───後日(ごじつ)───
───チュンチュン、チ、チチチ…… 悠介 「ん……んー……!」 朝。 小鳥の囀りを耳に、俺の意識はゆっくりと覚醒して ゼノ 「小僧、朝だ」 悠介 「ぎゃああああああああああああああああああああっ!!!!」 ゼノ 「近所迷惑だ。静寂を持って目覚めよ。……人間とは皆がこうなのか?」 悠介 「目を覚ましていきなりお前が居たら誰でも叫ぶわっ!     だいたいお前が『近所迷惑』とか言うの全然似合わねぇ!」 ゼノ 「……ふむ、一理ある。だが弦月彰利は少々違っていたが。     ヤツは我と目が合った刹那、『夜這いかけるたぁいい度胸だ!』と叫んだが」 悠介 「………」 どこまでも我を貫く馬鹿だ……。 ゼノ 「ときに小僧。ここらに美味なる魂は無いか?」 悠介 「あるかっ!」 ゼノ 「怒りやすいな。サーモンを食らえ、頭から丸ごとな」 悠介 「ザンギエフ!?」 今、彼は赤きサイクロン!? 悠介 「って、どこで得た!そんな知識!」 ゼノ 「敵に教えられるのは癪なのだがな。     だがそれをも力とするならば、吸収しないわけにもゆくまい」 敵って───彰利か……! あの馬鹿……! ゼノ 「こうすることによって、相手が怯むと言われたが……なるほど、確かにな」 閉じ目のままで笑みを浮かべる死神さん。 騙されてる……。 めっちゃ騙されてるよアンタ……。 突然、こいつが哀れに見えてきたのはどうしてだろうなぁ……。 遊ばれていることにも気付かないなんて泣けてくるよ……。 ゼノ 「しかしだな、小僧。我ら死神は何かを糧にせねばこの地上には存在出来ぬ。     魂も陰気も無いというのに我にどうしろというのだ」 悠介 「…………」 しばし考える。 魂なんてものを与えるのは冗談じゃない。 陰気は───まあ、主に俺から出るだろうが、俺だってそうそう鬱るわけにもいかない。 なら─── 悠介 「ひとまず人間の朝食食ってみろ。案外糧の代用が見つかるかもしれないぞ」 俺は立ち上がって台所へ向かうために部屋を出た。 ゼノ 「……そうは思わんがな」 言いながらも渋々と後から来るゼノには、昨日までの威圧感などはなかった。 悠介 「それでは、いただきます」 一同 「いただきます」 手を合わせてからの朝食。 みんなが思い思いにおかずとご飯を口に運ぶ。 ───あれからのことだが。 姉さんにはあの出来事がショックすぎたため、ルナの提案で記憶を封印してしまった。 『家族が死んだ』という記憶だけを奥底に追いやり、姉さんは今まで通り笑っている。 ……心が痛まないと言ったら、それは嘘でしかない。 だけど……せめて、もう少し時間が経ってからゆっくりと気付かせてやりたかった。 …………。 彰利 「悠介、箸が止まってるぞー」 悠介 「え?あ、ああ……」 気付いたように箸を動かす。 だめだな、これで俺が暗くなってちゃ変わらないじゃないか。 ゼノ 「……小僧、なんだこれは」 悠介 「───」 忘れてました、こいつのこと。 悠介 「米くらい知ってるだろ?」 ゼノ 「む……ならばこれはなんだ」 悠介 「大根おろしだ」 ゼノ 「む……?これは、どう食せというのだ」 悠介 「…………醤油でもかけて食べてみろ」 ゼノ 「醤油?醤油とはなんだ」 彰利 「ホレ、これだ」 彰利が満面の笑みでエバラ焼肉のたれ(黄金の味)を渡す。 ゼノ 「……焼肉のたれ、と書いてあるが」 彰利 「馬鹿だなぁ、これを略した名前が醤油なんだよ」 ゼノ 「くっ───どいつもこいつも略しおって……!」 ボシュンとキャップを外すゼノ。 悠介 「待て待て待て!それは醤油じゃない!醤油はこれだ!」 ゼノ 「なっ───ぬぅう貴様ァアッ!!」 