したって、どうせ増える。

だったら殺せ。

そして人間を探そう。

───人間がもがく姿は最高だった。

防衛本能や生きたいという気持ちをも超越した、生態としての本能か。

ただ暴れもがき、やがて死にゆく様はこうも素晴らしいものか。

男の方はずっと妻を悲しげに見ていたが、やがて出血多量で息絶えた。

ここに人間の本質がある。

感情のままに生きるものとは明らかに違う。

やがてもがく力も無くなってきた妻のほうを、俺は包丁で刺した。

ソイツは声を漏らしたが、それは言葉なんてものじゃなかった。

ただ叫ぶ。

これが人間だ。

ああ、気分がいい。

鳴け。

もっと泣け。

叫べよ。

ほら、もっとだ。

ああ……!なにやってんだよ叫べよ!

叫ばなくなった人間を、俺は叫ぶまでメッタ刺しにした。

胸を刺し、喉を貫き、目を刳り抜き、舌を裂いて、最後に頭を割った。

ああ、つまらないな。

もう叫ばないのか。

飽きたところで脳を踏み潰した。

一緒に潰れた目玉の感触がたまらなかった。

新しい発見の繰り返しだ。

俺は放心状態になってるガキの横を通り過ぎると、

その先で腰を抜かしている女に近寄った。

涙を流しながら首を小刻みに振っている。

俺の接近に気がつくと、その場にあったものをとにかく投げてきた。

だから俺も投げてやった。

ゴツン、って、いい音が鳴った。

灰皿は女の鎖骨を破壊すると、そのまま畳みの上に落ちた。

女は喉が潰れるかと思うくらい大きな声で叫んだ。

ああ、たまらない。

この、『なんでこんな子供に殺されなきゃ』って顔が、特に気持ちいい。

今度はどんな風に殺そうか。

そう考えていると、女がなんでも言うことを聞くからやめて、と言った。

俺はそんな言葉に不意打ちをくらった。

そんなことを言われるとは思わなかったから。

だけど俺は笑うと、そのままの笑顔で『じゃあ死んでくれ』と言った。

その時の女の顔は最高だった。

まあでも、その顔もすぐに血に塗れたんだけど。

女には踊ってもらった。

ああ、素敵なダンスだったと思うよ。

あれほどの踊りは、普通じゃ見れない。

全身から血を噴出してフィニッシュなんて無理だろう。

とても綺麗だった。

そんな中で未だに放心状態だったガキを見て、俺は笑った。

こいつはどんな風に殺そうか、と。

だけど───まあ。

わざと生かすのもいいかなぁって思った。

それとも俺の変わりに地獄の中で生きてもらおうか。

……ああ、それがいいな。

そう決めると、俺は風呂に入ってさっぱりした。

風呂が沸かしてあるなんて気が利いている。

着替えを着ると、俺はガキの手を引いてその場所を離れた。

───こっから先は笑いが止まらないくらい都合が良かった。

ガキはあまりにショックだったのか記憶を封印しちまってて、自分が誰なのかも不明。

そしてどうやら、なんにも憶えてないらしかった。

だから利用してやった。

俺はそいつに名前をつけてやると、さっさとそこを離れた。

やがてそいつは俺の身代わりとなって、歴史を歩んでいった。

そして今。

全てを利用しながら生きてきた俺は、

殺さなかったそのカタチの人間が見たくて、またここへやってきた。

親はとっくに死んでいた。

自分で殺せなかったのが残念だが、まあべつにいい。

───さて。

そろそろ、偽りの人形を壊すとしようか。

人形は人形らしく、人のモノマネでもしてさっさと廃棄されやがれ。

せめて跡形もなく消してやろう。

それこそ、最初から存在していなかったかのように。

ははは……ははははははは───あははははははははっ!!













