───姫様(ひめさま)───
ドサッ。 彰利 「げふぅ!!うう、腰打った……!」 悠介 「提案がある」 彰利 「うっわぁ、人の痛みをさらりと無視っちゃった」 悠介 「いちいちお前の心配してたら物事が進まないだろ」 彰利 「フッ……違ぇねぇ」 悠介 「で、だ。王子さん役がケガしてるならその娘のケガを治してしまえばいいんだ。     そうすればお前が考案してしまった美女と魔獣なんてものをやらなくて済む」 彰利 「うーわー、すげぇキッパリとした言い方」 悠介 「そうと決まれば保健室に行くぞ」 彰利 「おーう。って、ダーリン?」 悠介 「ん?」 彰利 「………」 悠介 「どした?」 彰利 「うんにゃ、やっぱいいや」 悠介 「……?」 微笑む彼から目線を移し、歩き始めた。 悠介 「………」 彰利 「………」 悠介 「……んー、保健室ってどこだ?」 彰利 「いや、俺に訊かれても」 悠介 「だよな」 ………。 悠介 「ところでさ、なんだって行く人来る人、俺達を見るんだ?」 彰利 「主に見られてるのはお前だけどな」 悠介 「……?」 …………。 悠介 「……お?あ、ここか」 彰利 「保健室、か。間違いないな。保建室じゃないな?」 悠介 「だから保健室だろ?」 彰利 「いや……まあ言葉じゃ解らんか。入ろ入ろ」 がらら…… 悠介 「……ふむ、独特の香りだな」 彰利 「まったくだ」 女の子「失礼します」 悠介 「うん?」 彰利 「オウ?」 視線を少し下げると、そこには女の子が居た。 しかも金髪。 目の色も金色。 女の子はまず、俺と彰利を見てお辞儀をした。 悠介 「え?あ」 彰利 「………」 おもわずお辞儀を返してしまう。 女の子「保健室に御用でしょうか。申し訳ございませんが先生が職員室へ行っていまして」 悠介 「あ、いや……違う」 彰利 「………」 悠介 「彰利、お前もなにか言えよっ……!」 彰利 「……メ、メイド服……」 悠介 「───ぐあ」 あまりに自然に見えたのか、俺は彼女がメイド服を着ていることに気付かなかった。 女の子「メイド服ではありません、エプロンドレスです」 彰利 「ぬおお!こだわりの瞬間!?え、ええのぅ!」 女の子「……あの、なんですかこの無礼極まりない男は」 悠介 「弦月彰利。世界が認める変態だ」 女の子「まあ……それではこれをどうぞ」 ぽん。 彰利 「ウィ?なんザマスかこの」 ボガァアアアンッ! 彰利 「───」 ドシャア。 死んだ。 女の子「ご心配には及びません、ただの黒煙弾です」 悠介 「いや、これじゃあ足りないな」 女の子「はい?」 彰利 「無駄だ。俺様の煩悩をこれしきの火力で止めようなど……!」 女の子「随分と頑丈なのですね」 悠介 「まあ……」 女の子「解りました。───アーク」 ヒィン─── 悠介 「え?」 バチィッ!! 彰利 「ウギャアオウ!」 ズシャア。 女の子「これでしばらくは動けない筈です。この間に用件を訊きましょうか。     先ほど、違うと仰られたようですが」 悠介 「ああ、えっと……キミ、何者?」 女の子「名前を訊いているのですか?」 悠介 「いや、ああ───うん、それじゃあ自己紹介してもらえるか?     俺は晦悠介だ。好きなように呼んでくれていい」 女の子「わたしは───そうですね、ノアと呼んでください」 悠介 「ノア?やっぱり外国人なのか?」 ノア 「似たようなものです。ところで、ひとつだけ質問に答えてください」 悠介 「え?ああ」 ノア 「何故、そのような格好を?」 悠介 「そのような、ってギャア!!」 ぎゃあああああああああああっ!! 姫さんのまんまだったよ俺! 気付けよ!いや普通気づくだろ!アホか俺!ていうかアホだ! 服取り戻さないと! 悠介 「ご、ごめん!すぐ戻るから!ちょっと待ってて!」 ノア 「解りました、5分程度は待ちましょう」 悠介 「すまない!」 それだけ告げると、俺は全力で走り出ドグシャアッ! 悠介 「ぐあっ!」 ───ハイヒールで滑った。 悠介 「ああもうっ!こちとら形振り構ってられないんだよ!」 片手にひとつずつハイヒールを持ち、廊下を走ドグシャア! 悠介 「いだぁっ!」 今度は姫スカートの前の部分を踏んだ。 