彰利 「馬鹿野郎!戦いとは常であってこそだろう!ならばここは既に戦場!     一瞬の油断が命取りになるのだ!そんなことも悟れなかったのか!」 ゼノ 「───!ぬう……ど、道理……!」 ああ、言いくるめられてる……。 異様な光景だ……。 ゼノ 「……これを、かければいいのだな?」 悠介 「ああ。それは間違い無く醤油だから」 ゼノ 「……ふむ」 ちー……。 悠介 「ああ、そんなもんでいい。入れ過ぎると不味いぞ」 ゼノ 「ぬ……」 悠介 「あとは醤油がかかったところを───いいや、そのまま食べてみろ」 ゼノ 「貴様!我に指図するか!」 悠介 「朝食くらい黙って食え!」 ゼノ 「ぬぅうう……!」 乱暴に大根おろし醤油を掻っ込むゼノ。 ───途端! ゼノ 「───!な───こ、これは───!?」 ゼノが目を見開いた。 ゼノ 「なんという愚かな───!」 何故かゼノの肩がぶるぶると震え出す。 うわ……不味かったみたいだ……。 ゼノ 「このような美味なものを知らずに地上に点在していたのか我は───!」 ドシャア。 若葉 「おにいさまっ!?」 悠介 「…………」 ルナといいゼノといい……どうしてこうヘンなヤツばっかなんだ死神ってのは……。 ルナ 「さーてー♪んふふ、ごはんも食べたことだし、お楽しみの大根おろし醤油を〜」 バッ!ばしゃっ!モシャモシャッ! ルナ 「───え?」 ゼノ 「……これだ。この味だ!魂の味にも勝る、なんという糧!味に目覚めたぞ!」 ルナ 「な……なにさらしとんじゃいオラァーッ!!」 どがしゃーんっ! ああっ!?ルナがキレた! ばしゃっ! セレス「───」 あ、暴れた拍子に、味噌汁がセレスに…… 悠介 「は、はは……ヤな予感……」 セレス「表へ出ろ汝ら……!その場で屠ってくれる……!」 あぁああやっぱりーっ!! ゼノ 「吸血鬼ごときが完全体なる我に挑むか」 セレス「黙れ。御託を並べる暇があるのなら赴くのだな」 うわぁあああ……イヤな三角関係だぁ……。 ルナ 「わっ……わたしの大根おろしィイイイッ!!」 ゼノ 「フン、フレイアの記憶を継いだのだから、     その記憶が完全になれば先の殺人鬼も相手ではなかっただろう、ゼファーよ」 ルナ 「ほっといてよ、好きで封印してるんだから」 ゼノ 「……なに?つまらんことをする。今貴様が激昂したところで我には勝てぬ。     死神として目覚めよ。我を殺した時のことを思い出せ」 ゼノがルナの額に手を翳す。 ルナ 「───!」 慌てて離れようとしたが、ゼノが目を見開くと、その動きが止まった。 ルナ 「───!?な、動かな───!」 ゼノ 「目を覚ませ。でなければ、我が誇りを取り戻すことなど夢想に終わる」 ルナ 「や、やめて……!や、め……やめなさい……!」 悠介 「……!?」 なんだ? いま、ルナの声が変わったような─── セレス「───」 ゼノ 「しばし待て。あと僅かだ」 悠介 「おいっ、ちょっと!」 ゼノ 「これはこいつのためでもある。黙っていろ」 ルナ 「くぅっ───!?───」 悠介 「───!!」 ルナの目付きが変異した。 途端、その場に言いようのない空気が溢れる。 木葉 「───死と、生……?」 木葉がそんな声を漏らした。 たしかにこの重圧した空気にはその例えが合う。 ルナ 「……ゼノ。よくわたしの前に姿を見せられたものね……!」 ゼノ 「フン、ようやくお目覚めかフレイアよ」 ルナ 「でも───どういうこと?あなたは確かにわたしが殺した筈。     どうして生きているの───?」 ゼノ 「簡単だ。あの人間の身体を媒介に、存在を繋ぎ止めただけのこと。     