───月蝕(げっしょく)───
家に戻った俺は風呂で頭を冷やした。 べつに怒った頭を治めたいとかそんなんじゃなくて─── ただ、よく解らないことで心配する自分がイヤな気分だったんだ。 悠介 「あ〜、さっぱりした」 さて、それはそれとして。 風呂から上がって第一にすること。 それは─── 悠介 「んぐんぐんぐんぐ……っはぁー!やっぱ入浴のあとはこれでしょう!」 飲んだビン牛乳をダンッ!と置く。 う〜む、実に染み渡る。 一気飲み出来ずに残っているのは気にしないでくれ。 悠介 「彰利、風呂空いたぞ。入るなら入れ」 彰利 「お〜っす。そんじゃあお言葉に甘えますか」 そう言って、彰利はぬぎぬぎと服を脱ぎ始め 悠介 「脱衣所で脱げアホゥ!」 彰利 「しまった見つかった!」 悠介 「人の前で脱いで見つかったもなにもあるか!」 彰利 「ぬう、とんでもねぇほどに正論だ。     そんじゃあ入らせてもらうわ。     さ〜て、来たるふたりの夜のためにお肌をゴシゴシしないとねぇ〜ん」 鳥肌の立つような捨て台詞(?)を残して、彼は風呂場の方へ歩いていった。 悠介 「……ふう」 息を吐く。 そしてふと気付き、手に残った牛乳を飲み干して、その場をあとにした。 春菜 「ああ、悠介くん」 悠介 「うん?あ、姉さん。どうかした?」 春菜 「お風呂上がったところ?」 悠介 「ああ。さっぱりした」 春菜 「ふーん……わたしも入ろっかな」 悠介 「今は彰利が入ってるけど」 春菜 「………」 しこたま嫌そうな顔をされる。 春菜 「今日はもうお風呂はいいや……」 悠介 「懸命な判断だ」 以前彰利が泊まりに来た時の話だが、 ヤツが風呂に入ると何故か風呂にレタスが敷き詰められている。 ヤツが言うには『俺が考案したレタス風呂ぞ!?』だそうで。 『柚子風呂があるならレタス風呂があってもいいじゃない!』という意見とともに、 効能を自分自身で試したところ───彼は風呂に浸かりながら安眠していた。 危うく天に召されるところだ。 当然俺は『レタスにまみれて死ぬなら本望よーぅ!』とか言う馬鹿の顎を打ち抜き、 実力行使で黙らせたわけだが。 悠介 「ルナ、見なかったか?」 春菜 「死神さん?ああ、また畑じゃない?」 悠介 「……頑張るなぁ」 少し呆れる。 なんだって死神が大根畑の守護神を全力で努めるかねぇ。 セレス「ルナなら屋根に登って何か険しい顔してましたけど」 悠介 「屋根?なんでまた」 セレス「さあ……」 悠介 「まあいいか、ありがと」 セレス「いえいえ、どうしいたしまして」 いつの間にか居たセレスに挨拶を残して廊下を歩く。 ……さて、どうしようか。 このまま寝てしまうのもアリだが、髪を乾かさないと風邪引くしなぁ。 ………………どうしようか。 悠介 「まずは、乾かさないと始まらないよな」 うん、と頷いて自室へ戻る。 部屋の中で髪を乾かすと、俺は布団に倒れ込んだ。 ……眠気はある。 ていうか布団に寝転がった時点でジワジワと溢れてきた。 ───うん、寝てしまおうか。 悠介 「おやすみ───」 電気を消して、寝に入った。 さーて、明日はどんな風が吹く〜ってか。 …………。 ドガァンッ! 悠介 「───!」 衝撃で目覚めた。 肉体にではない、家自体が揺れる衝撃。 見れば、部屋の中にあるものが揺れていた。 俺は急いで部屋を出て、廊下を駆けて外に出た。 ここにきて、また嫌な予感が溢れてきたからだ。 ───そしてその予感は的中することになる。 何かに導かれるように神社へと駆け上がり、俺はその場で人影を見た。 その影が向き直り、声を発する。 声  「目が覚めたか、悠介」 聞き慣れない声。 だけど、全神経がその声に恐怖した。 悠介 「だ……誰だ!」 声の質で男だということは解った。 男  「名を語るのは後にしようか。その方が盛り上がる」 悠介 「───!」 