悠介 「ぐはっ……!鼻打った……!」 鼻を庇いながら立つ。 くそ……今度はスカートにも気をつけないいとな……。 声  「あの、大丈夫ですか?」 悠介 「?」 声のした方へと振り向く。 と─── 水穂 「手、貸しましょうか?」 悠介 「みなっ───」 水穂 「え?」 名前を呼びそうになった口を慌てて抑える。 や、やばかった……! このメイクとかが完璧じゃなかったらすぐバレてたな……。 ありがとう、劇の方々……。 水穂 「……?あの、間違ってたらすいません。どこかでお会いしましたっけ……」 悠介 「!!」 再びピーンチ! これはさっさと逃げた方が良さそうだ! 俺は水穂を振り払うと、スカートを摘みながら走った。 今まさに姫に近づきつつある自分が悲しい……。 え?あ、ハイ、乾いてますよーって一言の後、服は取り戻せた。 クリーニングというよりは水で流してくれたらしい。 ドライヤーで乾かすのはどうかと思うが、あんな格好をしているよりはマシだ。 悠介 「はぁ……」 溜め息を吐いてから小走りする。 そろそろ5分くらい経ってしまう頃だ。 水穂 「あ、おにいさーん!」 悠介 「ぐあ……」 明らかに俺に向かって手を振る水穂さん。 勘弁してと泣きたかったが、バレてないだけで十分である。 十分だとも。 水穂 「って、あーっ!」 悠介 「!?」 水穂 「そう、そうですよ!おにいさんに似てたんです!」 悠介 「い、いきなりなんだ……?」 水穂 「あ、いえですね、さっきすっごい綺麗な女の人が居たんですよ。     お姫さまの格好までしてて綺麗でした。     その人の雰囲気が誰かに似てるって思ったんですけどね?おにいさんでした」 悠介 「お、俺に似てたのか?」 水穂 「はい。あ、でも失礼ですよね、女の人に似てるだなんて」 悠介 「………」 水穂 「あ、あれ!?どうして泣いてるんですか!?」 悠介 「いや、俺ってなんなンかなァって……」 ははは……綺麗ですって彰利サン……。 へへ、今日くらいは泣いてもいいだろう……? 男としてさぁ……。 悠介 「タダイマ……」 ズ〜ッと保健室のドアを開ける。 で。 ノアという娘は先ほどとまったく変わらない体制でそのまま立っていた。 ノア 「お待ちしておりました。それで、どのような御用でしょうか」 悠介 「あー、えっと……指を怪我した娘ってここに居るんだよな?」 ノア 「サクラですか?確かに居ますが」 悠介 「すぐ復帰できるようにおまじないをしようってことになってさ」 ノア 「……失礼します」 悠介 「え?うわっ」 ノア 「動かないでください。動くとかえって危ないですよ」 悠介 「あ、ああ……て、この機械……なに?吊るしてあるの?」 ノア 「いいえ、吊るしてあるわけではございません。浮いているのですよ」 悠介 「へえ、そうなんだ」 ノア 「はい。少し意識調査をするだけなので、そのままにしてください」 悠介 「って待てーっ!」 ノア 「なにか?」 悠介 「なっ……なんで浮いてんのさ!」 ノア 「そういう構造だから、としか言えませんね。それ以上は機密です」 悠介 「それと意識調査って」 ノア 「まじないで人の傷が治るとお思いでしょうか」 悠介 「やっぱりかっ!そこに転がってる馬鹿のまじないは別なんだよ!」 ノア 「マスターの指示通り、家族に見知らぬ者を近づけるわけにはまいりません。     そのための意識調査です、どうか動かないよう努めてください」 悠介 「……へ?排除する、とか言うんじゃないの?」 ノア 「……そのようなことをする意味がまず理解出来ませんが。     貴方が嘘をついているかどうかなど、顔を見れば解ります。     わたしが知りたいのはそのまじないがわたし達に通常の効果を齎すか、です」 悠介 「……?まるで自分達が普通じゃないって言葉だな」 ノア 「───はい、データを取得しました。そして───そうですね。     あなた達と似たようなものです。普通の人とは違いますから」 悠介 「な───!?」 思わず距離を取る。 目の前の娘から敵意が取れないことくらいは解っている。 だけど体が先に反応した。 ノア 「月操力、ですか。人間にも複雑なものがありますね。     