いわば、この身体こそがあの男───望月恭介の肉体そのものだ」 ルナ 「───!」 ゼノ 「戦おうというのであれば止めておけ。今の実力ならばどちらかが消滅する。     意識は違えど、ルナ=フラットゼファーには大切なものがあるだろう」 ルナ 「───へえ、あなたが他人の心配するなんて、どういう風の吹き回し?」 ゼノ 「ひとつの余興だ。我も感情というものを手に入れたのでな」 ルナ 「───……」 ゼノ 「さて、吸血鬼よ。貴様の名を聞いておこうか。     我が名はゼノ=グランスルェイヴ。     『狩人(ハンター)』と呼ばれる死神がひとりぞ」 セレス「エドガー=スティルライツァー。貴様があのゼノ=グランスルェイヴか。     名前くらいは知っている。楽しめそうだ」 楽しんだらこの家、消えてしまうんだろうなぁ。 ルナ 「フレイア=フラットゼファー。感情を持つ異端死神と云われいてた存在よ。     ……ゼノ、あなたが恭介にしたことをわたしは忘れない。     やると言うのなら全力をもって消滅に導いてあげるわ」 ゼノ 「フン、さすがは『処刑者(イレイザー)』のNo.1……大した殺気だ。     だが、我とていつまでも同じ地位に立っているわけではない。     一瞬にして貴様に消された頃の我と同位とは思わぬことだ」 三人(?)から夥しいほどの殺気が溢れる。 ああもう……喧嘩なら他所でやってくれぇ……! ルナ 「───」 悠介 「うん?」 ルナ 「……傍に居るだけで安心出来る魂を持っているのね……。     ふふ、娘が好きになるはずね……」 クスリと笑うと、ルナ───いや、フレイアは壁抜けをして外に出た。 セレス「楽しみだ。このような辺境で、まさかこれほどの相手と相見えるとは」 フッと笑むと、セレス───いや、エドガーは霧化して外に出た。 ゼノ 「こういうものを待っていた。今こそ全力を出し、死力を尽くそう……」 ククッと笑うと、ゼノ───いや、狩人は壁を抜けて外に出た。 彰利 「フフフ、こんな催し物に出ねぇ手はねぇぜ……?」 ウヒョォオ!と笑うと、彰利───いや、ジャック彰利は窓ガラスを破壊して外に出た。 バキィッ! 彰利 「グオオッ!?」 ───その際、首を思いきり痛めたため、いきなりリタイア。 ていうか何処から出したんだ、あの南瓜。 水穂 「あ、あの……止めないんですか?」 悠介 「止めようとしてみろ。確実に死ぬぞ」 水穂 「あうぅう……」 春菜 「………」 若葉 「おにいさま、いただいてしまいましょう」 木葉 「賛成です。付き合っていたら命がいくつあっても足りないでしょう」 悠介 「……だな」 間も無く聞こえる炸裂音を耳に、俺達は食事を続けることにした。 君子危うきに寄らず、って言葉を作った人は最強だ。 そんなこんなで、朝食の時間は過ぎていった。 ───さて。 彰利 「うっしゃあそれでは参りましょう!いざ!雪子さんのガッコへーっ!     ン〜フフフ、文化が!祭りが!催し物が俺を待っている!」 悠介 「客になるってことはなかったからな」 彰利 「ウィ?あるでしょ。俺と甘味処に行ったじゃない」 悠介 「完全に客として、って意味だよ。他校に行くこと自体が初めてだ」 彰利 「ああ、そりゃ確かに」 ゼノ 「おい小僧」 彰利 「なんじゃいコラ!せっかくアタイが悠介と至福の時を築いてるのに!」 ゼノ 「何処へ行く気だ」 彰利 「文化祭だ」 ゼノ 「文化祭……?」 彰利 「学び舎で生徒が力を合わせて発動させる祭りのことだ。     今からそこへ赴くってわけだ」 ゼノ 「むう……」 彰利 「来るのか?」 ゼノ 「興味が絶えぬ。