男  「いい月夜だ。こんな日は血が騒ぐ。そうは思わないか?」 悠介 「訳解らないこと言ってんじゃねぇ!誰だって訊いてるんだよ!」 男  「───そう怯えるな。……と、いうのも無理な話か。     まあいい、どうせもう役者も揃う頃合だ」 悠介 「なに……?」 ルナ 「悠介!」 悠介 「え、ル、ルナ?」 ルナ 「離れて悠介!」 悠介 「なっ……ちょっ、ルナ!?」 ルナが俺を抱えて、男との距離をとる。 悠介 「ルナ、あいつを知ってるのか?」 ルナ 「知らないけど……あいつ、死の匂いしかしない……!     人をいっぱい殺してる人間からしか匂わない匂い……!」 悠介 「人を……!?」 男  「ルナ=フラットゼファーか。人間を助ける死神とは、くだらない存在だな」 ルナ 「うるさいっ!」 ルナが敵意剥き出しで叫ぶ。 それは怒りにも似た明らかな拒絶の反応だった。 彰利 「迂闊に近づくなよ悠介。あいつ、家系の人間だぞ」 悠介 「彰利……?」 彰利 「大方、月操力使って殺人に目覚めちまった廃人だろ。     いつ見てもムカツク顔してやがる」 男  「お言葉だな、弦月。俺は俺の意思で殺してる。     廃人なんて俗称は身に合わないな、訂正しろ」 彰利 「自己中心系のイカレ馬鹿、の方がよかったか?喜兵衛」 男  「───キヘイ?なんだそれは」 目付きが変わる。 月明かりに照らされた顔は、形相とも呼べるほどに人間離れしていた。 春菜 「……家系の、それもドス黒い生き方をしてきたって目だね」 悠介 「姉さん……」 男  「当たり前だ。子供の頃に人殺しをした男がまともな生き方をすると思うか?」 春菜 「───っ……!     まさかとは思うけど、最近ここらへんで殺人事件を起こしているのも……!」 男  「……そう、俺だ。     子供の頃から続けていることに気付かないのだから、     警察とやらも案外不甲斐無いものだ」 くくっ、と男は笑う。 春菜 「どうして!?どうして家系の人ばかりを狙ったの!?」 悠介 「姉さん……?」 なにか、姉さんの声に異様な怒気を感じた。 男  「───ああ、お前は更待のところの娘だったな。     お前の家のやつらは本当にくだらないやつらだったよ。     ありがとうと感謝されたいくらいだな。     試験不合格程度で絶縁するような家族を殺してやったんだから」 ───な、に? いま、なんて言った、こいつ……。 春菜 「───!」 ガォオオンッ! 姉さんが持っていたほうきが唸った。 今まで聞いたこともない音を立てて、その光は放たれた。 男  「───ふん」 パキィインッ! 春菜 「なっ───!」 だが、男に届く前に妙な壁に阻まれ、その光は散った。 男  「いい具合だ。いままでにあんな光は見たことがない。     いままでは加減していたということか」 春菜 「……っ……くぅうっ……!!」 姉さんは悔しそうに涙を流した。 ───家族を殺された。 それも、あんな素性も知れないヤツに。 男  「家系のやつらは死ぬべきだ。     どいつもこいつも力って枷を持っているくせに平和そうなツラしやがって。     だから俺が裁くのさ。この不公平でしかない家系の枝を、俺が折る」 悠介 「───な……に言ってやがるっ!てめぇ自分がなにしたのか解ってんのか!?」 男  「……解ってるさ、人殺しだ。だからなんだ?     こんなに人が溢れるように存在する世界の中で、     その中の数人が死んだからそれがどうしたという。     幸福を噛み締めているやつらなど死に、     代わりに地獄を見た者がその場に立てばいい」 悠介 「家族の死ぬ瞬間も見たことないヤツが何言ってる!」 男  「ああ、そうだな。俺は見たことがない。     代わりにお前が見ているからな、悠介」 悠介 「え───?」 