あなた達になら別に話しても害はなさそうですが、     ややこしくなることは避けられないでしょう。     そのまじないを試してもらってもかまいませんか?」 彰利 「オウヨー!」 がばぁっ! 悠介 「………いつ起きた」 彰利 「このメットみたいな機械からショック受けてから2秒後」 悠介 「………」 彰利 「サテ、ソイジャア始メマスカ?」 どうしてロボチックに喋るんだ? 彰利 「その指切った娘さんは?」 ノア 「奥です。どうぞ」 彰利 「オールライトゥ!おお、居た居たって……桃色髪!?す、すげぇ……!」 ノア 「最初に言っておきますが、これは染めているわけでは」 彰利 「オーケーオーケー、そのくらい見ただけで解るザマス」 ノア 「普通、解らないと思いますが」 彰利 「さっきキミも言ってたデショ?俺ゃあ普通の人間とは違うのよ」 ノア 「………」 水穂 「あの、何をするんですか?」 彰利 「あら?居たの?」 水穂 「……居ちゃマズかったですか?」 悠介 「大丈夫、気にするな」 水穂 「はぁ……」 ノア 「───?」 水穂 「はぅ?」 ノアの視線に気付いたのか、水穂が向き直る。 ノア 「少々、失礼します」 水穂 「え?え?」 ノア 「動かないでください、危険はありません」 水穂 「う、うん……」 機械のようなメットのような物体───アークって言ったか? それが水穂の頭上に浮く。 ノア 「───……へえ」 水穂 「?」 ノア 「驚きですね。直接ではないにしろ、天界人との接触がある」 水穂 「てん、かい?」 ノア 「いえ、なんでもありませんよ。続けてください」 彰利 「オウヨ!オウヨー!」 ギシャアア! 煽られた彰利が顔を輝かせる。 悠介 「顔は光らせんでいいっ!」 彰利 「オウヨ〜?」 悠介 「そして日本語を語れ」 彰利 「オウヨ?」 悠介 「………」 彰利 「オウヨ!」 バガァアアッ!! 彰利 「オウヨォウッ!?」 ノア 「暴力沙汰はやめてください」 悠介 「い、いや……すまない、なんか異様にムカついて」 彰利 「オ、オウヨ〜……」 悠介 「悲しそうな顔で人を見ながらオウヨ言うな!」 水穂 「お、落ち着いてくださいおにいさん……」 彰利 「オォウヨォ〜?」 くはっ……!なんかすっげぇ殴りてぇ……! 水穂 「あの……」 ノア 「はい?」 俺がオウヨオウヨ言う彰利に対して拳を握り締めている中、水穂が女の子に近づく。 水穂 「……さっき天界って言いましたよね?     知っているなら詳しく聞かせてもらえませんか?」 ノア 「それならおじいさんから聞いていたでしょう。語るまでもありません」 水穂 「それじゃあやっぱりあの話って!」 ノア 「……迂闊ですね。いつからこのように口が軽くなってしまったのでしょう。     ───フフ、きっとマスターの所為ですね……。     帰ったらいたずらのひとつでもしましょうか」 水穂 「あのっ……!」 ノア 「この話はここまでです。これ以上語ることはありませんから」 水穂 「でもっ!」 ノア 「しつこいですよ。     探っておいて失礼とは思いますが、これ以上は敵と見なします」 水穂 「あ………」 バガァッ! 彰利 「オヨォウッ!?」 悠介 「あぁやっぱムカつく!そのオウヨやめろ!」 彰利 「オ、オウヨ〜?」 バガァッ! 彰利 「オォウヨッ!?」 悠介 「まだ言うかっ!」 彰利 「イヤァアアッ!間が差しただけじゃないっすか!勘弁!」 …………。 水穂 「………」 ノア 「……はぁ。他言は無用ですよ?」 水穂 「!」 ノア 「あなたのおじいさんが話していた空から来た女の子。     そしてわたし達は、同じ場所に住んでいます」 水穂 「え……?」 ノア 「戯言だと思って聞き流してください。     いいですか?この世界は三つの場で構築されています。     まず、地界。ミッドガルドと呼ばれる世界は現在わたしたちの居るここです。     次に、天界。サークライドと呼ばれる世界は人が空にある世界と言う場所です。     最後に、空界。アルマデルと呼ばれる世界は空間───     たとえばこのなんにも無い部分の空間が切れた時のみに行くことの出来る世界。     