供に赴くとしよう」 彰利 「………」 ゼスチャーで俺に『こいつ、ホントにゼノなのか?』と訊く彰利。 こいつのゼスチャーが解る俺も結構異常なのかもしれん。 俺は思いっきり頷いてやると、そのまま先を急いだ。 彰利 「ああ、来るなら浮きながら来るな。     人間界じゃあ地に足を着いてなけりゃバケモノ扱いだぞ」 ゼノ 「───なるほど」 ……頷いておいてなんだけど、ホントにあのゼノかと疑いたくなる。 彰利 「そういやルナっちとかはどうした?黙って見送るとは思えないが」 悠介 「先に行ってるってさ」 彰利 「うおう」 春菜 「ところでさ」 悠介 「おわぁっ!?い、居たのか姉さん……!」 春菜 「うん、まあね。ねえホモさん?ちょっと悠介くん借りるね」 彰利 「レンタル料金は1レタスだ」 悠介 「俺のレンタル価値ってレタスかよ!」 春菜 「うん、じゃあ借りてくね。───悠介くん、こっち来て」 悠介 「え?あ、ああ───」 俺は手を引かれたまま、彰利達とは結構離れた物陰まで連れてこられた。 悠介 「それで、どしたの突然……」 春菜 「ん───うん、悠介くんにだけは話しておこうかと思って」 悠介 「うん?」 春菜 「───わたし、家族を殺されたこと、憶えてるから……」 悠介 「え───?」 ……まさか。 そんなわけないよな。 幻聴だ。 春菜 「……フラットさんに連れられて黄泉まで行って、     シェイドって死神にも会ったけどさ。でも───それだけ。     記憶を消していいかどうかって選択を促された時、     わたしは消さないでほしいって言ったの……言っちゃった……」 悠介 「そんな───なんで!」 春菜 「うん、悠介くんならそう言い返してくると思った。     でも……じゃあ訊くけど、家族全員が殺されたんだよ?     わたしが忘れちゃったら誰が悲しんであげたらいいの?     確かにお葬式あげるお金なんてないよ?縁だって切られた。     だけど───それでもわたしにとっては掛け替えの無い家族なんだよ?」 悠介 「それは……」 春菜 「大丈夫。吹っ切れはしないけど、どうしてかな───それほど辛くないんだ。     多分……こっちにも家族が居るからなんだと思うから。     だから、感謝したかったの。迎えてくれたあなた達に」 悠介 「……その、なんて言ったらいいのか……」 春菜 「大丈夫って言ったでしょ?普段通りにしてくれたら、それだけで十分だよ。     一応さ、お葬式はエロハゲさんがやってくれるそうだから。だけどね……」 悠介 「だけど?」 春菜 「事実上、本当の意味で家族が消えちゃったからさ。     わたしはもう、更待には戻れないんだ……。だから」 悠介 「ストップ」 春菜 「───悠介くん?」 辛そうに、そして気まずそうに顔を伏せながら言う姉さんを制止する。 姉さんは顔を上げて俺を見る。 その顔は今にも泣きそうな子供の顔をしていた。 悠介 「確認するまでもないよ、姉さんは俺達の家族だ。     それは多分、死ぬまで変わらないから。     だから胸張って帰って来ていいよ。姉さんの家はここなんだから」 春菜 「っ……ゆ───」 涙が溢れた。 事情を察してくれたのが嬉しいのか、迎えてくれたのが嬉しいのか。 その涙にどんな気持ちが含まれているのかを、きっと俺は知らない。 だけど分かち合えることは出来ると思う。 一緒に悲しんだり楽しんだり、助け合えると思う。 友達とも言えるかもしれないけど───ホラ、それって家族じゃないか。 同じ時を長い時間かけて一緒に歩いてさ、その中で気兼ね無く話せてさ。 ───どんな悲しいことでも、きっといつか微笑みながら話せる時が来るよ。 