男  「そこまで忘れたか。いいだろう、思い出させてやる」 悠介 「な、なに、を───」 男  「お前は十六夜の息子なんかじゃない。     どこの家系の息子かもわからない、ただのガキだ」 悠介 「───!───……ッ」 身体がガクガクと震える。 自分が、何を考えていいのか、すら、わからなくて─── 彰利 「たわけ!!訳の解らねぇこと口走ってんじゃねぇザマス!」 男  「訳の解らないこと?     それを口走ってお前らを騙していたのはそいつの方だよ。……なぁ?悠介」 彰利 「あ〜ん?」 男  「今言った通りだ。そいつは十六夜のクズどもの間に生まれた子供じゃない。     素性が解らないそいつは都合良くクズどもに拾われ、     憂さ晴らしや金ズルにされてただけのオモチャさ」 春奈 「どういう───こと……!?」 男  「その前に、お前の希望通りに名乗ってやる。俺は逝屠。十六夜逝屠、だ」 彰利 「へー」 春奈 「十六夜って───」 ルナ 「まさか!」 逝屠 「そのまさかさ。俺は小さな頃から利口でね。     あのクズどもがどんなことを考えているのか吐き気がするほどに解っていた。     そこで、逃げ出してやったのさ。やつらの慌てっぷりったらなかったぜ?     金ズルに使おうとしていた子供に逃げられるんだからな。     だが、俺だって馬鹿じゃない。     俺は自分が逃げるためにそこらへんのガキを使ったのさ。     迷子の迷子の、かわいそうな悠介ちゃんを、な」 彰利 「………」 悠介 「馬鹿な……」 逝屠 「いい加減、偽るのは止めたらどうだ?お前が月鳴力だと思っていたのは全て、     そこの死神から頂いた創造の理力で見せかけていたものだったんだからな。     おかしいとは思わなかったか?     他の奴は何かを取り入れることで力の消費を補っていた。     月操力を消費することによって起こる眩暈から保身するために。     だが、お前はどうだった?     創造理力を使った時と月鳴力を使った時の代償は全てが疲労だっただろう。     そして、モノで補おうとはせず、眠るだけだった。     弦月彰利はレタス、更待春奈は梨、と、その好物で補うという行為。     お前は一度でもしたか?どうだ?」 悠介 「………」 逝屠 「答えは簡単だ。お前は一度も月鳴力を成功させたことがなかったのさ。     月操力だと思っていたものは全て幻想だった。     そして、その『悠介』という名前も、俺が適当に植え込んだだけの名前さ。     クズの親父どもの反応は見ていて笑えたよ。     金ズルの代用品が出来た、なんて大口開けて笑ってるんだからな」 悠介 「……!……!」 俺は……じゃあ、俺は一体───誰だっていうんだよ───! やめろ!もう何も言うな! やめろ───やめろやめろやめろやめろやめろ───やめてくれ……ッッ!! 逝屠 「さて、親愛なる家系の諸君?俺と、そこのオモチャさん。どっちをとる?」 彰利 「───」 彰利……? 彰利 「悪いけど、オモチャには興味がないんでね」 悠介 「───!」 逝屠 「……くくっ、結構。で?麗しの春奈先輩は?」 春奈 「わたしもオモチャになんか興味ないし」 悠介 「…あ……あ……」 逝屠 「最後に、そこの死神さんは?」 ルナ 「オモチャに興味はないわ」 悠介 「ルナ……」 ───目の前が真っ白になった。 これが本当の孤独だと、今実感した。 大切だったものが離れていってしまう、孤独という結末。 それを感じている。 ……そして、そこにはなにが残る───? そんなことを自分に尋ねてみた。 ……当然、答えなんて───   出てるでしょ?悠介─── 悠介 「え───?」 逝屠 「……なんの、冗談だ」 気づけば3人が俺の周りに立っていた。 彰利 「冗談〜?