もちろん帰ってこれる保証がないのでお奨めはしません。     問題なのは天界ですね。あなたのおじいさんが言ったのはそこです。     言ってしまいますが、わたしはその場の住人───天界人です。     そこで転がって、ですです唸っているサクラも。     あなたのおじいさんがどんな人と会ったのかは知りませんが、     犠牲になる、ということで考えればランティスの血筋が考えられますね」 水穂 「ランティス……?     おじいちゃんが言ってたリフ=グライムって言葉に関係あるかな……」 ノア 「リフ───!?い、いえ……ちょっと待ってください?     あなたのおじいさんはそう言ったのですか?」 水穂 「はぁ……」 ノア 「……神様の妻の名部首じゃないですか……」 水穂 「あ、あの?」 ノア 「いえ、もう結構です。     ……まさか神族の中に人間のもとに派遣された者が居たなんて……」 水穂 「…………?」 ノア 「サクラ、起きてください。怪我はもう治ったのでしょう?」 彰利 「フフフ、実はまだだ」 悠介 「すまん、こいつが顔光らせたりオウヨオウヨ言ってた所為で話が進まないんだ」 ノア 「……お灸、要りますか?」 彼女の肩越しの景色がモシャーァアアアという効果音を醸し出しつつ歪む。 わぁ、殺る気満々だぁ。 彰利 「はっはっは、キミのようなキュートな娘ッ子のお灸なら喜んで頂くよ」 ノア 「そうですか、それは良い限りです。───アーク」 フィー───……ン。 カポッ。 彰利 「おろ?なにこのメット。被らせたってこたぁ……くれるの!?」 ノア 「アーク、システムを全て限界まで引き上げなさい」 ギィイー……ン……!! 彰利 「あの、唸ってらっしゃいますけど?」 ノア 「致死は避けます。せいぜいアフロにでもおなりになってくださいませ」 彰利 「へ?」 バチッ!バチバチッ! 彰利 「は、はぁあ!まま待った!すぐ治すから!ぬぅううん!……ベホイミ♪」 パァアア……どかぁああああああああん!! 彰利 「ギャーァアアアッ!!」 ドシャア。 サクラって娘を回復させた途端、彰利の頭が爆発した。 そして見事にアフロになっている彼。 いやしかし、最後の最後までお決まりの効果音だったなベホイミ。 彰利 「締めくくってんじぇねィェーッ!」 悠介 「お前だって人の心読んでんじゃねぇよ!」 彰利 「フフフ……!ど、どぉうやら最後の時が来るめぇに!     貴様とは白黒つけなきゃなぁらねぇみてぇだなぁ〜ぁあああ!」 悠介 「死ねーっ!」 彰利 「え!?あ、いきなり!?ちょブボッ!」 ドシャア。 悠介 「ほい、こいつが騒ぐ前に劇の方に行って。また厄介になる」 ノア 「そうさせていただきます」 ぼかっ! サクラ「はぅうっ!」 ノア 「起きなさい、劇が始まりますよ」 サクラ「で、でもサクラ、書割ぶち壊してしまったです!オジキの仇はサクラが」 ボガァッ! サクラ「えゃぅうっ!」 ノア 「いいから起きなさい。     今日はマスターも観に来ているのです、失敗は許されません」 サクラ「与一なら失敗しても笑うだけです……」 ノア 「感動物語で笑わせてどうしますか。御託は聞き飽きました、起きなさい」 サクラ「あと5分……」 ぼがっ! サクラ「えぅぅっ!」 グミミミミミミ……!! サクラ「ひゃふひはははひぃい〜!いはいへふ、ほあ!ははふへふ〜!」 ノア 「これ以上わたしの手を煩わせないでくださいませ……!     いい加減にしてくださらないと次は平手が唸りますよ……!」 サクラ「カ、カルシウム不足です!カルボーン食べるです!」 ノア 「とうに生産中止された食べ物のことなど知りません!」 サクラ「……うぅ、解ったです……」 渋々と布団から出て大地に降り立つサクラとやら。 サクラ「サクラのゴンタ、目に焼きつけるですよ……!」 ノア 「喧嘩ではありません。いちいち極道に意識を向ける暇があったら歩きなさい」 サクラ「………」 てふてふと妙な音を立てながら、彼女達は ノア 「言い忘れてましたけど」 悠介 「うん?」 ノア 「ここでの会話は他言無用ですよ。言った時点で天の裁きが訪れますから」 彰利 「なにぃ!?神などこの俺のチェーンソーでモビィイ〜!