だからそれまで─── 彰利 「あ」 悠介 「え?」 彰利 「ゲェーッ!ゆゆゆ悠介が先輩殿を泣かせてるーっ!」 悠介 「うわ馬鹿っ!違うっ!これはっ!」 ズシャア。 悠介 「殺気!?」 若葉 「───おにいさま……」 木葉 「………」 悠介 「い、いや……待てっ……!これは」 若葉 「おにいさまぁっ!」 悠介 「キャーッ!?」 若葉 「なに考えてるんですかおにいさま!     まさかあのことを話したんではないでしょうね!!     事情は女死神から聞きましたけどそれを言うとはどういう了見ですか!」 悠介 「言ってない言ってないっ!」 木葉 「お兄様───ゴー・トゥ・ヘルです」 グッバイ・ヘル・ベイベーと言いつつ、どっからかゴツイ重火器を取り出す木葉。 悠介 「シャレにならんだろそれは!ていうかどっから出した!」 彰利 「メイドイィイイイン彰利ーっ!」 悠介 「造るなーッ!!」 彰利 「なにぃ!?母さんは夜なべをしてアレを作ったんだぞ!?     闇取引でパーツ集めるのにどれだけ苦労したと思ってやがる!」 悠介 「んなこと最初っからするな!何者だよお前!」 彰利 「エセエージェント、とだけ名乗っておこうか」 悠介 「エセ!?」 木葉 「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」 悠介 「重火器向けながら念仏唱えるな!」 若葉 「可哀相なお姉さま……敵はわたしが殺ってあげますね。     ───最近たるんでやがるおにいさまには良いお灸になることでしょう」 悠介 「お前が言うかっ!?」 若葉 「料理がヘタなのはもう開き直りました。     わたしは女性にだらしないと言っているのです」 悠介 「だらしないって───     日余と会って以来、家族以外で女と話したりしてないぞ!?」 若葉 「いいんです、その日余さんの時点で違和感があったので砲撃します。木葉」 木葉 「照準、セット完了。マーキングモード、入ります」 マーキング───自動追尾型か! 悠介 「彰利バリアー!」 彰利を引き寄せ、壁にする。 その後、間も無く『マーキング完了』との機械的な声が。 彰利 「え?……いやーん!」 木葉 「……姉さん?」 若葉 「構いません、撃っちゃいなさい」 彰利 「イヤァ構ってーっ!」 ドチュゥウウウウンッ! 彰利 「ギャヤーッ!」 彰利目掛けて姉さんのホーミング・レイのようなものが噴き出す。 彰利は一目散に逃げ出したが、どうやらマーキングは成功していたらしく─── バガァアアアアアンッ! 彰利 「ギャオーッ!」 彼は爆裂した。 悠介 「悪は去った───」 若葉 「締め括らないでください」 悠介 「まーまー、ホントになんにもなかったって。     姉さんが泣いてるのも彰利のヤツが中傷したからでさ。     それを俺に擦り付けようとしてあんなことを言ったんだ」 彰利 「まま待てェーッ!てめぇ人が爆裂してるのをいいことに何口走ってンのさーッ!」 そんな彼に奈落へ落ちろとジェスチャーしてやると、彼は逃げ出した。 が、マーキングブラストを容赦無く撃たれまくった彼に逃げ道は無かドガァアアン! 彰利 「ギャアア!」 彼の叫び声をよそに、俺は先を急ぐことにした。 すると、つい、と引っ張られる感触に襲われる。 悠介 「?」 振り向けば姉さん。 俺の服を小さく摘んで引っ張ったようだ。 姉さんは薄く赤くなった目をして俯きながら、小さく『ありがとう』と言った。 俺はそんな姉さんの頭を撫でると、行こうか、と言って歩き出した。 そして数歩歩いた時点で思い出すのだ。 自分が姉さんに『頭撫で好き』だと言われたことを。 