そっちこそつまんねぇギャグかましてんじゃねぇっつの。     俺はオモチャにゃ興味はない。     だがしかし、最愛の悠介はいつでもどこでも愛しているのさ」 悠介 「彰利……」 春奈 「そういうこと。大体、オモチャってどれのことかなぁ。     ここにオモチャなんてないけどね〜?」 悠介 「せんぱ……姉さん……」 ルナ 「そうそう、波動娘もたまにはいいこと言うじゃない。     それと勘違いしてるようだから言っておくけど、     わたしは悠介が誰か、とかどの家系か、なんて関係ない。     わたしは、悠介が悠介ならそれでいいんだから」 悠介 「ルナ……」 彰利 「そゆこと。まったく、そんな性格だから友達も出来ないんだぜ?     あ〜あやだやだ、ネクラなぼっちゃんはこれだから」 逝屠 「……後悔、することになる」 彰利 「後悔なら腐るほどした。     俺はな、お前が経験したどんな体験よりもヘヴィーな体験してきたんだ。     それが今更、殺人狂の家系の馬鹿に会ったところでビビるかよ、馬〜鹿」 逝屠 「……ああ、そうか。だったら……───みんな死んじまえ」 彰利 「来るぞ悠介!」 悠介 「───ああっ!」 勢いよく立ちあがった。 自分の意思で、しっかりと前を見て。 今こそ───過去と、決着を着ける時だ! 逝屠 「忌々しい!まずはてめぇからだぁ!この人形野郎がぁっ!」 悠介 「!!」 逝屠が俺を凝視する。 途端、その場に電気の渦が出来る。 悠介 「くぅっ───う、うぁああああああああああっ!!」 ルナ 「悠介っ!」 悠介 「ば───来るな!」 ルナ 「で、でもっ!」 悠介 「伊達に……人形って呼ばれるほど……真似てたわけじゃあ───ないっ!!」 バチィッ!! 逝屠 「!───……チッ、受け流しやがった……。     どこにそんな力が残ってんだか。     呆れるねまったく。……面倒かけんなよ人形ォ!」 悠介 「電流を弾く避雷針が出ます!」 逝屠 「───甘いんだよ馬鹿がっ!」 悠介 「え───!?」 彰利 「!悠介!退魔効果だ!避けろ!」 悠介 「くあっ───」 逝屠 「死ね!死んじまえぇっ!」 春奈 「甘いのはどっちよ!アンリミテッドストリーム!」 ドンッ! バガアアッ! 逝屠 「……ッんで邪魔しやがんだよ……ああっ!?」 姉さんが撃った光砲が逝屠の退けの力を吹き飛ばした。 それを見て、逝屠は激昂しているようだった。 逝屠 「つまらねぇ……つまらねぇくだらねぇやってらんねぇ……!     邪魔くせぇなぁ!鬱陶しいなぁ!目障りなんだよてめぇ!」 咆哮。 次の瞬間、空が輝いたような気がした。 悠介 「姉さんっ!!」 春奈 「え!?」 ガカッ───ドガァアアアアアアアアアアン!! 春奈 「ぁああああああああああああっ!!!!」 雲を引き裂いて轟いた雷が姉さんを襲った。 悠介 「姉さん!」 ルナ 「悠介!波動娘はわたしに任せて!悠介はあの馬鹿の方を!」 悠介 「───くっ……た、頼む……!」 ルナの怒りにも似た表情に、頷くしかなかった。 彰利 「ムカツクところは大昔から未来にかけて変わってねぇな……!     まったくハラが立ちますわカスが!!」 逝屠 「……なんでだ……?」 彰利 「あ〜ん!?なんじゃい!!」 逝屠 「なんで邪魔するんだ弦月のガキ……!     お前は一番、俺に近いと思ったのに……!」 彰利 「……冗談じゃない。そんなものは単なるお前の幻想だよ。     俺はもう二度と自分の意思で人を殺そうだなんて思わないし、     殺人狂ってわけでもない。お前なんかと一緒にするな」 逝屠 「くそう、くそうくそうくそうくそう!     どいつもこいつも説教ばかりたれやがって!     むかつくんだよ!俺の邪魔ばっかりしやがって!」 彰利 「邪魔だ……?寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ!     邪魔してるのはお前の方だろうが!アホかお前!ていうかアホだ!     自分を正当化して自分本意に話すことしか出来ないお前なんか、     俺達の景色の中には要らねぇんだよ!消えろゴミ野郎!     人の幸せばっか蝕みやがって!     てめぇが居なけりゃ楓巫女があんなに苦労するこたぁなかったんだ!     消えろ!今すぐてめぇが消えやがれ!!」 逝屠 「な───っ、あ……!?」 彰利が手を輝かせて突っ込む。 その手がゼノとの戦いの時のように剣状になり、ヒィン、と音を立てた。 ───が。 逝屠 「……もう一度言ってみろ」 彰利のシャイニングブレードは空中で静止し、奴に届くことはなかった。 彰利 「な、にぃっ!?」 逝屠 「もう一度言ってみろてめぇっ!」 彰利 「おわっ!?」 ドンッ! 大きな音とともに彰利が吹き飛ばされる。 その光の正体。 それは─── 彰利 「電磁場か!」 逝屠は自分の周りに強力な電磁バリアを張っていた。 家系の力は反発し合うのか、 なんでも切ると云われた月切力をもってしても、切ることは叶わなかった。 彰利 「ッチィ……!どうしたもんかなあいつ……!」 逝屠 「解放せよ汝……」 悠介 「ッ!?」 彰利 「げっ!?」 逝屠の言葉に、俺と彰利が目を見張る。 あの言葉って───月操力の解放の呪言!? 彰利 「たたむぞ悠介!」 悠介 「言われなくてもそうする!」 逝屠 「───たとえその全てを否定することとなろうとも」 彰利 「だぁあっ!」 ヒィンッ! バヂィッ! 彰利 「くっ!邪魔だよこのバリア!解けこの野郎!」 悠介 「逝屠が発しているバリアの内側に麻痺毒が出ます!」 イメージを弾かせた途端、逝屠の姿が毒霧で見えなくなる。 声  「たとえ、その目に写る愛しき者を否定するとしても……」 彰利 「くそっ!バリアごと破壊してやる!     アルファレイド・カタストロファーッ!!」 ゴォアッ───ゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!! 聴覚を劈く音。 全ての景色が光で覆われ、瞼を閉じても目映い光の中、俺はエリクサーを創造した。 やがて景色が色を取り戻した時点で彰利に放る。 彰利 「がっ……はぁッ……サン、キュ……!」 それを飲み干し、彰利は険しい顔で前を見た。 ───まだ終わってない。 直感的にそう感じる。 自分の中の家系の血が騒ぐ。 そんな中─── 声  「我は、その全てをも否定する───」 その声は、聞こえた。 彰利 「んな馬鹿な!唱えられるかよあの状態で!」 やがて煙を裂いて、奴が現れた。 逝屠 「月の家系の力は日々、進化する。     お前らが限界がどうとか思うのは勝手だが、     俺はそんなもんじゃあ満足出来なかった。その結果が、この能力の開花さ」 煙が晴れ、逝屠の姿が現れる。 その体には薄い膜のようなものが張られていて、毒霧も彰利の力も完全に遮断していた。 逝屠 「退けの印の派生さ。俺に害を及ぼす月操力など、全て遮断出来る」 くく、とヤツが笑う。 逝屠 「どうした?かかってきたらどうだ?」 嘲笑い、散歩でもするかのように歩いてくる。 悠介 「くそっ……どうするよ!」 彰利 「ああ、俺に考えがなくもないけど」 悠介 「あるならさっさとやれって!」 彰利 「いやぁ、だってすぐ終わっちゃいそうだし、     せっかく調子に乗ってんだから少しくらいは、ねぇ?」 悠介 「……お前なぁ」 逝屠 「ほら、どうした。撃ってこいって言ってるんだ」 彰利 「どんな攻撃でもオッケー?」 逝屠 「答える必要はないな。そんな価値すらない。     お前らはここで死ぬんだからな」 彰利 「あらそう。だったらこっちも行かせてもらいやしょう。     