っとスッキリに!」 ノア 「斬る前に空から光が降ってきますから。     直撃したら大変ですから気をつけてくださいね」 彰利 「な、なにぃ……!」 ノア 「それでは。劇を見てくださるのであれば、体育館の方へお越しください」 カラララ……トン。 イタイ説明をされた後、戸は閉まった。 彰利 「むう、神はやはり存在したのか。フフフ、おもしれぇ!アシュラは何処だ!」 悠介 「ソッチ方面に走るな。解らない人にはホントに解らんぞ」 彰利 「ハッ!愚問!いや愚問?どっちかってーとアレだな、愚言か?戯言か?     まあいいコテ、ここには俺と悠介しか居ねェんザマスから、解るデショ?」 水穂 「……忘れられてます?ボク……」 彰利 「イエス」 悠介 「俺は覚えてたが」 彰利 「俺は忘れてた。うん忘れてた」 水穂 「おにいさん、ここって怒る場所ですよね?」 彰利 「悲しいならおにいさんが抱っこしてあげる」 水穂 「寄らないでください」 彰利 「うわヒドッ!」 水穂 「いきましょ、おにいさん。劇観たいです」 悠介 「だな、オカマホモはほっといて」 彰利 「ま、待てよ、冗談キツイぜ……!こんなオチじゃ俺、困るよ……!     ホラ、俺今ピンチなんだよ。紹介した俺のメンツはどうなる?     俺金も無いしさ。あ、わ、解った、それじゃ3千でいい。な?頼むよ!」 悠介 「日溜りのグラウンドやってないで来るなら来い」 彰利 「オウヨ!?オウヨ〜!」 悠介 「やっぱ帰れ」 彰利 「冗談です!もうオウヨなんて言わないから勘弁して!」 かららら……ぴしゃん。 彰利 「あ───ひでぇ、目の前に居るのに閉めることないじゃんかよぅ……」 ひとり残された彼は何気なくドナドナを歌った。 そしてヒートアップした彼がアレンジを加えて歌い出したその時、 保健のセンセが戻ってきて激怒の嵐を受け取ったのは心暖まる物語。 がた、がたん。 悠介 「お?」 彰利 「やあ」 悠介 「遅かったな、もう劇始まってるぞ」 彰利 「それは一目瞭然ぞ。     遅れたのは俺がジャイアンだからではないことをここに公言したいが」 悠介 「なんのこっちゃ」 彰利 「俺の歌センスは自然を生きる小鳥達も思わず落下する歌唱力だってこと」 悠介 「自信満々に言うなよ……」 彰利 「自信があるのよ、この俺にゃあよぅ」 悠介 「───劇、見る気あるのか?」 彰利 「あるぞ」 悠介 「………」 そうは思えないんだがなぁ。 ───まあ。 劇は面白かった。 ウチの映研のものとは月とスッポン、キャベツと彰利だ。 内容は空の国で起きた戦争の中、 姫さんが人を庇って天界と地上を結ぶ泉に落ちてしまうってとこから始まった。 庇った際に心臓を貫かれた姫さんは確実に死ぬかと思ったのだが、 戦争の発端者である者の弟が兄についていけずに天界を去った後と重なり、 回復魔法に長けていたその者に助けられる。 その際に一緒に地上で暮らし始めるふたりだったが、 姫さんの方は天界が気になってばかり居た。 だが戻れる方法もなく月日は流れる。 発端者の弟はリュオルク=ディグメイル=マルドゥークといい、 天界でも信頼の多い者で、神室の救護班のリーダーを務めていた。 だが天界を離れてからは名前を変えて教師を務めていた。 姫さんはその手伝いをしながらやがては成長していく。 あとはまあ、お決まりだ。 天界には他国があって、そこには王子さんが居て、 その王子さんも天界を見限って地上で暮らすことになったんだが、 当然姫さんが生きてるとは思わなかったわけだ。 そんなふたりが学校でバッタリと会って、あとはアレでございます。 ……シナリオを書いたのがあのふたりだったら、多分ホントなんだろなぁ。 まあそれでもフィクションはアリか。 周りで拍手喝采が起こる中、俺は静かに体育館をドンッ! 悠介 「おわっ」 男  「っと!」 出ようとしたところ、同じ考えだったのか、人と衝突を果たす。 男  「悪い悪い、ちょいと急いでたんでね。そいじゃアディオス!」 ズドドドーッ!と勢いよく出ていく男。 ていうか何故にピザ屋の制服着てるんだ? 悠介 「…………」 頭をポリポリと掻きつつ、俺も体育館を出ることにした。 Next Menu back