悠介  <うわ……今まさにやっちまったじゃないか……!> ち、違うぞ?俺は断じて─── 困惑する。 頭を押さえつつ、少し自分の行動に呆れを憶えた。 そんな時だ。 小さく笑い声が聞こえたのは。 悠介 「……?」 振り向くと、姉さんが笑っていた。 そして俺に『やっぱり頭撫で好きだったね』と言う。 今まさに自分で考えていたことを言われ、俺は焦った。 顔がヤケに熱く感じる。 まあ確認するまでもなく、高い確率で赤くなっているんだろう。 ああ、これが図星ってやつかぁ。 なんて冷静に分析してる場合じゃなくてだな! 悠介 「あ、あのっ……その───!」 アホか俺は! 何焦ってるんだ!? 俺は告白する前の恋に夢見る異性を演じてるわけじゃないんだぞ!? 悠介 「と、とにかくっ!さっき言ったこと……本当だからなっ」 春菜 「───うん、ありがとう」 ズシャア。 悠介 「って、また殺気!?」 若葉 「───やっぱりお灸が必要のようです……」 木葉 「ただじゃあおきまセン、覚悟してもらいマス」 悠介 「トラサルディー!?」 若葉 「マーキングブラスト発射用意!」 木葉 「セット」 若葉 「シュートヒム!」 カチッ! 悠介 「待て待て!違ッ───ギャーッ!」 ドチュウゥウウン! ゲームでよくあるような波動砲っぽい音を立てて、光は発射された。 大きくバックステップをとるが、それで間に合う筈もなく─── ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!! 彰利 「ギャアアアアアアアアアアアッ!!」 彰利が爆発した。 若葉 「───?」 若葉がきょとん、と首を傾げた。 木葉 「姉さん、マーキングがまだオカマホモです」 若葉 「はっ!」 若葉、驚愕の一瞬。 若葉 「まあいいでしょう、不死的オカマホモですし」 そしてあっさりと放置。 若葉 「さあ、おにいさま覚悟!って───ああっ!     逃げるなんて男らしくないですよおにいさまーっ!」 悠介 「逃走も戦術の内じゃわい!さらばだーっ!」 木葉 「───追います」 若葉 「木葉っ!?」 木葉 「……そういえばいつからでしたでしょうか、     姉さんがわたしを『ちゃん』付けで呼ばなくなったのは」 若葉 「そこは今訊くところじゃないでしょーっ!追いなさい!」 木葉 「了解です。イグニッション」 ドシュンッ! 悠介 「うおっ!?」 木葉 「ふははははー、お前は完全に包囲されているー」 悠介 「空中浮きながら棒読みで語る言葉か!?」 木葉 「お覚悟、お兄様」 機械音でマーキング完了を宣言される。 悠介 「わぁああ待てってばーっ!」 木葉 「標準固定……距離、方向、ともに誤差も無し───発射(フォイエル)
!!」 ドチュウゥウンッ! 悠介 「ギャーッ!!」 どがぁああああああんっ!! 木葉 「我が前に届かぬ的は無し、です」 俺、的とちゃうやん……。 薄れゆく意識の中、俺は木葉にツッコんだのであった……。 木葉 「お兄様、オチてる暇はありませんよ」 悠介 「撃ったのはお前だろうが!」 木葉 「まずは冷静になってください。     お灸が据えられたのならわたしにはもう敵意はありません」 悠介 「その前にまず言い分くらいだなぁ……」 木葉 「さあ、文化がわたし達を待っていますよ」 無視か!? 彰利 「そうそう、ちゃっちゃと行こうやー!ルナっちに席とらせてるから」 悠介 「花見じゃないって」 彰利 「ええぇ!?違うのか!?」 悠介 「解っててやってるだろ」 彰利 「当たり前だ」 はぁ、やっぱり。 ていうかさっきルナの存在訊いてきたのはお前だろうが……。 