ルナっちー、大鎌貸して」 ……どうでもいいが、 どうしてこう緊迫した雰囲気をブチ壊すのが上手いかね、こいつは。 何はともあれルナが投げた鎌を受け取り、彰利が構える。 彰利 「フフフ、これも防御出来るかな?」 逝屠 「……フン、やってみろ」 彰利 「ほえ面かくんじゃおまへんよー!?」 彰利が奇声を上げて襲いかかる。 俺の中で緊迫感はカケラほどしか残ってなかった。 ガキィン! 彰利 「ややっ!?」 逝屠 「無駄だ。あの死神には家系の魂も宿っている。     主の力を吸収して成長し、意志を持つ大鎌にも魂が宿る。     結論を出すならば吸収した魂は鎌に宿るのだから、     その鎌で俺を攻撃するのは愚の極みだ」 彰利 「あらら、大いに語られちゃったよアタイ……」 逝屠 「絶望的だな。もはや一片として、勝ち目という要素はない」 彰利 「それはどうかなっ!?月空力ッ!」 彰利の目が変異すると、逝屠の周りに妙な歪みが出来る。 彰利 「届かないなら時間を飛ばしまくってミイラにしてやらぁっ!」 逝屠 「───無駄だな」 彰利 「……あらぁっ!?何故に!?」 逝屠 「俺に月操力は通用しない。この膜は月操力自体を遮断する。     たとえ時間に作用する能力といえど、それが月操力なら無駄だ」 彰利 「こ、このガキャーーーッ!」 彰利が独眼鉄の真似をしながら走って行った。 どうしてこう緊張感がないのか。 逝屠 「……止まって見える。     殺意と死線の中に身を置きながら育った俺に言わせれば、     殺す気で撃たない攻撃など豆鉄砲にも劣る」 パンッ! 彰利 「うおっ!?受け止めますか!?」 逝屠 「受けてみろ。これが真の月鳴の裁きだ」 ガァッ!! 彰利 「ガッ───!?グァアアアアアアアッ!!」 悠介 「彰利っ!?」 一瞬の瞬き。 それなのに、彰利は一発で倒れた。 逝屠 「お前が描くイメージとは比較するだけ無駄だ。本質自体が違うのだからな。     家系が相手ならば負ける要素など皆無だ。     足掻くな、もがくな、大人しく廃棄されろ」 唾を吐いて、逝屠は歩み寄ってくる。 悠介 「───……!!」 こいつが近づくだけで、どうしてこんなに身体が震える……!? 身体が、言うことを聞いてくれねぇっ……! 逝屠 「どうやら状況は忘れても、身体は憶えてるらしいな。     頼みの弦月のガキも、死神も姉も、助けてはくれない。     今治療を止めれば、確実に姉は死ぬだろうからな。     弦月は───そう簡単には死なないだろう。だが、身体は動くまい。     ───さあ、どうする?本当の両親の仇が目の前に居るんだぞ?     動かないのか?デク人形が……」 悠介 「くっ……くそっ!動け!どうして動けねぇんだよぉっ……!」 こいつは俺の家族を傷つけた! こいつは俺の両親を殺した!! こいつは姉さんの家族を殺した!!! こいつは家系を滅ぼす気だ!!!! そんなヤツを放っておいて、どうして平穏な未来なんて築けるんだよ! 動け!動きやがれ!怯えてる場合じゃねぇだろうがぁ……ッ!! 逝屠 「……フン、悔し涙か?情けないな、悠介。     守りたいものも守れないで、よく他人を幸せにするだなんて言えたものだ」 俺の目の前で、ヤツの手が振り上げられた。 その手が降りれば、俺は死ぬのだろう。 ルナが叫んだ。 なんて言ったのかは聞こえなかった。 なんて、馬鹿な。 目の前に『死』があるというのに、俺の身体はそれから逃げようとはしてくれない。 何を考えてるんだ俺の身体は。 まるで自殺じゃないか。 死ぬと解っていてそれから逃げないなど─── それこそ、愚行意外のなにものでもないじゃないか───。 ───ブンッ! 手が、降ろされた。 それで、終わり。 他人の人生を真似ていた人形の人生は、それで終わった。 Next Menu back