悠介 「ところで、もう元に戻ってるのか?」 彰利 「大丈夫デショ。笑いながら承諾してくれたし」 悠介 「………」 ゼノ 「それは違うな」 彰利 「おや、ゼノっち」 ゼノ 「殺されたいのか貴様。妙な呼び方をするな」 彰利 「ゼラチナマスナー?」 ゼノ 「………」 彰利 「………」 ふたりが睨み合う。 どうしてこう話の腰を折るのが上手いんだか。 ゼノ 「恐らく未だフレイアのままだろう。     久しい大地だ、そう簡単には引き下がるまい」 悠介 「……それって」 ヤバイんじゃないか? ゼノ 「なに、心配には及ばぬ。フレイアの状態であるのならば敵など存在せぬだろう」 悠介 「どうしてなんでも戦いに結びつけるんじゃあ!」 ゼノ 「我にはそれ以上の喜びなど皆無だ。ならばそうなるのもまた必然」 悠介 「───」 アカン。 こりゃアカンわ。 理屈の通じる男とちゃうわ、こいつ……。 彰利 「そいつぁいけねぇな。よし、いっちょ急ぐとすっかい!」 ゼノ 「急ぐのか。ならば我が下まで飛ぼう。この石段、人間には辛かろう」 悠介 「んー……いや、代わりに水穂を頼む」 ゼノ 「ぬ?」 悠介 「ほら、そっちに居る───そう、その子だ」 水穂 「は、はぁあ───!」 ゼノ 「そうか、貴様か。今日の我は気分がいい、掴まるがいい」 水穂 「あ、いえ、そのあの……えっと……」 ゼノ 「貴様、我が手を貸すことなど稀ぞ。     それを拒むのであればそれ相応の理由があるのだろうな……!」 水穂 「い、いやぁああああっ!」 ゼノ 「ぬぅうう!嫌だと!?貴様、それは我に対する侮辱か!     掴まれ小娘!決めたことは曲げぬ!貴様を連れてゆくぞ!」 水穂 「ひぃいっ!」 ガォオと猛るゼノ。 ああ、なんだか─── 彰利 「……なんかさぁ」 悠介 「なんか、なぁ……」 目を見合わせた俺と彰利はほぼ同時に呟いた。 『どっかの変態オヤジみたいだな……』と。 そうこう言っている内に水穂がゼノに連れ去られ、 俺と彰利は呆然としてそれを見送った。 ───その場所はとても賑やかだった。 彰利 「ハワーァアアアアッ!!」 その賑やかな場所に辿り着くなり、彰利が奇声をあげる。 彰利 「いいねぇいいねぇ寿司食いねぇ!こういう雰囲気ってば大好きよアタイ!     よっしゃあナンパだ!カワイコちゃん厳選して愛を語ってやらぁなぁーっ!」 今度は別の奇声をあげつつ、彰利が足の先でキリキリ回転しながらすっ飛んでゆく。 ……マズったかな。 女子高だということで、彼のボルテージはMAXを越えてしまったようだ。 彰利 「イヤァ助けてーッ!」 そしていきなり帰ってきた。 女生徒「その人のぞきです!捕まえてください!」 彰利 「仕方なかったんやー!出来心だったんやー!」 悠介 「来て1分も経たずに変態行為やらかしてんじゃねェーッ!!」 バガァォオオオンッ!! 彰利 「オギャーッ!!」 帰還した彼を、俺は全力で叩きのめした。 悠介 「……はい、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」 そして俺は満面の笑みで彰利を献上した。 女生徒「あ、あの……やりすぎでは」 悠介 「大丈夫大丈夫。     こいつに限ってはどれだけ殴っても殴りすぎるってことはないから」 女生徒「は、はぁ……」 悠介 「それよりさ、雪───麻野先生って何処に居るか知らないかな」 女生徒「雪ちゃんですか?」 悠介 「ゆ───」 なんつー呼ばれ方してるんだあの人は……。 女生徒「雪ちゃんなら多分、まだ喫茶店の手伝いしてると思いますね。     あ、喫茶店は二階の右の奥の教室になっています」 悠介 「ん、ありがと」 事細かに説明してくれる女生徒に軽く手をあげて、俺はその場をあとにした。 ───彰利を無視して。 彰利 「ちょっと無視はヒドイんじゃにゃーの!?あんまりだぎゃ!」 悠介 「───な?頑丈だからやりすぎても大丈夫だよ。     保証する。好きなだけ料理してやってくれ」 女生徒「……みたいですね」 彰利 「ええ!?俺が料理されるの!?じゃ、じゃあアタイ裸体盛がいい!」 悠介 「羞恥心てモンがねぇのかてめぇはーっ!!」 ドゴンッ! 彰利 「おぐぅっ!」 ドシャア。 彰利は倒れた。 悠介 「それじゃ、料理するのも捨てておくのも好きにしていいよ。     俺はそいつとは無関係ですから」 彰利 「ゲェ……ッ!散々説明してたのにいまさら他人のフリなんて……!     お、おのれーっ!恨んでやるー!そして愛してやるー!憶えててねダーリーン!」 おぞましい罵倒に耳を塞ぎながら逃走した。 どういう捨て台詞だよまったく……。 悠介 「───さてと」 それはそれとして、せっかくだから楽しまないとな。 まず何処に行こうか。 喫茶店にだけは寄っちゃならないことがよく解ったが。 声  「腕相撲一回百円でーす!やっていきませんかー!?」 ぼ〜っとしていたら、そんな声が耳に入った。 はて……腕相撲? 女子高なのに? 悠介 「……?」 何気なくそちらを見ると───うあ。 ゼノ 「………」 丁度、ゼノが何かを拾い上げているところだった。 そこに摘まれているのは紛う事無き百円玉。 おそらく誰かが落としたものだろう。 声  「あ、挑戦ですか?大丈夫ですかー?ウチのキャプテン強いですよー?」 女生徒がゼノの体格を見て言う。 普通に見れば顔立ちのいい男にしか見えないが、その実─── ゼノ 「……む?」 イマイチ状況を掴めていないらしい。 だが何を思ったのか、ゼノは女生徒に百円玉を渡してしまう。 ……わぁ、ヤバイじゃないの。 声  「はい、確かに!それじゃあキャプテン」 女生徒「……やさ男だねぇ、大丈夫なのかい?」 ゼノ 「───」 ピクリ。 悠介 「あぁああ……」 ゼノのコメカミあたりが痙攣する。 ゼノ 「面白い、それは我に対する挑戦か」 女生徒「挑戦してるのはアンタでしょうが」 ゼノ 「ぬぅ……!」 ああ、なんかゼノがどんどんとギャグキャラに変わっていってるような……。 声  「レディー───ファイッ!」 女生徒「フッ!」 ゼノ 「……?」 女生徒が力を込める。 だが、ビクともしない。 ゼノ 「娘よ、これは相手の手を倒せばいいのだな?」 声  「え?あ、はあ、そうですけど」 女生徒「───!!く、ぅうう……!」 ゼノ 「ふむ、まあこの程度か。安心しろ、全力を出すほど愚かではない」 スッ。 女生徒「あっ」 トン。 声  「あ───嘘!キャプテンがこんなあっさり───!?」 女生徒「…………っ!?」 ゼノ 「……これで終いか?ならば失礼する」 声  「あ、待ってください!     ルールですから、第一勝者にはこの文化祭のフリーパスを差挙げます。     これを見せればどの遊びも出来ますし、料理もタダですから」 ゼノ 「───ほう?」 よく解らずに頷くゼノ。 なんか見てて面白い。 女生徒「ま、待って!」 ゼノ 「なんだ、まだ何か用か」 女生徒「名前、聞かせてもらえる?」 ゼノ 「……ふむ、まあいいだろう。我が名はゼノ。ゼノ=グランスルェイヴ。     黄泉の存在にして、狩人のNo.1である死神」 ボコォッ! ゼノ 「ぞぉっほぉっ!?」 悠介 「あ、あははっ……し、失礼しましたーっ!」 俺はゼノを抱え、その場から逃走を図った。 Next Menu back